前記送信間隔設定部が、送信データをx進数(xは2以上の所定の整数)に変換することで当該x進数の値として表現し、各桁の値が何であるかに基づいて、音波の各送信間隔を決定することを特徴とする請求項1に記載の音波送信端末。
前記送信周波数設定部が、送信データをx進数(xは2以上の所定の整数)に変換することで当該x進数の値として表現し、各桁の値が何であるかに基づいて、各音波の送信周波数を決定することを特徴とする請求項3に記載の音波送信端末。
前記送信データが、前記特定端末との間で無線通信を行うための前記音波送信端末のアドレス情報を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の音波送信端末。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る音波送信端末及び音波受信端末の機能ブロックを示す。音波送信端末1は、音波送信部10、送信間隔設定部11及び送信周波数設定部12を備える。音波受信端末2は、音波受信部20及びデータ復号部21を備える。音波送信部10は、送信間隔設定部11が設定した送信間隔に従って、あるいは送信周波数設定部12が設定した送信周波数に従って、パルス状の音波を順次、パルス列の形で送信する。
【0018】
当該パルス状の音波は、詳しくは後述するように、音波送信端末1が送信しようとするデータに基づいて、各パルス間の送信間隔あるいは各パルスの送信周波数が変調された形式として構成されている。
【0019】
ここで、本発明において送信間隔設定部11と送信周波数設定部12とは、いずれかを選択的に利用することができ、共に送信データに基づく変調を施した形式として、パルス状の送信音波を設定する役目を担う。当該いずれを利用するかの選択は、ユーザの指定によってなされてもよく、いずれかに切り替えて利用できるように音波送信端末1を構成することもできる。また、データ復号部21は、当該利用されたいずれかに対応する復号を行う。
【0020】
音波受信部20は、当該送信された音波を受信し、データ復号部21は、当該受信音波を復号して、音波送信端末1の送信データを求める。当該復号は、音波送信端末1が音波を送信している際に、音波受信端末2が音波送信端末1に対して所定の位置にあった場合のみにおいて、可能となる。
【0021】
具体的には、
図2に場合(1)として示すように、音波送信端末1を利用するユーザが、音波送信端末1を手に持って、音波受信端末2を中心とした円を描いて回転移動させている間に、音波送信がなされ、当該回転の中心に位置しているような音波受信端末2のみにおいて、データの復号が可能となる。一方、場合(2)として示すように、音波受信端末2が当該音波送信端末1を回転させている円の外など、中心以外に位置している場合は、データの復号は不可能である。
【0022】
よって、データ通信を行う候補となる音波受信端末2が複数存在するときに、音波送信端末1を利用するユーザは、通信を望む端末を中心として円を描くという直感的且つ簡単な動作によって、当該意図した特定端末のみにデータを送信することが可能となる。
【0023】
図3は、本発明において円運動の中心に置くことで、意図した特定端末とのみ通信が可能となることの基本原理を説明するための図である。音波送信端末1は、ユーザが手に持って移動させることで中心をP1とする円C上を動き、当該円運動中に、時刻t
1, t
2, ..., t
6で順次パルス音波を送信する。当該各パルスを送信した各時刻t
i(i=1, 2, ..., 6)における位置がそれぞれ図示するようにP(t
i)であり、円C上に時計回りに順次位置している。
【0024】
なお、円の中心P1を通り互いに直交する直線L1及びL2を、各点の位置関係の把握を容易にするための補助線として描いてある。直線L1上に、点P2,P(t
1),P1及びP(t
4)が存在している。
【0025】
音波受信端末2が円Cの中心P1に位置していた場合の、音波送信端末1の各時刻t
iにおける送信音波の受信時刻をT
[1]iとする。また、音波受信端末2が円Cの中心以外の位置の例として、円Cの外にある点P2に位置していた場合の、音波送信端末1の各時刻t
