(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1次元あるいは2次元的に画素が配列された撮像素子を含む撮像部と、この撮像部に対して所定方向にオフセットして配置された発光部と、を備え、この発光部が投射した光によって生じた反射光を前記撮像部が受光して所定の検知距離の範囲内に位置する検知対象を検知する人体検知センサであって、
前記発光部による発光及び前記撮像部による受光が行われる撮像動作を制御する撮像制御手段と、
前記撮像素子を構成する画素の受光量を読み出す読出手段と、
前記撮像素子を構成する画素が前記所定方向に配列された領域である受光エリア内の前記反射光の入射位置を特定すると共に、前記受光エリアのうち前記所定の検知距離に対応する検知エリア内に前記入射位置が属しているときに検知対象が有ると判定する判定手段と、
前記受光エリアのうち前記検知エリアの外側の非検知エリア内の少なくともいずれかの特定画素の受光量が、予め画素毎に設定された閾値を超える受光量であったときに非検知対象であると判定する禁止手段と、
検知対象を検知したか非検知かを判断する検知判断手段と、を備え、
この検知判断手段は、前記判定手段により検知対象が有ると判定されたとき、前記禁止手段により非検知対象であると判定されていなければ、検知と判断する一方、前記禁止手段により非検知対象であると判定された場合には、前記判定手段による判定結果の有無及びその判定結果の内容に関わらず非検知と判断する人体検知センサ。
請求項1において、前記特定画素の受光量が分布する範囲の中に、検知対象の反射光が受光されたときには受光量が分布する可能性が低い禁止エリアが設けられており、前記禁止手段が閾値判断に用いる閾値は、前記禁止エリアの下限境界をなす受光量である人体検知センサ。
請求項3において、前記禁止手段は、前記受光エリアの実際の受光量分布をなす受光量を、前記基準となる正規分布をなす受光量を利用して正規化し、正規化された受光量について閾値判断を実行する人体検知センサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、誤検知が低減され検知性能が向上された人体検知センサ、及び自動水栓を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、1次元あるいは2次元的に画素が配列された撮像素子を含む撮像部と、この撮像部に対して所定方向にオフセットして配置された発光部と、を備え、この発光部が投射した光によって生じた反射光を前記撮像部が受光して所定の検知距離の範囲内に位置する検知対象を検知する人体検知センサであって、
前記発光部による発光及び前記撮像部による受光が行われる撮像動作を制御する撮像制御手段と、
前記撮像素子を構成する画素の受光量を読み出す読出手段と、
前記撮像素子を構成する画素が前記所定方向に配列された領域である受光エリア内の前記反射光の入射位置を特定すると共に、前記受光エリアのうち前記所定の検知距離に対応する検知エリア内に前記入射位置が属しているときに検知対象が有ると判定する判定手段と、
前記受光エリアのうち前記検知エリアの外側の非検知エリア内の少なくともいずれかの特定画素の受光量が、予め画素毎に設定された閾値を超える受光量であったときに非検知対象であると判定する禁止手段と、
検知対象を検知したか非検知かを判断する検知判断手段と、を備え、
この検知判断手段は、前記判定手段により検知対象が有ると判定されたとき、前記禁止手段により非検知対象であると判定されていなければ、検知と判断する一方、前記禁止手段により非検知対象であると判定された場合には、前記判定手段による判定結果の有無及びその判定結果の内容に関わらず非検知と判断する人体検知センサにある(請求項1)。
【0009】
本発明の第2の態様は、底部に排水口を設けた鉢の内部に吐水する水栓と、
前記第1の態様をなす人体検知センサと、
