(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明は、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へ誘導する方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK1)活性化剤と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、(Z)-5-(4-クロロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS48」)、(Z)-5-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS08」)、2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸、(Z)-5-(ナフタレン-2-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「12Z」)、または(Z)-5-(1H-インドール-3-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「13Z」)である。
【0004】
いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、例えば、A-83-01と接触させる工程をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、MEK阻害剤、例えば、PD0325901と接触させる工程をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)またはバルプロ酸(VPA)と接触させる工程をさらに含む。
【0005】
いくつかの態様において、方法は、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK1)活性化剤と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、条件は、少なくとも1種の外因性転写因子を非多能性細胞へ導入することを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子はポリペプチドを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子はOctポリペプチドを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、OctポリペプチドおよびKlfポリペプチドからなる群より選択されるタンパク質を含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択されるタンパク質を含む。いくつかの態様において、条件は、各々、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される異なるタンパク質を含む、少なくとも2種、3種、または4種の外因性転写因子を非多能性細胞へ導入することを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子をコードするポリヌクレオチドを非多能性細胞へ導入し、それにより、転写因子を非多能性細胞において発現させることにより、外因性転写因子が導入される。いくつかの態様において、外因性転写因子を非多能性細胞と接触させることにより、外因性転写因子が導入される。いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0006】
いくつかの態様において、非多能性細胞はヒト細胞である。いくつかの態様において、、非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への変換を誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導の効率を少なくとも10%改良するのに十分な濃度で、PDK1活性化剤が存在する。
【0007】
いくつかの態様において、方法は、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK1)活性化剤と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、MEK阻害剤の非存在下で、PDK1活性化剤と接触させ、続いて、非多能性細胞を、PDK1活性化剤およびMEK阻害剤と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、MEK阻害剤の非存在下で、PDK1活性化剤、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤と接触させ、続いて、非多能性細胞を、PDK1活性化剤、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、およびMEK阻害剤と接触させる工程を含む。
【0008】
いくつかの態様において、方法は、多能性細胞の均質な集団を生成するため、多能性細胞を精製する工程をさらに含む。いくつかの態様において、複数種の多能性幹細胞が誘導される場合、方法は、多能性幹細胞の均質な集団を生成するため、多能性幹細胞を精製する工程をさらに含む。
【0009】
もう一つの局面において、本発明は、哺乳動物細胞と、PDK1活性化剤と、(1)TGFβ受容体/ALK5阻害剤;(2)MEK阻害剤;(3)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または(4)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の外因性転写因子:のうちの一つまたは複数と:を含む混合物を提供する。
【0010】
いくつかの態様において、混合物中の細胞の少なくとも99%が非多能性細胞である。いくつかの態様において、本質的に全ての細胞が非多能性細胞である。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞である。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、(Z)-5-(4-クロロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS48」)、(Z)-5-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS08」)、2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸、(Z)-5-(ナフタレン-2-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「12Z」)、または(Z)-5-(1H-インドール-3-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「13Z」)である。いくつかの態様において、混合物は、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、例えば、A-83-01をさらに含む。いくつかの態様において、混合物は、MEK阻害剤、例えば、PD0325901をさらに含む。いくつかの態様において、混合物は、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)またはバルプロ酸(VPA)をさらに含む。
【0011】
いくつかの態様において、混合物は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される外因性転写因子をさらに含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、細胞の誘導多能性幹細胞への変換を誘導するのに十分な条件の下で、混合物中の非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導の効率を少なくとも10%改良するのに十分な濃度で、混合物中のPDK1活性化剤が存在する。
【0012】
さらにもう一つの局面において、本発明は、PDK1活性化剤と、(1)TGFβ受容体/ALK5阻害剤;(2)MEK阻害剤;(3)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または(4)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の転写因子:のうちの一つまたは複数と:を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキットを提供する。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、(Z)-5-(4-クロロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS48」)、(Z)-5-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS08」)、2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸、(Z)-5-(ナフタレン-2-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「12Z」)、または(Z)-5-(1H-インドール-3-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「13Z」)である。いくつかの態様において、キットは、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、例えば、A-83-01をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、MEK阻害剤、例えば、PD0325901をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)またはバルプロ酸(VPA)をさらに含む。
【0013】
いくつかの態様において、キットは、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される外因性転写因子をさらに含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0014】
さらにもう一つの局面において、本発明は、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へ誘導する方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を、解糖代謝を促進する化合物と接触させ、それにより、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へ誘導する工程を含む。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、PDK1活性化剤である。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、PS48、PS08、12Z、または13Zである。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖活性化剤、例えば、フルクトース2,6-二リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖の基質、例えば、フルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖中間体またはその代謝前駆物質、例えば、ニコチン酸、NADH、またはフルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、グルコース取り込み輸送体活性化剤である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ミトコンドリア呼吸モジュレーターである。いくつかの態様において、ミトコンドリア呼吸モジュレーターは、酸化的リン酸化阻害剤、例えば、2,4-ジニトロフェノールまたは2-ヒドロキシグルタル酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、低酸素誘導因子活性化剤、例えば、N-オキサロイルグリシンまたはケルセチンである。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、例えば、A-83-01と接触させる工程をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、MEK阻害剤、例えば、PD0325901と接触させる工程をさらに含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)またはバルプロ酸(VPA)と接触させる工程をさらに含む。
