(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シャフトに回転自在に装着され、側面に第1ドグが突設された第1ギヤと、前記シャフトに回転自在に装着され、側面に第2ドグが突設された第2ギヤと、該第2ギヤと前記第1ギヤとの間の前記シャフトに固定されたハブと、該ハブに前記シャフトの軸方向に移動自在に装着され、一端が前記第1ドグのリーディング面と係合し、他端が前記第2ドグのトレーリング面と係合する第1キーと、前記ハブに軸方向に移動自在に装着され、一端が前記第1ドグのトレーリング面と係合し、他端が前記第2ドグのリーディング面と係合する第2キーと、前記ハブに軸方向に移動自在に装着され、シフト操作に連動して軸方向に移動されるスリーブリングと、該スリーブリングと前記第1キー、第2キーとの間に夫々設けられた保持機構とを備え、
該保持機構は、前記スリーブリングに対する前記第1キー、第2キーの位置を初期位置に保持すると共に、前記第1キー、第2キーが前記第1ドグ、第2ドグと係合した状態で前記スリーブリングの移動を許容し、且つ前記第1キー、第2キーを初期位置に戻すためのリターン力を発揮し、
前記保持機構は、前記第1キー、第2キーに前記スリーブリングに対向して前記軸方向に沿って形成され前記軸方向に沿った中央が両端よりも深い溝部と、該溝部に配置されたボールまたはローラと、前記スリーブリングに装着され前記ボールまたはローラを前記溝部に押し付けるバネと、を備えたディテント機構であり、
該ディテント機構は、前記スリーブリングに径方向に移動自在に設けられ前記バネが当接されるバネ受け部材と、前記スリーブリングに径方向に移動自在に設けられ前記シャフトが回転することで遠心力を受ける錘部材と、該錘部材が遠心力によって径方向外方に移動するに伴って前記バネ受け部材を径方向内方に移動させる連動機構とを有することを特徴とする変速機。
前記第1キーは、一端に前記第1ドグのリーディング面と係合するリーディング爪を有すると共に、他端に前記第2ドグのトレーリング面と係合するトレーリング爪を有し、
前記第2キーは、一端に前記第1ドグのトレーリング面と係合するトレーリング爪を有すると共に、他端に前記第2ドグのリーディング面と係合するリーディング爪を有し、
前記第1ドグ、第2ドグの各リーディング面、トレーリング面は、根元から先端に向けて末広がりとなるように逆テーパー状に形成され、
前記第1キー、第2キーの各リーディング爪、トレーリング爪は、前記各リーディング面、トレーリング面と係合するように逆テーパー状に形成され、
前記保持機構のリターン力は、変速の際、前記各リーディング爪、トレーリング爪が前記各リーディング面、トレーリング面に係合しているときの逆テーパーによる係合力よりも弱く設定されたことを特徴とする請求項1に記載の変速機。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(変速機1の概要)
図1に本発明の一実施形態に係る自動車用の変速機1を模式的に示す。本実施形態に係る変速機1は、ミッションケース2に夫々ベアリング3で平行に軸支されたメインシャフト(入力軸)4とカウンタシャフト(出力軸)5とを有する。メインシャフト4は、クラッチ6を介してエンジン7のクランクシャフトに接続されており、カウンタシャフト5の端部には、デファレンシャル機構8に繋がる傘歯車9が設けられている。
【0019】
メインシャフト4には、1速メインギヤ1m、2速メインギヤ2mが固設されており、カウンタシャフト5には、1速メインギヤ1mに噛合する1速カウンタギヤ1c、2速メインギヤ2mに噛合する2速カウンタギヤ2cが回転自在に装着されている。なお、実際の変速機1には、上述したギヤ1m、2m、1c、2cのみではなく、変速の段数に応じて複数のギヤが配設されている。
【0020】
(変速機1の要部)
