(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909178
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】コンクリートのひび割れ補修用注入材、その製造方法、及びそれを用いた注入工法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20160412BHJP
C04B 41/68 20060101ALI20160412BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20160412BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20160412BHJP
C04B 24/20 20060101ALI20160412BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20160412BHJP
C04B 28/18 20060101ALI20160412BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
E04G23/02 B
C04B41/68
E01D22/00 Z
C04B18/14 Z
C04B24/20
C04B24/24 A
C04B28/18
C09K3/10 Q
C09K3/10 Z
【請求項の数】18
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-505761(P2012-505761)
(86)(22)【出願日】2011年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2011056528
(87)【国際公開番号】WO2011115245
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-63431(P2010-63431)
(32)【優先日】2010年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】石田 秀朗
(72)【発明者】
【氏名】八木 徹
(72)【発明者】
【氏名】室川 正範
(72)【発明者】
【氏名】小澤 崇志
【審査官】
油原 博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−299291(JP,A)
【文献】
特開2007−217453(JP,A)
【文献】
特開2007−131484(JP,A)
【文献】
特開2006−241316(JP,A)
【文献】
特開2009−062444(JP,A)
【文献】
特開2007−269536(JP,A)
【文献】
特開平08−041455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
C04B 22/06、24/24、28/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ、分散剤、ポリマーディスパージョン、及び水を含有する、湿式分散処理したA材と、平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する、湿式粉砕分散処理したB材とを混合してなるコンクリートのひび割れ補修用注入材であって、前記微粒子シリカの濃度が40〜70%、前記ポリマーディスパージョンが、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はスチレンブタジエン共重合体からなり、前記微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部、前記カルシウム化合物が、濃度30〜60%で、前記微粒子シリカ100質量部に対して、50〜100質量部であることを特徴とするコンクリートのひび割れ補修用注入材。
【請求項2】
前記微粒子シリカおよび前記カルシウム化合物の平均粒径が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材。
【請求項3】
前記微粒子シリカが、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカであることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材。
【請求項4】
前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材。
【請求項5】
前記A材中の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材。
【請求項6】
前記B材中の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、固形分換算で1〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材。
【請求項7】
さらに、硬化時間調整剤を、前記カルシウム化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材。
【請求項8】
平均粒径が1.0μm以下で、濃度が40〜70%の微粒子シリカ、前記微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部の、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はスチレンブタジエン共重合体からなるポリマーディスパージョン、及び水を含有する懸濁液を調製し、この懸濁液に、分散剤、さらに、必要に応じて水を混合して湿式分散処理したA材を製造し、一方、平均粒径が1.0μm以下で、濃度が30〜60%で、前記微粒子シリカ100質量部に対して、50〜100質量部のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する懸濁液を調製し、この懸濁液に、さらに、必要に応じて水を混合して湿式粉砕分散処理したB材を製造し、前記A材と前記B材とを混合することを特徴とするコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項9】
