(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909439
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】逸走防止装置及び台車
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20160412BHJP
B61H 7/00 20060101ALI20160412BHJP
B61H 11/04 20060101ALI20160412BHJP
B60T 1/14 20060101ALI20160412BHJP
B60T 7/00 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
B60T7/12 E
B61H7/00 Z
B61H11/04
B60T1/14
B60T7/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-279152(P2012-279152)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-121946(P2014-121946A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雄彦
(72)【発明者】
【氏名】滝本 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】隈部 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】腹子 諭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】溝田 寿
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 智
(72)【発明者】
【氏名】高柳 哲
(72)【発明者】
【氏名】安彦 柳一
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−43357(JP,A)
【文献】
特開2003−205829(JP,A)
【文献】
米国特許第4325465(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 1/14
B60T 7/00
B61H 7/00
B61H 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール上を走行する台車に設けられる逸走防止装置であって、
前記台車の車輪に設けられ、当該車輪の回転による遠心力によって回転径方向外側に張り出すように変位するアタッカ部と、
前記台車の車体側に設けられ、前記径方向外側に張り出した前記アタッカ部が衝突したときに前記台車の制動動作を開始する制動部と、を備え、
前記制動部は、
前記車輪の前方又は後方において前記車体側に取り付けられ、前記アタッカ部の衝突に起因して移動して前記レールに接触し、前記レールの上面を摺動して摩擦を発生するブレーキ部材を有することを特徴とする逸走防止装置。
【請求項2】
前記ブレーキ部材は、
前記車体側に回動可能に取り付けられ、前記アタッカ部の衝突に起因して回動して前記レールに接触することを特徴とする請求項1に記載の逸走防止装置。
【請求項3】
前記制動部は、
前記ブレーキ部材を係止するとともに前記アタッカ部が衝突したときに変位して前記ブレーキ部材の係止を解除するガイド部を備え、
前記ブレーキ部材は、
前記ガイド部による係止が解除されたときに、自重で下方に回動し前記レールに接触することを特徴とする請求項1又は2に記載の逸走防止装置。
【請求項4】
前記レールと摺動するための前記ブレーキ部材の摺動面と、前記ブレーキ部材の回動軸との距離は、
前記ブレーキ部材の回動軸から前記レールの上面までの距離よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の逸走防止装置。
【請求項5】
前記台車は、一対の前輪と一対の後輪とを備えた4輪車であり、
前記ブレーキ部材は、前記制動動作時において、前記前輪と前記後輪との間の位置で且つ前記後輪側の位置で前記レールの上面を摺動することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の逸走防止装置。
【請求項6】
