【実施例】
【0051】
尿中の微小胞
実施例1:腎細胞は多胞体を含む
腎細胞が微小胞を分離放出するか否かについて検査するために、本発明者らは透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、腎細胞が微小胞を生じる元となる多胞体を含むか否かを判定した。ラット腎臓を、2.0%グルタルアルデヒドを含む0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液、pH 7.4(Electron Microscopy Sciences, PA)による血管内灌流によって固定し、腎臓切片を4℃で一晩かけてさらに固定した。試料切片を0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液ですすぎ洗いして、1.0%四酸化オスミウムを含むカコジル酸緩衝液中室温で1時間後固定し、再び緩衝液ですすぎ洗いした後に、蒸留水(dH
2O)ですすぎ洗いして、2.0%酢酸ウラニルの水溶液中で、室温で1時間一括染色した。試料を蒸留水ですすぎ洗いし、100%までの段階的な一連のエタノールによって脱水した。Epon:エタノールの1:1溶液中での一晩浸漬によって、試料にEpon樹脂(Ted Pella, CA)を浸透させた。翌日に試料を新たなEpon中に入れて数時間おき、60℃のEpon中に一晩おいて包埋した。薄切片を、Reichert Ultracut Eウルトラミクロトームで切り出し、ホルムバールでコーティングしたグリッド上に集め、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色した。試料をJEOL JEM 1011透過型電子顕微鏡において80kVで検査した。画像は、AMT(Advanced Microscopy Techniques, MA)デジタル画像システムを用いて収集した。
図1に示されている通り、MVBの透過型電子顕微鏡(TEM)画像が、ラット腎組織細胞で認められる。多胞体(MVB)は、有足細胞、近位尿細管、細い下行脚、太い上行脚、集合管主細胞および集合管介在細胞を含む、ネフロンおよび集合管のさまざまな領域で同定することができる。このことは、エキソソームが確かに、ネフロンのさまざまな領域、さらには集合管の介在細胞および主細胞の両方から放出されうることを実証している。
【0052】
実施例2:微小胞は尿中に存在する
微小胞それ自体を検査するために、本発明者らはヒト尿中微小胞をTEMによって検査した。ヒト尿は、Massachusetts General Hospitalの承認済みのIRBガイドラインに従って得た。その後尿を、尿の4℃、300gでの10分間の遠心分離、上清の4℃、17,000gでの20分間の遠心分離、および0.8μmフィルター(硝酸セルロース膜フィルターユニット、Nalgene, NY)に通す上清の濾過という三段階からなる方法によって前処理した。または尿を、事前の遠心分離段階を行わずに0.8μmフィルターに直接通す一段階濾過によって前処理した。いずれの場合にも、濾液をその後4℃、118,000gでの70分間の超遠心分離にかけ、上清を除去して、微小胞を含有するペレットをPBSで洗浄し、4℃、118,000gで70分間かけて再びペレット化した。
【0053】
超遠心分離法の代わりに、濾過濃縮を用いて、前処理した試料から微小胞も単離した。濾液濃縮器(100kDa MWCO)(Millipore, MA)を製造元の指示に従って調製した。前処理した濾液を濾過濃縮器に添加して、室温、4,000gで4分間遠心分離した。15ml PBSでの洗浄段階も含めた。
【0054】
微小胞ペレットを、4%パラホルムアルデヒドを含むdH
2Oにより1:1で固定した。10μlの小滴を、ホルムバールでコーティングした200メッシュ金グリッドの上にピペットで注ぎ、1分後に取り除いた。試料をdH
2Oの小滴で2回すすぎ洗いした。2.0%リンタングステン酸(PTA)水溶液を10秒間適用し(10μl)、取り除いて、dH
2Oで1回すすぎ洗いした。試料をJEOL JEM 1011透過型電子顕微鏡において80kVで検査した。画像は、AMT(Advanced Microscopy Techniques, MA)デジタル画像システムを用いて収集した。
図2に示されている通り、このペレットは確かに微小胞に富んでいた。TEM画像において、微小胞は一緒に凝集しているかまたは単独のままである場合もあった。
【0055】
生物試料からの核酸抽出のための改良された方法
実施例3:微小胞単離のために超遠心分離を濾過濃縮器に置き換えることができる。
