特許第5909309号(P5909309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5909309
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】三次元造形装置、及びその造形物
(51)【国際特許分類】
   B29C 67/00 20060101AFI20160412BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20160412BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20160412BHJP
【FI】
   B29C67/00
   B33Y30/00
   B33Y80/00
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-502832(P2016-502832)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2015077554
【審査請求日】2016年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-5895(P2015-5895)
(32)【優先日】2015年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】307015301
【氏名又は名称】武藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】當間 隆司
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−106437(JP,A)
【文献】 国際公開第98/028124(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/037529(WO,A1)
【文献】 特開2004−284346(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0241392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形物が載置される造形ステージと、
前記造形ステージに対し少なくとも垂直方向に移動可能な昇降部と、
前記昇降部に搭載され材料が異なる複数種類の樹脂材料の供給を受ける造形ヘッドと、
前記昇降部及び前記造形ヘッドを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、第1の層において、前記複数種類の樹脂材料のうちの第1の樹脂材料が第1の方向に連続的に形成され且つ前記第1方向と交差する第2方向において隙間を空けて配列されると共に、前記複数種類の樹脂材料のうちの前記第1の樹脂材料以外の第2の樹脂材料が、前記第1方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列されるように前記造形ヘッドを制御し、
前記制御部は更に、前記第1の層の上部の第2の層において、前記第1の樹脂材料が、前記第1方向とは交差する第3の方向に連続的に形成され且つ前記第3方向と交差する第4方向において隙間を空けて配列されると共に、前記第2の樹脂材料が、前記第3方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列され、これにより前記第1の層に形成された前記第1の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第1の樹脂材料とが上下方向で接合し、且つ更に前記第1の層に形成された前記第2の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第2の樹脂材料とが上下方向で接合するよう、前記造形ヘッドを制御する
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項2】
前記制御部は、
座標データ、及び前記座標データが示す位置における前記複数種類の樹脂材料の配合比率を表す配合比データを含む造形物データを受信し、この造形物データに従って、前記造形ヘッドを制御する
ことを特徴とする請求項1記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の層において、前記第1の樹脂材料を形成した後、前記第2の樹脂材料を形成し、前記第2の層において、前記第2の樹脂材料を形成した後、前記第1の樹脂材料を形成するよう前記造形ヘッドを制御する、請求項1記載の三次元造形装置。
【請求項4】
複数種類の樹脂材料を含む造形物であって、
第1の層と第2の層とを含み、
第1の層は、複数種類の樹脂材料のうちの第1の樹脂材料が第1の方向に連続的に形成され且つ前記第1方向と交差する第2方向において隙間を空けて配列されると共に、前記複数種類の樹脂材料のうちの前記第1の樹脂材料以外の第2の樹脂材料が、前記第1方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列された部分を含み、
前記第1の層の上部の第2の層は、前記第1の樹脂材料が、前記第1方向とは交差する第3の方向に連続的に形成され且つ前記第3方向と交差する第4方向において隙間を空けて配列されると共に、前記複数種類の樹脂材料のうちの前記第2の樹脂材料が、前記第3方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列され、これにより前記第1の層に形成された前記第1の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第1の樹脂材料とが上下方向で接合し、且つ更に前記第1の層に形成された前記第2の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第2の樹脂材料とが上下方向で接合されている部分を含む
ことを特徴とする造形物。
【請求項5】
前記第1の層、及び前記第2の層は、それぞれ複数のユニットに分割され、互いに隣接する前記複数のユニットでは、前記第1の樹脂材料及び前記第2の樹脂材料が連続的に形成される方向が互いに異なる、請求項4記載の造形物。
【請求項6】
前記第2の樹脂材料により充填されず残存した前記隙間を備える、請求項4記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形装置、及びその造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元設計データに基づいて造形物を製造する三次元造形装置が、例えば特許文献1により知られている。このような三次元造形装置の方式としては、光造形法、粉末焼結法、インクジェット法、溶融樹脂押し出し造形法など、様々な方式が提案され、製品化されている。
【0003】