前記制動動作時において、前記前輪と前記後輪との間の位置で且つ前記前輪側の位置で前記レールの上面を摺動する他のブレーキ部材を更に備えたことを特徴とする請求項5に記載の逸走防止装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の逸走防止装置を備えたことを特徴とする台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール上を走行する台車に設けられた逸走防止装置及びその台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1〜3の技術が知られている。特許文献1記載の緊急ブレーキ装置は、モノレール車に用いられるものであり、車輪の回転による遠心力で径方向外側に張り出す係合爪を備え、張り出した係合爪がカムストッパに衝突すると、ブレーキカムレバーが動き、ブレーキシューを拡張させて車両を制動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−250577号公報
【特許文献2】特開2007−302079号公報
【特許文献3】特開2002−104195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置は、緊急時にブレーキシューによって車輪を停止させようとするものである。また、特許文献2,3も、車輪の回転を止めて台車を停止させるものである。台車の緊急停止が必要になったときに車輪の回転を急激に停止させようとすると、安定して台車を制動することが困難な場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、緊急時にも安定した制動を可能にする逸走防止装置及び台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の逸走防止装置は、レール上を走行する台車に設けられる逸走防止装置であって、台車の車輪に設けられ、当該車輪の回転による遠心力によって回転径方向外側に張り出すように変位するアタッカ部と、台車の車体側に設けられ、径方向外側に張り出したアタッカ部が衝突したときに台車の制動動作を開始する制動部と、を備え、制動部は、車輪の前方又は後方において車体側に取り付けられ、アタッカ部の衝突に起因して移動してレールに接触し、レールの上面を摺動して摩擦を発生するブレーキ部材を有することを特徴とする。
【0007】
この逸走防止装置によれば、台車の制動が必要になった逸走時に、ブレーキ部材がレールに接触するように移動し、ブレーキ部材とレール上面との摩擦により制動が行われる。このように、車輪の回転を止めようとするのではなく、レール上面にブレーキ部材を摩擦させる方式により、逸走時(緊急時)にも台車の安定した制動を図ることができる。
【0008】
より具体的には、ブレーキ部材は、車体側に回動可能に取り付けられ、アタッカ部の衝突に起因して回動してレールに接触するようにしてもよい。
【0009】
また、制動部は、ブレーキ部材を係止するとともにアタッカ部が衝突したときに変位してブレーキ部材の係止を解除するガイド部を備え、ブレーキ部材は、ガイド部による係止が解除されたときに、自重で下方に回動しレールに接触することとしてもよい。ブレーキ部材が係止解除により自重で下方に回動するといった機構は、シンプルな機械的な機構で実現可能であるので、動作不良の可能性も少なく緊急時における信頼性が高い。
【0010】
また、レールと摺動するためのブレーキ部材の摺動面と、ブレーキ部材の回動軸との距離は、ブレーキ部材の回動軸からレールの上面までの距離よりも大きいこととしてもよい。この構成によれば、摺動面からレール上面と摺動するときには、ブレーキ部材によって車体が上方に押し上げられることになる。これにより、車輪に掛かっていた台車の重量がブレーキ部材に移動するので、ブレーキ部材とレール上面との摩擦力を十分に得ることができる。
【0011】
また、台車は、一対の前輪と一対の後輪とを備えた4輪車であり、ブレーキ部材は、制動動作時において、前輪と後輪との間の位置で且つ後輪側の位置でレールの上面を摺動することとしてもよい。この場合、台車の後ろ側に近い位置でブレーキ部材が制動力を発生するので、安定した制動が可能になる。また、制動動作時において、前輪と後輪との間の位置で且つ前輪側の位置でレールの上面を摺動する他のブレーキ部材を更に備えてもよい。この場合、台車が後進方向で逸走するときにも、台車の後ろ側に近い位置でブレーキ部材が制動力を発生するので、安定した制動が可能になる。
【0012】
本発明の台車は、上記何れかの逸走防止装置を備えたことを特徴とする。この台車は、上記逸走防止装置により、逸走時において安定して制動される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、緊急時にも安定した制動を可能にする逸走防止装置及び台車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態に係る台車の側面図であり、(b)は、その平面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る逸走防止装置を備えた右後輪の近傍を拡大して示す側面図である。
