(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909229
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】人工セルロソーム、およびレジリエントな基質の酵素的分解のためのその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 9/00 20060101AFI20160412BHJP
C12N 9/42 20060101ALI20160412BHJP
C12N 11/18 20060101ALI20160412BHJP
C12P 19/14 20060101ALI20160412BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
C12N9/00ZNA
C12N9/42
C12N11/18
C12P19/14 A
C12N15/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-520003(P2013-520003)
(86)(22)【出願日】2011年7月19日
(65)【公表番号】特表2013-530717(P2013-530717A)
(43)【公表日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】EP2011003617
(87)【国際公開番号】WO2012010295
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2013年3月6日
(31)【優先権主張番号】10007525.8
(32)【優先日】2010年7月20日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513306280
【氏名又は名称】テクニッシェ ウニヴェルズィテート ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ ウォルフガング エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ズヴェルロフ ウラジーミル ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ホルンブルク ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】コック ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】シュルテ ルイス‐フィリップ
【審査官】
高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−142260(JP,A)
【文献】
特開平11−221086(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/057064(WO,A2)
【文献】
国際公開第2010/012805(WO,A1)
【文献】
Journal of Biotechnology,2007年,Vol. 131,pp.433-439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)及び(b)を含む、単離された複合体:
(a)以下の(i)及び(ii)を含む、骨格スキャフォールド:
(i) 糖質結合モジュール(CBM)、及び
(ii)コヘシンI型、コヘシンII型、ドックリンI型、ドックリンII型、これらのコヘシンの各型と90%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体、および、これらのドックリンの各型と90%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体からなる群から選択される、少なくとも4つの結合部位を含み、ここで、該結合部位のうち少なくとも2つが本質的に同じ結合特異性を有する、結合部位であり;並びに
(b)該4つの結合部位のそれぞれに結合された酵素成分であって、該酵素成分のうち少なくとも3つが異なる酵素成分である、該酵素成分、
ここで、該骨格スキャフォールドが直鎖状の骨格であって、さらに、該骨格スキャフォールドが、1つまたは複数のタンパク質からなり、2つまたはそれ以上の該タンパク質がコヘシン-ドックリン相互作用によって一緒に連結されており、それによって、該連結の相互作用の結合特異性が、酵素−骨格結合の結合特異性とは異なっている、前記単離された複合体。
【請求項2】
骨格スキャフォールドが、セルロース分解性のセルロソーム形成微生物由来の非触媒足場タンパク質またはその遺伝子改変誘導体に由来する、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
骨格スキャフォールドが、クロストリジウム・サーモセラム由来の非触媒足場タンパク質CipAまたはその遺伝子改変誘導体に由来する、請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
骨格スキャフォールドが、配列番号24に示されるCBM-コヘシンI型-コヘシンI型-ドックリンII型、配列番号22に示されるコヘシンII型-CBM-コヘシンI型-ドックリンI型、配列番号26に示されるコヘシンI型-CBM-コヘシンI型、またはそれらのコヘシンモジュールにおいて90%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体を含む、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
酵素成分が、酵素の触媒モジュールとドックリンモジュールとを含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の複合体。
【請求項6】
酵素成分が、多糖分解性微生物由来のグリコシダーゼ、プロセッシブもしくは非プロセッシブエンド-β-1,4-グルカナーゼ、およびプロセッシブエキソ-β-1,4-グルカナーゼ、またはそれらの遺伝子改変誘導体からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか一項記載の複合体。
【請求項7】
酵素成分が、クロストリジウム・サーモセラムのセルロソームのドックリンモジュール含有成分に由来するか、またはクロストリジウム・サーモセラムの非セルロソーム成分にドックリンモジュールを融合させたものに由来する、請求項6記載の複合体。
【請求項8】
酵素成分が、配列番号8に示されるCelK-d1、配列番号10に示されるCelR-d1、配列番号14に示されるCelT-d1、配列番号16に示されるCelE-d1、配列番号6に示されるCelS-d1、および配列番号4に示されるBglB-d1、またはそれらのドックリンモジュールにおいて90%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体を含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の複合体。
【請求項9】
以下の工程を含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の複合体を調製する方法:
(a)請求項1および5〜8のいずれか一項記載の酵素成分を組換え生産する工程;
(b)請求項1〜4のいずれか一項記載の骨格スキャフォールドを組換え生産する工程;
(c)精製された、部分的に精製された、または精製されていない、工程(a)および(b)の成分をインビトロで混合する工程;ならびに
(d)該酵素成分を該骨格スキャフォールドにランダムに結合させる工程。
【請求項10】
工程(c)における骨格スキャフォールドの総量および酵素成分の総量が、コヘシンモジュール1に対して酵素成分1のモル比で一緒に混合され、かつ少なくとも3つの酵素成分が、互いに対して1:1〜1:15のモル比で一緒に混合される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
以下の工程を含む、多糖基質を酵素的に加水分解する方法:
(a)請求項1〜8のいずれか一項記載の複合体を不溶性セルロースと混合する工程;および、任意で
(b)分解産物を単離する工程。
【請求項12】
多糖基質を酵素的に加水分解するための、請求項1〜8のいずれか一項記載の複合体の使用。
【請求項13】
多糖基質が結晶セルロースまたは結晶セルロース含有基質である、請求項11記載の方法、または請求項12記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、レジリエントな基質の酵素的分解のための人工セルロソームを提供する。特に、本発明は、酵素成分に結合することができる少なくとも4つの結合部位をもつ骨格スキャフォールドであって、該結合部位のうち少なくとも2つが本質的に同じ結合特異性を有するもの;および前記少なくとも4つの結合部位にランダムに結合されている少なくとも3つの異なる酵素成分;を含む複合体を提供する。また、本発明は、前記複合体を調製する方法に関する。さらに、本発明は、セルロースなどのレジリエントな基質を酵素的に分解するための前記複合体ならびに種々の酵素成分の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
セルロースは、バイオ燃料、および化学工業用のビルディングブロックを生産するバイオテクノロジーのための豊富で再生可能な供給源である。リグノセルロース系バイオマス由来のセルロースは、やがて来たる第二世代のホワイトバイオテクノロジーの到来とともに工業規模発酵用の糖の最大の供給源になろうとしている。工業発酵用のグルコースは現在、主にデンプンから生産されている。糖生産のためのセルロースの利用によって、ヘクタールあたりの農産物の収穫高は少なくとも2倍になるだろう。また、やせた土壌で、不利な気候条件下で、さらには乾燥、湿潤、寒冷または塩濃度の高い環境でも成育する植物を含めて、より多くの種類のエネルギー植物を植えられるため、耕地の作付面積を増加させることができるだろう。
【0003】
しかし、セルロースは、酵素的分解にも化学-物理的分解にも抵抗する、扱いにくい材料である。セルロースは分岐のない直鎖状分子の長い繊維から構成されている。それは化学的には、IαおよびIβ形態の規則的な結晶を形成する、高度に均質なβ-1,4-グルカンである
1。しかし、その結晶は完全には構造化されていない - それらは多かれ少なかれ規則的に非晶質の領域が介在している。したがって、セルロースの構造的特徴はきわめて多様であり、さまざまな分解様式の酵素を必要とする。
【0004】
