特許第5909307号(P5909307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5909307-耐ノッキング性を向上させたエンジン 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5909307
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】耐ノッキング性を向上させたエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/42 20060101AFI20160412BHJP
   F02B 23/08 20060101ALI20160412BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   F02F1/42 K
   F02B23/08 W
   F02B23/08 S
   F02B23/08 R
   F02P13/00 301A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-255509(P2015-255509)
(22)【出願日】2015年12月26日
【審査請求日】2015年12月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500097245
【氏名又は名称】矢尾板 康仁
(72)【発明者】
【氏名】矢尾板 康仁
【審査官】 永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−81651(JP,A)
【文献】 特開平7−127458(JP,A)
【文献】 特開平6−50111(JP,A)
【文献】 特開平6−341322(JP,A)
【文献】 特開平6−81613(JP,A)
【文献】 実開昭61−5305(JP,U)
【文献】 特公昭27−2060(JP,B1)
【文献】 米国特許第5429080(US,A)
【文献】 米国特許第4858573(US,A)
【文献】 米国特許第4809663(US,A)
【文献】 独国特許出願公開第3724494(DE,A1)
【文献】 米国特許第5570665(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/42,
F02B 23/08,
F02P 13/00,
F01L 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火式4サイクルエンジンの一つの燃焼室において、
シリンダーの中心軸付近に点火プラグが設置され、
3個の吸気弁の底面である第2底面が前記シリンダーの内周の一部の近くに設置され、3個の前記第2底面の3個の中心を結ぶ直線によって第2三角形が形成され、
3個の排気弁の底面である3個の第1底面の3個の中心を結ぶ直線によって第1三角形が形成され、前記第1三角形の中に前記点火プラグが位置し、
前記第2三角形の一つの頂点が上向きの場合に、前記第2三角形の中に一つの頂点が下向きに逆立ちした前記第1三角形の大部分が位置し、
前記第1底面に対面する第1突出部分が上死点時のピストンの上面に形成され、
上死点時の3個の前記第1突出部分3個の前記第1底面の間に第1空間が形成され
上死点時の前記第1空間の前記シリンダーの前記中心軸の方向の間隔が前記第1底面の直径の30%未満に設定され、
前記シリンダーの前記内周の他の一部と前記第1空間の間に3個のスキッシュエリア空間が形成され、前記第1空間は前記シリンダーの前記内周から離れて位置し、
前記点火プラグの中心電極から前記第2三角形の角を経由して前記第2底面の外周に到達する第2直線よりも前記中心電極から前記第1三角形の角を経由して前記第1底面の外周に到達する第1直線が短く設定され、
第3直線は前記中心電極から前記第1三角形の角を経由した後に前記スキッシュエリア空間を経由して前記内周に達する直線であり、
