【実施例1】
【0012】
まず、「全体システム構成」、「クラッチ耐久寿命管理制御処理構成」に分け、構成を以下に説明する。
【0013】
[全体システム構成]
後輪駆動車の駆動系は、
図1に示すように、エンジン1と、自動変速機2と、プロペラシャフト3と、ディファレンシャル4と、左ドライブシャフト5と、右ドライブシャフト6と、左後輪7と、右後輪8と、を有する。なお、9は左前輪、10は右前輪であり、従動輪である。
【0014】
前記自動変速機2は、ロックアップクラッチ21を有するトルクコンバータ22と、変速要素としての複数のクラッチ23とギヤトレーンを有し、クラッチ架け替え制御により有段階の変速段を自動的に切り替える変速機構24と、を備えている。ロックアップクラッチ21は、エンジン出力軸25と変速機入力軸26との間に介装される。クラッチ23は、変速機入力軸26と変速機出力軸27との間であって、選択された変速段でのトルク伝達経路に介装される。なお、
図1では、1つのクラッチ23のみを示すが、実際は駆動力伝達系に備えられた自動変速機2に複数個設けられ、変速時に締結/開放が制御されるそれぞれのクラッチ23(摩擦多板クラッチや摩擦多板ブレーキなど)を、変速用の摩擦締結要素として、耐久寿命管理の対象とする。
【0015】
後輪駆動車の制御系は、
図1に示すように、ATコントローラ11と、車速センサ12と、アクセル開度センサ13と、タービン回転数センサ14と、クラッチ23の出力側回転数Noを検出するアウトプット回転数センサ15と、ライン圧センサ16と、ATF油温センサ17と、イグニッションスイッチ18と、を有して構成されている。
【0016】
前記ATコントローラ11は、アップ変速及びダウン変速を制御する変速制御処理部31と、クラッチ耐久寿命管理処理部32と、累積被害度算出部33と、を備える。
【0017】
前記変速制御処理部31は、変速制御を行う際、アップ変速線及びダウン変速線が決められた図外の変速マップ上での運転点(VSP,APO)の位置により目標変速段を決め、目標変速段を得るアップ変速やダウン変速の変速制御処理を行う。ここで、変速マップとは、車速VSPとアクセル開度APOを座標軸とし、アップ変速線とダウン変速線を設定したマップをいう。
【0018】
前記クラッチ耐久寿命管理処理部32は、累積被害度算出部33により算出される累積被害度yに基づき、クラッチ23の延命制御処理や耐久寿命インフォメーション処理を、変速制御処理部31での変速時間を変更することにより行う(
図2)。
【0019】
前記タービン回転数センサ14とアウトプット回転数センサ15とライン圧センサ16とATF油温センサ17は、累積被害度を算出する際、クラッチ相対回転数情報やライン圧情報や変速機作動油(ATF)の油温情報として用いられる。
【0020】
[クラッチ耐久寿命管理制御処理構成]
図2に示すフローチャートに基づき、
図3〜
図10を用いながらクラッチ耐久寿命管理制御処理の詳細手順を説明する。以下の説明において、「保証走行距離(x3)」とは、クラッチ23の正常な締結/解放性能を維持したまま走行できると予め保証した走行距離(例えば、12万kmや19万km)をいう。「被害度進行確認距離(x1)」とは、保証走行距離より短い距離であって、かつ、クラッチ23が使用臨界値に到達する前の距離として予め設定された走行距離をいう。「被害度進行確認距離(x1)」の設定の一例を述べると、複数取得した実験データの中から、最大の傾きで累積被害度が使用臨界値に到達するデータを選択し、選択した傾きデータが使用臨界値に到達する走行距離に設定する。
【0021】
ステップS1では、走行開始から積算された走行距離が、被害度進行確認距離x1に到達したか否かを判断する。YES(走行距離≧x1)の場合はステップS3へ進み、NO(走行距離<x1)の場合はステップS2へ進む。
【0022】
ステップS2では、ステップS1での走行距離<x1であるとの判断に続き、車両が走行開始してから被害度進行確認距離x1までの走行区間において、変速又はスリップ締結を経験する毎にクラッチ23の累積被害度yを算出し、ステップS1へ戻る(累積被害度算出手順)。
【0023】
ここで、累積被害度yは、
図3及び
図4に示すように、クラッチ23を用いた1回の変速で発生する発熱量Qからマイナー則を用いて算出する。なお、