本実施形態においては、カウンタシャフト5が特許請求の範囲のシャフトに相当し、1速カウンタギヤ1cが第1ギヤに相当し、2速カウンタギヤ2cが第2ギヤに相当する。
図2に変速機1の要部の分解斜視図、
図3に要部の組立斜視図、
図4に要部の輪切断面図、
図5(a)に要部の側断面図、
図5(b)に要部の模式概略図を夫々示す。
【0021】
第1ギヤ(1速カウンタギヤ)1cの側面には第1ドグ1dが突設され、第2ギヤ(2速カウンタギヤ)2cの側面には第2ドグ2dが突設されている。これら第1ギヤ1cと第2ギヤ2cとの間のシャフト(カウンタシャフト)5には、ハブ10が固設されている。ハブ10には、第1キー1kおよび第2キー2kが夫々シャフト5の軸方向に移動自在且つシャフト5と一体回転するように周方向に相対回転不能に装着されていると共に、スリーブリング11がシャフト5の軸方向に移動自在且つシャフト5と一体回転するように周方向に相対回転不能に装着されている。スリーブリング11と第1キー1kおよび第2キー2kとの間には、保持機構12が設けられている。なお、実際の変速機1では、変速の段数に応じて複数のギヤが配設されているため、それに応じてこれらの構成要素が複数セット配設されている。以下、これらの構成要素について説明する。
【0022】
(第1ドグ1d、第2ドグ2d)
図1、
図2、
図5(a)に示すように、第1ギヤ1cには、第2ギヤ2cと対向する側の側面に、第1ドグ1dが突設され、第2ギヤ2cには、第1ギヤ1cと対向する側の側面に、第2ドグ2dが突設されている。第1ドグ1d、第2ドグ2dは、夫々、第1ギヤ1c、第2ギヤ2cの周方向に等間隔を隔てて、複数配設されている。本実施形態では、第1ドグ1d、第2ドグ2dは、夫々、第1ギヤ1c、第2ギヤ2cの側面に120度間隔で3個配設されているが、180度間隔で2個でも、90度間隔で4個でも、或いはそれ以上の個数でも構わない。
【0023】
図2、
図5(b)に示すように、第1ドグ1dは、第1ギヤ1cの回転方向の前方面となるリーディング面(駆動歯面)1dfと、回転方向の後方面となるトレーリング面(被駆動歯面)1drとを有し、これらリーディング面1dfとトレーリング面1drとは根元から先端に向けて末広がりとなるように逆テーパー状に形成されている。同様に、第2ドグ2dは、第2ギヤ2cの回転方向の前方面となるリーディング面2dfと、回転方向の後方面となるトレーリング面2drとを有し、これらリーディング面2dfとトレーリング面2drとは根元から先端に向けて末広がりとなるように逆テーパー状に形成されている。
【0024】
(ハブ10)
図1に示すように、第1ギヤ1cと第2ギヤ2cとの間のシャフト5には、ハブ10がシャフト5と一体回転するように、周方向に相対回転不能に装着されている。
図2、
図4、
図5(a)に示すように、ハブ10の外周面には、シャフト5の軸方向に沿って形成されたハブ溝13が、周方向に等間隔を隔てて、複数設けられている。本実施形態では、ハブ溝13の数は6本であるが、6本に限定されるものではなく、2本以上であればよい。
【0025】
各ハブ溝13には、第1キー1kと第2キー2kとが、周方向に交互に係合されており、夫々、シャフト5の軸方向に移動自在となっている。各ハブ溝13は、底よりも開口が狭くなるように形成されており、シャフト5の回転によってハブ10が回転された際、遠心力を受ける第1キー1k及び第2キー2kがハブ溝13の開口から径方向外方に飛び出さないようになっている。
【0026】
(第1キー1k、第2キー2k)
図4、
図5(a)に示すように、ハブ溝13に軸方向に移動自在に収容された第1キー1kは、
図5(b)に示すように、一端に第1ドグ1dのリーディング面(駆動歯面)1dfと係合するリーディング爪(駆動歯面爪)1kfが形成され、他端に第2ドグ2dのトレーリング面(被駆動歯面)2drと係合するトレーリング爪(被駆動歯面爪)1krが形成されている。これらリーディング爪1kf、トレーリング爪1krは、夫々、リーディング面1df、トレーリング面2drと係合するように、逆テーパー状に形成されている。
