【実施例1】
【0017】
先ず、本実施例の概要を説明する。本実施例は、ガスタービンの燃焼器に蒸気を供給してタービンの出力を増大させるようにした湿分利用ガスタービンシステムである。このような湿分利用ガスタービンシステムでは、圧縮機とタービンの流量マッチングのため、圧縮機から圧縮空気を抽気することになる。
【0018】
本実施例は、このような湿分利用ガスタービンシステムにおいて、圧縮空気が保有する熱を回収することにより可及的に効率を向上するものである。従来、このような湿分利用ガスタービンシステムでは、特許文献1や特許文献2に記載のように、ガスタービン排気中の水分を回収する水回収装置は設けられていない。本実施例では、ガスタービンの燃焼器に蒸気を供給してタービンの出力を増大させるようにした湿分利用ガスタービンシステムに新たに水回収装置を設け、水分回収に際して低温化した排ガスを加熱して白煙発生を抑制する排ガス再加熱器の加熱媒体(加熱側流体)として圧縮空気を利用し圧縮空気が保有する熱を回収するようにしたものである。
【0019】
また、本実施例では、燃焼器に供給する燃料を加熱する熱交換器を設け、熱交換器の加熱媒体(加熱側流体)として圧縮空気を利用し圧縮空気が保有する熱を回収するようにしている。
【0020】
また、本実施例では、排ガス再加熱器で熱を回収した後の圧縮空気を膨張タービンで膨張させ、動力を回収するようにしている。そして、本実施例では、膨張して低温となった空気を冷熱源と利用し、電力、蒸気、冷熱の三つを供給可能なトライジェネレーションシステムを構築している。
【0021】
以下、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施例である湿分利用ガスタービンシステムの構成を示す概略系統図である。ガスタービン本体は、空気を圧縮して吐出する圧縮機2、圧縮空気と燃料とを混合して燃焼する燃焼器4、燃焼器が生成する燃焼ガスにより駆動されるタービン1が主要な機器である。圧縮機2とタービン1を連結するシャフト5は、図示しない減速機を介して発電機19に接続されており、発電した電力を系統に送電可能となっている。
【0022】
圧縮機2から吐出された圧縮空気は、ガスタービンケーシング内の流路53を経由して燃焼器4に導かれる。燃焼器4において、圧縮空気、配管43から供給される燃料、配管41から供給される過熱水蒸気と混合して燃焼ガスを生成する。燃焼ガスはタービン1を駆動して、排ガス13としてタービンから排気される。排ガス13の流路には、上流側から順に、排熱回収ボイラ26、水回収装置17、排ガス再加熱器88が接続されており、排ガスは最終的にスタック54から大気中に放出される。
【0023】
排熱回収ボイラ26は、エコノマイザ23、蒸発器24、過熱器25から構成されており、蒸発器24の蒸気ドラムには、配管34と弁74により、外部に飽和水蒸気を供給可能な構造となっている。
【0024】
本実施例において、圧縮機で圧縮された空気に湿分を添加する加湿装置は、排熱回収ボイラ26、配管41、弁73により構成されている。即ち、排熱回収ボイラ26の過熱器25で生成した過熱蒸気は、配管41と弁73を介して燃焼器4に供給可能となっている。なお、本明細書において「蒸気を燃焼器4に供給する」という記述は、燃焼器4の内部に蒸気を供給することを示すだけでなく、燃焼器4に導入される圧縮空気が流下する燃焼用空気流路(流路53)に蒸気を供給することも含むものとする。
【0025】
水回収装置17は、回収水容器18の保有する水を、配管31に設置されたポンプ92で加圧し、冷却器85で冷却したのち、配管32により、水回収装置17の内部に設置されたスプレイノズル71へ供給する構成となっている。冷却器85はファン27により大気93を導入して水を冷却する空冷式冷却器である。また、回収水容器18の保有する水は、配管33に設置されたポンプ91により、排熱回収ボイラ26のエコノマイザ23に供給されるよう配管されている。さらに、水回収装置17の回収水容器18には、外部から補給水が供給可能なように、配管52が設けられている。
【0026】
本実施例の特徴となっている構成要素は、圧縮機2から吐出された圧縮空気の一部を配管42によってガスタービンのケーシング外部に抽気する抽気系統であり、同系統には、上流側から順に、弁66、熱交換器55、配管44、排ガス再加熱器88、配管45、膨張タービン28、配管46、熱交換器56、配管47が接続されている。熱交換器55は燃料95を加熱する目的で設置され、排ガス再加熱器88は、水回収装置17で冷却されて低温となった排ガスを加熱して、大気中への白煙の発生を抑制する目的で設置してある。膨張タービン28は発電機20と接続されており、圧縮空気の保有する圧力エネルギーを電力に変換可能となっている。熱交換器56は、配管48からプロピレングリコールなどの熱媒体を導入し、配管49から冷却された熱媒体を外部に供給可能に構成されている。
