(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、第1の実施形態のパーキングロック機構について
図1を用いて説明する。
【0016】
図1は、本願に係る一実施形態のシフトドラム式変速機機構及びパーキングロック機構を示す斜視図である。
【0017】
本実施形態のパーキングロック機構100を備えたシフトドラム式変速機10は、シフトドラム9、入力軸8aと出力軸8bからなる変速軸8、変速軸8に設けられたシフトギアを滑動させるシフトフォーク92、パーキングギヤ7等からなる。
【0018】
一般に、シフトドラム式変速機は、遊星歯車による変速と異なり、シフトフォーク92を作動させて変速する。アクチュエータ93(電動モータ)によってシフトフォーク92を作動させる自動変速機である。キヤチェンジを変速軸8に配置される平行ギヤで行い、その切り替えをシフトロッド91上を滑動するシフトフォーク92により行い、シフトフォーク92上のピン(図示せず)がシフトドラム9の溝9a、9b、9cに組まれていて、アクチュエータ93の動力がアクチュエータ動力伝達ギヤ94を介してシフトドラム9に伝達され、シフトドラム9が回転すると、シフトフォーク92のピンがシフトドラム9の溝に沿って軸方向に動くことによってシフト操作をする。エンジンの出力軸から変速機の入力軸8aを通して動力が伝わり、変速機の出力軸8bを通してタイヤに動力が伝達される。
【0019】
本実施形態のパーキングロック機構は、回転部材101、ピン101a、ディテントプレート102、ディテントスプリング103、パーキングロッド104、カムスプリング113、カム116、ポウル106等を備える。これらを使用してシフトドラム9の回転動力をパーキングギヤ7に伝達させてこれをロックする。
【0020】
図2は、ギヤ切替え動作範囲とパーキングロック機構稼動範囲を説明するための説明図である。次に、
図2を参照して本実施形態におけるシフトチェンジとパーキングロックの構成を説明する。
【0021】
シフトドラム9には溝9a,9b,9cが刻まれており、シフトフォーク92a,92b,92c上の各ピンが各溝内を動くことによって、溝が軸方向に屈曲しているところで平行ギヤを繋ぎ換えることによって、1速から5速までの変速が可能である。1速用の屈曲部の始点から5速用の屈曲部の終点までの範囲がギヤ切替え動作範囲C(
図4参照)である。そして、溝が直線状である範囲の一部がパーキングロック機構稼動範囲D(
図4参照)として機能する。
なお、シフトドラム9はアクチュエータ93からアクチュエータ動力伝達ギヤ94を使って減速した動力によって回転動作させており、回転部材101はシフトドラム9の同軸上に配置するので、パーキングの解除時に必要となるトルクを確保することができる。
【0022】
図3は、パーキングロック機構の第1の実施形態の説明図である。
【0023】
回転部材101はシフトドラム9の回転に連動するようにシフトドラム9の一端側に設けられる。回転部材101の形状は略正円が望ましいが、正多角形等の角形でもよい。
回転部材101には、後述するパーキングロック機構稼動範囲Dの範囲内にピン101aが設けられる。
【0024】
ディテントプレート102には、ピン101aを進入させる溝102aと、ディテントスプリング103の一端と当接する凹部102cと、パーキングロッド104を移動可能に結合させている孔部102dが形成されている。
図3(a)の状態は、ディテントプレート102は凹部102cにおいてディテントスプリング103を付勢せず当接している。
ディテントプレート102は回転軸102bを有し、溝102aにピン101aが進入するのに伴って、回転軸102bを中心に揺動する。
【0025】
パーキングロッド104は、一端がディテントプレート102に、他端がカムスプリング113を介してカム116に接続されている。パーキングロッド104は、ディテントプレート102側の端部がディテントプレート102に向かって略直角に屈曲している。
【0026】
カム116は、カムスプリング113と反対側が先端に向かって小となるようにテーパー状に傾斜しており、その先の端部にカラー118が設けられている。カム116の底部はサポート105に摺動自在に支持され、その上部はポウル106の下部106cに当接可能に位置している。
【0027】