この人体検知センサの検知信号に応じて、前記水栓の吐水・止水の切替、あるいは吐水量の調整を実行する給水制御手段と、を備えた自動水栓にある(請求項5)。
【0010】
本発明に係る人体検知センサでは、前記発光部と前記撮像部とのオフセット方向である前記所定方向に画素が配列された領域である前記受光エリアが設定されている。検知対象による反射光が前記撮像素子に入射したときのこの受光エリア内の入射位置は、三角測量の原理に基づき、検知対象までの3次元的な距離に対応している。
【0011】
検知対象を検知する3次元的な範囲である前記所定の検知距離の範囲は、前記受光エリアの一部をなす前記検知エリアに対して一意に対応付けられる。例えば、前記所定の検知距離の遠距離側の端に検知対象が存在する場合には、この検知エリアの端の画素の受光量が最大値となる反射光が前記撮像部によって受光される。このような反射光が入射したときの受光量の分布を表す受光波形は、前記検知エリアの端の画素の受光量を最大値とし、この画素から離れるほど受光量が小さくなっていく波形となる。
【0012】
したがって、検知対象からの反射光の受光波形のうち前記非検知エリア内の受光量の分布は、上記のように検知エリア内に受光量の最大値を有する受光波形の裾野の部分となる。当然ながら、前記非検知エリア内に最大値を有するような受光波形は、検知対象の反射光によるものではない可能性が高い。また、この非検知エリアにおいては、検知対象の受光波形であれば、その受光量は前記検知エリアから離れるにつれて次第に小さくなっている筈である。例えば、前記検知エリアから離れているにも関わらず、大きな受光量を呈するような受光波形は、検知対象の反射光によるものでなく、それ以外によって生じた反射光である可能性が高いと判断できる。
【0013】
そこで、本発明に係る人体検知センサでは、前記非検知エリアに属する前記特定画素について、画素毎の閾値が設定されている。この人体検知センサでは、前記特定画素の受光量が対応する閾値を超えた場合、前記判定手段による判定結果の如何に関わらず、非検知と判断される。このような受光波形を検知の対象から排除すれば、誤検知を未然に回避でき検知性能を向上できる。
【0014】
以上のように、本発明に係る人体検知センサは、前記非検知エリアに属する特定画素の受光量に関する閾値判断を実行することにより、誤検知が低減され検知精度が向上されたセンサである。この人体検知センサを備えた本発明の自動水栓は、誤検知に起因した吐水等が低減された動作信頼性の高い水栓である。
【0015】
本発明に係る人体検知センサに適用する撮像素子としては、CCDやCMOSを利用した撮像素子を利用できる。
本発明の第2の態様をなす自動水栓における吐水量の調整としては、吐水開始や、吐水停止や、吐水量の増減等の調整がある。
【0016】
本発明の好適な一態様をなす人体検知センサでは、前記特定画素の受光量が分布する範囲の中に、検知対象の反射光が受光されたときには受光量が分布する可能性が低い禁止エリアが設けられており、前記禁止手段が閾値判断に用いる閾値は、前記禁止エリアの下限境界をなす受光量である(請求項2)。
前記禁止エリアは、一つの特定画素に対応する1次元的なエリアでも良いし、複数の特定画素に対応する2次元的なエリアであっても良い。さらに、複数の特定画素に対応して、それぞれ設けられる複数の1次元的なエリアであっても良い。受光量が小さい側の境界である前記下限境界に加えて、上限境界を設定しても良い。一般的に、画素の受光量は、物理的な上限で飽和する。この上限を、禁止エリアの上限境界に設定しても良く、上限境界は省略しても良い。
【0017】
本発明の好適な一態様をなす人体検知センサでは、前記特定画素は、前記検知エリアよりも遠距離側の非検知エリア内の1個又は複数個の画素であり、
この特定画素に対応する閾値は、前記検知エリアの遠距離側の端に位置する画素の受光量が所定の最大値であって、かつ、正規分布をなす受光量を基準として設定されている(請求項3)。
【0018】