一例として、溶融樹脂押し出し造形法を採用した三次元造形装置では、造形物の材料となる溶融樹脂を吐出するための造形ヘッドを三次元移動機構上に搭載し、造形ヘッドを三次元方向に移動させて溶融樹脂を吐出しつつ溶融樹脂を積層させて造形物を得る。その他、インクジェット法を採用した三次元造形装置も、加熱した熱可塑性材料を滴下するための造形ヘッドを三次元移動機構上に搭載した構造を有している。
【0004】
このような三次元造形装置においては、1つの造形物において複数の材料を用いることが、例えば幾つかの文献において提示されている。しかし、このような複数材料を複合的に用いた造形物を生成する場合、異なる複数の材料の間の接合が弱く、層間剥離を起こす可能性が高いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−307562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複数材料を複合的に用いた造形物を生成する場合においても、異なる複数の材料の間の接合が強固にすることができる三次元造形装置、その制御方法、及び造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る三次元造形装置は、造形物が載置される造形ステージと、前記造形ステージに対し少なくとも垂直方向に移動可能な昇降部と、前記昇降部に搭載され材料が異なる複数種類の樹脂材料の供給を受ける造形ヘッドと、前記昇降部及び前記造形ヘッドを制御する制御部とを備える。前記制御部は、第1の層において、前記複数種類の樹脂材料のうちの第1の樹脂材料が第1の方向に連続的に形成され且つ前記第1方向と交差する第2方向において隙間を空けて配列されると共に、前記複数種類の樹脂材料のうちの前記第1の樹脂材料以外の第2の樹脂材料が、前記第1方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列されるように前記造形ヘッドを制御する。前記制御部は更に、前記第1の層の上部の第2の層において、前記第1の樹脂材料が、前記第1方向とは交差する第3の方向に連続的に形成され且つ前記第3方向と交差する第4方向において隙間を空けて配列されると共に、前記第2の樹脂材料が、前記第3方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列されるように前記造形ヘッドを制御する。これにより前記第1の層に形成された前記第1の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第1の樹脂材料とが上下方向で接合する。更に前記第1の層に形成された前記第2の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第2の樹脂材料とが上下方向で接合する。
また、本発明に係る造形物は、複数種類の樹脂材料を含む造形物であって、第1の層と第2の層とを含む。その第1の層は、複数種類の樹脂材料のうちの第1の樹脂材料が第1の方向に連続的に形成され且つ前記第1方向と交差する第2方向において隙間を空けて配列されると共に、前記複数種類の樹脂材料のうちの前記第1の樹脂材料以外の第2の樹脂材料が、前記第1方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列された部分を含む。また、前記第1の層の上部の第2の層は、前記第1の樹脂材料が、前記第1方向とは交差する第3の方向に連続的に形成され且つ前記第3方向と交差する第4方向において隙間を空けて配列されると共に、前記複数種類の樹脂材料のうちの前記第2の樹脂材料が、前記第3方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列され、これにより、前記第1の層に形成された前記第1の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第1の樹脂材料とが上下方向で接合し、且つ更に前記第1の層に形成された前記第2の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第2の樹脂材料とが上下方向で接合されている部分を含む。
また、本発明に係る三次元造形装置の制御方法は、造形ヘッドを備えた三次元造形装置の制御方法である。この方法では、第1の層において、複数種類の樹脂材料のうちの第1の樹脂材料が第1の方向に連続的に形成され且つ前記第1方向と交差する第2方向において隙間を空けて配列されると共に、前記複数種類の樹脂材料のうちの前記第1の樹脂材料以外の第2の樹脂材料が、前記第1方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列されるように前記造形ヘッドを制御する。次に、前記第1の層の上部の第2の層において、前記第1の樹脂材料が、前記第1方向とは交差する第3の方向に連続的に形成され且つ前記第3方向と交差する第4方向において隙間を空けて配列されると共に、前記第2の樹脂材料が、前記第3方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列されるように前記造形ヘッドを制御する。これにより、前記第1の層に形成された前記第1の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第1の樹脂材料とが上下方向で接合し、且つ更に前記第1の層に形成された前記第2の樹脂材料と、前記第2の層に形成された前記第2の樹脂材料とが上下方向で接合されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施の形態に係る三次元造形装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】第1の実施の形態に係る三次元造形装置の概略構成を示す正面図である。
図3】XYステージ12の構成を示す斜視図である。
図4】昇降テーブル14の構成を示す平面図である。
図5】コンピュータ200(制御装置)の構成を示す機能ブロック図である。
図6】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の一例を示す側面図である。
図7】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の一例を示す斜視図である。
図8図6及び図7に示す造形物Sの製造工程を示す工程図である。
図9】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の別の例を示す側面図である。
図10】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の別の例を示す斜視図である。
図11】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の別の例を示す側面図である。
