特許第5909148号(P5909148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5909148-内面研削盤及び内面研削方法 図000002
  • 特許5909148-内面研削盤及び内面研削方法 図000003
  • 特許5909148-内面研削盤及び内面研削方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909148
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】内面研削盤及び内面研削方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 55/04 20060101AFI20160412BHJP
   B24B 5/10 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   B24B55/04 A
   B24B5/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-107417(P2012-107417)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-233616(P2013-233616A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年1月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、東北経済産業局、戦略的基盤技術高度化支援事業「マイクロ超音波・電解ハイブリッド内面加工装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000114019
【氏名又は名称】ミクロン精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000073
【氏名又は名称】特許業務法人プロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100167070
【弁理士】
【氏名又は名称】狹武 哲詩
(72)【発明者】
【氏名】立花 亨
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 征幸
(72)【発明者】
【氏名】村越 親
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−040632(JP,A)
【文献】 実開平05−070844(JP,U)
【文献】 特許第4369556(JP,B2)
【文献】 実開昭53−019195(JP,U)
【文献】 実開昭49−083677(JP,U)
【文献】 実公昭50−029192(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 55/04,55/02
B24B 5/02− 5/16
B23Q 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を当接して加工の位置決めし該工作物の加工孔に連通するクーラント流通路を有するワークストッパ及び工作物を保持するチャックを備えた主軸と、
研削加工領域を開口して工作物を固定するチャックを被覆すべく主軸に配設された固定カバーと、
研削砥石を駆動する砥石スピンドルに配設され研削砥石を砥石軸方向の工作物に向かう方向に伸張するように付勢されて伸縮自在に覆うバネ性を備え、工作物着脱時には前記固定カバーと離れて設けられた筒状の伸縮カバーと
を備え、
研削加工時には、
前記伸縮カバーが前記固定カバーと当接して工作物と研削砥石を含む前記研削加工領域を封止して、クーラント及びクーラントミストの飛散を防止するとともに、
前記主軸及び/又は前記砥石スピンドルの研削加工時の0.1〜20mmの範囲の砥石軸方向の揺動を前記伸縮カバーが吸収して研削加工領域の封止を維持する
ことを特徴とする内面研削盤。
【請求項2】
前記伸縮カバーは、ジャバラ形状であって、耐久性のある金属製、合成樹脂製、または金属と合成樹脂の複合材からなり、工作物着脱の開放時でも自重で変形しないような強度を有することを特徴とする請求項1記載の内面研削盤。
【請求項3】
前記固定カバーの底部には、前記クーラント及び前記クーラントミストが固定カバー内面に付着して滴下した液体を排出するドレンを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の内面研削盤。
【請求項4】
工作物を当接して加工の位置決めし該工作物の加工孔に連通するクーラント流通路を有するワークストッパ及び工作物を保持するチャックを備えた主軸と、
研削加工領域を開口して工作物を固定するチャックを被覆すべく主軸に配設された固定カバーと、
研削砥石を駆動する砥石スピンドルに配設され研削砥石を砥石軸方向の工作物に向かう方向に伸張するように付勢されて伸縮自在に覆うバネ性を備え、工作物着脱時には前記固定カバーと離れて設けられた筒状の伸縮カバーと