前記微粒子シリカが、金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造したものであることを特徴とする請求項8に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項10】
前記微粒子シリカおよび前記カルシウム化合物の平均粒径が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径であることを特徴とする請求項8又は9に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項11】
前記微粒子シリカが、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカであることを特徴とする請求項8〜10のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項12】
前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであることを特徴とする請求項8〜11のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項13】
前記A材及び/又はB材を、高圧水を使用した粉砕機を用いて湿式分散処理及び/又は湿式粉砕分散処理したことを特徴とする請求項8〜12のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項14】
前記A材中の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜30質量部であることを特徴とする請求項8〜13のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項15】
前記B材中の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、固形分換算で1〜30質量部であることを特徴とする請求項8〜14のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項16】
さらに、硬化時間調整剤を、前記カルシウム化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなることを特徴とする請求項8〜15のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載のコンクリートのひび割れ補修用注入材を注入してなることを特徴とする注入工法。
【請求項18】
前記A材と前記B材とを、1ショット方式、1.5ショット方式、及び2ショット方式のいずれかの方式により混合し、コンクリートのひび割れに注入することを特徴とする請求項17に記載の注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートのひび割れ補修用注入材、その製造方法、及びそれを用いた注入工法、特に、100μm以下の微細なコンクリートのひび割れに対しても優れた浸透性を有し、高い止水効果や耐久性能が得られるコンクリートのひび割れ補修用注入材、その製造方法、及びそれを用いた注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、硬化時の温度収縮、硬化後の温度変化、及び乾燥等により、ひび割れが発生する場合が多い。そして、外観上問題にはならない100μm以下の微細なひび割れであっても、そのコンクリートのひび割れから水が侵入したり、封じ込めたガスが漏れたりするため、100μm以下の微細なコンクリートのひび割れを補修する注入材が求められている。
【0003】
従来、コンクリートのひび割れへの高浸透性の注入材として、水ガラスを原料とした溶液型シリカ注入材が知られている。例えば、水ガラス系アルカリ性注入材、酸性シリカゾルを主成分とした注入材、水ガラスを陽イオン交換樹脂又はイオン交換膜で処理して得られる活性シリカを主成分とした注入材、及び活性シリカを濃縮増粒してpHが9〜10の弱アルカリ性で安定化したシリカコロイド注入材等が用いられてきた(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかしながら、高水圧下では、上述の溶液型シリカ注入材は、注入材自体の強度(ホモゲル強度)が0.01N/mm
2以下と小さいため、コンクリートのひび割れに注入した溶液型シリカ注入材が水圧で押し出されてしまい、止水性や長期耐久性が低減する課題があった。
【0005】
溶液型シリカ注入材に代えて、超微粒子セメントが用いられる場合があるが、微粒子セメントの平均粒子径は5μm程度と大きいため、100μm以下のコンクリートのひび割れに対しては浸透性が悪く、より優れた浸透性、止水効果、及び耐久性を持つ注入材が求められている(特許文献3)。
【0006】
また、微粒子シリカを主体とする注入材が提案された(特許文献4)。
特許文献4には、A材である微粒子シリカを主体とする注入材を地盤に注入することが記載されている。
しかしながら、微粒子シリカは、コンクリートのひび割れに注入する場合、コンクリート中のアルカリと瞬時に反応する場合があり、コンクリートのひび割れへの浸透性を確保できない場合がある。そして、特許文献4には、コンクリートのひび割れに注入する場合、コンクリート中のアルカリと瞬時に反応することなく、コンクリートのひび割れへの浸透性を確保できることについての記載はない。
【0007】
そこで、微粒子シリカ、アルカリ性の硬化材、水、及びカルボン酸又はその塩からなる地盤注入材が提案された(特許文献5)。
特許文献5の実施例に記載のとおり、上記地盤注入材は、硬化時間が極めて長く、材齢3日においても流動性が無くなる程度であり、圧縮強度を測定することができないくらい小さい。そして、特許文献5には、本願発明のように、コンクリートのひび割れに注入しても、注入材が水圧で押し出されることなく、コンクリートのひび割れへの浸透性や止水性が低減しないことについての記載はない。
【0008】
また、ポゾラン物質と水を含有するA材と、カルシウム含有物質と水を含有するB材を別々に注入する注入材の施工方法が提案されている(特許文献6)。