図12】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の別の例を示す斜視図である。
図13】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の別の例を示す側面図である。
図14】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の別の例を示す側面図である。
図15】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の一例を示す平面図である。
図16】本実施の形態により形成される造形物Sの構造の一例を示す平面図である。
図17】造形物Sの変形例を示す。
図18】造形物Sの変形例を示す。
図19】造形物Sの変形例を示す。
図20】本実施の形態の三次元造形装置による造形の手順を示すフローチャートである。
図21】本実施の形態の三次元造形装置による造形の手順を示す概念図である。
図22】第2の実施の形態に係る三次元造形装置の概略構成を示す。
図23】変形例に係る三次元造形装置の概略構成を示す斜視図である。
図24A】造形物Sを製造するための他の方法を説明する工程図である。
図24B】造形物Sを製造するための他の方法を説明する工程図である。
図24C】造形物Sを製造するための他の方法を説明する工程図である。
図24D】造形物Sを製造するための他の方法を説明する工程図である。
図25】造形物Sの第1の具体例を示す。
図26】造形物Sの第2の具体例を示す。
図27】造形物Sの第3の具体例を示す。
図28】造形物Sの第4の具体例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[第1の実施の形態]
(全体構成)
図1は、第1の実施の形態で用いる3Dプリンタ100の概略構成を示す斜視図である。3Dプリンタ100は、フレーム11と、XYステージ12と、造形ステージ13と、昇降テーブル14と、ガイドシャフト15とを備えている。
【0011】
この3Dプリンタ100を制御する制御装置としてコンピュータ200が、この3Dプリンタ100に接続されている。また、3Dプリンタ100中の各種機構を駆動するためのドライバ300も、この3Dプリンタ100に接続されている。
【0012】
(フレーム11)
フレーム11は、図1に示すように、例えば直方体の外形を有し、アルミニウム等の金属材料の枠組を備えている。このフレーム11の4つの角部に、例えば4本のガイドシャフト15が、図1のZ方向、すなわち造形ステージ10の平面に対し垂直な方向に延びるように形成されている。ガイドシャフト15は、後述するように昇降テーブル14を上下方向に移動させる方向を規定する直線状の部材である。ガイドシャフト15の本数は4本には限られず、昇降テーブル14を安定的に維持・移動させることができる本数に設定される。
【0013】
(造形ステージ13)
造形ステージ13は、造形物Sが載置される台であり、後述する造形ヘッドから吐出される熱可塑性樹脂が堆積される台である。
【0014】
(昇降テーブル14)
昇降テーブル14は、図1及び図2に示すように、その4つの角部においてガイドシャフト15を貫通させており、ガイドシャフト15の長手方向(Z方向)に沿って移動可能に構成されている。昇降テーブル14は、ガイドシャフト15と接触するローラ34,35を備えている。ローラ34,35は昇降テーブル14の2つの角部に形成されたアーム部33において回動可能に設置されている。このローラ34,35がガイドシャフト15上と接触しつつ回動することで、昇降テーブル14はZ方向にスムーズに移動することが可能とされている。また、昇降テーブル14は、図2に示すように、モータMzの駆動力をタイミングベルト、ワイヤ、プーリ等からなる動力伝達機構により伝達することにより、上下方向に所定間隔(例えば0.1mmピッチ)で移動する。モータMzは、例えば、サーボモータ、ステッピングモータなどが好適である。なお、実際の昇降テーブル14の高さ方向の位置を連続的又は間欠的にリアルタイムで、図示しない位置センサを用いて測定し、適宜補正をかけることによって、昇降テーブル14の位置精度を高めるようにしてもよい。後述する造形ヘッド25A、25Bについても同様である。
【0015】
(XYステージ12)
XYステージ12は、この昇降テーブル14の上面に載置されている。図3は、このXYステージ12の概略構成を示す斜視図である。XYステージ12は、枠体21と、Xガイドレール22と、Yガイドレール23と、リール24A、24Bと、造形ヘッド25A、25Bと、造形ヘッドホルダHを備えている。Xガイドレール22は、その両端がYガイドレール23に嵌め込まれ、Y方向に摺動自在に保持されている。リール24A、24Bは、造形ヘッドホルダHに固定されており、造形ヘッドホルダHによって保持された造形ヘッド25A、25Bの動きに追従してXY方向を移動する。造形物Sの材料となる熱可塑性樹脂は、径が3〜1.75mm程度の紐状の樹脂(フィラメント38A、38B)であり、通常リール24A,24Bに捲かれた状態で保持されているが、造形時には後述する造形ヘッド25A,25Bに設けられたモータ(エクストルーダ)によって造形ヘッド25A,25B内に送り込まれる。
【0016】
なお、リール24A、24Bを造形ヘッドホルダHに固定せずに枠体21等に固定し、造形ヘッド25の動きに追従させない構成とすることもできる。また、フィラメント38A、38Bを露出した状態で造形ヘッド25内に送り込まれる構成としたが、ガイド(例えば、チューブ、リングガイド等)を介在させて造形ヘッド25A,25B内に送り込むようにしても良い。なお、後述するように、フィラメント38A、38Bはそれぞれ異なる材料からなる。一例として、一方がABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂のうちのいずれかである場合、他方は、その一方の樹脂以外の樹脂とすることができる。あるいは、同じ材料の樹脂であっても、その内部に含まれるフィラーの材料の種類や割合が異なるようにすることもできる。すなわち、フィラメント38A、38Bは、それぞれ異なる性状を有し、その組み合わせにより造形物の特性(強度など)を向上させることができることが好ましい。
なお、図1図3では、造形ヘッド25Aは、フィラメント38Aを溶融・吐出するよう構成され、造形ヘッド25Bは、フィラメント38Bを溶融し吐出するよう構成され、異なるフィラメントのためにそれぞれ独立の造形ヘッドが用意されている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、単一の造形ヘッドのみを用意し、単一の造形ヘッドにより複数種類のフィラメント(樹脂材料)を選択的に溶融・吐出させるような構成も採用することができる。
【0017】
