特許第5909181号(P5909181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5909181両親媒性エステルによる疎水性液体の増粘方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909181
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】両親媒性エステルによる疎水性液体の増粘方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20160412BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 47/44 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160412BHJP
   B01D 17/05 20060101ALI20160412BHJP
   B01F 17/56 20060101ALI20160412BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C09K3/00 103H
   A61K9/48
   A61K31/522
   A61K47/44
   A61K47/10
   B01D17/05 501H
   B01F17/56
   B01J13/00 A
   C09K3/00 103M
【請求項の数】26
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-523040(P2012-523040)
(86)(22)【出願日】2010年7月29日
(65)【公表番号】特表2013-501097(P2013-501097A)
(43)【公表日】2013年1月10日
(86)【国際出願番号】US2010043705
(87)【国際公開番号】WO2011014653
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年7月29日
(31)【優先権主張番号】61/229,553
(32)【優先日】2009年7月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507248826
【氏名又は名称】リサーチ ファウンデイション オブ ザ シティー ユニヴァーシティ オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ジャダブ スワプニル アール
(72)【発明者】
【氏名】ヴェミュラ プラヴィーン クマール
【審査官】 中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−299890(JP,A)
【文献】 特表2009−500399(JP,A)
【文献】 特表2003−510164(JP,A)
【文献】 特開平09−328673(JP,A)
【文献】 特開2000−119687(JP,A)
【文献】 Chemical Communications,2001年,p.185-186
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,1990年,vol.112,p.1768-1776
【文献】 J. Org. Chem,1999年,vol.64,p.412-426
【文献】 Accounts of Chemical Research,2008年,vol.41, no.6,p.769-782
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
C11B1/00−15/00
C11D1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性液体を、式RO[C(O)R1mを有する両親媒性エステルに接触させるステップを含み、
RO、マンニトールまたはソルビトールである糖アルコールの部分を表し、
1は、独立に、最低7個で最大11個の炭素原子を有する、分岐状または非分岐状の飽和または不飽和アルキル基を表し、
mは、1または2であり、
疎水性液体が、水性相と疎水性液体相との混合物の一部である、疎水性液体の増粘方法。
【請求項2】
アルキル基が飽和で非分岐状である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
mが2である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1が7個の炭素原子を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
疎水性液体が脂肪酸またはグリセリドであるか、植物油、魚油、昆虫フェロモン、および精油からなる群から選択され、
20℃から150℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
疎水性液体が原油であり、10〜100℃で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
疎水性液体相を、疎水性液体相と水性相の混合物から分離するための方法であって、
(a)疎水性液体相を、請求項1で定義される両親媒性エステルに接触させ、両親媒性エステルが、疎水性液体相を選択的にゲル化させるステップ、および
(b)ゲル化した疎水性液体相を、水性相から分離するステップ
を含む方法。
【請求項8】
混合物が、第1原油相と水性相の第1混合物であり、両親媒性エステルが第1原油相を選択的にゲル化させ、ゲル化した第1原油相を、水性相から分離する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
両親媒性エステルを、疎水性液体相と水性相の界面で疎水性液体相に接触させる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
両親媒性エステルが、水と混和性である溶媒に溶かされ、
溶媒が、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、およびアセトニトリルからなる群から選択されるか、メチルエチルケトンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
両親媒性エステルが、少なくとも300-1の値を有する分配係数Pを有する溶媒に溶かされ、
P=疎水性液体相における溶解度(v/v)/水性相における溶解度(v/v)
である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
両親媒性エステルが、10〜100℃で第1混合物に添加される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
溶媒中の両親媒性エステルの濃度が、飽和の50パーセントから飽和の100%までである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
水性相が、酸性またはアルカリ性である、あるいは塩または清浄剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
水性相が海水であるか、川の水である請求項8に記載の方法。
【請求項16】