セルロースの酵素的加水分解のための今日の技術では、セルロース系材料の分解のための(通常は真菌由来の)酵素を大量に使用する必要がある。こうした酵素は一般的に再利用できない。加水分解は、次のような多くの理由のため、どちらかといえば非効率的である:材料の不均質性、ヘミセルロース、ペクチンおよびリグニンとの複合体形成、セルロースの結晶化度、細胞壁および結晶の中に強固に埋め込まれていることによる酵素の接近可能性の欠如など。こうしたことは、分解のために必要な各種酵素活性の数を増加させるだけでなく、反応速度を低下させ、それゆえにプロセスの収量を低下させる。反応温度を上げることによって、反応速度を高めることはできるが、酵素の安定性が失われる。結晶質すなわち不溶性の基質に対処する必要がある本質的に遅反応性の酵素であるセルラーゼの酵素群の場合には、それが特に複雑である。セルロースに対するセルラーゼ作用の多様性は、セルラーゼ複合体にかかわる種々の酵素の多様性を説明している:セルロース繊維の構造的不均質性(結晶質または非晶質、エッジまたは面など)、結晶のタイプ(IαまたはIβ)、活性の様式(プロセッシブエキソグルカナーゼまたはセロビオヒドロラーゼ、プロセッシブまたは非プロセッシブエンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼ)。これらの酵素は結晶質基質の効率的な分解のために調和して機能する必要があるが、それらはすべて同一のβ-1,4-グルコシド結合を切断する。
【0005】
ホワイトバイオテクノロジーで一般的に用いられる市販のセルラーゼは、真菌由来の可溶性酵素の混合物を含む。最も成功した生産菌は、とりわけ、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、T.リーゼイ(T. reesei (=ヒポクレア・ジェコリナ(Hypocrea jecorina)))、T.ビリデ(T. viride (=T. harzianumまたはHypocrea atroviridis))、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、クリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)およびペニシリウム・ヤンチネラム(Penicillium janthinellum)である。いくつかのセルラーゼ混合物は、2種の微生物から、例えばT.ロンギブラキアタムとA.ニガーから、またはT.ロンギブラキアタムとT.リーゼイから調製される。これらの真菌類は、一部には選別によるまたは遺伝子工学による徹底的な菌株開発の後で、それらの培養液中に多量の細胞外タンパク質(exoprotein)を産生する。セルラーゼはエンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ(エキソグルカナーゼ)、およびβ-グルコシダーゼを含み、一部の菌株では、いくつかのヘミセルラーゼをも含有する。
【0006】
この新技術では、リグノセルロース系材料などの、持続的に生産される再生可能な糖供給源の加水分解のために、酵素製剤の劇的な需要増加が見込まれる。セルラーゼの他の使用分野は、主に食品、繊維製品、洗剤、製紙業界、および動物飼料への添加物である。セルラーゼにはすでに大きな市場があるが、今後の使用分野は一般的に、バイオ燃料およびバルクケミストリーのバイオテクノロジー分野におけるバイオマス分解の潜在的にかなり大きな新興市場のためのセルラーゼの生産が優位に立つ、と予想される。
【0007】
しかしながら、セルロース結晶の異なる構造特性とその不溶性の性質は、プロセッシブおよび非プロセッシブセルラーゼなど、数種の異なる活性が同時に存在することを必要とする。単一の活性は、単独で存在する場合は活性が低く;組み合わせたときにのみ、酵素は高い活性を示す。単一の酵素と混合物中の複数の酵素とのこの違いは、混合物の活性が単一の活性の合計より高い場合、相乗効果と呼ばれる。しかし、この相乗作用は、「複合体化」されていない、すなわち、吸着によって一緒に集合しているか又は1つのポリペプチドとなっていることのない、単一の酵素の可溶性混合物中の真菌酵素によってもたらされる。可溶性の単一酵素間の相乗作用は、基質の1つの部位において共に作用する少なくとも2つの活性が存在することを妨げる。これは、可溶性の系では、混合物中の酵素が高濃度の場合にのみ起こり得る。真菌セルラーゼの制限事項の例は、酵素的加水分解に必要な濃度が比較的高いこと、熱安定性に乏しいこと、および結合できない割合が高いことである。こうした制限事項は性能向上のために克服されねばならない。
【0008】
市販のセルラーゼの多くを真菌酵素が占めている。しかし、細菌酵素系も精力的に研究されてきた。サーモモノスポラ・ビスポラ(Thermomonospora bispora)または他の好熱好気性細菌の可溶性酵素は、真菌セルラーゼ混合物に加えられるものとして検討されている。一部の嫌気性細菌が記載されており、それらの細胞外酵素系はセルロースに対する高い比活性と処理能力(processivity)を有している。後者のほとんどは大型の細胞外酵素複合体を産生し、その酵素複合体では、骨格スキャフォールド、いわゆるスキャフォールディン(scaffoldin)またはCip(cellulosome integrating protein:セルロソーム統合タンパク質)上に、単一酵素が結合されている。こうした複合体は、種特異的である強力なタンパク質-タンパク質相互作用によって一緒に保持されている。これらの複合体はセルロソームと呼ばれる。比較的少数の細菌がセルロソームを産生することが知られている。それらのリストには、これまでのところ、以下のものが含まれる。
【0009】
ファーミキューテス(Firmicutes)門の場合:
ラクノスピラセアエ科(Lachnospiraceae) - ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)、ルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)、R.アルバス(R. albus);
クロストリジアセアエ科(Clostridiaceae) - クロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)、C.セロビオパルム(C. cellobioparum)、C.パピロソルベンス(C. papyrosolvens)、C.ジョスイ(C. josui)、C.ルロリティカム(C. cellulolyticum)、C.サーモセラム(C. thermocellum)、C. sp. C7、バクテロイデス(Bacteroides)sp. P-1、B.セルロソルベンス(B. cellulosovens)、アセチビブリオ・セルロリティカス(Acetivibrio cellulolyticus)。
【0010】
アクチノバクテリア(Actinobacteria)門の場合:
ノカルディオプサセアエ科(Nocardiopsaceae) - サーモビフィダ(サーモノスポラ)・フスカ(Thermobifida (Thermonospora) fusca)。
【0011】
フィブロバクテレス(Fibrobacteres)門の場合:
フィブロバクテリアセアエ科(Fibrobacteriaceae) - フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)。
【0012】
セルロソームの効率の分析は、絶対嫌気性の好熱性細菌クロストリジウム・サーモセラムによってある程度改善することができた。この細菌は、最も効率の良い酵素的セルロース分解系の1つを含むため、分解抵抗性基質である結晶セルロース上で最も速い増殖速度を示す微生物である
3。理論に縛られないが、他のセルロース分解系に比べて、この高い効率は巨大な酵素複合体の形成によるものである、といういくつかの証拠が蓄積されつつある。しかしながら、その酵素複合体を工業量で生産することはできない。その複合体は約18nmの直径および2×10
6Daを超える質量を有する
4。約30のドックリンを含むセルロソーム関連遺伝子は、C.サーモセラムのゲノムライブラリーを酵素的に活性なクローンについてスクリーニングすることによって、多かれ少なかれ偶然にクローニングされた
5,6。さらに、9つのI型コヘシンモジュールを含むスキャフォールディンタンパク質CipAが同定され、これらのI型コヘシンモジュールには、酵素と他のタンパク質成分がそれらのI型ドックリンモジュール
7によって特異的にドッキングされる。II型コヘシン-ドックリン相互作用は、CipAタンパク質を細胞壁結合タンパク質OlpBまたはSdbAに、そしておそらく他のタンパク質に、固定する
8,9。非酵素成分CspPが巨大な複合体の構造形成に関与していると予想される
10。しかし、その複合体の構造について、そしてそれがどのように構築されるかについて、多くは知られていない。他の細菌から研究されたセルロソームもまた、しばしば異なるアーキテクチャをもつスキャフォールディンタンパク質を含んでいる。
【0013】
クロストリジウム・サーモセラムATCC 27405のゲノム配列
11において、72種のセルロソーム遺伝子が同定された
12。単離されたセルロソームのプロテオーム解析およびmRNA解析により、最も一般的なセルロソーム成分が同定された。しかしながら、これらの成分のどれがセルロース分解に不可欠であるのか、また、複合体形成がどのような役割を果たし得るのか、まったく不明であった。
【0014】
これまで可能だったのは、ミニ-スキャフォールディンを組換え生産された2つの酵素成分と組み合わせた小さい三次複合体(tertiary complex)の構築によるセルロソームの部分的再構成のみであり、これは明確な相乗効果を示した
14。別の研究グループによって単離されたAD2と呼ばれる変異体は、セルロースに吸着しなかったが、その分子機構、セルロース分解能力およびセルロソーム形成に関しては特性解析されていない
15,16。C.サーモセラムの変異誘発培養物から、結晶セルロースに吸着しない非セルロソーム形成変異体が単離された
17。
【0015】
他のグループは、例えば3つの異なるコヘシンモジュールを同数の異なる酵素成分との標的化された等モルでの結合のために有する骨格スキャフォールドを構築している(例えば、WO=2010057064(特許文献1))。複雑なセルロソーム構造は、構築された「酵母コンソーシアム」を用いて酵母細胞表面上に構築される。本発明の複合体とは対照的に、非統計的な(順序化された)結合のみが意図されており、本発明では可能であるような成分比率の調整が不可能である。
【0016】
WO=2010012805(特許文献2)では、セルロソームのスキャフォールディン由来のXモジュールおよび糖質結合モジュールが、組換え宿主におけるタンパク質の良好な生産と分泌を可能にするために使用される。この場合、セルラーゼ遺伝子はそのポリペプチド鎖に遺伝的に融合されるが、そこではCBMとXモジュールが、最適化されたセルロース分解に導くことを目的とするのではなく、発現のための「ヘルパー」モジュールとして用いられている。
【0017】
US20090035811(特許文献3)では、コヘシン含有タンパク質と酵素セルラーゼが酵母細胞によってインビボで産生されて、細胞表面に結合された状態のままで存在する。これは、比較的大きな細胞表面における酵素複合体の過負荷につながる。酵素成分の組成とそれらの比率をどのように操作し得るかについては示されていない。そのセルロソーム産生生物(酵母)は、別の基質に適した組成に容易に適応させることができない。
【0018】
本発明の非細胞結合型の系とは対照的に、当技術分野で記載された酵母細胞結合型のセルロソームには、それが遺伝子工学的に操作される生物に応じて、ある特定の産物に結合されるという欠点がある。その効率は成分の比率を変えることによって最適化され得ない。さらに、酵母細胞結合型セルロソームのような天然のセルロソームは、工業量での生産が不可能である。