フィラメント38A、38Bは、リール24A、24BからチューブTbを介して造形ヘッド25A、25B内に送り込まれる。造形ヘッド25A、25Bは、造形ヘッドホルダHにより保持され、リール24A、25Bと共にX,Yのガイドレール22,23に沿って移動可能に構成されている。また、図2及び図3では図示を省略するが、造形ヘッド25A、25B内には、フィラメント38A,38BをZ方向下方へ送り込むためのエクストルーダモータが配置される。造形ヘッド25A,25Bは、XY平面内においては互いに一定の位置関係を保って造形ヘッドホルダHと共に移動可能とされていればよいが、XY平面においても、互いの位置関係が変更可能なように構成されていてもよい。
【0018】
なお、図2及び図3では図示を省略するが、造形ヘッド25A、25BをXYテーブル12に対し移動させるためのモータMx、Myも、このXYステージ12上に設けられている。モータMx、Myは、例えば、サーボモータ、ステッピングモータなどが好適である。
【0019】
(ドライバ300)
次に、図4のブロック図を参照してドライバ300の構造の詳細について説明する。ドライバ300は、CPU301、フィラメント送り装置302、ヘッド制御装置303、電流スイッチ304、及びモータドライバ306を含んでいる。
【0020】
CPU301は、コンピュータ200から入出力インタフェース307を介して各種信号を受信して、ドライバ300の全体の制御を行う。フィラメント送り装置302は、CPU301からの制御信号に従い、造形ヘッド25A,25B内のエクストルーダモータに対して、フィラメント38A、38Bの造形ヘッド25A、25Bに対する送り量(押し込み量又は退避量)を指令し制御する。
【0021】
電流スイッチ304は、ヒータ26に流れる電流量を切換えるためのスイッチ回路である。電流スイッチ304のスイッチング状態が切り替わることにより、ヒータ26に流れる電流が増加又は減少し、これにより造形ヘッド25A,25Bの温度が制御される。また、モータドライバ306は、CPU301からの制御信号に従い、モータMx、My、Mzを制御するための駆動信号を発生させる。
【0022】
図5は、コンピュータ200(制御装置)の構成を示す機能ブロック図である。コンピュータ200は、空間フィルタ処理部201、スライサ202、造形スケジューラ203、造形指示部204及び造形ベクトル生成部205を備えている。これらの構成は、コンピュータ200の内部において、コンピュータプログラムにより実現することができる。
【0023】
空間フィルタ処理部201は、造形しようとする造形物の三次元形状を示すマスタ3Dデータを外部から受領し、このマスタ3Dデータに基づいて造形物が形成される造形空間に対し各種データ処理を施す。具体的に空間フィルタ処理部201は、後述するように、造形空間を必要に応じて複数の造形ユニットUp(x、y、z)に分割すると共に、マスタ3Dデータに基づいて前記複数の造形ユニットUpの各々に、各造形ユニットに与えるべき特性を示すプロパティデータを付与する機能を有する。造形ユニットへの分割の要否、及び個々の造形ユニットのサイズは、形成される造形物Sのサイズ、形状によって決定される。例えば、単なる板材を形成するような場合には、造形ユニットへの分割は不要である。
【0024】
造形指示部204は、造形の内容に関する指示データを、空間フィルタ処理部201及びスライサ202に提供する。指示データには、一例として以下のものが含まれる。これらは単なる例示であり、これらの指示のうち全てが入力されてもよいし、一部のみが入力されてもよい。また、下記に列記する事項とは異なる指示が入力されてもよいことは言うまでもない。
(i)1つの造形ユニットUpのサイズ
(ii)複数の造形ユニットUpの造形順序
(iii)造形ユニットUp内で使用される複数種類の樹脂材料の種類
(iv)造形ユニットUp内での異なる種類の樹脂材料の配合比率(配合比)
(v)造形ユニットUp内での同種の樹脂材料を連続的に形成する方向(以下、「造形方向」という)
なお、造形指示部204は、キーボードやマウス等の入力デバイスから指示データの入力を受けるものであってもよいし、造形内容を記憶した記憶装置から指示データを提供されるものであってもよい。
【0025】
また、スライサ202は、造形ユニットUpの各々を、複数のスライスデータに変換する機能を有する。スライスデータは、後段の造形スケジューラ203に送られる。造形スケジューラ203は、前述したプロパティデータに従って、スライスデータにおける造形手順や造形方向などを決定する役割を有する。また、造形ベクトル生成部205は、造形スケジューラ203において決定された造形手順及び造形方向に応じて造形ベクトルを生成する。この造形ベクトルのデータはドライバ300に送信される。ドライバ300は、受信された造形ベクトルのデータに応じて3Dプリンタ100を制御する。
【0026】
本実施の形態の3次元造形装置は、複数種類の樹脂材料を、指定された複数の樹脂材料の配合比により、樹脂材料が延引する方向(造形方向)を層毎に異なるよう、制御装置200が動作する。図6及び図7に、本実施の形態により形成される造形物Sの構造の一例を示す。
【0027】
図6は、第1の実施の形態の三次元造形装置により製造される造形物Sの側面図であり、図7はその斜視図である。図6及び図7に示すように、第1の実施の形態の3次元造形装置では、例えば複数種類の樹脂材料R1、R2を用いて1つの造形物Sを造形する(以下では説明の簡単化のため、2種類の樹脂材料を使用する場合を中心に説明するが、3種類以上の樹脂材料を用いてもよいことは言うまでもない)。
【0028】
また、この第1の実施の形態では、複数種類の樹脂材料R1、R2を、1つの層において、所定の配合比をもって、一の方向を長手方向として形成する。図6及び図7の例では、例えば第1の層に(図7の最下層)おいては、樹脂材料R1、R2の配合比を1:1とし、且つそれぞれの樹脂材料R1、R2の長手方向がX軸方向(第1方向)となり、X軸と直交する方向(第2方向)に沿って配列されるように、樹脂材料R1とR2とが交互に、X軸方向に連続的に形成される。一方、第1の層よりも1層上の第2の層においては、樹脂材料R1、R2の配合比は第1層と同様に1:1とされるが、それぞれの樹脂材料R1、R2の長手方向は、第1の層のX軸方向ではなく、これとは交差する軸(第3方向)、例えばY軸方向とされ、樹脂材料R1、R2は、X軸方向(第4方向)に沿って配列される。後述の説明からも明らかな通り、この図6及び図7に示される樹脂材料の数、樹脂材料の配合比等はあくまでも一例であり、要求される造形物の仕様等によって様々に変更可能であることは言うまでもない。また、造形物Sの全体において図6及び図7の構造が繰り返して形成されている必要は無い。造形物Sの一部においては、同一の樹脂材料のみが形成されていてもよい。
【0029】