図3に示すQ−N体力線は、発熱量Qに対し、クラッチ23が使用臨界値(=1)に達する臨界変速回数Nの関係を示す図で、発熱量Qが高いほど臨界変速回数Nは少なくなる。例えば、発熱量Qiのときには、Q−N体力線と交わる臨界変速回数がNiとなり、仮に同じ発熱量Qiの変速が繰り返される場合、Ni回の変速経験によりクラッチ23が使用臨界値(=1)に達することになる。
すなわち、
図4に示すように、変速スタート時刻t1から変速終了時刻t2までのうち、1回の変速で発生する発熱量Qを、
Q=∫{V/(P−RTN圧)×K}dt
V:差回転、P:油圧、RTN圧:変速学習反映値、K:一定値
の式により算出する。
そして、今回の発熱量Qnと
図3に示すQ−N体力線を用い、算出された今回の発熱量Qnに対応する今回の臨界変速回数Nnを求めると、変速による累積被害度yは、
y=y(n-1)+(1/Nn)の式により算出される。
但し、y(n-1)は、1回目から前回((n-1)回)までの累積被害度yである。
【0024】
ステップS3では、ステップS1での走行距離≧x1であるとの判断、つまり、車両の走行距離xが被害度進行確認距離x1に到達したとの判断に続き、これまで実行されてきた通常制御による走行を継続したときにクラッチ23の累積被害度yが使用臨界値(y=1)に到達する臨界走行距離x2を予測し、ステップS4へ進む(耐久寿命予測手順)。
ここで、臨界走行距離x2を予測するに際しては、
図5に示す走行距離xに対する累積被害度yの変化特性において、走行開始点Oと被害度進行確認距離x1と累積被害度y1の交点Fを結ぶ線を被害度予測線として算出する。累積被害度y1は、被害度進行確認距離x1までの走行区間においてステップS2にて算出された累積被害度である。そして、被害度予測線をそのまま延長したとき、クラッチ23の使用臨界値(y=1)と交わる点Gでの走行距離を臨界走行距離x2として予測する。
【0025】
ステップS4では、ステップS3での臨界走行距離x2の予測に続き、予測された臨界走行距離x2と保証走行距離x3の比較により、保証走行距離x3までクラッチ23の耐久性が確保されるか否かを判断する。YES(x2≧x3)の場合はステップS5へ進み、NO(x2<x3)の場合はステップS8へ進む。
【0026】
ステップS5では、ステップS4でのx2≧x3であるとの判断、あるいは、ステップS7での累積被害度y<Zであるとの判断に続き、良好な変速品質が確保された通常制御フェーズ(
図6の変速時間Cを参照)をそのまま継続し、ステップS6へ進む。
【0027】
ステップS6では、ステップS5での通常制御フェーズの継続に続き、ステップS2と同様に、被害度進行確認距離x1を通過した後の走行区間におけるクラッチ23の累積被害度yを算出し、ステップS7へ進む(累積被害度算出手順)。
【0028】
ステップS7では、ステップS6での累積被害度yの算出に続き、累積被害度yが、予め設定されたインフォメーション閾値Z以上であるか否かを判断する。YES(累積被害度y≧Z)の場合はステップS12へ進み、NO(累積被害度y<Z)の場合はステップS5へ戻る。
ここで、インフォメーション閾値Zは、クラッチ23の使用臨界値である“1”に近くなったことを検知する値(例えば、“1”に達する直前の0.99)に設定される。
【0029】
ステップS8では、ステップS4でのx2<x3であり、保証走行距離x3までクラッチ23の耐久性が確保されないとの判断に続き、被害度進行確認距離x1からの累積被害度yの進行を遅らせ、保証走行距離x3までクラッチ23の耐久寿命を延長させる累積被害度延命線を決定し、ステップS9へ進む。
ここで、累積被害度延命線は、保証走行距離x3まで走行したときにクラッチ23の累積被害度yが使用臨界値(y=1)に到達するように、被害度進行確認距離x1と累積被害度y1の交点Fと、保証走行距離x3と使用臨界値の交点Hを、
図5に示すように、滑らかに繋ぐ線とする。
この累積被害度延命線(F〜H)を作り出すため、
図6のC〜B特性に示すように、変速時間に対する累積被害度yが指数関数で増加してゆく特性とし、延命制御開始の変速時間C(通常変速時の変速時間相当)から累積被害度yの進行に応じて変速時間Bまで徐々に短くする延命制御内容とする。これによって、
図7のC〜B特性に示すように、変速時間に対する1変速当たりの
