(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
集積回路(IC)産業及び光電池(PV)ソーラー産業にシリコンウェハを供給するために、チョクラルスキー(CZ)法により結晶性シリコンインゴットを成長させる技術は、数十年にわたって広く開発されている。チョクラルスキー法では、溶融石英(fused quartz)のような耐火材料から構成されシリコンを収容するルツボを、シリコンの融点である約1416℃に加熱してルツボの中でシリコン融液を生成させる。結晶方位を予め測定したシリコン種結晶を上方から下げて融液に少し接触させる。溶融シリコンは種結晶の表面で、種結晶と同じ配向を持って固化(freeze)する。種結晶を融液からゆっくりと引き上げていき、この操作を継続して直径が約200又は300mmで長さが1m又はそれ以上のシリコン単結晶のインゴットを成長させる。引き上げた後、インゴットをスライスしてシリコンウェハを製造し、それをさらに加工してIC又はPV太陽電池を製造する。
【0004】
IC産業は主にバッチ式のチョクラルスキー法に依存しており、この方法ではルツボに非常に高純度のシリコンの破片、塊又はペレットを仕込み、次いでシリコンの融点に加熱する。典型的には、1つのシリコンインゴットを成長させた後、ルツボを廃棄し、新たなルツボで置換する。PVソーラー産業では、バッチ式のCZシリコンウェハを利用しているが、連続チョクラルスキー(CCZ)法、より正確には半連続式CZが提案されており、この方法ではインゴットを成長させている間、ルツボ中のシリコン融液の液面が実質的に一定になるように、シリコン原料を連続的又は少なくとも断続的にルツボに供給する。通常の大きさのインゴットがルツボから引き上げられた後、新しい種結晶を使用し、又は前の種結晶を再使用することにより、さらに一つのインゴットを引き上げることができる。この方法は、かなりの数のインゴットで繰り返すことができ、その数は不純物の蓄積、ルツボの劣化のような要因によって決まる。CCZ法によってルツボの費用を抑え、単位時間内の生産量が上がり、いくつかの点では、インゴットの長さ方向に沿っての温度制御が簡単になる。しかしながら、CCZによってシリコン結晶が成長している間に、熱いルツボに原料を直接再供給することが必要になる。
【0005】
ソーラー用途向けのウェハをはじめとするウェハは、優先的にドーピングされ、通常は抵抗率が測定されて所望の伝導率のタイプ及びドーパント濃度が得られる。ドーピングされた、ある伝導率型のシリコンウェハの製造によって、他の伝導率型のドーパント層の拡散又は注入によりp−n接合を形成することができる。半導体ドーパントはよく知られており、ガリウム(Ga)によって太陽電池用のP型ドーパントとして多くの利点が得られるが、特にホウ素(B)はP型、リン(P)はn型として知られている。
【0006】
CZ法によれば、ドーピングされたシリコンは、融液の中に必要な量のドーパントを含ませることにより、成長させることができ、ドーパントは融液からシリコンと共にシリコンインゴットに組み込まれる。シリコンに対するドーピングの濃度は、典型的には1ppma(原子1万分の1)よりもずっと小さい。しかしながら、プロセスは偏析効果によって複雑になっており、融液中のドーパント濃度がCのとき、固化したインゴット中のドーパント濃度はκCでκは偏析係数であり、κは通常1より小さく、しばしば1よりずっと小さい。シリコン中の種々のドーパントの偏析係数は表1のとおりである。
【0007】
【表1】
【0008】