このような造形物Sにおいて、樹脂材料R1は、一つの層において第1の方向に延びる一方で、それよりも1つ上の層においては第1の方向と交差する第2の方向に延びる。これにより、造形物Sは、第1の層と第2の層とにおける樹脂材料R1の交差位置において樹脂材料R1同士が上下方向で接合する構造(いわゆる井桁構造)を有している。樹脂材料R2も、同様に樹脂材料R1に挟まれた位置において、同様な井桁構造を有し、上下方向で接合する。このような構造により、たとえ異種の樹脂材料R1とR2の間の(横方向の)接合力が弱くても、上述のような井桁構造における同一樹脂材料間の(積層方向の)接合力が強ければ、造形物Sの強度を十分に高いものとすることができる。
なお、図6図7では、1つの層において樹脂材料R1、R2が隙間なく接触する構造を図示しているが、造形物Sの構造はこれに限定されるものではない。1つの層において横方向に隣接する樹脂材料間には、隙間が生じていても良い。
【0030】
また、このように異種の樹脂材料R1、R2を1つの造形物Sの中で組み合わせて使用することにより、異種の樹脂材料の特性を併せ持った造形物を提供することができる。例えば、第1の樹脂材料の長所を有すると共に、第1の樹脂材料の短所を第2の樹脂材料の長所により補うことも可能になる。
【0031】
図6及び図7に示す造形物Sの造形手順を、図8を参照して説明する。まず、第1の層においては、図8(a)に示すように、樹脂材料R1を略1:1の配列ピッチで、X方向を長手方向として形成する。
続いて、図8(b)に示すように、樹脂材料R1の間隔を埋めるように、樹脂材料R2を、同様に略1:1の配列ピッチで形成する。このとき、樹脂材料R2は、樹脂材料R1の外周形状に沿って、2つの樹脂材料R1の間隔を埋めるように形成することができる。このようにすることで、樹脂材料R1とR2の間の接合を強固にすることができる。
【0032】
次に、第2の層においては、図8(c)に示すように、樹脂材料R2を略1:1の配列ピッチで、Y方向を長手方向として形成する。
続いて、図8(d)に示すように、樹脂材料R2の間隔を埋めるように、樹脂材料R1を、同様に1:1の配列ピッチで形成する。このとき、樹脂材料R1は、樹脂材料R2の外周形状に沿って、2つの樹脂材料R2の間隔を埋めるように形成することができる。このようにすることで、樹脂材料R1とR2の間の接合を強固にすることができる。
上述の図8(a)〜(d)に示した手順を繰り返すことにより、上述の井桁構造の造形物Sが出来上がる。
なお、図8(c)、(d)では、第2の層において、樹脂材料R2を先に所定の配列ピッチで形成し、その後樹脂材料R1を樹脂材料R2の隙間に埋め込むようにし、第1の層と第2の層とで樹脂材料R1、R2の形成順序を異ならせていた。これに変えて、いずれの層においても、特定の樹脂材料(例えば樹脂材料R1)を先に形成し、その後別の樹脂材料(例えば樹脂材料R2)をその隙間に埋め込むようにしてもよい。ただし、層ごとに樹脂材料R1、R2の形成手順を変えた方が、上下方向の樹脂材料の接合をより強固にすることができ好ましい。
【0033】
図6及び図7では、樹脂材料R1及びR2の配合比が略1:1である造形物Sを例示したが、本実施形態で製造される造形物Sがこれに限定されるものではないことは言うまでもない。例えば、配合比は1:1には限られず、その他の所望の比率を設定することが可能である。例えば、図9及び図10は、樹脂材料R1とR2の配合比が2:1である場合を示している。更に配合比は積層方向、及び/又は水平方向(同一層内)において段階的又は連続的に変化させることも可能である。
【0034】
樹脂材料R1、R2の配合比が2:1である造形物Sは、図9及び図10のように、2本の樹脂材料R1と1本の樹脂材料R2を繰り返し形成することにより形成することができる。ただし、これには限られず、例えば図11及び図12に示すように、4本の樹脂材料R1と2本の樹脂材料R2を繰り返し形成することにより、配合比2:1を得ることもできる。図9のような樹脂材料R1、R2の繰り返しのパターンを「2:1の繰り返しパターン」と表現する。また、図11のような場合を「4:2の繰り返しパターン」と表現する。また、図示は省略するが、樹脂材料R1とR2を、それぞれm本、n本ずつ繰り返し形成する場合を、m:nの繰り返しパターンと表現する。この繰り返しパターンは、後述する繰り返しパターンデータPRにより表現される。
【0035】
なお、同じ樹脂材料を1つの層において連続して形成する場合、図9図11のように、円柱近似の形状の樹脂材料を連続して形成することもできるが、図13及び図14に示すように、板状の樹脂材料を形成することもできる。
【0036】
また、上述した例では、1つの造形ユニットUpにおける構造(又は、造形ユニットへの分割が行われない場合の造形物Sの構造)を説明した。造形物Sが複数の造形ユニットUpに分割される場合、1つの層における造形物Sは、例えば図15のように構成される(図15は、配合比が1:1の場合であるが、これはあくまで一例であり、図示以外の配合比にすることは可能であることは言うまでもない)。
【0037】
図15に示すように、造形空間は必要に応じて複数の造形ユニットUpに分割され得る。1つの造形ユニットUpは、更に複数のスライスデータに分割され、スライスデータに対応する1つの層ごとに造形が行われる。例えば、1つの造形ユニットUpの第1の層の造形が終了すると、次は、この造形ユニットUpに隣接する造形ユニット(例えば図15の造形ユニットUp’)の第1の層の造形が開始される。
このとき、造形ユニットUpの1つの層においては、一方向(例えばX方向)を長手方向として樹脂材料R1、R2が所定の配列ピッチで互いに隣り合うように形成されるが、隣接する造形ユニットUp’では、同じ層においては異なる方向(例えばY方向)を長手方向として樹脂材料R1、R2が連続的に形成される。これが各層において繰り返されることにより、例えば図6図7に示すような構造が形成される。
なお、複数の層の積層は、図15に示すように、各層をZ方向に平行に積層させていくこともできるが、これに代えて、例えば図16に示すように、XY方向にずれる形での積層であってもよい(図16は、X方向、Y方向にそれぞれ半ピッチずつずれる場合を例示している)。
図17図19は、造形物Sの変形例を示す。
図6及び図7の造形物Sは、1つの層においては樹脂材料R1、R2は一方向(X方向又はY方向)に沿って延びる直線形状を有し、その1つ上の層においては、樹脂材料R1、R2はこれと直交(交差角90度)する方向に延びる直線形状を有している。しかし、これに代えて、例えば図17に示すように、上下の層における樹脂材料R1、R2の交差角度を90°以外の角度に設定することもできる。この構造の場合、上下層における同一の樹脂材料間の接合面積が90°の場合に比べ大きくなり、図6及び図7の場合に比べ造形物Sの強度を大きくすることができる。
また、図6、及び図7の例では、各層における樹脂材料R1、R2はある一方向を長手方向とする直線形状を有しているが、これに代えて、例えば図18に示すように、各樹脂材料R1、R2は、その軸方向が一方向を長手方向としている(換言すれば、全体として一方向に連続的に形成されている)波線形状を有していても良い。