検知対象である人体の表面は拡散反射面であることから、前記受光エリアにおけるその反射光の受光量分布(受光波形)は、拡散反射光に対応する正規分布の波形を呈する。前記検知エリアの遠距離側の端の画素の受光量が最大値であって、かつ、正規分布をなす受光量が分布する受光波形を基準として設定すれば、前記非検知エリアにおいて、この基準となる受光波形を上回る受光量が検知対象からの反射光によって生じる可能性は少ないと判断できる。上記の基準となる正規分布を超える受光量を含む受光波形は、検知対象の反射光によるものではない可能性が高いと判断できる。
【0019】
そこで、前記特定画素の閾値として、前記基準となる正規分布の受光波形の受光量(特定画素の受光量)を設定し、この閾値を超える受光量を含む受光波形を排除すれば、誤検知を確実性高く低減できる。さらに、前記特定画素の閾値としては、正規分布をなす受光量の値そのものよりも、画素間の受光感度(ゲイン)のバラツキや誤差等が考慮された若干、高めの受光量を設定することも良い。なお、前記所定の最大値は、想定する検知対象の反射率及び前記発光部の発光量に基づくシミュレーション計算によって決定しても良く、試験片を用いて実験的に決定しても良い。前記所定の最大値は、検知対象のうち、反射光の強度が最も高くなる対象を想定して決定されることが良い。
【0020】
本発明の好適な一態様の人体検知センサにおける禁止手段は、前記受光エリアの実際の受光量分布をなす受光量を、前記基準となる正規分布をなす受光量を利用して正規化し、正規化された受光量について閾値判断を実行する(請求項4)。
受光量の最大値が比較的小さい反射波であっても、上記のような正規化を施せば受光量分布の絶対値を嵩上げでき、前記禁止手段による判定処理の対象にできる。検知されるべき拡散反射光であれば、上記のように正規化しても前記非検知エリア内の受光量が前記閾値を超えるおそれは少なく、前記禁止手段による排除の対象にはならない。上記のような正規化処理を行えば、外乱光である反射光を排除できる可能性が高くなり、前記人体検知センサの検知精度を一層向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例)
本例は、洗面台15の水栓(自動水栓)16に人体検知センサ1を適用した例である。この内容について、
図1〜
図15を参照して説明する。
本例の洗面台15は、
図1のごとく、凹状に窪む鉢151が設けられたカウンタ155と、吐水口168を有する水栓16と、を備えている。水栓16は、カウンタ155の上面をなすカウンタトップ156に立設されている。鉢151の最深部には、水を排水するための排水口152が配置されている。
【0023】
水栓16は、カウンタトップ156に立設された略円柱状の胴部160と、この胴部160の台座をなす基部161と、を有している。胴部160は、鉢151側に傾けた状態で基部161に支持されている。鉢151側に面する胴部160の側面には、略円筒形の吐水部162が取り付けられ、その先端には、吐水口168が開口している。この吐水部162の上側に当たる胴部160の側面には、人体検知センサ1の検知面を形成するフィルタ板165が配設されている。フィルタ板165は、赤外領域の光を選択的に透過する樹脂製フィルタである。
【0024】
本例の人体検知センサ1は、
図1及び
図2のごとく、水栓16に組み込まれたセンサユニット2と、センサユニット2を制御する制御ユニット3と、により構成されている。洗面台15では、この人体検知センサ1と、給水配管12に設けられた吐水弁(電磁弁)であるソレノイド(給水制御手段)11と、の組合せにより自動給水装置が形成されている。
【0025】
センサユニット2は、
図1及び
図2のごとく、LED素子251及びラインセンサ(撮像素子)261を筐体21に収容したユニットであり、制御ユニット3からの電力供給を受けて動作する。センサユニット2では、水栓16のフィルタ板165に面して発光部25及び撮像部26が並列して配置されている。赤外光を発光する発光部25は、LED素子251と投光レンズ255とにより構成されている。撮像部26は、ラインセンサ261と集光レンズ265とにより構成されている。発光部25と撮像部26とは、遮光性を備えた隔壁211を挟んで水平方向(所定方向)にオフセットして配置されている。
