特許第5909131号(P5909131)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5909131リチウム二次電池用活物質、それを用いたリチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池
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  • 特許5909131-リチウム二次電池用活物質、それを用いたリチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909131
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用活物質、それを用いたリチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20160412BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20160412BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20160412BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/485
   H01M4/525
   H01M4/36 A
   H01M4/36 E
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-75141(P2012-75141)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-206746(P2013-206746A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(72)【発明者】
【氏名】岡田 重人
(72)【発明者】
【氏名】喜多條 鮎子
(72)【発明者】
【氏名】河野 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】山本 好浩
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−257592(JP,A)
【文献】 特開2003−197194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36、4/485、4/525、4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成式LiNiSi1−xTi(0<x<1)で表されるリチウムイオンを挿入脱離可能な化合物を含有することを特徴とするリチウム二次電池用活物質。
【請求項2】
平均組成式LiNiSi1−xTi(0.8≦x≦0.9)で表されるリチウムイオンを挿入脱離可能な化合物からなることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項3】
平均組成式LiNiSi1−xTi(0<x≦1)で表されるリチウムイオンを挿入脱離可能な化合物と、シリコンの酸化物又はシリコンとチタンの酸化物を含有することを特徴とするリチウム二次電池用活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム二次電池用活物質を含有するリチウム二次電池用電極と、対極と、電解質とを備えた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用活物質とそれを用いたリチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱的安定性が優れるポリアニオン系活物質が注目を集めている。このポリアニオン系活物質は酸素が遷移金属以外の元素と共有結合することで固定化されているため、高温においても酸素を放出が起こりづらく、リチウム二次電池の安全性を飛躍的に高めることができると考えられている。
【0003】
このようなポリアニオン系活物質の代表的なものに、アニオンサイトがPOからなるリン酸鉄リチウム(LiFePO)があり、これを正極に採用した電池が電動工具用、ハイブリッド自動車用の電源として実用化されている。また、同じPOをアニオンサイトに有する活物質として、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)等が知られている。ところが、これらの活物質は、一般に正極として使用される電位領域(2V(vs.Li/Li)〜5V(vs.Li/Li))におけるリチウムイオンの挿入脱離反応は1電子反応であり、その理論容量は約170mAh/gであることから、電池の高エネルギー密度化が困難であった。
【0004】
そこで、リチウムイオンの挿入脱離反応が1電子より大きい活物質に注目が集まっている。アニオンサイトがSOからなるLiMSiO(M=Mn、Fe、Co、Ni)は理論容量が約333mAh/gと大きいことが知られている。中でもMがCo、Niのものは、Liイオンの挿入・脱離電位が高く、電池のエネルギー密度向上に繋がる活物質として期待されている。
【0005】
