(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909393
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】光触媒分散体およびコーティング液
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20160412BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20160412BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20160412BHJP
C09D 139/02 20060101ALI20160412BHJP
C09D 135/00 20060101ALI20160412BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20160412BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
B01J35/02 J
C09D7/12
C09D5/16
C09D139/02
C09D135/00
C09D133/04
C09D5/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-64751(P2012-64751)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-193054(P2013-193054A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−212509(JP,A)
【文献】
特開2003−213564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子、水性媒体および水溶性の両性ポリマーを含有し、光触媒粒子が水性媒体中に分散している、光触媒分散体であって、
両性ポリマーが、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル鎖は1〜18の炭素数を有する)、またはN,N−ジアリルアミン−マレイン酸共重合体もしくはこれに二酸化硫黄がさらに重合している共重合体である、
光触媒分散体。
【請求項2】
pHが酸性である、請求項1に記載の光触媒分散体。
【請求項3】
光触媒粒子が、酸化チタン光触媒粒子である、請求項1または2に記載の光触媒分散体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒分散体を含んでいる、コーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射によって光触媒活性を示す光触媒分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体に紫外線を照射すると強い還元作用を有する電子と強い酸化作用を有する正孔が生成し、半導体に接触した分子種を酸化還元作用により分解する。このような作用を光触媒作用と呼び、この光触媒作用を利用することによって、大気物中の有機化合物およびNOxを分解することができる。このような光触媒作用を奏する半導体は光触媒と呼ばれ、光触媒の特性を利用して、脱臭、ガス処理、水処理、抗菌および防汚を目的として、光触媒を種々の形態で使用することが提案されている。また、光触媒は、光の照射によって、親水化する特性を有し、親水化された光触媒は、例えば、油性の汚れをはじく性質を有する。この性質を利用して、光触媒を含む分散体を、基材または基材の上に形成された塗膜の上に塗布されるコート剤として用い、防滴性、防汚・防曇性、自己洗浄性、および易洗浄性を、基材または塗膜の表面に付与することが行われている。
【0003】