特許文献6には、「予めポゾラン物質と水を含有するA材と、予めカルシウム含有物質と水を含有するB材を、別々に注入する注入材の施工方法。」(請求項1)と、「A材が予め分散剤を含有する請求項1記載の注入材の施工方法。」(請求項2)の発明が記載され、「又、分散性を高めるためB材に分散剤を併用することも可能である。」(段落[0014])と記載されているが、カルシウム含有物質と水を含有するB材に分散剤を併用することについては具体的な記載がなく、A材とB材を同時注入した場合は、注入材が直ちに硬化してしまい、注入ができない(段落[0022])という課題があった。また、ポゾラン物質として、「平均粒径1μm以下に粉砕した原料珪石を高温の火炎中で溶融し、球状にした球状シリカ」を使用することが示されているが、A材中に分散した球状シリカの平均粒径が1μm以下であることは示されていない。カルシウム含有物質を1μm以下に粉砕し、分散させることも示されていない。即ち、特許文献6の実施例2では、分散剤をA材に併用しているが、B材には併用していない。このまま、A材とB材を混合すると瞬結するため、A材とB材は別々に注入する必要があり、注入材の均一性を保つことができなかった。また、特許文献6には、カルシウム含有物質を1μm以下に粉砕し、分散させることも示されていない。
【0009】
また、特許文献7には、シリカ、ライム、及び分散剤の記載はあるが、シリカを含有する懸濁液、ライムを含有する懸濁液のそれぞれに分散剤を含有することの記載は無い。
【0010】
特許文献8には、「粉体の超微粒子材料に水と分散剤とを添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌した第1の高分散化低粘性超微粒子スラリーと、第1の高分散化低粘性超微粒子スラリーの微粒子材料と異なる粉体の超微粒子材料に水と分散剤とを添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌した第2の高分散化低粘性超微粒子スラリーとを混合し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌することを特徴とする高分散化低粘性超微粒子スラリーの製造方法。」(請求項3)の発明が記載され、「超微粒子材料が、シリカフュームおよび/または消石灰であること」(請求項6、段落[0034]、[0068])が記載され、レーザー回折/散乱式粒度分析装置で測定したシリカライム(消石灰/シリカフューム=1)の一次粒子平均粒径が0.10μmであること(段落[0068]、[0072]表1)、浸透率は平均凝集粒子径が1μm程度以下で100%になること([0070])も記載されている。
しかしながら、特許文献8に記載の発明は、平均粒径を1μm以下とするために、上記のように、超微粒子材料(シリカフュームおよび消石灰)の解砕、攪拌、分散剤の添加を繰り返し行うという複雑な工程を経なければならないという問題があり、また、一次粒子に近い高分散化低粘性超微粒子グラウトを作製するためには、解砕方式として、ボール(ビーズ)を媒体にしてスラリーをミキサーで撹拌するという方式を適用する必要があった(段落[0021])。そして、レーザー回折/散乱式粒度分析装置を用いて測定する場合には、通常前処理として超音波分散処理を行うものであるから、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折/散乱式粒度分析装置を用いて測定した場合の平均粒径は明らかではない。また、超微粒子材料として、シリカフューム以外の微細シリカ粉末についての記載はなく、高分散化低粘性超微粒子スラリーを注入材とした場合の耐久性についても記載されていない。
【0011】
また、特許文献9や10には、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が20〜70%、又は5〜60%であるスラリーを火炎中に少なくとも10m/秒以上、または少なくとも20m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微細シリカ粉末(微細球状シリカ)が示されているが、これらの微細球状シリカを注入材として使用することは示されていない。
【0012】
非特許文献1には、超微粒子球状シリカおよび水を含有するA剤と、超微粒子水酸化カルシウム、分散剤および水を含有するB剤とを混合したものからなるグラウト材料(注入材)が記載されているが、A剤に分散剤を含有させることについては記載がなく、超微粒子水酸化カルシウムの添加量を多くすると流動性が低下するため、A剤とB剤の配合割合が限定されるという問題があった。また、超微粒子球状シリカと超微粒子水酸化カルシウムの粒度はそれぞれ概ね1μm以下であることが示されているが、粒度分布を測定する場合、通常前処理として超音波分散処理を行うものであるから、超音波分散処理を行うことなく粒度分布を測定した場合の平均粒径は明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3205900号公報
【特許文献2】特開2004−035584号公報
【特許文献3】特開2006−226014号公報
【特許文献4】特開2007−217453号公報
【特許文献5】特開2008−120892号公報
【特許文献6】特開2009−299291号公報
【特許文献7】国際公開第2005/123623号
【特許文献8】特開平08−041455号公報
【特許文献9】特開2001−354409号公報
【特許文献10】特開2002−020113号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】土木学会第64回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM)平成21年8月3日、第145頁〜第146頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、100μm以下のコンクリートのひび割れに対しても、高い浸透性が得られ、優れた止水効果や耐久性を示すコンクリートのひび割れ補修用注入材、その製造方法、及びそれを用いた注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ、分散剤、ポリマーディスパージョン、及び水を含有する、湿式分散処理したA材と、平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する、湿式粉砕分散処理したB材とを混合してなるコンクリートのひび割れ補修用注入材であって、前記微粒子シリカの濃度が40〜70%、前記ポリマーディスパージョンが、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はスチレンブタジエン共重合体からなり、前記微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部、前記カルシウム化合物が、濃度30〜60%で、前記微粒子シリカ100質量部に対して、50〜100質量部であることを特徴とするコンクリートのひび割れ補修用注入材である。