特許文献1には、「平均組成式:LiSi(式中、Mは、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属であり、a、bおよびcは1<a≦3、0.5≦b≦1.5、0.5≦c≦1.5を満たす数である)で表されるリチウム遷移金属ケイ酸塩を含む二次電池用正極材料の製造方法であって、(A)Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属および/またはその遷移金属を含む金属化合物、(B)リチウム化合物、及び(C)ケイ素系高分子化合物を少なくとも含む混合物を焼成して前記リチウム遷移金属ケイ酸塩を得る工程を含むことを特徴とする製造方法。」が開示されている。この製造方法によると、「平均粒径が小さく、粒度分布が狭い、二次電池の正極材料として優れた性能を有するリチウム遷移金属ケイ酸塩粒子を簡易な製造プロセスにより合成することができる。」(段落0018)と記載されている。
【0006】
また、非特許文献1には、2電子反応が期待される活物質として、アニオンサイトがTiOからなるLiFeTiO、LiMnTiO、LiNiTiOが開示されている。非特許文献1には、LiMnTiO、LiNiTiOにおいて、1電子を超えるリチウムイオンの挿入脱離反応の例が示されている。
【0007】
【特許文献1】国際公開2008/123311号パンフレット
【0008】
【非特許文献1】Mirjana K uzma et.al. Journal of Power Sources. 189, p.81-88, 2009
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1には、LiFeSiO、LiMnSiO、LiMn0.5Fe0.5SiO、LiCoSiOの合成例は存在するものの、LiNiSiOの合成例については記載されていない。また、上記特許文献1に関わらず、これまで、LiNiSiOの合成例の報告は存在しない。
【0010】
非特許文献1には、LiNiTiOが開示されているが、アニオンサイトの中心元素が原子量の大きいTiであるために、理論容量が小さい。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、これまで合成不可能であったLiNiSiOのアニオンサイトにTiを共存させるという思想に基づき、Liイオンを可逆的に挿入・脱離可能な新規の活物質を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の構成及び作用効果は以下の通りである。但し、本明細書中に記載する作用機構には推定が含まれており、その正否は本発明を何ら制限するものではない。
【0014】
発明は、平均組成式LiNiSi1−xTi(0<x<1)で表されるリチウムイオンを挿入脱離可能な化合物を含有することを特徴とするリチウム二次電池用活物質である。
ここで、平均組成式とは、あるリチウムイオンを挿入脱離可能な化合物粒子に含まれる物質の平均組成式を表すものである。
本発明におけるリチウム二次電池用活物質は、平均組成式LiNiSi1−xTi(0<x<1)で表されるリチウムイオンを可逆的に挿入・脱離可能な新規の化合物を含有するものである。上記平均組成式で表される化合物は、4V(vs.Li/Li)付近の高いリチウムイオン挿入脱離電位と、大きな理論容量(約290mAh/g)を有することから、この化合物を含有する本発明のリチウム二次電池用活物質は高いエネルギー密度を実現することができる。
【0015】
さらに、本発明は、シリコンの酸化物及び/又はチタンの酸化物を含有するリチウム二次電池用活物質である。
リチウム二次電池用活物質に、シリコンの酸化物及び/又はチタンの酸化物が含まれることにより、放電容量を向上させることが可能となる。
【0016】
また、本発明は、平均組成式LiNiSi1−xTi(0.8≦x≦0.9)で表されるリチウムイオンを挿入脱離可能な化合物からなることを特徴とするリチウム二次電池用活物質である。
この様な組成にすることで、より放電容量の大きなリチウム二次電池用活物質とすることができる。
【0017】
本発明は、平均組成式LiNiTiOで表されるリチウムイオンを挿入脱離可能な化合物と、シリコンの酸化物又はシリコンとチタンの酸化物を含有するリチウム二次電池用活物質である。
上記のように、シリコンの酸化物及び/又はチタンの酸化物が含まれることにより、LiNiTiO化合物の放電容量を向上させることが可能となる。
【0019】
さらに、本発明は、前記二次電池用活物質を含有する二次電池用電極と、対極と、電解質とを備えた二次電池である。

【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リチウムイオンを可逆的に挿入脱離可能なエネルギー密度の高い活物質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係るリチウム、ニッケル、チタン、シリコン及び酸素の各元素を含有するリチウム二次電池用活物質は、これまで合成例の無いLiNiSiOのSiの一部をTiに置換することにより、合成を試みることで生まれた、平均組成式LiNiSi1−xTi(0<x<1)で表されるリチウムイオンを挿入脱離可能な新規の化合物を含有するものである。アニオンサイトにSiとTiを共存させることにより、これまで合成し得なかったLiNiSiO系の化合物を合成可能とするとともに、二つの元素のイオン半径が異なることから、結晶内に歪が生じることで、結晶の成長が抑制され、高い放電性能を有しているものと推察される。上記平均組成式で表される化合物は、後述の実施例に示すように、4V(vs.Li/Li)付近の高いLiの挿入脱離電位と、大きな放電容量を有している。特に、0.8≦x≦0.9の範囲において、高い放電容量が得られるので好ましい。
