特許第5909328号(P5909328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909328
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】バックアップゴムロール
(51)【国際特許分類】
   F16C 13/00 20060101AFI20160412BHJP
   B29D 99/00 20100101ALI20160412BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20160412BHJP
   B65H 27/00 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   F16C13/00 B
   B29D99/00
   B65H5/06 C
   B65H27/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-112472(P2011-112472)
(22)【出願日】2011年5月19日
(65)【公開番号】特開2012-2354(P2012-2354A)
(43)【公開日】2012年1月5日
【審査請求日】2014年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2010-116602(P2010-116602)
(32)【優先日】2010年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000142436
【氏名又は名称】株式会社金陽社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100159651
【弁理士】
【氏名又は名称】高倉 成男
(74)【代理人】
【識別番号】100091351
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084618
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 貞男
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】須和 宣旭
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−020366(JP,A)
【文献】 特開2003−311808(JP,A)
【文献】 特開平10−254262(JP,A)
【文献】 特開2010−042038(JP,A)
【文献】 特開平05−024675(JP,A)
【文献】 米国特許第06394944(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 13/00
B29D 99/00
B65H 5/06
B65H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムのコーター用ロールに対接して配置されるバックアップゴムロールであって、
芯金と、前記芯金の周面上に設けられた熱硬化性エラストマー組成物からなる表面層とを具備し、
前記熱硬化性エラストマー組成物は、熱硬化性エラストマー100部に対し滑り付与剤10〜50重量部を含む硬化物であり、
前記熱硬化性エラストマーは、ポリオレフィン系材質であり、
前記滑り付与剤は、融点50〜100℃の無極性ワックスを含む、ビニル単量体の粒状のラジカル重合体であることを特徴とする該バックアップゴムロール。
【請求項2】
フィルムのコーター用ロールに対接して配置されるバックアップゴムロールの製造方法であって、
ポリオレフィン系材質である熱硬化性エラストマー100部と、滑り付与剤10〜50重量部とを混合し、架橋して得た熱硬化性エラストマー組成物を芯金の周面上に表面層として形成する工程を備え、
前記滑り付与剤は、融点50〜100℃の無極性ワックス、ビニル単量体及びラジカル重合開始剤を含む混合液を乳化重合又は懸濁重合して得た重合体であることを特徴とする該バックアップゴムロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴムロールに関し、フィルム等のコーター用ロールやシート・紙などの搬送用ゴムロールとともに使用されるバックアップロールに関する。更に詳しくは、本発明は、フィルム等のコーター用ロールに対接して設置されるバックアップロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムやシート等の帯状基材の連続塗装には、コーター用ロールと呼ばれる帯状基材上に塗装を行うゴムロールと、帯状基材を搬送するためにコーター用ロールに対接して設置されているバックアップロールが使用されている。スムーズに帯状基材を搬送するために、バックアップロールにはロール表面の滑り性が求められている。
【0003】