iにおける送信音波の受信時刻をT
[2]iとする。ここで、円Cの中心P1に位置しているか否かで、受信間隔に差異が生ずることとなる。
【0026】
すなわち、中心P1に位置していれば、音波送信端末1と音波受信端末2との距離は常に、当該円Cの半径の値として一定となるので、以下の(式1)のように音波送信間隔(t
i+1 − t
i)と音波受信間隔(T
[1]i+1 − T
[1]i)とは常に一致する。
t
i+1 − t
i = T
[1]i+1 − T
[1]i (i=1, 2, ..., 5) …(式1)
【0027】
一方、中心ではない位置P2に位置している場合、音波送信中に音波送信端末1(音源)と音波受信端末2(録音地点)との間の距離が変動することとなる。当該音波到達距離の変動の結果、音源から録音地点への音波の到達に要する時間も、パルス毎に変動することとなる。
【0028】
具体的には、図中(1)で示すように、音源である音波送信端末1が時間帯[t1,t4]においては、録音地点である音波受信端末2から遠ざかるように移動している。また、図中(2)で示すように、時間帯[t4, t6]においては逆に、音波受信端末2に近づくように移動している。
【0029】
よって、図中(1)の音源が録音地点から遠ざかっている間は以下の(式2)のように、音波送信間隔と比べて音波受信間隔が長くなり、逆に、図中(2)の音源が録音地点へと近づいている間は以下の(式3)のように、音波送信間隔と比べて音波受信間隔が短くなる。
t
i+1 − t
i < T
[2]i+1 − T
[2]i (i=1, 2, 3) …(式2)
t
i+1 − t
i > T
[2]i+1 − T
[2]i (i=4, 5) …(式3)
【0030】
上記のように、円の中心に位置するか否かで、送受信間隔を比較した場合の違いが生ずる。中心に位置していれば送信間隔と受信間隔とが常に等しくなる。中心に位置していなければ、音源が録音地点から遠ざかっている場合に「送信間隔<受信間隔」となり、音源が録音地点へと近づいている場合に「送信間隔>受信間隔」となって間隔の大小関係が生ずる。送信間隔設定部11は、当該円の中心にあるか否かによって違いが生ずることを利用して、変調を実行する。
【0031】
なお、円の中心に位置しない場合、音源が近づく配置関係と遠ざかる配置関係とが切り替わる箇所付近(
図3の例であれば、録音地点P2に対して点P(t
1)の付近及び点P(t
4)の付近)においては、送信間隔と受信間隔との差が明確には現れないこともありうるが、送信間隔全体と受信間隔全体とを比較すれば、近づいている部分と遠ざかっている部分との区別は可能となる。
【0032】
同様にして、いわゆるドップラー効果に基づき、送信周波数と受信周波数とにも、大小関係が現れるか否かの違いが生ずる。すなわち、円の中心に位置するか否かによって、各パルスの発生時において音源と録音地点との距離の時間変化(音源と録音地点とを結ぶ線分の長さの時間変化)がゼロか否かという違いが生じ、従って、送受信周波数間で大小関係が現れないか現れるかの違いが生ずる。送信周波数設定部12は、当該違いが生ずることを利用して、変調を実行する。
【0033】
なお、ここでは基本原理説明のため、円Cを理想的な円として想定し、送受信時刻及び送受信周波数も誤差なく取得されるものと想定している。実際に手で円を描く場合は、半径の大きさにある程度の誤差が生ずる。また、実際のスピーカやマイクによるパルス音波送受信の時間制御、時間記録、周波数判定等においても、ある程度の誤差が生ずる。当該誤差を見込んで閾値判定を行い、等しいとみなせるか、あるいはいずれかの方が大きいとみなせるかを決定すればよい。
【0034】
図4Aは、以上説明した
図3の基本原理に基づいて、送信間隔設定部11が送信データに基づく音波送信間隔の変調を行う具体例を示す図である。
【0035】
(1)に示す変換表が、送信間隔設定部11が送信データを送信間隔に変換する規則であり、同時にデータ復号部21が受信間隔から送信データを復号するための規則である。送信間隔設定部11は、送信データを所定方式に従って5進数に変換し、その各桁の値を順次、音波送信部10によって単位データとして送信させる。この際、当該各桁の値(単位データ)が何であるかを、送信パルス列における各パルス間の送信間隔に順次置き換えさせて、送信させる。当該置き換えの仕方を送信間隔設定部11が設定する。