【0019】
3つすべての方法は、おそらく基質の要求に順応できない最適以下の複合体組成のために、天然のセルロソームより高いセルラーゼ活性につながらない。
【0020】
それにもかかわらず、インビトロでのセルロソームの構築およびその単一の成分は、セルロース分解および繊維分解における単一遺伝子の役割を研究するために必要であろう。しかし、そうした試みは、諸成分を天然の状態でバラバラに引き離すことの困難性を克服できないため、これまでのところ成功を収めていない - 複合体の堅固な結合により、温和な非変性方法による容易な分離が妨げられている。
【0021】
結晶セルロースおよび不均質なヘミセルロースなどの不溶性結晶質材料の酵素的分解は、依然として、非効率的で、反応が遅く、高い酵素濃度を必要とし(これは産業上の利用を高価にする)、かつ今日の酵素製剤では比較的効果が薄い。
【0022】
したがって、本発明の目的は、結晶セルロースおよび不均質なヘミセルロースなどのレジリエントな基質を高効率で酵素分解することができる新規な酵素製剤を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、従来技術の酵素混合物の欠点を克服する、特に酵素的分解のために必要とする酵素濃度が低く、酵素製剤の熱安定性を向上させ、かつ酵素の結合率を改善する、新規な酵素製剤ならびにこれらの酵素製剤の有効かつ費用効率の高いインビトロ方法および使用を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】WO=2010057064
【特許文献2】WO=2010012805
【特許文献3】US20090035811
【発明の概要】
【0025】
本発明によれば、以下で詳細に説明される本発明の複合体によって、強力な活性増強を達成することができた。結晶セルロースおよび不均質なヘミセルロースを含むがこれらに限定されないレジリエントな基質に対する一連の触媒作用または相乗作用のいずれかに関与する、そうした酵素系の活性の増強が本明細書に示される。驚くべきことに、本発明者らは、本発明の複合体が、インビトロで再構成されたとき、細菌から単離された天然のセルロソームより結晶セルロースに対して高い活性を示すことを明らかにすることができた。
【0026】
本発明者らは、複合体を形成せず、その代わりに複合体化されていない形態で天然のセルロソーム成分を分泌するC.サーモセラムの変異体を分離した。これらのタンパク質は最初に、増強された活性を有する人工セルロソームを再構成するために使用された。この変異体を用いて、複合体をインビトロで再構成するによって、今回初めて相乗作用の役割を検討することができた。
【0027】
かくして、本発明は、(a)少なくとも4つの結合部位を含む骨格スキャフォールドであって、該結合部位の少なくとも2つが本質的に同じ結合特異性を有するもの;および(b)4つの該結合部位のそれぞれにインビトロで結合された酵素成分であって、該酵素成分の少なくとも3つが異なる酵素成分であるもの;を含む粒子結合型または粒子フリーの複合体を提供する。当該複合体は、骨格スキャフォールド(a)中のコヘシンモジュールと、ドックリン含有酵素成分(b)の合計とを、モル比1:1で含有する。当該複合体において、骨格スキャフォールドについて、少なくとも3つの酵素成分(b)は、互いに対して、1:1〜1:50、1:1.5〜1:30、好ましくは1:1.8〜1:15のモル比で存在することが好ましい。
【0028】
好ましい態様では、前記複合体は粒子フリーまたは単離された複合体である;それは生細胞に結合しておらず、特に酵母細胞に結合していないことが好ましい。
【0029】
好ましくは、前記酵素成分は少なくとも4つの結合部位にインビトロでランダムに結合される。
【0030】
本明細書中で用いる用語「インビトロ」とは、生きている細胞または生物から分離されていることを意味する。
【0031】
本明細書中で用いる用語「複合体」または「酵素複合体」とは、化学的または生物学的相互作用によって結び付いた成分の配位または会合を意味する。前記複合体は、一緒に結び付いて、以下で詳しく説明するような、1つまたは複数のコヘシン含有骨格スキャフォールド、好ましくはコヘシン含有足場タンパク質(本明細書中では「ミニ-スキャフォールディン」とも言う)と、1つまたは複数のドックリン含有酵素成分または非酵素成分とからなる高次複合体(本明細書中では「人工セルロソーム」または「セルラーゼ複合体」と同義的に用いられる)を形成することができる。あるいは、人工セルロソームは、1つまたは複数のドックリン含有骨格スキャフォールド、好ましくはドックリン含有足場タンパク質(本明細書中では「ミニ-スキャフォールディン」とも言う)と、1つまたは複数のコヘシン含有酵素成分または非酵素成分とからなる。これとは対照的に、本明細書中で用いる用語「酵素混合物」は、工業的に生産された可溶性酵素に関係する。
【0032】
本明細書中で用いる用語「粒子結合型」複合体とは、本発明の複合体が担体材料として役立つ粒子に結合されていることを意味する。適切な粒子は例えばナノ粒子である。この技術で用いるナノ粒子は2000nmより小さく、好ましくは100nmより小さい平均直径を有する。それらは、シリコン、金属酸化物、金、ポリスチロールと他の有機ポリマー、および他の非生物材料、または異なる材料の混成物(コア-シェル型ナノ粒子など)といった、有機または無機材料で構成することができる。好ましくは、超常磁性挙動を示す強磁性ナノ粒子が用いられる。より好ましくは、そのコアはポリスチロールなどのポリマーシェルでコーティングされ、かつ該粒子の表面が生体分子の化学的カップリングを可能にするように化学的に修飾される。好ましくは、その修飾は、タンパク質または化学的骨格分子を結合させるために架橋剤とのカップリング反応に用いられる遊離カルボキシル基(COOH)または遊離アミノ基(NH
2)によるものである。
【0033】
あるいは、ナノ粒子の表面、好ましくはアミンまたはカルボキシ官能基で修飾された表面は、技術の最先端をいくように、好ましくはポリエチレングリコール系リンカーなどのヘテロ二官能性分子に、そして最後に、それぞれグルタルアルデヒド(アミン修飾)またはEDC/スルホ-NHS(カルボキシ修飾)によってニトリロ三酢酸(NTA)に、共有結合で架橋することができる。ミニスキャフォールディン骨格分子は、最先端のニッケルアフィニティ技術を用いることによって、(好ましくは6×Hisタグ付き)タンパク質末端のポリヒスチジン融合体を介してNTA残基に結合される。
【0034】
骨格スキャフォールドで覆われたナノ粒子は、複合体の再構成で説明されるように、酵素と混合される。
【0035】
本明細書中で用いる用語「粒子フリー」とは、本発明の複合体がそれぞれ非細胞結合型または分離型であることを意味する。
【0036】
本明細書中で用いる用語「骨格スキャフォールド」は、酵素または非酵素タンパク質成分の適切な結合部位を提供し、複合体の骨格として用いられる支持体に関する。その骨格は複数の結合部位をもつ骨格タンパク質、足場骨格またはポリマー有機分子であり得る。足場骨格は1つまたは複数のミニ-スキャフォールディンから構成することができる。
【0037】
酵素成分の結合部位に関連して用いられる用語「本質的に同じ結合特異性をもつ」とは、コヘシンモジュールとドックリンモジュールとの間の結合の特異性であって、それによって結合特異性が同一のコヘシン-ドックリン対のみが互いに結合することを指す。これは、例えば一対のタンパク質を混合して、非変性ゲル電気泳動で移動する挙動を評価することによって、試験することができる。
【0038】
一態様において、本発明は、骨格スキャフォールドが直鎖状である、本明細書に定義される複合体に関する。直鎖状の骨格スキャフォールドは合成または生物起源のものであり得る。合成骨格スキャフォールドは例えば、タンパク質を結合することができる官能基をもつ合成ポリマー担体または直鎖状の有機ポリマーであってよい。そのタンパク質は、複合体中に含まれる酵素、または(酵素成分に結合する)コヘシン-ドックリン相互作用に参加するための1つまたは複数のモジュールを含むタンパク質であり得る。生物学的骨格スキャフォールドは、酵素成分または結合モジュールに自然界でまたは遺伝子工学的に融合されたドックリンのための、天然に存在する結合部位(コヘシン)をもつタンパク質であり得る。
【0039】
本発明のさらなる態様において、酵素成分はコヘシン-ドックリン相互作用によって直鎖状の骨格スキャフォールドに結合される。本発明の好ましい態様では、本発明の複合体の骨格スキャフォールドには、ドックリンのためのコヘシン結合部位が少なくとも4つある。
【0040】
好ましくは、本発明の複合体の骨格は1つまたは複数のタンパク質からなり、該1つまたは複数のタンパク質は、化学的相互作用によって、または結合特異性の点で骨格-酵素相互作用のそれとは異なるコヘシン-ドックリン相互作用によって、一緒に連結される骨格タンパク質である。したがって、連結のための相互作用の結合特異性は酵素の結合特異性とは異なっている。より好ましくは、1つまたは複数のタンパク質は、酵素成分を結合するコヘシン-ドックリン相互作用の結合特異性とは異なる結合特異性を有するコヘシン-ドックリン相互作用によって連結される。
【0041】
本明細書中で用いる用語「コヘシン-ドックリン相互作用」とは、コヘシンとドックリンとの間の相互作用を指す。ドックリンは、セルロソームの成分、好ましくはセルロソームの各酵素成分において1つ見出されるタンパク質モジュールである。ドックリンの結合パートナーはコヘシンモジュールであり、そのコヘシンモジュールはセルロソームの骨格スキャフォールドタンパク質中に通常は繰り返し存在するモジュール部分である。この相互作用はセルロソーム複合体の構築に不可欠である。異なる酵素成分を複合体に結合させるために、本発明の複合体では同じコヘシン-ドックリンシステムが用いられる。本発明の1つまたは複数の骨格スキャフォールドタンパク質は、コヘシン-ドックリン相互作用によって連結することが可能である;そのため、このコヘシン-ドックリン対は酵素成分の結合のために用いられるコヘシン-ドックリン対とは異なる結合特異性を有する。多糖への酵素成分の結合は、他の方法もあるが、とりわけ、非変性ゲル電気泳動でのタンパク質バンドの遅滞によって、または液体画分とセルロース粒子含有固体画分を分離した後でタンパク質の量を測定することによって、当業者に知られている標準的なタンパク質濃度測定法を用いて、確認することができる。
【0042】
さらなる態様において、本発明の複合体の骨格スキャフォールドは、セルロース分解性のセルロソーム形成微生物から得られる非触媒足場タンパク質またはその遺伝子改変誘導体に由来する。
【0043】