を備えた内面研削盤を用いた研削方法であって、
研削加工時に前記伸縮カバーが前記固定カバーと当接して工作物と研削砥石を含む前記研削加工領域を封止して、クーラント及びクーラントミストの飛散を防止し、かつ、液体として回収するとともに、
前記主軸及び/又は前記砥石スピンドルの研削加工時の微動を前記伸縮カバーが吸収して研削加工領域の封止を維持する
ことを特徴とする内面研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の内面を研削砥石を用いて研削する内面研削盤に係り、特に研削液(クーラント)や切屑の飛散を抑止して装置の汚損を防止することができる内面研削盤及び内面研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作物を着脱する際など、研削作業の安全を考慮して作業者が回転する研削砥石に触れることがないように、研削砥石を被覆するために移動可能な危険防止用カバーを備えた研削盤は従来から存在している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−276032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の研削盤は、研削砥石が実際に工作物を研削しているときには、研削の邪魔になるカバーは退避する構造であり、そのため研削作業中に工作物に供給されるクーラントや切屑は、研削砥石の回転によって装置の周囲に飛散するとともに、細かな霧状のクーラントミストともなって広く作業環境内に飛散していた。
そして、作業環境にクーラントやクーラントミストが飛散することは、作業環境の安全衛生面から多大な問題があることから、これを改善すべく研削盤全体を覆って開閉するカバーを備えることが行われている。
しかしながら、研削盤全体をカバーで覆ったとしても、カバー内に位置する研削盤全体にクーラントミストが付着して汚損することについては改善されることはなく、またカバー内に充満するクーラントミストを除去するために、集塵装置を設置してダクトを介してカバー内のクーラントミストを吸引・排出することが行われていた。この集塵装置とダクトを設置するためには、多大なスペースとコストを要していた。
【0005】
本発明は以上に述べた事情に鑑みて為されたものであって、その目的は、内面研削盤による研削作業においてクーラントやクーラントミストの飛散を防止することで、研削作業における安全衛生の向上に寄与することができ、かつ省スペースで低コストの内面研削盤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内面研削盤は、工作物を当接して加工の位置決めするワークストッパ及び工作物を保持するチャックを備えた主軸と、研削加工領域を開口して工作物を固定するチャックを被覆すべく主軸に配設された固定カバーと、研削砥石を駆動する砥石スピンドルに配設され研削砥石を砥石軸方向に伸縮自在に覆うバネ性を備えた筒状の伸縮カバーとを備え、研削加工時に前記伸縮カバーが前記固定カバーと当接して工作物と研削砥石を含む前記研削加工領域を封止するとともに、前記主軸及び/又は前記砥石スピンドルの研削加工時の微動を前記伸縮カバーが吸収して研削加工領域の封止を維持することを特徴とする。
このような構成とすることにより、工作物に送出されるクーラントが研削加工時に周囲に飛散するものの、固定カバーと伸縮カバーとにより研削加工領域が封止されることから、研削加工領域の外にクーラントは飛散することがない。
【0007】
また、伸縮カバーは、ジャバラ形状からなることを特徴とする。
これにより、主軸や砥石スピンドルが微動してもこれを伸縮カバーが吸収して固定カバーと伸縮カバーとによる研削加工領域の封止が維持される。
【0008】
また、ワークストッパの中央には工作物の加工孔に連通するクーラント流通路を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の内面研削方法は、工作物を当接して加工の位置決めし該工作物の加工孔に連通するクーラント流通路を有するワークストッパ及び工作物を保持するチャックを備えた主軸と、研削加工領域を開口して工作物を固定するチャックを被覆すべく主軸に配設された固定カバーと、研削砥石を駆動する砥石スピンドルに配設され研削砥石を砥石軸方向に伸縮自在に覆うバネ性を備えた筒状の伸縮カバーとを備えた内面研削盤を用いた研削方法であって、研削加工時に前記伸縮カバーが前記固定カバーと当接して工作物と研削砥石を含む前記研削加工領域を封止するとともに、前記主軸及び/又は前記砥石スピンドルの研削加工時の微動を前記伸縮カバーが吸収して研削加工領域の封止を維持することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の内面研削盤における研削前の状態を示す説明図である。
図2】本発明の内面研削盤における研削する直前の状態を示す説明図である。
図3】本発明の内面研削盤における研削中の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る内面研削盤を実施するための形態を詳細に説明する。図1図3は、本発明の実施の形態を例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