【0036】
データ復号部21は逆に、受信間隔より対応する5進数の各桁の値を順次求め、それら5進数の列として、送信データを復号する。あるいは、当該5進数列にさらに送信間隔設定部11が変換した所定方式の逆変換を適用することで、送信データを復号してもよい。
【0037】
(1)の変換表では、欄C11に示すように、5進数の各数字「0, 1, 2, 3, 4」に対して、それぞれ、欄C12に示すように等差数列をなす形の送信間隔「198ms, 199ms, 200ms, 201ms, 202ms」を割り当てる旨を定義している。当該変換表に従ってデータを送信し、復号する具体例が(2)に表形式で示されている。
【0038】
送信データは5進数に変換され、欄C13に示す順で順次現れる、欄C14に示すような5進数の数字の列となったとする。すなわち、1番目の数字「2」が1桁目の数字、2番目のデータ「1」が2桁目の数字、…、8番目の数字「3」が8桁目の数字である。
【0039】
当該欄C14の5進数データ列に対して、送信間隔設定部11は変換表(1)を適用することで、欄C15に示すような送信間隔の列を求め、音波送信部10は当該送信間隔を設けたパルス列の音波を順次送信する。なお、送信間隔が8個あるので、9個のパルスからなるパルス列の音波が送信されることとなる。
【0040】
当該送信されたパルス列を音波受信端末2が受け取り、送信データを復号する例が残りの欄C16〜C21である。
【0041】
欄C16〜C18が、音波受信端末2の位置が
図2の「場合(1)」であった例である。すなわち、当該音波受信端末2は、音波送信端末1を回しているユーザの描く円の中心に配置され、ユーザがデータ送信しようと意図するところの「特定端末」である。一方、欄C19〜C21は、音波受信端末2の位置が
図2の「場合(2)」であった例である。すなわち、当該音波受信端末2は、音波送信端末1を回しているユーザの描く円の中心以外に配置され、ユーザがデータ送信しようとは意図していない、「他の端末」である。
【0042】
「特定端末」は、
図3で説明したように、円の中心にあるので、「送信間隔=受信間隔」となり、欄C17に示す受信間隔は欄C15の送信間隔と一致する。すなわち、ドップラー効果に対応する原理によって受信間隔が送信間隔と変動する、という現象は生じない。欄C16には欄C17の受信間隔から欄C15の送信間隔を引いた差が示され、当該変動現象が生じないことを確認的に示している。
【0043】
よって、「特定端末」では、データ復号部21が当該欄C17の受信間隔を(1)の変換表に従って5進数のデータに復号することで、欄C18に示すように、欄C15の送信データと同じデータを得ることができる。
【0044】
一方、「他の端末」は、同じく
図3で説明したように、円の中心に位置していないため、送信間隔(欄C15)と受信間隔(欄C20)とが一致しない。当該差を取った値が欄C19に示され、ドップラー効果に対応する原理によって、1〜3番目では「送信間隔<受信間隔」となり、6〜8番目では逆に「送信間隔>受信間隔」となる。
【0045】
よって、「他の端末」では、データ復号部21が欄C20の受信間隔を(1)の変換表に従って5進数のデータに復号しても、欄C21に示すように、欄C15の送信データとは異なるデータしか得られない。従って、本発明によれば、音波の届く範囲にデータ送信を意図しない「他の端末」が存在しても、当該「他の端末」では本来の送信データを復号できないので、セキュアな音波通信が可能となる。
【0046】
なお、欄C21ではデータが変わってしまった箇所(1〜3番目及び6〜8番目)にハッチを付与してある。なおまた、5番目のデータについては、欄C20に示すように受信間隔の値が「197ms」であって(1)の変換表上に存在しないが、この場合は当該変換表上で最も近い「198ms」であったものとして変換を行っている。
【0047】