本発明者らはここで、濾過濃縮器により、超遠心分離法と同様に、RNA抽出のために実効性のある微小胞がもたらされることを示す。本発明者らは、実施例2に記載した通り、75mlの尿を4℃、300gで10分間および4℃、17,000gで20分間の遠心分離によって前処理し、その後0.8μmフィルターに通して濾過した。本発明者らは次に、100kDa MWCOの濾過濃縮器(Millipore, MA)により、および超遠心分離により微小胞を単離したが、その際、微小胞外の核酸混入物を除去するために、いずれもそれぞれRNアーゼ消化を伴うこと、ならびにDNアーゼ消化を伴うおよび伴わないこととした。
図3および4に示されている通り、超遠心分離法および濾過濃縮法により、75mlの尿試料から同程度のRNA濃度がもたさられ、超遠心分離(
図4)では410±28pg/μlであり、濾過濃縮器(
図3)では381±47pg/μlであった(平均±SD)。2つの収量の間に統計的な有意差はない。これらのデータは、濾過濃縮器の使用が、RNA分析のために尿中微小胞を単離するための信頼性の高い方法であることを実証している。
【0056】
実施例4:0.8μm前濾過段階のみによる試料の前処理は微小胞単離の目的には十分である
さらに、本発明者らは、0.8μm前濾過段階のみによる尿前処理が低速遠心分離段階を含む方法と同程度に有効であったことから、300gおよび17,000gでの低速遠心分離段階を省きうることを見いだした。
図5および6に示されている通り、低速遠心分離を0.8μm前濾過と併用する方法を用いた核酸プロファイル(A)は、0.8μm前濾過のみの方法を用いたプロファイル(B)と同じである。
【0057】
実施例5:有害因子の除去または緩和を含む方法による尿中微小胞からの核酸抽出
本発明者らは、微小胞からの核酸抽出のための改良された方法を用いた。この方法では、本発明者らは、微小胞膜を破壊する前に、質の良い核酸抽出物に対する有害因子を除去した。
図7に示されている通り、尿試料100を、0.8μmフィルター膜110に通して濾過することによって前処理した。その後、詳細は実施例2に記載したものと同様にして、濾液中の微小胞を超遠心分離または濾過濃縮のいずれかによって単離した120。単離された微小胞を、その後、微小胞の内部に含まれない核酸を除去するためのRNアーゼおよび/またはDNアーゼ消化に供した130。具体的には、微小胞を1μl/mlのRNアーゼA(DNアーゼおよびプロテアーゼ非含有)(Fermentas, MD)を含むPBS中に再懸濁させ、37℃で1時間インキュベートした。試料を、PBS中で118,000g、70分間かけて再びペレット化した。DNアーゼI消化については、ペレットを、500μlのPBS、およびRDD緩衝液(製造元の指示に従って)で希釈したDNアーゼI(RNアーゼ非含有)(Qiagen, CA)中に再懸濁させて、室温で10分間インキュベートした。試料をPBS中118,000gで70分かけて再びペレット化した。濾過濃縮器により単離した微小胞のRNアーゼAおよびDNアーゼIの消化については、同じ濃度のRNアーゼおよびDNアーゼを用いて、濾過濃縮器内でインキュベーションを行った。その後、例えば、15mlのPBSのみを用いるか、またはプロテアーゼ処理と併用する、3回の再懸濁/洗浄といった、抽出増強の段階140を実施した。微小胞を単離し、ヌクレアーゼで消化して、プロテアーゼで処理した後に、核酸を抽出した150。RNA抽出は、RNeasy Micro kit(Qiagen, CA)を製造元の指示に従って用いて実施した。手短に述べると、350μlのRLT緩衝液(RLT 1ml当たり10μlのβ-メルカプトエタノール)を用いてエキソソームを溶解させ、16μlのヌクレアーゼ非含有水を溶出のために用いた。RNeasy Plus Micro kit(Qiagen, CA)はゲノムDNA(gDNA)を除去するために設計されており、これを製造元の指示に従って行い、16μlのヌクレアーゼ非含有水中に溶出させた。RNeasy Micro kitまたはRNeasy Plus Micro kitを用いる低分子RNAの単離については、製造元の指示に従ってmiRNA単離方法が続けられた。単離されたRNAを、Agilent BioAnalyzer(Agilent. CA)を用いてRNA Pico 6000チップ(Agilent, CA)にて分析し160、それにより、試料の電気泳動プロファイルおよび対応する「擬似ゲル」を作製した。
【0058】
図8および9に示されている通り、尿中微小胞からのRNA抽出の質(収量および完全性の点で)は、微小胞の膜を破壊する前に、微小胞を処理するためにより多くのプロテアーゼを用いるほど高くなる。
