(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909319
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】BaTi2O5の前駆体粉末、BaTi2O5の前駆体粉末の製造方法、及びBaTi2O5の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20160412BHJP
【FI】
C01G23/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-62644(P2011-62644)
(22)【出願日】2011年3月22日
(65)【公開番号】特開2012-197200(P2012-197200A)
(43)【公開日】2012年10月18日
【審査請求日】2014年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】角田 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】岸 松雄
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 潤
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
【審査官】
阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−051690(JP,A)
【文献】
特開平07−297009(JP,A)
【文献】
特開2009−242212(JP,A)
【文献】
特開2011−006266(JP,A)
【文献】
特開2009−256140(JP,A)
【文献】
特開2010−285334(JP,A)
【文献】
特開2008−195555(JP,A)
【文献】
特開2000−169147(JP,A)
【文献】
特開平06−279025(JP,A)
【文献】
諏訪佳子,外,アルコキシド共沈によるBaO-TiO2系化合物の生成,粉体および粉末冶金,1978年 7月,Vol. 25, No.5,p.164-167,DOI:10.2497/jjspm.25.164
【文献】
YUE, X. et al,Effect of CaO and ZrO2 co-substitution on dielectric properties of BaTi2O5 prepared by arc melting,J. Ceram. Soc. Jpn.,2009年 4月 1日,Vol.117, No.1364,p.435-438,DOI:10.2109/jcersj2.117.435
【文献】
後藤孝,新強誘電体二チタン酸バリウムBaTi2O5(BT2)の発見と結晶構造,日本結晶学会誌,日本結晶学会,2006年 4月28日,Vol.48, No.2,p.121-126,DOI:10.5940/jcrsj.48.121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO3とTiO2とで形成されるとともに、前記BaTiO3と前記TiO2が接触して一体化した、前記BaTiO3が前記TiO2を覆う二層構造を有する粒子で構成され、前記粒子の平均粒径は10nm〜1μmの範囲内であり、
BaとTiとの元素物質量比Ti/Baが1.8〜2.2の範囲内であることを特徴とするBaTi2O5の前駆体粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のBaTi2O5の前駆体粉末の製造方法であって、
BaCO3とTiO2を原料として調合し、前記原料の原子物質量比Ti/Baを1.8〜2.2の範囲内にする調合工程と、
調合した前記原料の混合及び微粒化を行い、平均粒径10nm〜1μmの粒子を形成する混合・微粒化工程と、
前記粒子を500〜850℃で反応させる低温予備焼成工程と、
前記低温予備焼成工程により得られた生成物の粉砕を行う均一化工程と、
を備えていることを特徴とするBaTi2O5の前駆体粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のBaTi2O5の前駆体粉末の製造方法により作製されたBaTi2O5の前駆体粉末を950〜1230℃で固相反応させる固相反応工程を備えており、
前記固相反応工程で得られた焼成物がBaTi2O5であることを特徴とするBaTi2O5の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末、BaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の製造方法、及びBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
約450Kで2万以上という高い誘電率を示すBaTi
2O
5は、多岐用途での電気・電子材料としての応用が期待される高誘電率材料であり、そのため、高純度のBaTi
2O
5を安価に得られる製造方法が嘱望されている。
【0003】
従来の主なBaTi
2O
5の製造方法は、溶融法を利用したものである。溶融法では、原料をたとえばBaCO
3とTiO