ポウル106は、出力軸8b上に設けられたパーキングギヤ7とカム116との間に介装されている。そして、ポウル106は上部にパーキングギヤ7の凹部7bと噛合する凸部106bが設けられ、下部にカム116に当接する形状にて形成されている。この形状は、特に、パーキングギヤ7と噛合するときと噛合しないときの2箇所が僅かに突出している他は滑らかな曲線形状であることが好適である。また、ポウル106は回転中心軸106aを中心に揺動可能に形成されている。ポウル106の回転中心軸106aには、リターンスプリング117が巻装されている。
【0028】
本実施形態に基づくパーキングロック機構100は、タイヤに連続する出力軸8b上にパーキングギヤ7が設けられ、パーキングギヤ7に噛合うポウル106をパーキングロッド104(カムスプリング113、カム116、カラー118を含む)、サポート105によってディテントプレート102の動きによりパーキング状態を作り出す構造であり、ディテントスプリング103によってディテントプレート102の位置が固定される構造を有している。
【0029】
本実施形態は、シフトドラム9の軸上にピン101aを有する回転部材101を新たに設け、シフトドラム9と一体の動きをさせ、ディテントプレート102にピン101aが進入する溝102aを形成する。
【0030】
パーキング操作は、ピン101aが溝102aに進入し、ディテントプレート102を揺動させることで行い、その作動範囲は、シフトドラム9のシフト操作の可動範囲外かつ延長線上にある。
【0031】
シフト操作の可動範囲では、ピン101aが溝102aから外れることで、パーキングロック機構に関係なくシフト操作を可能とし、パーキングロック部品は、パーキングポジションと非パーキングポジションの2ポジションで済み、小型化できる。
【0032】
なお、シフトドラム9はアクチュエータ93からギヤを使って減速した動力によって回転動作させており、回転部材101はシフトドラム9の軸上に配置するパーキングの解除時に必要となるトルクを確保することができる。
【0033】
次に、
図3(a)〜(c)を用いて本実施形態のパーキングロック機構の具体的な作動を説明する。
【0034】
図3(a)は、パーキングロック作動開始状態を示した図であり、回転部材101(シフトドラム9)上のピン101aは溝102aの入口に位置しており、この時、シフト系はニュートラル状態になっている。
このとき、ディテントプレート102は、凹部102cに結合したディテントスプリング103が座119に対して押し込まれている。
また、ディテントプレート102は、孔部102dにおいてパーキングロッド104と接続している。このとき、パーキングロッド104はカムスプリング113を付勢しない。
カムスプリング113は付勢されていないので、カム116は開放位置にあり、テーパー部分116aにてサポート105に摺動自在に支持されている。
このとき、ポウル106はパーキングギヤ7に所定距離離間している。
【0035】
図3(b)はパーキング噛合状態を示した図である。
図3(a)の状態から、アクチュエータ93でシフトドラム9を介して回転部材101のピン101aがA方向にさせられるとディテントプレート102が溝102aに進入し、溝102a内と当接しつつ奥へ進む。これによって、ディテントプレート102にB方向の揺動を発生させ、一般的なパーキングシステム同様にパーキングロッド104に付帯したカムスプリング113が付勢される。それによって、その先に付帯したカム116がポウル106を動かしてパーキングギヤ7に噛む。
【0036】
パーキングロックを開放するときも同様にアクチュエータ93によって行う。アクチュエータ93が逆A回転することでパーキングロッド104を逆B方向に引き抜く。
【0037】
更に詳細に説明すると、
図3(a)において、ディテントプレート102の溝102aの入口付近に位置していたピン101aが、回転部材101のA方向への回転に伴って溝102aの中に入っていき、
図3(b)に示すように、完全に奥まで入ったところでロックされる。
【0038】
ピン101aが溝102aの入口から奥まで移動するのに応じて、ディテントプレート102が回転軸102bを中心にB方向に揺動する。その結果、パーキングロッド104がB方向に押付けられることによって、カムスプリング113が付勢される。それに伴ってカム116のテーパー部分116aが移動してテーパー面に沿ってポウル106をパーキングギヤ7の下部106cに押付けることによって、ポウル106の凸部106bがパーキングギヤ7の突部7aに嵌合する。
【0039】