光触媒を含む分散体は、光触媒を微粒子として安定に分散媒中に分散させるための分散剤を一般に含む。光触媒が酸化チタンであり、分散媒が水性媒体(水または水と水溶性有機溶剤とからなる媒体)である場合、分散剤として、硝酸、塩酸、ならびにモノリン酸およびポリリン酸、ならびにこれらの塩等を用いることが知られている(特許文献1、段落0004)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−93630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光触媒が酸化チタンであるときに、分散剤として、硝酸等の無機酸または無機酸の塩を用いると、光触媒を含む分散体をコート剤として用いるときに、コート剤の膜の柔軟性が小さく、施工性が低下するという不都合がある。また、無機酸または無機酸の塩を分散剤は、光触媒作用により分解または劣化されにくい。このことは、分散体が基材または塗膜の表面にコート剤として塗布されたときに、光触媒がコート剤の膜に埋没して、その光触媒作用を十分に発揮できないという不都合を招くことがある。そこで、本発明者らは、そのような不都合を回避するために、ポリマーを分散剤として用いて、光触媒を安定的に分散させることの可能性について検討した。その結果、特定の樹脂を分散剤として用いると、光触媒の分散性が良好であり、かつ前述のような不都合が生じにくい水系分散体が得られることを見出し、本発明を案出するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光触媒粒子、水性媒体および水溶性の両性ポリマーを含有し、光触媒粒子が水性媒体中に分散している、光触媒分散体を提供する。この光触媒分散体においては、両性ポリマーが光触媒粒子の分散剤として機能している。光触媒粒子は好ましくは酸化チタンである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光触媒分散体は、光触媒を水性媒体に分散させた水系分散体であり、分散剤として、両性ポリマーを用いている点に特徴を有する。両性ポリマーは、光触媒が比較的小さい粒子の形態で分散媒に分散することを可能にして光触媒の分散体における分散安定性を高めるとともに、それをコート剤のように塗布して使用するときに、塗膜を柔軟にする。また、両性ポリマーは、光触媒の光触媒作用によって適度に分解されるため、これを分散剤として含む本発明の光触媒分散体は、コート剤等として使用されて膜を形成したときに、使用中に光触媒を露出させて、一定期間にわたって持続的に光触媒作用および親水化作用が発揮されることを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の光触媒分散体は、光触媒粒子、水性媒体および両性ポリマーを含有し、光触媒粒子が水性媒体中に分散しているものである。以下、本発明の光触媒分散体に含まれる成分を説明する。
【0009】
[光触媒粒子]
光触媒としては、紫外線ないし可視光線により光触媒作用を奏する化合物を使用することができる。例えば、光触媒として、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh,Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceのような金属元素の1種又は2種以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが例示される。この中でも、特に、酸化チタンが光触媒として好ましく用いられる。ここでいう酸化チタンには、少量(例えば、Tiに対し、1モル%以下)の金属イオンまたは窒素をドープしたもの、および少量(例えば、Tiに対し、1モル%以下)の他の金属酸化物を担持するものが含まれる。
【0010】
本発明の光触媒分散体において、光触媒は粒子の形態で存在する。分散体中に存在する光触媒粒子は、動的光散乱法で測定される、粒子径(メジアン径)が10nm以上500nm以下となるような寸法を有することが好ましい。粒子径が10nm未満である微粒子を分散体中に分散させることは難しく、粒子径が500nmを超えると、粒子が沈澱しやすくなり、分散体の経時安定性が低下する。このような平均粒子径を得るために、光触媒分散体は、一次粒子径(分散体を調製する前の粒径)が5nm以上500nm以下の範囲内にある粉体の光触媒を用いて調製することが好ましい。そのような光触媒は、例えば、石原産業株式会社から、商品名ST−01、ST−21、ST−31、ST−41、MPT−623で販売されており、堺化学工業株式会社から、商品名SSP−25、SSP−20、SSP−M、STA−100A、STR−100N、STR−100A、STR−100Wで販売されており、テイカ株式会社から、商品名AMT−100、AMT−600、TKP−101、TKP−102で販売されており、住友化学株式会社から、商品名PC−101、TP−S201で販売されている(いずれも酸化チタン)。
【0011】
光触媒粒子は、分散体全部の重量を100重量%としたときに、1〜60重量%の量で含まれることが好ましい。光触媒粒子の割合が少ないと、光触媒作用が得られにくく、光触媒粒子の割合が多いと、分散体の粘度が高くなって、取扱いが難しくなり、また、経時安定性が低下し、光触媒粒子が凝集しやすくなる。