バッチ式CZでは、ドーパントは固体のシリコン原料と共に、冷たいルツボの中に仕込むことができ、これら二つは、ルツボをシリコンの融点に加熱するときに共に溶融する。しかし、偏析効果によって、融液中のシリコンはドーパントよりも大きな割合で、成長しているインゴット中に取り込まれる。初期チャージ原料中のドーパント濃度を、インゴット中の所望のドーピングになるように調整することは可能であるが、結晶が成長し、融液が消耗されると共に偏析効果により融液中のドーパントの濃度は徐々に増加し、融液は消耗する。その結果、インゴットの後の部分は、最初の部分よりも高いドーパント濃度(より低い抵抗率)を有している。バッチ式CZでは、ガリウムのドーピングが10倍変動し、ホウ素のドーピングは約30%変動する。このような軸方向(すなわちインゴットの長さ方向)の変動は、ウェハの抵抗率がインゴット中の位置に依存するので好ましくない。ソーラーパネルの挙動は電池の非均一性によってマイナスの影響を受けるので、電池のメーカーはその製造ラインにコストのかかるウェハ・ソーティング工程を置いている。ウェハ供給が均一であれば、これらの工程を省くことができる。本発明が利点とする他の応用は、均一な抵抗率の高濃度のドーピングロッドを分割し、次のCZ製造プロセスにおいて固体として原料と混合し、より低いドーパント濃度とより高い抵抗率のロッドを作ることができることにある。
【0009】
連続CZ法では、溶融したときに液中で所望の濃度になるドーパント量は、融液中の一定のドーパント濃度を維持し各々のインゴットの軸方向の抵抗率を一定にし、複数のインゴット間で一定の抵抗率を確保するために、新たなシリコン原料と共に供給することができる。しかしながら、CCZにおいて原子状のドーパントを連続的に再供給することにより、シリコンと比べて融点の低い大抵のドーパントによって困難さが生じ、熱いルツボ中へのドーパントの調節し得る量を個別に測る必要性が生じた。ガリウムは、その融点が約30℃で偏析係数が非常に小さいため、特に困難である。原子状のドーパント、例えばホウ素及びリンは典型的に粉末状であり、原子状のドーパントによる連続ドーピングは、実際上、極めて困難である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、結晶成長装置及びそれから得られたインゴットに関し、同様に、シリコンインゴットの結晶成長方法に関する。
【0015】
本発明によれば、インゴット成長の間に、追加のドーパント材料を供給することなく、軸方向に均一なドーパントプロファイルを有するシリコンインゴットを製造することができる。本発明の態様は、特に多重壁ルツボにおけるチョクラルスキー(CZ)成長の間の、シリコン及びドーパントの流れの詳細な分析から生じたものである。
【0016】
さらに詳細には、本発明は結晶性材料の成長方法、特にチョクラルスキー成長方法に関する。結晶成長方法は、成長ゾーンが供給ゾーンと流体連通されているルツボを設ける工程、ルツボに原料物質及びドーパント材料を事前に仕込む工程、最初の仕込みを溶融する工程、及び結晶性物質のインゴットを成長させ、次いで装置から取り出す工程を含む。得られる結晶性インゴットはドーパント濃度が軸方向に均一、すなわちインゴットはその垂直軸に沿って実質的に一定の濃度を有する。これは、当技術分野で公知の任意の方法、特に公知の抵抗測定法を用いて測定できる。例えば、このようにして得られる結晶性インゴットは軸方向に均一な抵抗率を有する。均一な抵抗率又はドーパント濃度は、抵抗率又はドーパント濃度が±20%以内、より好ましくは±10%の範囲内であることを意味する。
【0017】
本発明の方法で用いるルツボは、成長ゾーンが供給ゾーンと流体連通されている。このように、ルツボは多重ゾーンを有するルツボである。ルツボとしては、結晶成長に使用され、固体と液体の原料、特にシリコンを収容できる公知の任意のものが使用し得る。例えば、ルツボは石英のルツボであっても、又はグラファイトのルツボを石英で被覆(ライニング)したものでもよい。ルツボは、例えば使用されている結晶成長装置の構造に起因した任意の断面形状のものでよいが、典型的には円形の断面形状を有している。好ましくは、ルツボは外側の供給ゾーンの中に内側の成長ゾーンを有し、内側の成長ゾーンは外側の供給ゾーンと流体連通しているものである。例えば、ルツボは内側と外側のゾーンを分ける壁又は他の分離手段を含むことができる。分離手段は開口部、例えば孔又はパイプ、を有することができ、それによって2つのゾーンの間で流体による制限された連絡ができ、結晶化プロセスで内側の成長ゾーンから原料が除かれ、新たな原料が供給ゾーンから入る。内側の成長ゾーン及び外側の供給ゾーンは、断面積比が前記で詳述したようにドーパントの均一性を維持する手順を決定するのに使用できる断面積を有する。