【
図3】(a)〜(c)は、逸走防止装置の動作を順次示す側面図である。
【
図4】
図3(c)の状態の車輪近傍を後方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る逸走防止装置及び台車の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1〜
図3に示す台車1は、例えば、工事中のトンネル内に敷設されたレール101上を走行し、工事に必要な積荷を搭載し搬送するために用いられる。台車1は、積荷を搭載するための平らな上面を持つ車体3と、当該車体3の下面に取り付けられた4つの車輪5と、を備えている。
【0017】
一般的にこの種の台車は前進・後進を区別せずに用いられる場合も多いが、以下の説明においては、台車1の矢印A方向を前方と定めて、「前輪」、「後輪」など、前後の概念を含む語を使用するものとする。上記4つの車輪5を区別する必要がある場合には、右前輪を車輪5a、左前輪を車輪5b、右後輪を車輪5c、左後輪を車輪5dと称する。また、各図に示すように、台車1の前後方向をX、左右方向をY、上下方向をZとするXYZ直交座標系を設定し、XYZを説明に用いる場合がある。
【0018】
車体3の前部及び後部には、同型の台車又は駆動車との連結を図るための連結部7がそれぞれ設けられており、台車1は数珠つなぎに複数台連結して使用される場合もある。台車1は、レール101上における逸走を防止するための逸走防止装置11を備えている。4つの車輪5の周囲には、逸走防止装置11の一部の構成部品が同様の構成で配置されているので、同一又は同等の構成要素については図面に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図2は、車輪(右後輪)5cの近傍を拡大して示す側面図である。
図2に示すように、逸走防止装置11は、車輪5cの側面に設けられた一対のアタッカ13,14を備えている。アタッカ13,14は、それぞれ支軸15,16を軸として、Y軸周りに回動可能に支持されている。アタッカ13,14は、車輪5cの中心に向かってバネ(図示せず)で付勢されおり、車輪5cの回転による遠心力を受けると、
図2に二点鎖線で示すように、支軸15,16を中心として先端が径方向外側に開くように変位する。そして、車輪5cの回転が所定の許容速度よりも速くなったときには、径方向外側に張り出したアタッカ13,14の先端が、車体3側に設けられたストライカ17に衝突する。なお、アタッカ13,14を付勢する上記のバネの強さを適宜設定することにより、車輪5cの許容速度ひいては台車1の許容速度を設定することができる。台車1の許容速度は、例えば10km/h程度に設定される。
【0020】
ストライカ17は、支軸19を中心としてY軸周りに回動可能に車体3に取り付けられている。更に車体3には、ガイド板21,22と、ブレーキ部材25,26と、が設けられている。ガイド板21,22は、X方向にスライド可能に車体3に取り付けられると共に、それぞれバネ(図示せず)によって内側に向かって付勢されている。すなわち、ガイド板21は−X方向に付勢されており、ガイド板22は+X方向に付勢されている。ガイド板21,22の下辺には、それぞれフック部23,24が固定されている。フック部23,24には、後述するブレーキ部材25,26のピン27,28がそれぞれ係止されている。
【0021】
ブレーキ部材25は、車輪5cの前方において、支軸29を中心としてY軸周りに回動可能に車体3に取り付けられている。ブレーキ部材25に設けられたピン27がフック部23に引っかかることにより、自重によるブレーキ部材25の下方への回動が規制されている。同様に、ブレーキ部材26は、車輪5cの後方において、支軸30を中心としてY軸周りに回動可能に車体3に取り付けられている。ブレーキ部材26に設けられたピン28がフック部24に引っかかることにより、自重によるブレーキ部材26の下方への回動が規制されている。
【0022】
ブレーキ部材25,26は、側面に取り付けられたアルミ板31,32を備えている。詳細は後述するが、アルミ板31,32は、逸走防止装置1が作動したときにレール101の上面101aを摺動する部材であり、アルミ板31,32の底面31a,32aが上面101aと摺動する摺動面である。また、支軸29,30には、それぞれストッパ33,34が固定されている。ストッパ33,34は、支軸29,30の回転により車体3側の一部に衝突し、支軸29,30のそれ以上の回転を規制する。