分離されたゲル化した第1原油相から、蒸留によって、両親媒性エステルと原油を分離するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
ゲル化した第1原油相から原油を回収するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ゲル化した第1原油相から両親媒性エステルを回収するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
(a)第2原油相と水性相の第2混合物を、ゲル化した第1原油相から蒸留によって回収された両親媒性エステルに接触させ、回収された両親媒性エステルが、第2原油相を選択的にゲル化させるステップ、および
(b)ゲル化した第2原油相を、水性相から分離するステップ
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
分離されたゲル化した第1原油相から、酵素介在ゲル分解によって、原油を回収するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項21】
酵素介在ゲル分解に用いられる酵素が、加水分解酵素であり、
酵素介在ゲル分解が、10〜100℃で実施される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
グリセリドを、請求項1で定義される両親媒性エステルに接触させるステップを含む、液体グリセリドの構造化方法。
【請求項23】
1種または複数の薬学的活性成分および疎水性液体を、請求項1で定義される両親媒性エステルに接触させるステップを含む、1種または複数の薬学的活性成分のカプセル化方法。
【請求項24】
水性相、オイル成分、および請求項1で定義される両親媒性エステルを、混合するステップを含む、水中油型エマルジョンの製造方法。
【請求項25】
ゲルを生成させるために、燃料または原油フラクションを、請求項1で定義される両親媒性エステルに接触させるステップ、および
ゲル化した燃料または原油フラクションを輸送するステップ、
を含む、燃料または原油フラクションの輸送方法。
【請求項26】
ゲル化した燃料または原油フラクションが、船舶、列車、またはトラックによって輸送される、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年7月29日に出願された米国特許仮出願第61/229553号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
疎水性液体を増粘させる(例えば、ゲル化させる)ための改善された方法が求められている。このような方法が求められているいくつかの理由が存在する。
例えば、過去20年間に渡り、世界では、何百万ガロンものオイルが海に放出される、いくつかの海洋オイル流出が起こった−最も特筆すべきは、アラスカで起きた1989年のExxon Valdezの事故であり、最近では、メキシコ湾における、BPの油井の爆発と、その結果生じたオイル流出である。このような不確定なオイルの拡がりは、生態系に計り知れない損傷を生じさせる。このような災害の規模は、オイル流出物を封じ込め、オイルを再生するための新しい材料の必要性に対して注意を喚起した。多くの種類の材料が、オイル流出の制御および浄化のために考案されており、これらの材料のいくつかは、商品化されている。しかし、これらの現行技術のそれぞれに、問題点が存在する。
分子ゲル化剤(molecular gelator、MG)は、オイルの固化剤として使用され得る別の種類の材料である。通常、これらは、様々な液体中でフィラメントまたは繊維へと自己集合する、低分子量の有機分子である。潜在的な利点にもかかわらず、MGは、様々な理由で、現在、オイル流出処理に用いられていない。例えば、多くのMGは、環境に有害な可能性のある複雑な有機部分(organic moiety)である。さらに、多くの場合、MGは、複雑な多段階の手順によって合成される特殊な分子である−そのために、それらの材料が、大きなオイル流出に必要とされる、低コストで、大量に配送できるかどうか疑わしい。また、MGが働くには、溶媒へのそれらの溶解が必要とされ、通常、これは、MG粉末と溶媒の混合物を高温に加熱することによって達成される。これは、周囲条件下でオイルのゲル化を誘発できることが絶対に必要であるオイル流出処理では、実用的でない。
MGに相選択的ゲル化(phase−selective gelation、PSG)が可能であれば、すなわち、MGが、オイル層を、それが水に接触している状態である場合でさえ、優先的にゲル化すれば、有利である。別の言い方をすると、水は、MGのオイルゲル化特性を損なうべきでない。この有利な点は、多くのMGが両親媒性分子である、すなわち、それらは、水を好む部分と水を嫌う部分を有し、これが、それらのゲル化能力の鍵であるという理由で、難題であり得る。水に接触すると、これらの分子は、オイル−水の界面に分配される(このため、界面活性剤または乳化剤として作用する)−結果的に、それらのゲル化能力は影響を受ける。上の難題のため、オイル−水の混合物からの油相の、ほんの少数のPSGが報告されているにすぎない。しかし、既存のPSGは複雑な分子であり、それらは、溶媒に溶かすために熱を必要とし、それらの環境適合性には疑問の余地がある−このため、オイル流出処理のために、これらのPGSを実際に用いることには、限界がある。上の課題を避けることができる改善された新しいPSGが求められている。
【0003】
疎水性液体の増粘方法の別の用途は、植物油の構造化(structuring)にある。現在、最も一般的な方法は、構造化剤として、ステアリン酸のような、高コレステロール血症脂肪酸を用いる。しかし、食用油では、より健康的な方法が望まれる。
また、薬剤の送達を向上させ、身体の標的部分での薬剤の生物学的利用能を増加させるための、ゲルに基づく配合物も求められている。
MGはまた、水中油型マイクロエマルジョンの製造にも用いられ得る。この場合、マイクロエマルジョンは、親水性および疎水性分子を可溶化またはカプセル化するために使用され得る。
PSGの別の用途は、燃料または原油フラクションを固体状物質に変換して、燃料の輸送を容易にし、事故によるまたは故意の燃料流出の場合に、液体の拡がりを防ぐことであり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態において、本発明は、疎水性液体を、式ROC(O)R1を有する有効量の両親媒性エステルに接触させることによる、疎水性液体の増粘方法に関する。それぞれの実施形態において、RO−は、糖アルコール、単糖または二糖の部分を表す。したがって、部分RO−は、1個を超え、通常1または2個の酸素原子を有していてもよく、例えば、RO[C(O)R1mであり得る。
上の式において、R1は、独立に、最低5個で、最大11個の炭素原子を有する分岐状または非分岐状の、飽和または不飽和アルキル基を表し、mは1または2である。別の実施形態において、R1は、独立に、最低2個で、最大20個の炭素原子を有する分岐状または非分岐状の、飽和または不飽和アルキル基を表す。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】(a)代表的な直鎖(open chain)糖の化学構造を示す。(b)直鎖糖両親媒性物質の合成のための一般的合成スキームを示す
図2】(a)ディーゼル燃料中5wt%「M8」ゲルの動的レオロジー、振動数掃引を示す。(b)5wt%「M8」ゲルの動的レオロジー、応力掃引を示す。