パーキングロックを開放するときは、回転部材101が逆A方向に回転することによって、ピン101aがディテントプレート102の溝102aから離れ、ディテントプレート102が逆B方向に揺動する。それに伴って、パーキングロッド104は、孔102d内の、カムスプリング113を付勢しない位置に移動する。その結果、ポウル106に押しつけられているカム116の力よりも、リターンスプリング117がポウル106をカム側に付勢している力の方が強くなることによって、ポウル106がパーキングギヤ7から外れてアンロックの状態となる。
【0040】
図3(a)から
図3(b)のパーキングロック機構稼動範囲D(
図4参照)においては、シフト系はシフトドラム9によってニュートラル状態を保持している。
【0041】
図3(c)は、ギヤ切替え動作範囲における本実施形態に基づくパーキングロック機構の動作を示す。
【0042】
シフトドラム9と連動して回転する回転部材101のギヤ切替え動作範囲は、
図3(c)に示すC範囲で、このシフト動作する範囲においては、ピン101aが溝102aから外れるように設定されており、これにより、シフトドラム9がシフト操作における回転を行っても、ディテントプレート102はディテントスプリング103で固定されたまま動くことはない。
【0043】
図4は、回転部材におけるギヤ切替え動作範囲とパーキングロック機構稼動範囲の説明図である。
【0044】
図4に示すように、ギヤ切替え動作範囲C以外の範囲のうち、パーキングロック機構稼動範囲はDに示す範囲で、この範囲において、ピン101aが溝102aに進入する。パーキングロック機構稼動範囲Dとは、ギヤ切替え動作範囲Cを除いた範囲の全部ではなく、一部である。そして、パーキングロック機構稼動範囲Dでもギヤ切替え動作範囲Cでもない領域は緩衝領域となる。
【0045】
上述の構成により、パーキングロック機構稼動範囲D以外の領域から任意にギヤ切替え動作範囲Cを設定できるので、ピン101aの位置を厳密に決定しなくてもよい。
換言すれば、シフトドラム9のシフト操作における大きな作動角度にパーキングロック機構を対応させる必要が無いため、パーキングロック機構はパーキングポジション、非パーキングポジションの2ポジションが可能な構造になっていればよい。
【0046】
シフトドラムと動力源が同じであるパーキングロック機構の場合、パーキングロック機構はシフト切替え操作においてもシフトドラムの高速且つ頻繁な動きや大きな可動量に追従してしまう。その結果、パーキングロック機構可動部品の摩耗や損傷を引き起こすおそれがある。また、パーキングロック部品の稼働スペースを確保しなければならないことから、変速機の大型化が避けられない。パーキングロック部品の摺動や質量がシフト切替え操作の抵抗になり、シフト操作時間が増大し、モータの負荷も大きくなる。
【0047】
上述したように、本実施形態においてギヤ切替え動作範囲Cでは、パーキングロック機構は完全に切り離されているため、上述の問題は全て解消されることとなる。
【0048】
図5はパーキングロック機構の第2の実施形態の説明図である。
図6はパーキングロック機構の第3の実施形態の説明図である。
図3に示した実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0049】
図3に示した実施形態では、シフトドラム9又は回転部材101にピン101aを設け、ディテントプレート102側に溝102aを設け、ピン101aが溝102aに進入する構成としていた。しかしながら、ピンでは強度が不足する恐れがある。
【0050】
図5の実施形態では、ピン101aの代わりにギヤ構造で噛み合う構造とすることによって強度を確保する。回転部材201又はシフトドラム9のパーキングロック機構稼動範囲D内にギヤ構造201aを設け、ディテントプレート202側にもこれに対応するギヤ構造202aを設ける。
ギヤ切替え動作範囲Cの円をギヤの歯底円よりも小さく構成することによって、パーキングロック機構稼動範囲Dではギヤシフトは作動しない。
【0051】
図6の実施形態では、ギヤ311とディテントプレート302とを、回転軸312を介して、ギヤ311が回転しないように結合させる。これは、
図5の実施形態において、ディテントプレート202にギヤ構造をもたせることが難しいので、ギヤをディテントプレートに溶接などで不動に結合させることによって、
図5と同じ機能をもたせる。このとき、ギヤ311は回転しないように構成することが望ましい。
回転部材301は、
図5の実施形態と同様にパーキングロック機構稼動範囲D内にギヤ構造301aが設けられる。ここでも、ギヤ切替え動作範囲Cの円をギヤの歯底円よりも小さく構成するので、ギヤ311はギヤ構造301aのみと噛合し、ギヤシフトには影響しない。
【0052】
<実施形態の構成及び効果>