【0023】
なお、ストライカ17、ガイド板21,22、ブレーキ部材25,26、及び支軸29,30は、厳密には、車体3の構造を成すチャネル材に取り付けられている。また、この逸走防止装置11が備えるストライカ17、ガイド板21,22、フック部23,24、ブレーキ部材25,26、径方向外側に張り出したアタッカ13,14が衝突したときに台車1の制動動作を開始する制動部20を構成する。
【0024】
続いて、
図3を参照しながら逸走防止装置11の動作について説明する。なお、ここでは、台車1が矢印A方向(+X方向)への逸走を開始した場合の動作を例として説明する。
【0025】
図3(a)に示すように、台車1の車速が所定の許容速度よりも速くなると、車輪5cの回転による遠心力で、バネの付勢力に逆らってアタッカ13が開き、径方向外側に張り出す。そうすると、アタッカ13の先端がストライカ17に後方から衝突し、ストライカ17が前方に回動する。ストライカ17の前方への回動によりガイド板21が前方に押され、ガイド板21及びフック部23が一体として前方(X方向)にスライドする。ガイド板21及びフック部23が移動することにより、フック部23に引掛けられていたピン27の係止状態が解除される。なお、ガイド板21は、ストッパによって(図示せず)スライド後の位置に係止され、元の位置には復帰しない。
【0026】
そうすると、
図3(b)に示すように、ブレーキ部材25が自重により車輪5cと同じ方向に回動し、レール101上に落下する。ブレーキ部材25は、レール101に引き摺られ、支軸29に設けられたストッパ33が車体3のフレーム(図示せず)に当たるところまで回動し、
図3(c)の状態となる。
図3(c)に示すように、ブレーキ部材25のアルミ板31の底面31aがレール101の上面101aに摺動し摩擦が発生することにより、台車1が制動される。なおこのときのブレーキ部材25の位置は、車輪5cとは接触しないように設定されているので、回転している車輪5cによってブレーキ部材25が弾き戻されることがない。
【0027】
ここで、
図2に示す通常の状態(逸走防止装置11が機能する前の状態)において、アルミ板31の底面(摺動面)31aと支軸(回動軸)29との距離は、支軸29とレール上面101aとの距離よりも僅かに大きく設定されている。従って、
図3(c)に示す状態においては、ブレーキ部材25によって支軸29及び車体3が上方に押し上げられ、車輪5cがレール101から僅かに浮いた状態となる(
図4参照)。これにより、車輪5cに掛かっていた台車1の重量のほとんどがブレーキ部材25に移動した状態となり、アルミ板31の底面31aとレール上面101aとの摩擦力を十分に得ることができ、高い制動効果を得ることができる。また、このとき、
図4に示すように、車輪5の内側に設けられたツバ部6によって車輪5のY方向の位置が規制されるので、脱輪の可能性が抑えられる。なお、このときの車輪5cとレール101との隙間は極僅かであるので、車輪5cがレール101から浮いた状態は、
図3(c)には表れていないが、
図4では、車輪5cとレール101との隙間を誇張して図示している。
【0028】
また、ブレーキ部材25がレール101に接触し制動しているときには、車体3が浮いた状態となり車輪5cとレール101との間に隙間が生じ得るが、この隙間はツバ部6の径方向の長さよりも小さいことが好ましい。この場合、制動中にツバ部6の下端がレール上面101aよりも低い位置にあることになるので、制動中における脱輪を抑制する効果がより高い。なお、アルミ板31の底面31aと支軸29との距離を設定することにより、上記の車輪5cとレール101と隙間の大きさを設定することができる。
【0029】
アタッカ13,14、ガイド板21,22、フック部23,24、ブレーキ部材25,26、ピン27,28、支軸29,30、アルミ板31,32及びストッパ33,34は、互いに車輪5cを中心にして前後対称の構成に設けられているので、台車1が−X方向への逸走を開始した場合には、上記とまったく同様の動作で、ブレーキ部材26が落下し、アルミ板32の底面32aがレール上面101aと摩擦することで、台車1を制動する。
【0030】
図1(b)にも示されるように、ブレーキ部材25,26は、他の車輪5a,5b,5dの周囲にも同様の構成で配置されている。また、ガイド板21,22、フック部23,24は、車輪5aの周囲にも同様の構成で配置されている。また、
図1(b)に示されるように、台車1の左右に対称に配置されたブレーキ部材25同士は、Y軸方向に延びる支軸29で互いに連結され同期して動作する。同様に、台車1の左右に対称に配置されたブレーキ部材26同士は、Y軸方向に延びる支軸30で互いに連結され同期して動作する。なお、上記のストッパ33,34は、それぞれ支軸29,30の中央に固定されている。