なおまた、欄C16及び欄C20に示す、ドップラー効果に対応する原理からの送受信間隔の変動については、本発明の理解を促進するために付記したものであって、音波受信端末2においては知り得ないデータである。音波受信端末2において検知しうるのは、欄C17又はC20の受信間隔であって、当該受信間隔を変換表(1)に従って復号して、欄C18又はC21のデータを得ることとなる。
【0048】
以上、
図4Aで送信間隔設定部11による設定の具体例を説明した。一般的には次の[1],[2]のようにすればよい。
【0049】
[1]送信データをx進数に変換(xは2以上の所定の整数)して、変換後の値を(d
1, d
2, ..., d
m)とする(mは桁数)。すなわちここで、d
i(i=1, 2, ..., m)はm−i桁目の値である。あるいは、送信順をどうするかという違いしか生じないので、d
i(i=1, 2, ..., m)をi桁目の値としてもよい。
[2]音波の送信間隔(S
1, S
2, ..., S
m)を、各i(i=1, 2, ..., m)について、次の(式4)のように決定する。
S
i = Sd + {d
i − (x−1)/2} *Sc …(式4)
なお、(式4)において、Sd[ms]は基準送信間隔であり、Sc[ms]は単位変調間隔であり、共に所定値を設定しておくが、以下のような値を用いることも好ましい。なおまた、アスタリスク「*」は積を取ることを表す(以下同様とする)。
【0050】
基準送信間隔Sd[ms]は、以下のような考察(a),(b)のもとで、約50[ms]とすることが好ましい。
【0051】
(a)50ms以下の場合、送信音波と、過去の送信音波の反射波が音波受信端末2上で干渉してしまう。50ms以上とすれば、音波は16m以上伝搬するため、反射波は十分減衰し、干渉の影響は少なくなる。
(b)一方、50msより過剰に大きくしてしまうと、送信スループットが低下する。
【0052】
また、単位変調間隔Sc[ms]は、以下のような考察(c),(d),(e)のもとで、約1.5[ms]とすることが好ましい。
【0053】
(c)ユーザの円操作による音波送信端末1の移動速度を0.5〜2[m/s]と想定すると、1秒当たりの受信間隔変動の絶対値の最小値は約1.5[ms]となる。なお、ここでの受信間隔変動とは、音源と録音地点とを結ぶ直線上に音源が移動する場合であって、最も有効に受信間隔変動が生ずる場合を想定している。
(d)1.5msより大きくすると、ドップラーによる受信間隔変動が変調単位間隔より小さくなるため、「他の端末」でも通信データを復号できてしまう。
(e)1.5msより小さくすると、ドップラーによる受信間隔変動(手の動きによる円操作自体の、理想的な円からのずれにより生じる変動)が変調単位間隔より大きくなるため、「特定端末」で通信データの復号が困難となる。
【0054】
なお、
図4Aの例は、上記一般的手法においてx=5、Sd=200[ms]、Sc=1[ms]を採用した例であり、送信データをx(=5)進数に変換した際の桁数がm=8となったものである。
【0055】
図4Bは、
図3で説明した基本原理と同様のいわゆるドップラー効果に基づいて、送信周波数設定部12が送信データに基づく音波送信周波数の変調を行う具体例を示す図である。なお、
図4Bにおける各欄C31〜C41は、それぞれ
図4Aにおける各欄C11〜C21に対応するので、共通部分に関しては適宜説明を省略することとする。
【0056】
(1)に示す変換表が、送信周波数設定部12が送信データを送信周波数に変換する規則であり、同時にデータ復号部21が受信周波数から送信データを復号するための規則である。送信周波数設定部12は、送信データを5進数に変換し、その各桁の値を順次、音波送信部10によって単位データとして送信させる。この際、当該各桁の値(単位データ)が何であるかを、送信パルス列における各パルスの送信周波数に順次置き換えさせて、送信させる。当該置き換えの仕方を送信周波数設定部12が設定する。
【0057】
データ復号部21は逆に、受信周波数より対応する5進数の各桁の値を順次求め、それら5進数の列として、送信データを復号する。
【0058】
すなわち、送信間隔設定部11が送信間隔を利用した代わりに、送信周波数設定部12は送信周波数を利用し、その他の変調・復号方式については全く同様の手法を採用することができる。