図8では、20mlの尿中の微小胞由来の核酸を、RNA抽出にQiagen Qiamp minelute virus spin kitを用いた点を除き、上記の改良された方法を用いて抽出した。尿試料を濾過濃縮によって濃縮し、200μl PBS中に溶出させた。本明細書において、本発明者らは、1×プロテアーゼを0.027AUと;5×プロテアーゼを0.135AUと;10×プロテアーゼを0.27AUと;25×プロテアーゼを0.675AUと;および50×を1.35AUと定義する。プロテアーゼの濃度を5×(A)から10×(B)に上昇させると、より完全性の高い18S rRNAおよび28S rRNAのピークが観察された。同様に、
図9に示されている通り、より高濃度のプロテアーゼである25×(A)および50×(B)では、本発明者らは、低分子/miRNAレベルの上昇に加えて、18S rRNAおよび28S rRNAのより高度の完全性を観察した。これらのデータは、プロテアーゼの添加により、18S rRNAおよび28S rRNA、ならびに低分子RNAおよびマイクロRNAの収量および完全性を高めることができることを示唆している。本発明者らは、このプロテアーゼの効果がRNアーゼおよび他の阻害因子を消化して除去するその能力に起因しうると推測している。
【0059】
微小胞を複数回洗浄する段階を加えることも、尿中微小胞から抽出される核酸の質を劇的に改善する。洗浄段階は、尿中微小胞からの質の良い核酸の抽出を妨げる有害因子を有効に除去することができる。各20mlずつの尿試料を、上記の方法に若干の変更を加えたものに従って、4群で構成される核酸抽出試験に用いる。群1については、単離された微小胞を、いずれの中間段階も伴わずに核酸抽出のために直接用いた。群2については、核酸抽出の前に微小胞をRNアーゼ阻害剤で処理した。群3については、核酸抽出の前にいずれのRNアーゼ阻害剤処理も行わずに微小胞を洗浄した。群4については、微小胞を洗浄して、RNアーゼ阻害剤で処理した。
図38に示されている通り、群1の試験に関して、抽出された核酸の質は非常に不良であり、RINは3.63±2.3であり、RNA濃度は101.3±27.6pg/μlであった。群2の試験に関して(
図39)、抽出された核酸の質は群1の試験におけるものとおおむね同程度であり、RINは1.83±2.2であり、RNA濃度は101.6±88pg/μlであった。群3の試験に関して(
図40)、抽出された核酸の質は劇的に改良され、RINは9.2±0.0であり、RNA濃度は347.7±97.7pg/μlであった。群4の試験に関して(
図41)、抽出された核酸の質は群3におけるものと同程度であり、RINは7.43±0.2であり、RNA濃度は346.3±32.7pg/μlであった。これらのデータにより、洗浄段階を伴わない場合、微小胞からの抽出物の質は一貫性がなく、核酸抽出の前に微小胞を洗浄した抽出物よりもばらつきが相対的に大きかった。
【0060】
実施例6:血清中微小胞からの核酸抽出のためのRNアーゼ阻害剤の使用
上記の改良された方法を用いることで、血清中微小胞から質の良い核酸抽出物を得ることもできる。ここで、本発明者らは黒色腫患者および正常患者の両方の血清から血清を得、かつRNアーゼ阻害剤カクテルSUPERase-In(商標)(Ambion, Inc.)を用いて、微小胞ペレットを再懸濁によって処理した。試験の1つのバッチでは、本発明者らは、2通りの1ml黒色腫血清試料4つから微小胞を単離し、最終濃度1.6単位/μlのSUPERase-Inで微小胞ペレットを処理した。微小胞の単離方法は超遠心分離であり、微小胞ペレットをDNアーゼにより室温で20分間処理した。
図10〜13に示されている通り、4つの黒色腫血清試料からのRNA抽出の質は低い上に一貫性がなく、RNA収量はそれぞれ543pg/μl、607pg/μl、1084pg/μl、1090pg/μlであり、28s/18s比によって評価したRNA完全性は1.7、1.8、1.3および0.6であった。別の試験バッチで、本発明者らは、2通りの1ml黒色腫血清試料2つから微小胞を単離し、最終濃度3.2単位/μlのSUPERase-Inで微小胞ペレットを処理した。
図14および15に示されている通り、3.2単位/μlのSUPERase-Inで処理した2つの黒色腫血清試料からのRNA抽出物の質は、1.6単位/μlのSUPERase-Inで処理したものからのRNA抽出物の質よりも一般に良好であった。2つの黒色腫血清試料についてのRNA収量はそれぞれ3433pg/μlおよび781pg/μlであり、28S/18S比は1.4および1.5であった。
【0061】
さらに、本発明者らは、2通りの1ml正常血清試料4つの1.6単位/μlのSUPERase-Inでの処理、および2通りの1ml正常血清試料2つの3.2/μlのSUPERase-Inでの処理についても試験した。
図16〜19に示されている通り、1.6単位/μlのSUPERase-InでのRNA抽出物の質は低く、RNA収量はそれぞれ995pg/μl、1257pg/μl、1027pg/μlおよび1206pg/μlであり、28S/18S比は1.3、1.6、1.6、1.8であった。対照的に、