【0026】
LED素子251は、
図2のごとく、パッケージ基板のキャビティに実装されたLEDチップ250が透明樹脂254により封止された発光素子である。発光部25では、縦方向(鉛直方向)のスリット孔253を設けた遮光性の素子ケース252によってLED素子251が覆われている。この発光部25によれば、水平方向の拡がり角が抑制されたシャープなスリット光を検知対象に向けて投射可能である。
【0027】
ラインセンサ261は、
図1〜
図3のごとく、受光量を電気的な物理量に変換する画素260が直線的に配列された1次元の撮像センサである。ラインセンサ261は、有効画素として64個の画素260を有している。ラインセンサ261では、これら64個の画素260により受光エリア263が形成されている。ラインセンサ261は、図示しない電子シャッターを備えており、この電子シャッターを用いて各画素260の受光(露光)時間を調整可能である。ラインセンサ261は、受光量を表す256階調の画素値が各画素260の並び順に配列された1次元のデジタルデータである撮像データを、受光動作を実行する毎に出力する。
【0028】
本例のセンサユニット2では、受光エリア263の長手方向が、発光部25と撮像部26とのオフセット方向に一致するようにラインセンサ261が組み込まれている。このセンサユニット2は、ラインセンサ261の受光エリア263によって鉢151の内周面である鉢面150が見込まれるよう、水栓16に組み込まれている。ラインセンサ261の撮像方向に手などの遮蔽物がない状態であれば、その撮像範囲に鉢面150が包含されることになる。
【0029】
制御ユニット3は、
図1及び
図4のごとく、センサユニット2及びソレノイド11を制御するユニットであり、商用電源から供給される電力により動作する。この制御ユニット3は、センサユニット2及びソレノイド11を制御する制御基板30を備えている。制御基板30には、ラインセンサ261及びLED素子251を制御する撮像制御部31と、検知処理を実行する検知処理部32と、ソレノイド11を制御する給水制御部33と、が設けられている。
【0030】
撮像制御部31は、LED素子251及びラインセンサ261を制御する撮像制御手段311、ラインセンサ261から撮像データ(各画素260の受光量の分布である受光波形)を読み出す読出手段312としての機能を備えている。
撮像制御手段311は、動作期間と非動作期間が交互に現れる間欠動作が行われるようにラインセンサ261を制御する。撮像制御手段311は、前回の動作期間が終了してから所定のインターバル時間(本例では、500m秒。)が経過するまでラインセンサ261への電源供給を停止して非動作期間を設定し、インターバル時間が経過したときに電源供給を再開して動作期間を設定する。
【0031】
なお、本例の撮像制御手段311は、1回の動作期間内の撮像動作により、LED素子251の発光と同期したラインセンサ261の露光(受光)と、無発光下のラインセンサ261の露光と、を連続的に実行し、2回の露光の差分の受光量を画素毎に求めている。画素毎の差分の受光波形では、周囲光の影響が抑圧され、LED光に起因した反射光の成分が抽出されている。なお、
図5は、検知対象の拡散反射光が入射したときに取得される受光波形の例である。同図の横軸xは、画素番号(画素位置)を示し、縦軸D(x)は、画素番号xの画素の受光量(画素値)を示している。
【0032】
検知処理部32は、検知対象の有無を判定する判定手段321、非検知対象を判定する禁止手段322、判定手段321及び禁止手段322の判定結果に基づいて検知か非検知かを判断する検知判断手段324、検知と判断されたときに検知信号を出力する検知出力手段325としての機能を備えている。
【0033】
判定手段321は、撮像動作により取得される