【0012】
[水性媒体]
水性媒体は、水、又は水を主成分として含み、水溶性有機溶媒を含む溶媒である。水として、一般に、イオン交換水が用いられる。水溶性有機溶媒として、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルソロセルブ、エチルソロセルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、および2−ブタノンが挙げられる。水性媒体が、水溶性有機溶媒を有する場合、水溶性有機溶媒は、水100重量部に対して、0〜100重量部の割合で使用することが好ましい。
【0013】
水性媒体は、分散体全部の重量を100重量%としたときに、50〜99重量%の量で含まれることが好ましい。水性媒体の割合が少ないと、分散体の粘度が高くなって、取扱いが難しくなることがあり、水性媒体の割合が多いと、光触媒粒子濃度が低くなるため、光触媒作用が得られにくい。
【0014】
[水溶性の両性ポリマー]
両性ポリマーとは、カチオン基及びアニオン基の双方を有するポリマーを指す。両性ポリマーは、場合により非イオン性基を有する単位を含んでよい。両性イオンポリマーは、例えば、カチオン基としてアミノ基(環式アミノ基を含む)を有するモノマーと、アニオン基としてカルボン酸基またはスルホン酸基を有するモノマーとが重合されてなるポリマーである。両性イオンポリマーは、カチオン基を有するモノマーとアニオン基を有するモノマーに加えて、ノニオン性モノマーが重合されてなるものであってよい。
【0015】
カチオン基を有するモノマーは、例えば、モノアリルアミン、N−メチルアリルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、N−シクロヘキシルアリルアミン、N,N−(メチル)シクロヘキシルアリルアミン、N,N−ジシクロヘキシルアリルアミン、ジアリルアミン、N−メチルジアリルアミン、N−ベンジルジアリルアミン、塩化ジアリルジメチルアンモニウム、臭化ジアリルジメチルアンモニウム、ヨウ化ジアリルジメチルアンモニウム、メチル硫酸ジアリルジメチルアンモニウム、塩化ジアリルメチルベンジルアンモニウム、臭化ジアリルメチルベンジルアンモニウム、ヨウ化ジアリルメチルベンジルアンモニウム、メチル硫酸ジアリルメチルベンジルアンモニウム、塩化ジアリルジベンジルアンモニウム、臭化ジアリルジベンジルアンモニウム、ヨウ化ジアリルジベンジルアンモニウム、メチル硫酸ジアリルジベンジルアンモニウム等である。これらのカチオン基を有するモノマーは、一部又は全部が付加塩を形成してもよく、例えば、塩酸塩、硫酸塩、アミド硫酸塩等の形態で使用することができる。アニオン基を有するモノマーは、例えば、マレイン酸、シトラコン酸若しくはイタコン酸又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩若しくはアンモニウム塩等である。両性ポリマーに含まれるノニオン性モノマーとして、二酸化硫黄が挙げられる。
【0016】
あるいは、両性ポリマーは、一分子中に、カチオン基とアニオン基とを有するモノマーと、ノニオン性のモノマーとが重合されてなるものであってよい。一分子中にカチオン基とアニオン基とを有するモノマーは、例えば、カルボキシベタインであり、これと重合するノニオン性のモノマーは、例えば、メタクリル酸アルキルである。
【0017】
両性ポリマーは、水に溶解したときに、酸性水溶液を与えるものであることが好ましい。酸性水溶液は、光触媒粒子を安定して分散させることによる。両性ポリマーが酸性水溶液を与えない場合には、pH調整剤を用いて、分散体を酸性、具体的にはpH1〜5にすることが好ましい。
【0018】
両性ポリマーとして、具体的には、スチレン−アクリル酸−アクリル酸ジアルキルアミノエステル重合体、アリルアミン−マレイン酸共重合体、N,N−ジアリルアミン−マレイン酸共重合体、ビニルピリジン−アクリル酸共重合体、アミノエチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、2−ビニルピリジン−マレイン酸共重合体、4−ビニルピリジン−マレイン酸共重合体、2−ビニルピリジン−イタコン酸共重合体、n−メチルアミノエチルメタクリレート−アクリル酸共重合体、4−ビニルピリジン−イタコン酸共重合体、n−メチルアリルアミン−イタコン酸共重合体及び4−ビニルピリジン−フマール酸共重合体、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル鎖がC