本明細書中で言及する「セルロース分解性のセルロソーム形成微生物」とは、酵素がコヘシン-ドックリン相互作用を介して骨格スキャフォールドに結合されている、細胞外複合体(セルロソームと呼ばれる)を形成する細菌および真菌に関する。本発明で使用できるさらなるセルロース分解性セルロソーム形成微生物は、細菌、例えばアセチビブリオ・セルロリティカス(Acetivibrio cellulolyticus)、バクテロイデス・セルロソルベンス(Bacterioides cellulosolvens)、ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、C.ルロリティカム、C.セルロボランス(C. cellulovorans)、C.セロビオパラム、C.ジョスイ(C. josui)、C.パピロソルベンス(C. papyrosolvens)、C.サーモセラム(C. thermocellum)、C. sp C7、C. sp P-1、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルバス(Ruminococcus albus)、R.フラベファシエンス(R. flavefaciens)、および真菌微生物、例えばピロミセス(Piromyces)sp. E2である。
【0044】
さらなる態様において、骨格スキャフォールドは、クロストリジウム・サーモセラムから得られる非触媒足場タンパク質CipAまたはその遺伝子改変誘導体に由来する。
【0045】
本明細書中で用いる用語「遺伝子改変誘導体」とは、本発明の複合体の骨格スキャフォールドタンパク質が遺伝子的に改変されていることを意味し、例えば、骨格スキャフォールドはC.サーモセラムのCipAタンパク質から誘導された遺伝子改変誘導体であるか、または骨格スキャフォールドはドックリンモジュールもしくはHisタグ配列に遺伝的に融合されているか、または(CipA中の)天然に存在するモジュールの数もしくは順序が変更されているか、またはそのヌクレオチド配列が、制限部位を導入もしくは除去するため、コドン使用頻度を適合させるため、または特定の位置のアミノ酸残基を変えるために変更されている。
【0046】
好ましい態様において、本発明の複合体の骨格スキャフォールドは、配列番号24に示されるCBM-c1-c1-d3、配列番号22に示されるc3-c1-c1-d2、配列番号26に示されるc2-c1-c1、またはそれらのコヘシンモジュールにおいて60%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体を含む。
【0047】
当業者に知られている用語「配列同一性」とは、2つ以上のヌクレオチドまたはポリペプチド分子間の関連性の程度を指し、それらの配列間の一致によって決定される。「同一性」パーセントは、ギャップまたは他の配列特徴を考慮して、2つ以上の配列の同一領域の百分率から求められる。
【0048】
相互に関連するポリペプチドの同一性は、公知の手法によって決定することができる。原則として、特別な要件を考慮したアルゴリズムを含む特殊なコンピュータプログラムが用いられる。同一性を決定するための好ましい手法は、最初に、研究対象の配列間の最大一致を生じさせる。2つの配列間の相同性を決定するためのコンピュータプログラムには、限定するものではないが、GAPをはじめとするGCGプログラムパッケージが含まれる(Devereux J et al., (1984); Genetics Computer Group University of Wisconsin, Madison (Wl); BLASTP, BLASTN and FASTA (Altschul S et al., (1990))。BLAST XプログラムはNational Centre for Biotechnology Information (NCBI)および他の情報源から入手可能である(BLAST Handbook, Altschul S et al., NCB NLM NIH Bethesda MD 20894; Altschul S et al.,1990)。よく知られているSmith Watermanアルゴリズムも配列同一性の決定のために使用することができる。
【0049】
配列比較のための好ましいパラメータには次のものが含まれる:
アルゴリズム: Needleman S.B. and Wunsch, C.D. (1970)
比較マトリクス: Henikoff S. and Henikoff J.G. (1992)に記載のBLOSUM62
ギャップペナルティ: 12ギャップ長ペナルティ: 2
【0050】
GAPプログラムも上記のパラメータでの使用に適している。上記のパラメータはアミノ酸配列比較のための標準的なパラメータ(デフォルトパラメータ)であり、その場合両端のギャップが同一性の値を減少させることはない。非常に小さな配列を参照配列と比較する場合は、期待値を最大100,000まで増加させ、場合によってはワード長(ワードサイズ)を2まで減少させることがさらに必要になり得る。
【0051】
さらなるモデルアルゴリズム、ギャップオープニングペナルティ、ギャップ伸長ペナルティ、および比較マトリクスを、Program Handbook, Wisconsin Package, Version 9, September 1997中で挙げられたものを含めて、使用することができる。その選択は、実施しようとする比較によって左右され、さらには比較が配列対の間で行われるのか(この場合にはGAPまたはBest Fitが好ましい)、または1つの配列と大きな配列データベースの間で行われるのか(この場合にはFASTAまたはBLASTが好ましい)によっても左右されるであろう。上記のアルゴリズムで決定された60%の一致は、60%同一性として記載される。同じことがより高度の同一性にも適用される。
【0052】
好ましい態様において、本発明による変異体および誘導体は、そのコヘシンモジュールにおいて60%を超えるアミノ酸配列同一性、好ましくは70%を超える、より好ましくは80%または90%を超えるアミノ酸配列同一性を有する。
【0053】
本発明のさらなる態様において、本発明の複合体の骨格スキャフォールドは糖質結合モジュール(CBM)を含む。好ましくは、糖質結合モジュールは、直鎖状骨格スキャフォールドに組み込まれるかまたは結合される、クロストリジウム・サーモセラムのcipA遺伝子からのCAZyデータベースによる分類に従うCBM3ファミリー(http://www.cazy.org/Carbohydrate-Binding-Modules.html)の糖質結合モジュールである。
【0054】
本明細書中で用いる用語「糖質結合モジュール(CBM)」とは、糖質結合活性をもつ連続したアミノ酸配列を指す。CBMは本発明の複合体(「ミニ-スキャフォールディン」)に導入されるか、またはCBMは酵素成分中に存在するか、あるいはタンパク質成分への融合を介してミニ-スキャフォールディンに遺伝的に結合され得る。異なるCBMは異なる多糖または多糖構造を認識することができる。CBMはまた、遺伝子改変または骨格スキャフォールドの官能基との化学反応によって、ミニ-スキャフォールディンに結合させることもできる。そのCBMは「ターゲティング効果」すなわち複合体と基質との間の結合の増強を誘発し、これは不溶性の基質に特に有利である。CBMは、多糖または複合糖質に結合する、別個の折りたたまれた非触媒ポリペプチドモジュールとして定義される。それらは、酵素もしくは足場タンパク質にモジュールとして融合されるように、またはコヘシン-ドックリン相互作用もしくは他の手段を介して骨格スキャフォールドに結合された遺伝的融合体として存在するかまたは遺伝子操作することが可能である。好ましい態様では、それらは結晶セルロースに結合し、そしてCBMファミリー3(CBM3)に属するものである(参照:http://www.cazy.org/Carbohydrate-Binding-Modules.html)。多糖への結合は、他の方法もあるが、とりわけ、多糖がゲル中に均一に分配される非変性ゲル電気泳動での該タンパク質の遅れによって確認することができる。
【0055】
さらなる態様において、本発明は、酵素成分が少なくとも酵素の触媒モジュールとドックリンモジュールとを含む、本明細書で定義される複合体に関する。
【0056】
用語「モジュール」は、遺伝子工学または天然の組換えによって新しい特性をもつタンパク質を構築するために「レゴ」のようなやり方で使用することができる、ポリペプチド内の別個の折りたたみ部分を表す。本明細書中で用いる「酵素の触媒モジュール」とは、ポリペプチドに対する触媒活性に寄与するタンパク質モジュールを指す。セルロソームのすべての酵素はマルチモジュール酵素であって、触媒モジュールおよび非触媒モジュールから構成され、少なくとも触媒モジュールおよびドックリンモジュールからなる。非触媒モジュールはドックリン、コヘシン、CBM、細胞表層ホモロジーモジュール、または機能がまだ不明なモジュール(しばしばXモジュールと呼ばれる)であってもよい。
【0057】
さらなる態様において、本発明は、酵素成分が、多糖分解性もしくは糖分解性微生物由来のグリコシダーゼ、プロセッシブもしくは非プロセッシブエンド-β-1,4-グルカナーゼ、およびプロセッシブエキソ-β-1,4-グルカナーゼ、またはそれらの遺伝子改変誘導体からなる群より選択される、本明細書で定義される複合体に関する。
【0058】
本発明の複合体で組み合わされる酵素成分は、とりわけ、クロストリジウム・サーモセラムのセルロソーム由来のセルラーゼ、例えば、好熱性細菌クロストリジウム・サーモセラムの成分CbhA、CelA、CelE、CelJ、CelK、CelR、CelSもしくはCelT、または熱安定性のβ-グリコシダーゼ、例えば、好熱性細菌サーモトガ・ネアポリタナ(Thermotoga neapolitana)由来のβ-グルコシダーゼBglBを含む。
【0059】
他の活性との交換、酵素成分の取り出しもしくは追加、またはそれらのモル比の変更によって、複合体の活性を他の基質用に拡張または増強することができる。新しい成分としては、β-グルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ(キシラナーゼ、マンナナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、グルクロニダーゼ、キシランエステラーゼなど)、ペクチナーゼ、ペクチンリアーゼ、アミラーゼ、およびリグノセルロース系バイオマスの加水分解のための他の酵素、他の多糖類のための酵素、または生化学的合成経路のための酵素の組み合わせを挙げることができる。
【0060】
本明細書中で用いる「多糖分解性微生物」とは、多糖類を分解することができる加水分解性の微生物、例えば、アミロース分解性、ペクチン分解性、セルロース分解性、またはヘミセルロース分解性の微生物を指す。本明細書中で用いる「糖分解性微生物」とは、炭素およびエネルギーの主要な供給源として糖質を用いる微生物を指す。
【0061】
さらなる態様において、本発明は、少なくとも3つの酵素成分が他の微生物に由来するセルロース分解酵素およびヘミセルロース分解酵素からなる群より選択される、本明細書で定義される複合体に関する。
【0062】
多糖類の例は、アセタン、寒天、アルギン酸、アミロペクチン、アラビナン、アラビノガラクタン、アラビノキシラン、カルボキシメチルセルロース、セルロース、キチン、キトサン、クリソラミナリン、カードラン、シクロソフォラン(cyclosophoran)、デキストラン、デキストリン、エマルサン、フルクタン、ガラクタン、ガラクトマンナン、ジェラン、α-グルカン、β-グルカン、グルクロナン、グルクロノキシラン、グリコーゲン、N-アセチル-ヘパロサン、ヒドロキシエチルセルロース、インジカン、イヌリン、ケフィラン、ラミナリン、レンチナン、レバン、リケニン、リケナン、ルピン、マンナン、パキマン、ペクチンガラクタン、ペクチン、ペントサン、プルーラン(pleuran)、ポリガラクツロン酸、プルラン、ラムノガラクツロナン、シゾフィラン、スクレログルカン、デンプン、サクシノグリカン、ウェラン、キサンタン、キシログルカン、ザイモサンである。