【0059】
(1)の変換表では、欄C31に示すように、5進数の各数字「0, 1, 2, 3, 4」に対して、それぞれ、欄C32に示すように等差数列をなす形の送信周波数「15.8kHz, 15.9kHz, 16.0kHz, 16.1kHz, 16.2kHz」を割り当てる旨を定義している。当該変換表に従ってデータを送信し、復号する具体例が(2)に表形式で示されている。
【0060】
当該具体例の意味するところは、
図4Aとほぼ同じであるので、詳細な説明を省略する。音波送信部10は、送信データの変換で得られた欄C34に示す8個の各値(欄C14と同一の値)に対応して、欄C35の周波数からなる8個のパルスを順次送信する。
【0061】
そして、結論として
図4Aと同様に、円操作の中心に位置する「特定端末」においては欄C38に示すように、欄C34の送信データを復号することが可能となり、中心に位置しない「他の端末」においては欄C41に示すように、欄C34の送信データの復号は不可能となる。すなわち、欄C41にてハッチを付与した箇所(4番目以外の箇所)で、データが変化してしまうため、復号が不可能となる。
【0062】
以上、
図4Bで送信周波数設定部12による設定の具体例を説明した。一般的には次の[1],[2]のようにすればよい。
【0063】
[1]送信データをx進数に変換(xは2以上の所定の整数)して、変換後の値を(d
1, d
2, ..., d
m)とする(mは桁数)。すなわちここで、d
i(i=1, 2, ..., m)はm−i桁目の値である。あるいは、送信順をどうするかという違いしか生じないので、d
i(i=1, 2, ..., m)をi桁目の値としてもよい。
[2]音波の送信間隔(f
1, f
2, ..., f
m)を、各i(i=1, 2, ..., m)について、次の(式5)のように決定する。
f
i = fd + {d
i − (x−1)/2} *fc …(式5)
なお、(式5)において、fd[kHz]は基準周波数であり、fc[kHz]は変調単位周波数であり、共に所定値を設定しておくが、以下のように設定することも好ましい。
【0064】
基準周波数fd[kHz]は、可聴域、非可聴域などの中から、用途に応じて所定値を決定すればよい。
【0065】
変調単位周波数fc[kHz]は、以下のような考察(a),(b),(c)のもとで、次の(式6)の値付近で定めることが好ましい。
(fd*V/(V−v
h)−fd)[ms] …(式6)
なお、(式6)において、Vは音速であり、使用環境(室温など)に合った所定値を用いればよい。また、v
hは以下説明するように端末移動速度の想定最小値である。
【0066】
(a)ユーザの円操作による端末の移動速度を例えば0.5〜2[m/s]と想定すると、v
h=0.5[m/s]であり、ドップラーシフトの絶対値の最小値は具体的にはf
min=(fd*V/(V−0.5)−fd)[kHz]となる。
(b)f
min[kHz]より大きくすると、ドップラーシフトが変調単位周波数より小さくなるため,「他の端末」でも通信データを復号できてしまう。
(c)f
min[kHz]より小さくすると、ドップラーシフト(手の動きによる円操作自体の、理想的な円からのずれにより生じるドップラーシフト)が変調単位周波数より大きくなるため、「特定端末」で通信データの復号が困難となる。
【0067】
なお、
図4Bの例は、上記一般的手法においてx=5、fd=16[kHz]、fc=100[Hz]を採用した例であり、送信データをx(=5)進数に変換した際の桁数がm=8となったものである。
【0068】
以下、本発明における各種の補足的事項につき説明する。
【0069】
(1)[送信間隔設定部11及び送信周波数設定部12における送信データの変調に関して]
送信データについて、x進法の数に変換して、各桁の数字の種類に基づいた送信間隔又は周波数の変調を行うとして説明したが、x進法に限らず、文字あるいは記号による表現を含む、同様の働きを有する一般の所定の変換を施してもよい。この際、送信データを一対一の関係で変換し、一連の単位データからなる列となし、各単位データの種類に基づいて変調を行うようにすればよい。また、当該一連の単位データの列上の位置(x進法の各「桁」に相当)によって、現れうる単位データの種類が異なってもよいし、変調する仕方が異なっていてもよい。