前記第3直線上の前記スキッシュエリア空間を通る直線部分の長さは前記スキッシュエリア空間に隣接する前記第1底面の前記直径の40%よりも長く設定される事を特徴とする耐ノッキング性を向上させたエンジン。
【請求項2】
前記燃焼室の固定壁面の内の前記点火プラグに隣接した部分よりもシリンダーヘッドカバー方向に凹んで小容積室が形成され、
前記小容積室の容積は前記小容積室以外の前記燃焼室の総容積よりも小さく設定され、
前記点火プラグの放電部が前記小容積室内に設置される事を特徴とする前記請求項1に記載された耐ノッキング性を向上させたエンジン。
【請求項3】
前記第1底面の前記直径が前記シリンダーの直径の21.5%未満に設定され、
前記第3直線上の前記スキッシュエリア空間を通る前記直線部分の距離が前記第1底面の前記直径の70%から87%までの値に設定される事を特徴とする前記請求項1と前記請求項2のいずれか一つの請求項に記載された耐ノッキング性を向上させたエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式4サイクルエンジンの耐ノッキング性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
火花点火式4サイクルエンジンの燃焼室の多くは、二つの排気弁と二つの吸気弁を持つ。これ以後、二つの排気弁と二つの吸気弁を持つ燃焼室を4弁式燃焼室と言う。特許文献1のエンジンも、前記の4弁式燃焼室です。
前記の4弁式燃焼室は、シリンダーの内周に隣接して排気弁が2個設置される。排気弁は、負荷の増加に応じて高熱化する。排気弁に接して高熱化した混合気は、燃焼速度が増加する。この為、過負荷時に、高熱化した排気弁に接した多量の混合気部分が急速に燃焼する事により、ノッキングを誘発させる危険性を持っていた。この為、前記4弁式燃焼室の圧縮比と耐ノッキング性は、制限されていた。
特許文献1の図6図5として示す。図5には、スキッシュ流SFとスキッシュエリア2Cが描かれている。
特許文献1のスキッシュエリアから流失するスキッシュ流は、一方向に流れる。スキッシュ流が強すぎる場合に、特許文献1のスキッシュ流は、点火プラグの火炎核を吹き消す危険を持つ。この為、特許文献1のスキッシュエリアのシリンダー中心軸の方向の間隔を狭くできない。すると、スキッシュエリア内の混合気量が少なくできない。
この為に、前記4弁式燃焼室と同様に、特許文献1燃焼室の圧縮比と耐ノッキング性は、制限されていた。
特許文献1の排気弁の底面の全面に面してスキッシュエリアが形成される場合には、スキッシュ流が点火プラグの火炎核を吹き消す危険を持つ。
【0003】
以下の長文の資料であるTales of Cams, Vales, & Combustion chambers http://www.italian.sakura.ne.jp/bad_toys/engine/engine01.htmlの終わりの部分に、Maseratiの6バルブエンジンの燃焼室とHONDAのNRの8バルブエンジンの燃焼室が紹介されている。
図6に示すMaseratiの6バルブエンジンと特許文献3のFERRARIのエンジンの燃焼室は、連なって設置される3個の排気弁を持ち、3個の排気弁がシリンダーの内周に隣接して設置される。
HONDAのNRの8バルブエンジンは、連なって設置される4個の排気弁を持ち、楕円形のピストンと楕円形のシリンダーを持ち、4個の排気弁がシリンダーの内周に隣接して設置される。
【0004】
図7に示す特許文献2のエンジンは、符号6に示す3個の排気弁を持つが、2個の排気弁がシリンダーの内周に隣接して設置される。従って、シリンダーの内周に隣接して設置される2個の排気弁とシリンダーの内周の間に、スキッシュエリアが設置されない。また、特許文献2には、耐ノッキング性の向上に関する記載が存在しない。
【特許文献1】特開平6−081651 筒内噴射型内燃機関
【特許文献2】特開平7−127458 JPA−1995127458 4サイクルエンジン 川崎重工業株式会社