【0063】
セルロース分解性微生物の例は、細菌、例えば、アセチビブリオ・セルロリティカス(Acetivibrio cellulolyticus)、アセチビブリオ・セルロソルベンス(A. cellulosolvens)、アナエロセルム・サーモフィラム(Anaerocellum thermophilum)、バクテロイデス・セルロソルベンス(Bacterioides cellulosolvens)、ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)、カルディセルロシルプター・サッカロリティカス(Caldicellulosiruptor saccharolyticus)、カルディセルロシルプター・ラクトアセティカス(Cs. lactoaceticus)、カルディセルロシルプター・クリストヤンソニイ(Cs. kristjansonii)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・アルドリチイ(C. aldrichii)、クロストリジウム・セレレッセンス(C. celerescens)、クロストリジウム・セロビオパルム(C. cellobioparum)、クロストリジウム・セルロファーメンタス(C. cellulofermentas)、クロストリジウム・セルロリティカム(C. cellulolyticum)、クロストリジウム・セルロシ(C. cellulosi)、C.セルロボランス(C. cellulovorans)、クロストリジウム・カルタタビダム(C. chartatabidum)、クロストリジウム・ハービボランス(C. herbivorans)、クロストリジウム・ヒュンガテイ(C. hungatei)、クロストリジウム・ジョスイ(C. josui)、クロストリジウム・パピロソルベンス(C. papyrosolvens)、C. sp C7、C. sp P-1、クロストリジウム・ステルコラリウム(C. stercorarium)、クロストリジウム・サーモセラム(C. thermocellum)、クロストリジウム・サーモコプリアエ(C. thermocopriae)、クロストリジウム・サーモパピロリチカム(C. thermopapyrolyticum)、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ユーバクテリウム・セルロリティカム(Eubacterium cellulolyticum)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、ルミノコッカス・フラベファシェンス(R. flavefaciens)、ルミノコッカス・サクシノゲネス(R. succinogenes)、アクロモバクター・ピエシャウディイ(Achromobacter piechaudii)、アクチノプラネス・アウランティカ(Actinoplanes aurantiaca)、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、カルディバチルス・セルロボランス(Caldibacillus cellulovorans)、セルロモナス・ビアゾテア(Cellulomonas biazotea)、セルロモナス・カルタエ(Cm. cartae)、セルロモナス・セラセア(Cm. cellasea)、セルロモナス・セルランス(Cm. cellulans)、セルロモナス・フィミ(Cm. fimi)、セルロモナス・フラビゲナ(Cm. flavigena)、セルロモナス・ゲリダ(Cm. gelida)、セルロモナス・イラネンシス(Cm. iranensis)、セルロモナス・イラネンシス(Cm. persica)、セルロモナス・ウダ(Cm. uda)、セルビブリオ・フルバス(Cellvibrio fulvus)、セルビブリオ・ギルバス(Cv. Gilvus)、セルビブリオ・ミクスタス(Cv. Mixtus)、ルビブリオ・ブルガリス(Cv. vulgaris)、カートバクテリウム・フラクムファシエンス(Curtobacterium falcumfaciens)、サイトファーガ sp.(Cytophaga sp.)、フラボバクテリウム・ジョンソニアエ(Flavobacterium johnsoniae)、ミクロビスポラ・ビスポラ(Microbispora bispora)、ミクロモノスポラ・メラノスポラ(Micromonospora melonosporea)、粘液細菌(Myxobacter sp.)AL-1、蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・メンドシナ(Ps. mendocina)、ストレプトマイセス・アルボグセオラス(Streptomyces alboguseolus)、ストレプトマイセス・アンチバイオティカス(Sm. antibioticus)、ストレプトマイセス・アウレオファシエンス(Sm. aureofaciens)、Sm. cellulolyticus、ストレプトマイセス・フラボグリセウス(Sm. flavogriseus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Sm. lividans)、ストレプトマイセス・ニトロスポレウス(Sm. nitrosporeus)、ストレプトマイセス・オリボクロモゲネス(Sm. olivochromogenes)、ストレプトマイセス・レティクリー(Sm. reticuli)、ストレプトマイセス・ロシェイ(Sm. rochei)、ストレプトマイセス・サーモブルガリス(Sm. thermovulgaris)、ストレプトマイセス・ビリドスポルス(Sm. viridosporus)、スポロシトファーガ・ミクスコッコイデス(Sporocytophaga myxcoccoides)、サーモアクチノミセス sp.(Thermoactinomyces sp.)XY、サーモビフィダ・アルバ(Thermobifida alba)、サーモビフィダ・セルロリティカ(Tb. cellulolytica)、サーモビフィダ・フスカ(Tb. fusca)、サーモノスポラ・クルバータ(Thermonospora curvata)、ザントモナス sp.(Xanthomonas sp.);真菌、例えば、アナエロマイセス・ミュークロナタス(Anaeromyces mucronatus)、アスぺルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、カエソマイセス・コムニス(Caesomyces comunis)、シラマイセス・アベレンシス(Cyllamyces aberensis)、ヒポクレア sp.(Hypocrea sp.)、ネオカリマスティクス・フロンテリス(Neocallimastix frontalis)、オルピノマイセス sp.(Orpinomyces sp.)、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、朱茸(Piptoporus cinnabarinus)、ピロミセス sp.(Piromyces sp.)、ピロミセス・エクイ(Piromyces equi)、ピロミセス sp.(Piromyces sp.)E2、クモノスカビ(Rhizopus stolonifer)、涙茸(Serpula lacrymans)、スポロトリクム・プルウェルレンツム(Sporotrichum pulverulentum)、トリコデルマ(=ヒポクレア)・ハルジアナム(Trichoderma(=Hypocrea)harzianum)、トリコデルマ・コニンギ(T. koningii)、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(T. longibrachiatum)、トリコデルマ・シュードコニンギ(T. pseudokoninii)、トリコデルマ・リーゼイ(T. reesei)、トリコデルマ・ビリデ(T. viride)である。
【0064】
さらなる態様において、本発明の複合体は、クロストリジウム・サーモセラムのドックリン含有成分に由来するか、またはドックリンを融合させたサーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)の成分に由来する、少なくとも3つの酵素成分を含む。本発明の複合体はまた、他の細菌由来のドックリン含有酵素成分またはドックリンを融合させた酵素成分を含んでもよい。
【0065】
好ましい態様において、酵素成分は、配列番号8に示されるCelK-d1、配列番号10に示されるCelR-d1、配列番号14に示されるCelT-d1、配列番号16に示されるCelE-d1、配列番号6に示されるCelS-d1、および配列番号4に示されるBglB-d1、または50%を超える、好ましくは60%を超える、70%を超える、より好ましくは80%を超える、より好ましくは90%を超える、そして最も好ましくは97%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体もしくは他の細菌由来の関連遺伝子を含む。
【0066】
さらなる態様において、本発明の複合体は、配列番号24に示されるCBM-c1-c1-d3、配列番号22に示されるc3-c1-c1-d2、配列番号26に示されるc2-c1-c1のタンパク質を含む骨格スキャフォールドと、配列番号8に示されるCelK-d1、配列番号10に示されるCelR-d1、配列番号14に示されるCelT-d1、配列番号16に示されるCelE-d1、配列番号6に示されるCelS-d1、および配列番号4に示されるBglB-d1を含む酵素成分とを含む。
【0067】
本発明はさらに、以下の工程を含む、本明細書で定義される複合体の調製方法を提供する:
(a)本明細書で定義される少なくとも3つの酵素成分を組換え生産する工程;
(b)請求項1〜8のいずれか一項記載の骨格スキャフォールドを組換え生産する工程;
(c)工程(a)および(b)の精製された、部分的に精製された、または精製されていない成分をインビトロで混合する工程;および
(d)該酵素成分を該骨格スキャフォールドにランダムに結合させる工程。
【0068】
さらなる態様において、本明細書で定義される複合体の前記調製方法には、組換え生産された骨格スキャフォールドまたは酵素成分を担体粒子に結合させる工程が含まれる。適切な粒子には、先に本明細書で定義したナノ粒子、好ましくはポリスチレン被覆ナノ粒子、例えばポリスチレン被覆強磁性ナノ粒子、または化学的に官能化された超常磁性ナノ粒子、または表面にカルボキシル基もしくはアミノ基を結合させた、好ましくは10〜2000nm、より好ましくは30〜250nmの直径をもつ、他の小さなナノ粒子が含まれる。骨格スキャフォールドまたは酵素を粒子表面に結合させるために、最先端のカップリング化学が用いられる。
【0069】