さらに、本発明に係るリチウム二次電池用活物質には、シリコンの酸化物及び/又はチタンの酸化物が含まれている。このシリコンの酸化物及び/又はチタンの酸化物が合成反応中に生成し、共存することで上記平均組成式で表される化合物の過度の粒子成長を抑制するため、リチウム二次電池用活物質の放電性能を向上させているものと考えられる。また、他にもシリコンの酸化物及び/又はチタンの酸化物には、その誘電性によってLiの脱溶媒和がしやすくなる、あるいは、Liの挿入脱離反応が可能な比表面積が増大するといった理由による、放電性能への寄与が推測される。
【0022】
上記の二次電池用活物質がリチウム、ニッケル、チタン、シリコン等を含んでいること、ならびにその量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により確認することができる。また、その結晶構造は、粉末X線回折分析(XRD)により確認することができる。他にも透過型電子顕微鏡観察(TEM)、エネルギー分散X線分光法(EDX)、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、高分解能電子顕微鏡分析(HRAEM)及び電子エネルギー損失分光法(EELS)などの分析機器を併用することにより、詳細な分析を行うことが可能である。
【0023】
本発明に係るリチウム二次電池用活物質の合成方法については、特に限定されるものではない。具体的には、固相法、液相法、ゾル−ゲル法、水熱法等が挙げられるが、水にリチウム源、ニッケル源、チタン源、シリコン源を溶解・分散させた前駆体水溶液を作製した後、溶媒である水を蒸発させ、得られた前駆体を焼成する方法が好ましい。
焼成温度は、目的とする化合物が生成する温度以上であることが求められるが、温度が高すぎると化合物粒子の成長が過度に進行して、放電性能が低下する虞があることから500℃以上800℃未満とすることが好ましい。放電性能の観点から、600℃〜700℃がより好ましい。焼成時間は、目的とする化合物のリチウムイオンの挿入・脱離が可能となる程度に粒子成長する以上の時間であることが求められるが、長すぎると放電性能が低下する虞があることから10〜20時間が好ましい。より好ましくは13〜15時間である。
この様な合成方法とすることにより、各元素が均一に分布したリチウム二次電池用活物質を得ることができるため好ましい。
【0024】
本発明において、リチウム二次電池用活物質は、二次粒子の平均粒子サイズが100μm以下の粉体であることが好ましい。特に、二次粒子の平均粒子径は0.1〜50μmがより好ましい。また、粉体粒子の流動法窒素ガス吸着法によるBET比表面積は正極の高率充放電特性を向上させるために大きい方が良く、1〜100m/gが好ましい。より好ましくは5〜100m/gである。粉体を所定の形状で得るため、粉砕機や分級機を用いることができる。粉砕には、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル等を用いることができる。粉砕時には水、あるいはアルコール、ヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いても良い。分級方法としては、特に限定はなく、必要に応じて篩や風力分級機などを乾式、或いは湿式にて用いることができる。
【0025】
また、本発明においては、電子伝導性を補う目的でリチウム二次電池用活物質に炭素質化合物を担持させても良い。特に、平均組成式LiNiSi1−xTiで表される化合物粒子の表面に炭素質化合物を備えることが好ましい。炭素質材料の担持方法としては、メカニカルミリング等の機械的圧着や、有機物の熱分解による方法が挙げられる。炭素質材料としては、アセチレンブラック等のカーボンや、ポリビニルアルコール、ショ糖、アスコルビン酸等の有機物の熱分解により生成したカーボン等が挙げられる。
【0026】
更に、本発明のリチウム二次電池用活物質には、その性能の向上を目的として意図的に不純物や異種元素を共存させてもよく、そのような場合にも本発明の効果が失われることはない。
【0027】
本発明のリチウム二次電池用活物質を非水電解質中で用いる場合には、正極中に含まれる水分量は少ない方が好ましく、具体的には2000ppm未満であることが好ましい。水分量を減少させる手段としては、高温・減圧環境において電極を乾燥する方法や、電極に含まれる水分を電気化学的に分解する方法が適している。
【0028】
本発明のリチウム二次電池用活物質を用いてリチウム二次電池用正極を作製するに当たり、前記リチウム二次電池用活物質の他に、ポリフッ化ビニリデン、シリコンブタジエンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース等の周知の結着剤や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー等の周知の導電助剤を周知の処方で用いることができる。
【0029】