本発明の重要な点は、元々備えられている、変速の切替えに用いられるシフトドラム9の回転力を同時にパーキングロックにも活用する点にあり、動力源を同じにすることができ、シフト切替え機構を操作するコントロールユニットや配線、アクチュエータをそのまま利用できる。
このように構成することによって、簡素な部品を追加するだけで、元々備わっているアクチュエータ93にパーキング操作の機能を追加することが可能となる。
【0053】
本発明のパーキングロック機構は、シフトドラム9の回転範囲として、シフトチェンジが可能なギヤ切替え動作範囲Cと、ギヤ切替え動作範囲Cを除いた範囲の一部において、パーキングロック機構稼動範囲Dを有する。そして、パーキングロック機構稼動範囲D内にロック用部材を備える。
このように構成することによって、ギヤ切替え動作中はこのロック用部材は作動しない。また、パーキングロック機構稼動範囲Dにおいても作動か非作動のみの選択となるので、構造的に極めて簡素に構成されうる。
【0054】
本発明のパーキングロック機構は、その一実施形態として、パーキングギヤ7と嵌合することによってパーキングギヤ7の回転を防止するポウル106と、ポウル106を移動させるパーキングロッド104と、パーキングロッド104を移動させるディテントプレート102とを更に備え、シフトドラム9の回転に伴って、ロック用部材1aとディテントプレート102がロックされる。
このように構成することによって、パーキングロックに関連する部品点数を最小限に抑えることができる。
【0055】
ロック用部材1aをピン101aの形態とし、このピンがディテントプレート102の溝102aに進入することによってロックすることができる。また、ロック用部材を回転部材201にギヤ構造201aを設け、ディテントプレート202側のギヤ構造202aに形成することができる。また、ディテントプレート302側に別個のギヤ311を結合させることもできる。
このように構成することによって、ロック嵌合・噛合箇所を簡単に構成し、適切な強度を得ることができる。
【0056】
パーキング状態とする場合は、シフトドラム9の回転に伴いロック用部材が溝等に進入し、さらに回転して、ピン101aが溝102a内を移動するに従ってディテントプレート102が揺動し、ディテントプレート102の揺動に伴いパーキングロッド104が移動し、パーキングロッド104の移動に従ってポウル106が移動し、ポウル106の移動に従ってポウル106がパーキングギヤ7と嵌合する。ギヤの場合も同様である。
【0057】
このような構成にすることにより、変速機のシフト切替え機構として元々備えられているシフトドラム9の動力源を共用することができる。たとえば、シフト切替え機構を操作するコントロールユニットや配線、アクチュエータ93、動力伝達部材(ギヤ)94としてのシフトドラム9本体を利用することで、パーキングロックを作動させるための専用の操作手段や、アクチュエータ93、動力伝達機構(ギヤ)94を必要としないのでパーキングロック機構を安価でコンパクトに提供することができる。
【0058】
また、このような構成にすることにより、「P完了位置」と「N,P操作スタート位置」の間においてのみピン101aがディテントプレート102に入り、ギヤ切替え動作範囲Cにおいては、パーキングロック機構は稼働することがないため、シフト切替え動作に影響をおよぼさない。
【0059】
また、シフトドラムと連動する回転部材を更に設け、この回転部材にロック用部材を形成してもよい。
【0060】
このような構成にすることにより、ロック用部材が破損した場合等に、シフトドラム自体を交換しなくても、回転部材のみを取り換えるだけでよく、交換に係るコストを低減することができる。
【0061】
本発明のシフトドラム9はアクチュエータ(モータ)94によって回転される。
このような構成にすることにより、シフトドラム9をパーキング作動位置に回転させるだけでパーキングロックが作動するため操作が簡単である。
【0062】
前述のギヤ切替え動作範囲Cとは、ロック用部材が溝に進入しない回転範囲である。つまり、シフトドラム9は、ピン101aがディテントプレート102に挿入されない回転範囲で、シフトチェンジが可能に形成されている。
また、前述のパーキングロック機構稼動範囲Dとは、ロック用部材が溝に挿入され、シフトチェンジが行われないように形成されている回転範囲である。
【0063】
このような構成にすることにより、ギヤ切替え動作範囲Cにおいては、パーキングシステムは完全に切り離されており、シフト切替え動作に影響が無く、パーキングロック機構可動部の摩耗や損傷を引き起こす恐れがない。