酵素成分の組換え生産は、当技術分野でよく知られている遺伝子クローニングおよび改変技術によって行うことができる。例えば、遺伝子操作された酵素成分をドックリン、コヘシンおよび/もしくは他の非触媒モジュールに融合させてもよく、続いて任意で組換え生産を向上させるために諸成分のタンパク質工学を使用してもよく、それは例えば、分泌シグナルを最適化するか、良好な発現もしくは分泌を減少させるタンパク質セグメントを変更するか、またはコドン使用頻度を変更することによる。さらなる工程では、本発明の骨格スキャフォールド(「ミニ-スキャフォールディン」)を組換え生産し、任意でコヘシンモジュールを融合させ、酵素成分と骨格スキャフォールドを混合することによって自発的に結合させて複合体を形成させた。これらの成分は精製されていても、部分的に精製されていても、精製されていなくてもよく、好ましくは部分的に精製されているか、精製されていない。好ましくは、酵素-骨格スキャフォールド混合物中のコヘシンモジュールとドックリンモジュールとのモル比は1:1である。少なくとも3つの酵素成分は、インビトロで1:1〜1:50、1:1.5〜1:30、好ましくは1:1.8〜1:15のモル比で一緒に混合される。
【0070】
こうして、酵素成分は骨格スキャフォールドにランダムに結合する。本明細書で定義されるコヘシン-ドックリン相互作用のドックリンモジュールおよびコヘシンモジュールは相互に交換可能であり、そのことが意味するのは、コヘシンモジュールが骨格スキャフォールドに存在しても酵素成分に存在してもよく、その逆にドックリンモジュールが酵素成分に存在しても骨格スキャフォールドに存在してもよいということである。
【0071】
好ましくは、セルロソーム成分のうち少なくとも3つ、例えば、好熱性細菌クロストリジウム・サーモセラムの成分CbhA、CelA、CelE、CelJ、CelK、CelR、CelSもしくはCelT、または熱安定性のβ-グリコシダーゼ、例えば好熱性細菌サーモトガ・ネアポリタナ由来のβ-グルコシダーゼBglBは、1つの骨格分子に対して、好ましくはBglB、CbhA、CelE、CelJまたはCelTのそれぞれが0.05〜1.5のモル比で、CelKおよびCelRのそれぞれが0.1〜3.0のモル比で、そしてCelAおよびCelSのそれぞれが0.2〜6.0のモル比で結合される。別の態様では、モル比はBglB、CbhA、CelE、CelJまたはCelTのそれぞれについて0.1〜1.0であり、CelKおよびCelRのそれぞれについて0.2〜1.0のモル比であり、そしてCelAおよびCelSのそれぞれについて0.5〜1.0のモル比である。最も好ましい態様では、モル比はBglB、CbhA、CelE、CelJまたはCelTのそれぞれについて0.06〜0.6であり、CelKおよびCelRのそれぞれについて0.1〜1.8のモル比であり、そしてCelAおよびCelSのそれぞれについて0.3〜2.0のモル比である。
【0072】
さらなる態様において、本発明は、先に本明細書で定義した本発明の複合体の調製方法であって、工程(c)における骨格スキャフォールドの総量および酵素成分の総量を、コヘシンモジュール1に対して酵素成分1のモル比で一緒に混合し、かつ少なくとも3つの酵素成分をインビトロで互いに対して1:1〜1:50、1:1.5〜1:30、好ましくは1:1.8〜1:15、好ましくは1:1〜1:15のモル比で一緒に混合する、上記方法を提供する。
【0073】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載される方法により調製された複合体を提供する。
【0074】
「モル比」は、それが骨格スキャフォールドと酵素成分との比に関する限りでは、骨格スキャフォールドに含まれる1つの結合部位(好ましくはコヘシンモジュール)と、酵素成分に含まれる1つの結合部位(好ましくはドックリンモジュール)とのモル比として計算される。
【0075】
さらなる態様において、本発明は、以下の工程を含む、多糖基質を酵素的に加水分解する方法を提供する:
(a)本発明の複合体を不溶性セルロースと混合する工程;および、任意で、
(b)分解産物を単離する工程。
【0076】
本発明の複合体を不溶性セルロースと混合する工程は、好ましくは、最適またはほぼ最適なpHおよび温度で水環境にて実施される。最適またはほぼ最適なpHは6.5±0.5である。最適な温度は25〜65℃、好ましくは30〜65℃の範囲であり、約55℃が最も好ましい。
【0077】
さらなる態様において、本発明は、多糖基質を酵素的に加水分解するための本発明の複合体の使用を提供する。
【0078】
本発明の好ましい態様において、先に本明細書で記載した多糖基質は、結晶セルロースまたは結晶セルロース含有基質である。
[本発明1001]
(a)少なくとも4つの結合部位を含む骨格スキャフォールドであって、該結合部位のうち少なくとも2つが本質的に同じ結合特異性を有する、該骨格スキャフォールド;および
(b)該4つの結合部位のそれぞれに結合された酵素成分であって、該酵素成分のうち少なくとも3つが異なる酵素成分である、該酵素成分
を含む、粒子フリーまたは粒子結合型の複合体。
[本発明1002]
ナノ粒子、好ましくはコーティングされかつ化学的に官能化されたナノ粒子、より好ましくはポリスチレンでコーティングされた強磁性ナノ粒子からなる群より選択される粒子に結合されている、本発明1001の複合体。
[本発明1003]
骨格スキャフォールドが直鎖状の合成骨格または生物学的骨格である、本発明1001または1002の複合体。
[本発明1004]
骨格スキャフォールドが、ドックリンのためのコヘシン結合部位を少なくとも4つ有している、本発明1001〜1003のいずれかの複合体。
[本発明1005]
骨格スキャフォールドが1つまたは複数のタンパク質からなり、該1つまたは複数のタンパク質が化学的相互作用またはコヘシン-ドックリン相互作用によって一緒に連結されており、それによって、該連結の相互作用の結合特異性が酵素の結合特異性とは異なっている、本発明1001〜1004のいずれかの複合体。
[本発明1006]
骨格スキャフォールドが、セルロース分解性のセルロソーム形成微生物由来の非触媒足場タンパク質またはその遺伝子改変誘導体に由来する、本発明1001〜1005のいずれかの複合体。
[本発明1007]
骨格スキャフォールドが、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)由来の非触媒足場タンパク質CipAまたはその遺伝子改変誘導体に由来する、本発明1001〜1006のいずれかの複合体。
[本発明1008]
骨格スキャフォールドが、配列番号24に示されるCBM-c1-c1-d3、配列番号22に示されるc3-c1-c1-d2、配列番号26に示されるc2-c1-c1、またはそれらのコヘシンモジュールにおいて60%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体を含む、本発明1007の複合体。
[本発明1009]
骨格スキャフォールドが糖質結合モジュール(CBM)を含む、本発明1001〜1008のいずれかの複合体。
[本発明1010]
糖質結合モジュールが、直鎖状骨格スキャフォールドに組み込まれるかまたは結合される、クロストリジウム・サーモセラムのcipA遺伝子由来の糖質結合モジュール(CBM3)である、本発明1009の複合体。
[本発明1011]
酵素成分が、酵素の触媒モジュールとドックリンモジュールとを含む、本発明1001〜1010のいずれかの複合体。
[本発明1012]
酵素成分が、多糖分解性微生物由来のグリコシダーゼ、プロセッシブもしくは非プロセッシブエンド-β-1,4-グルカナーゼ、およびプロセッシブエキソ-β-1,4-グルカナーゼ、またはそれらの遺伝子改変誘導体からなる群より選択される、本発明1001〜1011のいずれかの複合体。
[本発明1013]
酵素成分が、クロストリジウム・サーモセラムのセルロソームのドックリンモジュール含有成分に由来するか、またはクロストリジウム・サーモセラムの非セルロソーム成分にドックリンモジュールを融合させたものに由来する、本発明1012の複合体。
[本発明1014]
酵素成分が、配列番号8に示されるCelK-d1、配列番号10に示されるCelR-d1、配列番号14に示されるCelT-d1、配列番号16に示されるCelE-d1、配列番号6に示されるCelS-d1、もしくは配列番号4に示されるBglB-d1、またはそれらのドックリンモジュールにおいて50%を超えるアミノ酸配列同一性を有するそれらの誘導体を含む、本発明1001〜1013のいずれかの複合体。
[本発明1015]
以下の工程を含む、本発明1001〜1014のいずれかの複合体を調製する方法:
(a)本発明1001および1011〜1014のいずれかの酵素成分を組換え生産する工程;
(b)本発明1001および1003〜1009のいずれかの骨格スキャフォールドを組換え生産する工程;
(c)精製された、部分的に精製された、または精製されていない、工程(a)および(b)の成分をインビトロで混合する工程;ならびに
(d)該酵素成分を該骨格スキャフォールドにランダムに結合させる工程。
[本発明1016]
組換え生産された前記骨格スキャフォールドまたは組換え生産された前記酵素成分を粒子に結合させる工程をさらに含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記粒子が、ナノ粒子、好ましくはポリスチレンでコーティングされた強磁性ナノ粒子である、本発明1016の方法。
[本発明1018]
工程(c)における骨格スキャフォールドの総量および酵素成分の総量が、コヘシンモジュール1に対して酵素成分1のモル比で一緒に混合され、かつ少なくとも3つの酵素成分が、互いに対して1:1〜1:15のモル比で一緒に混合される、本発明1015〜1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
本発明1015〜1018のいずれかの方法により調製された複合体。
[本発明1020]
以下の工程を含む、多糖基質を酵素的に加水分解する方法:
(a)本発明1001〜1013のいずれかの複合体を不溶性セルロースと混合する工程;および、任意で
(b)分解産物を単離する工程。
[本発明1021]
多糖基質を酵素的に加水分解するための、本発明1001〜1014のいずれかの複合体の使用。
[本発明1022]
多糖基質が結晶セルロースまたは結晶セルロース含有基質である、本発明1020の方法、または本発明1021の使用。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】C.サーモセラムの選択された非吸着性培養物のコロニーを示す。濁った寒天表面上には、加水分解されたセルロースの暗い(=クリアな)ハローによって囲まれたコロニーが見える。定規は1cmおよび2cmのマーキングを示す。
【
図2】組換えスキャフォールディン構築物のおおよその3D構造(H. Gilbert氏の厚意)を示す。C.サーモセラムのCipAタンパク質の誘導体(最上段:c1=コヘシン1など;CBM=糖質結合モジュール)。
【
図3】変異体SM1由来の天然の可溶性セルロソーム成分(SM901)およびミニ-スキャフォールディンならびにC.サーモセラムの完全な天然のスキャフォールディンCipAを含む複合体の比活性[グルコース当量としてのmU/mg]を示す。対照:C.サーモセラム由来の天然のセルロソーム。0.5%アビセル(Avicel)に対する活性の測定(T=60℃、pH6.0)。(Coh:コヘシン、CBM:糖質結合モジュール)。
【