図5の受光波形(画素毎の受光量(差分)分布)を利用して検知対象の有無を判定する。判定手段321は、第1ステップとして、まず、受光エリア263に対する反射光の入射位置を表す受光波形の重心位置を特定する測距処理を実行する。その後、第2ステップ(測距判定ルーチン)として、検知対象の検知距離に対応する検知エリア内にその重心位置が属しているか否かの判断を実行する。
【0034】
第1ステップでは、受光波形の重心位置を特定するため、
図6のごとく、まず、受光波形を構成する画素毎の受光量データD(x)を積算し、64画素の画素値の総和SDを計算する。この総和SDは、
図6中の右下がりの斜線ハッチングで示す領域の面積に相当している。受光エリア263の左端の画素番号ゼロの画素から順番に各画素260の画素値を積算した積算値がSD/2に達したときの画素番号Nの画素260(黒丸で図示)の位置を、この受光波形の重心位置としている。ここで、積算値SD/2は、右上がりの斜線ハッチングで示す領域の面積に相当している。この領域は、前記総和SDの領域に包含されており、同図において、クロスハッチの領域として把握される。なお、
図6の画素毎の受光量の分布は、
図5の受光波形を模式的に表したものである。
【0035】
第2ステップでは、反射光の入射位置を表す受光波形の重心位置が、
図6の検知エリア内に属しているか否かの判断がなされる。この検知エリアは、センサユニット2を利用した三角測量の原理を根拠として、次に説明するように設定されている。
本例の洗面台15におけるセンサユニット2、鉢面150、使用者の手の位置関係は、
図7のごとく模式的に表現できる。LED光のうち検知対象である手による反射光の成分がラインセンサ261に入射する際、検知対象までの距離Hに応じてその入射位置が異なってくる。距離Hが短いほど、ラインセンサ261に入射する反射光の入射位置が同図中、上側となり、距離Hが長くなるほど下側に位置することになる。このように、ラインセンサ261に対する反射光の入射位置は、検知対象までの距離に比例しており、この距離の度合いを表す指標となり得る。受光エリア263内に設定された検知エリア(
図6)は、検知の対象となる検知距離(
図7)に対応するエリアである。上記のように計算された重心位置を入射位置として取り扱い、その重心位置が検知エリア内であるか否かの判定は、反射光を生じた検知対象までの距離が
図7の検知距離の範囲内であるか否かの判定と全く同義となっている。
【0036】
ここで、判定手段321による判定では、鉢面150による反射光が入射したときに誤判定を生じることがある。鉢面150に向けて投射されるLED光は、水平方向の拡がりが絞られたスリット光である一方、垂直方向にはある程度の拡がりを有している。そのため、凹状に湾曲している鉢面150では、
図8のごとく、反射が複数箇所で同時発生し、それぞれの反射光(A〜C)が合成されてセンサユニット2に入射する。鉢面150の表面をなす釉薬面150Yは鏡面に近く反射率が高いので、その反射光A・Bは鏡面反射光となる。一方、鉢面150に対して垂直に近くLED光が入射すると、釉薬面150Yを透過して陶器の素地面150Sにまで達してその反射光Cは拡散反射光となる。
【0037】
このように鉢面150に向けてLED光が投射されると、
図9のごとく、複数の鏡面反射光A・Bや拡散反射光Cなど同時発生した反射光が合成(重畳)されてセンサユニット2に返ってくる。単一の鏡面反射光であれば、その受光波形の形状的な判断(尖度等に関する閾値判断など)によって拡散反射光とは区別できる一方、上記のごとく複数の鏡面反射光A・Bと拡散反射光Cとが合成された反射光(以下、合成反射光という。)では、同図のごとく、その受光波形の形状的な特徴が拡散反射光に似通ってくると共に、どの反射光成分の強度が支配的かに応じて受光波形の重心位置にズレが生じる場合がある。
【0038】
鉢面150と同じ距離で生じた拡散反射光の受光波形と、
図9の合成反射光の受光波形と、を対比する