被害度βは、変速時間を短くするにしたがって低下する。
また、変速時間の指数関数は、自然対数による特性式である
L+Mlog
e(t+N)
により設定される。なお、Lは特性が累積被害度軸と交わる切片をあらわし、Mは特性の傾きであるゲイン感度をあらわし、Nは特性の変速時間軸と交わる切片をあらわす。
【0030】
ステップS9では、ステップS8での累積被害度延命線の決定、或いは、ステップS10での累積被害度y<Zであるとの判断に続き、変速制御を、通常制御から設定された延命制御フェーズに切り替え、被害度進行確認距離x1を通過した後の走行区間にて延命制御を実行し、ステップS10へ進む。
この変速時間を短くする延命制御フェーズにおいては、アクセル開度APOが設定開度γ(例えば、APO=3/8開度)以下で変速するときに限り例外として、延命制御処理を行わず、変速品質が確保される変速時間による通常制御処理と同等の変速処理を実行する。すなわち、
図8に示すように、アクセル開度が設定開度γ以下のときは、1変速当たりの累積被害度β1が小さいため、例外的に変速品質を優先する通常制御処理と同等の変速処理を実行する。なお、APO=3/8開度以上の領域においては、エンジン回転数に対するエンジントルク特性が狭いトルク範囲に詰まるため、アクセル開度APOをエンジントルクに比例する値とする。
【0031】
ステップS10では、ステップS9での延命制御フェーズに続き、ステップS2と同様に、被害度進行確認距離x1を通過した後の走行区間におけるクラッチ23の累積被害度yを算出し、ステップS11へ進む(累積被害度算出手順)。
【0032】
ステップS11では、ステップS10での累積被害度yの算出に続き、累積被害度yが、予め設定されたインフォメーション閾値Z以上であるか否かを判断する。YES(累積被害度y≧Z)の場合はステップS12へ進み、NO(累積被害度y<Z)の場合はステップS9へ戻る。ここで、インフォメーション閾値Zは、ステップS7と同じ値を用いる。
なお、ステップS4→ステップS8→ステップS9→ステップS10へと進む流れは、延命制御手順に相当する。
【0033】
ステップS12では、ステップS7又はS11での累積被害度y≧Zであるとの判断に続き、累積被害度yが使用臨界値1に近くなる前の変速時間C(延命制御無し)又は変速時間B(延命制御有り)から、変速ショックの発生を運転者に対し意図的に気付かせる所定時間以下の短い変速時間Aへと変更する耐久寿命インフォメーション処理を実行し、ステップS13へ進む(耐久寿命インフォメーション手順)。
ここで、所定時間以下の短い変速時間Aは、累積被害度yの進行が生じない範囲にて設定する。つまり、
図6に示すように、変速時間をC又はBからAまで一気に低下させることで、
図7に示すように、変速時間Aでは、1変速当たりの被害度βをゼロ、若しくは、ほぼゼロにする。さらに、所定時間以下の短い変速時間Aは、車両のイナーシャが大きい車種であるほど長い時間に設定する。つまり、車両のイナーシャにかかわらず、固定時間として変速時間Aを決めると、イナーシャが大きい車両のとき変速ショックが過大になり、イナーシャが小さい車両のとき変速ショックが過小になることによる。
【0034】
ステップS13では、ステップS12での耐久寿命インフォメーション処理に続き、非常灯を点灯し、運転者への注意喚起を促し、エンドへ進む。
【0035】
次に、「延命制御を要さないクラッチ耐久寿命管理作用」、「延命制御を要するクラッチ耐久寿命管理作用」に分け、作用を説明する。
【0036】
[延命制御を要さないクラッチ耐久寿命管理作用]
走行開始から積算された走行距離xが被害度進行確認距離x1に到達するまでは、
図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップ2へ進む流れが繰り返される。したがって、ステップS2では、車両が走行開始してから被害度進行確認距離x1までの走行区間におけるクラッチ23の累積被害度y1'が算出される。
【0037】
そして、走行距離xが被害度進行確認距離x1に到達すると、
図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップ3→ステップS4へと進む。ステップS3では、これまで実行されてきた通常制御による走行を継続したときにクラッチ23の累積被害度yが使用臨界値(y=1)に到達する臨界走行距離x2'が予測される。延命制御を要さない場合には、