また、電極合材層の厚さは電池のエネルギー密度との兼ね合いから本発明を適用する電極合材層の厚みは10μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明のリチウム二次電池の負極は、何ら限定されるものではなく、リチウム金属、リチウム合金(リチウム―アルミニウム、リチウム―鉛、リチウム―錫、リチウム―アルミニウム―錫、リチウム―ガリウム、およびウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(LiTi12等)、ポリリン酸化合物等が挙げられる。これらを、二次電池に用いる電解質の種類に応じて使用することができる。これらの中でもグラファイトは、金属リチウムに極めて近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電を実現できるため負極材料として好ましい。例えば、人造黒鉛、天然黒鉛が好ましい。特に,負極活物質粒子表面を不定形炭素等で修飾してあるグラファイトは、充電中のガス発生が少ないことから望ましい。
【0031】
一般的に、リチウム二次電池の形態としては、正極、負極、電解質塩が溶媒に含有された電解質から構成され、一般的には、正極と負極との間に、セパレータとこれらを包装する外装体が設けられる。
【0032】
溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネ−ト等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエ−テル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等からなる非水溶媒や水を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
電解質塩としては、例えば、LiBF、LiPF、LiClO、LiN(CSO、LiN(CFSO等のイオン性化合物が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する二次電池を確実に得るために、0.5mol/l以上5mol/l以下が好ましく、さらに好ましくは、1mol/l以上2.5mol/l以下である。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を例示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
硝酸リチウム(LiNO)(和光純薬工業社製)0.06mol、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO)(和光純薬工業社製)0.03mol及びチタニウムブトキシド(Ti[O(CHCH)(ALDRICH社製)0.018molを量り取り、これらを200mlビーカーに予め準備した200mlのイオン交換水に溶解させ、その後、テトラエトキシシラン(Si(OC)(信越化学工業社製)0.012mol及びクエン酸(和光純薬工業社製)0.05molを量り取り、この順番に先程の溶液に加え、溶解・分散させることで前駆体溶液を調製した。この前駆体溶液をホットプレートスターラー(コーニング社製 型番:PC−420D)上で70℃に保ちながら30分間攪拌した後、引き続き110℃まで昇温して水を十分に蒸発除去することで前駆体を得た。得られた前駆体をアルミナ製の坩堝(容積500cm)に移し、仮焼成を行った。仮焼成温度は300℃とし、加熱時間は3時間とした。仮焼成後の前駆体をメノウ乳鉢で15分間、粉砕・混合を行ったものを再びアルミナ製の坩堝に戻し、本焼成を行った。本焼成温度は600℃とし、加熱時間は14時間とした。なお、仮焼成及び本焼成には、いずれも焼成装置(株式会社デンケン社製卓上マッフル炉 型番:KDF P−90)を使用し、昇温速度は200℃/h、降温速度は200℃/h、焼成装置内の雰囲気は大気雰囲気とした。得られた合成物をメノウ乳鉢で15分間、粉砕することで実施例1に係るリチウム二次電池用活物質を作製した。
【0036】
(実施例2)
前駆体溶液の調製工程において、硝酸リチウム(LiNO)0.06mol、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO)0.03mol及びチタニウムブトキシド(Ti[O(CHCH)0.021molを量り取り、これらを200mlのイオン交換水に溶解させ、その後、テトラエトキシシラン(Si(OC)0.009mol及びクエン酸0.05molを量り取り、順番に先程の溶液に加え、溶解・分散させることで前駆体溶液を調製することを除いては、実施例1と同様にして実施例2に係るリチウム二次電池用活物質を作製した。
【0037】
(実施例3)
前駆体溶液の調製工程において、硝酸リチウム(LiNO)0.06mol、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO)0.03mol及びチタニウムブトキシド(Ti[O(CHCH)0.024molを量り取り、これらを200mlのイオン交換水に溶解させ、その後、テトラエトキシシラン(Si(OC)0.006mol及びクエン酸0.05molを量り取り、順番に先程の溶液に加え、溶解・分散させることで前駆体溶液を調製することを除いては、実施例1と同様にして実施例3に係るリチウム二次電池用活物質を作製した。
【0038】
(実施例4)