【0015】
いくつかの態様において、方法は、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を、解糖代謝を促進する化合物と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、条件は、少なくとも1種の外因性転写因子を非多能性細胞へ導入することを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子はポリペプチドを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子はOctポリペプチドを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、OctポリペプチドおよびKlfポリペプチドからなる群より選択されるタンパク質を含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択されるタンパク質を含む。いくつかの態様において、条件は、各々、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される異なるタンパク質を含む、少なくとも2種、3種、または4種の外因性転写因子を非多能性細胞へ導入することを含む。いくつかの態様において、外因性転写因子をコードするポリヌクレオチドを非多能性細胞へ導入し、それにより、転写因子を非多能性細胞において発現させることにより、外因性転写因子が導入される。いくつかの態様において、外因性転写因子を非多能性細胞と接触させることにより、外因性転写因子が導入される。いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0016】
いくつかの態様において、非多能性細胞はヒト細胞である。いくつかの態様において、非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への変換を誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導の効率を少なくとも10%改良するのに十分な濃度で、解糖代謝を促進する化合物が存在する。
【0017】
いくつかの態様において、方法は、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を、解糖代謝を促進する化合物と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、解糖代謝を促進する化合物およびMEK阻害剤と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、MEK阻害剤の非存在下で、解糖代謝を促進する化合物と接触させ、続いて、非多能性細胞を、解糖代謝を促進する化合物およびMEK阻害剤と接触させる工程を含む。いくつかの態様において、方法は、非多能性細胞を、MEK阻害剤の非存在下で、解糖代謝を促進する化合物、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤と接触させ、続いて、非多能性細胞を、解糖代謝を促進する化合物、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、およびMEK阻害剤と接触させる工程を含む。
【0018】
いくつかの態様において、方法は、多能性細胞の均質な集団を生成するため、多能性細胞を精製する工程をさらに含む。いくつかの態様において、複数種の多能性幹細胞が誘導される場合、方法は、多能性幹細胞の均質な集団を生成するため、多能性幹細胞を精製する工程をさらに含む。
【0019】
さらにもう一つの局面において、本発明は、哺乳動物細胞と、解糖代謝を促進する化合物と、(1)TGFβ受容体/ALK5阻害剤;(2)MEK阻害剤;(3)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または(4)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の外因性ポリペプチドのうちの一つまたは複数と:を含む混合物を提供する。いくつかの態様において、混合物中の細胞の少なくとも99%が最初は非多能性細胞である。いくつかの態様において、細胞の本質的に全てが最初は非多能性細胞である。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、PDK1活性化剤である。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、PS48、PS08、12Z、または13Zである。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖活性化剤、例えば、フルクトース2,6-二リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖の基質、例えば、フルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖中間体またはその代謝前駆物質、例えば、ニコチン酸、NADH、またはフルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、グルコース取り込み輸送体活性化剤である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ミトコンドリア呼吸モジュレーターである。いくつかの態様において、ミトコンドリア呼吸モジュレーターは、酸化的リン酸化阻害剤、例えば、2,4-ジニトロフェノールまたは2-ヒドロキシグルタル酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、低酸素誘導因子活性化剤、例えば、N-オキサロイルグリシンまたはケルセチンである。いくつかの態様において、混合物は、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、例えば、A-83-01をさらに含む。いくつかの態様において、混合物は、MEK阻害剤、例えば、PD0325901をさらに含む。いくつかの態様において、混合物は、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)またはバルプロ酸(VPA)をさらに含む。
【0020】
いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、細胞の誘導多能性幹細胞への変換を誘導するのに十分な条件の下で、混合物中の非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導の効率を少なくとも10%改良するのに十分な濃度で、混合物中の解糖代謝を促進する化合物が存在する。
【0021】
さらにもう一つの局面において、本発明は、解糖代謝を促進する化合物と、(1)TGFβ受容体/ALK5阻害剤;(2)MEK阻害剤;(3)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または(4)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の転写因子;またはOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される転写因子をコードするポリヌクレオチドのうちの一つまたは複数と:を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキットを提供する。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、PDK1活性化剤である。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、PS48、PS08、12Z、または13Zである。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖活性化剤、例えば、フルクトース2,6-二リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖の基質、例えば、フルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖中間体またはその代謝前駆物質、例えば、ニコチン酸、NADH、またはフルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、グルコース取り込み輸送体活性化剤である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ミトコンドリア呼吸モジュレーターである。いくつかの態様において、ミトコンドリア呼吸モジュレーターは、酸化的リン酸化阻害剤、例えば、2,4-ジニトロフェノールまたは2-ヒドロキシグルタル酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、低酸素誘導因子活性化剤、例えば、N-オキサロイルグリシンまたはケルセチンである。いくつかの態様において、キットは、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、例えば、A-83-01をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、MEK阻害剤、例えば、PD0325901をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)またはバルプロ酸(VPA)をさらに含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0022】
定義
「Octポリペプチド」とは、オクタマー転写因子ファミリーの天然に存在するメンバー、または転写因子活性、例えば、最も近縁の天然に存在するファミリーメンバーと比較して少なくとも50%、80%、もしくは90%の活性を維持しているその異型、または天然に存在するファミリーメンバーのDNA結合ドメインを少なくとも含み、転写活性化ドメインをさらに含んでいてもよいポリペプチドのいずれかをさす。例示的なOctポリペプチドには、Oct-1、Oct-2、Oct-3/4、Oct-6、Oct-7、Oct-8、Oct-9、およびOct-11が含まれる。例えば、(本明細書中、「Oct4」と呼ばれる)Oct3/4は、Pit-1、Oct-1、Oct-2、およびuric-86の間で保存された150アミノ酸配列POUドメインを含有している。Ryan,A.K.& Rosenfeld,M.G.Genes Dev.11,1207-1225(1997)を参照のこと。いくつかの態様において、異型は、上にリストされたもののような、またはGenbankアクセッション番号NP_002692.2(ヒトOct4)もしくはNP_038661.1(マウスOct4)にリストされたような、天然に存在するOctポリペプチドファミリーメンバーと比較して、配列全体で、少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Octポリペプチド(例えば、Oct3/4)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、またはその他の動物に由来し得る。一般に、操作されている細胞の種と同一の種のタンパク質が使用されるであろう。
【0023】