図20および21に示されている通り、3.2単位/μlのSUPERase-InでのRNA抽出物の質は高くなり、RNA収量はそれぞれ579pg/μlおよび952pg/μlであり、28S/18S比は1.6および2.3であった。
【0062】
実施例7:生物試料からの核酸抽出のための抽出増強物質の使用
実施例3および4において、本発明者らの試験結果は、抽出エンハンサーによる処理によって、微小胞からのRNA抽出物の質を高めうることを示唆している。そのような抽出エンハンサーは、他の生物試料に対しても同様の効果を有すると期待される。
図22に示されている通り、本発明における核酸抽出の新規の方法は、生物試料に対して抽出増強操作を実施する段階を必要とすると考えられる。そのような方法は、以下の構想上の核酸抽出実験によって例示しうる。医師がある患者に対して腫瘍バイオマーカーの試験を指示する。その後、5mlの血液をその患者から採取する。血液試料200を前処理して血清を得ることもある。その後増強操作210を行い、例えば、適量の抽出エンハンサーを血清に添加し、混合物を37℃で30分間インキュベートする。処理した血清から、その後、実施例5に詳述したものなどの定型的な抽出方法を用いて核酸を抽出し220、Agilent BioAnalyzerを用いて分析する230。そのような抽出は、生物試料から質の良い核酸を生成させると期待される。
【0063】
バイオマーカーとしての尿中微小胞由来の核酸
実施例8:尿微小胞には遊離した微小胞外の非細胞性DNAが混入している
本発明者らは、1つの尿試料を2つの25mlずつの試料に分け、かつ2つの部分試料(sub-sample)から、上記に詳述した通りの分画遠心法によって微小胞を単離した。1つの部分試料では、本発明者らは、微小胞をDNアーゼで処理し、処理された微小胞から、上記に詳述した通りに核酸を抽出した。別の部分試料では、本発明者らは、微小胞をDNアーゼで処理せず、未処理の微小胞から核酸を抽出した。
図23に示されている通り、遊離した微小胞外の非細胞性DNAが、単離された尿中微小胞に混入していた。RNeasy micro kitを核酸抽出のために用いた場合には(
図23AおよびB)、その結果により、未処理の試料(A)中には処理された試料(B)よりも多くの核酸が認められることが、(A)におけるピークが(B)におけるピークよりも一般に高かったことから示された。
【0064】
別の試験において、本発明者らは、血清試料を尿試料の代わりに用いた点を除き、同様の試験を実施した。
図24に示されている通り、遊離した微小胞外の非細胞性DNAは、単離された血清中微小胞にも混入していた。DNアーゼで処理していない試料(A)では、DNアーゼ処理した試料(B)よりも多くの核酸が認められることが、(A)におけるピークが(B)におけるピークよりも一般に高かったことから示された。同様に、MirVana kitを核酸抽出のために用いた場合にも、
図23(C)および(D)に示されている通り、その結果、未処理の試料(C)では処理した試料(D)よりも多くの核酸が認められることが、(C)におけるピークが(D)におけるピークよりも一般に高かったことから示された。未処理の試料由来の余剰の核酸は、
図24Cにおける擬似ゲル中に示されている通り、DNアーゼ感受性の高い「アポトーシス小体」様のラダーが認められたことから、DNアーゼ感受性の高い「アポトーシス小体」による可能性が高い。尿試料および血清試料のいずれにおいても、遊離した微小胞外の非細胞性DNAの量は対象毎に違いがあったが、このDNAのサイズはおよそ25〜1500塩基対の範囲内にあった。
【0065】
実施例9:尿中微小胞には遊離した微小胞外の非細胞性RNAがほとんど混入していない
本発明者らは、1つの尿試料を2つの25mlずつの試料に分け、かつ2つの部分試料から、上記に詳述した分画遠心法によって微小胞を単離した。1つの部分試料では、本発明者らは、微小胞をRNアーゼで処理し、処理された微小胞から、上記に詳述した通りに核酸を抽出した。別の部分試料では、本発明者らは、微小胞をRNアーゼで処理せず、未処理の微小胞から核酸を抽出した。
図25に示されている通り、単離された微小胞には、遊離した微小胞外の非細胞性RNAがほぼ全く混入していなかった。RNアーゼで処理していない試料(A)の曲線はRNアーゼで処理した試料(B)の曲線とほとんど重なり、このことは、単離された微小胞に遊離した微小胞外の非細胞性RNAに付随しないことを示唆している。これは、尿中にリボヌクレアーゼが存在することに起因する可能性がある。
【0066】
実施例10:Agilent BioAnalyzerによって測定された尿中微小胞および腎細胞における核酸プロファイルは類似している