図3】(a)光学顕微鏡を用いた、カノーラ油中の誘導体M8の自己集合した集合体の顕微鏡写真を示す。(b)SEMを用いた、カノーラ油中の誘導体M8の自己集合した集合体の顕微鏡写真を示す。(c)光学顕微鏡を用いた、カノーラ油中の誘導体S8の自己集合した集合体の顕微鏡写真を示す。(d)SEMを用いた、カノーラ油中の誘導体S8の自己集合した集合体の顕微鏡写真を示す。
図4】(a)可能なスタッキングによる、「M8」の最適化された構造(線状2分子層)を示す。(b)可能なスタッキングによる、「S8」の最適化された構造(湾曲2分子層)を示す
図5】従来の加熱方法および新しい方法による、有機液体−水の混合物からの有機液体の相選択的ゲル化の概略図を示す
図6】新しい方法を用いる、ディーゼル燃料の相選択的塊状(bulk)ゲル化を示す。(a)ディーゼル燃料−水の混合物(20:40ml)を示す、(b)8mlのTHF−マンニトール2飽和溶液を混合物の界面に注入後1時間で観察された、ディーゼル燃料の部分ゲル化を示す、(c)一夜放置した後に得られ、ゲル化していない水層の質量を支えるのに十分なだけ堅固であるディーゼル燃料ゲルを示す、(d)真空蒸留によってディーゼル燃料ゲルから回収された80%のディーゼル燃料を示す
【発明を実施するための形態】
【0006】
式ROC(O)R1(またはRO[C(O)R1m)は、モノエステル(m=1)またはジエステル(m=2)のいずれかであり得ることが理解される。したがって、ジエステルは、式RO[C(O)R12を有する。
別の実施形態において、本発明は、疎水性液体相と水性相の混合物から、疎水性液体相を分離するための方法に関する。この方法は、(a)疎水性液体相を、式ROC(O)R1、またはRO[C(O)R1mを有する有効量の両親媒性エステルに接触させること、および(b)ゲル化した疎水性液体相を水性相から分離することを含む。
別の実施形態において、本発明は、第1原油相および水性相の第1混合物から、原油と水を分離するための方法に関する。この方法は、(a)第1混合物を、式ROC(O)R1、またはRO[C(O)R1mを有する有効量の両親媒性エステルに接触させること、および(b)ゲル化した第1原油相を水性相から分離することを含む。
別の実施形態において、本発明は、グリセリドを、式ROC(O)R1、またはRO[C(O)R1mを有する有効量の両親媒性エステルに接触させることを含む、液体グリセリドを構造化するための方法に関する。
別の実施形態において、本発明は、1種または複数の薬学的活性成分をカプセル化する方法に関する。この方法は、1種または複数の薬学的活性成分および疎水性液体を、式ROC(O)R1、またはRO[C(O)R1mを有する有効量の両親媒性エステルに接触させることを含む。
別の実施形態において、本発明は、水中油型エマルジョンの製造方法に関する。このエマルジョンは、水性相、オイル成分、および式ROC(O)R1、またはRO[C(O)R1mを有する両親媒性エステルを、マイクロエマルジョンが生成するまで混合することによって製造される。オイル成分は、疎水性液体を含む。
さらに別の実施形態において、本発明は、燃料、または原油フラクションを輸送する方法に関する。この方法は、ゲルを生成させるために、燃料または原油フラクションを、式ROC(O)R1、またはRO[C(O)R1mを有する有効量の両親媒性エステルに接触させること、およびゲル化した燃料または原油フラクションを輸送することを含む。
【0007】
本発明は、一般に、疎水性液体の増粘方法に関する。疎水性液体が本発明に従って増粘される場合、その液体はかなり濃密(dense)になる。好ましくは、疎水性液体はゲルになる。この方法は、疎水性液体を、式ROC(O)R1を有する両親媒性エステルに接触させることを含む。
別の実施形態において、両親媒性エステルは、式RO[C(O)R1mを有し、式中、mは1または2である、mが1である場合、式はモノエステルを表す。mが2である場合、この式は、ジエステルを表す。別の言い方をすると、ジエステルは、式R[C(O)R12を有する。
一実施形態において、RO−は、糖アルコール、単糖または二糖の部分を表す。糖アルコールはまた、水素添加された糖、ポリオール、多価アルコール、およびポリアルコールとしても知られている。部分は、ヒドロキシル基から、通常は、1級ヒドロキシル基から水素原子を失った、糖アルコール、単糖または二糖である。
【0008】
糖アルコールは、一般式H(CHOH)nHを有し、単糖または二糖の糖アルコールであり得る。ROが、単糖の糖アルコールの部分を表す場合、nは、4、5、または好ましくは6である。nが4である糖アルコールのいくつかの例には、エリトリトールおよびトレイトールが含まれる。nが5である糖アルコールのいくつかの例には、アラビトール、キシリトール、およびリビトールが含まれる。nが6である糖アルコールのいくつかの例には、マンニトール、ソルビトール、ダルシトールおよびイジトールが含まれる。二糖の糖アルコールのいくつかの例には、マルチトールおよびラクチトールが含まれる。好ましい両親媒性エステルにおいて、RO−は、マンニトールまたはソルビトールの部分を表す。
【0009】
単糖は、アルドースまたはケトースと、テトロース、ペントース、またはヘキソースとの組合せのいずれかであり得る。単糖のいくつかの例には、グルコース、リボース、およびフルクトースが含まれる。二糖は、グリコシド結合によって繋がった2つの単糖である。二糖のいくつかの例には、スクロース、ラクトース、マルトース、およびセロビオースが含まれる。
両親媒性エステルの式において、R1は、分岐状または非分岐状と、飽和または不飽和との、4つのものの可能な組合せのいずれかのアルキル基を表す。アルキル基R1における炭素原子の最低の全数は5個であり、好ましくは6個である。アルキル基R1における炭素原子の最大の全数は11個であり、好ましくは10個、より好ましくは9個、最も好ましくは8個である。アルキル基R1における炭素原子の最適な全数は7個である。
mが2である場合、R1は、独立に、最低5個で最大11個の炭素原子を有する、分岐状または非分岐状の、飽和または不飽和アルキル基を表す。したがって、両親媒性ジエステルは、2つの異なるアルキル基を含み得る。
【0010】
飽和アルキル基のいくつかの例には、n−ペンチル、n−へキシル、n−へプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ラウリル、イソペンチル、イソへキシル、イソへプチル、イソオクチル、イソノニル、イソデシル、イソラウリル、2,2−ジメチルプロピル、4−メチル−2−ペンチル、2,3−ジメチルペンチル、3−エチル−2−ペンチル、2−イソプロピル−2,2−ジメチルペンチル、および3−エチル−5−メチルオクチルが含まれる。飽和アルキル基の他の例には、n−ウンデカニル、n−ドデカニル、n−トリデカニル、n−テトラデカニル、n−ペンタデカニル、n−ヘキサデカニル、n−ヘプタデカニル、n−オクタデカニル、n−ノナデカニル、n−イコサニル、4−メチルドデカニル、および3−エチル−5−メチルペンタデカニルが含まれる。
不飽和アルキル基のいくつかの例には、n−ペンテニル、n−ヘキサ−2−エニル、n−ヘプタ−3−エニル、n−オクタ−4−エニル、n−ノナ−5−エニル、n−デカ−6−エニル、n−ドデカ−3,6−ジエニル、イソペンテニル、イソヘキセニル、イソヘプテニル、イソオクテニル、イソノネニル、イソデセニル、イソドデセニル、3,3,3−トリメチルプロペニル、4−メチル−2−ペンテニル、2,3−ジメチルペンタ−2−エニル、3−エチル−2−ペンテニル、2−イソプロピル−2,2−ジメチルペンチニル、および3−エチル−5−メチルオクタ−2,4−ジエニルが含まれる。不飽和アルキル基の他の例には、n−ヘプタデカ−3,6−ジエニル、3−イソプロピル−2,4−ジメチルペンチニル、および3,3,3−トリメチルヘプタデシニルが含まれる。