図4】ナノ粒子-リンカー-スキャフォールディン-セルラーゼ複合体(NLSC)を示す。簡略化するために、スキャフォールディンは(9個の代わりに)2個のコヘシンのみを示してある。ナノ粒子および各種分子は一定の縮尺で描かれていない。
【
図5】ナノ粒子に結合しているまたは結合していない各種複合体の活性を示す。SM901:スキャフォールディンを含まない変異体のセルロソーム成分。
【
図6】遊離の酵素(SM901)とナノ粒子に結合させた酵素(NP+SM901)とのpH安定性の比較を示す。
【
図7】遊離の酵素(SM901)とナノ粒子に結合させた酵素(NP+SM901)との温度安定性の比較を示す。
【
図8】基質としての可溶性セルロース(CMC)および不溶性(結晶)セルロース(アビセル)由来の加水分解産物の薄層クロマトグラフィーを示す。可溶性酵素(SM901)、人工複合体、および天然セルロソームの比較を示す。
【
図9】組換えセルロソーム成分と足場タンパク質との各種混合物の活性を示す。基質として結晶セルロースを用いている。
【
図10】可溶性セルロソーム成分(SM901)、複合体の形をした(スキャフォールディンをもつ)同酵素、組換え成分との合成混合物(SM901 + CipA + Endo + Exo [NTC])、市販のトリコデルマ・リーゼイ酵素製剤、およびクロストリジウム・サーモセラム由来の天然のセルロソームの比活性を示す。基質として結晶セルロース(0.5%w/v)。活性はグルコース当量としてのμmol/minとして計算した。
【
図11】骨格スキャフォールドCBM-c1-c1-d3、c3-c1-c1-d2、c2-c1-c1ならびに酵素成分CelK-d1、CelR-d1、CelT-d1、CelE-d1、CelS-d1およびBglB-d1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。
【
図13】強力なディスク磁石を用いて超常磁性挙動ゆえに溶液から分離された粒子を示す。反応溶液は93%を軽く超える回収率で容易に取り出すことができる。
【実施例】
【0080】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらの実施例は純粋に本発明の例示であることを意図したものであり、いかなる意味においても本発明を限定するものと考えるべきでない。
【0081】
実施例では、スキャフォールディンCipA(セルロソーム統合タンパク質)を模倣する骨格スキャフォールドであるタンパク質担体に、組換え発現された6つのセルラーゼが結合されたシステムによる、加水分解的セルロース分解が示される。骨格スキャフォールドはコヘシン結合モジュールを有し、このコヘシンモジュールは酵素成分のC末端を形成するドックリンモジュールに強固かつ特異的に結合する。これは、好熱嫌気性細菌クロストリジウム・サーモセラムのセルロソームに似ている、インビトロで構築された複合体である。コヘシンとドックリンは互いに自発的に結合する。そうした複合体は、正しい成分を正しい比で用いてインビトロで再構成した場合、結晶セルロースに対して、細菌から単離された天然のセルロソームよりも高い活性を示す。
【0082】
実施例1:非セルロソーム形成変異体の単離
C.サーモセラムの変異誘発培養物から、変異体を単離した(
図1)。コロニーの周囲のセルロースにクリアなハローを形成する能力が低下しているかまたは欠如している6個のコロニーをランダムに選択した。C.サーモセラム変異体のうちの1つであるSM1は、スキャフォールディンタンパク質CipAまたは活性コヘシンを産生する能力を完全に失っていた。野生型(セルロソームをもつ)および変異体SM1(セルロソームなし;遊離の酵素)由来の酵素を、オオムギβ-グルカン、CMC(両方とも対照)、および微結晶セルロースMN300について試験した。オオムギβ-グルカンおよびCMCに対する酵素活性は、両菌株についてそれぞれ約8.5および1.0Umg
-1タンパク質であった(表1)。これとは対照的に、結晶セルロースに対する比活性は、変異体SM1において劇的に、野生型と比較して最大15倍、低下した。
【0083】
変異体は、完全に欠失していたCipA成分(スキャフォールディンCipA)を除いて、野生型に比較してほぼ等しい量のセルロソーム成分を産生した。超分子複合体は変異体において完全に失われていた。このことは、変異体がセルロソームを適正に形成できないことを示している。その結果、約50のセルロソームタンパク質成分が、分散した、可溶性の、複合体化されていないタンパク質として現れた。これらのタンパク質は野生型で観察されたものと同様の量および分布で生産された。
【0084】
(表1)オオムギβ-グルカン、CMC(両方とも可溶性)およびMN300セルロース(結晶質)に対する変異体SM1および野生型の濃縮培養上清の酵素活性
【0085】
実施例2:セルロソームの再構成
A:酵素成分の調製
人工セルロソームを再構成するために、変異体SM1および変異型上清タンパク質(SM901)を選択した。また、セルラーゼ成分をコードする遺伝子をクローニングして、最適pHおよび温度、さまざまな基質に対する活性など、それらの生化学的パラメータについて特性解析した。セルラーゼ活性のある、5つの最も顕著な酵素成分を、セルロソームの組成に関する以前のデータから選択した
11。さらに、いくつかの糖分解性好熱細菌に由来するβ-グルコシダーゼを生化学的に特性解析した。サーモトガ・マリティマ由来のβ-グルコシダーゼBglBが、その高い熱安定性とセロデキストリンに対する高い活性のために選択された。当該遺伝子を、C.サーモセラムのセルラーゼCelAに由来する下流のドックリンモジュールに融合させた。最適な発現条件を決定した。それにより形成された、触媒モジュールおよび非触媒モジュール(ドックリンモジュールを含む)を含む酵素を、本明細書においてCelK-d1、CelR-d1、CelT-d1、CelE-d1、CelS-d1およびBglB-d1と呼ぶ。CelK-d1、CelR-d1、CelT-d1、CelE-d1、CelS-d1およびBglB-d1のアミノ酸配列は、配列番号4、6、8、10、14および16に示される。
【0086】
精製を容易にするために、それらをN末端にHisタグを有するようにクローニングし、アフィニティクロマトグラフィーによる精製を容易にした。最先端の技術を用いて、増幅したDNA断片は、プロモーター-オペレーター配列および6×His配列の下流の制限部位(例えば、Quiagen社からのpQEべクター)に読み枠を合わせてクローニングした。
【0087】
諸成分のモル化学量論は、コヘシンとドックリンの数を計算することによって適正なバランスに保った。
【0088】
B:骨格スキャフォールドの調製
以下に記載するミニ-スキャフォールディンは、C.サーモセラムのCipA遺伝子由来、C.サーモセラムのセルロソーム成分由来、およびC.ジョスイ由来の、コヘシン、ドックリンおよびCBM配列を組み合わせることによって構築した。これらの配列は大腸菌(E. coli)のコドン使用頻度について最適化された。すなわち、AGA/AGG、AUA、およびCUAコドンを認識する、ほとんど発現されないtRNA遺伝子argU、ileY、およびleuWの最も稀なコドンを、同義コドンで置き換えた。このような由来の配列を合成し、当該技術に従って、pQEなどの大腸菌プラスミドベクターで発現させた。一態様では、cipA由来のコヘシン3〜4(I型)およびCBM3、ならびにC.サーモセラムのolpB由来のコヘシンc3(II型)およびドックリンd3を使用し、または、cipAのc2およびクロストリジウム・ジョスイのセルロソーム成分由来のドックリンd2を使用した。実施例で用いた骨格スキャフォールドを、本明細書においてCBM-c1-c1-d3、c3-c1-c1-d2、c2-c1-c1と呼ぶ。CBM-c1-c1-d3、c3-c1-c1-d2、c2-c1-c1のアミノ酸配列は配列番号22、24および26に示される。
【0089】
C:ドックリン酵素成分の発現、精製および濃縮
酵素成分は最初、変異体SM1によって生産された。しかし、C.サーモセラムは、その嫌気的生活スタイルでのエネルギー制限のため、限られた量の細胞外タンパク質しか生産することができない。菌株の開発でさえも細胞外タンパク質の量の大幅な増加にはつながらない。30を超える成分からなる天然の酵素混合物を人工のセルラーゼ混合物で置き換えるために、主要なセルロソーム成分を組換え宿主から調製した。実験を単純にするために、宿主として大腸菌を用いた。組換えタンパク質を低コスト、高収率で生産することに関しては、他の細菌の方が適している可能性もある。所定のタンパク質について高収率をもたらす工業生産株はいずれも適している。
【0090】
酵素成分は、組換え宿主から単離して、Hisタグアフィニティクロマトグラフィーで精製するか、または大腸菌タンパク質の熱沈殿によって濃縮した(それにより、組換えタンパク質は可溶性相に残留する)。熱沈殿は、タンパク質溶液を65℃に10分間加熱し、沈殿した大腸菌タンパク質を当該技術に従って遠心分離により除去することによって実施した。濃縮は限外ろ過(カットオフ10,000ダルトン)でも成功した。
【0091】
D:酵素成分と骨格スキャフォールドとの複合体形成
次に、それらは、糖質結合モジュールを含むかまたは含まない、各種コヘシンからなる組換え骨格ミニ-スキャフォールド、例えばCBM-c1-c1に結合させた。その複合体は、カルシウムの存在下で、一態様では20mM CaCl
2の存在下で、酵素成分の混合物に単純な化学量論(混合物中に存在するコヘシンモジュールあたり1つのドックリン含有成分)にて加えることによって、当該成分から再構成することができる。組換えミニ-スキャフォールディン構築物のサンプル構造は
図2に示される。複合体形成は、ドックリン-酵素成分と、各種コヘシンからなるミニ-スキャフォールディンとが、コヘシン-ドックリン相互作用を介して自発的に組み合わさることによって起こる。その後、それらは、天然の酵素または組換え宿主から単離された酵素とともに、複合体形成の効果を測定するために使用された。
【0092】
実施例3:人工セルロソーム複合体の活性
CBMを含むかまたは含まない前記複合体の混合物を、最適化された脂肪族リンカー分子を介してポリスチレンナノ粒子の表面に結合させた。そうした構造は
図3に模式的に示される。各種ミニ-スキャフォールディン複合体の結合は、ナノ粒子を密に被覆したことに起因する、立体障害や酵素成分の自由度のある程度の低下にもかかわらず、結晶セルロースの加水分解において活性の増加をもたらした(
図3、4)。また、タンパク質を粒子に結合させた場合、酵素のpH範囲が広がった(
図5)。このことは、セルラーゼの温度安定性にも言えることであった(
図6)。これらの結果はどちらも、技術的応用にとっての重要な利点となる。
【0093】
このアプローチの実現可能性を試験するために、SM901成分の混合物の一部を組換えセルラーゼの1つまたは複数で置き換えた。組換え生産された成分を1つ加えた場合、混合物中のSM901成分の減少にもかかわらず、結果は、結晶セルロースに対する複合体の活性がわずかに増加したことを示した。組換え酵素の混合物を加えた場合は、それが大幅に増加した(
図9)。特定の混合物では、合成混合物の活性が天然のセルロソームの活性より高かった。完全な置換および正しくバランスのとれた化学量論によって、合成複合体はさらに高い活性を示す。
【0094】