2の組成比1:2の混合物、またはBaTiO
3とTiO
2の組成比1:1の混合物とし、これを1386℃以上に加熱して溶融した後に、冷却・凝固することによりBaTi
2O
5を得ている(特許文献1)。この方法では、BaTi
2O
5を単相状態で得ることが可能であるという利点がある。
【0004】
しかし、溶融温度である1386℃以上での加熱を実現するために、高価な超耐熱炉や坩堝を必要とするため、製造コストが著しく高くなっていた。また、溶融状態を経て冷却した試料は坩堝に強く密着するため、試料回収が困難になるという問題もあった。
【0005】
近年では、固相反応法を利用することにより1386℃以上という高温での処理を不要とした、BaTi
2O
5の製造例がある。これは、原料としてBaCO
3とTiO
2の組成比1:2の混合物を用い、これを固体状態のまま1000〜1200℃で反応させてBaTi
2O
5を得る方法である(非特許文献1)。この方法では、高価な超耐熱炉や坩堝が不要であるため、溶融法に比べて製造コストを抑えることができる。また、試料が坩堝に強く密着して回収困難となる問題もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4051437号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N.Zhu,and A.R.West,J.Am.Ceram.Soc.93,295(2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に開示されているような固相反応法によるBaTi
2O
5の製造方法では、BaTiO
3やBaTi
4O
9、Ba
4Ti
13O
30、Ba
6Ti
17O
40等の副生成物が生成することが知られている。こうした副生成物の生成は、固相反応法の一般的な特徴であり、原料が不均一混合であったり、原料粒径が不均一であったりすることにより、原料系内で反応経路や反応率に差が生じることを反映したものである。つまり、従来の固相反応法によるBaTi
2O
5の製造方法では、BaTi
2O
5を単相状態で得ることが困難だった。
【0009】
この問題を解決するために、反応が平衡に達するまで反応時間を長くすることが考えられるが、一般に固相反応は反応速度が極めて低く、数週間反応させても平衡に達しない場合が少なくないため、量産には適さない。また、高温を長期間維持することにより製造コストが高くなるという問題や、防災上も問題がある。
【0010】
また、反応を加速するために、反応温度をより高温にすることが考えられる。たとえば、固相反応法を利用した従来のBaTi
2O
5の製造方法により得た試料を、さらに1220〜1230℃で加熱することにより、副生成物を消失させ、BaTi
2O
5を得た例がある(例えば、非特許文献1)。しかし、この場合、高温加熱のために大きな熱エネルギーを使うことや耐熱炉の使用により、製造コストが高くなってしまう。また、高温化によりBaTi
2O
5の焼結が起こるため、粉末としての試料回収ができなくなってしまい、処理後の試料の利用範囲が制限されてしまう。また、BaTi
2O
5は1150〜1200℃及び1230℃以上で長時間加熱すると熱分解するため、処理温度もしくは処理時間には大きな制限があり、また、これにより試料の熱分解を回避するための高精度の温度制御が必要となる等の問題がある。
【0011】
以上のように、固相反応法を利用した従来のBaTi
2O
5の製造方法では、副生成物の生成は避けられず、副生成物の生成を回避しようとすると製造コストが高くなってしまう。結局、高純度のBaTi
2O
5合成と、製造コストの低減を両立させることは困難であった。
【0012】
本発明の目的は、固相反応による従来の二チタン酸バリウム系複合酸化物の製造方法が有していた前記のような課題を解決することであり、副生成物の生成を回避しながらも、製造コストを低減できるBaTi
2O
5などのBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末、BaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の製造方法、及びBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法を提供することである。ここで、BaTi
2O
5系複合酸化物とは、BaTi
2O
5、又はBaTi
2O
5及びBaTi
2O
5のうちBa、Tiを置換した酸化物で構成されるものをいう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は製造コストの低い方法で高純度のBaTi
2O
5系複合酸化物を得るべく鋭意研究した結果、下記のBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末、BaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の製造方法、及びBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法により本発明の目的を達成できた。