図5に示すように、走行距離xに対する累積被害度yの変化特性において、走行開始点Oと被害度進行確認距離x1と累積被害度y1'の交点F’を結ぶ線が被害度予測線として算出される。なお、累積被害度y1'は、被害度進行確認距離x1までの走行区間においてステップS2にて算出された累積被害度である。そして、被害度予測線をそのまま延長したとき、摩擦締結要素の使用臨界値(y=1)と交わる点G’での走行距離が臨界走行距離x2'として予測される。
【0038】
次のステップS4では、ステップS3にて予測された臨界走行距離x2'と保証走行距離x3の関係がx2'≧x3である、つまり、通常制御を継続しても保証走行距離x3まで耐久性が確保されるとの判断に基づき、ステップS5→ステップS6→ステップS7へと進み、ステップS7で累積被害度y<Zであると判断される限り、ステップS5→ステップS6→ステップS7へと進む流れが繰り返される。ステップS5では、良好な変速品質が確保された通常制御フェーズがそのまま継続され、ステップS6では、ステップS2と同様に、被害度進行確認距離x1を通過した後の走行区間におけるクラッチ23の累積被害度yが算出されステップS7では、算出された累積被害度yが、予め設定されたインフォメーション閾値Z以上であるか否かが判断される。
【0039】
そして、ステップS7にて累積被害度y≧Zであると判断されると、ステップS12へ進み、累積被害度yが使用臨界値1に近くなる前の通常制御での変速時間Cから、変速ショックの発生を運転者に対し意図的に気付かせる所定時間以下の短い変速時間Aへと変更する耐久寿命インフォメーション処理が実行され、次のステップS13では、非常灯が点灯される。
【0040】
すなわち、クラッチ23が耐久寿命に近くなると、通常制御での変速時間Cから所定時間以下の短い変速時間Aへと急に変更されることで、1回の変速による被害度βが低く抑えられ、使用臨界値1に到達するまでの累積被害度yの進行が遅らせられる。加えて、自動変速機2による変速を経験する毎に大きな変速ショックが発生することにより、運転者は、駆動系に異変が発生していることを確信する。そして、これまで経験したことがないような大きさの変速ショックを繰り返し体感すると、運転者は、このままでの走行を継続すると何らかの支障を招くことになるとの思いが強くなり、支障を回避するようにディーラーに向かう等の対策行動をとることになる。このとき、非常灯が点灯されていることが、さらに対策行動をとる決心を後押しする。
【0041】
[延命制御を要するクラッチ耐久寿命管理作用]
延命制御を要する場合には、
図7に示すように、走行距離xに対する累積被害度yの変化特性において、走行開始点Oと被害度進行確認距離x1と累積被害度y1の交点Fを結ぶ線が被害度予測線として算出される。なお、累積被害度y1は、被害度進行確認距離x1までの走行区間においてステップS2にて算出された累積被害度である。そして、被害度予測線をそのまま延長したとき、摩擦締結要素の使用臨界値(y=1)と交わる点Gでの走行距離が臨界走行距離x2として予測される。
【0042】
このとき、ステップS3にて予測された臨界走行距離x2と保証走行距離x3の関係がx2<x3である、つまり、通常制御を継続すると保証走行距離x3まで耐久性が確保されないとの判断に基づき、ステップS4からステップS8→ステップS9→ステップS10→ステップS11へと進む。そして、ステップS11で累積被害度y<Zであると判断される限り、ステップS9→ステップS10→ステップS11へと進む流れが繰り返され、変速制御が通常制御から延命制御へと切り替えられる。
【0043】
ステップS8では、
図5に示すように、保証走行距離x3まで走行したときにクラッチ23の累積被害度yが使用臨界値(y=1)に到達するように、被害度進行確認距離x1と累積被害度y1の交点Fと、保証走行距離x3と使用臨界値の交点Hとを滑らかに繋ぐ累積被害度延命線が決定される。次のステップS9では、走行距離xに対するクラッチ23の累積被害度yが指数関数的に増加するように、変速時間を徐々に短くする延命制御に切り替えられ、次のステップS10では、累積被害度yが算出される。