【0018】
本発明の方法では、シリコンインゴットの成長を開始する前にルツボの複数のゾーンに原料が初期チャージ(pre−charge)される。例えば、電子産業用シリコン、金属級シリコン又はソーラーグレード(太陽電池級)シリコンのようなシリコンを含む最初の仕込みを、ルツボの内側の成長ゾーン及び外側の供給ゾーンの両方に行う。さらに、ドーパント材料もルツボの成長ゾーンに初期チャージを行う。当技術分野で公知の任意のドーパントを使用することができ、例えばリンのようなn型ドーパント、ホウ素、ガリウム、インジウム又はアルミニウムのようなp型ドーパントがあげられる。
【0019】
ルツボの中のチャージ原料は、その融点以上の温度に加熱され、成長ゾーンの中の、シリコン及びドーパント材料のような原料を含む初期チャージ原料は溶融混合物を形成し、供給ゾーンの中の、シリコンのような原料を含む初期チャージ原料は原料融液を形成する。当技術分野で公知の任意の方法が初期チャージ原料を溶融させるのに使用できる。ルツボの成長ゾーンは供給ゾーンと流体連通されているので、溶融すると、溶融混合物と原料融液は実質的に同様な高さの融液上面を有する。一旦、溶融すると、成長ゾーンの溶融した仕込み原料から少なくとも一つの結晶インゴットが成長し、次いでインゴットは次のプロセスのために取り除かれる。
【0020】
上記のように、軸方向のドーパント濃度が一定の結晶性インゴットを、ドーパント偏析係数及びルツボの構造についての知見を唯一の拠り所として、成長させることができる。この方法の種々の実施形態は、
図1〜
図4で示すように、相互に流体連通されている複数のゾーン間の、融液フローの詳細な解析によるものである。
【0021】
特に、チョクラルスキー成長装置は、
図1の断面図で模式的に説明している。二重壁のルツボ10は、半径がr
sで液上面面積A
sの内側の円形成長ゾーン12と、外側の半径がr
tで全液の上面面積がA
t、壁16で内側成長ゾーン12と分離されている環状の面積(A
t−A
s)を有する外側の環状供給ゾーン14とを含む。壁16の中の孔18によって、外側の供給ゾーン14から内側の成長ゾーン12への流体による制限された連絡がなされる。孔18によって、成長及び供給ゾーンの両方の融液上面20のレベルが近くなるのが確実になる。任意に、関連した孔を有する1又はそれ以上の追加の壁を用いて、特に最外ゾーンから中心ゾーンへの制限された流体連通を有する追加ゾーンを設けることができる。
【0022】
図示されていないヒーターによって、最初に固体原料、例えば冷たいルツボに初期チャージされたシリコン及び使用されることがあるドーパント、を融点まで加熱し、結晶成長のために融点又はそれより少し上の温度に維持する。直径D又は半径r
xを有するインゴット22は、固化領域24で内側の成長ゾーン12と接触する、断面積A
xを有する。ドーパントの量は、ドーパントを溶解している原料の量よりもずっと少ないと仮定すると、内側の成長ゾーン12からインゴット22への固化(成長)量の流れ(量変化の速度)はdM
x/dtであり、孔18を通して外側の供給ゾーン14から内側の成長ゾーン12に移行する量の流れはdM
12/dtである。また、もし必要なら、追加の原料を含むフィードを使用することができ、外側の供給ゾーン14への固体又は液体シリコン原料の供給量の流れ(それはゼロであってもよい)はdM
F/dtとなる。孔18を通しての逆の流れは実質的にないと推定される。本発明では、インゴット22が成長している間、融液上面20のレベルが変動してもよい。
【0023】