【0011】
両親媒性エステルにおける好ましいアルキル基R1は、n−へプチルである(すなわち、基−C(O)R1がカプリリルである)。好ましい両親媒性エステルにおいて、RO−は、マンニトールまたはソルビトールの部分であり、−C(O)R1はカプリリルである(すなわち、R1はn−へプチルである)。好ましい両親媒性エステルは、マンニトールオクタノエートである。
別の実施形態において、アルキル基R1における炭素原子の最低の全数は、2個であり、好ましくは6個である。アルキル基R1における炭素原子の最大の全数は、20、好ましくは10、より好ましくは9、最も好ましくは8個である。
【0012】
疎水性液体は、水に溶けない液体のいずれかである。疎水性液体のいくつかの例には、脂肪酸、脂肪酸の混合物、グリセリド、グリセリドの混合物、または脂肪酸とグリセリドの混合物が含まれる。脂肪酸は、飽和または不飽和であり、通常、8と20個の間の炭素原子を有し得る。いくつかの脂肪酸は2と20個の間の炭素原子を有する。液体グリセリドは、通常、飽和および不飽和脂肪酸のモノ−、ジ−、およびトリグリセリドの混合物であり、通常、主として、トリグリセリド(通常、主として不飽和脂肪酸の)である。このようなグリセリドは、例えば、植物油または魚油であり得る。
植物油は、食用または非食用であってよく、このようなオイルを含むどのような植物のどのような部分からでも抽出され得る。植物油のいくつかの例には、パーム油、大豆油、ナタネ油、ヒマワリ種子油、ピーナッツ油、綿実油、パーム核油、ココナッツ油、オリーブオイル、およびこれらの混合物が含まれる。
魚油は、このようなオイルを含むどのような魚からでも抽出され得る。魚油のいくつかの例には、イワシ、ニシン、サバ、マス、カレイ、マグロ、およびサケのオイルが含まれる。例えば、(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)−ドコサ−4,7,10,13,16,19−ヘキサエン酸(DHA)、および(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)−エイコサ−5,8,11,14,17−ペンタエン酸(EPA)のようなω−3脂肪酸を含む魚油が、特に好ましい。
【0013】
本発明に従って増粘され得る他の疎水性液体には、例えば、フェロモン、および精油が含まれる。フェロモンは、同じ種の他の成員に、生得的な反応を誘発する化学的信号である。種は、昆虫、植物または動物であり得る。疎水性液体であるどのようなフェロモンも、本発明に従って増粘され得る。フェロモンは、例えば、警報フェロモン、攻撃フェロモン、性フェロモン、食糧道しるべ(food trail)フェロモンなどであり得る。
精油は、植物および木からの揮発性芳香化合物であり、このようなオイルを含むどのような植物または木のどのような部分からでも、何らかの方法によって得ることができる。例えば、精油は、花、葉、木質部、樹皮、根、種子、または果皮から得ることができる。精油を得ることができる方法のいくつかの例には、水蒸気蒸留、圧搾、および溶媒抽出が含まれる。このような方法によって、精油は、例えば、ラベンダー、ペパーミント、ユーカリ、クローブ、バラ、ならびに柑橘(例えば、レモンおよびオレンジ)植物または木から得ることができる。
一実施形態において、本発明は、疎水性液体相と水性相の混合物から疎水性液体相を分離するための方法に関する。この方法は、(a)疎水性液体相を、疎水性液体相を選択的にゲル化させる式ROC(O)R1を有する両親媒性エステルに接触させること、および(b)ゲル化した疎水性液体相を、水性相から分離することを含む。両親媒性エステル、ROC(O)R1、およびその個々の構成要素、RおよびR1は、前記の通りである。
別の実施形態において、両親媒性エステルは、式RO[C(O)R1mを有し、式中、mは1または2である。両親媒性エステル、RO[C(O)R1m、ならびにその個々の構成要素、R、R1、およびmは、前記の通りである。
【0014】
疎水性液体相は、前記のように、主として疎水性液体からなる。例えば、疎水性液体相は、原油流出物からの原油を含み得る。原油は、低沸点、中間、および高沸点フラクションを含めて、液状石油のフラクションのいずれかである。原油は、例えば、ガソリン、灯油、ディーゼル燃料、重質ガスオイル、および潤滑油から選択される1種または複数のフラクションを含み得る。
水性相は、溶液であり、溶媒は水である。水性相は、酸性、中性またはアルカリ性であることができ、塩、清浄剤(detergent)、または両方を含んでも含まなくてもよい。例えば、水性相は、原油流出の場合には、海水であり得る。
両親媒性エステルは、疎水性液体相と、知られているどのような仕方で接触させられてもよい。好ましい実施形態において、両親媒性エステルを、疎水性液体相と水性相の界面で疎水性液体相に接触させる。両親媒性エステルは、当技術分野においてよく知られている方法によって、疎水性液体相と水性相の界面で疎水性液体に接触させられ得る。例えば、両親媒性エステルは、注射器またはピペットを用い、界面に注入され得る。
【0015】
両親媒性エステルは、水性相から容易に分離されるのに十分なだけ疎水性液体相を増粘させ、好ましくはゲル化させる量で、すなわち、有効量で、疎水性液体相に添加される。両親媒性エステルの最少量は、水性相から容易に分離されるのに十分なだけ疎水性液体相をゲル化させる最少量である。例えば、両親媒性エステルの最少量は、疎水性液体相の容積に対して、約0.01%wt/vol、より典型的には約0.05%wt/vol、最も典型的には約0.5%wt/volのように低濃度であり得る。好都合な範囲は、約1から約2.5%wt/volである。約5%wt/volを超える濃度を用いることは、通常は必要でないが、必要であれば、より多く使用され得る。例えば、約10%wt/volまでの濃度が用いられ得る。
両親媒性エステルは、溶媒なしで、混合物に添加されてもよい。別法として、両親媒性エステルは、混合物に添加される前に、水と混和性の溶媒に溶かされる。好ましい溶媒は、少なくとも約300-1の値を有する分配係数Pを有し、ここで、Pは、疎水性液体相における溶解度(v/v)/水性相における溶解度(v/v)を表す。Pには、要求される最大値は存在しない。例えば、Pは、1,000-1、またはさらに小さい値であり得る。
適切な溶媒の例には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、およびアセトニトリルが含まれる。別の適切な溶媒は、メチルエチルケトンである。
両親媒性エステルは、好ましくは、周囲温度で第1混合物に添加される。例えば、オイル流出の場合には、両親媒性エステルは、原油が流出した水、例えば、湖、川、湾、海峡、河口、または外洋の温度で第1混合物に添加される。
両親媒性エステルは、第1原油相における原油を選択的にゲル化させる。ゲル化した第1原油相は、液体水性相から、容易に、都合よく分離される。
【0016】
本発明の別の実施形態において、本発明の方法は、第1原油相と水性相の第1混合物から、原油と水を分離することを含む。この方法は、(a)第1混合物を、式ROC(O)R1を有する両親媒性エステルに接触させること、および(b)ゲル化した第1原油相を、水性相から分離することを含む。式ROC(O)R1を有する両親媒性エステルは前記の通りである。