(
2)前記微粒子シリカおよび前記カルシウム化合物の平均粒径が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径であることを特徴とする前記(
1)のコンクリートのひび割れ補修用注入材である。
(
3)前記微粒子シリカが、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカであることを特徴とする前記(1)
又は(2)のコンクリートのひび割れ補修用注入材である。
(
4)前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであることを特徴とする前記(1)〜(
3)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材である。
(
5)前記A材中の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜30質量部であることを特徴とする前記(1)〜(
4)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材である。
(
6)前記B材中の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、固形分換算で1〜30質量部であることを特徴とする前記(1)〜(
5)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材である。
(
7)さらに、硬化時間調整剤を、前記カルシウム化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなることを特徴とする前記(1)〜(
6)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材である。
(
8)平均粒径が1.0μm以下で、濃度が40〜70%の微粒子シリカ、前記微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部の、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はスチレンブタジエン共重合体からなるポリマーディスパージョン、及び水を含有する懸濁液を調製し、この懸濁液に、分散剤、さらに、必要に応じて水を混合して湿式分散処理したA材を製造し、一方、平均粒径が1.0μm以下で、濃度が30〜60%で、前記微粒子シリカ100質量部に対して、50〜100質量部のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する懸濁液を調製し、この懸濁液に、さらに、必要に応じて水を混合して湿式粉砕分散処理したB材を製造し、前記A材と前記B材とを混合することを特徴とするコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
9)前記微粒子シリカが、金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造したものであることを特徴とする前記(
8)のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
10)前記微粒子シリカおよび前記カルシウム化合物の平均粒径が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径であることを特徴とする前記(
8)又は(
9)のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
11)前記微粒子シリカが、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカであることを特徴とする前記(
8)〜(
10)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
12)前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであることを特徴とする前記(
8)〜(
11)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
13)前記A材及び/又はB材を、高圧水を使用した粉砕機を用いて湿式分散処理及び/又は湿式粉砕分散処理したことを特徴とする前記(
8)〜(
12)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
14)前記A材中の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、固形分換算で0.1〜30質量部であることを特徴とする前記(
8)〜(
13)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
15)前記B材中の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、固形分換算で1〜30質量部であることを特徴とする前記(
8)〜(
14)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
16)さらに、硬化時間調整剤を、前記カルシウム化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなることを特徴とする前記(
8)〜(