<構成>
まず図1に示すように、本発明の内面研削盤1は、工作物Wを着脱自在に保持し回転するチャック2を備えた主軸(回転部)3と、この主軸(回転部)3を回転自在に軸支する主軸(固定部)4と、この主軸(固定部)4に配設され、研削加工領域を開口させてチャック2を被蓋する金属等の剛性を有する筒状の固定カバー5と、研削砥石6を回転駆動する砥石スピンドル7とを備えており、図示しない砥石軸スライドが砥石スピンドル7を載置して砥石軸方向に往復動する構成を有している。8は、工作物Wを押し当てて加工する基準位置となるワークストッパであり、その中心にクーラント流通路8aを備えて主軸側から送出されるクーラントを、この流通路と通じる工作物Wの加工孔Waに流通させる構成としている。
前記固定カバー5は、基端部を主軸(固定部)4に固定され、そこから対向する砥石スピンドル7方向に筒状に延出し、チャック2の外周を被覆した位置から、主軸の回転軸中心方向に延出して工作物Wを保持するチャック2を被蓋する形状の正面部5aを有しており、この正面部5aの中央部分は、研削砥石6が工作物Wの加工孔Waを研削加工するために挿通する円形の開口部5bとしている。
【0012】
そして、砥石スピンドル7の研削砥石6側の先端部には、研削砥石6を保持する砥石軸9の側周面を被覆するように筒状の伸縮カバー10が配設されており、この伸縮カバー10はその開口先端部10aを、前記固定カバー5の正面部5aに当接可能に位置するとともに、その基端部10bを砥石スピンドル7の外周に固定している。
また、伸縮カバー10は、その基端部10bを砥石スピンドル7の外周に固定した状態で、開口先端部10aが砥石軸方向に伸縮自在な構造を有し、本実施例にあっては、ジャバラ状のバネ性を有するベローズ材を用いて説明する。この伸縮カバー10のバネ性は、砥石軸方向の工作物Wに向かう方向に伸張するように付勢されている。伸縮カバー10のベローズ材としては、耐久性のある金属製、合成樹脂製、または金属と合成樹脂の複合材を適宜用いることとする。そして、砥石スピンドル7は、研削加工時に砥石軸方向にオシレーション(揺動)するが、その振幅を伸縮カバー10のバネ性により吸収させることとする。
また、ベローズ材以外の伸縮カバー10としては、ジャバラ状に限られることなく、例えば伸縮式のロッドアンテナのように内径が少しずつ異なる複数の筒体を内包させ、適宜なバネ性と伸縮機能を発揮する筒状体を用いてもよい。11は、固定カバー5の底部に設けたドレンであり、固定カバー5内に溜まるクーラントを外に排出する。
【0013】
<研削方法>
このような構成からなる本発明の内面研削盤1について、以下に詳述する。
まず、図2に示すごとく、工作物Wの加工孔Waを研削加工するために、砥石軸スライドを駆動して砥石スピンドル7を工作物W方向、すなわち図の左方向に移動する。そして、研削砥石6が工作物Wに当接する前に、伸縮カバー10の開口先端部10aを固定カバー5の正面部5aに当接させる。これにより、研削加工時の研削砥石6と工作物Wとが占める領域が、固定カバー5と伸縮カバー10とにより被覆される。
そして、この状態でクーラントを主軸、ワークストッパのクーラント流通路8aを通って工作物Wの加工孔Waに流通させ、図3に示すように、さらに砥石軸スライドが左方向に移動して、研削砥石6を工作物Wの加工孔Waの内周面に挿入し当接させて研削する。この研削中に砥石軸スライドが、砥石軸方向に0.1〜20ミリメートルの範囲でオシレーション(揺動)するが、伸縮カバー10はその開口先端部10aを、固定カバー5の正面部5aに当接した状態を維持したままオシレーションを吸収し、当接した部位からクーラントミストが漏れ出ることはない。
【0014】
研削により飛散するクーラントは、主に固定カバー5内で受け止めて、その底部に溜めつつドレン11から排出するとともに、クーラントミストは固定カバー5内と伸縮カバー10内に充満するものの、時間経過とともに内周面に付着して滴下する。そして、研削加工が終了して、工作物Wを取り替えるべく砥石スライドを図の右方向に移動させ、工作物Wの加工孔Waから研削砥石6が抜け出たときにクーラントの供給を止め、さらに砥石スライドを図の右方向に移動して固定カバー5と伸縮カバー10を引き離す。
また、主軸側についても、研削加工中に主軸スライドにより砥石軸と直角方向に切り込み分の移動が行われるが、その際、固定カバー5に当接する伸縮カバー10の開口先端部10aは摺動したり、伸縮カバー10が撓んだりして移動量の変位を吸収することとする。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の内面研削盤は、金属等の各種素材を精密に研削加工する加工産業において利用することができるものである。
【符号の説明】
【0016】
1…内面研削盤
2…チャック
5…固定カバー
5a…正面部
5b…開口部
6…研削砥石
7…砥石スピンドル
8…ワークストッパ
8a…クーラント流通路
9…砥石軸
10…伸縮カバー
10a…開口先端部
10b…基端部
W…工作物
Wa…加工孔
図1
図2
図3