ロール表面に滑り性を付与するゴム組成物としては次のものが知られているが、いずれのゴム組成物についても以下に述べるような問題がある。
(1)アクリロニトリル-ブタジエン-イソプレンゴム(NBR)やクロロプレンゴム(CR)などの、基本骨格に不飽和結合を有するエラストマーに表面処理をしたゴム組成物がある。しかし、このゴム組成物を表面層に用いたゴムロールを使用し続けると、ゴムロールの表面層が摩耗することにより滑り性が低下してしまう。また、例えば、フィルム加工ではオゾン環境下でロールが使用されるケースがあり、耐オゾン劣化性なども問題になっていた。
【0004】
(2)エラストマーに滑り性を付与する球状ポリエチレンやフッ素樹脂等を混合したゴム組成物がある。しかし、このゴム組成物内に異種物質を単に混合しているため、脱落(異種混合物がロール表面に浮き出ることによりロールに接する被処理体(帯状基材)を汚染すること)等により製品への影響がある。
(3)エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)などのエラストマーを使用したゴムロール表面に摺動性付与剤をコーティングしたゴムロールがある。しかし、このゴムロールはロール表面の摩耗とともに滑り性が低下してしまう。
【0005】
一方、本発明者は、ゴムロールの表面層に用いられる材料の候補として、ポリオレフィン樹脂を主成分とし、融点50〜100℃の無極性ワックス、ビニル単量体及びラジカル重合開始剤を含む混合液を乳化重合又は懸濁重合してなる重合体を含有してなる樹脂成形体の表面物性改良剤を含有し、前記ビニル単量体がポリオレフィン樹脂とは異なる極性を有する熱可塑性樹脂組成物(特許文献1)について検討した。
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の組成物を用いた場合、高硬度である熱可塑性樹脂に滑り性を付与することから、ゴムロールとして使用するには低硬度材質の要求があった。また、フィルムへのコーティング加工の際に柔軟性及び滑り性を有しているゴム材質の要求があった。さらに、特許文献1には熱可塑性エラストマーを用いることが開示されているが、熱可塑性エラストマーは耐摩耗性・復元性・高温時特性などが悪く、改質が要求されていた。
【0007】
より具体的な課題として、上記熱可塑性樹脂組成物からゴムロールの表面層を形成し、このゴムロールをバックアップロールとしてフィルム等のコーター用ロールに対接するバックアップロールとして使用した場合、バックアップロールの表面層が摩耗することにより滑り性が低減し、復元性に劣るために表面層に押圧による凹みが残ったり、あるいは搬送時にフィルム等の帯状基材にシワや折れが生じることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−167352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、表面層の摩耗による滑り性の低減を抑制すると共に、表面層への凹みや、フィルムへのコーティング加工の際にシワ,折れを回避しえるバックアップロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るバックアップロールは、フィルムのコーター用ロールに対接して配置されるバックアップゴムロールであり、ゴムロールからなる。本発明のバックアップゴムロールは、芯金と、前記芯金の周面上に設けられた熱硬化性エラストマー組成物からなる表面層とを具備し、前記熱硬化性エラストマー組成物は、熱硬化性エラストマー100部に対し滑り付与剤10〜50重量部を含む硬化物であり、前記熱硬化性エラストマーは、ポリオレフィン系材質であり、前記滑り付与剤は、融点50〜100℃の無極性ワックスを含む、ビニル単量体の粒状のラジカル重合体であることを特徴とする。
本発明に係るバックアップロールの製造方法は、フィルムのコーター用ロールに対接して配置されるバックアップゴムロールの製造方法であり、ポリオレフィン系材質である熱硬化性エラストマー100部と、滑り付与剤10〜50重量部とを混合し、架橋して得た熱硬化性エラストマー組成物を芯金の周面上に表面層として形成する工程を備える。前記滑り付与剤は、融点50〜100℃の無極性ワックス、ビニル単量体及びラジカル重合開始剤を含む混合液を乳化重合又は懸濁重合して得た重合体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面層の摩耗による滑り性の低減を抑制すると共に、表面層への凹みや、フィルムへのコーティング加工の際にシワ,折れを回避しえるバックアップゴムロールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るゴムロールの断面図。
図2】本発明に係るゴムロールをフィルム加工用のバックアップロールとして用いる場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るゴムロールについて説明する。