【特許文献3】特開平6−050111 JPA−1994050111 シリンダに多数のバルブを具備した特に内燃機関用タイミング機構 FERRARI SOCIETA PER AZIONI
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、排気弁に面した混合気部分の燃焼がノッキングを発生させ難い4サイクルエンジンの燃焼室の提供です
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願のエンジンは、耐ノッキング性を向上させた火花点火ピストン式4サイクルエンジンです。本出願のエンジンの一つの燃焼室は、以下の特徴を持つ。
シリンダーの中心軸付近に、点火プラグが設置される。
3個の吸気弁の底面である第2底面が、前記シリンダーの内周の一部の近くに設置される。3個の前記第2底面の3個の中心を結ぶ直線によって、第2三角形が形成される。
3個の排気弁の底面である3個の第1底面の3個の中心を結ぶ直線によって、第1三角形が形成される。前記第1三角形の中に、前記点火プラグが位置する。
前記第2三角形の一つの頂点が上向きの場合に、前記第2三角形の中に一つの頂点が下向きに逆立ちした前記第1三角形の大部分が位置する。
前記第1底面に対面する第1突出部分が、上死点時のピストンの上面に形成される。
上死点時の3個の前記第1突出部分3個の前記第1底面の間に、第1空間が形成される。
上死点時の前記第1空間の前記シリンダーの前記中心軸の方向の間隔が、前記第1底面の直径の30%未満に設定される。
前記シリンダーの前記内周の他の一部と前記第1空間の間に、3個のスキッシュエリア空間が形成される。前記第1空間は、前記シリンダーの前記内周から離れて位置する。
前記点火プラグの中心電極から前記第2三角形の角を経由して前記第2底面の外周に到達する第2直線よりも、前記中心電極から前記第1三角形の角を経由して前記第1底面の外周に到達する第1直線が短く設定される。
第3直線は、前記中心電極から前記第1三角形の角を経由した後に前記スキッシュエリア空間を経由して前記内周に達する直線です。
前記第3直線上の前記スキッシュエリア空間を通る直線部分の長さは、前記スキッシュエリア空間に隣接する前記第1底面の前記直径の40%よりも長く設定される。
【0007】
以下の第1から第5までの作用によって、耐ノッキング性が向上する。
第1の作用が説明される。
本願のスキッシュエリア空間は、第1空間とシリンダーの内周の間に位置する。第1空間は、点火ブラグとスキッシュエリア空間の間に位置する。
上死点時の第1空間の間隔が、第1底面の直径の30%未満に設定される。第1空間の間隔が狭い程、第1底面に面した混合気の多くがスキッシュエリア空間に移動する。
この為、火炎が点火ブラグから第1空間に向かって伝播する時、既燃焼ガスの膨張によって、第1空間内の混合気の一部分は、スキッシュエリア空間に移動され、スキッシュエリア空間で圧縮される。
スキッシュエリア空間に移動された混合気部分は、排気弁よりも低温度の壁面に触れて冷却される。
また、燃焼行程中のピストンの下降量は、スキッシュエリア空間のシリンダー中心軸方向の上死点時の間隔に近い値です。この為、燃焼行程中のピストンの下降によって、スキッシュエリア空間は、容積が急激に増加する。
第3直線上のスキッシュエリア空間を通る直線部分の距離は、スキッシュエリア空間に隣接する第1底面の直径の40%よりも長く設定される。この為、スキッシュエリア空間は、火炎の伝播方向の排気弁の第1底面よりも下流側に広く形成されている。
それらの結果、スキッシュエリア空間の容積の増加による大きな温度低下作用によって、第1空間を経てスキッシュエリア空間に移動された混合気部分の圧縮による温度上昇が制限される。
また、スキッシュエリア空間内の容積は小さい。
従って、スキッシュエリア空間内の混合気の燃焼によって、燃焼行程の後期に圧力の急激な上昇が発生し難い。
【0008】
第2の作用が説明される。
第1空間と排気弁の第1底面は、スキッシュエリア空間よりも点火ブラグの近くに位置し、シリンダーの内周から離れて位置し、シリンダーの内周に隣接しない。