前駆体溶液の調製工程において、硝酸リチウム(LiNO)0.06mol、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO)0.03mol及びチタニウムブトキシド(Ti[O(CHCH)0.027molを量り取り、これらを200mlのイオン交換水に溶解させ、その後、テトラエトキシシラン(Si(OC)0.003mol及びクエン酸0.05molを量り取り、順番に先程の溶液に加え、溶解・分散させることで前駆体溶液を調製することを除いては、実施例1と同様にして実施例4に係るリチウム二次電池用活物質を作製した。
【0039】
(実施例5)
前駆体溶液の調製工程において、硝酸リチウム(LiNO)を0.06mol、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO)を0.03mol、及び、テトラn−ブチルチタネート(ALDRICH社製)を0.03molを量り取り、これらを200mlのイオン交換水に溶解・分散させ、その後、クエン酸0.05molとテトラエトキシシラン0.003molを量り取り、これらを先程の分散溶液に加えて溶解・分散させることで前駆体溶液を調製することを除いては、実施例1と同様にして実施例5に係るリチウム二次電池用活物質を作製した。
【0040】
(正極の作製)
実施例1〜5に係るリチウム二次電池用活物質、導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(株式会社クレハ製 KFポリマー#7305)を(70:25:5)の質量比(固形分換算)で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤とする正極合材ペーストを調製した。なお、PVdFについては、固形分が溶解分散された液を用いた。この正極ペーストの固形分濃度は22.5質量%であった。該正極ペーストを厚さ10μmのアルミニウム箔集電体に塗布し、80℃でNMPを乾燥除去した後、プレスを行うことで厚み100μm(集電体込み)の正極板を作製した。正極合剤塗布質量は1.8mg/cmである。この正極板を直径15mmに打ち抜いたものを正極として使用した。
【0041】
(負極の作製)
直径15mm、厚み210μmのニッケル製メッシュ集電体の片面に、厚さ150μmのリチウム金属箔(本城金属株式会社製)を貼り合わせてプレス加工したものを負極とした。
【0042】
(非水電解質の調製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、含フッ素系電解質塩であるLiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させ、非水電解質を作製した。該非水電解質中の水分量は50ppm未満とした。
【0043】
(電池の作製)
ステンレス鋼製のコインセル(CR2032)の正極側ケースの周縁にポリプロピレン製ガスケットを配置し、ガスケットの内側に前記正極、直径19mmのポリプロピレン製微多孔膜(セルガード社製)、前記負極、前記負極と同じ大きさで、厚み500μmのステンレス鋼製スペーサーを順に配置し、前記非水電解質を適量含浸させた後、負極ケースを被せて専用の治具でかしめることにより、実施例1〜5に係るリチウム二次電池を作製した。
【0044】
(充放電試験)
上記のようにして作製した非水電解質二次電池を温度25℃において、1サイクルの充放電を行う充放電工程に供した。充電条件は、電流8mA/g(正極合剤中の活物質質量当たりの電流値)、終止電圧4.7V、の定電流充電とし、放電条件は、電流8mA/g(正極合剤中の活物質質量当たりの電流値)、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。得られた放電容量の結果を表1に示す。また、このときの実施例4に係るリチウム二次電池の充放電曲線を図1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
図1及び表1から、実施例1〜4に係るリチウム二次電池用活物質は、4V(vs.Li/Li)付近の高いリチウムイオンの挿入脱離電位と、大きな放電容量を有していることがわかる。特に、0.8≦x≦0.9の範囲において、高い放電容量が得られていることがわかる。ここで、表1に記載の組成式は、実施例1〜5における原料の仕込み組成比率を基に便宜的に表記したものであり、生成した化合物が、表記の組成と正確に一致したことを示すものではない。
【0047】
実施例5に係るリチウム二次電池用活物質は、原料の仕込み組成において、Li:Ni:(Si+Ti)=2:1:1.1とシリコン及びチタンを過剰に仕込んだものである。これにより、実施例1〜4の活物質と比較してより大きな放電容量が得られていることがわかる。シリコン及びチタンを過剰に仕込むことにより、リチウム二次電池用活物質は、平均組成式LiNiSi1−xTiまたはLiNiTiOを有する化合物とシリコンの酸化物及び/又はチタンの酸化物を含有する複合体を形成しているものと考えられる。この様な複合体とすることにより、何らかの理由で、上記化合物のリチウムイオンの挿入脱離反応が促進されているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のリチウム二次電池用活物質は、放電容量が大きいので、エネルギー密度の高い二次電池を提供することができる。本発明の二次電池は、エネルギー密度が高いので、今後の展開が期待される電気自動車等、産業用電池に於いて特に高容量化が求められる分野への応用に適しており、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】実施例4に係るリチウム二次電池の充放電曲線。
図1