本発明者らは、尿中微小胞および腎(腎臓)組織の両方から核酸を抽出し、それらのプロファイルを比較した。尿中微小胞からの抽出の方法は実施例5に詳述した通りであった。ラット腎臓試料をRNeasy Mini kitおよびRNeasy Plus kitにより加工処理した。ラット腎臓試料における低分子RNAの量を測定するために、それらも両方のキットにより、製造元の指示に従ったmiRNA単離方法を用いて加工処理した。
【0067】
図26に示されている通り、それらのプロファイル(A‐腎臓、B‐微小胞)は、18S rRNAおよび28S rRNAのピークの存在および完全性を含み、非常に類似していた。そのような18S rRNAおよび28S rRNAのピークは、以前に報告された血清由来または細胞培養液由来の微小胞においては認められていない。
【0068】
rRNAピークの類似性に加えて、尿中微小胞はまた、腎細胞から得られたものに類似する低分子RNAプロファイルも含んでいた。
図27に示されている通り、尿中微小胞(B)および腎組織(A)は両方とも、低分子RNA(約25〜200塩基対)を含んでおり、類似したパターンを有していた。
【0069】
これらのデータは、本発明において開示された新規の核酸抽出方法を用いることで、尿中微小胞におけるプロファイルを用いて、微小胞の由来となった腎細胞におけるプロファイルを検査しうることを示唆している。
【0070】
実施例11:尿微小胞におけるRNAプロファイルは全尿由来のものとは異なる
本発明者らは、尿中微小胞におけるRNAプロファイルが全尿由来のものとは異なることを発見した。本発明者らは2通りの75mlの尿試料を試験のために用いた。実施例5に詳述した段階に従って、まず尿の4℃での300g、10分間の前処理、上清の4℃での17,000g、20分間の遠心分離、および0.8μmフィルター(酢酸セルロース膜フィルターユニット、Nalgene, NY)に通す上清の濾過によって、RNAを尿中微小胞から単離した。全尿由来のRNAは、ZR尿RNA単離キット(Zymo Research, CA)を製造元の指示に従って用いて単離した。Zymoで加工処理した試料からDNAを除去するために、溶出したRNAを350μlのRLT緩衝液中に再懸濁させ、DNアーゼを用いて付随するDNAを排除するRNeasy Plus Micro kitにより加工処理し、かつ16μlのヌクレアーゼ非含有水中に溶出させた。
【0071】
図28に示されている通り、DNアーゼを用いなかった場合(A)には、ZR尿RNA単離キットを用いて大量の核酸を単離することができた。しかし、そのプロファイルは、幅広いプロファイルを見せ、18S rRNAおよび28S rRNAのピークを欠いていた。さらに、DNアーゼを用いた場合にはプロファイルが著しく変化し(B)、このことは抽出物の大部分が事実上はDNAであることを示唆している。対照的に、
図29に示されている通り、同一の尿試料由来の微小胞由来のRNAプロファイルは、全尿抽出物由来のプロファイルとは一般に非常に異なる。微小胞プロファイルには、18Sおよび28Sのピークが存在した。加えて、微小胞由来のRNAは全尿由来のものよりも豊富であった。本発明者らが、DNアーゼ処理を伴わないプロファイル(A)を、DNアーゼ処理を伴うプロファイル(B)と比較したところ、微小胞からの抽出物のDNアーゼ消化は、rRNAピークに著しい影響を及ぼさなかった。300gペレット(
図30)および17,000gペレット(
図31)由来のRNAプロファイルは、全尿抽出物由来のものと類似していた。本発明者らが、DNアーゼ処理を伴わないプロファイル(A)を、DNアーゼ処理を伴うプロファイル(B)と比較したところ、これらのプロファイルのいずれにおいても、DNアーゼ処理後にピークは大幅に低下した。これらのデータにより、DNAが抽出物中の主たる種であることが示唆され、18S rRNAおよび28S rRNAのピークは検出不能であった。したがって、実施例10におけるデータと総合すると、尿中微小胞由来のRNAプロファイルは、全尿由来のプロファイルよりも腎細胞プロファイルに類似している。さらに、微小胞からのRNA抽出の完全性は、全尿からのものよりも少なくとも10倍優れていた。
【0072】
実施例12:尿中微小胞はRNAおよびDNAの両方を含む
本発明者らは、尿中微小胞がRNA、DNAまたはその両方を含むか否かについて、遊離した微小胞外の非細胞性混入物を除去するためにペレットをまずRNアーゼおよびDNアーゼの両方によって処理し、その後にカラムによる核酸単離の際に微小胞内核酸のRNアーゼおよび/またはDNアーゼ消化を行うことによって判定した。RNアーゼ消化(B)は、RNアーゼ消化を伴わないもの(A)と比較して、核酸プロファイルをほぼ完全に消失させた(
図32)。これらのデータは、RNAが微小胞内に最も豊富に存在する核酸であることを示唆している。