図10のごとく、合成反射光の受光波形(実線)では、その重心位置が検知エリア内にずれることがある。このような場合、判定手段321による判定では、外乱光である合成反射光を排除できず、検知対象がある旨の判定結果となる。この合成反射光の受光波形の形状は、単一の鏡面反射光よりも尖度が低くなっており、上記のごとく検知対象の拡散反射光の形状に似通っている。そのため、この合成反射光を形状的な判断によって排除することも困難である。
【0039】
前記禁止手段322は、鉢面150による合成反射光(
図9及び
図10参照。)等を外乱光と判断し、非検知対象であると判定するために設けられた手段である。
この禁止手段322による判定方法を説明するため、まず、検知距離(
図7参照)に位置する検知対象の拡散反射光による受光波形の形状について説明する。検知対象の拡散反射面を再現した試験片(基材の表面に硫酸バリウムが塗布された試験片)を、検知距離に属する30〜130mmの各距離にセットしたときに実測される受光波形は、
図11のようになる。
【0040】
距離30〜70mmの受光波形では、受光量の飽和により最大値が不明となっている一方、それ以外の受光波形は、試験片までの距離に対応する画素(ピーク画素)の受光量が最大値であって、かつ、正規分布をなす波形となっている。距離が近い受光波形ほど、ピーク画素の受光量が大きくなると共に、そのピーク画素の位置が検知エリア内で左側に位置し、距離が遠いほど、ピーク画素の受光量が小さくなると共に、そのピーク画素の位置が検知エリア内で右側に位置している。
【0041】
そして、
図11のごとく、検知エリアの外側(遠距離側)の非検知エリアの各画素では、検知距離の遠限である130mmの受光波形が同図中の最も上側に位置し、その受光量が最も大きくなっている。この非検知エリアでは、130mmの受光波形よりも上側の領域が、検知対象による拡散反射光の受光波形の受光量が存在する可能性が低い領域となっている。本例の禁止手段322は、この領域を積極的に活用し、その領域の一部に禁止エリアを設定することで、非検知対象からの反射光を排除する。
【0042】
具体的には、非検知エリアにおいて、130mmの受光波形の受光量を基準として閾値となる受光量を画素毎に決定することで、禁止エリアの下限の境界(受光量が小さい側の境界)が形成されている。各画素の閾値は、画素毎のゲインのばらつきや誤差等を吸収できるよう、基準となる130mmの受光波形をなす受光量の110%程度の値に設定している。このように設定された禁止エリアの下限境界をなす閾値は、
図11のごとく、受光エリアの左端に近くなるにつれて山の裾野のように次第に小さくなっている。また、禁止エリアの左端、すなわち検知エリア側に面する境界は、実験的に最も好ましい結果が得られた画素260の位置を設定している。本例では、禁止エリアの境界をなす画素260と、検知エリアの端の画素260と、の間隔を、ラインセンサ261の画素数の数%程度に設定している。
【0043】
さらに、本例の禁止手段322では、非検知エリアに属する5画素が特定画素として予め設定されている。禁止手段322は、判定対象の受光波形の特定画素の受光量と、禁止エリアの下限境界をなす閾値(特定画素の閾値)と、の閾値判断を実行する。禁止手段322は、特定画素の受光量の方が閾値を超えていれば、非検知対象からの外乱光と判断して、非検知対象であると判定する。一方、特定画素の受光量が閾値以下であれば、非検知対象である旨の判定は行わない。なお、この禁止手段322による
図9及び
図10の合成反射光(
図10中の実線の受光波形)の判定については後で説明する通りである。
【0044】
次に、以上のように構成された本例の人体検知センサ1による検知処理の流れについて、
図12のフローチャート図を参照しながら説明する。
電源投入の後、まず、LED光の投射に応じた反射光の受光波形を取得するため、撮像動作や撮像データ(受光波形)の読み出し等を含む受光波形取得ルーチンが実行される(S101)。
【0045】