この為、第1空間内の混合気は、燃焼行程の前期から中期までに燃焼する。この期間の燃焼圧力値は、燃焼行程の後期の燃焼圧力値よりも低い。
この為、排気弁の底面に面した混合気の燃焼中に、燃焼圧力の急激な上昇は発生しない。
【0009】
第3の作用が説明される。
圧縮行程の終期にスキッシュエリア空間から流失するスキッシュ流の多くが、排気弁の底面に面して高熱化した混合気部分を点火ブラグ方向に移動させる。
スキッシュエリア空間の混合気の温度は、排気弁の底面に面した混合気部分の温度よりも低い。
すると、排気弁の底面に面した混合気の燃焼開始時の温度が低下する。すると、燃焼圧力値の急激な上昇が制限され、耐ノッキング性が向上する。
【0010】
第4の作用が説明される。
排気行程の終期にスキッシュエリア空間から流失するスキッシュ流の一部が、排気弁に向かう。排気上死点時に排気弁が少し開いている。
すると、スキッシュエリア空間の既燃焼ガスの一部が、少し開いている排気弁の開口部を経て排気ポートに流失する。すると、燃焼室に残留する高温の既燃焼ガスが減少する。
すると、点火時の混合気温度の上昇が緩和され、耐ノッキング性が向上する。
第4の作用は、新しい吸気の流入による掃気とは別の作用です。
【0011】
本願に対して、特許文献1とMaseratiの6バルブエンジンと特許文献3の排気弁はシリンダーの内周に隣接して設置される。
Maseratiの6バルブエンジンと特許文献3は、本願と同様な広いスキッシュエリア空間と本願と同様な第1空間を持たない。
従って、特許文献1とMaseratiの6バルブエンジンと特許文献3は、前記の第1から第4までの作用を行えない。
Maseratiの6バルブエンジンと特許文献3は、3個の排気弁が連なって設置される。この為、もしも本願の様な火炎の伝播方向の排気弁の底面よりも下流側に広いスキッシュエリア空間を作るならば、連なって設置される3個の排気弁の直径が小さくなり過ぎて、排気抵抗が増し、本願よりもトルクが低下する。
特許文献2の6バルブエンジンでは、2個の排気弁がシリンダーの内周に隣接している。従って、特許文献2のシリンダーの内周に隣接している2個の排気弁とシリンダーの内周の間に、本願と同様な広いスキッシュエリア空間が存在しない。従って、特許文献2は、第1の作用を行えない。
また、特許文献2の3個の排気弁の直径は、本願のエンジンとMaseratiの6バルブエンジンよりも小さくなり、排気抵抗が増し、本願よりもトルクが低下する。
【0012】
前記の4弁式燃焼室の排気弁の底面の外周とシリンダー内周の間の大変に小さなスペースにスキッシュエリアを形成する従来例では、本願と同様な広いスキッシュエリア空間を形成する為には、排気弁の底面を非常に小さくしなければならず、排気抵抗が増し、本願よりもトルクが低下する。排気弁の底面の面積を変えない場合は、小さなスキッシュエリアの前記第3直線方向の距離の最大値は、排気弁の底面の直径の25%前後です。
この為、この従来例では、スキッシュエリアの半径方向の長さが本願の排気弁の底面の直径の40%よりも長く設定できず、本願と同様な広いスキッシュエリア空間を持てず、第1の作用を行えない。
2個の排気弁の底面の外周の一部とシリンダー内周の一部に囲まれてスキッシュエリアを設置する多数の従来例がある。この従来例の場合のスキッシュエリアは、本願の第3直線上に位置しない。この為に、この従来例は、本願と同様な広いスキッシュエリア空間を持てず、第1の作用を行えない。
【0013】
第5の作用が説明される。
3個のスキッシュエリア空間から流失する3本のスキッシュ流は、点火ブラグの付近で衝突して、弱まる。
この為、スキッシュエリア空間から流失するスキッシュ流によって、放電部付近の火炎核を吹き消す危険を減少させる。
【0014】
第5の作用に対して、特許文献1の燃焼室では、2個の隣接する排気弁の底面に面して形成されたスキッシュエリアから点火プラグに向かって流れるスキッシュ流が一方向に限定され、点火プラグ付近で2本のスキッシュ流が衝突しない。従って、特許文献1のスキッシュ流は、点火プラグの中心電極付近で発生した火炎核を吹き消す作用を持つ。従って、特許文献1は、第5の作用を行えない。