別の実施形態において、両親媒性エステルは、式RO[C(O)R1mを有し、式中、mは1または2である。両親媒性エステル、RO[C(O)R1m、ならびにその個々の構成要素、R、R1、およびmは、前記の通りである。
両親媒性エステルを、上に記載されたと同様に、第1混合物に接触させる、例えば、好ましくは、両親媒性エステルを、溶媒なしで、または飽和の50%から飽和の100%の、溶媒中の両親媒性エステルの濃度で溶媒と共にのいずれかで、周囲温度で疎水性液体相と水性相の界面で疎水性液体相に接触させる。
両親媒性エステルは、第1原油相における原油を選択的にゲル化させる。それから、ゲル化した第1原油相は、当技術分野において知られている方法によって、水性相から、容易に、都合よく分離される。例えば、ゲル化した第1原油相は、よく知られている機械的方法によって、水性相から分離され得る。
【0017】
本発明の方法は、構成要素(b)により分離されるゲル化した第1原油相から、両親媒性エステルと原油を分離することをさらに含み得る。例えば、両親媒性エステルと原油は、ゲル化した第1原油相から、蒸留によって、好ましくは真空蒸留によって分離され得る。この場合、原油は、留出物から回収され得る。両親媒性エステルは、別途、残留物から、回収され得る。
蒸留によって回収された両親媒性エステルは、同一のオイル流出の浄化を続けるために、または別のオイル流出の浄化のために、再使用され得る。例えば、さらなるステップ(c)および(d)が、前記方法に追加され得る。こうして、前記方法は、(c)ゲル化した第1原油相から蒸留によって回収され、第2原油相を選択的にゲル化させる両親媒性エステルに、第2原油相と水性相の第2混合物を接触させること、および(d)ゲル化した第2原油相を水性相から分離することをさらに含み得る。
【0018】
別法として、原油は、ゲル化した第1原油相から、酵素介在ゲル分解(enzyme−mediated gel degradation)によって分離されてもよい。適切な酵素は、両親媒性エステルのアルキレート部分と糖アルコール/単糖/二糖部分との間の結合を切断するものである。適切な酵素には、加水分解酵素が含まれる。酵素介在ゲル分解は、周囲温度で実施され得る。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、液体グリセリドを構造化する方法に関する。グリセリドは、前記グリセリドのいずれであってもよく、特に植物油であり得る。この実施形態の方法は、グリセリドを、前記の両親媒性エステルのいずれかに接触させることを含む。任意の前記溶媒中の、または溶媒を含まない、両親媒性エステルが、グリセリドに添加され得る。
構造化は、当業者によって決定され得る、適切な任意の温度で実施される。一般的な指針として、反応は、最低約10℃、好ましくは最低約20℃で、最高約100℃、好ましくは最高約80℃、より好ましくは最高約70℃、最も好ましくは最高約60℃の温度で実施される。周囲温度は、特に好都合である。
本発明による疎水性液体の増粘(例えば、ゲル化、構造化など)は、適切な量の両親媒性エステル(すなわち、分子ゲル化剤、MG)を液体に添加することによって行われる。疎水性液体に添加される両親媒性エステルの具体的な量は、任意の有効量であり、とりわけ、増粘される疎水性液体の量および構造、ならびに用いられる両親媒性エステルに依存する。上を参照。
別の実施形態において、本発明は、1種または複数の薬学的活性成分のカプセル化方法に関する。この方法は、1種または複数の薬学的活性成分および疎水性液体を、式ROC(O)R1を有する有効量の両親媒性エステルに接触させることを含む。式ROC(O)R1を有する両親媒性エステル、ならびにその個々の構成要素、RおよびR1は、前記の通りである。
別の実施形態において、両親媒性エステルは、式RO[C(O)R1mを有し、式中、mは1または2である。両親媒性エステル、RO[C(O)R1m、ならびにその個々の構成要素、R、R1、およびmは、前記の通りである。
【0020】
疎水性液体もまた、上に記載されている。好ましい実施形態において、疎水性液体は植物油である。
1種または複数の薬学的活性成分には、任意の適切な薬学的活性成分、例えば、親水性および親油性薬剤が含まれる。1種または複数の薬学的活性成分は、1種の活性成分、2種の活性成分、3種の活性成分、4種の活性成分などを含み得る。
親水性薬剤の例には、これらに限らないが、多糖、ならびに他の高分子薬剤、例えば、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣薬、サイトカイン、ヌクレオチド、ヌクレオシド、遺伝物質、トキソイド、および不活性化ワクチン(serum vaccine)、ニコチン、およびカフェインが含まれる。多糖薬剤には、二糖、オリゴ糖、またはヒトへの投与に適するより長い鎖の糖ポリマーが含まれる。多糖薬剤の例には、グルコサミン、グリコサミノグリカン、デキストラン、キシラン、五糖、ポリガラクツロン酸、ポリマンヌロン酸、キチン、これらの薬学的に許容される塩、エステルまたは他の誘導体、およびこれらの組合せが含まれる。多糖薬剤はまた、天然に産する、または合成された多糖のフラグメントであり得る。
親油性薬剤の例には、これらに限らないが、ベザフィブラート、イブプロフェン(R−およびS−異性体の両方)、ニトラゼパム、アルプラゾラム、クルクミンおよび他の染料が含まれる。
【0021】
1種または複数の薬学的活性成分および疎水性液体と、有効量の両親媒性エステルとの接触は、当業者によって決定される、どのような適切な温度でも実施され得る。適切な温度は、1種または複数の薬学的活性成分の活性を妨げないであろう。一般的な指針として、反応は、最低約10℃、好ましくは最低約20℃で、最高約150℃または100℃、好ましくは最高約80℃、より好ましくは最高約70℃、最も好ましくは最高約60℃の温度で実施される。周囲温度は、特に好都合である。
一態様において、薬学的活性剤は、冷却することにより、活性剤を閉じ込めるゲルマトリックスを生成して、疎水性液体によってカプセル化される。活性成分のカプセル化は、活性剤の局所および経皮送達を向上させて、身体の標的部位での活性剤の生物学的利用能を増大させる。
別の態様において、薬学的活性剤は、冷却なしに、疎水性液体によってカプセル化される。例えば、カプセル化は、反応温度が周囲温度である場合、反応温度で起こり得る。
【0022】
両親媒性エステルの有効量は、カプセル化または疎水性液体のゲル化を引き起こすのに十分な任意の量である。有効量は、当業者によって決定され得る。両親媒性エステルの有効量の例は、上で論じられた。
別の実施形態において、本発明は、水中油型エマルジョンの製造方法に関する。この方法は、水性相、オイル成分を、前記の両親媒性エステル、すなわち、ROC(O)R1、またはRO[C(O)R1mのいずれかと、マイクロエマルジョンが生成されるまで混合することを含む。
水性相は溶液であり、溶媒は水である。水性相は、酸性、中性またはアルカリ性であり得るし、塩、清浄剤、または両方を含むことも、含んでいないこともある。
オイル成分は疎水性液体を含む。疎水性液体は上で記載された。
水性相およびオイル成分は、当業者に知られている様々な他の成分を含み得る。例えば、マイクロエマルジョンが化粧品になるのであれば、その場合、水性相および油相は、化粧品に用いられるのに適する賦形剤および活性剤を含み得る。同様に、マイクロエマルジョンが医薬品になるのであれば、その場合、水性相および油相は、医薬品に用いられるのに適する賦形剤および活性剤を含み得る。