図33に示されている通り、RNアーゼで処理した試料のDNアーゼによるオンカラム消化後(B)には、20秒直後のピークが、さらなるDNアーゼ消化の前のピーク(A)と比較して、内部のさらなるDNアーゼ消化後に低下している。この低下により、少量のDNアーゼで消化可能な材料、おそらくDNAが微小胞内部に存在したことが実証された。
【0073】
実施例13:尿中微小胞はネフロンおよび集合管のさまざまな領域由来の特定の遺伝子をコードしているmRNA転写物を含む
実施例10で示された通り、核酸プロファイルは、Agilent BioAnalyzerによる測定では尿中微小胞および腎細胞において類似している。ここで本発明者らはさらに、微小胞が、ネフロンおよび集合管のさまざまな領域からの特定の遺伝子をコードするmRNA転写物を含むことを示す。4人のヒト対象(年齢が23〜32歳)からの200mlの尿から尿中微小胞を単離して、実施例5に詳述した通りに、エキソソーム溶解およびRNA抽出の前に、RNアーゼおよびDNアーゼで消化した。抽出されたRNAを、RiboAmp(Molecular Devices, CA)を用いる2回のmRNA増幅に供した。インビトロ転写段階の1回目のリボ増幅(riboamplification)のためには、試料を42℃で4時間インキュベートし、第2のインビトロ転写段階については、試料を42℃で6時間インキュベートした。増幅されたRNAを、65℃で5分間変性させ、Qiagen Omniscriptプロトコール(Qiagen, CA)に記載された通りに第一鎖cDNA合成に供した。すべての試料でGAPDH遺伝子およびβ-アクチン遺伝子の両方が同定された(
図34A)。本発明者らは、ネフロンおよび集合管のさまざまな領域に特徴的な15種の転写物を調べた(
図34B)。これらには、糸球体由来のポドシン、近位尿細管由来のキュビリンおよび集合管由来のアクアポリン2を含む、さまざまな腎疾患における関与が示されているタンパク質および受容体が含まれる。
【0074】
ヒト試料の場合に、用いたPCRプライマーは、ACTB UTR、
であった。「UTR」とはUTR内に設計されたプライマーのことを指し、「EX」とは複数のエクソンにわたるように設計されたプライマーのことを指す。PCRプロトコールは、94℃ 5分間;94℃ 40秒間;55℃ 30秒間;65℃ 1分間を30サイクル;および68℃ 4分間であった。マウス試料の場合に、用いたプライマーは、
であった。PCRプロトコールは、94℃ 5分間;94℃ 40秒間;55℃ 30秒間;65℃ 1分間を30サイクル;および68℃ 4分間であった。
【0075】
図34のパネルAに示されている通り、β-アクチンおよびGAPDHのRiboAmpで増幅したmRNA転写物は、4人のヒト対象由来の尿中微小胞におけるBioAnalyzerで作製した擬似ゲルにおいて容易に検出可能であった。説明のために、ネフロンおよび集合管の6つの領域を
図34のパネルBに示している。尿エキソソームからRiboAmpで増幅したmRNAのRT-PCR分析の結果として、6つの領域において以下の転写物も容易に検出可能である:領域1 糸球体:NPHS2‐ポドシン、LGALS1‐ガレクチン-1、およびHSPG2‐ヘパラン硫酸プロテオグリカン(
図35);領域2 近位尿細管:CUBN‐キュビリン、LRP2‐メガリン、AQP1‐アクアポリン1、CA4‐カルボニックアンヒドラーゼ4、およびCLCN5‐塩素チャンネルタンパク質5(
図35);領域3 細い下行脚:BDKRB1‐ブラジキニンB1受容体(
図36);領域4 髄質の太い上行脚:CALCR‐カルシトニン受容体、およびSCNN1D‐アミロライド感受性ナトリウムチャンネルサブユニットδ(
図36);領域5 遠位曲尿細管:SLC12A3‐サイアザイド感受性ナトリウムクロライド共輸送体(
図36);領域6 集合管:AQP2‐アクアポリン2、ATP6V1B1‐vATPアーゼB1サブユニット、およびSLC12A1‐腎臓特異的Na-K-Clシンポーター(
図36)。
【0076】
従って、検査したすべての腎領域からのmRNA転写物を同定することができたが、このことはmRNAを含む微小胞がネフロンおよび集合管のすべての領域から放出されたこと、ならびに微小胞が腎疾患に関する核酸バイオマーカーの新規で非侵襲的な供給源となりうることを示唆している。
【0077】
実施例14:尿中微小胞の内部のいくつかのmRNA転写物は腎細胞に対して特異的である
微小胞内の核酸を、疾患において腎遺伝子を非侵襲的に検査するために用いる場合には、微小胞内の転写物は腎細胞に対して特異的であるべきである。ここでは本発明者らは、mRNA転写物が腎細胞に対して特異的であることを示す。本発明者らは、V-ATPアーゼB1サブユニットが存在しないノックアウトマウスを用いた。V-ATPアーゼB1サブユニットの欠如はマウスにおける腎性アシドーシスを招く(Finberg KF, Wagner CA, Bailey MA, et al., The B1-subunit of the H(+) ATPase is required for maximal urinary acidification. Proc Natl Acad Sci USA 102:13616-13621, 2005)。