また、図18の波線形状の樹脂材料R1、R2は、その中心線又は包絡線は直線形状であるが、図19に示すように、その中心線又は包絡線自体が波線形状であってもよい。この図19の樹脂材料R1、R2も、全体としては一の方向を長手方向として延びるように形成されている。要するに、本実施の形態の造形物Sは、上下の層において同一の樹脂材料が互いに交差するように形成され、その交差部において接合する形状を有していればよい。
【0038】
次に、図20のフローチャート、及び図21の概略図を参照して、本実施形態の三次元造形装置を用いた造形物Sの具体的な造形手順を説明する。
【0039】
まず、コンピュータ200は、外部より造形物Sの形態に関するマスタ3Dデータを受信する(S11)。ここでは、図21の左側に示すような造形物Sを想定する。この図21に図示した造形物Sは、3重構造の球形の造形物であり、主に樹脂材料R1からなる外周部Rs1、樹脂材料R1と樹脂材料R2が混合されている内周部Rs2、及び主に樹脂材料R2からなる中心部Rs3からなる。
マスタ3Dデータには、造形物Sの各構成点における座標(X,Y,Z)と、その構成点における樹脂材料R1、R2の配合比を示すデータ(Da、Db)が含まれる。以下では、各構成点のデータをDs(X、Y、Z、Da、Db)のように標記する。なお、使用する樹脂材料が3種類以上である場合、データDa、Dbに加えて、当該樹脂材料の配合比を示すータDc、Dd・・・が構成点データDsに追加される。
【0040】
また、造形ユニットUsのサイズSu、複数の造形ユニットUsを1つの層において造形する手順を示す造形順序データSQ、使用する複数種類の樹脂材料を特定する樹脂データRU、及び複数種類の樹脂材料をどのようにして繰り返し形成するかを示す繰り返しパターンデータPR(複数種類の樹脂材料をどのようなパターンで形成するかを示すデータ)等を、造形指示部204より出力又は指示する(S12)。この時、必要なデータの一部またはすべてはキーボードやマウス等の入力デバイスを用いて外部から造形指示部204へ入力されるか、外部の記憶装置から造形指示部204へ入力される。
次に、空間フィルタ処理部201では、マスタ3Dデータが示す造形空間を、指示された造形ユニットサイズSuに基づいて複数の造形ユニットUpに分割する(S13)。造形ユニットUpは、図21に示すように、XYZ方向において造形物Sの造形空間を分割した矩形状の空間である。
【0041】
分割された各造形ユニットUpには、対応する構成点データDs(X、Y、Z、Da、Db)を反映させたプロパティデータが付与される(S14)。マスタ3Dデータが造形物Sの形状を示す連続値の3Dデータであるのに対し、造形ユニットUp毎のデータは、造形ユニットUp毎の形状を示す離散値の3Dデータである。
【0042】
次に、このようなプロパティデータが付与された造形ユニットUpのデータが、スライサ202に送信される。スライサ202は、この造形ユニットUpのデータを更にXY平面に沿って分割し、複数組のスライスデータを生成する(S15)。スライスデータには、前述のプロパティデータが付与される。
【0043】
続いて、造形スケジューラ203は、各スライスデータに含まれるプロパティデータに従い、各スライスデータに対し密度変調を実行する(S16)。密度変調とは、前述の配合比(Da、Db)に従って、当該スライスデータにおける樹脂材料R1とR2の形成比率を決定する演算動作である。
【0044】
また、造形スケジューラ203は、前述の密度変調の演算結果、及び造形指示部204から受信した造形順序データSQ及び繰り返しパターンデータPRに基づいて、樹脂材料R1及びR2の繰り返しパターン、及び造形方向を決定する(S17)。1つの層のスライスデータにおける造形方向は、上述の井桁構造を得るため、その1つ下の層におけるスライスデータと直交する方向に設定される。
【0045】
続いて、造形ベクトル生成部205は、造形スケジューラ203において決定された造形方向データに従い、造形ベクトルを生成する(S18)。この造形ベクトルが、ドライバ300を介して3Dプリンタ100に出力され、マスタ3Dデータに従った造形動作が実行される(S19)。また、造形指示部204で指示された造形順序データSQに従い、複数の造形ユニットUpが形成され、最終的に造形空間全体において造形物Sが形成される。
【0046】
[効果]
以上説明したように、本実施の形態の三次元造形装置によれば、第1の層においては、複数種類の樹脂材料が第1の方向に沿って形成され、且つ第1の方向と交差する第2の方向において複数種類の樹脂材料が並ぶように造形ヘッド24A、24Bが制御される。そして、第1の層の上部の第2の層においては、複数種類の樹脂材料が、第1の方向と交差する第3の方向に沿って形成され、且つ第3方向とは交差する第4の方向において複数種類の樹脂材料が並ぶように造形ヘッド25A、25Bが制御される。これにより、造形物の中において、複数種類の樹脂材料がいわゆる井桁構造に組み込まれ、複数材料を複合的に用いた造形物を生成する場合においても、高さ方向に同一の材料が接する点が存在するので、異なる複数の材料の間の接合を総合的に強固にすることができる。
また、複数種類の樹脂材料を1つの造形物において使用することにより、複数種類の樹脂材料の長所を併せ持った造形物を提供することが可能になる。例えば、材料は一般的に強度と柔軟性は相反する特性を持ち、両者を兼ね備えた材料の開発、生産は工業的に極めて難しいとされる。しかしながら本発明の造形装置によれば、例えば強度の高い樹脂材料R1と、柔軟性の高い樹脂材料R2を用いて井桁構造を構成することにより、強度が高く、且つ柔軟性の高い樹脂材料を実現することができる。
また樹脂材料R1と樹脂材料R2の構成比を可変させることにより、強度と柔軟性特性を自在に可変することもできる。
また従来技術では離散的な値しか実現できなかった材料の密度が、連続した値の材料密度を実現することができる。
また従来は宇宙空間のような無重力状態でしか実現できなかった比重が大きく異なる材料同士の混合材料も、この造形装置により実現することができる。
【0047】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る三次元造形装置を、図22及び図23を参照して説明する。第2の実施の形態の三次元造形装置は、その全体構成、及び基本的な動作並びに形成され得る造形物Sは第1の実施の形態と同様であるので、以下では重複する説明は省略する。
この第2の実施の形態は、造形ヘッド25A、25Bの構造が第1の実施の形態とは異なっている。
【0048】
この第2の実施の形態の造形ヘッド25Aは、それぞれ造形方向と直交する方向に一列に並ぶ複数(図示の例では4個)の吐出孔NA1〜NA4を備えている。吐出孔NA1〜NA4は、それぞれから吐出される樹脂材料R1が連続して並ぶような配列ピッチを与えられている。すなわち、各吐出孔NA1〜NA4の開口径φ、及び隣接する吐出孔NA1〜NA4の間のピッチPは、連続して形成される樹脂材料R1の配列幅を決定する。
同様に、造形ヘッド25Bも、それぞれ造形方向と直交する方向に一列に並ぶ複数(図示の例では4個)の吐出孔NB1〜NB4を備えている。なお、吐出孔NA1〜NA4、NB1〜NB4は、決定された造形方向に従い、それと直交する方向に並ぶよう制御される。