【0027】
同様に、ハブ溝13に軸方向に移動自在に収容された第2キー2kは、
図5(b)に示すように、一端に第1ドグ1dのトレーリング面1drと係合するトレーリング爪2krが形成され、他端に第2ドグ2dのリーディング面2dfと係合するリーディング爪2kfが形成されている。これらリーディング爪2kf、トレーリング爪2krは、夫々、リーディング面2df、トレーリング面1drと係合するように、逆テーパー状に形成されている。
【0028】
(スリーブリング11)
図2、
図4に示すように、ハブ10の外周面には、シフト操作に連動して移動されるスリーブリング11が、シャフト5(
図1参照)の軸方向に移動自在且つシャフト5と一体回転するように周方向に相対回転不能に装着されている。具体的には、ハブ10の外周面には、突起14が軸方向に沿って形成されており、スリーブリング11の内周面には、突起14に係合する溝15が軸方向に沿って形成されている。突起14の軸方向長さは、シフト操作に連動して移動されるスリーブリング11の軸方向移動範囲よりも長く設定されており、シフト操作によってスリーブリング11が軸方向に移動された際、溝15が突起14から外れないようになっている。
【0029】
スリーブリング11の外周面には、シフトフォーク16が係合されるフォーク溝17が、周方向に沿ってリング状に形成されている。シフトフォーク16には、シフトロッド18が装着されている。シフトロッド18は、図示しないアクチュエータによって、或いは、運転者によるシフトレバーのシフト操作に連動するリンク機構(シフトリンケージ:図示せず)によって、シャフト(カウンタシャフト)5と平行に移動される。アクチュエータは、車両の走行状況に応じたコンピュータ制御により、或いは運転者によるシフトレバーのシフト操作に応じて、シフトロッド18を移動させる。
【0030】
(保持機構12)
図4、
図5(a)に示すように、スリーブリング11と第1キー1k、第2キー2kとの間には、保持機構12が設けられている。保持機構12は、スリーブリング11に対する第1キー1k、第2キー2kの位置を初期位置に保持すると共に、第1キー1k、第2キー2kが第1ドグ1d、第2ドグ2dと係合した状態でスリーブリング11の移動を許容し、且つ第1キー1k、第2キー2kを初期位置に戻すためのリターン力を発揮する。このリターン力は、変速の際、第1キー1k、第2キー2kのリーディング爪1kf、2kf、トレーリング爪1kr、2krが第1ドグ1d、第2ドグ2dのリーディング面1df、2df、トレーリング面1dr、2drに係合しているときの逆テーパーによる係合力よりも弱く設定されている。
【0031】
図4、
図5(a)に示すように、保持機構12は、第1キー1k、第2キー2kに夫々形成された溝部19と、溝部19に配置されたボール20と、ボール20を溝部19に押し付ける付勢手段(バネ21)とを備えたディテント機構22から構成されている。溝部19は、第1キー1k、第2キー2kに、夫々、スリーブリング11に対向してシャフト5(
図1参照)の軸方向に沿って形成され、軸方向に沿った中央が両端よりも深くなっている。溝部19の断面形状は、本実施形態ではV字状となっているが、これに限らず、U字状、逆さ台形状でも構わない。スリーブリング11には、円筒状に形成されたバネ収容部23が、周方向に等間隔を隔てて複数(第1キー1kおよび第2キー2kの数、本実施形態では6個)、放射状に配設されている。各バネ収容部23には、バネ(コイルバネ)21が収容され、蓋24が装着されている。
【0032】