【0078】
動物実験はすべて、Massachusetts General Hospitalの承認済みの動物倫理ガイドラインに従って行った。V-ATPアーゼB1サブユニットのノックアウト動物が記載されている(Finberg KF, Wagner CA, Bailey MA, et al., The B1-subunit of the H(+) ATPase is required for maximal urinary acidification. Proc Natl Acad Sci USA 102:13616-13621, 2005)。尿収集のためには、マウスを2匹ずつの群として72時間の期間(ケージ1つ当たりに動物1匹を入れても十分なRNAを得ることができる)、代謝ケージに入れ(n=1群当たりマウス4匹)、かつヒト尿については上記の通り尿を微小胞単離および分析のために収集した。腎臓抽出のためには、動物にペントバルビタールナトリウム(ネンブタール)(Abbott Laboratories, IL)(65mg/kg体重、腹腔内)で麻酔を施し、腎臓を直ちに摘出して、液体窒素中で凍結させた。液体窒素槽中において乳棒および乳鉢を用いて凍結腎臓をすり砕き、RNAlater(Qiagen, CA)中に再懸濁させて、1mlずつのアリコートとして-80℃で保存した。RNA抽出のためには、1つのアリコートを氷上で解凍し、50μlを350μlのRLT緩衝液(RLT 1ml当たり10μlのβ-メルカプトエタノールを含む)中に溶解させた。マウス腎臓試料を、DNA消化段階を含めてRNeasy Mini kit(Qiagen, CA)により加工処理した。
【0079】
リアルタイムPCR分析のためには、マウス尿中微小胞から抽出されたRNAを65℃で5分間変性させ、Qiagen Sensiscriptプロトコール(Qiagen, MD)に記載された通りに第一鎖cDNA合成に供した。Sensiscript逆転写のためには、オリゴ-dTプライマーを最終濃度1μMで用いた(Applied Biosystems, CA)。その結果生じたcDNAを、TaqMan PreAmp Master Mix Kitに、14サイクルの前増幅を用い、製造元のガイドに従って用いた(Applied Biosystems, CA)。前増幅産物を、その後、1×TE緩衝液(Promega, WI)で1:20に希釈した。その結果生じたcDNAを、その後、Taqman Preamplificationガイド(Applied Biosystems, CA)に従って、リアルタイムPCRのためのテンプレートとして用いた。マウス腎臓RNA濃度はSmartSpec 3000(Bio-Rad, CA)で測定し、すべての試料を90ng/μlに希釈した。マウス腎臓RNAを65℃で5分間変性させ、Qiagen Omniscriptプロトコール(Qiagen, MD)に記載された通りに第一鎖cDNA合成に供した。Omniscript逆転写においては、オリゴ-dTプライマーを最終濃度1μMで用い(Applied Biosystems, CA)、その結果生じたcDNAを、次に1ウェル当たり1μlずつ、その後のリアルタイムPCR反応に用いた。リアルタイムPCR反応は、ABI 7300 Real Time PCR System(Applied Biosystems, CA)上で、TaqMan Gene Expression Master MixおよびExpression Assays(マウスGAPD Part Number 4352339EおよびマウスAtp6vlb2 assay id Mm0043 1996_mH)を用いて行った。
【0080】
本発明者らは、ノックアウトマウスの腎臓組織ならびに尿中微小胞からRNAを抽出した。本発明者らは、V-ATPアーゼB1サブユニットおよびアクアポリン2(AQP2)のmRNAの発現を、RT-PCRを用いて検査した。
図37のパネルAに示されている通り、V-ATPアーゼB1サブユニット転写物は、二重突然変異体マウス(B1-/-)由来の腎臓試料および尿中微小胞試料のいずれにおいても検出されず、このことはV-ATPアーゼB1サブユニット遺伝子がこれらのマウスでノックアウトされているという事実に一致する。対照的に、V-ATPアーゼB1サブユニット転写物は、野生型マウス(B1/+/+)由来の腎臓試料および微小胞試料に存在した。AQP2 mRNAは、B1ノックアウトマウスまたは野生型マウスのいずれのマウスでも腎臓試料および微小胞試料の両方で容易に検出されたが、このことはV-ATPアーゼB1サブユニットの欠失がAQP2の発現に影響を及ぼさないため予想通りである。さらに、
