特許第5909366号(P5909366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909366
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】通い箱
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/228 20060101AFI20160412BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20160412BHJP
   B65D 1/22 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C08J9/228CES
   B65D1/00 110
   B65D1/22
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-4008(P2012-4008)
(22)【出願日】2012年1月12日
(65)【公開番号】特開2013-142141(P2013-142141A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉田 融
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−084610(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/087111(WO,A1)
【文献】 特開2006−051979(JP,A)
【文献】 特開2005−088442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−42
B29C 67/20−24
B29C 44/00−60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる通い箱であって、
該通い箱発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が7.5重量%以下であり、
通い箱が、食品用通い箱、電気製品用通い箱、ガラス基盤用通い箱、薬品用通い箱、又は化粧品用通い箱であることを特徴とする、通い箱。
【請求項2】
通い箱発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が6.5重量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の通い箱。
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子が、メタロセン系重合触媒で重合されたポリプロピレン系樹脂からなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の通い箱。
【請求項4】
通い箱の内面の一部あるいは全部の面に、同一あるいは略同一のピッチで複数の凹凸部が設けられており、
該ピッチが0.1mm以上5mm以下であり、凹み深さが0.1mm以上2mm以下である(但し、縦方向ピッチと横方向ピッチは同一であっても良く、異なっていても良い。)
ことを特徴とする、請求項1〜3いずれか一項に記載の通い箱。
【請求項5】
通い箱がナチュラル色、あるいは黒色着色剤を除く着色剤で着色されていることを特徴とする、請求項1〜4いずれか一項記載の通い箱。
【請求項6】
通い箱が、食品を輸送するために使用される食品用通い箱であることを特徴とする、請求項1〜5いずれか一項記載の通い箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる通い箱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂発泡粒子を用いて得られる型内発泡成形体は、型内発泡成形体の長所である形状の任意性、緩衝性、軽量性、断熱性などの特徴を有し、箱、緩衝包材、断熱材、自動車部材など様々な用途に用いられている。
【0003】
箱としては、魚や野菜その他の食品を輸送する為の食品用の箱、工具などを輸送する為のツールボックス、自動車に搭載されるラゲージボックスなどとして用いられている。
【0004】
このような箱には、ワンウェイ輸送(1回の輸送のみ)に用いられる箱の他、何回にもわたって用いられる、いわゆる「通い箱」として用いられる箱がある。通い箱の場合は、複数回用いられることから、汚れやカビなどが付着することが嫌われ、汚れやカビなどが付着してしまった場合は、これを洗浄した後に輸送に用いなければならない場合がある。特に、食品を輸送する食品用輸送箱の場合は、特に汚れやカビなどを嫌い、衛生面での注意が必要となる。
【0005】
ところで、ポリスチレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる魚箱、野菜箱などがよく知られているが、輸送中に落とすと割れやすい、衝突や圧力により凹みやすい、という強度的な問題があることから、長期間に亘って何度も繰り返し輸送利用することは不可能であり、主にワンウェイ用として用いられている。
【0006】
一方、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる箱は、耐衝撃性や耐久性に優れることから、ワンウェイではなく複数回利用される通い箱としても市販されており、例えば、弁当の輸送などの食品用通い箱として用いられている。
【0007】
しかし、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる箱は、箱の表面の凹み(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子同士が完全に融着しきらない場合に発生する凹み・粒間)が目立つ場合、凹みに汚れが付着しやすく、また、一旦汚れが付着すると、汚れが凹みに強くこびりつき、洗浄し難いという問題がある。
特に食品用通い箱においては、輸送する食品の破片やくず、弁当からこぼれた内容物が起因となってカビが発生する場合があり、衛生上の観点から徹底的に洗浄する必要がある。しかし、汚れやカビなどが食品用通い箱の内表面の凹みにこびりつくと、簡単には洗浄できるものではない。
【0008】
このような課題に対し、汚れにくい容器、または、汚れた場合であっても洗浄しやすい発泡体容器として、発泡体容器の表面を皮膜で覆う方法が提案されている(例えば、特許文献1)が、このような皮膜を設けることは製造上面倒であり、コストアップにも繋がるという問題点がある。
【0009】
表面性が良く、圧縮応力に優れる、あるいは低温成形可能なポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体として、クロス分別クロマトグラフ法における溶出成分量が特定の値を示すポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が知られている(例えば、特許文献2および3)。
しかし、このようなポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を通い箱に適用した場合の衛生上の観点については、何ら明らかにされているものではない。
【0010】
また、成形体表面の亀甲模様がなく、成形体表面の発泡粒子間に発生する凹み(粒間)の少ないポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体として、成形体表面に凹凸を設ける方法が知られている(例えば、特許文献4および5)。
しかし、このようなポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を通い箱に適用した場合の衛生上の観点についても、何ら明らかにされているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−355379号公報
【特許文献2】特開2011−84610号公報
【特許文献3】国際公開2010/087111号公報
【特許文献4】特開2006−51979号公報
【特許文献5】特開2005−88442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる、付着した汚れやカビの洗浄容易な通い箱、特に食品用通い箱を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、通い箱発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が特定の値である場合に、付着した汚れやカビの洗浄容易な通い箱となることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、次の要件からなる。