すなわち、本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末は、Ba系複合化合物とTi系複合酸化物との少なくとも2種類の成分で形成された粒子で構成され、BaとTiとの元素物質量比Ti/Baが1.8〜2.2の範囲内であることを特徴とする。
これにより、従来に比べて高純度のBaTi
2O
5系複合酸化物を安価に提供することができる。
【0014】
また、前記Ti系複合酸化物の基本成分がTiO
2である。また、前記Ba系複合化合物の基本成分がBaTiO
3であることを特徴とする。
【0015】
また、前記Ti系複合酸化物が、TiO
2と、TiO
2のTiがV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの群の中から選ばれる少なくとも1種類の元素に置換された酸化物と、で構成されることを特徴とする。
【0016】
また、前記Ba系複合化合物が、BaTiO
3と、BaTiO
3のBaがCa、Rb、Sr、Cs、Pb、Fr、Raの群の中から選ばれる少なくとも一種類の元素で置換されるとともに、BaTiO
3のTiがV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの群の中から選ばれる少なくとも1種類の元素で置換された酸化物と、で構成されることを特徴とする。
【0017】
前記Ti系複合酸化物が、TiO
2と、TiO
2のTiがV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの群の中から選ばれる少なくとも1種類の元素に置換された酸化物と、で構成され、前記Ba系複合化合物が、BaTiO
3と、BaTiO
3のBaがCa、Rb、Sr、Cs、Pb、Fr、Raの群の中から選ばれる少なくとも一種類の元素で置換されるとともに、BaTiO
3のTiがV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの群の中から選ばれる少なくとも1種類の元素で置換された酸化物と、で構成されることを特徴とする。
この元素置換により、結晶格子を歪ませ、電子分布を変化させることにより、誘電率、圧電定数、結晶変態温度などを制御できる。
【0018】
また、本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の製造方法は、炭酸バリウムと二酸化チタンとからなる原料を調合し、前記原料の原子物質量比Ti/Baを1.8〜2.2の範囲内にする調合工程と、調合した前記原料の混合及び微粒化を行い、平均粒径10nm〜1μmの粒子を形成する混合・微粒化工程と、前記粒子を500〜850℃で反応させる低温予備焼成工程と、前記低温予備焼成工程により得られた生成物の粉砕及び均一化を行う均一化工程と、を備えていることを特徴とする。
これにより、従来に比べて高純度のBaTi
2O
5系複合酸化物を安価に提供することができる。
【0019】
また、BaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法は、炭酸バリウムと二酸化チタンとからなる原料を調合し、前記原料の原子物質量比Ti/Baを1.8〜2.2の範囲内にする調合工程と、調合した前記原料の混合及び微粒化を行い、平均粒径10nm〜1μmの粒子を形成する混合・微粒化工程と、前記粒子を500〜850℃で反応させる低温予備焼成工程と、前記低温予備焼成工程により得られた生成物の粉砕及び均一化を行い、BaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末を形成する均一化工程と、前記前駆体粉末を850〜1230℃で固相反応させる固相反応工程と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、従来に比べて高純度のBaTi
2O
5系複合酸化物を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末を構成する粒子の断面図の1例である。
【
図2】本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の粉砕の説明図である。
【
図3】本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の製造方法の工程図である。
【
図4】本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末について、
図1乃至
図2を参照しながら説明する。
図1は本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末を構成する粒子の断面図の1例であり、該前駆体粉末を構成する粒子
1は、Ba系複合化合物2及びTi系複合酸化物3から構成される。ここで、前駆体粉末は、複数の粒子1で構成されるものである。
【0023】
本実施形例においては、Ba系複合化合物2は、BaTiO
3である。なお、Ba系複合化合物2は、BaTiO
3を基本成分とし、後述するBa及びTiのうち一方を置換したものを含むものであってもよい。また、Ti系複合酸化物3は、TiO
2である。なお、Ti系複合酸化物3は、TiO
2を基本成分とし、後述するTiを置換したものを含むものであってもよい。
【0024】
また、本実施例では、BaTiO
