【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願のエンジンは、耐ノッキング性を向上させた火花点火ピストン式4サイクルエンジンです。本出願のエンジンの一つの燃焼室は、以下の特徴を持つ。
シリンダーの中心軸付近に、点火プラグが設置される。
3個の吸気弁の底面である第2底面が、前記シリンダーの内周の一部の近くに設置される。3個の前記第2底面の3個の中心を結ぶ直線によって、第2三角形が形成される。
3個の排気弁の底面である
3個の第1底面の3個の中心を結ぶ直線によって、第1三角形が形成される。前記第1三角形の中に、前記点火プラグが位置する。
前記第2三角形の一つの頂点が上向きの場合に、前記第2三角形の中に一つの頂点が下向きに逆立ちした前記第1三角形の大部分が位置する。
前記第1底面に対面する第1突出部分が、上死点時の
ピストンの上面に形成される。
上死点時の
3個の前記第1突出部分と
3個の前記第1底面の間に、第1空間が形成される。
上死点時の前記第1空間の前記シリンダーの前記中心軸の方向の間隔が、前記第1底面の直径の30%未満に設定される。
前記シリンダーの前記内周の他の一部と前記第1空間の間に、
3個のスキッシュエリア空間が形成される。前記第1空間は、前記シリンダーの前記内周から離れて位置する。
前記点火プラグの中心電極から前記第2三角形の角を経由して前記第2底面の外周に到達する第2直線よりも、前記中心電極から前記第1三角形の角を経由して前記第1底面の外周に到達する第1直線が短く設定される。
第3直線は、前記中心電極から前記第1三角形の角を経由した後に前記スキッシュエリア空間を経由して前記内周に達する直線です。
前記第3直線上の前記スキッシュエリア空間を通る直線部分の長さは、前記スキッシュエリア空間に隣接する前記第1底面の前記直径の40%よりも長く設定される。
【0007】
以下の第1から第5までの作用によって、耐ノッキング性が向上する。
第1の作用が説明される。
本願のスキッシュエリア空間は、第1空間とシリンダーの内周の間に位置する。第1空間は、点火ブラグとスキッシュエリア空間の間に位置する。
上死点時の第1空間の間隔が、第1底面の直径の30%未満に設定される。第1空間の間隔が狭い程、第1底面に面した混合気の多くがスキッシュエリア空間に移動する。
この為、火炎が点火ブラグから第1空間に向かって伝播する時、
既燃焼ガスの膨張によって、第1空間内の混合気の一部分は、スキッシュエリア空間に移動され、スキッシュエリア空間で圧縮される。
スキッシュエリア空間に移動された混合気部分は、排気弁よりも低温度の壁面に触れて冷却される。
また、燃焼行程中の
ピストンの下降量は、スキッシュエリア空間のシリンダー中心軸方向の上死点時の間隔に近い値です。この為、燃焼行程中の
ピストンの下降によって、スキッシュエリア空間は、容積が急激に増加する。
第3直線上のスキッシュエリア空間を通る直線部分の距離は、スキッシュエリア空間に隣接する第1底面の直径の40%よりも長く設定される。この為、スキッシュエリア空間は、火炎の伝播方向の排気弁の第1底面よりも下流側に広く形成されている。
それらの結果、スキッシュエリア空間の容積の増加による大きな温度低下作用によって、第1空間を経てスキッシュエリア空間に移動された混合気部分の圧縮による温度上昇が制限される。
また、スキッシュエリア空間内の容積は小さい。
従って、スキッシュエリア空間内の混合気の燃焼によって、燃焼行程の後期に圧力の急激な上昇が発生し難い。
【0008】
第2の作用が説明される。
第1空間と排気弁の第1底面は、スキッシュエリア空間よりも点火ブラグの近くに位置し、シリンダーの内周から離れて位置し、シリンダーの内周に隣接しない。
この為、第1空間内の混合気は、燃焼行程の前期から中期までに燃焼する。この期間の燃焼圧力値は、燃焼行程の後期の燃焼圧力値よりも低い。
この為、排気弁の底面に面した混合気の燃焼中に、燃焼圧力の急激な上昇は発生しない。
【0009】
第3の作用が説明される。
圧縮行程の終期にスキッシュエリア空間から流失するスキッシュ流の多くが、排気弁の底面に面して高熱化した混合気部分を点火ブラグ方向に移動させる。
スキッシュエリア空間の混合気の温度は、排気弁の底面に
面した混合気部分の温度よりも低い。
すると、排気弁の底面に
面した混合気の燃焼開始時の温度が低下する。すると、燃焼圧力値の急激な上昇が制限され、耐ノッキング性が向上する。