ドーパントの濃度については、内側の成長ゾーン12のドーパント濃度はC
Lで、その変化の速度は
図1に示す式1で表される。もし、インゴット22が軸方向で一定のドーパント濃度及び抵抗率(すなわち式1においてdC
L/dt=0)を有すべきであれば、インゴット成長時にC
Lが一定であることが望まれる。成長及び供給ゾーンの両方における融液上面20のレベルの変化速度dh/dtは
図2の式2及び式3で各々、示している。しかし、孔18を通しての流体連通により、2つの速度は同じはずである。したがって、これらの2つの式を結合して
図2の式4にすることができる。
図1の式1に代入し、整理すると、
図2の式5になる。本発明の種々の実施形態は式5に特定の条件を入れたものでもある。
【0024】
図3に示す本発明の方法の第一の実施形態では、均一なドーピングを実施し、すなわちdC
L/dt=0で、シリコンのような原料を連続的に供給したが、連続ドーピングはしなかった。このように、この実施形態は連続チョクラルスキー成長方法であり、その中で例えば内側の成長ゾーンにシリコンとドーパント材料が初期チャージされ、外側の供給ゾーンにはC
F=0となるようにドーパント材料なしにシリコンが初期チャージされ、シリコンインゴットが成長するにつれてシリコンの供給は外側の供給ゾーンになされる。次いで、この実施形態では、供給量のフロー速度(供給がルツボになされる速度)と成長量のフロー速度(インゴットが成長する速度)の比を式6に示す。ホウ素及びリンのようにもし、内側成長ゾーンからのドーパント材料の蒸発が実質的にゼロに等しい(すなわち蒸発速度係数がほぼゼロ)であれば、シリコン供給速度対インゴット成長速度の比は式7になる。式7はドーパント濃度κC
Lから独立しており、固化速度だけでなく、得られる最終インゴットが望まれ又は目標にされる。むしろ、本発明の方法の実施形態として、供給速度対インゴット成長速度の比は、ルツボの構造とドーパント材料の偏析係数にのみ依存する。ルツボ構造の関連ある特徴は、融液の高さにおけるルツボの外側及び内側ゾーンの面積比A
t/A
s又は円形のルツボの半径の二乗の比r
t2/r
s2又は同等の、直径の二乗比D
t2/D
s2である。式6は、さらに蒸発速度、インゴット直径及び引き上げ速度に依存する。高さと共に変動する半径(すなわち、テーパー状例えば頂部から底部)の壁を有するルツボの場合は、面積比は高さで調節することができ、又はそのかわりに、内側及び外側のルツボを垂直方向にテーパー状にすることは、軸方向に変動しない面積比を仕立てることができる。
【0025】
したがって、この最初の実施形態によれば、
図3の式6又は式7にしたがって、外側の供給ゾーンへのシリコン原料の供給と固化量フローとの比は、特定のルツボ構造特性とインゴットの成長に使用される結晶性材料中のドーパント材料の偏析係数についての知識に基づいて決定される。この実施形態では、ルツボの内側成長ゾーンには原料(例えばシリコンさらにはドーパント材料を含む)が初期チャージされ、ドーパント材料が原料と共に溶融されたときの濃度はC
Lである。外側の供給ゾーンにも原料が初期チャージされるが、この固体の初期チャージにはドーパント材料は含まれない。固体又は液体のドーパントを室温で仕込むのは困難ではない。両方のゾーンへの固体の初期チャージ原料は溶融したときに初期の表面レベルが等しくなければならない。また、原料は外側の供給ゾーンの融液に連続的に又は断続的に供給されるが、この原料にはドーパント材料は必要ではない。
【0026】
図4に示す本発明の方法の第二の実施形態においては、均一なインゴットドーピングが得られ、すなわちdC
L/d
t=0で、インゴット成長の間に、シリコンもドーパントも供給されずdM
F/dt=0となる。このように、この第二に実施形態は、バッチ式のチョクラルスキー成長法であり、この方法では内側の成長ゾーン及び外側の環状の供給ゾーンに、原料例えばシリコンとドーパント材料が初期チャージされる。外側の供給ゾーンに初期チャージされたドーパント濃度と内側の成長ゾーンに初期チャージされたドーパント濃度との比C