本発明において、滑り性を有する表面層を形成するための熱硬化性エラストマー組成物は、まず滑り付与剤と熱硬化性エラストマーをポリマーブレンドした後、架橋することにより得られる。前記熱硬化性エラストマー組成物は架橋されることにより共架橋が生じるため、内部まで均一に滑り性を有することで滑り性が持続し、かつ、脱落を抑制することができる。
【0014】
更に、前記熱硬化性エラストマー組成物は、架橋によりポリマー間が共架橋されるので、耐摩耗性・復元性・高温時特性などに優れるという特性を有する。具体的には、ポリマー間の共架橋により、熱可塑性樹脂の特性を抑えられるため、耐摩耗性・復元性および高温時特性などが改善される。
【0015】
従って、本発明によれば、前記熱硬化性エラストマー組成物からなる表面層を芯金の周面上に設けたゴムロールを、例えば、フィルムのコーター用ロールに対接するバックアップロールとして使用した場合、以下の改善点がある。
(耐摩耗性)
本発明によれば、前記熱硬化性エラストマー組成物は共架橋されているため耐久性が向上し、そのため前記熱硬化性エラストマー組成物を用いたバックアップロールは使用中に表面摩耗が発生しにくい。これに対し、熱可塑性エラストマー組成物は共架橋が発生しないため、表面摩耗が起こりうる。
【0016】
(持続的滑り性)
本発明によれば、前記熱硬化性エラストマーと滑り付与剤がポリマーブレンドされているため、ゴムロールの外部(表面)だけでなく内部(芯金側)においても均一に滑り性が付与されている。そのため、たとえ表面が摩耗しても表面滑り性は持続される。
【0017】
(脱落)
本発明によれば、熱硬化性エラストマー組成物は熱硬化性エラストマーと滑り付与剤の異種材質の単なる混合でなく、共架橋により熱硬化性エラストマー組成物のポリマー間や、滑り付与剤の分子とポリマーは結合されているため、表面からの脱落を抑制できる。しかし、熱可塑性エラストマー組成物は熱可塑性エラストマーと滑り付与剤という異種材質の単なる混合であるため、ロール表面からの脱落が発生しうる。
【0018】
(復元性)
本発明によれば、熱硬化性エラストマー組成物は復元性が改善されるので、バックアップロールとして使用される際にコーター用ロールから押圧をかけられても凹みが残ることがない。また、低硬度であるため、フィルムなどの帯状基材にシワや折れなどを発生させることを抑制できる。これに対し、熱可塑性エラストマー組成物はゴム弾性率が低いために復元性に劣り、コーター用ロールから押圧を受けると凹みが残ってしまう。更に、熱可塑性エラストマーは高硬度であるためバックアップロールとして使用した場合、搬送時に帯状基材であるフィルム等にシワや折れなどを発生させてしまうことが考えられ、バックアップロールの材料としては不適合である。
【0019】
(高温時特性)
一般的に、バックアップロールは、フィルムのコーター用ロールと対接する部分で荷重を受けることによりロール内部が発熱するため、ロールの形状が変化する。本発明によれば、熱硬化性エラストマーは耐熱性を有しているため、高温環境下でも使用することができる。しかし、熱可塑性エラストマー組成物をロール表面に用いた場合、熱可塑性エラストマーは熱に弱いため、荷重が加わり熱変形しやすいと考えられる。
【0020】
本発明において、前記熱硬化性エラストマー組成物では、熱硬化性エラストマー100部に対し滑り付与剤10〜50重量部を含むことが好ましい。この理由は、滑り付与剤が10重量部未満では前記組成物をゴムロールに適用した場合に十分な摩擦係数低減効果を発揮できないからであり、滑り付与剤が50重量部を超えると圧縮永久歪の数値が悪化するため、ゴムロールとして使用できないためである。
【0021】
前記熱硬化性エラストマーとしては、ポリオレフィン系材質であり、例えば天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルニトリル-ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)が挙げられる。
【0022】
前記滑り付与剤とは、融点50〜100℃の無極性ワックス、ビニル単量体及びラジカル重合開始剤を含む混合液を乳化重合又は懸濁重合して得られる重合体を意味する。滑り付与剤としては、例えば日油株式会社製の商品名:ノフアロイKA832が挙げられる。
【0023】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
まず、熱硬化性エラストマーとしてのEPDM100部に滑り付与剤としての重合体(日油株式会社製の商品名:ノフアロイKA832)20重量部及び加硫剤としての過酸化物(パーオキサイド)を5重量部添加し、混合した後、架橋して熱硬化性エラストマー組成物を得る。この熱硬化性エラストマー組成物は、架橋によりポリマー間が共架橋されるので、耐摩耗性、復元性、高温時特性などに優れている。
【0024】
つづいて、図1に示すように、このゴム組成物からなる表面層1を芯金2の表面に成型して円筒体を得た後、円筒体の表面を研磨して芯金2の径:30mm、表面層1の外径:50mm、長さ100mmのゴムロール3を得る。