産物(グルコースおよびセロデキストリン)のパターンは、可溶性セルロースだけでなく不溶性セルロースに対しても、遊離の酵素(SM901)と、人工複合体と、天然セルロソームとの間で同一であった(
図11)。基質として不溶性セルロースを用いる場合は、主産物はセロビオースであり、二次産物として若干のグルコースを含む。セロビオースは、複合体へのβ-グルコシダーゼの添加によって、さらにグルコースに分解される必要がある。ドックリンモジュールに遺伝的に融合された、サーモトガ・ネアポリタナ由来のβ-グルコシダーゼ遺伝子が成功裏に使用されて、還元糖の生産を約2倍に増加させた。
【0095】
セルロソームの再構成はこのように可能であった。したがって、スキャフォールディンに沿った諸成分の順序はランダムのようであり、また、インビトロで再構成されたセルロソームの活性は天然セルロソームの活性に少なくとも匹敵することを、初めて実証することができた。天然セルロソームを工業量で生産することはできない。
【0096】
結果
結果は、異なるコヘシンが等しくセルロソーム成分に結合し、異なるドックリンモジュールを含むセルロソーム成分間を区別しないことを明確に示した。コヘシンへの結合はランダムであった。コヘシンとドックリンとの集合は迅速かつ自発的であった。いったん結合すると、諸成分はスキャフォールディンに強固に固定された。骨格スキャフォールド中のコヘシン数の増加は、コヘシン-ドックリン相互作用によって個々の骨格スキャフォールドタンパク質を連結することにより、結晶セルロースに対する活性を増加させた(
図6)。さらに、
図6は、複合体へのあるタイプのCBMの追加が活性を増加させたことを示している(
図6)。さらに、再構成されたセルロソームを形成する「完全な」スキャフォールディンは、(たとえ系統的な最適化の前でも)天然セルロソームの活性より高い最高の活性を示した。
【0097】
実施例4:ナノ粒子への結合(任意)
超常磁性を示す強磁性体コアにポリスチレンコーティングを施した、0.110±0.007μmの平均直径を有するナノ粒子を選択し、その表面をCOOH残基で化学的に官能化した。当該表面にヘテロ二官能性リンカー分子を化学的にカップリングさせ、それを選択された骨格スキャフォールドに結合させ;スキャフォールドのコヘシンにおいて、酵素成分に結合されたドックリンとのタンパク質-タンパク質相互作用(非共有結合コヘシン-ドックリン相互作用)によって、酵素を担持させることができる。好ましいナノ粒子の模式図は
図12に示される。
【0098】
ナノ粒子の表面にリンカー分子を結合させるために、官能基(遊離COOH基)を活性化させた。水溶性のカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)は、水溶性化合物N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)を用いると、カルボキシレート基と活性エステル基を形成する。EDCはカルボキシレート基と反応して活性エステル(O-アシルイソウレア)脱離基を形成する。スルホ-NHSエステルは標的分子上のアミンと速やかに反応する親水性の活性基である
18。しかし、エステルのカルボニル基への攻撃が可能なアミン求核試薬の存在下では、スルホ-NHS基が速やかに脱離して、アミンと安定したアミド結合を生成する。スルホ-NHSをEDCに添加することの利点は、活性中間体の安定性を向上させることであり、その活性中間体は最終的に攻撃性のアミンと反応する。EDCとカルボキシレート基との反応は、水溶液中では数秒以内に加水分解される。スルホ-NHS上のヒドロキシル基とEDC活性エステル複合体との反応からスルホ-NHSエステル中間体を形成させると、活性化されたカルボキシレートの半減速度(half-rate)が数時間に延長される
19。ナノ粒子の表面に結合した分子の構造については、
図4を参照されたい。
【0099】
A. 活性化
20mgのカルボキシル修飾ナノ粒子を、強力なNdFeBディスク磁石(1.41〜1.45テスラ)を用いた分離によって、ガラスバイアル中の2ml活性化緩衝液(50mM MES, 0.5M NaCl, pH6.0)で3回洗浄した。新たに調製したEDC溶液とスルホ-NHS溶液を、最終濃度がそれぞれ2mM、5mMとなるよう添加することにより、粒子の修飾表面を活性化させた。その混合物を室温で15分間反応させた。
【0100】
B. リンカーとのカップリング
2mlの反応緩衝液(0.1Mリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH7.2)を用いて、液体から磁気による分離を行うことにより、粒子を2回洗浄した。5mgのO-(2-アミノエチル)-0-(2-カルボキシエチル)-ポリエチレングリコール3000塩酸塩(NH2-PEG-COOH)を100μlの反応緩衝液中に窒素雰囲気下で溶解し、活性化粒子に添加した。活性化粒子とPEGベースのリンカーのアミノ基との間の共有結合による連結を室温で3時間以内に行った。緩衝液を2mlの活性化緩衝液に交換し、共有結合されたリンカーの末端のカルボキシレート基を上記のようにEDCとスルホ-NHSで活性化させた。2mlの反応緩衝液を用いた2回の洗浄工程の後、10mgのNα,Nα-ビス(カルボキシメチル)-L-リシン水和物(NTA)を加えた。リンカーの活性化カルボキシレート基へのNTAのカップリングを室温で3時間以内に行った。粒子を2mlの蒸留水で3回洗浄した。1mlの1M NiS0
4を加えた。遊離のNi
2+イオンをNTAのカルボキシレート基で錯体化して、NTA-Niを形成させた。5分後、粒子を2mlの蒸留水で2回洗浄し、さらに2mlの50mM MOPS、0.1M NaCl、5mM CaCl
2、pH6.0で2回洗浄した。
【0101】
C. Hisタグ付きタンパク質担体のコンジュゲーション
上記の粒子を、2mlの50mM MOPS、0.1M NaCl、5mM CaCl
2、pH6.0中で1〜1.5mgのタンパク質と共に一晩インキュベートすることによって、修飾ナノ粒子に骨格スキャフォールドタンパク質を結合させた。
【0102】
糖質結合モジュール(CBM)を含むかまたは含まない、異なる数のコヘシンをもつ骨格スキャフォールド(CBM-c1-c1およびc1-c1)を、表面修飾ナノ粒子の表面に固定した。
【0103】
ナノ粒子へのタンパク質のカップリング効率を、架橋前および架橋後のタンパク質含量の光吸収の分光光度測定(590nm、Bradfordアッセイ)により決定した。タンパク質を担持したナノ粒子を、反応溶液から磁気によって分離した。最初に加えたタンパク質量から反応溶液中の残存タンパク質を差し引くことによって、カップリング効率を算出した。
【0104】
還元糖は、1単位の酵素が1分あたり1μmolのグルコース当量を遊離させると仮定して、3,5-ジニトロサリチル酸法
20による反応の線形範囲内で少なくとも3回反復して定量した。
【0105】
結果
表面結合(固定化)は、多くの場合、酵素とその活性を安定化させることが示されている。セルラーゼを用いた実験では、ナノ粒子の表面への加水分解酵素(C.サーモセラム由来のセルラーゼ)の直接固定化により、その比活性が低下することが判明している。これは、酵素の活性ドメインまたは構造ドメインが表面への直接的な共有結合カップリングによって影響される可能性があることを示している。したがって、セルロソームの骨格スキャフォールドへの方向特異的カップリングは酵素活性を維持するように選択された。
【0106】
試験したすべての反応の最高のカップリング結果は、2mmolのEDC、5mmolのスルホ-NHSを用いて得られた。80μg/mgのナノ粒子のカップリング効率を達成することができた。これは、粒子あたり約1300の骨格スキャフォールド分子の算定平均数に相当する。カルボキシ修飾粒子間の架橋は観察されなかった。その上、遊離カルボキシ基とその結果生じる親水性表面が原因で、COOHビーズは非常によく再懸濁された。分離は
図13に示される。
【0107】
マグネタイトナノ粒子の再生のため、粒子をEDTA(10mM)で3回洗浄して錯体化Ni
2+イオンを除去し、同じ溶液中において室温で一晩懸濁させた。脱イオン水による3回の洗浄工程後に、粒子にNi
2+および6×Hisタグ付き骨格スキャフォールドタンパク質(酵素成分に対して算定された等モル比の骨格スキャフォールドタンパク質)を再び担持させた。1mgの新しいCOOH修飾ナノ粒子は、約80μgの骨格スキャフォールドタンパク質を担持することができた。同量の再利用ナノ粒子は約50μg(回収率62.5%)のスキャフォールディンタンパク質を結合することができ、そして2回再利用したナノ粒子は約25μg(回収率31.2%)のタンパク質をこの実験で固定化することができた。
【0108】
セルラーゼは、骨格スキャフォールド-ナノ粒子複合体の表面に、コヘシン-ドックリン認識によって固定化された。粒子にSM901変異体酵素を担持させ、可溶性、非晶質、および不溶性のセルロースに対するその比活性を、他に記載されるようにジニトロサリチル酸試薬を用いて還元糖の生産について測定した。分解の効率は基質のタイプに左右される。加水分解に最も利用しやすい基質は、可溶性β-1,3-1,4-グルカンとしてのオオムギβ-グルカンである。オオムギβ-グルカンに対するSM901変異体酵素のβ-グルカナーゼの比活性は約8U/mgタンパク質であった。カルボキシメチルセルロースの分解に対する比活性は約1.1U/mgタンパク質である。非晶質セルロース(リン酸膨潤セルロース)は分解に比較的利用しやすく、約2.8U/mgタンパク質の比活性をもたらす。ナノ粒子に結合していない同様の複合体との比較は、セルロソーム型骨格スキャフォールドを介した加水分解酵素の固定化が、試験したすべての基質の分解率にマイナスの影響を及ぼさなかったことを示している。
【0109】
結晶セルロース(MN300またはアビセル)に対して、遊離の変異体酵素はそれぞれ30mU/mgおよび12mU/mgの比活性を示した。9個のコヘシンと糖質結合モジュールをもつ精製された天然セルロソームは、基質としてMN300を用いた場合に423mU/mgの比活性を示し、アビセルの場合には198mU/mgの比活性を示した。SM901変異体酵素と、より多い数のコヘシンをもつ骨格スキャフォールドとの複合体形成は、その加水分解活性をそれぞれ63mU/mgおよび28mU/mgの比活性に増強させた。活性の増強は遊離の酵素に比べて2.1倍および2.3倍であった。3個のコヘシンとファミリー3の糖質結合モジュールをもつ複合体を用いた場合には、分解率が非結合型ヒドロラーゼと比較して4.9倍および3.7倍増加した(
図5)。
【0110】
比較のため、CBMを含まないかまたはCBMを含む骨格スキャフォールドタンパク質(c1-c1およびCBM-c1-c1)を使用した。CBMが骨格スキャフォールドに存在する場合、基質MN300では比活性が62mU/mgから102mU/mgに増加し、アビセルでは44mU/mgから108mg/mUに増加した。
【0111】
ナノ粒子結合型ミニスキャフォールディンへの加水分解酵素の固定化は、可溶性基質および不溶性基質の分解率にマイナスの影響を与えなかった。また一方で、pH安定性と温度安定性が大幅に増加した(それぞれ
図6および7)。
【0112】
参考文献:
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]