【0070】
送信データが最初から変調可能な形式で用意されてあれば、送信間隔設定部11及び送信周波数設定部12においてデータ変換を行う必要はない。例えば最初からx進法で表現されていれば、変換を行うことなくそのまま、当該x進法の各桁の数字に従って変調を行えばよい。あるいは、所定の変調可能な形式への変換を行うようにしてもよい。
【0071】
以上のように、送信データの単位データ列への変換と、各単位データの種類に基づいた各送信間隔・送信周波数の決定と、の全体からなる一連の所定の変換規則によって、送信間隔設定部11及び送信周波数設定部12は変調を行い、データ復号部21は復号を行う。
【0072】
(2)[音波送信端末1と音波受信端末2との間の「変換表」共有に関して]
本発明の実施に際しては、
図4A又は
図4Bで説明した、「変換表」に相当する情報、すなわち送信データを変調し復号する所定規則についての情報を、音波送信端末1と音波受信端末2とで、あらかじめ共有している必要がある。
【0073】
当該情報は、予め決めておいて各端末で個別に保持していてもよい。所定のwebサイトなどで各自が当該情報をダウンロードして保持するようにしてもよい。あるいは、音波送信端末1において本発明を実施する各回ごとに、x進法として具体的に何を使うか、割り当てる送信間隔・周波数をどうするか、等を決定し、音波受信端末2に通知するようにしてもよい。
【0074】
当該通知する場合は、前述の「トーンコネクト」等の技術を使って、変換規則そのものを、あるいは当該変換規則の記載されたサイトアドレス等を、通知することができる。従って、いずれの場合においても、音波送信端末1自体のアドレスを不特定の音波受信端末2に知られることなく通知が可能である。
【0075】
よって、上記いずれの手法においても、本発明の目的とするセキュアな音波通信を維持しつつ、「変換表」の共有が可能である。なお、本発明においては「変換表」さえ共有しておけばよく、「変換表」は所定のもの(複数種類あってもよい)を予め用意しておけばよいので、事前の鍵交換等のユーザにとっての煩雑な作業が不要となる。
【0076】
(3)[円操作を開始及び終了する旨の通知について]
音波送信端末1は、送信データ用の一連のパルス列とは別途に、音波受信端末2へ所定の音波信号を送信することによって、円操作の行われる期間を音波受信端末2が把握できるようにしてもよい。例えば、開始合図の音波信号を受信することで音波受信端末2は録音を開始し、終了合図の音波信号を受信することで音波受信端末2は録音を終了し、当該録音されている期間内において、音波送信端末1の送信した音波パルスを見つけるようにすればよい。
【0077】
開始合図及び終了合図は、音波送信端末1を利用するユーザが入力し、当該入力を受けて音波受信端末2側へと送信されればよい。なお、当該開始合図及び終了合図にどのような音波信号を用いるかについても、上記(2)と同様にセキュアな方式で音波受信端末2側へ予め知らせておくことができる。
【0078】
(4)[利用する音波パルスについて]
音波送信端末1が利用する音波パルスの情報についても、上記(2)と同様にセキュアな方式で、音波受信端末2側へ予め知らせておくことができる。これにより、音波受信端末2でパルス検出が可能となる。
【0079】
送信間隔設定部11を利用する場合であれば、送信間隔候補を
図4Aの「変換表」の形式で予め共有したうえで、各回の音波パルスをどのようなパルス幅及び周波数構成とするかを、予め音波受信端末2へ知らせておく。送信周波数設定部12を利用する場合であれば、周波数候補を
図4Bの「変換表」の形式で予め共有したうえで、各回の音波パルスの幅及びパルス送信間隔を、予め音波受信端末2へ知らせておく。
【0080】
なお、音波パルスは、各パルスの立ち上がり箇所(送受信時刻)が認識可能であれば任意の形式としてよい。例えばデューティー比などは所望の値とすることができる。あるいはデューティー比が100%と0%のパルスを交互に用いることとして、デューティー比が100%の開始部分及び終了部分を通常のパルスにおけるパルス位置とみなすようにしてもよい。