「Klfポリペプチド」とは、ショウジョウバエ胚パターン調節因子クルッペルのものに類似したアミノ酸配列を含有しているジンクフィンガータンパク質であるクルッペル様因子(Klf)ファミリーの天然に存在するメンバー、または最も近縁の天然に存在するファミリーメンバーと類似した転写因子活性、例えば、最も近縁の天然に存在するファミリーメンバーと比較して、少なくとも50%、80%、もしくは90%の活性を維持している天然に存在するメンバーの異型、または天然に存在するファミリーメンバーのDNA結合ドメインを少なくとも含み、転写活性化ドメインをさらに含んでいてもよいポリペプチドのいずれかをさす。Dang,D.T.,Pevsner,J.& Yang,V.W.Cell Biol.32,1103-1121(2000)を参照のこと。例示的なKlfファミリーメンバーには、Klf1、Klf2、Klf3、Klf4、Klf5、Klf6、Klf7、Klf8、Klf9、Klf10、Klf11、Klf12、Klf13、Klf14、Klf15、Klf16、およびKlf17が含まれる。Klf2およびKlf-4は、マウスにおいてiPS細胞を生成することができる因子であることが見出され、関連遺伝子Klf1およびKlf5も同様であったが、効率は低かった。Nakagawa,et al.,Nature Biotechnology 26:101-106(2007)を参照のこと。いくつかの態様において、異型は、上にリストされたもののような、またはGenbankアクセッション番号CAX16088(マウスKlf4)もしくはCAX14962(ヒトKlf4)にリストされたような、天然に存在するKlfポリペプチドファミリーメンバーと比較して、配列全体で、少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Klfポリペプチド(例えば、Klf1、Klf4、およびKlf5)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、またはその他の動物に由来し得る。一般に、操作されている細胞の種と同一の種のタンパク質が使用されるであろう。Klfポリペプチドが本明細書に記載される程度に、それは、エストロゲン関連受容体β(Essrb)ポリペプチドと交換可能である。従って、本明細書に記載された各Klfポリペプチド態様について、Klf4ポリペプチドの代わりにEssrbを使用する対応する態様が、等しく記載されているものとする。
【0024】
「Mycポリペプチド」とは、Mycファミリーの天然に存在するメンバー(例えば、Adhikary,S.& Eilers,M.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.6:635-645(2005)を参照のこと)、または転写因子活性、例えば、最も近縁の天然に存在するファミリーメンバーと比較して少なくとも50%、80%、もしくは90%の活性を維持しているその異型、または天然に存在するファミリーメンバーのDNA結合ドメインを少なくとも含み、転写活性化ドメインをさらに含んでいてもよいポリペプチドのいずれかをさす。例示的なMycポリペプチドには、例えば、c-Myc、N-Myc、およびL-Mycが含まれる。いくつかの態様において、異型は、上にリストされたもののような、またはGenbankアクセッション番号CAA25015(ヒトMyc)にリストされたような、天然に存在するMycポリペプチドファミリーメンバーと比較して、配列全体で、少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Mycポリペプチド(例えば、c-Myc)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、またはその他の動物に由来し得る。一般に、操作されている細胞の種と同一の種のタンパク質が使用されるであろう。Mycポリペプチドが本明細書に記載される程度に、それは、Wntポリペプチド、例えば、Wnt3A(例えば、NP_149122.1)、またはWntシグナル伝達経路を刺激する薬剤、例えば、グリコーゲン合成酵素キナーゼαもしくはβ阻害剤と交換可能である。従って、本明細書に記載された各Mycポリペプチド態様について、Mycポリペプチドの代わりにWntポリペプチドまたはWntシグナル伝達経路を刺激する薬剤を使用する対応する態様が、等しく記載されているものとする。
【0025】
「Soxポリペプチド」とは、高移動度群(HMG)ドメインの存在を特徴とするSRY関連HMGボックス(Sox)転写因子の天然に存在するメンバー、または転写因子活性、例えば、最も近縁の天然に存在するファミリーメンバーと比較して少なくとも50%、80%、もしくは90%の活性を維持しているその異型、または天然に存在するファミリーメンバーのDNA結合ドメインを少なくとも含み、転写活性化ドメインをさらに含んでいてもよいポリペプチドのいずれかをさす。例えば、Dang,D.T.,et al.,Int.J.Biochem.Cell Biol.32:1103-1121(2000)を参照のこと。例示的なSoxポリペプチドには、例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox4、Sox5、Sox6、Sox7、Sox8、Sox9、Sox10、Sox11、Sox12、Sox13、Sox14、Sox15、Sox17、Sox18、Sox-21、およびSox30が含まれる。Sox1は、Sox2と類似した効率でiPS細胞を与えることが示されており、遺伝子Sox3、Sox15、およびSox18も、iPS細胞を生成することが示されているが、効率はSox2より多少低い。Nakagawa,et al.,Nature Biotechnology 26:101-106(2007)を参照のこと。いくつかの態様において、異型は、上にリストされたもののような、またはGenbankアクセッション番号CAA83435(ヒトSox2)にリストされたような、天然に存在するSoxポリペプチドファミリーメンバーと比較して、配列全体で、少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Soxポリペプチド(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、またはSox18)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、またはその他の動物に由来し得る。一般に、操作されている細胞の種と同一の種のタンパク質が使用されるであろう。
【0026】
「外因性転写因子」とは、本明細書において使用されるように、関心対象の細胞において天然に(即ち、内因的に)発現されない転写因子をさす。従って、外因性転写因子は、(例えば、ネイティブ転写因子プロモーター以外のプロモーターの制御下で)導入された発現カセットから発現されてもよいし、または細胞外からタンパク質として導入されてもよい。いくつかの態様において、外因性転写因子には、Octポリペプチド(例えば、Oct4)、Klfポリペプチド(例えば、Klf4)、Mycポリペプチド(例えば、c-Myc)、またはSoxポリペプチド(例えば、Sox2)が含まれる。
【0027】
「H3K9」とは、ヒストンH3リジン9をさす。遺伝子活性に関連したH3K9修飾には、H3K9アセチル化が含まれ、ヘテロクロマチンに関連したH3K9修飾には、H3K9ジメチル化またはトリメチル化が含まれる。例えば、Kubicek,et al.,Mol.Cell 473-481(2007)を参照のこと。「H3K4」とはヒストンH3リジン4をさす。例えば、Ruthenburg et al.,Mol.Cell 25:15-30(2007)を参照のこと。
【0028】
「多能性の」または「多能性」という用語は、三つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てからの細胞系統に関連した特徴を集合的に示す細胞型へ、適切な条件の下で、分化することができる子孫を与える能力を有する細胞をさす。多能性幹細胞は、出生前、出生後、または成体の動物の多くのまたは全ての組織に寄与することができる。8〜12週齢SCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力のような、標準的な当技術分野において認められている試験を、細胞集団の多能性を確立するために使用することができるが、様々な多能性幹細胞特徴の同定が、多能性細胞を検出するために使用されてもよい。
【0029】
「多能性幹細胞特徴」とは、多能性幹細胞をその他の細胞から区別する、細胞の特徴をさす。三つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てからの細胞系統に関連した特徴を集合的に示す細胞型へ、適切な条件の下で、分化することができる子孫を与える能力は、多能性幹細胞特徴である。分子マーカーのある種の組み合わせの発現または無発現も、多能性幹細胞特徴である。例えば、ヒト多能性幹細胞は、以下の非限定的なリストからのマーカーのうちの少なくとも1種、2種、または3種を発現し、任意で、全てを発現する:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、ALP、Sox2、E-カドヘリン、UTF-1、Oct4、Rex1、およびNanog。多能性幹細胞に関連した細胞形態学も、多能性幹細胞特徴である。
【0030】
「組換え」ポリヌクレオチドとは、そのネイティブの状態にないポリヌクレオチドであり、例えば、ポリヌクレオチドが、自然界には見出さないヌクレオチド配列を含むか、またはポリヌクレオチドが、それが天然に見出されるのとは異なる情況にあり、例えば、自然界において典型的に近接しているヌクレオチド配列から分離されているか、もしくは典型的に近接していないヌクレオチド配列に隣接している(もしくは連続している)。例えば、対象の配列が、ベクターへクローニングされていてもよいし、またはその他の様式で一つもしくは複数の付加的な核酸と組換えられていてもよい。
【0031】
「発現カセット」とは、タンパク質をコードする配列に機能的に連結されたプロモーターまたはその他の調節配列を含むポリヌクレオチドをさす。
【0032】
「プロモーター」および「発現制御配列」という用語は、核酸の転写を指図する核酸制御配列のアレイをさすために本明細書において使用される。本明細書において使用されるように、プロモーターは、ポリメラーゼII型プロモーターの場合のTATA要素のような、必要な核酸配列を転写開始部位の近くに含む。プロモーターは、転写開始部位から数千塩基対も離れて位置していてもよい、遠位のエンハンサー要素またはリプレッサー要素も任意で含む。プロモーターには、構成性プロモーターおよび誘導可能プロモーターが含まれる。「構成性」プロモーターとは、大部分の環境条件および発達条件の下で活性を有するプロモーターである。「誘導可能」プロモーターとは、環境的または発達的な調節の下で活性を有するプロモーターである。「機能的に連結された」という用語は、発現制御配列が、第二の配列に相当する核酸の転写を指図するような、(プロモーター、または転写因子結合部位のアレイのような)核酸発現制御配列と、第二の核酸配列との間の機能的な連結をさす。
【0033】
「異種配列」または「異種核酸」とは、本明細書において使用されるように、特定の宿主細胞とは異種の起源に起因するか、または、同一の起源に起因する場合には、その元の形態から修飾されているものである。従って、細胞内の異種発現カセットとは、例えば、染色体DNAではなく発現ベクターに由来するヌクレオチド配列との連結、異種プロモーターとの連結、レポーター遺伝子との連結等により、特定の宿主細胞にとって内因性でない発現カセットである。
【0034】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態の、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそれらのポリマーをさすため、本明細書において交換可能に使用される。その用語には、参照核酸と類似した結合特性を有し、かつ参照ヌクレオチドと類似した様式で代謝される、合成物であってもよいし、天然に存在するものであってもよいし、天然には存在しないものであってもよい、既知のヌクレオチド類似体または修飾された骨格残基もしくは連結を含有している核酸が包含される。そのような類似体の例には、非限定的に、ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)が含まれる。
【0035】
他に示されない限り、特定の核酸配列には、明示された配列のみならず、その保存的に修飾された異型(例えば、縮重コドン置換)および相補配列も包含される。具体的には、縮重コドン置換は、1個または複数個の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基に置換された配列を生成することにより、達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al,,J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985);Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。
【0036】