このような造形ヘッドを用いることにより、造形効率を第1の実施の形態に比べ向上させることができる。
【0049】
[その他]
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0050】
例えば、上記の実施の形態では、3Dプリンタ100の移動機構は、造形ステージ13に対し垂直に延びるガイドシャフト15、ガイドシャフト15に沿って移動する昇降テーブル14、及びXYテーブル12を備えているが、本発明の3Dプリンタ100の移動機構は、これに限定されるものではない。例えば造形ヘッド25A、25Bを搭載するXYテーブル12を固定とし、造形ステージ13を昇降可能とする移動機構としてもよい。また、例えば、図23に示すように、3Dプリンタ100の移動機構は、フレーム11の底面に固定端を有する多軸アーム41を備えることができる。そして、この多軸アーム41の移動端(昇降部)に、前述の実施の形態と同様の造形ヘッド25A、25Bを搭載することができる。
【0051】
また、上記の実施の形態では、3Dプリンタ100と、コンピュータ200、及びドライバ300はそれぞれ独立している構成を示していた。しかし、コンピュータ200、及びドライバ300は、3Dプリンタ100に内蔵させることも可能である。
【0052】
また、上述の造形物Sは、第1及び第2の実施の形態に示したような三次元造形装置よって製造されるものに限定されない。図24A図24Dは、上述の造形物Sの別の製造工程を示す工程図である。図24ASに示すように、樹脂材料R1及びR2を、所定の配列順序に従って互いに平行に束ね、その両端を固定具41により固定する。続いて、図24Bに示すように、互いに平行に束ねられた樹脂材料R1及びR2の上に加圧板42及び加熱板43を載置して、樹脂材料R1及びR2に対し加圧をしつつ所定の温度まで加熱する。これにより、平行に束ねられている樹脂材料R1及びR2は、加圧方向に圧延されて互いに接合された状態となる。この図24Bに示す工程を複数回繰り返して、樹脂材料R1及びR2が圧延された多数の樹脂板を形成する。
【0053】
次に、図24Cに示すように、圧延された樹脂材料R1及びR2からなる多数の樹脂板を積層させる。このとき、上下方向で隣接する2つの樹脂板において、樹脂材料R1及びR2の長手方向が互いに交差するように、多数の樹脂板を配置する。
そして、このようにして積層された多数の樹脂板上に、再度加圧板42及び加熱板43を載置し、この積層された樹脂板に対し加圧をしつつ所定の温度まで加熱する。これにより、上記実施の形態と同様の造形物Sが完成する。
なお樹脂材料R1、R2が安定的に保持できるのであれば、固定具41は省略することも可能である。
なお第1の実施の形態、第2の実施の形態、図24A〜Dの実施の形態のいずれも場合も、接着剤(接着性樹脂)や密着剤(表面処理剤、表面改質剤、カップリング剤)を、外部から散布しながら造形を行ってもよい。ここで接着剤(接着性樹脂)の例としては、樹脂材料R1とR2の界面に入り込んで隙間を埋める機能を有する材料である。また密着剤(表面処理剤、表面改質剤、カップリング剤)の例としては、樹脂材料R1またはR2またはR1、R2双方の表面が官能基を有するように表面を活性化させる機能を有する材料である。このようにすると、樹脂材料R1とR2が互いに親和性の低い関係にある樹脂の場合でも、樹脂材料R1とR2は互いに親和性が増し、強固に結びつくので、破壊強度が必要な用途に適用することができる。
【0054】
[造形物Sの例]
本実施の形態に従って生成される造形物Sの各種具体例(用途)について、以下に説明する。本実施の形態の造形物Sは、以下に説明するように、様々な用途に使用され得る。
【0055】
(第1の具体例)
造形物Sの第1の具体例を図25に示す。この第1の具体例は、造形物Sを電子回路用のプリント基板の材料として適用したものである。
プリント基板の材料には、一般的には熱硬化性樹脂とガラス繊維を組み合わせたガラスエポキシ樹脂が用いられる。しかし、ガラス繊維の誘電率は6.13程度と非常に大きい。このため、プリント基板が搭載される回路においてガラスエポキシ樹脂が寄生容量として作用し、特に高周波回路において伝送損失や伝送遅延が大きくなり、エラーが発生する虞がある。なおここで熱可塑性樹脂の混合により、全体の誘電率を下げることは可能だが、実使用にて140℃前後の耐熱性はプリント基板として必要なことから、一概に熱可塑性樹脂の混合量を増やすことはできない。
【0056】
第1の具体例では、下記のような構造を有することにより、誘電率を低下させつつ、且つ高い耐熱性を有するプリント基板を提供することができる。すなわち、この第1の具体例としては、図25に示すように、樹脂材料R1として低誘電体の材料、例えばポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)が用いられ得る。また、樹脂材料R2の材料としては、例えばポリカボネート、液晶ポリマーなど、耐熱性と剛性に優れた材料が用いられ得る。このような材料の組み合わせを選択し、更に樹脂材料R1及びR2の配合比率を適切に設定することにより、誘電率が低く、且つ適切な耐熱性及び剛性を有する造形物を提供することができる。
【0057】
一例として、ポリプロピレンと液晶ポリマーをR1:R2=1:1の割合で配合することにより、誘電率が2.5〜2.7程度の材料を提供することができる。特に、樹脂材料R2として液晶ポリマーを用いると、液晶ポリマーの熱膨張率が非常に低く、且つ剛性が高いため、広範囲の温度領域でプリント基板を使用することが可能になる。
なお、樹脂材料R1、R2の材料、及びその配合比等は、求められるプリント基板の特性に従って任意に選択することができる。
【0058】
(第2の具体例)
次に、造形物Sの第2の具体例を図26に示す。この第2の具体例は、造形物Sを電磁波制御素子として適用したものである。
【0059】
この図26の造形物Sは、造形物Sの骨組としてのメインフレーム材料R0に加え、樹脂材料R1及びR2を組み合わせて構成される。メインフレーム材料R0は、いわゆる井桁構造を有している。すなわち、図26に示すように、第1の層におけるメインフレーム材料R0の長手方向と、その直上の第2の層におけるメインフレームR0の長手方向とが交差し、その交差位置で上下方向でメインフレーム材料R0同士が接合される。一方、樹脂材料R1、R2は、この井桁構造のメインフレーム材料R0の隙間を埋めるように形成される。このようにメインフレーム材料R0が井桁構造を有することで、造形物S全体の強度が高められるとともに、その隙間に埋め込まれる樹脂材料R1,R2により、所望の特性を有する電磁波制御素子を提供することが可能になる。
【0060】
メインフレーム材料R0の材料としては、例えばポリカーボネート樹脂が使用され得る。なお、メインフレームR0の井桁構造は、造形物Sの全体に亘り形成されている必要はなく、図26のように部分的に井桁構造が存在しない造形物Sとすることも可能である。