【0044】
そして、ステップS11で累積被害度y≧Zであると判断されると、ステップS12へ進み、累積被害度yが使用臨界値1に近くなる前の延命制御での変速時間Bから、変速ショックの発生を運転者に対し意図的に気付かせる所定時間以下の短い変速時間Aへと変更する耐久寿命インフォメーション処理が実行され、次のステップS13では、非常灯が点灯される。
【0045】
すなわち、延命制御の開始から累積被害度y≧Zであると判断されるまでは、累積被害度yが上昇するにしたがって変速時間が短くされることで、変速ショックが次第に大きくなってゆき、使用臨界値1に近くなると、運転者は、確信を持てないまでも駆動系に異変が発生していることに気付き始める。そして、累積被害度y≧Zになると、延命制御での変速時間Bから所定時間以下の短い変速時間Aへと急に変速時間が変更されることで、延命制御を要さない場合と同様に、大きな変速ショックが発生する。これによって、運転者は、駆動系に異変が発生していることを確信し、ディーラーに向かう等の対策行動をとることになる。このとき、非常灯が点灯されていることが、さらに対策行動をとる決心を後押しする。
【0046】
そして、実施例1では、通常制御を維持したままであると保証走行距離x3までのクラッチ耐久寿命が確保されないと予測される場合は、通常制御から延命制御へと切り替える手順(ステップS1→ステップS3→ステップS4→ステップS8→ステップS9→ステップS10)を採用した。このため、保証走行距離x3まで走行しないうちにクラッチ23の耐久寿命を迎えることが予測される場合、クラッチ23の耐久寿命を保証走行距離x3まで延命させることができる。
【0047】
さらに、実施例1では、延命制御として、通常制御での変速ショックを抑えた変速時間Cから、走行距離xに対するクラッチ23の累積被害度yが指数関数的に増加するように変速時間を徐々に短くする制御を採用した。このため、変速時間を徐々に短くする延命制御でありながら、運転者が受ける感覚として、違和感のない変速感の推移により、クラッチ23の耐久寿命を延命させることができる。なぜなら、感覚量と刺激量の関係は指数関数になるというウェーバー・フェヒナーの法則による。つまり、指数関数特性を用い、延命制御の開始域では、変速ショックの大きさ(刺激量)をゆっくりと大きくし、延命制御の進行にしたがって早めるように変速ショックを大きくした場合、運転者が変速ショックを感じる量(感覚量)としては、緩やかな勾配で変速ショックが比例的に増すように感じる。
【0048】
次に、実施例1の効果を列挙する。
(1) 車両の駆動力伝達系に備えられ、締結/解放が制御される摩擦締結要素(クラッチ23)を管理対象とし、前記摩擦締結要素(クラッチ23)が使用臨界値(y=1)になるまでの耐久寿命を管理する摩擦締結要素の耐久寿命管理方法において、
前記車両が走行開始してからの前記摩擦締結要素(クラッチ23)の累積被害度yを算出する累積被害度算出手順(
図2のステップS2,S6,S10)と、
前記累積被害度yが前記摩擦締結要素(クラッチ23)の使用臨界値(y=1)に近くなったことを検知したとき、前記駆動力伝達系に備えられた変速機(自動変速機2)の変速時間を、前記累積被害度yが使用臨界値(y=1)に近くなる前の変速時間C又はBから、変速ショックの発生を運転者に対し意図的に気付かせる所定時間以下の短い変速時間Aへと変更する耐久寿命インフォメーション手順(
図2のステップS12)と、
を備える。
このため、摩擦締結要素(クラッチ23)が耐久寿命に近づくと、累積被害度yの進行を遅らせつつ運転者に対策行動を促すことができる。
【0049】
(2) 前記耐久寿命インフォメーション手順(
図2のステップS12)は、前記所定時間以下の短い変速時間Aを、前記累積被害度yの進行が生じない範囲にて設定する。
このため、(1)の効果に加え、運転者の対策行動が遅れ、しばらくの間、走行を継続しても、摩擦締結要素(クラッチ23)が耐久寿命へ到達するのを防止できる。
【0050】
(3) 前記耐久寿命インフォメーション手順(
図2のステップS12)は、前記所定時間以下の短い変速時間Aを、車両のイナーシャが大きいほど長い時間に設定する。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、車両のイナーシャの大きさにかかわらず、耐久寿命インフォメーションとして適切な変速ショックを与えることができる。