図37のパネルBに示されている通り、B1ノックアウト由来の微小胞におけるV-ATPアーゼB2サブユニットの発現レベルは、野生型マウス由来の微小胞におけるレベルと統計的な差はなかった。ノックアウトマウス由来の腎細胞におけるV-ATPアーゼB2サブユニットの発現レベルと、野生型マウス由来の腎細胞におけるレベルの比較においてもそうであった。このことからみて、腎細胞内に存在する転写物は腎細胞によって分泌された尿中微小胞において検出することができ、腎細胞内に存在しない転写物は腎臓細胞によって分泌された尿中微小胞内に検出することができない。したがって、尿中微小胞における転写物は腎細胞に対して特異的であり、腎細胞転写物に関する非侵襲的なバイオマーカーである。
【0081】
実施例15:尿中微小胞は非コード性RNA転写物を含む
実施例5において詳述した上記の方法に従って、尿中微小胞を単離し、核酸を抽出した。本発明者らは尿中微小胞RNAのディープシークエンシングを実施し、いくつかの特定の染色体上に、極度の転写を呈するランダムな領域があることを見いだした。転写物の数を染色体上の位置に対してプロットしたところ、これらの転写物は「スパイク」として出現した。これらの転写物は、GAPDHまたはアクチンなどの周知の内因性マーカーよりも豊富に発現され、一般的には染色体の非コード領域にあった。これらのスパイク配列の発現レベルが相対的に高いことは、これらの配列が染色体活性化および細胞調節においても重要な役割を果たしている可能性を示唆する。
【0082】
本発明者らは、500個超のスパイクがみられた29個の領域を同定した。この29個の領域は、
図42に示されており、SEQ ID NO. 1〜29に対応する。これらの29個の領域における、プロットされたスパイクは
図45〜73に示されている。最も高度に発現されたスパイク転写物の配列のPCR分析により、それらがヒト尿中微小胞およびヒト腎細胞の両方に確かに存在することが実証され、このことは、これらの配列がディープシークエンシングの人工産物ではないことを示唆する。スパイクに富むそのような10個の領域を増幅するために用いたプライマーは、
図43に示されている。PCRは以下のプログラムに従って実施した:95℃での8分間の初期変性;95℃で40秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリングおよび65℃で1分間の伸長という3段階を30サイクル;68℃で5分間の最終伸長;ならびに反応のBioAnalyzer分析まで4℃で保持。
図44に示されている通り、これらの10個の領域のそれぞれの増幅は、ヒト尿中微小胞(A)およびヒト腎細胞(B)のいずれにおけるテンプレートを用いた場合も陽性の結果をもたらし、このことはこれらのスパイク転写物が確かに微小胞およびヒト腎細胞の内部に存在することを示唆する。
【0083】
これらの豊富に存在するスパイク転写物を用いることで、生物試料からの核酸抽出物の質を評価することができる。例えば、GAPDHまたはアクチンのポリヌクレオチド分子といった一般的なマーカーの代わりに、いずれかのスパイク転写物の量を、尿中微小胞由来の核酸の質を評価するために用いることができる。尿中微小胞におけるGAPDHまたはアクチンのRNAの量は非常に少ないため、それらの量を測定するためには、余分な増幅段階、例えばRiboAMPが必要であった。対照的に、いずれの1つのスパイク転写物の量も非常に多いため、余分な増幅段階は必要でなかった。したがって、これらのスパイク転写物の使用により、核酸抽出物の質の評価をより効率的かつより簡単に行うことができる。このため、本明細書に記載された本発明の別の局面は、生物試料、例えばヒト尿試料からの核酸抽出物の質を評価する新規の方法である。本方法は、生物試料から核酸を抽出することによって達成し、いずれかのスパイク転写物の量を測定し、その量を、その特定の生物試料に関して確立された標準と比較することによって遂行することができる。そのような標準の確立は、例えば、経験豊かなバイオテクノロジー専門家によって行われた、10個の正常ヒト尿試料から抽出されたそのようなスパイク転写物の平均量であってもよい。
【0084】
本発明をいくつかの特定の態様を参照しながら開示してきたが、記載された態様に対する数多くの修正、変更および変化が、添付の特許請求の範囲において規定される本発明の領域および範囲から逸脱することなく可能である。したがって、本発明は、記載された態様に限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲、特許請求の範囲の言葉およびその同等物により規定された全範囲を有するものとする。
【0085】
参照文献