15)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材の製造方法である。
(
17)前記(1)〜(
7)のうちのいずれか1項のコンクリートのひび割れ補修用注入材を注入してなることを特徴とする注入工法である。
(
18)前記A材と前記B材とを、1ショット方式、1.5ショット方式、及び2ショット方式のいずれかの方式により混合し、コンクリートのひび割れに注入することを特徴とする前記(
17)の注入工法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、100μm以下の微細なひび割れを有するコンクリートにおいて、コンクリートのひび割れへの高い浸透性が得られ、優れた止水効果や優れた耐久性を有するコンクリートのひび割れ補修用注入材、その製造方法、及びそれを用いた注入工法を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
本発明に記載する部や%は、記載が無い限りは、質量部、質量%を意味する。
【0019】
本発明においては、微粒子シリカとして、金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ粉末を使用する。この微粒子球状シリカは、凝集(ストラクチャー)が少なく、コンクリートのひび割れへの浸透性が大きい点で好ましい。
【0020】
本発明において、微粒子シリカの粒度は、所望の効果が得られれば特に限定されるものではないが、コンクリートのひび割れへの浸透性や圧縮強度向上の点で、平均粒径1.0μm以下とするが、0.05〜0.8μmが好ましい。例えば、可燃ガスと助燃ガスとによって形成される高温火炎中に、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が5〜70%であるスラリーを、少なくとも10m/秒以上の突出速度で噴射して溶融球状化することにより、球状シリカ粉末を製造する。さらに、分級処理によって、流動性の助長効果に優れた平均粒子径を有する微粒子球状シリカ粉末を捕集することができる。例えば、特許文献9〜10の方法によって製造することができる。
【0021】
また、かかる微粒子シリカは、浸透性、圧縮強度向上の点で、球形度の平均値は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上が特に好ましい。
【0022】
球形度は、走査型電子顕微鏡(日本電子社製「JSM−T200型」)と画像解析装置(日本アビオニクス社製)を用いて測定することができる。例えば、先ず、粉末のSEM写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/B×100(%)として表示できる。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πr
2であるから、B=π×(PM/2π)
2となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B×100(%)=A×4π/(PM)
2×100(%)として算出することができるので、任意の粒子200個の平均値を粉末の球形度として求めることができる。
【0023】
かかる微粒子シリカとしては、例えば、電気化学工業社製商品名「SFP−20M」、「SFP−30M」や、アドマッテック社製商品名「アドマファイン」などが挙げられる。
【0024】
本発明のカルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、及び石膏等の無機物質、ギ酸カルシウムなどの有機酸のカルシウム塩等が挙げられる。これらの中では、圧縮強度向上の点で水酸化カルシウムが好ましい。
カルシウム化合物が水酸化カルシウムの場合は、塩化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの可溶性アルカリ塩とを、それぞれ溶解し混合する、いわゆるビルドアップ法によって製造される微細な水酸化カルシウムも使用することができる。
【0025】
本発明において、カルシウム化合物は、コンクリートのひび割れへの浸透性の点や圧縮強度向上の点で、平均粒径1.0μm以下に粉砕するが、平均粒径0.05〜0.8μmに粉砕することが好ましい。
【0026】
本発明では、微粒子シリカおよびカルシウム化合物をそれぞれ水に分散し、それぞれA材およびB材を製造する。
【0027】
本発明のA材中の微粒子シリカの濃度は
40〜70%であり、20〜60%
が好ましい。微粒子シリカの濃度が80%を超えると高粘度となり、コンクリートのひび割れへの浸透性が低下する場合がある。また、本発明では、あらかじめ高濃度の微粒子シリカスラリーを製造し、施工時に水により希釈して使用することも可能である。また、高濃度で浸透しない場合は、10%以下の低濃度で長時間注入継続することで小さなコンクリートのひび割れに確実に注入することができ、高い改良効果を得ることができる。
【0028】
本発明のB材中のカルシウム化合物の濃度は
30〜50%であり、10〜40%
が好ましい。カルシウム化合物の濃度が60%を超えると高粘度となりコンクリートのひび割れへの浸透性が低下する場合がある。また、本発明では、あらかじめ高濃度のカルシウム化合物スラリーを製造し、施工時に水により希釈して使用することも可能である。
【0029】
本発明のB材中のカルシウム化合物の使用量は、微粒子シリカ100部に対し
て、50〜100部
である。カルシウム化合物の量が20部未満では圧縮強度が低下する場合があり、200部を超えるとコンクリートのひび割れへの浸透性が低下する場合がある。また、本発明では、あらかじめ高濃度のカルシウム化合物スラリーを製造し、施工時に水により希釈して使用することも可能である。
【0030】
本発明では、A材、B材それぞれに、分散剤を併用することが必要である。A材のみ、あるいは、B材のみに、分散剤を添加すると他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、好ましくない。ただし、注入状況によっては分散剤の使用量を低下させることでゲルタイムを短くし、又は瞬結とし、リーク防止や限定注入として活用することができる。