〔1〕 ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる通い箱であって、
通い箱発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が7.5重量%以下であることを特徴とする、通い箱。
〔2〕 通い箱発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が6.5重量%以下であることを特徴とする、〔1〕に記載の通い箱。
〔3〕 ポリプロピレン系樹脂発泡粒子が、メタロセン系重合触媒で重合されたポリプロピレン系樹脂からなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の通い箱。
〔4〕 通い箱の内面の一部あるいは全部の面に、同一あるいは略同一のピッチで複数の凹凸部が設けられており、
該ピッチが0.1mm以上5mm以下であり、凹み深さが0.1mm以上2mm以下である(但し、縦方向ピッチと横方向ピッチは同一であっても良く、異なっていても良い。)ことを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の通い箱。
〔5〕 通い箱がナチュラル色、あるいは、黒色着色剤を除く着色剤で着色されていることを特徴とする、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項記載の通い箱。
〔6〕 通い箱が、食品を輸送する為に使用される食品用通い箱であることを特徴とする、〔1〕〜〔5〕いずれか一項記載の通い箱。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる通い箱は、従来の通い箱の特徴である耐衝撃性や耐久性に加え、付着した汚れやカビの洗浄が容易であるという衛生面でも優れた通い箱となる。本発明の通い箱は、特に食品用通い箱に適する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の通い箱の本体を示す一例である(蓋体は示さず)。
図2図2は、示差走査熱量計を用い、本発明記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を測定した際に得られるDSC曲線の一例である。横軸は温度、縦軸は吸熱量である。DSC曲線には、2つの融解ピークが存在し、低温側ピークと破線で囲まれる部分がQl、高温側ピークと破線で囲まれる部分がQhである。
図3図3は、本発明の通い箱の内面に、同一あるいは略同一のピッチで複数の凹凸部を設けた場合の凹凸模様形成部断面の一実施例を示す詳細拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の通い箱は、種々の品物を輸送するために用いられる通い箱であって、輸送する品物について具体的には、食品、工具、電気製品、ガラス基盤、薬品、化粧品、各種部品などが挙げられるがこれらに制限されるものではない。
ただし、後述するとおり、本発明の通い箱は、汚れやカビが付着しにくく洗浄容易という衛生面において特に優れた通い箱となることから、食品用通い箱、電気製品用通い箱、ガラス基盤用通い箱、薬品用通い箱、化粧品用通い箱であることが好ましく、食品用通い箱であることが最も好ましい。
【0018】
通い箱の形状としては、箱型形状であれば、特に制限はなく、一例を図1に示す。
図1には、上方から見た開口部形状として長方形の形状の例を示しているが、これに制限されるものではなく、三角形 長方形以外の四角形、円形、楕円形、多角形等いかなる開口部形状であっても良く、開口部より底に向かって形状が変化するものであっても構わない。
また、上方から見た外形形状としては、図1では長方形の形状の例を示しているが、これに制限されるものではなく、三角形 長方形以外の四角形、円形、楕円形、多角形などいかなる外形形状であっても良い。
【0019】
さらに、図1には示していないが、輸送する品物を仕切る為の仕切り部材を通い箱内部に設ける、該仕切り部材を固定する為に通い箱立ち壁部や底に溝や山を設ける、等の加工が施されていても構わない。
【0020】
なお、本発明の通い箱には、箱本体に対応する蓋体を設けても良い。箱本体と蓋体との合わせ方に制限はなく、箱本体と蓋体とを嵌合させる方法、蓋体を箱本体に落とし込む方法など、どのような手段でも構わない。
【0021】
本発明の通い箱は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなり、通い箱発泡成形体(以降、「ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体」と称する場合がある。)のクロス分別クロマトグラフ法(以降、「CFC法」と称する場合がある。)における40℃以下の溶出成分量が、7.5重量%以下であることが好ましく、6.5重量%以下であることがより好ましく、4.0重量%以下であることがさらに好ましい。
ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が7.5重量%を超えると、通い箱に付着した汚れやカビを容易に洗浄することが困難となる傾向にある。
【0022】
ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が増加すると、通い箱表面にブリードしやすい低結晶性成分や低分子量成分の割合が増加し、これらが接着剤的役割を果たすことから汚れやカビの洗浄が困難となると推定している。
【0023】
本発明のように、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が7.5重量%以下の場合、付着した汚れやカビの洗浄が容易という衛生面でも優れた通い箱となる。
【0024】
なお、本発明においては、付着した汚れやカビの洗浄しやすさを「衛生性」という語句で表現し、付着した汚れやカビが洗浄しやすくなることを「衛生性が向上する、または、良化する」などと表現する場合がある。一方、付着した汚れやカビが洗浄しにくくなることを「衛生性が低下する、または、悪化する」などと表現する場合がある。
【0025】
また、クロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が、7.5重量%を超えると、通い箱の表面において、しわ、ヒケ、あるいは発泡粒子間に発生する凹みや粒間(以降、単に「ボイド」と称する。)が目立つ場合、特にボイドが多く発生すると、ボイドに入り込んで付着する汚れやカビの洗浄がより困難となる傾向がある。
【0026】
本発明の通い箱発泡成形体のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量を7.5重量%以下とするためには、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂のクロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が概ね7.5重量%以下のものを選択すれば良い。
【0027】
なお、クロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が7.5重量%以下であるポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂を重合する際の重合触媒選択や重合条件を適宜調整することで得られる。
【0028】
ここで、本発明の通い箱発泡成形体、または、基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂のクロス分別クロマトグラフ法は、次に記載する条件で測定したものである。
装置 :三菱油化(株)製、クロス分別クロマトグラフ CFC T−150A型検出器 :Miran社製、赤外分光光度計1ACVF型
検出波長 :3.42μm
GPCカラム:昭和電工(株)製、Shodex AT−806MS 3本
カラム温度 :135℃
カラム較正 :東ソー社製単分散ポリスチレン
分子量較正法:汎用較正法/ポリエチレン換算
溶離液 :o−ジクロロベンゼン(ODCB)
流速 :1.0mL/min.