【0027】
次に
図1を用いて、本実施例による湿分利用ガスタービンシステムの動作を説明する。ガスタービンの吸気ダクト3から吸入された大気は、圧縮器2で圧縮され、高温の圧縮空気となって圧縮機2から吐出される。吐出された圧縮空気の大部分は、ガスタービンケーシング内の流路53を経由して燃焼器4に導かれる。燃焼器4では、燃料95と、配管41から供給される過熱水蒸気と、圧縮空気が混合して燃焼し、高温の燃焼ガスを生成する。この高温の燃焼ガスは、タービン1に供給され、タービン1の内部で膨張して、熱エネルギーが動力エネルギーに変換される。この動力エネルギーは、同じシャフト5に連結された圧縮機2を駆動することに消費されるとともに、発電機19により、電気エネルギーに変換されて取り出される。
【0028】
この湿分利用ガスタービンは、燃焼させる空気に、排熱回収で生成した水蒸気を湿分として添加しているため、タービンに供給される燃焼ガスの流量が、通常のシンプルサイクルガスタービンよりも多くなる。その場合、ガスタービンの圧力比が上昇し、圧縮機2のサージングが発生しやすくなることから、圧縮機2の出口の空気圧力が許容値以下となるように、配管42の弁66の開度を操作して、抽気系統から抜き出す圧縮空気の流量を調整している。
【0029】
添加する水蒸気の質量が増加した場合、抽気が必要な圧縮空気の質量も増加するが、水蒸気の単位質量当たりの熱エネルギーは、圧縮空気と比較して大きいため、通常のガスタービンと比較してより多くのエネルギーを取り出すことができ、システム熱効率が向上する。
【0030】
タービン1での膨張過程を経て排出された排ガス13は、排熱回収ボイラ26に導かれ、配管33からの給水を、エコノマイザ23、蒸発器24、過熱器25で順次加熱して水蒸気を生成する。蒸発器24の蒸気ドラムから、飽和水蒸気を配管34により抜き出すことが可能となっており、必要に応じて、プロセス蒸気や暖房用に利用することができる。過熱器25で生成した過熱蒸気は、前記した燃焼器4に供給され、ガスタービンの出力、効率向上に寄与する。
【0031】
排熱回収ボイラ26から排出された排ガスは、水回収装置17へ導かれる。水回収装置17では、下部空間の回収水容器18に貯蔵された回収水が、配管31のポンプ92により、冷却器85に供給され、冷却器85では大気93と熱交換して回収水が例えば35℃まで冷却され、スプレイノズル71に供給される。スプレイノズル71から散布されるスプレイ水と排ガス13が気液直接接触し、排ガス13に含まれる湿分が凝縮し、回収水容器18に回収される。水回収装置17を排出される排ガスは、スプレイ水により冷却された湿りガス(例えば40℃以下の湿りガス)であり、スタック54内部での結露や、大気中での白煙発生を抑制するため、排ガス再加熱器88により、例えば80℃まで加熱してからスタック54により大気中に放出する。回収水容器18の回収水の一部は、配管33のポンプ91により、排熱回収ボイラ26のエコノマイザ23に供給される。水回収装置17の回収水容器18の水位は、排ガス13の凝縮により回収された水量と、配管33から排熱回収ボイラ26へ供給される水量のバランスにより変化する。そこで、回収量がボイラへの供給量より多い場合は、図示しない排水機構によって余分な水を排出し、回収量がボイラへの供給量より少ない場合には、配管52から補給水を供給して、回収水容器18の水位を維持する。
【0032】
次に、本実施例の特徴的な系統である、圧縮機からの抽気系統の動作について説明する。図示しない制御装置により、圧縮機のサージング防止の観点から、圧縮機出口の空気圧力が許容値以下となるように、配管42の弁66の開度を自動制御して、必要な流量の圧縮空気を外部に抽気する。この流量は、圧縮機のサージング特性にも依存するが、典型的には、圧縮機の吸込流量の5〜20%程度となる。蒸発器24で発生した水蒸気を、より多くプロセス蒸気や暖房用に利用したい状況では、燃焼器4に注入可能な過熱水蒸気の流量が減少するため、抽気系統から抜き出す圧縮空気の流量は少なくなる。一方、プロセス蒸気や暖房用の蒸気需要が少ない状況では、燃焼器4に注入する過熱水蒸気の流量を増加させ、自動制御により抽気系統から抜き出す圧縮空気の流量が増加する。この圧縮機からの抽気動作により、圧縮機の出口圧力は基準値の範囲内に自動的に維持され、安定な状態で圧縮機2を運転することが可能となる。