【0051】
(4) 前記摩擦締結要素(クラッチ23)の正常な締結/解放性能を維持したまま走行できると予め保証した走行距離xを「保証走行距離x3」とし、前記保証走行距離x3より短い距離であって、かつ、前記摩擦締結要素(クラッチ23)が使用臨界値(y=1)に到達する前の距離として予め設定された走行距離xを「被害度進行確認距離x1」としたとき、
前記車両が走行開始してから前記被害度進行確認距離x1までの走行区間における前記摩擦締結要素(クラッチ23)の累積被害度y1を算出する累積被害度算出手順(
図2のステップS2)と、
前記車両の走行距離xが前記被害度進行確認距離x1に到達すると、これまで実行されてきた通常制御による走行を継続したときに前記摩擦締結要素(クラッチ23)の累積被害度y1が使用臨界値(y=1)に到達する臨界走行距離x2を予測する耐久寿命予測手順(
図2のステップS3)と、
前記予測された前記臨界走行距離x2が、前記保証走行距離x3よりも短いと判断されたとき(ステップS4でNO)、前記摩擦締結要素(クラッチ23)の締結/解放制御を、前記被害度進行確認距離x1に到達するまでの通常制御から、通常制御に比べて累積被害度yの進行を遅らせる延命制御へと切り替える延命制御手順(
図2のステップS8〜ステップS10)と、
を備える。
このため、保証走行距離x3まで走行しないうちに摩擦締結要素(クラッチ23)が耐久寿命を迎えることが予測される場合、摩擦締結要素(クラッチ23)の耐久寿命を延命させることができる。
【0052】
(5) 前記延命制御手順(
図2のステップS8〜ステップS10)は、走行距離xに対する摩擦締結要素(クラッチ23)の累積被害度yが指数関数的に増加するように、変速時間を徐々に短くする延命制御に切り替える。
このため、(4)の効果に加え、変速時間を徐々に短くする延命制御でありながら、運転者が受ける感覚として、違和感のない変速感の推移により、摩擦締結要素(クラッチ23)の耐久寿命を延命させることができる。
【0053】
(6) 前記延命制御手順(
図2のステップS8〜ステップS10)は、変速時間を短くする延命制御中であっても、アクセル開度APOが設定開度以下での変速するとき、延命制御処理を行わず通常制御処理と同等の変速制御を実行する。
このため、(4)又は(5)の効果に加え、延命制御中であっても、乗員のショック感度が高いアクセル開度APOが設定開度以下での変速するとき、変速ショックのない変速品質を確保することができる。
【0054】
以上、本発明の摩擦締結要素の耐久寿命管理方法を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な手順については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0055】
実施例1では、エンジン車の自動変速機に適用する例を示した。しかし、本発明は、車両用自動変速機の変速に関与する摩擦締結要素の耐久寿命管理に好適で、摩擦締結要素の締結/解放や発進時のスリップ締結を油圧等の媒体を介して電子制御装置にて制御する車両用自動変速機ならどのようなものにでも適用可能であり、例えば、本出願人が過去に出願した特開2010−77981号公報に記載のようなハイブリッド車両用自動変速機にも好適である。
【0056】
実施例1では、耐久寿命予測手順(ステップS3)として、走行開始点Oと交点Fを結ぶ線を被害度予測線として算出し、被害度予測線をそのまま延長したとき使用臨界値(y=1)と交わる点Gでの走行距離を臨界走行距離x2とする例を示した。しかし、耐久寿命予測手順としては、走行開始点Oと交点Fまでの変化特性を解析し、特性解析に基づき被害度進行確認距離以降の変化特性線(直線特性線、曲線特性線を含む)を予測し、予測特性線が使用臨界値と交わる点での走行距離を臨界走行距離とする例としても良い。
【0057】
本発明の耐久寿命管理方法は、自動変速機に備えられた全ての摩擦締結要素に適用せずとも、自動変速機の耐久寿命管理としての効果を十分奏し得るもので、変速に関与する頻度が少ない摩擦締結要素、例えば、後進時のみ締結される摩擦要素や高速走行時のみ締結される摩擦要素などを管理対象から除外しても良い。