試料濃度 :30mg/10mL
注入量 :500μL
降温時間 :135分(135から0℃)、その後60分間保持
溶出区分 :0、20、40、50、60、70、75、80、83、86、89、92、95、98、101、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、126、130、135℃(29分画)
そして、「クロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量」とは、全溶出量に対する40℃以下の溶出量の積分値の割合(%)をいう。
【0029】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂に特に制限はなく、プロピレン単独重合体、プロピレンおよび炭素数が2あるいは4以上のオレフィンからなる共重合体などが挙げられる。
【0030】
ここで、炭素数が2あるいは4以上のオレフィンに特に制限は無く、具体的には、エチレンや、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどのα−オレフィンが挙げられる。更にはシクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエンなどが挙げられる。
これらの炭素数が2あるいは4以上のオレフィンは、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0031】
これら炭素数が2あるいは4以上のオレフィンの中でも、良好な発泡性の観点から、エチレンまたはα−オレフィンがより好ましく、最も好ましくはエチレン、1−ブテンである。
【0032】
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂の中でも、良好な発泡性の観点から、プロピレン単独重合体、プロピレン/エチレンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/1−ブテンランダム共重合体が好ましい。
【0033】
さらに、これらプロピレン/エチレンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/1−ブテンランダム共重合体においては、ポリプロピレン系樹脂100重量%中、プロピレンからなる構造単位が90重量%以上100重量%以下、エチレンおよび/または1−ブテンからなる構造単位が0重量%以上10重量%以下であるものが好ましく、プロピレンからなる構造単位が92重量%以上99重量%以下、エチレンおよび/または1−ブテンからなる構造単位が1重量%以上8重量%以下であるものがより好ましい。
プロピレン/エチレンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/1−ブテンランダム共重合体において、エチレンおよび/または1−ブテンからなる構造単位が10重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(通い箱)としたときの寸法安定性が低下する傾向がある。
【0034】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂を重合する際の触媒に特に制限は無く、チーグラーナッタ系重合触媒、メタロセン系重合触媒などを用いることができる。
【0035】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂を重合する際の重合触媒としては、クロス分別クロマトグラフ法における40℃以下の溶出成分量が特に小さい2.0重量%以下のポリプロピレン系樹脂を得やすい点からは、メタロセン系重合触媒を選択することが好ましい。
【0036】
好ましいメタロセン系重合触媒としては、具体的には、例えば、特開平10−226712号公報記載の遷移金属化合物を含むメタロセン系重合触媒などを挙げることができる。
さらには、下記一般式[I]で表されるメタロセン化合物を必須成分として含むメタロセン系重合触媒を用いて重合することが好ましい。
【0037】
【化1】
(上記一般式[I]において、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14は水素、炭化水素基、ケイ素含有基から選ばれ、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Mは第4族遷移金属であり、Yは炭素原子またはケイ素原子であり、Qはハロゲン、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一または異なる組合せで選んでもよく、jは1〜4の整数である。)
【0038】
一般式[I]で表されるメタロセン化合物としては、具体的には、イソプロピリデン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(3,6−ジtert−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(2,7−ジtert−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(3,6−ジtert−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0039】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(以降、「MFR」と称する場合がある)としては、特に制限は無いが、0.5g/10min以上100g/10min以下が好ましく、2g/10min以上50g/10min以下がより好ましく、3g/10min以上20g/10min以下がさらに好ましい。
ポリプロピレン系樹脂のMFRが上記範囲にあると、比較的大きな発泡倍率のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が得られやすく、それを型内発泡成形して得られたポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の表面美麗性が優れ、寸法収縮率が小さいものが得ることができる。
【0040】
ここで、ポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS−K7210記載のMFR測定器を用い、オリフィス2.0959±0.005mmφ、オリフィス長さ8.000±0.025mm、荷重2160g、230±0.2℃の条件下で測定した際の値である。
【0041】
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂としては、13C−NMRで測定した、全ポリピレン挿入中のプロピレンモノマー単位の2,1−挿入及び1,3−挿入に基づく位置不規則単位の合計量が0.5モル%未満であることが好ましい。