バネ21は、蓋24に反力をとってボール20を溝部19に押し付ける。これにより、スリーブリング11に対する第1キー1k、第2キー2kの位置を、初期位置(溝部19のV字底)に保持する。バネ21による押付力(バネ力)は、バブ10の回転に伴ってボール20に遠心力が作用しても、変速シフトに必要な保持荷重を確保できるように設定されている。ボール20の材質は、遠心力の影響を小さくするため、周辺部品(ハブ10、スリーブリング11等)の材質(鉄等)よりも比重の小さい材質(アルミ合金、セラミックス、樹脂等)とすることが好ましい。なお、ボール20の代わりにローラを用いてもよい。
【0033】
(加速時シフトアップ)
図5、
図6を用いて、上述した変速機1の加速時シフトアップについて説明する。
図6(a)は第1ギヤ(1速カウンタギヤ)1cにシフトされている側断面図、
図6(a1)は
図6(a)の状態における第1ギヤ1cの第1ドグ1d、第2ギヤ2cの第2ドグ2d、第1キー1k、第2キー2kの位置関係を模式的に示す概略図、
図6(a2)は
図6(a1)に至る前の概略図である。
図6(b)は第1ギヤ1cから第2ギヤ(2速カウンタギヤ)2cへのシフトアップが完了する途中の側断面図、
図6(b1)は
図6(b)の状態における概略図である。
図6(c)は第2ギヤ2cへのシフトが完了した側断面図、
図6(c1)は
図6(c)の状態における概略図である。
【0034】
図5のニュートラル状態からシフトロッド18によってスリーブリング11を第1ギヤ(1速カウンタギヤ)1c側に移動(シフト)すると、
図6(a)に示すように、ディテント機構22を介して第1キー1k、第2キー2kが第1ギヤ1c側に移動し、
図6(a1)に示すように、第1キー1kのリーディング爪1kfが第1ドグ1dのリーディング面1dfと係合する。なお、
図6(a2)に示すように、シフトした瞬間、第2キー2kが第1ドグ1dに衝突した場合、ディテント機構22によって第2キー2kとスリーブリング11とがずれて待ち状態となるため、第1ギヤ1cの回転に伴って
図6(a1)の状態となる。ここで、待ち状態とは、第2キー2kが第1ドグ1dに当接してそれ以上第1ギヤ1c側に移動できないが、第2キー2kがディテント機構22によって第1ギヤ1c側に付勢されている状態をいう。よって、
図6(a2)に示す状態(待ち状態)から第1ギヤ1cの回転に伴って第1ドグ1dが第2キー2kから離れると、第2キー2kがディテント機構22の付勢力によって第1ギヤ1c側に移動し、
図6(a1)の状態となる。シフトした瞬間、第1キー1kが第1ドグ1dに衝突した場合も同様である。これにより1速の状態となり、エンジン加速時にトルクが第1キー1kによって伝達され、第2キー2kにはトルクが加わっていない(トルクフリー)。
【0035】
加速時に、
図6(a)の1速の状態から2速に変速する際には、
図6(b)に示すように、シフトロッド18によってスリーブリング11を第2ギヤ(2速カウンタギヤ)2c側に移動(シフト)する。すると、トルクが掛かっている第1キー1kは移動せず第1ドグ1dに係合した状態のまま、トルクフリーの第2キー2kのみがスリーブリング11と一体的に第2ギヤ2c側に移動する。このとき、
図6(b)に示すように、第1キー1kのディテント機構22のボール20は、初期位置からずれた状態(待ち状態)となる。すなわち、ディテント機構22のリターン力は、変速の際、第1キー1kのリーディング爪1kfが第1ドグ1dのリーディング面1dfに係合しているときの逆テーパーによる係合力よりも弱く設定されているため、第1キー1kは、第1ドグ1dから抜けることはなくトルクの伝達を継続する。
【0036】
図6(b1)に示すように、第2ギヤ2c側に移動された第2キー2kのリーディング爪2kfは、第2ギヤ(2速カウンタギヤ)2cが第1ギヤ(1速カウンタギヤ)1cよりも速く回っているため、第2ギヤ2cの第2ドグ2dのリーディング面2dfと係合する。すなわち、ギヤ比の関係で第1キー1kおよび第2キー2kから見た第2ギヤ2cの相対回転方向は
図6(b1)の矢印A方向となるため、第2ドグ2dのリーディング面2dfが第2キー2kのリーディング爪2kfに係合する。この係合により、2速の状態となり、トルクが第2キー2kによって伝達される。