【0061】
樹脂材料R1としては、第1の具体例と同様に、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などの低誘電体材料を用いられ得る。また、樹脂材料R2としては、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)などの高誘電体材料を用いられ得る。
【0062】
樹脂材料R1,R2を、造形物Sの内部において所定の間隔で交互に積層させ、その配合比や配列ピッチを適宜調整することにより、造形物Sが有する電磁波減衰特性を変化させることができる。具体的には、配合比や配列ピッチが層ごとに、または面内で変化することに伴って、電界に関する屈折、反射、透過が変化するので、伝送長の変化や、偏波面のベクトル方向の変化が生じ、電磁波の減衰特性を調整することができる。例えば、樹脂材料R1及びR2の配列ピッチが変わることにより、その界面における電界に対する屈折や反射の度合が変化し、伝送長が変化し減衰量が変化する。また、樹脂材料R1及びR2の積層方向における配列ピッチが変わることにより、反射する電磁波の電界の位相が変化し、これにより電磁波の一部が打ち消され、又は弱められる。更に、樹脂材料R1とR2の配合比等が変化することにより、位相変化による打消しや、複雑な伝送路で熱に変化する電磁波の割合も変化する。また、樹脂材料R1とR2の配合比等を変化させることにより、電磁波の偏波面の電界ベクトルの変化にも対応でき、減衰量を制御する事ができる。
【0063】
このように、この第2の具体例によれば、偏波方法や周波数に関わらず任意の電磁波の減衰特性を電界の屈折、反射、透過等の組み合わせ又は偏波面への対応を制御しうる電磁波制御素子を提供することができる。例えば任意の周波数(または任意の周波数帯)における電磁波吸収体を提供することが可能である。特に図26のように3つの異なる誘電率材料が、多種類の面内構成を有しながら多層に渡って変化して構成されていることで、造形物Sの内部では、複数のモードで反射による打消しや伝送長の延長による減衰が生じている。この結果、直線偏波(垂直、水平偏波)だけでなく、円偏波や楕円偏波の電磁波であっても電磁波吸収体として機能することができる。
なお、この第2の具体例において、メインフレーム材料R0を省略し、樹脂材料R1及びR2のみにより造形物S(電磁波制御素子)を形成することも可能である。
【0064】
(第3の具体例)
次に、造形物Sの第3の具体例を図27に示す。この第3の具体例は、造形物Sを音波吸収素子の材料に適用したものである。
この図26の造形物Sも、同様に樹脂材料R1とR2を井桁構造に積層させて形成され得る。なお、第2の具体例と同様に、樹脂材料R1とR2に加え、造形物Sの骨組となるメインフレーム材料R0を追加することも可能である。
【0065】
造形物Sにより音波吸収素子を形成する場合、樹脂材料R1、R2の組み合わせとして、剛性の高いが柔軟性に劣る材料と、剛性が低いが柔軟性の高い材料とを用いることができる。これにより、樹脂材料R1とR2の境界において音波の速度が変化し、これにより、音波の間に位相差が生まれて音波が互いに相殺され、音波が吸収される。一例として、樹脂材料R1としては剛性の高いポリカーボネート樹脂を用い、樹脂材料R2としてはエラストマーなど柔軟性の高い材料を用いることができる。このような構成とすることにより可聴域音波や超音波を減衰、抑圧させることができ、事実上これらを遮断する素子とすることができる。また層間のピッチを変えることによって、抑圧する周波数(または抑圧する周波数帯)を変化させることも可能である。なお本音波吸収素子を、カナル型イヤホン(インナーイヤーヘッドフォン)のエンクロージャに適用した場合には、可聴域音波を耳の内部には阻害なく伝達しつつ、外部へは音波の吸収により音漏れを防止することができる。
【0066】
(第4の具体例)
次に、造形物Sの第4の具体例を図28に示す。この第4の具体例は、造形物Sを衝撃吸収素子の材料に適用したものである。衝撃吸収素子としては、従来は柔軟性の高い発泡材や、ゲル化された材料を使用することが多い。しかし、発砲材やゲル化材料は通気性に劣るという問題がある。この第4の具体例の造形物Sは、次の特徴を有することにより、上記の通気性の問題を解消した衝撃吸収素子を提供することを可能にしている。
【0067】
この図28の第4の具体例の造形物Sも、同様に樹脂材料R1とR2を井桁構造に積層させて形成され得る。なお、第2の具体例と同様に、樹脂材料R1とR2に加え、造形物Sの骨組となるメインフレーム材料R0を追加することも可能である。
【0068】
造形物Sにより衝撃吸収素子を形成する場合、樹脂材料R1、R2の組み合わせとして、剛性の高い材料と、剛性が低いが柔軟性の高い材料とを用いることができる。一例として、樹脂材料R1としては剛性の高いポリカーボネート樹脂を用い、樹脂材料R2としてはエラストマーなど柔軟性の高い材料を弾性補強材として用いることができる。更に、この第4の具体例では、樹脂材料R1の井桁構造の隙間を完全に樹脂材料R2で充填せず、一部に空洞AGを残存させている。このような空洞AGは、例えば図8で説明したような製造工程を採用することにより、所望の密度及び配列ピッチで形成することが可能である。このように構成した第4の具体例によれば、衝撃吸収性と通気性の両立を図った造形物Sを提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
100・・・3Dプリンタ、 200・・・コンピュータ、 300・・・ドライバ、 11・・・フレーム、 12・・・XYステージ、 13・・・造形ステージ、 14・・・昇降テーブル、 15・・・ガイドシャフト、21・・・枠体、 22・・・Xガイドレール、 23・・・Yガイドレール、 24A、24B・・・フィラメントホルダ、 25A、25B・・・造形ヘッド、 31・・・枠体、 34、35・・・ローラ、 38A、38B・・・フィラメント、 201・・空間フィルタ処理部、 202・・スライサ、 203・・・造形スケジューラ、 204・・・造形指示部、 205・・・造形ベクトル生成部。
【要約】
この三次元造形装置の制御部は、第1の層では、第1の樹脂材料が第1の方向に連続的に形成され且つ第1方向と交差する第2方向において隙間を空けて配列されると共に、第1の樹脂材料以外の樹脂材料が、第1方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列されるよう、造形ヘッドを制御する。第1の層の上部の第2の層では、第1の樹脂材料が、第1方向とは交差する第3の方向に連続的に形成され且つ第3方向と交差する第4方向において隙間を空けて配列されると共に、第1の樹脂材料以外の樹脂材料が、第3方向に連続的に形成され且つ前記隙間に配列される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図24C
図24D
図25
図26
図27
図28