取得された受光波形については、禁止エリア(
図11参照。)に属するか否かの第1の禁止エリア判定ルーチンが実行される(S102)。この第1の禁止エリア判定ルーチンでは、取得された受光波形をなす受光量を加工することなく、前記特定画素の受光量の絶対値を対象として閾値判断が実行される。この第1の禁止エリア判定ルーチンでは、取得された受光波形から特定画素の受光量が取得され、禁止エリアの下限境界をなす閾値との比較が実行される。いずれかの特定画素の受光量が閾値を超えている、すなわち取得された受光波形を構成するいずれかの画素の受光量が禁止エリア内に存在している場合には(S103:NO)、この受光波形を外乱光によるものとし非検知対象であると判定でき、これにより非検知判定が行われる(S118)。
【0046】
一方、第1の禁止エリア判定ルーチンにおいて、全ての特定画素の受光量が禁止エリアの閾値以下である場合には(S103:YES)、第2の禁止エリア判定ルーチンが実行される(S104)。この第2の禁止エリア判定ルーチンは、取得された受光波形の特定画素の受光量をそのまま適用するのではなく正規化を施す点で、ステップS102の第1の禁止エリア判定ルーチンとは相違している。取得された受光波形は、130mmの受光波形(
図11中の実線の受光波形)の最大受光量で正規化され、この正規化により得られた特定画素の受光量(相対値)が第2の禁止エリア判定ルーチン(S104)に適用される。
【0047】
この第2の禁止エリア判定ルーチンにより、いずれかの特定画素の受光量(相対値)が禁止エリアの閾値を超えている場合、すなわち禁止エリアに受光波形の一部が含まれている場合には(S105:NO)、その受光波形が外乱光に由来するとの判断に基づき非検知対象であると判定でき、非検知判定がなされる(S118)。
【0048】
一方、ステップS105において、全ての特定画素の受光量が禁止エリアの下限境界をなす閾値以下である場合には(S105:YES)、前記判定手段321による三角測量の原理に基づく測距判定ルーチンが実行される(S106)。ここでは、上記のごとく、受光波形の重心位置が計算され、その重心位置が検知エリア(
図6参照。)に属しているか否か、すなわち検知対象までの距離が検知距離の範囲内に位置するか否か判定される(S107)。重心位置が検知エリアに属していれば(S107:YES)、検知対象が有ると判定でき、検知判定がなされる(S108)。一方、重心位置が検知エリアに属しておらず、検知対象までの距離が検知距離の範囲外であれば(S107:NO)、非検知判定がなされる(S118)。
【0049】
図12の一連の検知処理のうち、ステップS102の第1の禁止エリア判定ルーチンは、例えば、ピーク画素は検知エリア内に属しているものの受光波形の一部が禁止エリア内に含まれている鉢面150の合成反射光(
図9及び
図10)に有効に作用する。この合成反射光の受光波形は、
図13のごとく、その一部が禁止エリアに含まれているため、上記のように禁止エリアの下限境界をなす閾値による判断によって容易に排除可能である。
【0050】
また、ステップS104の第2の禁止エリア判定ルーチンは、例えば、
図14の鏡面が共通する2種類の鏡面反射光のうち、実線の鏡面反射光に有効に作用する。実線の鏡面反射光と破線の鏡面反射光との違いは、鏡面反射面の上下方向の傾きにある。破線の鏡面反射光は、上下方向の傾きがほとんどなく直角に近い鏡面反射面によるものであり、尖度が高いという鏡面反射光の形状的な特徴を良く備えている。一方、実線の鏡面反射光は、上下方向の傾きが大きい斜めの鏡面反射面によるものであり、尖度が低く鏡面反射光の形状的な特徴が損なわれている。
【0051】
鏡面反射光の形状的な特徴を備えている破線の鏡面反射光であれば、受光波形の尖度に関する閾値判断によって拡散反射光とは区別できる。一方、実線の鏡面反射光はその形状が拡散反射光に似通っており尖度による区別が難しい。このような鏡面反射光の受光波形であっても、130mmの受光波形の最大受光量(