このようなポリプロピレン系樹脂は、樹脂中の低結晶成分が少なくなる傾向にあることから、該ポリプロピレン系樹脂を用いて得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形して得られる通い箱の衛生性を更に向上させることができる。
【0042】
ここで、ポリプロピレン系樹脂の全ポリピレン挿入中のプロピレンモノマー単位の2,1−挿入及び1,3−挿入に基づく位置不規則単位量は、Polymer, 30, 1350(1989)や特開平7−145212号公報に開示された情報を参考に算出することができる。
【0043】
本発明の通い箱発泡成形体の融点としては、特に制限はないが、125℃以上150℃以下であることが好ましい。
ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(通い箱発泡成形体)の融点が125℃未満では、耐熱性が低下する傾向にあり、150℃を超えると、通い箱を成形する際の成形加熱蒸気圧が高くなる傾向にある。
【0044】
ここで、通い箱発泡成形体(ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体)の融点は、示差走査熱量計法(DSC法)により、以下の条件にて測定される値である。
すなわち、通い箱発泡成形体から小片5〜6mgを切り出し、これを10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温することにより融解し、その後、10℃/分の降温速度で220℃から40℃まで降温することにより結晶化させた後に、さらに10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温した際に得られるDSC曲線において、2回目の昇温時の融解ピーク温度を融点とする。
【0045】
本発明において、通い箱発泡成形(ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体)の融点を125℃以上150℃以下とするためには、基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂の融点が概ね125℃以上150℃以下であるものを選択すればよい。
【0046】
ここで、ポリプロピレン系樹脂の融点も、DSC法により測定した値であり、該基材樹脂5〜6mgを10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温する事により融解し、その後10℃/分の降温速度で220℃から40℃まで降温することにより結晶化させた後に、さらに10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線において、2回目の昇温時の融解ピーク温度を融点として求めることができる。
【0047】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂は、通常、発泡粒子にしやすいように、予め押出機、ニーダー、バンバリミキサー、ロール等を用いて溶融し、円柱状、楕円状、球状、立方体状、直方体状等のような所望の粒子形状に成形加工され、ポリプロピレン系樹脂粒子となる。
【0048】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂の他に、酸化防止剤、耐光性改良剤、帯電防止剤、着色剤、難燃性改良剤、導電性改良剤等の添加剤を必要により加えて、ポリプロピレン系樹脂粒子としても良い。特に、後述する発泡剤として炭酸ガス、空気や水を用いる場合には、発泡性を向上させることのできる無機造核剤および/または吸水物質を添加することが好ましい。
その場合は、これらの添加剤は、通常、ポリプロピレン系樹脂粒子の製造過程において溶融した樹脂中に添加することが好ましい。
【0049】
本発明において用いられる無機造核剤は、発泡の起点となる気泡核の形成を促し、発泡倍率の向上に寄与すると共に、均一な気泡形成にも寄与する。無機造核剤としては、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0050】
本発明における無機造核剤の添加量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.005重量部以上0.5重量部以下であることが好ましい。
【0051】
本発明において用いられる吸水物質とは、当該物質をポリプロピレン系樹脂粒子中に添加し、該ポリプロピレン系樹脂粒子を水と接触させる或いは水分散系で発泡剤含浸をする際に、ポリプロピレン系樹脂粒子内に水を含有させうる物質をいう。
【0052】
吸水物質としては、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硼砂、硼酸亜鉛等の水溶性無機物、ポリエチレングリコール、ポリエーテルを親水性セグメントとした特殊ブロック型ポリマー(商品名:ペレスタット;三洋化成(株)製)、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、ブタジエン(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、カルボキシル化ニトリルゴムのアルカリ金属塩、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩及びポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等の親水性ポリマー、エチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、イソシアヌル酸等の多価アルコール類、メラミン等が挙げられる。
【0053】
本発明における吸水物質の添加量は、目的とする発泡倍率、使用する発泡剤、使用する吸水物質の種類によって異なり、一概に記載することはできないが、水溶性無機物、多価アルコール類を使用する場合、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上2重量部以下であることが好ましく、親水性ポリマーを使用する場合、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上5重量部以下であることが好ましい。
【0054】
本発明において、着色剤の添加に制限はなく、着色剤を添加せずにナチュラル色とすることもできるし、青、赤、黒など着色剤を添加して所望の色とすることもできる。
このような着色剤としては、ペリレン系有機顔料、アゾ系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料、スレン系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0055】
従来の通い箱において着色剤を用いない場合、あるいは、黒色以外の着色剤を用いる場合、目視にて付着した汚れやカビなどが目立ちやすい。これに対して、本発明の通い箱の場合、汚れやカビが付着したとしても洗浄しやすいことから、着色剤を用いない場合、あるいは、黒色以外の着色剤を用いる場合であっても、目視にて汚れやカビなどが目立ちにくく、好ましい態様である。