F/C
Lは、蒸発する場合(すなわち、ドーパント材料が無視できない蒸発速度係数を有する場合)は
図4の式8で示し、蒸発が重要でないとき(すなわち、ドーパント材料が、ゼロにほぼ等しい蒸発速度係数を有するとき)例えばホウ素又はリンのときは、
図4の式9で示す。これらの比は、インゴット成長の間も一定のままであるべきである。本発明方法のこの第二の実施形態では、式9の比は、ルツボの構造及びドーパント材料の偏析係数に依存する。
【0027】
したがって、この実施形態では、成長及び供給ゾーンに、初期の融液レベルが等しくなるような多量の固体シリコンと、ドーパント濃度が各々、C
L及びC
Fになるような多量のドーパントを初期チャージし、これらの濃度の比は、
図4の式8又は式8にしたがって、特定のルツボ構造特性と結晶性材料中のドーパント材料の偏析係数の知識に基づいて決定される。低温でのドーパントの初期チャージは困難ではなく、連続的にシリコンを供給しないので、ルツボの設計及び操作が大幅に簡略化される。
【0028】
成長ゾーンに固体のシリコン原料及びドーパントが、冷たいときにのみ供給され、シリコンが消費され成長が停止するとルツボは新しいものと置換することが予定されている。このプロセスは、ルツボの中に仕切りがある以外は、従来のバッチ式のチョクラルスキー法の操作に近似している。もし、1つのインゴットの成長の後に、十分なシリコンが残っていれば、第二又はそれ以上のインゴットをその融液レベルの下がった融液から成長させることができる。そのかわりに、供給とドーピングを結晶間で行うことができ、バッチ式のような成長プロセスを繰り返すことができる。
【0029】
本発明方法の第三の実施形態は、上記2つの実施形態のいずれかの特別なケースである。上記のように、第一の実施形態は、シリコンとドーパント材料が、内側の成長ゾーンに初期チャージされ、ドーパント材料を含まないシリコンが外側の供給ゾーンに初期チャージされる。さらに、シリコンインゴットが成長するにつれてシリコンが外側の供給ゾーンに供給される。もし同じ条件が使用され、シリコンが供給されなければ(すなわちdM
F=0)、式7に基づき、κ(A
t/A
s)=1で、したがってA
s/A
t=κになる。これらの同じ条件が第二の実施形態にも適用され、第二の実施形態では、外側の供給ゾーンにはドーパント材料は初期チャージされず、すなわち、外側の供給ゾーンではドーパント材料の濃度はゼロ(C
F=0)である。このケースでも式9に基づき、κ(A
t/A
s)=1でA
s/A
t=κである。したがって、ドーパント材料の蒸発がないと仮定すると、もし面積比が偏析係数と同じとすると、環状供給ゾーンへの初期チャージやシリコン原料の連続供給は不要である。このように、本発明方法のこの実施形態を用いて、もし、ルツボが偏析係数と同じ面積比を有していれば、外側の供給ゾーンにドーピングされないシリコンを供給したりドーパントを添加することなく、均一なドーパント濃度を有するインゴットを製造することができる。操作上は、κからの上記比の変動が±10%又は±20%であれば、これらと同じ利益の多くを享受できるであろう。
【0030】
したがって、第三の実施形態によれば、面積比と同じ偏析係数を有する特定のドーパント用に設計されたルツボにおいて、成長ゾーンに、溶融したときに濃度がC
Lになるように、シリコンとドーパント材料の両方を初期チャージし、また供給ゾーンにシリコンのみを同じ初期融液レベルになる量、初期チャージする。インゴット成長の間に、シリコン又はドーパント材料を連続的に供給する必要はない。円形の断面形状を有するルツボの特定の例として、内側の成長ゾーンの直径対外側の供給ゾーンの直径(ルツボの直径)の直径比D
s/D
tはホウ素では0.89、リンでは0.59である。これらの比は、結晶成長比又はインゴット直径から独立したものであり、
図5のグラフの尖点(cusps)から導けるものであり、