1-18)、およびメタクリロイルオキシエチルジメチルベタイン・塩化メタクリロイルエチルトリメチルアンモニウムベタイン・メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル共重合体などが挙げられる。特に、アリルアミン−マレイン酸共重合体およびN,N−ジアリルアミン−マレイン酸共重合体、ならびにN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル鎖がC
1-18)が好ましく用いられる。本発明においては、また、N,N−ジアリルアミン−マレイン酸共重合体に、ノニオン性モノマーとして二硫化硫黄を導入したものも好ましく用いられる。
【0019】
本発明において好適に用いられる両性ポリマーは、例えば、日東紡績株式会社(日東紡)から、商品名PAS410C(ジアリルアミン酸塩−マレイン酸共重合体)およびPA−84(マレイン酸−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド−二酸化硫黄共重合体)で販売され、また、三菱化学株式会社から、商品名ユカフォーマー(例えば、ユカフォーマー510、ユカフォーマー204WL)で販売されている
【0020】
両性ポリマーを分散剤として用いるときに、光触媒粒子の良好な分散性が得られる理由は定かではない。本発明者らは、その理由として、例えば、光触媒が表面処理されていない酸化チタンであって、両性ポリマー水溶液のpHが光触媒の等電点以下である場合、酸化チタンは水溶液中で正電荷を帯電しており、両性ポリマーのアニオン基がこの正電荷に吸着して、酸化チタンに吸着するとともに、カチオン基が酸性水溶液中でイオン解離することにより、水中への溶解性を確保していることが挙げられるのではないかと考えている。また、酸化チタンの等電点は一般に5〜6であるため、両性ポリマーの水溶液が酸性水溶液を与えるときに、このようなメカニズムにより、酸化チタンの溶解性が良好に確保されると考えられる。尤も、この理由は、推測される理由にすぎず、本発明を制限するものではない。
【0021】
両性ポリマーは、分散体全部の重量を100重量%としたときに、1〜40重量%の量で含まれることが好ましい。両性ポリマーの量が少なすぎると、光触媒粒子を十分に分散させることができず、光触媒粒子の分散性が低下することがある。両性ポリマーの量が多すぎると、分散体の粘度が高くなって、取扱い性が悪くなり、また、コストが高くなる。
【0022】
[他の成分]
本発明の光触媒分散体は、必要に応じて、上記以外の他の成分をさらに含んでよい。他の成分は、例えば、pH調整剤、防腐防カビ剤、界面活性剤、キレート剤、レベリング剤、バインダー樹脂(溶液またはエマルションの形態であってよい)、結着剤、消泡剤および増粘剤から選択される1または複数の添加剤である。他の成分は、所望の性質を分散体に付与できる量で添加される。他の成分が分散体に占める割合は特に制限されず、分散体の用途に応じて適宜選択される。例えば、分散体をコート剤として用いる場合、他の成分は、分散体全部の重量を100重量%としたときに、50重量%以下の割合で含まれることが好ましい。他の成分の占める割合が大きいと、上記の成分のいずれか一つまたは複数の量が分散体に占める割合が減り、分散体をコートして得られる膜において、所定の光触媒作用が発揮されない、または分散体の粘度が高くなって、塗装を実施することが困難となることがある。
【0023】
[製造方法]
本発明の光触媒分散体の製造方法を次に説明する。本発明の光触媒分散体は、水性媒体に、光触媒および両性ポリマー、ならびに必要に応じて添加される他の成分を投入し、公知の分散装置、具体的には、媒体撹拌式分散機、転動ボールミル、振動ボールミル、またはジェットミルのような装置を用いて、光触媒を分散させる方法により製造することができる。分散機として、媒体撹拌式分散機を用いる場合には、媒体(メディア)として、一般的には材質がジルコニア、アルミナ又はガラスであり、直径が2.0mm以下のビーズが用いられる。分散は、光触媒が、その平均粒子径が前述の範囲となるまで、実施される。
【0024】
[用途]