分散剤をA材とB材の両方に使用すると良好な浸透性が得られる理由は不明だが、分散剤が微粒子シリカやカルシウム化合物の表面で反応し、微粒子シリカとカルシウム化合物が接触しても直ちに水和反応しないよう、硬化遅延しているためと考えられる。
【0031】
本発明で使用する分散剤としては、ナフタレンスルホン酸系分散剤、リグニンスルホン酸系分散剤、メラミンスルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、及びポリエーテル系分散剤が使用可能であるが、これらのうち、ナフタレンスルホン酸系分散剤又はメラミンスルホン酸系分散剤がコンクリートのひび割れへの浸透性、圧縮強度向上の点で好ましい。
【0032】
A材の分散剤の使用量は、A材の微粒子シリカ100部に対して、固形分換算で0.1〜30部が好ましく、1〜10部がより好ましい。0.1部未満だと他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、コンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合があり、30部を超えると圧縮強度が低い場合がある。
金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し、燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子シリカは分散性が良く、最初に分散剤を添加しなくても水に分散させることができるから、後から分散剤を添加しても良い。この水への分散性は、シラノール基濃度が関係していると推定される。
【0033】
B材の分散剤の使用量は、カルシウム化合物100部に対して、固形分換算で1〜30部が好ましく、5〜20部がより好ましい。1部未満だと、他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、コンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合があり、30部を超えると圧縮強度が低い場合がある。
【0034】
コンクリートのひび割れへの浸透性を向上させるために、微粒子シリカおよびカルシウム化合物は、各種湿式粉砕機で分散処理又は粉砕分散処理することが好ましい。なお、ここで言う平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布計(例えば、堀場製作所社製「LA−920型」)を用い、湿式分散処理又は湿式粉砕分散処理した懸濁液を、通常、前処理として行う超音波分散処理を行わずに、水媒中で測定した値である。超音波分散処理を行わずに測定した微粒子シリカおよびカルシウム化合物の平均粒径が1.0μm以下である場合、微粒子シリカは凝集しにくい。そのため、本発明の注入材は、コンクリートのひび割れへの浸透性が向上する。湿式分散処理又は湿式粉砕分散処理した懸濁液とは、例えば、微粒子シリカを湿式分散処理したA材、水酸化カルシウムを湿式粉砕分散処理したB材をいう。
【0035】
A材を湿式分散処理およびB材を湿式粉砕分散処理する場合に使用する湿式粉砕機は、高速攪拌機、媒体攪拌式ミル、及び高圧水を使用した粉砕機等のいずれでも良く、単独又は併用して選択するものであり、これらの湿式粉砕機のうち、特に、微粒子シリカの分散性がよくなり、また、カルシウム化合物の粉砕後の形状が立方体形状になりコンクリートのひび割れへの浸透性が優れる点で、高圧水を使用した粉砕機が好ましい。
【0036】
高速攪拌機としては、単純に攪拌子が高速で回転するだけではなく、いわゆる、乱流状態となり、粒子に剪断力が働くような構造が好ましい。例えば、太平洋機工社製商品名「シャープフローミル」、特殊機化工業社製商品名「ホモミクサー」、「ホモミックラインミル」、及び「ホモディスパー」などがそれに類する。また、媒体攪拌式ミルは、1mm以下のビーズを用いて粉砕するものが好ましい。1mm以下のビーズを用いて粉砕する媒体攪拌式ミルとしては、アシザワファインテック社製商品名「スターミル」、三井鉱山社製商品名「SC−ミル」、及び寿工業社製商品名「デュアルアペックスミル」などが挙げられる。また、高圧水を使用した粉砕機は、スラリーに50〜400MPaの高圧を加え、このスラリーを二つの流路に分岐させ、再度合流する部分で対向衝突させて粉砕するものである。このような粉砕機としては、スギノマシン社製商品名「スターバースト」や「アルティマイザー」、ナノマイザー社製商品名「ナノマイザー」、及びマイクロフルイディスク社製商品名「マイクロフルイタイザー」などが挙げられる。これらの中では、特に、微粒子シリカの分散性がよくなり、また、カルシウム化合物の粉砕後の形状が立方体形状になりコンクリートのひび割れへの浸透性が優れる点で「スターバースト」が好ましい。
【0037】
さらに、適度な可塑性を保持し注入材の逸流を防止することや、硬化後の注入材の圧縮強度低下を防止する点から、ポリマーディスパージョンを
使用する。ポリマーディスパージョンとして
は、エチレン−酢酸ビニル共重合体
やスチレンブタジエン共重合体
を使用する。これらのうち、少量で効果のある点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
ポリマーディスパージョンは、通常、A材に配合するが、B材に併用することにより、カルシウム化合物と直ちに反応して増粘するため、所定の粘性を必要とする場合は、B材に配合することも可能である。
【0038】
ポリマーディスパージョンの使用量は、A材の微粒子シリカ100部に対して、固形分換算
で0.1〜10部
であり、0.5〜3部
が好ましい。添加量が10部を超えると粘性が高くなり、コンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合がある。
【0039】
本発明の注入材は、硬化時間を調整するために、硬化時間調整剤を含有することができる。
硬化時間調整剤としては特に限定されるものではないが、例えば、公知のアルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、及びアルカリ金属燐酸塩等の無機塩や、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、及び乳酸等の有機酸又はその塩から選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。これらの中では、圧縮強度向上の点から、アルカリ金属硫酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸塩が好ましく、アルカリ金属硫酸塩がより好ましい。アルカリ金属硫酸塩としては、硫酸ナトリウムや硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0040】