【0033】
熱交換器55では、約400℃の高温圧縮空気により、燃料95を約300℃まで加熱するとともに、圧縮空気は、約320℃まで温度が低下する。この燃料の加熱により、燃焼器4で所望の温度の燃焼ガスを発生させるために必要な燃料95の流量が約3%低減され、システム熱効率が約3%向上する効果がある。熱交換器55を経由した温度約320℃の圧縮空気は、熱交換器である排ガス再加熱器88に供給され、約40℃の低温の排ガスを約80℃まで加熱することにより、圧縮空気は約100℃まで温度低下する。この加熱により、排ガスの過熱度が40℃以上となるため、スタック54の内部で結露を生じることが抑制される。また、スタック54から大気中に放出された後も、白煙の発生を抑制でき、発電設備の景観を維持することができる。
【0034】
排ガス再加熱器88で約100℃まで温度低下した圧縮空気は、膨張タービン28に導入される。圧縮空気は、膨張タービン28でほぼ大気圧まで膨張すると、外部に仕事をしたことにより温度が約−70℃まで低下する。約−70℃まで温度が低下した低温空気は、配管46を介して熱交換器56に導かれ、冷熱源として利用される。この時、膨張タービンで発生した動力は、発電機20により電力に変換して利用される。この電力は、ガスタービンの出力の約6%であり、システムの総合熱効率を約6%向上させる効果がある。
【0035】
熱交換器56には、冷熱供給用途で需要先から戻された約15℃のプロピレングリコールが配管48から供給されている。この熱媒体であるプロピレングリコールは、熱交換器56の内部の伝熱管で、約−70℃の低温空気と間接熱交換し、約5℃まで冷却され、配管49から外部の冷熱需要先へ供給される。この冷熱の熱量は、ガスタービンの出力の約3%であり、システムの総合熱効率を約3%向上させる効果がある。
【0036】
なお、冷熱の需要が無い場合には、プロピレングリコールなどの熱媒体の供給を停止することにより、配管47から低温の空気がそのまま放出されるため、配管47は、例えば水回収装置17などの排気ダクト部分に接続して、低温空気を排ガス再加熱器88で加熱してから大気へ放出する。配管47を通過する空気流量は、排気ガス13の流量の最大でも20%程度であり、これを混合した場合でも排ガス再加熱器88出口のガス温度は、60℃以上に加熱されるため、大気へ放出するのに支障はない。
【0037】
本実施例の固有の特徴は、圧縮機2からの約400℃の高温抽気に対して、水回収装置17出口の約40℃の低温の空気と熱交換させる点であり、それにより、空気が約400℃から約100℃に温度低下するまで、外部へ熱を廃棄することなく有効に熱回収が可能となる。以上に記載した本実施例のシステム総合効率向上効果の数値を合計すると、約12%となり、圧縮空気の抽気から熱回収、動力回収などを行わない場合と比較して、システムの総合熱効率を顕著に向上することが可能となる。
【0038】
なお、本実施例では、冷熱供給のために、熱交換器56を設けてプロピレングリコールを熱媒体として利用したが、熱媒体はプロピレングリコール以外のものを利用しても良い。本実施例のように熱交換器56を備えることにより、利用目的に応じた好適な熱媒体を用いて冷熱を搬送することができる。
【0039】
また、冷熱の用途によっては、約−70℃の低温空気をそのまま冷熱需要先に供給することも当然可能である。但し、空気の場合、プロピレングリコールなどの熱媒体と比較して、容積当たりの保有熱量が小さい。そのため、冷熱の輸送に必要な圧力損失が大きくなる傾向があり、冷熱需要先が本実施例のガスタービンシステムと近距離にあることが望ましい。
【0040】
また、本実施例では、水回収装置17としてスプレイ式を例示したが、スプレイ式ではなく、充填物式、伝熱管方式でも同様の動作が可能である。スプレイ式は、排ガス側の圧力損失を小さくできる特徴があるが、湿分の凝縮性能を高めるためには、排ガスやスプレイ液滴の流量配分の均一化などが求められる。充填物式は、排ガス側の流量配分の均一化が比較的容易であるが、排ガス側の圧力損失が大きくなる傾向がある。伝熱管式の場合は、冷却用の空気を伝熱管に直接供給することにより、冷却水を一切使用せずに排ガスから湿分を回収できる特徴があるが、伝熱面積を多く取る必要があり、水回収装置の排ガス流路部分が大型化する傾向がある。
【0041】