図11参照。)で正規化して
図15のごとくその受光波形を全体的に嵩上げすれば、受光波形の一部が禁止エリアに含まれるようになり、この受光波形を外乱光によるものと判断できる。なお、
図15の横軸xは、画素番号を示し、縦軸は、130mmの受光波形の最大受光量に対する比率を示している。
【0052】
以上のように本例の人体検知センサ1は、反射光の入射位置を利用して検知対象の有無を検知する測距判定ルーチンのほかに、受光波形が禁止エリアに含まれているか否かにより外乱光を排除する禁止エリア判定ルーチンを実行可能である。例えば、鉢面150の複数箇所で同時発生した複数の反射光が重畳した合成反射光は、入射位置が検知エリア内にずれて位置することがあって測距判定ルーチンでは排除できない場合がある一方、前記禁止エリア判定ルーチンによれば、このような合成反射光を精度高く検知でき非検知対象として排除できる。
【0053】
このように、本例の人体検知センサ1は、特に、鉢面150による反射光による誤検知が抑制されており、検知性能が向上されたセンサである。そして、この人体検知センサ1を備えた水栓16は、誤作動が少ない優れた製品となっている。
【0054】
なお、本例では、第1及び第2の禁止エリア判定ルーチンを実行している。第1の禁止エリア判定ルーチンは、反射光の受光波形をなす受光量をそのまま利用する判定ルーチンである。一方、第2の禁止エリア判定ルーチンは、反射光の受光波形をなす受光量を正規化して利用する判定ルーチンである。第1及び第2の禁止エリア判定ルーチンを両方とも実行することは、本発明の必須の要件ではなく、いずれか一方を省略しても良い。
本例の禁止エリア判定ルーチンでは、受光波形の取得を1回ずつ実行している。受光波形の取得を複数回実行し、各受光波形について禁止エリア判定ルーチンを適用することも良い。
【0055】
本例では、非検知エリアにおける特定画素として、5つの画素を選択的に設定している。特定画素の数は、本例の5画素に限定されない。5画素よりも少なくても良いし、禁止エリアを形成する全ての画素を特定画素に設定しても良い。
本例では、受光波形を正規化する際、受光波形全体を正規化(
図15参照。)しているが、特定画素の受光量のみを正規化しても良い。また、本例では、
図11の130mmの受光波形の最大受光量で正規化しているが、受光量の総和で正規化することも良い。
【0056】
本例では、禁止エリアを設定するに当たって、実測された受光波形(
図11)を利用したが、シミュレーションのみによって禁止エリアを設定しても良く、実験とシミュレーションとを併用して禁止エリアを設定しても良い。シミュレーションの場合、反射率や表面粗さ等に基づいて受光波形の最大受光量等を決定するのが良い。
【0057】
本例では、反射光の入射位置を特定するに当たって、受光波形の重心位置を求めている。重心位置に代えて、受光波形のピークの位置を入射位置として特定しても良い。さらに、本例では、簡易的な計算により重心位置を算出しているが、計算処理能力に余裕があれば数学的に厳密に重心位置を算出することも良い。
【0058】
なお、本例は、洗面台15の水栓16に人体検知センサ1を適用した例であるが、キッチン用の水栓であっても良い。さらに、自動洗浄機能付きの小用便器の自動給水装置のセンサとして、本例の人体検知センサ1を適用することも可能である。さらには、手かざし操作や人体に反応して自動点灯する照明や自動扉等、各種の自動装置に対して、本例の人体検知センサ1を適用することもできる。
【0059】
なお、本例では、センサユニット2と制御ユニット3とを別体で構成している。これに代えて、センサユニット2と制御ユニット3とを一体的に構成し、水栓16に収容することも良い。
また、本例の人体検知センサ1は、給水制御部33を含んでいるが、給水制御部33を別体で構成することもできる。
【0060】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形あるいは変更した技術を包含している。