【0081】
(5)[円操作について]
複数存在する不特定の音波受信端末2の中から、ユーザが所望の「特定端末」を指定するために、当該「特定端末」を中心として円を描くものとして説明した。より一般には、ユーザは「特定端末」と概ね一定の距離を保ちながら動く任意の軌跡で音波送信端末1を動かせばよい。すなわち、「特定端末」を中心とした所定半径の球面上で(実際には手の動きには誤差があるので、当該球面からあまり離れないようにして)動かせばよい。
【0082】
ユーザインターフェースの観点からは、球面上の任意の動きは手で再現するのは困難であると思われるので、再現が容易な動きとして、概ね半径一定の円を描くのが好ましい。当該円は、当該半径一定の球を切り取る何らかの平面上の円とすればよい。すなわち、当該半径一定の球と、所定平面との交差部分として得られる円を用いればよい。このことは、言い換えれば、当該円の中心を通る当該円の垂線上に(実際には当該垂線との距離が所定範囲内に)、「特定端末」があればよい。
【0083】
また、円で動かす場合も、必ずしも一方向のみに動かし続ける必要はなく、途中で回転の向きを変えるような動かし方であってもよい。円弧の一部分を往復するような動かし方であってもよい。
【0084】
なお、音波送信端末1は加速度検知手段を備えることにより、円運動その他の運動を検知している際に音波を送信するように構成されていてもよい。
【0085】
(6)[上記(5)の円操作以外で、本発明を実施可能な一般的関係について]
本発明は、その原理より明らかなように、音波送信中の音波送信端末1及び音波受信端末2の位置関係が、上記「円操作」以外の場合であっても、適用することができる。すなわち、「円操作」を特殊な場合として含むより一般的な位置関係として、次が挙げられる。
【0086】
より一般には音波送信中において、音波送信端末1と「特定端末」との相対速度が常に概ねゼロ(端末間の距離がほぼ一定)であり、音波送信端末1と「他の端末」との相対速度は常に概ねゼロとは必ずしもならない(端末間の距離がほぼ一定とはならない)、例えば少なくともある区間においてある程度の大きさの速度成分が生ずるという関係のもとで実施されれば、ドップラー効果(に相当するもの)が現れるか否かの違いが生ずるようになるので、「特定端末」のみとの間でセキュアな音波通信を実現することができる。
【0087】
例えば、音波送信端末1と「特定端末」とは音波送信中において共に静止しており、「他の端末」はゼロでない速度を有して移動しているような場合であっても、本発明を適用することができる。あるいは、音波送信端末1と「特定端末」とは音波送信中、共に概ね等しい速度(向き及び大きさとしての速度)で移動しており、「他の端末」は静止しているような場合であっても、本発明を適用することができる。
【0088】
前者の例であれば、具体的に次のような数値で実施することも可能である。「他の端末」は、不特定の歩行者が持ちながら、想定される歩行速度0.5〜1[m/s]で移動していたとする。送信間隔設定部11が基準送信間隔Sd=250[ms]を設定すると、音波毎の「他の端末」における距離変化は約−0.25〜+0.25[m]となり、受信間隔の変動は約−0.73〜+0.73[ms]となる。よって、これと同程度の値として、単位変調間隔Sc=0.7[ms]とすれば、「他の端末」における復号が困難となる。
【0089】
なお、「円操作」は、端末間の距離をほぼ一定に保ったうえで、ユーザが「特定端末」を直感的に指定できるという点において、ユーザインターフェース上の好ましい一実施形態を提供する。
【0090】
(7)[送信データについて]
本発明による送信データは、音波送信端末1が所望の音波受信端末2(「特定端末」)との間で無線通信するための、音波送信端末1のアドレス情報を含んでいてもよく、当該アドレス通知の後に、「特定端末」との間で無線通信を行い、ファイル共有などを行うようにしてもよい。例えば、無線通信としてBluetooth(登録商標)を利用し、アドレス情報としてBDA(Bluetooth(登録商標) Device Address)を利用してもよい。