【0037】
第2ドグ2dのリーディング面2dfが第2キー2kのリーディング爪2kfに係合した瞬間、即ち、1速から2速にシフトアップした瞬間、1速と2速のギヤ比に応じてエンジン回転数(rpm)が落ちる。このため、第1ギヤ1cの回転数が低下し、第1キー1kおよび第2キー2kから見た第1ギヤ1cの相対回転方向が
図6(c1)の矢印方向Bとなり、第1ドグ1dのリーディング面1dfが第1キー1kのリーディング爪1kfから離間する。これにより、第1キー1kによる1速状態でのトルクの伝達が終了する。第1ドグ1dから離間した第1キー1kは、ディテント機構22のリターン力によって第2ギヤ2c側に移動されるため、第1ドグ1dと干渉することはない。
【0038】
上述したように、エンジン加速時に、1速から2速に変速する場合には、第1ギヤ(1速カウンタギヤ)1cと第2ギヤ(2速カウンタギヤ)2cとの間に配設された単独のスリーブリング11を、第1ギヤ1c側から第2ギヤ2c側に移動させる。すると、ディテント機構22により、1速状態でトルクを伝達している第1キー1kが第1ドグ1dに係合した状態で、トルクフリーの第2キー2kのみが第2ギヤ2c側に移動されて第2ドグ2dと係合するため、トルク切れの無いシフトアップが行える。すなわち、加速時シフトアップする際には、第1ギヤ1cと第2ギヤ2cとの間に配置された単独のスリーブリング11のみを第1ギヤ1c側から第2ギヤ2c側に軸方向に移動すれば足り、その移動制御及び操作系構造を簡素化できる。
【0039】
(減速時シフトダウン)
図7を用いて、上述した変速機1の減速時シフトダウンについて説明する。
図7(a)は第2ギヤ2cにシフトされている側断面図、
図7(a1)は
図7(a)の状態における第1ギヤ1cの第1ドグ1d、第2ギヤ2cの第2ドグ2d、第1キー1k、第2キー2kの位置関係を模式的に示す概略図である。
図7(b)は第2ギヤ2cから第1ギヤ1cへのシフトダウンが完了する途中の側断面図、
図7(b1)は
図7(b)の状態における概略図である。
図7(c)は第1ギヤ1cへのシフトが完了した側断面図、
図7(c1)は
図7(c)の状態における概略図である。
【0040】
図7(a)、
図7(a1)は、
図6(c)、
図6(c1)に示す2速でエンジン加速状態から、エンジン減速状態となった場合を示す。減速状態となると、車両の車輪によってエンジンが回されるエンジンブレーキ状態となるため、
図6(c1)に示すようにそれまで第2ドグ2dのリーディング面2dfが第2キー2kのリーディング爪2kfに係合していた状態から、
図7(a1)に示すように第2ドグ2dのトレーリング面2drが第1キー1kのトレーリング爪1krと係合する状態となる。従って、第1キー1kによってトルクが伝達され、第2キー2kがトルクフリーの状態となる。
【0041】
このため、
図7(b)に示すように、シフトロッド18によってスリーブリング11を第1ギヤ1c側に移動(シフト)すると、トルクが掛かっている第1キー1kは移動せず第2ドグ2dに係合した状態のまま、トルクフリーの第2キー2kのみがスリーブリング11と一体的に第1ギヤ1c側に移動する。このとき、
図7(b)に示すように、第1キー1kのディテント機構22のボール20は、初期位置からずれた状態(待ち状態)となる。すなわち、ディテント機構22のリターン力は、変速の際、第2ドグ2dのトレーリング面2drが第1キー1kのトレーリング爪1krに係合しているときの逆テーパーによる係合力よりも弱く設定されているため、第1キー1kは、第2ドグ2dから抜けることはなくトルクの伝達を継続する。
【0042】
図7(b1)に示すように、第1ギヤ1c側に移動された第2キー2kのトレーリング爪2krは、第1ギヤ(1速カウンタギヤ)1cが第2ギヤ(2速カウンタギヤ)2cよりも遅く回っているため、第1ギヤ1cの第1ドグ1dのトレーリング面1drと係合する。すなわち、ギヤ比の関係で第1キー1kおよび第2キー2kから見た第1ギヤ1cの相対回転方向は