特許文献1の燃焼室では、スキッシュエリアのシリンダー中心軸の方向の間隔を狭く設定できない。これにより、特許文献1は、スキッシュ流を弱くして、火炎核を吹き消す作用を弱めている。
【0015】
また、連なって設置される2個の排気弁の底面の全部にスキッシュエリアを形成する例では、点火プラグの火炎核を吹き消す危険を持つ強いスキッシュ流が発生する為に、本出願の第5の作用に記載した火炎核を吹き消す問題を解決する手段を持たない場合は、火炎核が吹き消され、運転ができない。従って、第5の作用を行えない。
【0016】
本発明による効果が説明される。
耐ノッキング性が向上する事によって、本発明は、高圧縮比化が可能になり、前記の4弁式燃焼室よりも熱効率の向上が得られる。
また、本発明は、圧縮比を下げる事なく、過給によって、自然吸気式の4弁式燃焼室よりも混合気量とトルクを増加できる。従って、ダウンサイジングが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1実施例を説明する。
点火プラグ4とシリンダー1の内周の間に、図3の第1空間22とスキッシュエリア空間6が形成され、図1の点の集まりで示すスキッシュエリア空間6はシリンダー1の内周の一部に隣接する。スキッシュエリア空間6は、第1空間22に隣接する。第1空間22は、シリンダー1の内周から離れて位置する。
図2の第3直線17上の図1の点の集まりで示すスキッシュエリア空間6を通る直線部分の距離が、スキッシュエリア空間6に隣接する排気弁の第1底面の直径の40%よりも長く設定される。
上記の構成要素が、第1実施例の第1の特徴です。
図2の三点鎖線で示す第3直線17は、シリンダー1の中心軸から排気弁10の第1底面の中心を経由してシリンダー1の内周に達する直線です。
従来例であるMaseratiの6バルブエンジンと特許文献3と同様に3個の排気弁を連なって設置するならば、3個の排気弁の底面の面積が大変に小さくなってしまう。これに対して、第1実施例では、上記の第1の特徴に加えて、以下の要求を満たす。その要求は、3個の排気弁の底面の面積を前記の4弁式燃焼室の2個の排気弁の底面の面積とほぼ等しくする。
前記の第1の特徴と上記の要求を同時に満たす為に、第1実施例は3個の吸気弁と3個の排気弁との以下の特徴的な位置関係を持つ。
この特徴的な位置関係が、第2の特徴です。
吸気弁と排気弁の数は、各3個です。
【0018】
一つの燃焼室3に、3個の吸気弁12と13と14と3個の排気弁9と10と11が設置される。
第1吸気弁12と第2吸気弁13と第3吸気弁14の底面である第2底面が、シリンダー1の内周の一部に隣接して、燃焼室3の固定壁面の周辺部に設置される。
3個の吸気弁12と13と14の3個の第2底面の3個の中心を結ぶ一点鎖線によって、仮想的な第2三角形7が形成される。
第1排気弁9と第2排気弁10と第3排気弁11の底面である第1底面が、燃焼室3の固定壁面に設置される。第1底面は、シリンダー1の内周から離れて位置し、シリンダー1の内周に隣接しない。
3個の排気弁9と10と11の3個の第1底面の3個の中心を結ぶ二点鎖線によって、仮想的な第1三角形8が形成される。
第1三角形8の中に、点火プラグ4が位置する。
図2に示す様に、点火プラグ4の中心電極から吸気弁の第2底面の中心を経由して前記第2底面の外周に到達する第2直線19の長さよりも、中心電極から排気弁の第1底面の中心を経由して第1底面の外周に到達する第1直線18の長さが短く設定される。吸気弁の第2底面の中心は、第2三角形の角に等しい。排気弁の第1底面の中心は、第1三角形の角に等しい。
すると、図1に示す様に、第1三角形8よりも第2三角形7は大きく設定される。
第1排気弁9と第2排気弁10と第3排気弁11の排気ポートは、シリンダー1の内周の内側の範囲では放射状に形成される。
第2吸気弁13と第3吸気弁14の吸気ポートは図2の下方に伸び、吸気弁12の吸気ポートは図2の上方に伸びる。
【0019】