図5は、ホウ素とリンのドーパントについて、ルツボの構造A
s/A
t及び実線で示した右軸の最初の実施形態用の操作パラメータdM
F/dM
x、及び点線で示した左軸の第二の実施形態用の操作パラメータC
F/C
Lを示している。これらの値は、表1の偏析係数に基づき、計算することができる。ガリウムの直径比によれば、引き上げ速度とインゴット直径を考慮することが必要である。
【0031】
面積比の特定の値は、特定の構造(又は他のドーパント)を有するルツボが均一にドーピングされた結晶性インゴットを製造するのに、如何に使用できるかを決定するのにも用いることができる。例えば、最初の実施形態の式7、κA
t/A
s>1を用いればdM
F<0が必要となり、dM
F<0は、ドーパントを除かないで装置から液状シリコンを除くことができない限り不可能である。したがって、第一の実施形態はκA
t/A
s<1又は特別の場合はkA
t/A
s=1のときのみ実施可能である。このように、本発明方法のこの実施形態では、内側の成長ゾーンと外側の供給ゾーンk(A
t/A
s)<1又はdM
F<dM
xを満たす断面積を有するルツボが、軸方向の実質的に均一なドーパント濃度を有するインゴットを製造するのに使用することができる。さらにもう一つの実施例として、第二の実施形態の式9を用いて、κA
t/A
s<1の値はC
F<0であることが必要である。しかしながら、ネガティブな濃度は不可能なことは明らかである。したがって、第二の実施形態は、κA
t/A
s>1又は特殊なκA
t/A
s=1のときにのみ実施できる。このように、本発明の方法の、この実施形態については、内側の成長ゾーン及び外側の供給ゾーンの断面積κ(A
t/A
s)>1及びC
F<C
Lを有するルツボが、軸方向に実質的に均一なドーパント濃度を有するインゴットを製造するのに使用できる。かなりの蒸発がある場合、例えばガリウムでドーピングする場合は、式6及び式8に基づく方法が必要である。
【0032】
供給速度及び固化速度は上記実施形態で同じではなさそうなので、融液レベルは成長の間に低下し、成長するインゴットの長さは、融液レベルがルツボの底に到達する時までに限定される。
【0033】
本発明は、内側の成長ゾーンが外側の供給ゾーンと流体連通されているルツボから、インゴットを成長させることにより、特定のドーパント材料で均一にドーピングされたシリコンインゴットを製造する方法を提供する。融液レベルの断面積の比A
s/A
tがドーパント材料の偏析係数κと等しいルツボでは、ドーパント材料を外側の供給ゾーンに含ませることなく、またインゴットが成長するにつれて、追加のシリコン又はドーパント供給が成長ゾーンを補充することなく、均一なインゴットを成長させることができる。その他のルツボ構造では、本発明の方法の種々の実施形態で記載したように、異なる方法が必要である。特に、A
s/A
t>κ(すなわち、κ(A
t/A
s)<1)のルツボでは、均一なドーパント濃度のインゴットを製造するために、外側の供給ゾーンはドーパント材料を含むべきではなく、インゴットが成長するにつれて、シリコンのみを供給すべきである。この場合、外側の供給ゾーンへシリコンを供給する速度は、シリコンインゴットが成長する速度よりも少なくすべきである。また、A
s/A
t<κ(すなわち、κ(A
t/A
s)>1)のルツボでは、均一なドーパント濃度のインゴットを製造するために、内側の成長ゾーンと外側の供給ゾーンの両方が、シリコンとドーパントを収容すべきであり、外側供給ゾーンのドーパント濃度は内側の成長ゾーンのドーパント濃度より低くなければならない。シリコン又はドーパント材料の追加供給は必要ではない。このように、ルツボの構造やドーパント材料の偏析係数だけを知ることにより、本発明の方法の実施形態を使用して、均一にドーピングされたシリコンインゴットを製造することができる。
【0034】