図7(b1)の矢印C方向となるため、第1ドグ1dのトレーリング面1drが第2キー2kのトレーリング爪2krに係合する。この係合により、1速の状態となり、トルクが第2キー2kによって伝達される。
【0043】
ここで、
図7(b1)に示すように、第2キー2kのトレーリング爪2krが第1ドグ1dのトレーリング面1drに係合した瞬間、即ち、2速から1速にシフトダウンした瞬間、1速と2速のギヤ比に応じてエンジン回転数(rpm)が上がる。このため、第2ギヤ(2速カウンタギヤ)2cの回転数が上昇し、第1キー1kおよび第2キー2kから見た第2ギヤ2cの相対回転方向が
図7(c1)の矢印D方向となり、第1キー1kのトレーリング爪1krが第2ドグ2dのトレーリング面2drから離間する。これにより、第1キー1kによる2速状態でのトルクの伝達が終了する。第2ドグ2dから離間した第1キー1kは、ディテント機構22のリターン力によって第1ギヤ1c側に移動されるため、第2ドグ2dと干渉することはない。
【0044】
上述したように、エンジン減速時に、2速から1速に変速する場合には、第1ギヤ1cと第2ギヤ2cとの間に配設された単独のスリーブリング11を、第2ギヤ2c側から第1ギヤ1c側に移動させる。すると、ディテント機構22が作動することで、トルクを伝達している第1キー1kが第2ドグ2dに係合した状態で、トルクフリーの第2キー2kのみが第1ギヤ1c側に移動されて第1ドグ1dと係合するため、トルク切れの無いシフトダウンが行える。すなわち、減速時シフトダウンする際には、第1ギヤ1cと第2ギヤ2cとの間に配置された単独のスリーブリング11のみを第2ギヤ2c側から第1ギヤ1c側に軸方向に移動すれば足り、その移動制御及び操作系構造を簡素化できる。
【0045】
(変形例1)
図8に、ディテント機構22を構成する溝部19の変形例を示す。この変形例における溝部19は、ディテント作動量(第1キー1kおよび第2キー2kの初期位置からの移動量)に対するディテント荷重(第1キー1kおよび第2キー2kのリターン力)の最適化を図ったものである。溝部19は、スリーブリング11に対する第1キー1kおよび第2キー2kが初期位置にあるときボール20が当接する急傾斜部19aと、急傾斜部19aに繋げて形成された緩傾斜部19bとを有する。緩傾斜部19bは、急傾斜部19aよりも傾斜角が小さい。
図8(a)はボール20が初期位置にて急傾斜部19aに配置された状態を示し、
図8(b)はボール20が初期位置からずれて緩傾斜部19bに配置された状態を示す。
【0046】
図8において、F1、F2はバネ荷重、Fa1、Fa2はバネ荷重のうち急傾斜部19aまたは緩傾斜部19bに対する垂直力、Fb1、Fb2は垂直力のうち急傾斜部19aまたは緩傾斜部19bにおける軸方向力(この力がリターン力となる)、Fc1、Fc2は垂直力のうち急傾斜部19aまたは緩傾斜部19bにおける径方向力である。この構成によれば、
図8(b)に示すように、ボール20が初期位置からずれて
図5(a)に示すバネ21の圧縮長が長くなってボール20の溝部19への押付力(バネ荷重)が大きくなっても、緩斜面部19bによる力の分解によって軸方向のリターン力Fb2が増大しない。
【0047】
このように、ディテント機構22のリターン力が初期位置からずれても増大しないため、低駆動トルクでのパワーオン変速において、
図6(a1)から
図6(b1)に移行する際、または
図7(a1)から
図7(b1)に移行する際に、スリーブリング11を軸方向に移動させたとき、第1ドグ1d、第2ドグ2dのリーディング面1df、2df、トレーリング面1dr、2drの逆テーパーに打ち勝って第1キー1k、第2キー2kがリターン力によって抜けることを抑制できる。この結果、低駆動トルクでのパワーオン変速でのトルク抜けを回避できる。