第2三角形7と第1三角形8の相互の位置関係を説明する。
第2三角形7の一つの頂点が上向きの場合に、第1三角形8の一つの頂点が下向きに逆立ちし、第2三角形7の中に第1三角形8の大部分が位置する。
【0020】
従来例であるMaseratiの6バルブエンジンの様に3個の排気弁が連なって設置される場合は、スキッシュエリア空間6を通る直線部分の距離が40%よりも長く設定できない。
【0021】
排気弁と吸気弁の直径に関して、説明する。
本筆者は、前記の4弁式燃焼室のシリンダー1の直径が86mmの場合の排気弁の底面の直径と吸気弁の底面の直径を調べた。
多くの排気弁の底面の直径は、27mmから30mmまでに設定されていて、シリンダー1の直径の31.4%から34.9%までに設定されていていた。
多くの吸気弁の底面の直径は、32mmから34mmまでに設定されていた。
直径が34mmの2個の吸気弁の底面の周長の和は213.5mmです。
これ以後、直径が34mmの2個の吸気弁の底面の周長の和を和213.5と呼ぶ。
シリンダー1の直径が86mmで第1排気弁9と第2排気弁10と第3排気弁11の底面の直径を18mmに設定する場合、第1排気弁9と第2排気弁10と第3排気弁11の底面の外周の和は、前記の4弁式燃焼室の2個の排気弁の底面の直径を27mmに設定する場合の底面の外周の和と等しくなる。すると、両者の開口面積は等しくなる。
前記の3個の吸気弁と3個の排気弁との特徴的な位置関係の設定を行う事に加えて3個の排気弁9と10と11の底面の直径を18mmに設定する場合、第1吸気弁12と第2吸気弁13と第3吸気弁14の底面の直径を20mmに設定でき、前記の和213.5の約88%になる。この場合、過給によって吸気量を補う事は、容易です。
【0022】
第1空間22に関して、更に説明する。
排気弁9と10と11の第1底面に上死点時に対面する第1突出部分20が、ビストン2の上面の一部分に形成される。図3では、第2排気弁10の断面に対面する第1突出部分20の断面が見え、断面の後ろ側に点線で示す第3排気弁11に対面する第1突出部分20が見える。
上死点時付近の第1突出部分20の上面と排気弁の第1底面の間に、第1空間22が形成される。
そして、上死点時の第1空間22のシリンダー中心軸方向の距離が、排気弁9と10と11の第1底面の直径の30%未満に設定される。第1空間22の間隔が狭い程、第1底面に面した混合気の多くがスキッシュエリア空間6に移動し、耐ノッキング性が向上する。
第1空間22は、スキッシュエリア空間6よりも点火ブラグ4の近くに位置し、シリンダー1の内周に隣接しない。
【0023】
スキッシュエリア空間6に関して、更に説明する。
スキッシュエリア空間6のシリンダー中心軸方向の上死点時の間隔は、燃焼室壁面にカーボンが堆積した場合にピストン2の上面と排気弁の第1底面が衝突しない最小限に近い間隔であり、1mm前後の狭い間隔です。
吸気弁付近の混合気もスキッシュエリア空間6に流入する。従って、図1の点の集まりに示す様に、スキッシュエリア空間6を排気弁の底面の両側に位置する吸気弁の底面の外周付近まで拡張すると、効果が拡大する。
スキッシュエリア空間6を作る構成は、以下の2つの構成がある。
第一の構成では、スキッシュエリア空間6に接するシリンダーヘッド5の形とスキッシュエリア空間6に接するピストン上面の形が、シリンダーヘッドガスケットと同様な平面です。第一の構成の図は、省略する。
第二の構成では、スキッシュエリア空間6に接するシリンダーヘッド5の傾斜が排気弁の第1底面の傾斜と同じであり、スキッシュエリア空間6に接するピストン上面の形が凸型です。
第二の構成は、図3に示す。
第二の構成では、スキッシュエリア空間6に接する凸型のピストン上面が排気弁の開弁時に排気弁の開口部を覆わない。
【0024】
第2実施例を説明する。
第2実施例は、第1実施例に以下の構成を加える。
上死点時前に3個のスキッシュエリア空間6から点火プラグ4に向かう3本のスキッシュ流は、点火プラグ4付近で、衝突して弱まる。その後、スキッシュ流は、ピストン2の上面に向かう。