第四の実施形態は、最初と第二の実施形態を組み合わせたものである。外側の環状の供給ゾーンにはシリコンとドーパントが初期チャージされ、結晶成長している間、ドーパントは供給されないがシリコンが連続的に供給される。この実施形態ではシリコン原料の高温供給が必要であるが、ルツボの構造には制限されず、ルツボが空になるまでの長い間、運転することができる。第四の実施形態は、シリコンの補充を、コンピュータ化し、動的に制御できる利益を享受する。
【0035】
本発明はまた、結晶成長装置に関するものであり、特に、軸方向に実質的に均一なドーパント濃度を有するシリコンインゴットのような結晶性インゴットを製造するのに使用される、チョクラルスキー成長装置に関するものである。この装置は公知の構造と公知のタイプのドーパント材料を有するルツボを備えている。好ましくは、本発明の結晶成長装置は上記で詳細に説明した本発明の方法を用いてインゴットを製造するのに使用される。したがって、好ましくは、本発明の結晶成長装置は、内側の成長ゾーンが外側の供給ゾーンと流体連通のルツボを備え、内側の成長ゾーンはシリコンとドーパント材料を有し、溶融した時に溶融混合物を形成し、外側の供給ゾーンはシリコンを有し、溶融した時にシリコン融液を形成する。成長ゾーンと供給ゾーンは流体連通されているので、溶融混合物とシリコン融液は実質的に同じ高さの、融液上面を有する。内側の成長ゾーンと外側の供給ゾーンは、使用される特定のドーパント材料のドーパント均一性を維持するための条件を決定するのに用いられる断面積を有し、これらのことは、本発明方法の種々の実施形態に関して前記のとおり、より詳細に説明している。
【0036】
本発明のチョクラルスキー成長装置の特定の例で、他の用途と同様に、本発明の方法に使用できる装置を、
図6の断面図で模式的に説明する。チョクラルスキー成長装置10は、中心軸13の周りに配置されたルツボチャンバー12及び断面形状が実質的に円形の二重壁のルツボ16を支える台座14を備えている。図示されていないモーターに接続されたシャフト18は台座14及びルツボ16を中心軸13の周りを回転させる。ルツボチャンバー12は不活性な周囲のガス(例えばアルゴン)を供給するポート(ports)と周囲ガスを排出しチャンバーの圧力を下げる真空ポートを備えている。
【0037】
ルツボ16は、内側の成長ゾーン22を構成する内側の壁20と、内側の壁20と一緒に外側の環状供給ゾーン26を構成する外側の壁24を備えている。内側の壁20の中の開口部28によって外側の供給ゾーン26と内側の成長ゾーン22との間で、制限された流体連通がなされる。壁を追加することによって、追加のゾーンを作ることや、他の流量調節が可能である。内側の成長ゾーン22及び外側の供給ゾーン26の直径、及び断面積は、所望の成長インゴットの中に組み込ませるドーパント材料の偏析係数に基づいて事前に選択される。さらに、内側の成長ゾーンの直径は、目標とするインゴットの直径よりもかなり大きくなるように最適化されたファクターによって選択され、引き上げ速度は結晶の欠陥又はその他の好ましくない効果を少なくするため、最適化される。この最適化は、単一壁のルツボCZ成長では周知である。シリコンを含む望ましい固体の初期チャージ原料は、ルツボ16に供給し、側面ヒーター30と環状下部ヒーター32でルツボ16を、シリコン融点より少し高い約1420℃に加熱し、初期チャージ原料が溶融し、内側の成長ゾーン22と外側の供給ゾーン26を溶融物質で融液上面レベル34まで実質的に満たす。代替的に、ルツボへの初期チャージ用のシリコンを溶融するのに予備ヒーターを用いることができる。
【0038】