【0056】
本発明の通い箱は、前述のポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させて得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形して得ることができる。
【0057】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、例えば、ポリプロピレン系樹脂粒子と、水、無機分散剤を含んでなる分散液を耐圧容器中に収容した後、攪拌条件下に分散させると共に、発泡剤の存在下、前記ポリプロピレン系樹脂粒子の軟化点温度以上に昇温し、次いで耐圧容器の内圧よりも低い圧力域に耐圧容器中の分散液を放出して、ポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させ製造することができる。
【0058】
ここで、軟化点温度以上に昇温する際、ポリプロピレン系樹脂粒子の融点−20℃以上、ポリプロピレン系樹脂粒子の融点+10℃以下の範囲の温度に昇温することが、発泡性を確保する上で好ましい。
【0059】
本発明において用いられる発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロブタン等の脂環式炭化水素類;空気、窒素、炭酸ガス、水等の無機発泡剤;等が挙げられる。これらの発泡剤は単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
これらの中でも、炭酸ガス、空気、水を用いることが好ましい。
【0060】
本発明における発泡剤の使用量に限定はなく、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の所望の発泡倍率に応じて適宣使用すれば良く、その使用量は、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して3重量部以上60重量部以下であることが好ましい。
【0061】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子製造時に使用する耐圧容器には特に制限はなく、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子製造時における容器内圧力、容器内温度に耐えられるものであればよく、例えばオートクレーブ型の耐圧容器があげられる。
【0062】
本発明において用いられる無機分散剤としては、例えば、第三リン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、アルミノ珪酸塩、カオリン、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0063】
本発明においては、分散性を高めるために、分散助剤を併用することが好ましい。
本発明における分散助剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
これらの中でも、無機分散剤と分散助剤の組み合わせとしては、第三リン酸カルシウムとアルキルスルホン酸ナトリウムの組み合わせが好ましい。
【0064】
本発明における無機分散剤や分散助剤の使用量は、その種類や、用いるポリプロピレン系樹脂の種類と使用量によって異なるが、通常、水100重量部に対して無機分散剤0.2重量部以上3重量部以下であることが好ましく、分散助剤0.001重量部以上0.1重量部以下であることが好ましい。
また、ポリプロピレン系樹脂粒子は、水中での分散性を良好なものにするために、通常、水100重量部に対して20重量部以上100重量部以下で使用するのが好ましい。
【0065】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂発泡粒子の表面に付着した無機分散剤量は、2000ppm以下が好ましく、1300ppm以下がより好ましく、800ppm以下がさらに好ましい。表面に付着した無機分散剤量が2000ppmを超えると型内発泡成形する際の融着性が低下する傾向にある。
【0066】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の発泡倍率に特に制限は無いが、3倍以上50倍以下が好ましく、7倍以上45倍以下がより好ましい。
ここで、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の発泡倍率は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の重量w(g)およびエタノール水没体積v(cm)を求め、発泡前のポリプロピレン系樹脂の密度d(=0.9g/cm)から、次式により算出した値である。
発泡倍率=d×v/w
【0067】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩密度に特に制限は無いが、10g/L以上180g/L以下が好ましく、12g/L以上78g/L以下がより好ましい。
ここで、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩密度は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を容器に静かに投入して満たした後、容器中のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の重量を測定し、これを容器の容量で除し、g/L単位で表した値である。
【0068】
前記のようにして得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形に供し、通い箱としてもよい。
また、得られたポリプロピレン系樹脂粒子、発泡剤、水、無機分散剤を含んでなる分散液を耐圧容器に収容した後、攪拌条件下に分散させると共に、発泡剤の存在下、容器内混合物を、前記ポリプロピレン系樹脂粒子の軟化点温度以上、好ましくはポリプロピレン系樹脂の融点−20℃以上、ポリプロピレン系樹脂+10℃以下の範囲の温度に昇温し、次いで、耐圧容器の内圧よりも低い圧力域に耐圧容器中の分散液を放出して、ポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させる(この工程を「一段発泡」と称する場合がある。)時に、好ましくは発泡倍率3倍以上35倍以下の発泡粒子(以降、「一段発泡粒子」と称する場合がある。)を製造し、
該一段発泡粒子を耐圧密閉容器内に入れて窒素、空気などを0.1MPa以上0.6MPa以下(ゲージ圧)で加圧含浸させる加圧処理により一段発泡粒子内の圧力を常圧よりも高くした後、該一段発泡粒子をスチーム等で加熱して更に発泡させる(この工程を「二段発泡」と称する場合がある。)ことにより、一段発泡粒子の発泡倍率よりも発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂発泡粒子(以降、「二段発泡粒子」を称する場合がある。)を得て、これを型内発泡成形に供し、通い箱としても良い。