【0010】
第4の作用が説明される。
排気行程の終期にスキッシュエリア空間から流失するスキッシュ流の一部が、排気弁に向かう。排気上死点時に排気弁が少し開いている。
すると、スキッシュエリア空間の既燃焼ガスの一部が、少し開いている排気弁の開口部を経て排気ポートに流失する。すると、燃焼室に残留する高温の既燃焼ガスが減少する。
すると、点火時の混合気温度の上昇が緩和され、耐ノッキング性が向上する。
第4の作用は、新しい吸気の流入による掃気とは別の作用です。
【0011】
本願に対して、特許文献1とMaseratiの6バルブエンジンと特許文献3の排気弁はシリンダーの内周に隣接して設置される。
Maseratiの6バルブエンジンと特許文献3は、本願と同様な広いスキッシュエリア空間と本願と同様な第1空間を持たない。
従って、特許文献1とMaseratiの6バルブエンジンと特許文献3は、前記の第1から第4までの作用を行えない。
Maseratiの6バルブエンジンと特許文献3は、3個の排気弁が連なって設置される。
この為、もしも本願の様な火炎の伝播方向の排気弁の底面よりも下流側に広いスキッシュエリア空間を
作るならば、連なって設置される3個の排気弁の直径が小さくなり過ぎて、排気抵抗が増し、本願よりもトルクが低下する。
特許文献2の6バルブエンジンでは、2個の排気弁がシリンダーの内周に隣接している。従って、特許文献2のシリンダーの内周に隣接している2個の排気弁とシリンダーの内周の間に、本願と同様な広いスキッシュエリア空間が
存在しない。従って、特許文献2は、第1の作用を行えない。
また、特許文献2の3個の排気弁の直径は、本願のエンジンとMaseratiの6バルブエンジンよりも小さくなり、排気抵抗が増し、本願よりもトルクが低下する。
【0012】
前記の4弁式燃焼室の排気弁の底面の外周とシリンダー内周の間の大変に小さなスペースにスキッシュエリアを
形成する従来例では、本願と同様な広いスキッシュエリア空間を形成する為には、排気弁の
底面を非常に小さくしなければならず、排気抵抗が増し、本願よりもトルクが低下する。排気弁の底面の面積を変えない場合は、小さなスキッシュエリアの前記第3直線方向の距離の最大値は、排気弁の底面の直径の25%前後です。
この為、
この従来例では、スキッシュエリアの半径方向の
長さが本願の排気弁の底面の直径の40%よりも長く設定できず、本願と同様な広いスキッシュエリア空間を持てず、第1の作用を行えない。
2個の
排気弁の底面の外周の一部とシリンダー
内周の一部に囲まれてスキッシュエリアを
設置する多数の従来例がある。
この従来例の場合のスキッシュエリア
は、本願の第3直線上に位置しない。
この為に、この従来例は、本願と同様な広いスキッシュエリア空間を持てず、第1の作用を行えない。
【0013】
第5の作用が説明される。
3個のスキッシュエリア空間から流失する3本のスキッシュ流は、点火ブラグの付近で衝突して、弱まる。
この為、スキッシュエリア空間から流失するスキッシュ流によって、放電部付近の火炎核を吹き消す危険を減少させる。
【0014】
第5の作用に対して、特許文献1の燃焼室では、2個の隣接する排気弁の底面に面して形成されたスキッシュエリアから点火プラグに向かって
流れるスキッシュ流が一方向に限定され、点火プラグ付近で2本のスキッシュ流が衝突しない。従って、
特許文献1のスキッシュ流は、点火プラグの中心電極付近で発生した火炎核を吹き消す作用を持つ。従って、特許文献1は、第5の作用を行えない。
特許文献1の燃焼室では、スキッシュエリアのシリンダー中心軸の方向の間隔を狭く設定できない。これにより、
特許文献1は、スキッシュ流を弱くして、火炎核を吹き消す作用を弱めている。
【0015】
また、連なって設置される2個の排気弁の底面の全部にスキッシュエリアを形成する例では、点火プラグの火炎核を吹き消す危険を持つ強いスキッシュ流が発生する為に、本出願の第5の作用に記載した火炎核を吹き消す問題を解決する手段を持たない場合は、火炎核が吹き消され、運転ができない。従って、第5の作用を行えない。
【0016】
本発明による効果が説明される。
耐ノッキング性が向上する事によって、本発明は、高圧縮比化が可能になり、前記の4弁式燃焼室よりも熱効率の向上が得られる。
また、本発明は、圧縮比を下げる事なく、過給によって、自然吸気式の4弁式燃焼室よりも混合気量とトルクを増加できる。従って、ダウンサイジングが可能になる。