硬化時間調整剤の使用量は、B材のカルシウム化合物100部に対して、30部以下が好ましく、0.1〜30部がより好ましく、1〜10部が最も好ましい。硬化時間調整剤が30部を超えるとコンクリートのひび割れへの浸透性が悪い場合がある。
【0041】
A材とB材の混合比率は、5:1〜1:5が好ましく、2:1〜1:2がより好ましい。
【0042】
本発明の注入材をコンクリートのひび割れに注入するにあたっては、A材とB材とを混合する方法として、二重管を用いて先端部でA材とB材を合流混合して注入する、いわゆる2ショット方式、A材とB材の両液を注入ポンプから注入管に至る途中で合流混合して注入する、いわゆる1.5ショット方式、さらに、ミキサーなどの調合槽でA材又はB材を調合した後、他液を加えて混合し、1液としてから注入する、いわゆる1ショット方式のいずれの方式でも行うことができる。
【0043】
本発明の注入工法は、上記注入材をコンクリートのひび割れに注入することを特徴とするものである。本発明の注入工法は、例えば、100μm以下の微細なコンクリートのひび割れへの浸透性に優れ、かつ、高浸透水圧が作用しても注入材が押し出されることなく長期止水性を維持することができる注入工法にかかわるものであって、上記効果を得られるものである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実験例によって説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。実験例は特記しない限り、20℃で行った。
【0045】
実験例1
粒径、種類の異なる微粒子シリカ100部、分散剤αを固形分換算で5部、及び水100部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し、さらにポリマーディスパージョンを加え、A材(A材中の微粒子シリカS1〜S7)を作製した。一方、市販の水酸化カルシウム(平均粒径9.5μm)を100部、分散剤αを固形分換算で10部、及び水150部を混合し、同様にスギノマシン社製商品名「スターバースト」で粉砕時間を変えて湿式粉砕分散処理し、さらに、硬化時間調整剤を、B材のカルシウム化合物100部に対して5部加えて、B材(B材中のカルシウム化合物C1〜C6)を作製した。スターバーストのスラリーに加えた圧力は全て245MPaとした。カルシウム化合物の使用量が、微粒子シリカ100部に対して、75部になるように、A材とB材を混合し、注入材を作製した。注入材の硬化時間、注入材の圧縮強度、及びコンクリートのひび割れへの浸透性を確認するための浸透幅を測定した。配合および結果を表1に示す。
微粒子シリカは、金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に2〜150m/秒の突出速度で噴射し燃焼、酸化させて熔融球状化する方法により製造した。
【0046】
<使用材料>
微粒子シリカS1:湿式分散処理後の平均粒径0.05μm、球形度97%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に150m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS2:湿式分散処理後の平均粒径0.1μm、球形度97%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に120m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS3:湿式分散処理後の平均粒径0.8μm、球形度97%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に100m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS4:湿式分散処理後の平均粒径1.0μm、球形度96%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に50m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS5:湿式分散処理後の平均粒径3.5μm、球形度95%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に2m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS6:フェロシリコン副生シリカフューム、湿式分散処理後の平均粒径20μm、参考値、超音波分散処理した場合の平均粒径5.5μm、球形度86%
微粒子シリカS7:シリカゾル、湿式分散処理後の平均粒径10.1μm、参考値、超音波分散処理した場合の平均粒径は9.8μm、球形度75%
カルシウム化合物C1:湿式粉砕分散処理後の平均粒径0.05μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C2:湿式粉砕分散処理後の平均粒径0.1μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C3:湿式粉砕分散処理後の平均粒径0.8μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C4:湿式粉砕分散処理後の平均粒径1.0μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C5:湿式粉砕分散処理後の平均粒径3.5μm、参考値、超音波処理した場合の平均粒径は0.5μm、水酸化カルシウム
分散剤α :ナフタレンスルホン酸系分散剤、市販品、液状、固形分濃度40%
ポリマーディスパージョンP1:エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるポリマーディスパージョン、市販品、固形分濃度46%