【0069】
このような二段発泡粒子の嵩密度としては、10g/L以上40g/L以下のものを用いることが好ましい。
【0070】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、示差走査熱量計法による熱量測定を行った際に得られるDSC曲線において、高温側の融解ピークの比率Qh/(Ql+Qh)×100(%)(以降、「DSC比」と称する場合がある。)が10%以上50%以下であることが好ましく、15%以上40%以下であることがより好ましい。
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC比が当該範囲であると、表面美麗性の高いポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が得られやすい。
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC比が10%未満ではポリプロピレン系樹脂発泡粒子が連泡化しやすくなる傾向があり、50%を超えると型内発泡成形体を得る際の融着性が低下する傾向にある。
【0071】
ここで、QlおよびQhは、以下のように定義されるものである。図2に示すように、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を10℃/分の昇温速度で40℃から200℃まで昇温した際に得られるDSC曲線において、2つの融解ピークが存在し、
DSC曲線の低温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解開始ベースラインへの接線で囲まれる熱量が、低温側の融解ピーク熱量Qlと、
DSC曲線の高温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解終了ベースラインへの接線で囲まれる熱量が、高温側融解ピーク熱量Qhと示される。
【0072】
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂発泡粒子の高温側融解ピーク熱量Qhとしては、特に制限は無いが、4J/g以上28J/g以下が好ましく、7J/g以上25J/g以下がより好ましく、10J/g以上22J/g以下がさらに好ましい。
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の高温側融解ピーク熱量Qhが4J/g未満では、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子が連泡化しやすくなる傾向があり、28J/gを超えると、発泡倍率が大きくなり難い傾向となる。
【0073】
なお、本発明においては、DSC比や高温側融解ピーク熱量は、例えば、一段発泡工程における昇温後から発泡までの保持時間(概ね発泡温度に達した後から発泡する迄の保持時間)、発泡温度(発泡時の温度)、発泡圧力(発泡時の圧力)等により適宜調整することができる。一般的には、保持時間を長くする、発泡温度を低くする、発泡圧力を低くすることにより、DSC比あるいは高温側融解ピーク熱量が大きくなる傾向がある。
以上のことから、保持時間、発泡温度、発泡圧力を系統的に適宜変化させた実験を何回か試行することにより、所望のDSC比や高温側融解ピーク熱量となる条件を容易に見出すことができる。なお、発泡圧力の調節は、発泡剤の量により調節することできる。
【0074】
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形して通い箱とするが、型内発泡成形方法としては、例えば、
イ)ポリプロピレン系樹脂発泡粒子をそのまま型内発泡成形を行う方法、
ロ)予めポリプロピレン系樹脂発泡粒子中に空気等の無機ガスを圧入し、内圧(発泡能)を付与した後、型内発泡成形を行う方法、
ハ)ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を圧縮状態で金型内に充填し、型内発泡成形を行う方法、など従来既知の方法が使用しうる。
【0075】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて通い箱(ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体)を得る方法の具体例としては、例えば、
予めポリプロピレン系樹脂発泡粒子を耐圧容器内で空気加圧し、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子中に空気を圧入することにより内圧(発泡能)を付与し、これを2つの金型からなる閉鎖しうるが密閉し得ない成形空間内に充填し、水蒸気などを加熱媒体として0.1MPa以上0.4MPa以下(ゲージ圧)程度の加熱水蒸気圧で3秒以上60秒以下程度の加熱時間で成形し、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子同士を融着させた後、金型を水冷することによって、金型から取り出し後のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の変形が抑制される程度まで冷却した後、金型を開き、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得る方法などが挙げられる。
【0076】
ところで、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の内圧は、例えば、耐圧容器内で、1時間以上48時間以下、室温以上80℃以下の温度条件下、空気、窒素等の無機ガスによって0.1MPa以上1.0MPa(ゲージ圧)以下に加圧することによって調整できる。
【0077】
本発明の通い箱発泡成形体の密度としては、特に制限はないが、10g/L以上180g/L以下が好ましく、12g/L以上78g/L以下がより好ましい。
ここで、通い箱発泡成形体の密度は、通い箱の底部および4つの立ち壁部のそれぞれ中央付近から直方体にサンプルを切り出し、各サンプルに対して縦、横、厚みの寸法の積からサンプル体積を算出し、サンプル重量をサンプル体積で除し、各サンプルの密度を算出した後、5個のサンプルの密度を平均し、g/L単位で表した値である。
【0078】
本発明の通い箱においては、通い箱の内面の一部の面あるいは全部の面に、同一あるいは略同一のピッチで複数の凹凸部を設けることが、通い箱内面におけるボイドが減少し、付着した汚れやカビなどの洗浄が容易となることから、好ましい。
【0079】
本発明の通い箱の内面に、同一あるいは略同一のピッチで複数の凹凸部を設けた場合の凹凸模様形成部断面の詳細拡大図を、図3に示す。ここで、aは凹部の幅、bは凸部の幅、cは凹み深さであり、a+bが凹凸のピッチである。
【0080】