円筒体の研磨は常法を用いた。即ち、円筒体を、砥石を具備している研削盤に設置し、研削盤を駆動することにより、この円筒体と研削盤の砥石が夫々回転され、砥石に接する円筒体の表面を研磨した。
【0025】
実施例1によれば、摩擦係数が0.61〜0.65のゴムロールが得られた。なお、このゴムロールの摩擦係数は、研磨前後で変化していないことが確認できた。
摩擦係数は、新東科学株式会社製の摩擦係数測定器(商品名:HEIDONトライボギアミューズTYPE:94i)を使用し、PETフィルム−ゴムロール間の静摩擦係数(μs)を測定し、これを摩擦係数とした。
【0026】
実施例1に係るゴムロールは、例えば図2に示すように、フィルム11をコーティングするコーター用ロール12に対接して配置されるバックアップロール13として用いることができる。こうしたゴムロールによれば、表面に滑り性を備え、更に、低硬度であるため、フィルムにシワや折れなどを生じさせることなく搬送することができるため、フィルム11をコーター用ロール12でスムーズにコーティング加工をすることができる。
【0027】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と比べ、滑り付与剤としての重合体(日油株式会社製の商品名:ノフアロイKA832)を50重量部添加する以外は、実施例1と同様にしてゴムロールを得た。
実施例2によれば、摩擦係数が0.41〜0.45のゴムロールが得られた。なお、このゴムロールの摩擦係数も、研磨前後で変化していないことが確認でき、実施例1と同様な効果が得られた。
【0028】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と比べ、滑り付与剤としての重合体を添加しない点及び研磨後にスプレーにより表面層に摺動性付与剤をコーティングする以外は、実施例1と同様にして芯金の径:120mm、表面層の外径:140mm、長さ1400mmのゴムロールを得た。なお、スプレーはロールから300mmほど離れた場所から行った。このスプレーは、フィルム−ゴムロール間の離型性及び滑り性を確保するために行っている。
【0029】
比較例1によれば、研磨後のゴムロールの摩擦係数は1.50以上であった。また、スプレー後の摩擦係数は0.60〜0.70であった。さらに、比較例1に係るゴムロールをフィルムのコーティング加工用のバックアップロールとして用いた場合、使用され続けるとともに表面層が摩耗するために表面滑り性の持続性が悪く、短期間でフィルムにシワが入った。
【0030】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と比べ、滑り付与剤としての重合体を添加しない以外は、実施例1と同様にして芯金の径:30mm、表面層の外径:50mm、長さ100mmのゴムロールを得た。比較例2によれば、摩擦係数1.50以上のゴムロールが得られた。また、比較例2に係るゴムロールをフィルムのコーティング加工用のバックアップロールとして用いた場合、フィルムが滑らず、フィルムにシワが入り使用できなかった。
【0031】
(比較例3)
比較例3では、実施例1と比べ、滑り付与剤としての重合体(日油株式会社製の商品名:ノフアロイKA832)を60重量部添加する以外は、実施例1と同様にしてゴムロールを得た。
比較例3によれば、摩擦係数が0.40〜0.45のゴムロールが得られた。また、比較例3に係るゴムロールをフィルム加工用のバックアップロールとして用いた場合、バックアップロールをコーター用ロールに押し付けた後、バックアップロールが復元しないとともに、使用前に爪で押すだけで凹みが残り、表面の平滑さを必要とするロールとして使用できなかった。
【0032】
(比較例4)
比較例4では、実施例1と比べ、滑り性付与剤の重合体を5重量部添加した以外は、実施例1と同様にしてゴムロールを得た。その結果、摩擦係数が1.50以上のゴムロールが得られた。
【0033】
以上の実施例1,2および比較例1〜4をまとめると、以下のようなことが考察できる。
(1)実施例1,2には滑り性付与剤を備える重合体を10〜50重量部の範囲内で添加した結果、実施例1,2のゴムロールの摩擦係数の数値は低く、滑り性があることがわかる。更に、実施例2は表面を研磨しても摩擦係数の数値が低いことから、共架橋によって熱硬化性エラストマーのポリマー間や、熱硬化性エラストマーのポリマーと滑り付与剤の分子が結合しているため、ロール表面が摩耗しても滑り性が持続することがわかる。
【0034】
(2)実施例1,2に対して、比較例3,4は滑り性付与剤を備える重合体を10〜50重量部の範囲外で添加した。この結果、比較例3では滑り性が得られたが、実施例2とは異なり、熱硬化性エラストマー組成物の圧縮永久歪みの数値が悪いためにロールが復元しなかった。
(3)実施例1,2に対して、比較例1では重合体を添加しない代わりに、表面に滑り性を付与させるためにスプレー加工をおこなった。しかし、比較例1のゴムロールの表面滑り性は使用時間の経過とともに失われていった。これに対し、実施例2から表面が摩耗されても滑り性が持続していることがわかった。