発現または活性の「阻害剤」、「活性化剤」、および「モジュレーター」とは、それぞれ、記載された標的タンパク質の発現または活性についてのインビトロアッセイおよびインビボアッセイを使用して同定される、阻害性の分子、活性化する分子、またはモジュレートする分子、例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、ならびにそれらの相同体および模倣体をさすために使用される。「モジュレーター」という用語には、阻害剤および活性化剤が含まれる。阻害剤とは、例えば、記載された標的タンパク質の発現を阻害するかまたはそれに結合するか、その刺激またはプロテアーゼ阻害活性を部分的にまたは完全に阻止するか、その活性化を減少させるか、防止するか、遅延させるか、その活性を不活化するか、脱感作するか、またはダウンレギュレートする薬剤、例えば、アンタゴニストである。活性化剤とは、例えば、記載された標的タンパク質の発現を誘導するかまたは活性化するか、記載された標的タンパク質(またはコードするポリヌクレオチド)に結合するか、その活性化またはプロテアーゼ阻害活性を刺激するか、増加させるか、開始させるか、活性化するか、容易にするか、増強するか、その活性を感作するかまたはアップレギュレートする薬剤、例えば、アゴニストである。モジュレーターには、天然に存在するものであってもよいし、合成物であってもよい、リガンド、アンタゴニスト、およびアゴニスト(例えば、アゴニストまたはアンタゴニストのいずれかとして機能する小さな化学的分子、抗体等)が含まれる。阻害剤および活性化剤についてのそのようなアッセイには、例えば、上記のように、記載された標的タンパク質を発現している細胞に推定モジュレーター化合物を適用し、次いで、記載された標的タンパク質の活性に対する機能的効果を決定するものが含まれる。可能性のある活性化剤、阻害剤、またはモジュレーターにより処理された記載された標的タンパク質を含む試料またはアッセイは、効果の程度を調査するため、阻害剤、活性化剤、またはモジュレーターを含まない対照試料と比較される。(モジュレーターにより処理されていない)対照試料には、100%という相対活性値が割り当てられる。対照に対して相対的な活性値が、約80%、任意で、50%、または25%、10%、5%、または1%である時、記載された標的タンパク質の阻害が達成されている。対照に対して相対的な活性値が、110%、任意で、150%、任意で、200%、300%、400%、500%、または1000〜3000%、またはそれ以上である時、記載された標的タンパク質の活性化が達成されている。
【0037】
「アロステリック」という用語は、酵素上の異なる位置の異なる部位(調節部位)に分子が結合することにより、(活性部位のような)酵素のある部分の活性に影響を与える効果をさすために使用される。アロステリック部位への非基質分子の結合は、基質結合(活性)部位の結合動力学に影響を与える。「アロステリック結合部位」は、多くの酵素および受容体に含有されている。アロステリック結合部位への結合の結果として、正常なリガンドとの相互作用が増強されるかまたは低下する。例えば、3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK1)のアロステリック結合部位は、ヘリックスCとヘリックスBと-4シートと-5シートとの間に位置するPDK1相互作用断片(PIF)結合ポケットである(Pearl et al.,Curr.Opin.Struct.Biol.12,761-767(2002);Biondi et al.,Biochem.J.372,1-13(2003);Newton et al.,Chem.Rev.101,2353-2364(2001))。
【0038】
本明細書において使用されるように、「促進する」もしくは「増加する」または「促進」もしくは「増加」とは、本明細書において交換可能に使用される。これらの用語は、未処理の細胞(組織または対象)と比較した、処理された細胞(組織または対象)における、測定されたパラメーター(例えば、活性、発現、解糖、解糖代謝、グルコース取り込み、解糖の下流の生合成)の増加ををさす。同一の細胞または組織または対象を、処理の前後で比較することもできる。増加は、検出可能であるのに十分なものである。いくつかの態様において、処理された細胞における増加は、未処理の細胞と比較して、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、1倍、2倍、3倍、4倍、またはそれ以上である。
【0039】
本明細書において使用されるように、「阻害する」、「防止する」、もしくは「低下させる」、または「阻害」、「防止」、もしくは「低下」とは、本明細書において交換可能に使用される。これらの用語は、未処理の細胞(組織または対象)と比較した、処理された細胞(組織または対象)における、測定されたパラメーター(例えば、活性、発現、ミトコンドリア呼吸、ミトコンドリア酸化、酸化的リン酸化)の減少をさす。同一の細胞または組織または対象を、処理の前後で比較することもできる。減少は、検出可能であるのに十分なものである。いくつかの態様において、処理された細胞における減少は、未処理の細胞と比較して、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または完全に阻害される。いくつかの態様において、測定されたパラメーターは、未処理の細胞と比較して、処理された細胞において検出不可能である(即ち、完全に阻害される)。
[本発明1001]
細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK1)活性化剤と接触させる工程であって、それにより、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へ誘導する、工程を含む、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へ誘導する方法。
[本発明1002]
PDK1活性化剤がアロステリックPDK1活性化剤である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
PDK1活性化剤が、(Z)-5-(4-クロロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS48」)、(Z)-5-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS08」)、2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸、(Z)-5-(ナフタレン-2-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「12Z」)、または(Z)-5-(1H-インドール-3-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「13Z」)である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
PDK1活性化剤がPS48である、本発明1003の方法。
[本発明1005]
非多能性細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤と接触させる工程をさらに含む、本発明1001〜1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がA-83-01である、本発明1005の方法。
[本発明1007]
非多能性細胞をMEK阻害剤と接触させる工程をさらに含む、本発明1001〜1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
MEK阻害剤がPD0325901である、本発明1007の方法。
[本発明1009]
非多能性細胞をヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤と接触させる工程をさらに含む、本発明1001〜1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
HDAC阻害剤が酪酸ナトリウム(NaB)である、本発明1009の方法。
[本発明1011]
HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、本発明1009の方法。
[本発明1012]
条件が、少なくとも1種の外因性転写因子を非多能性細胞へ導入することを含む、本発明1001〜1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
外因性転写因子がポリペプチドを含む、本発明1012の方法。
[本発明1014]
外因性転写因子がOctポリペプチドを含む、本発明1012または1013の方法。
[本発明1015]
外因性転写因子が、OctポリペプチドおよびKlfポリペプチドからなる群より選択されるポリペプチドを含む、本発明1012または1013の方法。
[本発明1016]
外因性転写因子が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択されるポリペプチドを含む、本発明1012または1013の方法。
[本発明1017]
各々、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される異なるポリペプチドを含む、少なくとも2種、3種、または4種の外因性転写因子を、非多能性細胞へ導入する工程を含む、本発明1012または1013の方法。
[本発明1018]
外因性転写因子をコードするポリヌクレオチドを非多能性細胞へ導入し、それにより、転写因子を非多能性細胞において発現させることにより、外因性転写因子が導入される、本発明1012〜1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
外因性転写因子を非多能性細胞と接触させることにより、外因性転写因子が導入される、本発明1012〜1017のいずれかの方法。
[本発明1020]
外因性転写因子が、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む、本発明1019の方法。
[本発明1021]
非多能性細胞がヒト細胞である、本発明1001〜1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への変換を誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導の効率を少なくとも10%改良するのに十分な濃度で、PDK1活性化剤が存在する、本発明1001〜1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
接触させる工程が、非多能性細胞を、MEK阻害剤の非存在下で、PDK1活性化剤と接触させ、続いて、非多能性細胞を、PDK1活性化剤およびMEK阻害剤と接触させることを含む、本発明1001の方法。
[本発明1024]
接触させる工程が、非多能性細胞を、MEK阻害剤の非存在下で、PDK1活性化剤、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤と接触させ、続いて、非多能性細胞を、PDK1活性化剤、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、およびMEK阻害剤と接触させることを含む、本発明1023の方法。
[本発明1025]
複数種の多能性幹細胞が誘導される方法であって、多能性幹細胞の均質な集団を生成するため、多能性幹細胞を精製する工程をさらに含む、本発明1001〜1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
哺乳動物細胞と、PDK1活性化剤と、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の外因性転写因子
のうちの一つまたは複数と
を含む、混合物。
[本発明1027]
細胞の少なくとも99%が非多能性細胞である、本発明1026の混合物。
[本発明1028]
本質的に全ての細胞が非多能性細胞である、本発明1026〜1027のいずれかの混合物。
[本発明1029]
細胞がヒト細胞である、本発明1026〜1028のいずれかの混合物。
[本発明1030]
PDK1活性化剤がアロステリックPDK1活性化剤である、本発明1026〜1029のいずれかの混合物。
[本発明1031]
PDK1活性化剤が、(Z)-5-(4-クロロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS48」)、(Z)-5-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS08」)、2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸、(Z)-5-(ナフタレン-2-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「12Z」)、または(Z)-5-(1H-インドール-3-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「13Z」)である、本発明1030の混合物。