【0023】
混合は、当業者に知られている何らかの手段によって実施され得る。例えば、混合は、ホモジナイザー、超音波処理装置、またはボルテックスを用いて実施され得る。
温度および成分のパーセンテージを含めて、適切な反応条件は、上に記載されている。
別の実施形態において、本発明は、燃料または原油フラクションの輸送方法に関する。この方法は、燃料または原油フラクションを、有効量の前記両親媒性エステルのいずれかに接触させること、およびゲル化した燃料または原油フラクションを輸送することを含む。
燃料または原油のゲル化は、上に記載されている。ゲル化した燃料または原油は、当技術分野において知られている手段のいずれかによって、輸送され得る。例えば、ゲル化した燃料または原油は、トラック、タンカー、船、車、列車、航空機などによって輸送され得る。
燃料および原油のゲル化は、燃料または原油の輸送を容易にする。それらの液体状態では、燃料または原油は、輸送の間に流出の危険を有する。燃料または原油のゲル化は、事故によるまたは故意の流出の場合に、液体の拡がりを防ぐ。
【0024】
両親媒性エステル、例えば、分子ゲル化剤(MG)の合成および試験
両親媒性エステルは、当技術分野において知られている方法によって製造され得る。例えば、両親媒性エステルは、適切な反応条件の下での、糖アルコール、単糖または二糖と、前記のような適切なアシル基、すなわち、−C(O)R1を有するエステル(例えば、ビニルエステル)との酵素介在エステル交換(enzyme−mediated trans−esterification)反応によって、都合よく製造される。適切な酵素はNovozyme 435である。適切な反応条件は、例えば、40〜60℃で、適切な溶媒、例えばアセトンを含む。図1参照。
MGの典型的な合成スキームが、図1bに示されている。直鎖糖は、それらの1級ヒドロキシル基の1つまたは2つで、位置選択的にアシル化された。この方法は、Novozyme 435を用いる、糖と脂肪酸ドナーの単一ステップ酵素介在エステル交換反応である。全収率は、全ての誘導体に対して約70%である。疎水性の調整は、様々なアルキル鎖長の脂肪酸を用いることによって達成され、酪酸(C4)、カプリル酸(C8)およびミリスチン酸(C14)誘導体が、3種の糖の全てに対して、合成された。生成される両親媒性物質は、通常、文字とそれに続く数字によって示され、例えば、「M8」は、マンニトールヘッドおよびC8テイルを有する両親媒性物質である。
【0025】
様々な糖両親媒性物質の中で、マンニトール誘導体「M8」、およびソルビトール誘導体「S8」が、原油フラクションおよび植物油を含めて、広範な有機液体をゲル化させることができる有機ゲル化剤であることが見出された。れらのゲル化剤の最低ゲル化濃度(MGC)は、ゲル化剤および溶媒に依存し、1.5から5wt%の範囲であった。ゲルの熱安定性を評価するために、ゲル−ゾル転移温度(Tgel)が求められ、溶媒に応じて、5wt%「M8」ゲルでは、82〜125℃、5wt%「S8」ゲルでは、38〜69℃の範囲であった上のゲルの全ては、何か月も安定であった。MGCおよびTgelの値は、マンニトール系ゲル化剤が、その立体異性体であるソルビトールによるものに比べて、より高性能であることを示す。マンニトールおよびソルビトールは、糖部分のC2位でのヒドロキシル基の立体化学の点で異なるだけである(図1a)。
このように、分子キラリティーにおける微妙な変化が、ゲル化能力に大きく影響を及ぼし得る。また、MGC値は、「4」誘導体より、「8」誘導体で、かなり小さい。「M8」および「S8」のゲル化能力はまた、原油フラクションでも調べられた。れらのゲル化剤は、比較的小さい鎖の炭化水素(ヘキサンおよびヘプタン)から析出したが、より長い鎖の炭化水素(ミネラルオイル、シリコーンオイル、およびポンプオイル)ではゲルを生成した。これらのゲル化剤は、高沸点原油フラクションをゲル化でき(MGCは約1から5%wt/v)、より興味深いことに、「M8」は、ディーゼル燃料を、2.5%wt/vのように低い濃度でゲル化できたが、これは、「M8」が、その質量の少なくとも20倍のディーゼル燃料を不流動化できたことを示す。
【0026】
マンニトールおよびソルビトール誘導体に比べて、キシリトールのものは、所定の条件の下で、ゲル化に効果がなかった。「X4」および「X8」の中で、「X8」だけが、固体粉末として得られた。この粉末は、高温で有機液体に溶かすことができたが、それは、室温まで冷却された時、液体から析出した。構造的に、キシリトールは、マンニトールおよびソルビトールに比べて1つ少ないヒドロキシル基を有し(図1a)、このことが、有機溶媒中での、その誘導体の自己集合に、明らかに影響を及ぼす。さらに、3種の糖の全ての「14」誘導体(すなわち、「M14」、「S14」および「X14」)もまた、所定の条件の下で、ゲル化に効果がなかった。これらの材料は、高温および低温のいずれでも、有機液体中に、均質に溶かすことができたが、それらの液体はゲル化しなかった。このように、我々の研究は、中程度の鎖長(約8)が、ゲル化に最適であることを示す。高性能の「M8」および「S8」両親媒性物質が、さらなる研究のために選択された。
【0027】
「M8」および「S8」ゲルのレオロジー的研究は、オルガノゲルに予想される典型的な応答を明らかにした。図2は、ディーゼル燃料中、5wt%「M8」のゲルについての動的レオロジーデータを示す。図2aは、振動数スペクトルであり、弾性モデュラスG’および粘性モデュラスG’’が、角振動数ωの関数としてプロットされている。G’は振動数に依存せず、全振動数範囲に渡って、G’’よりかなり大きいことに注意。このような応答は、試料が非常に長い時間スケールに渡って緩和しないことを示すので、ゲルの特徴である。ゲルモデュラス(G’の値)は、ゲルの堅さ(stiffness)の目安である。5%「M8」ゲルでは、ゲルモデュラスは、約4000Paであり、これは、ゲルが非常に堅いことを示す。図2bは、応力振幅σ0の関数としてのモデュラスG’およびG’’のプロットである。どちらのモデュラスも、低いσ0では、応力に依存しない(この範囲は線形粘弾性の範囲である)が、より大きなσ0で低下する。モデュラスの急激な低下が起こるσ0の臨界値は、ゲルの降伏応力であり、その値は、今の場合、約30Paである。この値は、逆さにしたバイアル中のゲルの質量を支えるのに十分なだけ大きい。
同様の結果は、ディーゼル燃料中、「S8」の5%ゲルでも観察され、この場合、ゲルモデュラスは2000Paであり、降伏応力は、やはり30Pa近くであった。
M8およびS8ゲルのモルホロジーは、光学および電子顕微鏡を用いて評価した。結果は、植物(カノーラ)油マトリックス中の上記ゲル化剤のゲルについて、図3に示されている。マンニトール誘導体「M8」のゲルは、高度に分岐した繊維を示す(図3a)のに対して、ソルビトール誘導体「S8」のゲルは、球晶状クラスターに加えて、板状体構造を主に見せる(図3b)。同様の結果は、全ての有機溶媒において観察された。トルエン中「M8」および「S8」ゲルのSEM画像は、光学顕微鏡の結果と一致している。「M8」ゲルのSEM画像(図3c)は、前記繊維が、実際には、約100nmの幅を有する平らなリボン状のものであり、このゲルが、恐らく、これらのリボン状のものの絡み合った網目状組織(mesh)であることを示す。それに反して、「S8」ゲルは、クラスター化した結晶状板状体からなる(図3d)。「M8」のリボン状モルホロジーは、「S8」の球晶状モルホロジーより、ゲル化に、はるかに多く貢献し(溶媒の取り込み)、これは、前者の、より低いMGC、およびより高いTgelを説明する。