本発明の光触媒分散体は、ガラス、プラスチック、金属、陶磁器およびコンククリートのような基材、ならびに当該基材の表面に形成された塗膜の表面に、光触媒作用を示す膜または親水性を有する膜を形成するために用いることができる。そのような膜を形成するための光触媒分散体は、コート剤とも称することができる。そのような膜は、スピンコーティング、エアナイフコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、またははけ塗り等の公知の方法で形成することができる。本発明の光触媒分散体を、塗料の膜(塗膜)の表面に塗布する場合、コート剤と塗膜との接着性を向上させるために、アンダーコート剤を塗布してから、コート剤を塗布してよい。
【0025】
本発明の光触媒分散体をコート剤として、基材表面、または基材表面に形成された塗膜表面に塗布してコート層を形成すると、基材表面が光の照射により親水性となるため、油性の汚れをはじきやすくなる。したがって、本発明の光触媒分散体は、基材表面に、良好な防滴性、防汚・防曇性、自己洗浄性、および易洗浄性を付与することができる。
【0026】
あるいは、本発明の光触媒分散体は、色素増感太陽電池に使用することができる。具体的には、本発明の光触媒分散体は、色素増感太陽電池の透明電極(負極)に塗布するために用いてよい。この場合、本発明の光触媒分散体は、コート剤として用いる場合よりもその粘度を高くして用いることが好ましい。粘度は増粘剤を添加することによって高くしてよい。また、光触媒分散体には、色素を予め混合してよい。
【実施例】
【0027】
(光触媒)
光触媒として、酸化チタン光触媒を用意した(石原産業株式会社製、商品名ST−01)。
(分散剤)
分散剤として、下記の6種類の樹脂を用意した。
<両性ポリマー>
ジアリルアミン酸塩−マレイン酸共重合体(日東紡績株式会社製、商品名PAS−410C、濃度40%)
マレイン酸−ジアリルジメチルアンモニウムクロリド−二酸化硫黄共重合体(日東紡績株式会社製、商品名PAS−84、濃度30%)
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(三菱化学株式会社製、商品名ユカフォーマー510、濃度18%)
<カチオン性ポリマー>
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体(日東紡績株式会社、商品名PAS−H−10L、濃度28%)
ポリエチレンイミン(日本触媒株式会社製、商品名エポミンSP−012)
<アニオン性ポリマー>
エチレン−無水マレイン酸共重合体(Vertellus Specialties Inc.製、商品名ZEMAC E−400)
【0028】
実施例4において、分散体のpHを酸性に調整するために、12Nの塩酸(塩酸含有量37重量%)(特級試薬:和光純薬工業株式会社製)を用意した。また、比較例3において、アニオン性ポリマーを水に溶解させるために、水酸化ナトリム含有量97重量%の水酸化ナトリウム(特級試薬:和光純薬工業株式会社製)を用意した。
【0029】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
光触媒と、分散剤と、水性媒体である水(イオン交換水)とを、表1に示す割合で混合撹拌した後、直径0.5mmのジルコニアからなるビーズミルを媒体として、媒体撹拌式分散機により、光触媒を分散させて、光触媒分散体を得た。得られた分散体各々のpH、分散体における光触媒粒子の粒径、および分散体の経時安定性を下記の手順で評価した。
【0030】
(pH)
pHメータを用いて測定した。
(光触媒粒子の粒子径)
光触媒分散体における、光触媒粒子の粒子径(メジアン径)は、動的光散乱法により測定した。測定には、株式会社堀場製作所製のLB550を用いた。
(経時安定性)
分散体をガラス瓶にいれ、常温で6ヶ月静置した後、状態を目視観察し、下記の基準に従って評価した。
○:沈澱がない。または、光触媒粒子が沈澱しているが、振とうすると簡単に再分散する。
×:光触媒粒子が沈澱しており、振とうしても再分散しない。
【0031】
評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すとおり、両性ポリマーを分散剤として使用した実施例1〜4はいずれも、光触媒の粒子径が小さく、良好な分散性および経時安定性を示した。カチオン性基のみ、またはアニオン性基のみを有するポリマーを分散剤として使用した比較例1〜3はいずれも、光触媒の粒子径が大きくて分散性が悪く、したがって、経時安定性においても劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の光触媒分散体は、分散剤として両性ポリマーを用いることにより、良好な分散性を確保したものであり、コート剤として有用であり、また、色素増感太陽電池において色素を吸着させるための酸化チタン層として使用できる。