[本発明1032]
PDK1活性化剤がPS48である、本発明1031の混合物。
[本発明1033]
TGFβ受容体/ALK5阻害剤をさらに含む、本発明1026〜1032のいずれかの混合物。
[本発明1034]
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がA-83-01である、本発明1033の混合物。
[本発明1035]
MEK阻害剤をさらに含む、本発明1026〜1034のいずれかの混合物。
[本発明1036]
MEK阻害剤がPD0325901である、本発明1035の混合物。
[本発明1037]
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤をさらに含む、本発明1026〜1036のいずれかの混合物。
[本発明1038]
HDAC阻害剤が酪酸ナトリウム(NaB)である、本発明1037の混合物。
[本発明1039]
HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、本発明1037の混合物。
[本発明1040]
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドから選択される外因性転写因子をさらに含む、本発明1026〜1039のいずれかの混合物。
[本発明1041]
外因性転写因子が、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む、本発明1040の混合物。
[本発明1042]
細胞の誘導多能性幹細胞への変換を誘導するのに十分な条件の下で、混合物中の非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導の効率を少なくとも10%改良するのに十分な濃度で、PDK1活性化剤が存在する、本発明1026〜1041のいずれかの混合物。
[本発明1043]
PDK1活性化剤と、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の転写因子
のうちの一つまたは複数と
を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキット。
[本発明1044]
PDK1活性化剤がアロステリックPDK1活性化剤である、本発明1043のキット。
[本発明1045]
PDK1活性化剤が、(Z)-5-(4-クロロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS48」)、(Z)-5-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「PS08」)、2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸、(Z)-5-(ナフタレン-2-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「12Z」)、または(Z)-5-(1H-インドール-3-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸(「13Z」)である、本発明1044のキット。
[本発明1046]
PDK1活性化剤がPS48である、本発明1045のキット。
[本発明1047]
TGFβ受容体/ALK5阻害剤をさらに含む、本発明1043〜1046のいずれかのキット。
[本発明1048]
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がA-83-01である、本発明1047のキット。
[本発明1049]
MEK阻害剤をさらに含む、本発明1043〜1048のいずれかのキット。
[本発明1050]
MEK阻害剤がPD0325901である、本発明1049のキット。
[本発明1051]
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤をさらに含む、本発明1043〜1050のいずれかのキット。
[本発明1052]
HDAC阻害剤が酪酸ナトリウム(NaB)である、本発明1051のキット。
[本発明1053]
HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、本発明1051のキット。
[本発明1054]
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドから選択される転写因子をさらに含む、本発明1043〜1053のいずれかのキット。
[本発明1055]
転写因子が、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む、本発明1054のキット。
[本発明1056]
細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件の下で、非多能性細胞を、解糖代謝を促進する化合物と接触させる工程であって、それにより、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へ誘導する、工程を含む、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へ誘導する方法。
[本発明1057]
解糖代謝を促進する化合物が、解糖活性化剤、解糖の基質、グリコール中間体またはその代謝前駆物質、グルコース取り込み輸送体活性化剤、ミトコンドリア呼吸モジュレーター、酸化的リン酸化阻害剤、または低酸素誘導因子活性化剤である、本発明1056の方法。
[本発明1058]
哺乳動物細胞と、解糖代謝を促進する化合物と、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の外因性転写因子
のうちの一つまたは複数と
を含む、混合物。
[本発明1059]
解糖代謝を促進する化合物が、解糖活性化剤、解糖の基質、グリコール中間体またはその代謝前駆物質、グルコース取り込み輸送体活性化剤、ミトコンドリア呼吸モジュレーター、酸化的リン酸化阻害剤、または低酸素誘導因子活性化剤である、本発明1058の混合物。
[本発明1060]
解糖代謝を促進する化合物と、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される1種もしくは複数種の転写因子
のうちの一つまたは複数と
を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキット。
[本発明1061]
解糖代謝を促進する化合物が、解糖活性化剤、解糖の基質、グリコール中間体またはその代謝前駆物質、グルコース取り込み輸送体活性化剤、ミトコンドリア呼吸モジュレーター、酸化的リン酸化阻害剤、または低酸素誘導因子活性化剤である、本発明1060のキット。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明は、3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK1)活性化剤が、非多能性哺乳動物細胞における多能性の誘導の効率を大幅に改良するという驚くべき発見に基づく。従って、本発明は、非多能性細胞をPDK1活性化剤と接触させる工程を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導する方法を提供する。
【0042】
本発明は、本明細書に記載されるような解糖代謝を促進する化合物が、非多能性哺乳動物細胞における多能性の誘導の効率を大幅に改良するという驚くべき発見にも基づく。解糖代謝を促進する化合物が、(主として成体体細胞により使用される)ミトコンドリア酸化から(主として胚性幹細胞(ESC)により使用される)解糖への代謝再プログラムを容易にし、それにより、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導することが、本発明において発見された。従って、解糖を促進する化合物、またはミトコンドリア呼吸/酸化を阻害するかもしくは妨害する化合物は、非多能性哺乳動物細胞における多能性の誘導において有用である。さらに、解糖の上流(例えば、PDK1経路、低酸素誘導因子経路、グルコース取り込み輸送体経路)または下流(例えば、脂肪酸合成、脂質合成、ヌクレオチド合成、およびアミノ酸合成)のいずれかの過程を促進する化合物が、非多能性哺乳動物細胞における多能性の誘導において有用であることが発見された。従って、本発明は、非多能性細胞を、本明細書に記載されるような1種または複数種の解糖代謝を促進する化合物と接触させる工程を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導する方法を提供する。
【0043】
現在までに、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞(iPSC)へ誘導するため、多数の異なる方法およびプロトコルが確立されている。本明細書に記載された薬剤は、iPSCを生成するための本質的に任意のプロトコルと組み合わせて使用可能であり、それにより、プロトコルの効率を改良すると考えられる。従って、本発明は、iPSCを生成するための任意のプロトコルと組み合わせられた、アロステリックPDK1活性化剤を含むが、これに限定されない、少なくとも1種のPDK1活性化剤との非多能性細胞のインキュベーションを提供する。その他の態様において、本発明は、iPSCを生成するための任意のプロトコルと組み合わせられた、少なくとも1種の解糖代謝を促進する化合物との非多能性細胞のインキュベーションを提供する。
【0044】
本明細書において使用されるように、非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導に関して、「誘導の効率」とは、多能性幹細胞を誘導するのに十分な条件の下で、定義された時間枠内にiPSCへ変換することができる非多能性細胞の数、または定義された数の非多能性細胞をiPSCへ変換するためにかかる時間の量をさす。iPSC生成プロトコルの効率の改良は、プロトコル、および本発明のどの薬剤が使用されるかに依るであろう。いくつかの態様において、効率は、本発明の薬剤(例えば、PDK1活性化剤、例えば、アロステリックPDK1活性化剤、または解糖代謝を促進する化合物、例えば、PDK1活性化剤、解糖活性化剤、解糖の基質、解糖中間体およびその代謝前駆物質、グルコース取り込み輸送体活性化剤、酸化的リン酸化阻害剤のようなミトコンドリア呼吸モジュレーター、ならびに低酸素誘導因子活性化剤)を含まない同一プロトコルと比較して、少なくとも10%、20%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、またはそれ以上、改良される。いくつかの態様において、効率は、(例えば、1種または複数種の本発明の薬剤の導入を含む条件の下で、定義された時間枠内に非多能性細胞から生成されるiPSCの数を、1種または複数種の本発明の薬剤の導入を含まない条件の下で、定義された時間枠内に非多能性細胞から生成されるiPSCの数と比較することにより)特定の時間枠内に生成されるiPSCの数の改良に関して測定される。いくつかの態様において、効率は、(例えば、1種または複数種の本発明の薬剤の導入を含む条件の下で、定義された数のiPSCを非多能性細胞から生成するためにかかる時間の長さを、1種または複数種の本発明の薬剤の導入を含まない条件の下で、定義された数のiPSCを非多能性細胞から生成するためにかかる時点の長さと比較することにより)iPSCが生成されるスピードの改良に関して測定される。いくつかの態様において、誘導の効率は、下記実施例セクションに記載されるように、非多能性細胞(例えば、正常ヒト上皮ケラチノサイト)をOct4およびKlf4により形質導入し、次いで、形質導入細胞を、1種または複数種の本発明の薬剤(例えば、PDK1活性化剤)の非存在下または存在下で培養することを含む条件の下で測定される。非多能性細胞からのiPSCの誘導は、(例えば、多能性マーカーTra-1-81および/またはOCT4を使用した)マーカー分析を含むが、これに限定されない、当技術分野において公知の任意の方法に従って測定可能である。
【0045】
本発明の方法によると、特定の情況依存性の処理計画が、再プログラム効率を改良することができる。ある種の処理計画の有効性は、いくつかの態様において、細胞型、細胞継代数、および使用される外因性転写因子に依る。例えば、いくつかの態様において、4種の外因性転写因子による形質導入またはそれらとの接触による細胞の再プログラムと比較して、4種より少ない外因性転写因子、即ち、1種、2種、または3種の外因性転写因子による形質導入またはそれらとの接触により細胞を再プログラムする時、特定の処理計画による再プログラム効率のより有意な改良が観察され得る。