【0028】
ゲルの構造を詳細に明らかにするために、ゲル化剤粉末、さらには対応するゲルの両方で、X線回折(XRD)実験が実施された。粉末状の「M8」および「S8」は、ラメラ状パッキングパターンを示す、すなわち、1:2:3などの比の、隣同士のピークの間のブラッグ間隔(spacing)を有する。ラメラ構造の周期性、長いd−間隔は、「M8」および「S8」で、それぞれ、2.96および2.38nmであることが見出された。「M8」および「S8」のゲルでのXRDスペクトルもまた、上のd−間隔に近い主ピークを示し、「M8」ゲルでは、それは約2.98nmであり、「S8」ゲルでは、それは約2.46nmであった(有機液体の特質に無関係に)。ゲルおよび固体ゲル化剤のXRDデータにおける類似性は、分子が、2つの状態で同様の仕方でパッキングされていることを示す。先行する研究と一致して、ゲルにおける上のd−間隔は、それぞれの2分子層の大きさと相関がある(図4aおよび図4)。例えば、1個の「M8」分子の長さは、最適化された形状の計算から推定して、アルキルのテイルが完全に伸びていると仮定して、1.97nmである。このような分子の2分子層は、テイル−ヘッド−ヘッド−テイルの様に配置構成され、テイルが屈曲性であれば、この長さの2倍未満の厚さを有すると思われる。この結果は、2.98nmの観察されたd−間隔と一致する。
【0029】
2分子層内の両親媒性「M8」分子の配置構成は、図4aおよび図4に示されている。個々の分子からのアルキルテイルは、外側にある、すなわち、非極性溶媒と接触しているが、他方、親水性糖ヘッドは、2分子層の内側を成す。別の言い方をすると、2分子層構造は、水中におけるものに比べて、逆になっている。2分子層形成の原因となる弱い非共有相互作用には、アルキルテイル間のファンデルワールス相互作用、さらには、糖ヘッド基の間の水素結合が含まれる。水素結合、したがってまた、ヒドロキシル基は、溶媒を取り込むことができる網目(network)の形成に、建設的な役割を果たすと考えられる。IRスペクトルが、「M8」および「S8」のゾルで、さらには、それらが冷却でゲル化した後の同一試料で得られた。ヒドロキシル基に対応する波数で観察された、ゾルおよびゲル状態の間の明瞭に識別されるシフトは、これらの基が水素結合に関与していることを示す。この推定はまた、ベンジリデン複合体(complex)形成による、ヒドロキシル基の遮断(blocking)によっても確認された。「M8」のベンジリデン複合体は、有機液体をゲル化できなかった−むしろ、それは、有機液体に容易に溶けた。やはり、これは、ゲルの生成における水素結合の決定的な重要性を示す。
【0030】
相選択的ゲル化(PSG)に対する「M8」および「S8」ゲル化剤の能力、特に、オイルと水の非混和性混合物から油相をゲル化させるそれらの能力が、研究された。最初の実験では、所定のゲル化剤粉末が、水と混合物(容積ベースで等しい量)の非混和性混合物に添加され、混合物は、ゲル化剤を溶かすために加熱された。次いで、混合物は、1000rpmで約10分間、ボルテックスにかけられ、放置された。ボルテックスにかけた後、最初、試料は、ミルク状の白い外観を有し、水中にオイルが細かく分散していることを示した。最終的に、試料は2層に分かれ、上の層は、ゲル化したオイルであり、下の層は液体の(ゲル化していない)水であった。PSGを示す同様の結果が、オイル:水の比にかかわらず、得られた。原油フラクション(炭素数n≧7のアルカン、ディーゼル燃料、ポンプオイル)、および食用オイルを含めて、様々な溶媒を、相選択的な仕方でゲル化できた。
【0031】
熱の関与しない様々な方法が試験された。最初に、ゲル化剤は、水と混和性である溶媒に溶かされた。次いで、ゲル化剤−溶媒の溶液は、室温で、オイル/水の混合物上に注入またはスプレーされた。溶媒は、ゲル化剤に対して、大きな溶媒和力を有すると同時に、水に混和性であるべきである。多数の溶媒が試験され、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール)、ジオキサンおよびTHFを含めて、それらのいくつかが、機能することが見出された。エタノールまたはTHFが、さらなる研究のために選ばれた。溶媒法を用いるPSGの概略が、図5に示されている。「M8」および「S8」のいずれも、この方法によって相選択的ゲルを生成できたが、「M8」によるゲルは、所定の条件の下で、より堅固であった。すなわち、「M8」の場合には、所定のオイルの塊状ゲル化、ならびにPSGに必要とされるMGCが同じであった。それに反して、相選択的ゲルを生成するための、「S8」のMGCは、同じ溶媒で塊状ゲルを生成するのに必要とされるものより、ずっと大きかった。
【0032】
「M8」およびTHFによる溶媒法を用いる相選択的ゲル化が、トルエン、ディーゼル燃料、調理に使用されたオイル、およびミネラルオイルのような様々な有機溶媒で、実際に示された。油相のゲル化は、水性環境(例えば、水が酸性または塩基性であるかどうか、NaClまたはCaCl2で飽和しているかどうか、あるいは水が少量の石鹸または清浄剤を含んでいるかどうか)の特質によって、影響を受けなかった。溶媒法によって送出される「M8」の濃度に応じて、様々な堅固さを有するゲルが得られた。ディーゼル燃料中5wt%に等しい「M8」の濃度では、ゲル化したオイルは、容器またはバイアルを逆さにした際に、それ自体の質量だけでなく、水層の質量もまた支えるのに十分な降伏応力を有していた。ゲル化したオイル層のレオロジー研究(データは示されていない)は、同じ濃度での塊状ゲルに対するもの(図2)と類似のデータを与え、ゲルモデュラスG’および降伏応力は類似の値を有していた。周囲条件下での相選択的ゲル化の方法は、様々な有機液体、および様々な環境で、非常によく機能する。
【0033】
さらに考慮すべき事柄は、ゲル化した材料からオイルを回収できるかどうか、さらに、ゲル化剤自体を回収し再使用できるかどうかである。図5に示されるように、「M8」を用いる、ディーゼル燃料のPSGを含めて、実験が行われた。ディーゼル燃料−水の混合物(20:40mL、図6a)が準備され、それに、「M8」−THF溶液の8mLのアリコートを加えた(これにより、1gの「M8」が送出され、これは、ディーゼルの容積に対して5wt%である)。ディーゼル燃料の層は、2時間以内に、かなりの程度に固化した(図6b)。24時間後に、ゲルは、容器を逆さにした際に、40mLの水の質量もまた支えるのに十分なだけ堅固であった(図6c)。次に、底の水層が、容器から注射器で取り出され、ゲルが、真空下で、徐々に125℃に加熱された。ゲルは、ゆっくりとゾルの状態に変わり、次いで、ディーゼル燃料が、留去された。このプロセスによって、約80%のディーゼル燃料(図6d)を回収することができた。容器の残留物は、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって評価され、主として、「M8」ゲル化剤であり、少量のディーゼル燃料および分解生成物を含むことが見出された。この残留物は、10mLのディーゼル燃料を、再び、選択的にゲル化させることができたが、これは、ゲル化剤が再使用できることを示す。
ディーゼル燃料の回収のための真空蒸留の代わりとなるのは、酵素介在ゲル分解である。加水分解酵素(Lipolase 100L、EX型、リパーゼ単位100KLU/g)が、「M8」における脂肪酸部分とマンニトール単位との間のエステル結合を開裂するために用いられた。結果として、ゲル化剤分子の間の非共有結合が壊され、ゲルは液化してディーゼル燃料に戻った。このゲル化剤はさらなる使用に利用できないが、酵素介在分解の1つの利点は、それが、室温で実施できることである。