ポリマーディスパージョンP2:スチレンブタジエン共重合体からなるポリマーディスパージョン、市販品、固形分濃度45%
硬化時間調整剤:硫酸ナトリウム、市販品
水 :水道水
【0047】
<評価方法>
平均粒径 :レーザー回折式粒度分布計、堀場製作所社製商品名「LA−920型」を用いた。A材およびB材を、超音波分散処理を行わずに、水媒中で測定した。
硬化時間 :注入材をプラスチック容器に入れてから、傾倒しても流動性がなくなるまでの時間を硬化時間とした。hrは(時間)、minは(分)。
圧縮強度 :4×4×16cmの供試体を作製し、28日間20℃水中養生後、3日間20℃−相対湿度80%下で乾燥させ、注入材の圧縮強度を測定した。
浸透幅 :浸透性試験、直径11mmの鉄筋を中心に配置した10×10×40cmのコンクリート供試体に曲げ荷重を加えて100μm以下のひび割れを作製し、注入材を注入した。注入材が硬化後にコンクリートを切断し、実体顕微鏡にてコンクリートのひび割れへの浸透状況を確認した。注入が確認できるひびわれ幅の最小幅を浸透幅とした。小さい数値ほどコンクリートのひび割れへの浸透性が良好である。
【0048】
【表1】
【0049】
特定の微粒子シリカ、特定のカルシウム化合物を用いることにより、微細なコンクリートのひび割れへの浸透性と圧縮強度発現性に優れることがわかる。
さらに、ポリマーディスパージョンの併用により、乾燥を受けても注入材の圧縮強度が高いことがわかる。
【0050】
実験例2
微粒子シリカS3 100部、分散剤αを固形分換算で5部、及び水100部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し、さらに、微粒子シリカS3 100部に対して3部のポリマーディスパージョンP1を加え、A材を作製した。一方、カルシウム化合物C3 100部、分散剤αを固形分換算で10部、及び水150部を混合し、同様にスギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式粉砕分散処理し、さらに、B材のカルシウム化合物C3 100部に対して、表2に示す硬化時間調整剤を加えて、B材を作製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0051】
【表2】
【0052】
硬化時間調整剤を併用することにより、硬化時間が調整できることがわかる。
【0053】
実験例3
微粒子シリカS3 100部、固形分換算で表3に示す分散剤、水100部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し、さらに、微粒子シリカS3 100部に対して3部のポリマーディスパージョンP1を加え、A材を作製した。一方、カルシウム化合物C3 100部、固形分換算で表3に示す分散剤、及び水150部を混合し、同様にスギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式粉砕分散処理し、さらに、B材のカルシウム化合物C3 100部に対して、硬化時間調整剤5部を加えて、B材を作製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0054】
<使用材料>
分散剤β :メラミンスルホン酸系分散剤、市販品、液状、固形分濃度40%
【0055】
【表3】
【0056】
A材、B材に分散剤を併用することにより、浸透性が向上することがわかり、分散剤量に最適値があることがわかる。
【0057】
実験例4
微粒子シリカS3 100部、分散剤αを固形分換算で5部、及び水100部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し、さらに、微粒子シリカS3 100部に対して3部のポリマーディスパージョンP1を加え、実験例1と同様にA材を作製した。一方、カルシウム化合物C3 100部、固形分換算で10部の分散剤α、及び水150部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式粉砕分散処理し、さらに、B材のカルシウム化合物C3 100部に対して、硬化時間調整剤5部を加え、実験例1と同様にB材を作製した。作製したA材とB材を、微粒子シリカS3 100部に対して、カルシウム化合物の使用量が、表4に示すように、混合し、注入材を作製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0058】
【表4】
【0059】
圧縮強度において、微粒子シリカに対するカルシウム化合物に最適値があることがわかる。
【0060】
実験例5
微粒子シリカS3 100部、分散剤αを固形分換算で5部、及び表5に示す水を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し、さらに、微粒子シリカS3 100部に対して3部のポリマーディスパージョンP1を加え、実験例1と同様にA材を作製した。一方、市販の水酸化カルシウム(平均粒径9.5μm)を100部、分散剤αを固形分換算で10部、及び表5に示す水を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式粉砕分散処理し、さらに、B材のカルシウム化合物C3 100部に対して、硬化時間調整剤5部を加え、実験例1と同様にB材を作製した。作製したA材とB材を、微粒子シリカS3 100部に対して、カルシウム化合物の使用量が、75部になるように混合し、注入材を作製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0061】
【表5】
【0062】
A材、B材の濃度を変えることにより、硬化時間、圧縮強度、及び浸透幅が調整できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のコンクリートのひび割れ補修用注入材は、例えば、下記用途に使用される。
【0064】
100μm以下の微細なコンクリートのひび割れに対しても優れた浸透性を有し、高い止水効果や耐久性能が得られるコンクリートのひび割れ補修用注入材であって、あらゆるコンクリート構造物に適用可能である。
さらに、本発明の注入工法は、コンクリートのみならず、モルタルや岩盤等の微細なひび割れなどにも適用できる。