【0046】
一般に、ヒト細胞の再プログラムは、マウス細胞(例えば、約2週間)より相当長くかかる(例えば、6〜8週間)。特定の処理計画の効果は、いくつかの態様において、マウス細胞と比較して、ヒト細胞を再プログラムする時、より強調され得る。従って、比較的長い期間(例えば、少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、またはそれ以上)が、再プログラムにおいて使用される時、処理計画、例えば、エピジェネティック修飾剤を使用するものが、再プログラム効率を改良するために使用され得る。
【0047】
本発明者らは、エピジェネティック修飾剤が、再プログラム効率を改良し得ることを見出した。本明細書において定義されるように、「エピジェネティック修飾剤」という用語は、メチル化修飾剤(即ち、DNAもしくはヒストンへメチル化変化を誘導する薬剤)および/またはアセチル化修飾剤(即ち、DNAもしくはヒストンへアセチル化変化を誘導する薬剤)をさす。いくつかの態様において、メチル化修飾剤は、DNAメチル化阻害剤(例えば、RG108のようなDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤)、ヒストンメチル化阻害剤、および/またはヒストン脱メチル阻害剤である。いくつかの態様において、アセチル化修飾剤は、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤(例えば、バルプロ酸(VPA)、酪酸ナトリウム(NaB)、トリコスタチンA(TSA)、またはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA))、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ、およびヒストンアセチルトランスフェラーゼである。いくつかの態様において、エピジェネティック修飾剤は、メチルトランスフェラーゼもしくはデメチラーゼ(demethylase)を阻害する薬剤、またはメチルトランスフェラーゼもしくはデメチラーゼを活性化する薬剤である。いくつかの態様において、エピジェネティック修飾剤は、ヒストンH3K9メチル化を阻害するか、またはH3K9脱メチルを促進する薬剤、例えば、BIX01294のようなG9aヒストンメチルトランスフェラーゼである。
【0048】
しかしながら、いくつかのエピジェネティック修飾剤は、細胞分化も誘導する可能性がある。従って、本発明のいくつかの態様において、エピジェネティック修飾剤は、処理の初期段階、例えば、処理期間の最初の1週間、2週間、3週間、または4週間、前半、最初の1/3、最初の1/4、または最初の1/5においてのみ使用される。処理の後期段階、例えば、処理期間の最後の1週間、2週間、3週間、または4週間、後半、最後の1/3、最後の1/4、または最後の1/5において、エピジェネティック修飾剤を省くことにより、これらのエピジェネティック修飾剤による細胞分化誘導の副作用を、少なくとも部分的に、回避することができる。
【0049】
あるいは、分化を誘導しないか、または最小限にしか分化を誘導しないエピジェネティック修飾剤を使用することができる。例えば、HDAC阻害剤が処理計画において使用される時、分化を誘導しないか、または最小限にしか分化を誘導しないHDAC阻害剤、例えば、酪酸ナトリウムが使用される。
【0050】
MEK阻害剤を使用する処理計画が、再プログラム効率を改良し得ることが、本発明においてさらに発見される。MEK阻害剤は、誘導多能性細胞の細胞自己再生も支持する。しかしながら、いくつかのMEK阻害剤は、細胞増殖を阻害する可能性がある。従って、本発明のいくつかの態様において、MEK阻害剤は、処理の後期段階、例えば、処理期間の最後の1週間、2週間、3週間、または4週間、後半、最後の1/3、最後の1/4、または最後の1/5においてのみ使用される。処理の初期段階、例えば、処理期間の最初の1週間、2週間、3週間、または4週間、前半、最初の1/3、最初の1/4、または最初の1/5において、MEK阻害剤を省くことにより、初期段階において細胞増殖が阻害されない。例えば、初期段階においては、非多能性の細胞を、MEK阻害剤の非存在下で、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)と接触させ、続いて、後期段階においては、非多能性細胞を、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)およびMEK阻害剤と接触させることにより、多能性を誘導することができる。いくつかの態様において、多能性を誘導する方法は、初期段階においては、非多能性細胞を、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤と接触させ、続いて、後期段階においては、非多能性細胞を、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、およびMEK阻害剤と接触させる工程を含む。
【0051】
II.PDK1活性化剤
3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1または「PDK1」は、AKT/PKB、およびPKC、S6K、SGKを含むその他の多くのAGCキナーゼの活性化に関連したマスターキナーゼである。PDK1についての重要な役割は、インスリンシグナル伝達を含む、数種の増殖因子およびホルモンにより活性化されるシグナル伝達経路にある。PDK1の構造は、2個のドメイン;キナーゼドメインまたは触媒ドメインと、PHドメインとに分割され得る。PHドメインは、AKTを含む、いくつかの膜関連PDK1基質の局在および活性化において重要な、PDK1のホスファチジルイノシトール(3,4)-二リン酸およびホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸との相互作用において主として機能する。キナーゼドメインは、3個のリガンド結合部位;基質結合部位、ATP結合部位、およびPIF結合ポケットを有する。S6KおよびプロテインキナーゼCを含む、数種のPDK1基質は、このPIF結合ポケットにおける結合を必要とする。PDK1の低分子アロステリック活性化剤は、ドッキング部位相互作用を必要とする基質の活性化を選択的に阻害することが示された。これらの化合物は、活性部位には結合せず、ドッキング部位相互作用を必要としないその他の基質をPDK1が活性化することを可能にする。PDK1は構成性に活性を有し、現在、PDK1のための公知の阻害タンパク質は存在しない。PDK1の主要なエフェクターAKTの活性化は、膜におけるPDK1のキナーゼドメインおよびPHドメインならびにAKTの適切な方向性を必要とすると考えられている。ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1は、SGK、PRKACA、ナトリウム水素交換輸送体調節因子2、PRKCD、プロテインキナーゼMζ(PKMζ)、PKN2、PRKCI、プロテインキナーゼN1、YWHAH、およびAKT1と相互作用することが示されている。
【0052】
例示的なPDK1活性化剤には、スフィンゴシンが含まれる(King et al.,Journal of Biological Chemistry,275:18108-18113,2000)。PDK1の例示的なアロステリック活性化剤には、PS48((Z)-5-(4-クロロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸)、PS08((Z)-5-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸)(Hindie et al.,Nature Chemical Biology,5:758-764,2009;Huse & Kuriyan,Cell 109:275-282,2002;Johnson & Lewis,Chem.Rev.101:2209-2242,2001)、および化合物1(2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸)(Engel et al.,EMBO J.25:5469-5480,2006);化合物12Zおよび化合物13Z(12Z:2-(3-(4-クロロフェニル)-3-オキソ-1-フェニルプロピルチオ)酢酸、(Z)-5-(ナフタレン-2-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸;13Z:(Z)-5-(1H-インドール-3-イル)-3-フェニルペンタ-2-エン酸)のような3,5-ジフェニルペンタ-2-エン酸が含まれる(Stroba et al.,J.Med.Chem.52,4683-4693(2009))。PS48は以下の式を有する:
【0053】
実施例に示されるように、細胞再プログラムへのPDK1活性化剤の包含は、単独で使用された時でも、効率を大幅に増加させることができ、HDAC阻害剤と組み合わせて使用された時には、さらなる効率の増加をもたらす。実施例に示されるように、特に、再プログラムにおいて4種(Oct4、Klf、Sox2、およびc-Myc)より少ない転写因子が細胞へ導入される場合には、ALK5阻害剤および/またはMek阻害剤を含むが、これらに限定されない、付加的な阻害剤も、再プログラムに含めることができる。
【0054】
III.解糖代謝を促進する化合物
本明細書において定義されるように、代謝をモジュレートする化合物とは、炭水化物またはその他の分子の代謝をモジュレートする(例えば、促進するかまたは阻害する)化合物をさす。代謝をモジュレートする化合物には、解糖代謝を促進する化合物が含まれる。本明細書において定義されるように、解糖代謝を促進する化合物とは、(主として成体体細胞により使用される)ミトコンドリア酸化から(主としてESCにより使用される)解糖への細胞代謝再プログラムを容易にする化合物をさす。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖を促進する化合物、または解糖の上流の過程(例えば、PDK1経路、低酸素誘導因子経路、グルコース取り込み輸送体経路)を促進する化合物である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ミトコンドリア呼吸を阻害するかまたは妨害する化合物である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖の下流の過程(例えば、脂肪酸合成、脂質合成、ヌクレオチド合成、およびアミノ酸合成)を促進する化合物である。解糖代謝を促進する化合物の例には、PDK1活性化剤、解糖活性化剤、解糖の基質、解糖中間体およびその代謝前駆物質、グルコース取り込み輸送体活性化剤、酸化的リン酸化阻害剤のようなミトコンドリア呼吸モジュレーター、ならびに低酸素誘導因子活性化剤が含まれる。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、単糖(例えば、細胞培養培地において一般的に使用される単糖)ではない。単糖の例には、D-グルコース、D-マンノース、およびD-ガラクトースのようなアルドース、ならびにD-フルクトースのようなケトースが含まれる。
【0055】
1.解糖活性化剤
解糖活性化剤(例えば、解糖経路の活性化剤)は、当技術分野において公知である。解糖経路に関連した酵素は、当技術分野において公知であり、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、ホスホフクルトキナーゼ、アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、ホスホグリセロムターゼ、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼ、および乳酸デヒドロゲナーゼを含む。いくつかの態様において、解糖活性化剤(例えば、解糖経路の活性化剤)は、解糖経路に関連した酵素の活性化剤である。いくつかの態様において、解糖活性化剤は、解糖経路に独特に関連した3種の特定の酵素:ヘキソキナーゼ、ホスホフクルトキナーゼ、およびピルビン酸キナーゼのうちの1種の活性化剤である。
【0056】
ヘキソキナーゼ活性化剤の例には、リン酸、クエン酸、D-リンゴ酸、3-ホスホグリセリン酸、カテコールアミン、およびカテコールアミン誘導体が含まれる。いくつかの態様において、ヘキソキナーゼ活性化剤はアロステリック活性化剤である。いくつかの態様において、ヘキソキナーゼ活性化剤には、リン酸またはクエン酸が含まれない。