【0048】
加えて、溝部19の急傾斜部19aの傾斜角をより大きくすれば、ディテント機構22の作動量が零の初期位置においては、高い保持力を確保できる。これにより、初期位置での外乱による第1キー1k、第2キー2kの意に反する動きを規制しつつ、作動状態から初期位置に戻った後の慣性による第1キー1k、第2キー2kの暴れを抑制できる。なお、溝部19の緩傾斜部19bは、傾斜角が一つではなく、複数の傾斜角を有していてもよい。この場合、緩傾斜部19bは、初期位置から離れるに連れて傾斜角が徐々に小さくなる特性を有するようにする。また、緩傾斜部19bは、同様な特性を有する湾曲面、円弧状としてもよい。
【0049】
(変形例2)
図9に、ディテント機構22の別の変形例を示す。この変形例におけるディテント機構22aは、ボール20に加わる遠心力によるディテント荷重の影響を抑えるようにしたものである。ディテント機構22aは、スリーブリング11に円筒状に形成された既述のバネ収容部(
図5(a)参照)23と、バネ収容部23にネジ止めされた蓋24と、バネ収容部23に径方向に移動自在に設けられたバネ受け部材25と、バネ収容部23に径方向に移動自在に収容され
図5(a)のハブ10およびスリーブリング11が回転することで遠心力を受ける錘部材26と、錘部材26が遠心力によって径方向外方に移動するに伴ってバネ受け部材25を径方向内方に移動させる連動機構27とを備えている。
図9(a)は遠心力が小さく錘部材26が径方向外方に移動していない状態を示し、
図9(b)は遠心力が大きく錘部材26が径方向外方に移動した状態を示す。
【0050】
バネ受け部材25は、略円筒状に形成されており、外周面がバネ収容部23の内周面に摺接し、下端にバネ21が当接され、上端に内方に向けて円錐状に形成されたバネ受け斜面部28が設けられている。錘部材26は、略円柱状に形成されており、外周面がバネ受け部材25の内周面に摺接し、上端に円錐台状に形成された錘傾斜面部29が形成され、下端に保持バネ30の一端を収容する筒部31が形成されている。保持バネ30は、他端がボール20に当接されており、錘部材26が落下しないように保持するための弱いバネ力を有する。
【0051】
連動機構27は、錘部材26の錘傾斜面部29と、バネ受け部材25のバネ受け傾斜面部28と、蓋24に形成された反力受け面部32と、反力受け面部32、錘傾斜面部29及びバネ受け傾斜面部28に接する球体33とを有する。球体33は、周方向に間隔を隔てて複数配置されている。この構成によれば、
図4、
図5(a)に示すハブ10の回転数(rpm)が高まると、遠心力によって錘部材26が
図9(a)から
図9(b)に示すように径方向外方に移動し、これに伴って球体33が円筒状のバネ収容部23の径方向外方に移動してバネ受け部材25が径方向内方に押し下げられ、バネ21が押し縮められる。従って、バネ21のセット荷重が大きくなり、ボール20に掛かる遠心力によるディテント荷重の減少を抑制できる。
【0052】
すなわち、
図4、
図5(a)に示すハブ10の回転数(rpm)が高まると、ボール20に作用する遠心力が大きくなってディテント荷重が小さくなってしまうところ、遠心力によって錘部材26が
図9(a)から
図9(b)に示すようにスリーブリング11(
図4参照)の径方向外方に移動し、これに伴って球体33が円筒状のバネ収容部23の径方向外方に移動してバネ受け部材25がスリーブリング11(
図4参照)の径方向内方に押し下げられて、バネ21のセット荷重が高まるため、ボール20に掛かる遠心力の少なくとも一部を相殺でき、ボール20に掛かる遠心力によるディテント荷重の減少を抑制できる。
【0053】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。例えば、第1ギヤ、第2ギヤは、変速機のカウンタシャフト(出力軸)ではなく、メインシャフト(入力軸)に装着されていてもよい。