また、本実施例では、圧縮空気を膨張させる膨張手段として、排ガス再加熱器88の下流側に膨張タービン28を備えた構成としているが、膨張タービン28を膨張弁などに置き換えて冷熱のみを利用する構成としても良い。
【0042】
さらに、本実施例では、排熱回収ボイラ26で発生させた蒸気を燃焼器に噴射することにより圧縮空気への加湿を行うようにした湿分利用ガスタービンシステムに適用した場合について説明したが、圧縮空気への加湿を、特許文献3に記載されているような、増湿塔とエコノマイザ等により行うようにした高湿分空気利用ガスタービン設備にも同様に適用可能である。例えば、特許文献3の高湿分空気利用ガスタービン設備において、圧縮機とタービンの流量マッチングのため、圧縮機から圧縮空気を抽気(放風)する構成を付加し、水回収装置を出た排ガスを再加熱する排ガス再加熱装置の熱媒体として、エコノマイザへ給水される循環水に代えて、抽気した圧縮空気を用いるようにする。このように構成することによって、排ガス再加熱装置を設置しても、エコノマイザへ給水される循環水を用いていないので、エコノマイザへの給水温度が低下するのを避けることができ、その結果、エコノマイザから増湿塔へ供給される熱水のエネルギーが減少して、システム全体の排熱回収量が減少し、効率が低下するのを避けることができる。
【実施例2】
【0043】
図2を用いて本発明の他の実施例である湿分利用ガスタービンシステムを説明する。
【0044】
本実施例の湿分利用ガスタービンシステムは、
図1に示した先の実施例である湿分利用ガスタービンシステムと基本的な構成及び作用は同じである。従って、実施例1と共通な構成についての説明は省略し、相違する部分のみ以下に説明する。
【0045】
構成の相違点は、本実施例では、
図1で説明した実施例の熱交換器55は備えておらず、圧縮機2から抽気した高温空気による燃料95の加熱は行っていない。また、膨張タービン28には、発電機20ではなく、シャフト6を介して燃料圧縮機29と、電動機兼発電機22が連結されている。
【0046】
以下に、
図2を用いて本実施例の固有の動作を説明する。
【0047】
本実施例においても、実施例1と同様に、圧縮機のサージング防止の観点から、圧縮機出口の空気圧力が許容値以下となるように、配管42の弁66の開度を自動制御して、必要な流量の圧縮空気を外部に抽気する。この約400℃の高温圧縮空気は、排ガス再加熱器88に供給され、約40℃の低温の排ガスを約90℃まで加熱することにより、圧縮空気は約100℃まで温度低下する。この加熱により、排ガスの過熱度が50℃以上となり、スタック54の内部で結露を生じることが抑制され、スタック54から大気中に放出された後も、白煙を生じないため、発電設備の景観を維持する効果がある。
【0048】
排ガス再加熱器88で約100℃まで温度低下した圧縮空気は、膨張タービン28に導入される。膨張タービン28で、ほぼ大気圧まで膨張すると、外部に仕事をしたことにより温度が約−70℃まで低下し、熱交換器56に導かれる。本実施例では、この時、膨張タービン28で発生した動力は、燃料圧縮機29を駆動する動力に使われている。燃料圧縮機の圧力比や燃料の熱量に依存するが、燃料圧縮機29の駆動に必要な動力が、膨張タービン28の発生動力より小さい場合は、電動機兼発電機22は、発電機として動作させ、余剰動力を電力に変換して利用される。反対に、燃料圧縮機29の駆動に必要な動力が、膨張タービン28の発生動力より大きい場合は、電動機兼発電機22には電力を供給して、燃料圧縮機29を駆動するための動力を発生させる。
【0049】
本実施例では、燃料95は、燃料圧縮機29で圧縮されるため、温度が上昇した状態で燃焼器4に供給される。膨張タービン28の出口の低温空気を、冷熱供給用途で利用する点は、実施例1と同様である。
【0050】
本実施例の固有の特徴は、膨張タービン28の発生動力を、燃料圧縮機29を直接駆動することに利用している点であり、膨張タービン28の発生動力を電力に変換してから利用する場合と比較して、電力と動力の相互の変換に伴う損失が生じないことが特徴である。
【0051】
このように、本実施例によっても、圧縮空気の抽気から熱回収、動力回収などを行わない場合と比較して、システムの総合熱効率を顕著に向上することが可能となる。
【0052】
なお、本実施例においても、実施例1で説明した変形例は、膨張タービンに代えて膨張弁を用いる場合を除いて同様に適用可である。
【0053】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。