【0057】
グルコキナーゼ活性化剤の例には、GKA1(6-[(3-イソブトキシ-5-イソプロポキシベンゾイル)アミノ]ニコチン酸;Brocklehurst et al.,Diabetes 53:535-541,2004)、GKA2(5-({3-イソプロポキシ-5-[2-(3-チエニル)エトキシ]ベンゾイル}アミノ)-1,3,4-チアジアゾール-2-カルボン酸;Brocklehurst et al.,Diabetes 53:535-541,2004)、RO-28-1675(Grimsby et al.,Science 301:370-373,2003)、および化合物A(N-チアゾール-2-イル-2-アミノ-4-フルオロ-5-(1-メチルイミダゾール-2-イル)チオベンズアミド;Kamata et al.,Structure 12,429-438,2004)、LY2121260(2-(S)-シクロヘキシル-1-(R)-(4-メタンスルホニルフェニル)-シクロプロパンカルボン酸チアゾール-2-イルアミド;Efanov et al.,Endocrinology,146:3696-3701,2005)が含まれる。いくつかの態様において、グルコキナーゼ活性化剤はアロステリック活性化剤である。付加的なグルコキナーゼ活性化剤は、WO00/058293、WO01/44216、WO01/83465、WO01/83478、WO01/85706、WO01/85707およびWO02/08209、WO07/075847、WO07/061923、WO07/053345、WO07/104034、WO07/089512、WO08/079787、WO08/111473、WO09/106203、WO09/140624、WO09/140624、WO08/079787、WO02/046173、WO07/006814、WO07/006760、WO06/058923、WO02/048106、WO07/125103、WO07/125105、WO08/012227、WO08/074694、WO08/078674、WO08/084043、WO08/084044、WO09/127544、WO09/127546、WO07/125103、WO07/125105、WO02/014312、WO04/063179、WO07/006761、WO07/031739、WO08/091770、WO08/116107、WO08/118718、WO09/083553、WO04/052869、WO05/123132、WO04/072066、WO07/117381、WO07/115967、WO08/005964、WO08/154563、WO09/022179、WO09/046784、WO08/005964、WO/10/080333、WO/03/095438、WO/06/016194、WO/05/066145、WO/07/115968、WO/07/143434、WO/08/005914、WO/08/149382、WO/09/018065、WO/09/047798、WO/09/046802、WO/10/029461、WO/08/005914、WO/08/149382、WO/07/143434、WO/10/103438、WO/03/047626、WO/05/095418、WO/08/104994、WO/09/082152、WO/09/082152、WO/05/049019、WO/07/048717、WO/09/042435、およびWO/09/042435に開示されている。
【0058】
ホスホフクルトキナーゼ(またはフルクトース-6-Pキナーゼ)活性化剤の例には、フルクトース2,6-二リン酸が含まれる。
【0059】
ピルビン酸キナーゼ活性化剤の例には、キシルロース5-P、セラミド、N-6-シクロペンチルアデノシンのようなA1アデノシン受容体のアゴニストが含まれる。付加的なピルビン酸キナーゼ活性化剤は、WO10/042867、WO10/042867、WO99/048490、およびWO09/025781に開示されている。
【0060】
ホスホグルコイソメラーゼ活性化剤、アルドラーゼ活性化剤、グリセルアルデヒド3Pデヒドロゲナーゼ活性化剤、トリオースリン酸イソメラーゼ活性化剤、ホスホグリセリン酸キナーゼ、エノラーゼ、ホスホグリセリン酸ムターゼ、および乳酸デヒドロゲナーゼの例は、当技術分野において公知である。
【0061】
2.解糖の基質
解糖の基質の例には、グルコース6-リン酸、フルクトース6-リン酸、フルクトース1,6-二リン酸、グリセルアルデヒド3-リン酸、1,3-ビスホスホグリセリン酸、3-ホスホグリセリン酸、2-ホスホグリセリン酸、およびホスホエノールピルビル酸が含まれる。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、単糖(例えば、グルコース)ではない。
【0062】
3.解糖中間体およびその代謝前駆物質
解糖中間体は、脂肪酸、脂質、ヌクレオチド、およびアミノ酸のような、他の重要な分子の生合成のため、全て、様々に利用されている。従って、本明細書において定義されるように、解糖代謝を促進する化合物には、解糖の下流の過程(例えば、脂肪酸合成、脂質合成、ヌクレオチド合成、およびアミノ酸合成)を促進する化合物が含まれる。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物には、解糖中間体、例えば、これらの下流の生合成経路において利用された解糖中間体が含まれる。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物には、解糖中間体の代謝前駆物質が含まれる。本明細書において定義されるように、「代謝前駆物質」という用語は、例えば、細胞、組織、またはヒト身体において、解糖中間体が代謝的に変換される元の化合物をさす。
【0063】
解糖中間体の例には、グルコース6-リン酸、フルクトース6-リン酸、フルクトース1,6-二リン酸、ジヒドロキシアセトンリン酸、グリセルアルデヒド3-リン酸、1,3-ビスホスホグリセリン酸、3-ホスホグリセリン酸、2-ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビル酸、オキサロ酢酸、ピルビン酸、およびそれらの代謝前駆物質が含まれる。いくつかの態様において、解糖中間体は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、NADHの代謝前駆物質である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ニコチン酸またはニコチンアミドである。
【0064】
4.グルコース取り込み輸送体活性化剤
本明細書において定義されるように、「グルコース取り込み輸送体活性化剤」という用語は、グルコース取り込み輸送体の発現または活性を刺激するかまたはその他の様式で促進する化合物をさす。本明細書において定義されるように、「グルコース輸送体」という用語は、化合物(グルコースであってもよいし、グルコース類似体であってもよいし、フルクトースもしくはイノシトールのようなその他の糖であってもよいし、またはアスコルビン酸のような非糖であってもよい)を細胞膜輸送するタンパク質であって、かつ構造的類似性(例えば、他のグルコース輸送タンパク質との相同性)に基づき、グルコース輸送体「ファミリー」のメンバーであるタンパク質をさす。本明細書において定義されるように、グルコース輸送体には、グルコース以外の主要基質を有する輸送体タンパク質も含まれる。例えば、グルコース輸送体GLUTは、主としてフルクトースの輸送体であって、グルコース自体は低い親和性で輸送することが報告されている。同様に、グルコース輸送体HMITの主要基質は、ミオイノシトール(糖アルコール)である。本明細書において使用されるように、「グルコース輸送体」という用語には、特記しない限り、フルクトースおよびイノシトールの輸送体が含まれる。グルコース取り込み輸送体の例には、GLUT1〜12輸送体、HMIT輸送体、およびSGLT1〜6輸送体の群より選択されるグルコース輸送体が含まれる。
【0065】
グルコース取り込み輸送体活性化剤の例には、インスリン、ピニトール(例えば、WO/2000/071111を参照のこと)、8-ブロモ-サイクリックAMP(例えば、Ogura et al.,Journal of Endocrinology,164:171-178,2000を参照のこと)、アラキドン酸(Fong et al.,Cellular Signalling,8:179-183,1996)、12-O-テトラ-デカノイル-ホルボール13-アセテートのようなホルボールエステル(例えば、Molecular Brain Research,15:221-226,1992を参照のこと)が含まれる。
【0066】
5.ミトコンドリア呼吸モジュレーター(酸化的リン酸化阻害剤)
本明細書において定義されるように、「ミトコンドリア呼吸」または「ミトコンドリア酸化」という用語は、ミトコンドリア内の基質分子(例えば、糖、有機酸、ピルビン酸等)の酸化をさす。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ミトコンドリア呼吸モジュレーターである。ミトコンドリア呼吸/酸化の程度に影響を与えることができる化合物は、一般に、「ミトコンドリア呼吸モジュレーター」またはその他の類似の用語で本明細書において呼ばれる。いくつかの態様において、本発明の方法のために有用なミトコンドリア呼吸モジュレーターは、ミトコンドリア呼吸またはミトコンドリア酸化を阻害するかまたは妨害する化合物である。いくつかの態様において、本発明の方法のために有用なミトコンドリア呼吸モジュレーターは、酸化的リン酸化阻害剤である。
【0067】
本発明の酸化的リン酸化阻害剤は、酸化的リン酸化の1種もしくは複数種の酵素の阻害剤、または酸化的リン酸化脱共役剤であり得る。酸化的リン酸化酵素は、当技術分野において公知であり、酵素複合体I(NADH補酵素Qレダクターゼ)、II(コハク酸-補酵素Qレダクターゼ)、III(補酵素QシトクロムCレダクターゼ)、IV(シトクロムオキシダーゼ)、およびV(F0-F1,ATP合成酵素)を含む。
【0068】
酵素複合体Iの阻害剤は、当技術分野において公知の任意のものであり、トリチルチオアラニン、カルミノマイシン、およびピペラジンジオン、ロテノン(rotenone)、アミタール、1-メチル4-フェニルピリジニウム(MPP+)、パラコート、メチレンブルー、およびフェリシアン化物(後者二つは電子受容体である)のいずれかを含み得るが、これらに限定されない。酵素複合体IIの阻害剤は、当技術分野において公知の任意のものである。補酵素Qの阻害剤は、当技術分野において公知の任意のものである。酵素複合体IIIの阻害剤は、当技術分野において公知の任意のものであり、ミキソチアゾール、アンチマイシンA、ユビセミキノン、シトクロムC、4,6-ジアミノトリアジン誘導体、メトトレキサート、またはフェナジンメトスルフェートおよび2,6-ジクロロフェノール-インドフェノールのような電子受容体を含み得るが、これらに限定されない。酵素複合体IVの阻害剤は、当技術分野において公知の任意のものであり、シアン化物、硫化水素、アジ化物、ギ酸、ホスフィン、一酸化炭素、および電子受容体フェリシアン化物を含み得るが、これらに限定されない。酵素複合体Vの阻害剤は、当技術分野において公知の任意のものであり、2-ヒドロキシグルタル酸、VM-26(4'-デメチル-エピポドフィロトキシンテニリデングルコシド)、トリチルチオアラニン、カルミノマイシン、ピペラジンジオン、ジニトロフェノール、ジニトロクレゾール、2-ヒドロキシ-3-アルキル-1,4-ナフトキノン、アポトリジン(apoptolidin)アグリコン、オリゴマイシン、オサマイシン(ossamycin)、シトバリシン(cytovaricin)、ナフトキノン誘導体(例えば、ジクロロアリル-ローソン(lawsone)およびラパコール)、ローダミン、ローダミン123、ローダミン6G、カルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン、ロテノン(rothenone)、サフラニンO、シヘキサチン、DDT、クロルデコン、ヒ酸、ペンタクロロフェノール、ベンゾニトリル、チアジアゾール除草剤、サリチル酸、陽イオン性両親媒性薬(アミオダロン、ペルヘキシリン)、グラミシジン、カルシマイシン、ペンタクロロブタジエニル-システイン(PCBD-cys)、ならびにトリフルオロカルボニルシアニドフェニルヒドラゾン(FCCP)を含み得るが、これらに限定されない。酸化的リン酸化のその他の阻害剤には、アトラクチロシド、DDT、遊離脂肪酸、リゾリン脂質、n-エチルマレイミド、マーサニル(mersanyl)、およびp-ベンゾキノンが含まれ得る。
【0069】