チョクラルスキー成長装置10は、さらにプルチャンバー(pull chamber)40を有し、このチャンバーはルツボチャンバー12の頂部から垂直上方へ伸び、プーラ(引き上げ機構;puller)分離弁42によって、ルツボチャンバーから真空分離されている。引き上げ機構(puller mechanism)44は、下端にクランプ48を有するケーブル46を支持し、引っ張り、伸ばし、回転させて、予め決定された結晶配向のシリコン種結晶50を選択的に保持する。操作中に、プーラ44は、開いたプーラ分離弁42を通して種結晶50を下げ、内側の成長ゾーン22の融液上面34にわずかに接触させる。適切な温度条件下で、内側の成長ゾーン中の融液上面のシリコンは種結晶50の表面上で、種結晶と同じ結晶配向で凍結又は固化する。その後、プーラ44は、追加のシリコンが固化し結晶が拡大して成長するインゴット52を形成するように種結晶とルツボ16を逆方向に回転しながら、ゆっくりと融液から種結晶50を引き上げる。初期には、インゴット52の直径はクラウン領域54で拡大するが、インゴット52の中央部が実質的に一定の径、例えば200又は300mmを有するように引き上げ速度を増加させる。
【0039】
インゴット52の長さが増加するにつれて、インゴットはプルチャンバー40の中へ部分的に引き込まれる。所望の最終長さ、例えば1〜2mに達したとき、引き上げ速度をさらに増加させて減少した径のインゴット尾を形成させ、最終的にインゴットを融液から外す。インゴット52は次いで、完全にプルチャンバー40の中へ引き込まれ、プーラ分離弁42を閉じてプルチャンバーをルツボチャンバーから分離する。インゴットが十分、冷却されたときにプルチャンバー40から取り除き、新しいシリコン種結晶がプーラケーブル46に固定されて、もし十分な融液が残っていれば、同じ熱いルツボから次のインゴットを引き上げることができる。
【0040】
もし必要なら、インゴット52の引き上げの間、又は複数のインゴットの間、追加のシリコンをルツボ16に、少なくとも断続的に供給することができる。
図1の実施形態では、固体のシリコン粒子60が破片又はペレットの形で、ルツボチャンバー12の側壁を選択的に貫通しているフィーダートレイ62から供給分離弁64を介して供給される。フィーダートレイ62は、分離室に収容されバイブレーターで選択的に活性化されてもよいが、ルツボチャンバー12から引っ込め、供給分離弁を閉じてフィーダートレイへの原料を再供給し、又はその供給を止めることができる。フィーダートレイ62は噴出口66を有する傾斜したシュートの上に配置することができ、噴出口66は、回転する外側の供給ゾーン26の上に近接して配置され、シリコン粒子60が外側供給ゾーン26に低速度で落下し、そこで溶融して最終的に開口部28を通って成長ゾーン22に供給され、融液上面34を維持する。
【0041】
これまで、開口部を有する1枚の分離壁を備えた、2つのゾーンを有するルツボを用いて本発明を説明したが、本発明は開口部を有する多数の分離壁を備えた2を超えるゾーンを有し、最外部のゾーンから最内部のゾーンに制限された流体連通を有するルツボに本発明を容易に拡張することができる。
【0042】
本発明のいくつかの態様は、偏析係数を考慮して、異なる伝導性のタイプの多数のドーパントの使用まで容易に拡張することができる。
【0043】
上記の由来は、固定した供給及び引き上げ速度の基礎になるが、コンピュータ化したコントローラが装置操作を監視し、それに応じて供給及び引き上げの速度を調節することもできる。
【0044】
本発明は単結晶シリコンインゴットを成長させるのに商業的に重要であるが、他の物質の成長及び結晶学に適用することができる。
【0045】
上記の、本発明の好ましい実施形態の説明は、例示及び説明の目的で提出したものである。この説明は網羅的であること又は開示したそのものに発明を限定することを意図していない。上記の教示を考慮して、変更又は変形させることは可能であり、又は本発明を実施することにより、変更又は変形できるものである。実施形態は、本発明の原理及び応用を説明することにより、当業者が種々の態様でかつ意図する特定の用途に合うように種々の変更を加えて利用できるようにするために選択され、記載されたものである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物によって定義されるべきことを意図している。