3が球状のTiO
2の全面を覆う二層構造となっている。なお、BaTiO
3とTiO
2が接触して一体化した粒子となっていれば、本実施例の二層構造に限定されるものではない。例えば、
図2のように
図1の二層構造を有する粒子の粉砕物でもよい。また、TiO
2の表面にBaTiO
3が不均一に付着した構造や、TiO
2とBaTiO
3が均一に混合した構造や、TiO
2が球状のBaTiO
3の全面を覆う二層構造であってもよい。この場合においても、BaTiO
3とTiO
2とが接触した形状となっている。また、該粒子の粒径、粒径分布、形状についても特に限定されるものではないが、粒径は均一であることが好ましい。
【0025】
また、本実施例において、前躯体粉末は、BaとTiの原子物質量比Ti/Baが、粉末全体において1.8〜2.2である。原子物質量比Ti/Baが1.8より小さいとき、又は2.2より大きいときは、BaTi
2O
5の原子物質量比と大きく異なってしまうため、BaTi
2O
5系複合酸化物を安定して製造できない虞がある。また、Ti/Ba値が粒子毎にバラツキがなく、一定値2であることが好ましい。なお、後述するBaTi
2O
5系複合酸化物の製造工程においてTiもしくはBaが損失する虞がある場合は、1.8〜2.2の範囲で適宜調整する。
【0026】
次に、前記BaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の製造方法と、該前駆体粉末を使用してBaTi
2O
5系複合酸化物を得るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法の実施形態について、
図3乃至
図4を参照しながら説明する。
【0027】
図3は本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末の製造方法の一例を示す工程図である。この製造方法は、調合工程、混合・微粒化工程、低温予備焼成工程、均一化工程から構成されている。なお、本実施例において、BaTi
2O
5系複合酸化物は、BaTi
2O
5である。
【0028】
本実施例において、調合工程では、純度99.9%以上、粒径0.1〜1μmのBaCO
3およびルチル型のTiO
2をチタン原子とバリウム原子の物質量比(Ti/Ba)が1.8〜2.2となるように原料を秤量する。物質量比Ti/Baが1.8より小さいとき、又は2.2より大きいときは、BaTi
2O
5の原子物質量比と大きく異なってしまうため、BaTi
2O
5系複合酸化物を安定して製造できない虞がある。
【0029】
本実施例において、Ti/Baは2であることがより好ましい。なお、これ以降の工程においてTiもしくはBaが損失する虞がある場合は、1.8〜2.2の範囲で適宜調整する。
TiO
2は、ルチル型、アナターゼ型、及びブルッカイト型のいずれの結晶構造のものも使用できるが、ルチル型を使用することが好ましい。
【0030】
混合・微粒化工程では、原料をメノウポット内で混合する。これに、ミリング用のジルコニアボールおよび水を加え、遊星型ボールミルで約30時間のミリングを行う。その後、ジルコニアボールを除去し、100℃〜120℃で乾燥する。こうして得られた粒子の平均粒径は、10nm〜1μmである。
【0031】
この例では、粉砕機として遊星型ボールミルを用い、水を用いた湿式法を採用しているが、粉砕機は遊星型ボールミルに限定されず、種々のボールミル、ビーズミル、コロイドミル等の粉砕機を好適に用いることができる。また、乾式・湿式混合のいずれの方法で行っても良い。また、処理後の粒子の平均粒径は10nm〜1μmの範囲であればよく、より好ましくは10〜700nmである。なお、これを実現するためにミリング時間を20〜200時間の間で適宜調整してもよい。また、ミリング用媒質は、原料粉末同士の固着を防ぎ、よく分散させるものであれば特に水に限定されるものではない。このとき、水以外には、例えばエタノール、プロパノール、アセトン等の液体を好適に使用できる。
【0032】
低温予備焼成工程では、混合・微粒化工程で得られた粒子からなる粉末を、空気中にて500〜850℃で固相反応さる。この工程で得られた生成物は、BaTi
2O
5の前駆体粉末であって、
図1の球状のTiO
2の全面をBaTiO
3が覆う二層構造である。本実施例にように、TiO
2とBaTiO
3とを接触した状態にすることにより、後の焼成工程でBaTi
2O
5系複合酸化物への合成を効率的に進めることが可能になる。これにより、
図1に示すBa系複合化合物及びTi系複合酸化物で構成される前躯体粉末を形成することができる。本実施形例においては、Ba系複合化合物2は、BaTiO
3である。また、Ti系複合酸化物3は、TiO
2である。
【0033】
しかし、このままではもともとの原料粒径が均一ではないことを反映して、粒子毎にTiO
2とBaTiO
3の体積比が異なる。そのため、粒子毎に反応率や反応経路の差が生じ、副生成物の生成につながる。これを解消するために、均一化工程が有効となる。
【0034】
均一化工程では、前記粉末をメノウポット内で粉砕する。この工程により、
図1の二層構造を有する粒子を微細化し、
図2に示すようにその表面にTiO
2を露出させることができる。こうして、TiO
2とBaTiO