(4)比較例2は滑り性を全く添加しなかったため、高い数値の摩擦係数が得られ、このことから、このロールの滑り性は実施例と比べて大変低いことがわかった。
【0035】
次に、本発明に係る熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとの差異について説明する。なお、滑り付与剤(日油株式会社製の商品名:ノフアロイKA832)は、200℃を越える環境下では滑り成分が気化してしまうおそれがある。この気化を避けるためには、熱硬化性及び熱可塑性エラストマーを200℃以下で加工する必要がある。
【0036】
(参考例1)
まず、熱硬化性エラストマーとしてEPDM100部を用意した。また、熱可塑性エラストマーとして、融点が202℃であるエクソンモービル社製の商品名:サントプレン201−73、及び融点が160℃である三井化学社製の商品名:ミラストマー7030NSを用意した。次に、下記表1に示すとおり、各エラストマーにノフアロイ(滑り付与剤)を添加し、それぞれ融点近傍での加工を施し、室温条件下における加工前後の各エラストマーに各種物性値(引張り強さ、伸び、引裂き強さ、反発弾性、圧縮永久歪量、摩擦係数)を測定した。具体的には、熱硬化性エラストマーではEPDM100部に対しノフアロイを夫々10,20,30,40,50部添加し、熱可塑性エラストマーではサントプレン201−73 100部,ミラストマー7030NS 100部にノフアロイを夫々30部添加した。なお、圧縮永久歪量の測定には、加工前後の各エラストマーを温度100℃において22時間25%圧縮した後の圧縮永久歪量を測定した。また、摩擦係数の測定には、HEIDON摩擦係数測定器を使用し、加工前後の各エラストマーとPETフィルム間の摩擦係数を測定した。
【表1】
【0037】
表1より、次のことが確認できた。まず、EPDM(熱硬化性エラストマー)は、加工の際に200℃超の温度を施すことなく、滑り付与剤を添加すると摩擦係数の低減効果が発揮された。これに対し、熱可塑性エラストマーであるサントプレン201−73は、滑り付与剤を添加するために200℃超の温度で加工を施さなければならず、滑り付与剤を添加して加工を施しても摩擦係数の低減が認められなかった。これは滑り付与剤が200℃超の加工温度で気化してしまったことが考えられる。
【0038】
次に、EPDMは、滑り付与剤の添加量にかかわらずその硬度を維持していたのに対し、熱可塑性エラストマーは滑り付与剤の添加量の増加により硬度低下が確認された。滑り付与剤を添加するための加工温度が200℃超を必要としない熱可塑性エラストマーであるミラストマー7030NSの結果から、硬度の変化は加工温度に関係ないことが確認できた。
【0039】
また、引張り強さ、伸び、引裂き強さ、反発弾性をみても熱硬化性エラストマーが熱可塑性エラストマーよりも優れていることが確認できた。
【0040】
(参考例2)
まず、参考例1と同様に、熱硬化性エラストマーとしてEPDM100部を用意した。また、熱可塑性エラストマーとしてミラストマー7030NS 100部を用意した。つづいて、下記表2に示すとおり、熱硬化性エラストマーではEPDM 100部にノフアロイを夫々10,30,50部添加し、熱可塑性エラストマーではミラストマー7030NS 100部ではノフアロイを夫々10,30,50部添加し、加工を施した。加工前後の各エラストマーの高温時(120℃)の物性値(引張り強さ変化、伸び変化、引裂き強さ変化)を測定した。
【表2】
【0041】
表2のより、次のことが確認できた。まず、熱硬化性エラストマーに対し、熱可塑性エラストマーは高温時における硬度及び上記各物性値が低下したことが顕著に確認できた。この硬度及び物性値低下は、滑り付与剤の添加量が増加すると共に、更に低下傾向をみせた。
【0042】
また、圧縮永久歪(上記表1を参照)においても、高温時(100℃)の条件下では、熱硬化性エラストマーよりも熱可塑性エラストマーの方が数値が高くなっていた。これは、熱硬化性エラストマーよりも熱可塑性エラストマーの方が圧縮永久歪が発生することを意味している。
【0043】
こうしたことから、フィルムへのコーティング加工等の高温環境下に使用されるロールの提供においては、高温時の物性値に優れている熱硬化性エラストマーを使用したロールが望ましい。
【0044】
なお、この発明では、滑り付与剤の配合割合は上述したようなものに限らず、10〜50重量部の配合であればよい。また、滑り付与剤や過酸化物の他に、必要に応じて加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、充填剤等公知の配合剤を使用することができる。さらに、熱硬化性エラストマーはEPDMに限らず、他のポリオレフィン系材質を用いてもよい。
【0045】
また、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…表面層、2…芯金、3…ゴムロール、11…フィルム、12…コーター用ロール、13…バックアップロール。
図1
図2