しかし、広いスキッシュエリア空間6を形成する場合は、点火プラグ4に向かう強いスキッシュ流を発生し、火炎核を吹き消す危険がある。
上記の危険を防止する為に、第2実施例では、図4に示す様に、点火プラグ4の放電部が、小容積室21内に設置される。小容積室21は、燃焼室3の固定壁面の内の点火プラグ4に隣接した部分よりもシリンダーヘッドカバー方向に凹んで形成される。
小容積室21の容積が過大に設定された場合は、3本のスキッシュ流が点火プラグ4付近で衝突した後に、スキッシュ流の一部が小容積室21にも流入する。その為、小容積室21の容積は小容積室21以外の燃焼室3の容積よりも遥かに小さく設定される。
また、点火プラグ4の放電部は、点火プラグ4の取付用のネジ穴の空間内に設置する事もできる。
これによって、スキッシュ流が放電部付近の火炎核を吹き消す事を防止する。
沿面プラグを使用する場合は、小容積室21を更に小さくできる。
第2実施例に代えて、排気弁9と10と11の第1底面に突起を形成すると、スキッシュ流の方向を左右に変える事ができ、スキッシュ流が放電部付近の火炎核を吹き消す事を防止できる。
【0025】
第3実施例を説明する。
第3実施例は、第1実施例と第2実施例に以下の構成を加える。
第1底面の直径がシリンダー1の直径の21.5%未満に設定される場合、第3直線上のスキッシュエリア空間6を通る直線部分の距離が、排気弁の第1底面の直径の70%から87%までの値に設定できる。
これによって、前記第1の作用による効果が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ピストン上面からシリンダーヘッド下面を見た第一実施形態の燃焼室の平面図。
図2】第1直線と第2直線と第3直線を説明する第一実施形態の平面図。
図3】第3直線を含む垂直平面によって切断された第1実施形態の燃焼室の断面図。
図4】第3直線を含む垂直平面によって切断された第2実施形態の燃焼室の断面図。
図5】特許文献1の図。
図6】非特許文献のMaseratiの6バルブエンジンの図。
図7】特許文献2の図。
【符号の説明】
【0027】
1・・・シリンダー
2・・・ピストン
3・・・燃焼室
4・・・点火プラグ
5・・・シリンダーヘッド
6・・・スキッシュエリア空間
7・・・3個の吸気弁の底面の3個の中心を結ぶ鎖線で作られる第2三角形
8・・・3個の排気弁の底面の3個の中心を結ぶ鎖線で作られる第1三角形
9・・・第1排気弁
10・・・第2排気弁
11・・・第3排気弁
12・・・第1吸気弁
13・・・第2吸気弁
14・・・第3吸気弁
15・・・1点鎖線
16・・・2点鎖線
17・・・第3直線
18・・・第1直線
19・・・第2直線
20・・・ビストンの上面の第1突出部分
21・・・点火プラグに隣接して設置される凹型の小容積室
22・・・第1突出部分と第1底面の間に形成される第1空間
23・・・従来例の排気弁
24・・・従来例の吸気弁
【要約】
【課題】 排気弁に面した混合気部分の燃焼がノッキングを発生させ難い4サイクルエンジンの燃焼室を提供する。
【解決手段】 一つの燃焼室3に、3個の排気弁と3個の吸気弁が設置される。3個の吸気弁の第2底面の中心を結ぶ正立した第2三角形7の内側に、3個の排気弁の第1底面の中心を結ぶ一つの頂点が下向きの逆立ちした第1三角形8の大部分が位置する。第1三角形8よりも第2三角形7が大きい。第1突出部分20と第1底面の間に第1空間22が形成される。上死点時の第1空間22の間隔が第1底面の直径の30%未満に設定される。シリンダー1の内周の一部と排気弁の第1底面の間にスキッシュエリア空間6が形成される。シリンダー1の中心軸と第2三角形の角を通る半径の内のスキッシュエリア空間6を通る部分の距離が、第1底面の直径の40%よりも長く設定される。燃焼行程中のビストンの下降による温度低下作用によって、スキッシュエリア空間に移動された混合気部分の温度上昇が制限され、耐ノッキング性が向上する。
【選択図】 図1
図1
図2
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図7