【0031】
また、右後輪5cの近傍に設けられたガイド板21と右前輪5aの近傍に設けられたガイド板21とは、X方向に延びるリンク棒材(図示しない)で連結されており、同期してX方向にスライドするようになっている。同様にして、右後輪5cの近傍に設けられたガイド板22と右前輪5aの近傍に設けられたガイド板22とも、X方向に延びるリンク棒材(図示しない)で連結されており、同期してX方向にスライドするようになっている。
【0032】
このような構成により、右後輪5cの直前方のブレーキ部材25が落下したときには、他の車輪5a,5b,5dの直前方のブレーキ部材25もすべて落下するようになっている。すなわち、右後輪5cの回転速度が規定値を超過しアタッカ13が開いたことをトリガとして、4つすべてのブレーキ部材25が落下する。同様に、右後輪5cの直後方のブレーキ部材26が落下したときには、他の車輪5a,5b,5dの直後方のブレーキ部材26もすべて落下するようになっている。すなわち、右後輪5cの回転速度が規定値を超過しアタッカ14が開いたことをトリガとして、4つすべてのブレーキ部材26が落下する。
【0033】
続いて、以上説明した逸走防止装置11及びこれを備える台車1による作用効果について説明する。
【0034】
この逸走防止装置11によれば、台車1の制動が必要になった逸走時において、ブレーキ部材25,26がレール101に落下し、ブレーキ部材25,26とレール上面101aとの摩擦により制動が行われる。このように、車輪5の回転を止めようとするのではなく、レール上面101aにブレーキ部材25,26を摩擦させる方式により、逸走時(緊急時)にも台車1の安定した制動を図ることができる。
【0035】
すなわち、この種の積荷の搬送台車は、例えば通常の電車等に比較して極めて重量が小さので、逸走時に車輪5の回転を急激に止めれば、制動中の台車の挙動が安定しにくく、転倒のおそれもある。特に、積荷を搭載していないときには、台車の制動中の不安定性は顕著になる。従って、車輪5の回転を止めようとするのではなく、レール上面101aにブレーキ部材25,26を摩擦させる方式の逸走防止装置11は、積荷の搬送台車には好適である。本発明者らの実験によっても、10km/hで逸走する台車1を安定して停止させられることが確認された。
【0036】
また、逸走防止装置11は、ブレーキ部材25,26がフック部23,24の係止解除により自重で下方に回動するといったように、シンプルな機械的な機構で構成されているので、動作不良の可能性も少なく緊急時における信頼性が高い。また、逸走防止装置11は、電気信号等による動作を含まないので、可燃性ガス等が存在する環境下のトンネル工事にも好適に使用できる。また、電気式の装置と比較して、台車1同士の連結時に例えば電気配線を接続するなどの準備が不要であるので、ヒューマンエラーでブレーキが作動しない等の可能性も低減することができる。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。例えば、実施形態では、4つの全部の車輪5a〜5dに対応させて、各々4個(合計8個)のブレーキ部材25,26を設けているが、このようなブレーキ部材は少なくとも1つ設ければよい。
【0038】
ブレーキ部材を1か所のみ設ける場合には、前輪5a,5bと後輪5c,5dとの間の位置で、且つ後輪5c,5dに近い側の位置にブレーキ部材を設けることが好ましい。後輪5c,5dの直前方に設けられたブレーキ部材25がこれに該当する。この位置に設けることにより、台車1が矢印A方向に逸走する場合に、台車1の比較的後ろ側でブレーキ部材25の制動力が発生するので、より安定した制動が可能になる。
【0039】
また、更に加えて2か所目に他のブレーキ部材を設ける場合には、前輪5a,5bと後輪5c,5dとの間の位置で、且つ前輪5c,5dに近い側の位置にブレーキ部材を設けることが好ましい。前輪5a,5bの直後方に設けられたブレーキ部材26がこれに該当する。この位置に設けることにより、台車1が矢印A方向とは反対側に(後進方向)に逸走する場合も、台車1の進行方向の比較的後ろ側でブレーキ部材26の制動力が発生するので、より安定した制動が可能になる。
【符号の説明】
【0040】
1…台車、3…車体、5,5a,5b,5c,5d…車輪、11…逸走防止装置、20…制動部、21,22…ガイド板(ガイド部)、23,24…フック部(ガイド部)、25,26…ブレーキ部材、29,30…支軸(ブレーキ部材の回動軸)、31a,32a…アルミ板底面(摺動面)、101…レール、101a…レール上面。