本発明の通い箱における該凹凸のピッチは、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.5mm以上3mmであることがより好ましい(但し、縦方向ピッチと横方向ピッチは同一であっても良く、異なっていても良い。)。
凹凸のピッチが0.1mm未満、あるいは5mmを超えると、ボイド減少効果が小さくなる傾向がある。
【0081】
本発明の通い箱における凹み深さとしては、0.1mm以上2mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。
凹み深さが0.1mm未満でもボイド減少効果が小さくなる傾向があり、凹み深さが2mmを超えると、汚れやカビが凹みに発生した場合の洗浄が難しくなる傾向がある。
【0082】
本発明の通い箱における凸部の幅や凹部の幅については、制限はないが、前記ピッチとなるよう幅を設定することが好ましい。
【0083】
本発明の通い箱における凸部の形状に制限はなく、円柱状、円錐状、直方体状、多角柱状など種々の形状を使用できる。
【0084】
本発明において、通い箱の内面に凹凸部を設ける方法としては特に制限はなく、型内発泡成形する際に、凹凸部を設けようとする部分に対応する金型部分に、金属メッシュやパンチングメタルなどの多孔質材料を貼り付ける方法、金型自身に凹凸模様を付与する方法など、公知の方法により通い箱内面の表面に凹凸部を転写することができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0085】
以上のように、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形してなる通い箱は、付着した汚れやカビの洗浄が容易な通い箱であり、特に食品用通い箱を提供することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
実施例および比較例における評価は、以下のように行った。
【0088】
<ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の発泡倍率>
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の重量w(g)を測定した後、該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子をエタノールに浸漬した際の増加体積(水没体積)v(cm)を求め、発泡前のポリプロピレン系樹脂の密度d(=0.9g/cm)から、発泡倍率を次式により算出した。
発泡倍率=d×v/w(倍)
【0089】
<ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩密度>
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を容積約5Lの容器に静かに投入して満たした後、容器中のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の重量を測定し、これを容器の容量で除し、g/L単位で嵩密度を表した。
【0090】
<ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC比測定>
示差走査熱量計[セイコーインスツルメンツ(株)製、DSC6200型]を用いて、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子5〜6mgを、10℃/分の昇温速度で40℃から200℃まで昇温して得られたDSC曲線における、2つの融解ピークについて、
図2に示すように、
DSC曲線の低温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解開始ベースラインへの接線で囲まれる熱量である低温側の融解ピーク熱量Qlと、
DSC曲線の高温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークの間の極大点からの融解終了ベースラインへの接線で囲まれる熱量である高温側融解ピーク熱量Qhとし、
高温側の融解ピークの比率(DSC比)=(Qh/(Ql+Qh)×100)(%)を算出した。
【0091】
<融点の測定>
示差走査熱量計[セイコーインスツルメンツ(株)製、DSC6200型]を用いて、基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂(基材樹脂の融点測定の場合)、または、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体から切り出した小片(通い箱発泡成形体の融点測定の場合)の5〜6mgを、10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温することにより融解させ、その後10℃/分の降温速度で220℃から40℃まで降温することにより結晶化させた後に、さらに10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温した際に得られるDSC曲線から、2回目昇温時の融解ピーク温度を融点とした。
【0092】
<クロス分別クロマトグラフ測定(CFC溶出量測定)>
クロス分別クロマトグラフ[三菱油化社製、CFC T−150A型]を使用し、以下の条件で基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂、または、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(通い箱発泡成形体)の40℃以下の溶出成分量を測定した。
検出器 :Miran社製赤外分光光度計1ACVF型
検出波長 :3.42μm
GPCカラム:昭和電工社製Shodex AT−806MS 3本
カラム温度 :135℃
カラム較正 :東ソー社製単分散ポリスチレン
分子量較正法:汎用較正法/ポリエチレン換算
溶離液 :o−ジクロロベンゼン(ODCB)
流速 :1.0mL/min.
試料濃度 :30mg/10mL
注入量 :500μL
降温時間 :135分(135から0℃)、その後60分間保持
溶出区分 :0、20、40、50、60、70、75、80、83、86、89、92、95、98、101、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、126、130、135℃(29分画)
【0093】
<通い箱発泡成形体の融着率評価>
得られた通い箱発泡成形体の立ち壁部にカッターナイフで厚み方向に約3mmの切り込みを入れた後、手で切り込み部から立ち壁部を破断し、破断面を観察した。破断面を構成するポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子数に対する破壊されたポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子の割合を求め、融着率とした。
【0094】