【0034】
結論として、短鎖の両親媒性直鎖糖有機ゲル化剤は、酵素による位置選択的エステル交換法を用い、成功裏に、合成された。糖ゲル化剤を用い生成されるオルガノゲルが特性評価され、ゲル化剤は、ゲル中で、ラメラ状に自己集合すると仮定された。さらに、有機ゲル化剤は、原油フラクションを含めて、多数の有機液体の高性能のPSGを示した。さらに、室温でゲル化を誘発するために、新しい方法が考案された。新しい方法の適用、および直鎖糖ゲル化剤の相選択的ゲル化が、オイル流出の回収において、したがってまた、環境の浄化のために、例示された。「M8」誘導体を用いる、ディーゼル燃料−水の混合物からのディーゼル燃料の選択的ゲル化、およびゲルからのディーゼル燃料の回収が、真空蒸留、または酵素介在ゲル分解法のいずれによっても、例示された。オイル流出の回収においてゲル化剤がリサイクルできることもまた、例示された。
【0035】
次の論文が全体として参照によって組み込まれる:Jadhav、Swapnil等、「Sugar−Derived Phase−Selective Molecular Gelators as Model Solidifiers for Oil Spills」、Angewandte Chemie International Edition、2010年(http://dx.doi.org/10.1002/anie.201002095で、オンラインで入手可能)。
【実施例】
【0036】
(例1)
直鎖糖の位置選択的エステル化のための酵素触媒法
乾燥アセトン(40mL)中、マンニトール(0.546g、3mmol)、ビニルエステル(9mmol;酪酸ビニル、カプリル酸ビニル、およびミリスチン酸ビニル)、ならびに活性化したモレキュラーシーブ(10g)の混合物に、Novozyme 435(0.35g)を加えた。反応混合物を、インキュベータ振盪機において、45℃で48時間、200rpmで振盪した。反応混合物を、反応の完了を知るために、TLCによって分析し、その後、濾過し、濃縮した。得られた粗生成物を、溶離液として、クロロホルム:メタノール(9:1)を用い、シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、白色固体として純粋な生成物を得た。収率は、全反応に対して70%を超えていた。直鎖糖がソルビトールである場合に、同様の結果が得られる。
(例2)
MGでのゲル化方法
通常、ゲル化剤(5mg)を、100μLの必要とされる有機液体を入れた2mLのシンチレーションバイアルに加えた。固体が完全に溶けるまでバイアルを加熱し、勢いよく振った。得られる均質な溶液を、静かに放置して室温まで冷ました。シンチレーションバイアルを逆さにして、重力による流れが観察されない場合に、ゲル状態が達成されたと判断した。ゲル化剤がゲル化できる有機液体の最大量を求めるために、重力による流れが観察されるまで有機液体の量を50μLずつ段階的に増やした。ゲル化剤と有機液体の比の濃度が、%質量/容積の形で表され、その特定の有機液体でのゲル化剤の最低ゲル化濃度(MGC)として表される。
(例3)
ゲルの融解温度(TGEL
ゲルの融解温度を、通常の「試験管を逆さにする方法(inversion tube method)」によって求めた。2mLのシンチレーションバイアルに、必要とされる有機液体に0.5wt%のゲル化剤を溶かすことによってゲルを調製し、堅く締まるネジ付き蓋で閉じた。バイアルを、「逆さにして」油浴に浸漬し、ゆっくりと加熱した。粘性のあるゲルが溶ける温度を、Tgelとして記録した。
【0037】
(例4)
光学顕微鏡による研究
小部分のゲルを含む標準的なスライドガラスを、Leica DM LB2顕微鏡ステージに乗せ、相変化を、C−Span 10× PH1位相差対物レンズで観察した。
(例5)
ゲル構造のモルホロジー研究(SEM)
走査電子顕微鏡(SEM)画像を、様々な倍率で、Zeiss DSM 940熱電子銃型電子顕微鏡(thermionic electron microscope)で記録した。ゲルのモルホロジーを、周囲条件の下での乾燥によって調製した試料により研究した。SEM分析の前に、スパッターコーティング装置を用い、ゲル試料に金をコーティングした。
(例6)
赤外(IR)分光法
ゲルのIR分光分析は、Nicolet 380 FT−IR分光光度計を、ATRモードで用いて実施し、他方、液体試料は、NaClプレートの間に挟んだ。
【0038】
(例7)
X線回折研究
小部分のゲル試料を、試料ホルダに移し、直ちに、反射を測定した。XRD測定は、MPD PW 3040/60付きPANalytical X’Pert PRO、発生装置S/N DY 2974、および単色Cu−Co放射線(45kV、40A)で実施した。
(例8)
従来の方法による相選択的ゲル化(PSG)
通常、必要とされる有機液体(300〜700μl)を、4mlのシンチレーションバイアルに取り、それに水(700〜300μl)を加えた。この2相混合物に、ゲル化剤(1〜1.5×MGC)を加えた。混合物全体を加熱し(ゲル化剤を有機液体に溶かすため)、ボルテックスにかけた(2相を均一に分散させるため)。その後、バイアルを放置し、室温まで冷ました。バイアルを逆さにした際に、重力による流れが観察されない時に、有機液体のゲルの状態を認定した。
(例9)
アリコート法による相選択的ゲル化(PSG)
通常、ゲル化剤のアリコートを、適切な溶媒で調製した(本出願では、THFを用いた)。シンチレーションバイアルに、必要とされる有機液体(300〜700μL)と水(700〜300μL)の2相混合物を取った。1〜1.5×MGCの濃度をもたらすことができる、調製したアリコートを、界面に注入し、放置した。やはり、バイアルを逆さにした際に、重力による流れが観察されない時に、ゲルの状態を認定した。
【0039】
(例10)
親水性の薬学的活性成分のカプセル化
10mgのカフェインを、1gのカノーラ油および0.015gのマンニトールオクタノエートと、90℃で混合する。冷却すると、溶液は増粘し、ゲル化するので、カノーラ油がカフェインをカプセル化する。両親媒性エステルがソルビトールオクタノエートの場合に、同様の結果が得られる。
(例11)
親油性の薬学的活性成分のカプセル化
2gのクルクミンを、20gのトリグリセリドおよび0.5gのマンニトールオクタノエートと、75℃で混合する。冷却すると、溶液は増粘し、ゲル化するので、トリグリセリドがクルクミンをカプセル化する。両親媒性エステルがソルビトールオクタノエートの場合に、同様の結果が得られる。
(例12)
輸送を容易にするための原油のゲル化
1kgの原油を、0.03kgのマンニトールオクタノエートと、周囲温度で混合する。液体の原油は、マンニトールオクタノエートの添加によりゲルを生成する。ゲル化した原油は、トラックにより輸送される。流出は、原油のゲル化によって防がれる。直鎖糖がソルビトールの場合に、同様の結果が得られる。
【0040】
(例13)
マイクロエマルジョンの生成
10mgのマンニトールオクタノエートを、1mLのカノーラ油および3mLの水の混合物(pH=7〜8)と混合する。混合物を、適当な時間、超音波処理し、ボルテックスにかけて、透光性のマイクロエマルジョンを得る。直鎖糖がソルビトールの場合に、同様の結果が得られる。
図1
図2
図4
図5
図3
図6