3がより均一に混合した状態になるため、反応系内での反応率や反応経路の差を抑制することができる。
【0035】
図4は本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法の実施形態を示すブロック工程図である。
本実施例において、この製造方法は、均一化工程により形成されたBaTi
2O
5の前駆体粉末を、空気中にて850〜1230℃で固相反応させる(固相反応工程)。
【0036】
均一工程により、反応系内では、TiO
2とBaTiO
3がより均一に混合した状態となっているため、反応率や反応経路の差が少なく、副生成物の生成が抑制されるため、高純度または単相のBaTi
2O
5を得ることができる。たとえば、900℃以上で6時間の焼成では、BaTi
2O
5を主成分とすることができ、950℃以上では、単相とすることができる。
【0037】
BaTi
2O
5は1150〜1200℃で分解することが知られているが、この温度範囲でも、焼成時間を短くし、たとえば1分〜2時間とすれば、分解を抑制できる。よって、本発明に係るBaTi
2O
5の製造方法における焼成工程の焼成温度は1230℃まで適用することが可能である。ただし、より好ましくは、分解を完全に回避可能である1150℃までとする。
【0038】
また、調合工程で、たとえば第一の添加物としてZrO
2、第二の添加物としてCaCO
3またはSrCO
3を添加することができる。これにより、低温焼成工程後の生成物または焼成工程後の最終生成物として、TiをZr、BaをCaまたはSrにより置換したBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末、またはBaTi
2O
5系複合酸化物をそれぞれ作製することもできる。
【0039】
この例では、置換元素としてZr、Ca、Srを用いたが、一般に元素置換は互いに価数及びイオン半径及び配位数が同じであれば行うことができる。たとえば、BaTi
2O
5中のTiと価数及びイオン半径及び配位数が近くなりうる元素としてV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptがある。
【0040】
すなわち、Tiに対する置換元素を含む第一の添加物としては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptであって、そのうち4価である化合物を使用する。また、第一の添加物は、原料と同種の化合物、本実施例においては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの二酸化物を使用することが好ましい。
【0041】
また、BaTi
2O
5中のBaと価数及びイオン半径及び配位数が近くなりうる元素としてCa、Rb、Sr、Cs、Pb、Fr、Raがある。したがって、これらの元素による元素置換が可能である。
【0042】
Baに対する置換元素を含む第二の添加物としては、Ca、Rb、Sr、Cs、Pb、Fr、Raであって、そのうち2価である化合物を使用する。また、第二の添加物は、原料と同種の化合物、すなわち本実施例においては、Ca、Rb、Sr、Cs、Pb、Fr、Raの炭酸塩を使用することが好ましい。
【0043】
また、元素置換は、Ba
2+サイトとTi
4+サイトの両方をそれぞれの置換元素で同時に置換してもよいし、別々に置換してもよい。元素置換により、結晶格子を歪ませ、電子分布を変化させることにより、誘電率、圧電定数、結晶変態温度などを制御できる。なお、同時に置換した場合は、工程時間の短縮化を図れる。
【0044】
この場合、Ba系複合化合物は、BaTiO
3と、Ba及びTiのうち一方を置換したものとで構成される。また、Ti系複合酸化物は、TiO
2と、Tiを置換したものとで構成される。
これにより、BaTi
2O
5及びBaTi
2O
5のうちBa、Tiを置換した酸化物で構成されるBaTi
2O
5系複合酸化物を形成することができる。
【0045】
すなわち、Ti系複合酸化物が、TiO
2と、TiO
2のTiがV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの群の中から選ばれる少なくとも1種類の元素に置換した酸化物と、で構成されている。また、Ba系複合化合物が、BaTiO
3と、BaTiO
3のBaがCa、Rb、Sr、Cs、Pb、Fr、Raの群の中から選ばれる少なくとも一種類の元素で置換されるとともに、BaTiO
3のTiがV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの群の中から選ばれる少なくとも1種類の元素で置換された酸化物と、で構成されている。
【0046】
また、本発明のBaTi
2O
5系複合酸化物の前駆体粉末は、焼結法、浮遊溶融帯(FZ)法、ベルヌーイ法、ブリッジマン法、引き上げ法、アーク融解法、レーザーアブレーション法などのセラミックおよびセラミックス作製の原料として用いることができるなど、幅広い用途に使用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・粉砕前のBaTi
2O
5系複合酸化物前駆体
2・・・Ba系複合化合物
3・・・Ti系複合酸化物
4・・・粉砕後のBaTi
2O
5系複合酸化物前駆体