<通い箱発泡成形体のボイド評価>
得られた通い箱発泡成形体の内部底面を目視観察し、次の基準で評価した。
○:内面にボイドが見られない。
△:内面にボイドが少し見られる。
×:内面にボイドが顕著に見られる。
【0095】
<通い箱発泡成形体の洗浄性評価>
カレー粉[ハウス食品(株)製、カレーパウダー顆粒]0.3gと水道水10gを混ぜて作ったカレー粉懸濁液を攪拌して均一化した後、直ぐに通い箱発泡成形体(内容積8L)の内部底面に向かって流した。通い箱成形体を手で揺さぶり、カレー粉懸濁液を底面に流延した。
通い箱発泡成形体に蓋をすることなく23℃で24時間放置した後、次のように洗浄した。
(1)50℃水道水8Lを通い箱成形体に流し込み、すぐに放出する操作を2回繰り返して洗浄した(以下、「洗浄a」という)。
(2)洗浄aを行った時点で通い箱内部底面を観察し、内部表面にカレー色が残っている場合は、食器洗浄用スポンジで内部表面を10回こすり、次いで、50℃水道水8Lを通い箱成形体に流し込み、すぐに放出して洗浄した(以下、「洗浄b」という)。
以上のような洗浄操作の後、次の基準で評価した。
◎:洗浄a終了後、通い箱内部表面、およびボイド部分にカレー色が確認できない。
○:洗浄a終了後、通い箱内部表面にカレー色は確認できないが、ボイド部分にカレー色が少し残っている。
△:洗浄a終了後、通い箱内部表面にカレー色が残っており、ボイド部分にもカレー色が明らかに残っている。しかし、洗浄bによって、通い箱内部表面のカレー色が無くなる。×:洗浄a終了後、通い箱内部表面にカレー色が残っており、ボイド部分にもカレー色が明らかに残っている。また、洗浄bを行っても、通い箱内部表面のカレー色が無くならない。
【0096】
実施例及び比較例で用いたポリプロピレン系樹脂の特性を、表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
(実施例1)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
ポリプロピレン系樹脂A100重量部に対し、ポリエチレングリコール[ライオン(株)製、PEG#300)]0.5重量部、タルク[林化成製、PKS]0.1重量部をブレンドした後、50mm単軸押出機[大阪精機工作(株)製、20VSE−50−28型]内で溶融混練した。得られた溶融混練樹脂を円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーで切断し、一粒の重量が1.2mg/粒のポリプロピレン系樹脂粒子を得た。
[ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の作製]
得られたポリプロピレン系樹脂粒子100重量部、水200重量部、分散剤として第3リン酸カルシウム1.0重量部、分散助剤としてアルキルスルホン酸ナトリウム0.05重量部を容量10Lの耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤として炭酸ガスを6.5重量部添加した。オートクレーブ内容物を昇温し、145℃の発泡温度まで加熱した後、さらに炭酸ガスを追加してオートクレーブ内圧を3.0MPa(ゲージ圧)とした。その後、30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.0mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して一段発泡粒子を得た。得られた一段発泡粒子の発泡倍率は13倍、DSC比は24%であった。
得られた一段発泡粒子内に空気含浸により内圧を付与した後、蒸気により加熱し、嵩密度26.0g/Lの二段発泡粒子を得た。得られた二段発泡粒子のDSC比は23%であった。
[ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(通い箱成形体)の作製]
次に、ポリオレフィン発泡成形機P150N[東洋機械金属株式会社製]を用い、箱型形状成形体が得られる金型に、予めポリプロピレン系樹脂発泡粒子内部の空気圧力が0.19MPa(絶対圧)になるように調整したポリプロピレン系樹脂二段発泡粒子を充填し、成形加熱蒸気圧0.25MPa(ゲージ圧)とし、厚み方向に10%圧縮して加熱成形させることにより、箱型[内寸法として長辺400×短辺200×高さ100mm、厚み30mm]の白色(ナチュラル色)のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(通い箱発泡成形体=内容積8L)を得た。
得られた通い箱成形体は、23℃で1時間放置した後、75℃の恒温室内で3時間養生乾燥を行い、再び室温に取出してから23℃で1時間放置した後、融着率評価、ボイド評価、洗浄性評価を行った。また、箱型成形体の融点、CFC溶出量を測定した。
評価結果を、表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
(実施例2〜7、比較例1)
樹脂A〜Fを用い、表2記載の作製条件とした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリプロピレン系樹脂の一段発泡粒子および二段発泡粒子を得、更に、通い箱成形体を得て、評価を行った。
但し、実施例2は、二段発泡せずに、一段発泡粒子を型内発泡成形に供した。
なお、型内発泡成形時の成形加熱蒸気圧は、表2に記載の通りであるが、融着率とボイド評価が実施例1と同等になるよう適宜調節した圧力である。
評価結果を、表2に示す。
【0101】
(実施例8)
樹脂A100重量部と銅フタロシアニンブルー[和光純薬工業(株)製、化学用試薬]15重量部を混合した後、45mm二軸押出機[株式会社オーエヌ機械製、TEK45mm押出機]を用いて220℃で溶融混練し、ストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーで切断して、青色マスターバッチ樹脂を得た。
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]において、樹脂A100重量部に対して、さらに青色マスターバッチ樹脂4重量部を添加した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリプロピレン系樹脂の一段発泡粒子および二段発泡粒子を得、青色の通い箱成形体を得た。
評価結果を、表2に示す。
【0102】
(実施例9)
[ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の作製]において、成形体底部の内面に対応する金型部分に、ピッチ1.41mm、深さ0.68mmのステンレス製金網(18メッシュ)を取り付けた上で成形した以外は、実施例1と同様の操作により、通い箱成形体を得た。
得られた通い箱成形体の内部底面には、ピッチ1.41mm、凹み深さ0.68mmの凹凸が設けられていた。
評価結果を、表2に示す。
【符号の説明】
【0103】
a 凹部の幅
b 凸部の幅
c 凹み深さ
図1
図2
図3