酸化的リン酸化脱共役剤とは、電子伝達からの酸化的リン酸化の脱共役剤として機能する化合物をさす。酸化的リン酸化脱共役剤の例には、DNP、5-クロロ-3-tert-ブチル-2'-クロロ-4'-ニトロサリチルアニリド(S-13)、ナトリウム2,3,4,5,6-ペンタクロロフェノラート(PCP)、4,5,6,7-テトラクロロ-2-(トリフルオロメチル)-1H-ベンゾイミダゾール(TTFB)、フルフェナム酸(2-[3-(トリフルオロメチル)アニリノ]安息香酸)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジリデンマロノニトリル(SF6847)、カルボニルシアニドm-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)、カルボニルシアニドp-[トリフルオロメトキシ]-フェニル-ヒドラゾン(FCCP)、およびα-(フェニルヒドラゾノ)フェニルアセトニトリル誘導体;ならびに弱酸性フェノール、ベンゾイミダゾール、N-フェニルアントラニル酸、サリチルアニリド、フェニルヒドラゾン、サリチル酸、アシルジ-チオカルバジド酸、クマリン(cumarines)、および芳香族アミンを含む弱酸が含まれるが、これらに限定されない。
【0070】
6.低酸素誘導因子活性化剤
低酸素誘導因子経路の活性化剤は、当技術分野において公知であり、アルカロイドおよびその他のアミノ酸誘導体、HIFアスパラギニルヒドロキシラーゼ(HIF阻害因子またはFIH)およびHIFプロリルヒドロキシラーゼ(HPHまたはPHD)の阻害剤、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の阻害剤、一酸化窒素(NO)ドナー、微小管脱重合剤(MDA)、フェノール化合物、テルペン/ステロイド、ならびにプロスタグランジンE2(PGE2)を含む。アルカロイドおよびその他のアミノ酸誘導体の例には、デフェロキサミンおよびデスフェリ-エキソケリンDFE 722 SM、シクロピロクスオラミン[Loprox(登録商標)、6-シクロヘキシル-1-ヒドロキシ-4-メチル-2(1H)-ピリドン2-アミノエタノール]、ならびに8-メチル-ピリドキサチンが含まれる。グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の阻害剤の例には、インジルビン、5-ヨードインジルビン-3'-オキシムおよび5-メチルインジルビン-3'-オキシムのようなインジルビンの誘導体が含まれる。一酸化窒素(NO)ドナーの例には、S-ニトロソ-N-アセチル-D,L-ペニリシラミン(SNAP)、3-(ヒドロキシ-1-(1-メチルエチル)-2-ニトロソヒドラジノ)-1-プロパンアミン(NOC5)、ジアゼン-1-イウム-1,2-ジオレート(NOC-18)、S-ニトロソグルタチオン(GSNO)、スペルミンNONOエート(NOと天然生成物スペルミンとの複合体)、ジエチルアミンNONOエート、およびジエチルトリアミンNONOエートが含まれる。微小管脱重合剤(MDA)の例には、植物アルカロイドビンブラスチン、コルヒチン、およびノコダゾールのような合成MDAが含まれる。フェノール化合物の例には、ジベンゾイルメタン(DBM)、フラボノイドケルセチン(3,3',4',5,7-ペンタヒドロキシフラボン)、(-)-エピカテキン-3-ガレート(ECG)、および(-)-エピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)が含まれる。テルペンおよびステロイドの例には、セスキテルペン-トロポロン(例えば、ピクニジオン、エポロンA、およびエポロンB)、4-ヒドロキシエストラジオール(4-OHE2)、ジヒドロテストステロン、メチルトリエノロン(R1881)、ならびにジテルペンエステルホルボール12-O-ミリステート13-アセテート(PMA、12-O-テトラデカノイルホルボール13-アセテートまたはTPAとしても公知)が含まれる。
【0071】
HIFアスパラギニルヒドロキシラーゼ(HIF阻害因子またはFIH)およびHIFプロリルヒドロキシラーゼ(HPHまたはPHD)の阻害剤の例には、N-オキサロイルグリシン(5,NOG)のような2-オキソグルタル酸(2OG)、NOGのエステル誘導体(例えば、DMOG(ジメチル-オキサリルグリシン))、N-((3-ヒドロキシ-6-クロロキノリン-2-イル)カルボニル)-グリシン、3-ヒドロキシピリジン-2-カルボニル-グリシン、3,4-ジヒドロキシベンゾエート、ピリジン-2,5-ジカルボキシレート、ピリジン-2,4-ジカルボキシレート、N-オキサリル-2S-アラニン、Mole et al.,Bioorg Med Chem Lett.13:2677-80,2003に記載されたような2OGの付加的な誘導体、アラホプシンおよびデアラニルアラホプシン、デアラニルアラホプシンアナログ3-カルボキシメチレンN-ヒドロキシスクシニミド、3-カルボキシ-N-ヒドロキシピロリドン、l-ミモシン(L-Mim)、エチル3,4-ジヒドロキシベンゾエート(3,4-DHB)、ならびに6-クロロ-3-ヒドロキシキノリン(hydroxychinolin)-2-カルボン酸-N-カルボキシメチルアミド(S956711)が含まれる。付加的なHIFアスパラギニルヒドロキシラーゼおよびHIFプロリルヒドロキシラーゼの阻害剤は、例えば、 Ivan et al.,Proc Natl Acad Sci USA 99:13459-13464,2002、WO03/049686、WO03/080566、およびWO06/084210、WO10/056767に記載されている。
【0072】
HIF経路のその他の活性化剤には、鉄キレート剤(例えば、デフェロキサミン、2,2'-ピリジル1,10-フェナントロリン、Ca2+キレート剤BAPTA(1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸)、遷移金属(例えば、コバルト、ニッケル、クロミウム(VI)、および銅)、有機水銀化合物マーサリル、ならびにFG-0041(1,10-フェナントロリンと構造的に関連している化合物)が含まれる。
【0073】
HIF経路の付加的な活性化剤には、HIF-1翻訳をアップレギュレートするタンパク質が含まれる。プロテインキナーゼC(PKC)は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路のHIF-1α転写の速度を増加させ、PI3K経路と協同して機能し、そのことによってHIF-1α翻訳も増強する。PKC経路は、HIF-1αのようなmRNA転写物を特異的に認識するS6リボソームタンパク質の発現を活性化する。正常酸素圧条件におけるS6タンパク質のリン酸化を介して、HIF-1α mRNA翻訳の速度は、大幅に増加し、このサブユニットのプロテアソーム分解の効果に効果的に対抗し、細胞内のHIF-1複合体のレベルを増加させることができる。PI3K経路は、リポ多糖のような様々なメディエーターが、血管平滑筋細胞およびマクロファージにおけるHIF-1αの活性化に影響を与えるための、主要な手段として同定された(Dery et al.,Int J Biochem Cell Bio.37:535-540,2004;Page et al.,J Biol Chem.277:48403-48409,2002)。
【0074】
マクロファージ由来ペプチドPR39は、HIF-1αの分解を減少させることによりHIF-1αを安定化し、インビトロにおける血管構造の形成の加速、およびマウスにおける心筋血管系の増加をもたらすことが示されている(Li et al.,Nat Med 6:49-55.2000)。HIF-1の直接誘導は、VHLにより媒介される分解を阻止するODDDポリペプチドのN末端またはC末端を使用することにより達成された(Maranchie et al.,Cancer Cell 1:247-255,2002)。
【0075】
HIF経路活性化剤には、さらに、増殖因子、サイトカイン、およびホルモンのような、その他の非低酸素生理学的刺激が含まれる。HIF経路を活性化する増殖因子の例には、インスリン様増殖因子(IGF)-1およびIGF-2、IGF結合タンパク質(IGFBP)-2およびIGFBP-3、EGF、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、ならびにヘレグリンが含まれる。HIF経路を活性化するサイトカインの例には、腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン-1β(IL-1β)、およびIL-1が含まれる。HIF経路を活性化するホルモンの例には、血管ホルモンアンジオテンシンIIおよびトロンビン、甲状腺ホルモン、ならびに卵胞刺激ホルモンが含まれる。酸化還元タンパク質チオレドキシン-1(Trx-1)および酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)のようなその他の生理学的因子も、HIF-1αタンパク質を誘導し、HIF-1を活性化することができる。
【0076】
7.PDK1活性化剤
いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物はPDK1活性化剤である。例示的なPDK1活性化剤は、本明細書中の前記セクションIIに記載されている。
【0077】
IV.HDAC阻害剤
例示的なHDAC阻害剤には、HDACと結合する抗体、HDACのドミナントネガティブ異型、ならびにHDACを標的とするsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれ得る。HDAC阻害剤には、TSA(トリコスタチンA)(例えば、Adcock,British Journal of Pharmacology 150:829-831(2007)を参照のこと)、VPA(バルプロ酸)(例えば、Munster et al.,Journal of Clinical Oncology 25:18S(2007):1065を参照のこと)、酪酸ナトリウム(NaBu)(例えば、Han et al.,Immunology Letters 108:143-150(2007)を参照のこと)、SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸またはボリノスタット)(例えば、Kelly et al.,Nature Clinical Practice Oncology 2:150-157(2005)を参照のこと)、ナトリウムフェニルブチレート(例えば、Gore et al.,Cancer Research 66:6361-6369(2006)を参照のこと)、デプシペプチド(FR901228、FK228)(例えば、Zhu et al.,Current Medicinal Chemistry 3(3):187-199(2003)を参照のこと)、トラポキシン(TPX)(例えば、Furumai et al.,PNAS 98(1):87-92(2001)を参照のこと)、環式ヒドロキサム酸含有ペプチド1(CHAP1)(Furumai(前記)を参照のこと)、MS-275(例えば、参照により本明細書に組み入れられるCarninciらのWO2008/126932を参照のこと)、LBH589(例えば、参照により本明細書に組み入れられるGohらのWO2008/108741を参照のこと)、およびPXD101(Goh(前記)を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。一般に、全般的なレベルで、多能性細胞はより多いヒストンアセチル化を有し、分化細胞はより少ないヒストンアセチル化を有する。ヒストンアセチル化は、ヒストンおよびDNAのメチル化の調節にも関与している。いくつかの態様において、HDAC阻害剤は、サイレンシングを受けた多能性遺伝子の活性化を容易にする。
【0078】
V.ALK5阻害剤
TGFβ受容体(例えば、ALK5)阻害剤には、TGFβ受容体(例えば、ALK5)に対する抗体、TGFβ受容体(例えば、ALK5)のドミナントネガティブ異型、およびTGFβ受容体(例えば、ALK5)の発現を抑制するアンチセンス核酸が含まれ得る。例示的なTGFβ受容体/ALK5阻害剤には、SB431542(例えば、Inman,et al.,Molecular Pharmacology 62(1):65-74(2002)を参照のこと)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドとしても公知のA-83-01(例えば、Tojo et al.,Cancer Science 96(11):791-800(2005)を参照のこと、例えば、Toicris Bioscienceから市販されている);2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、Wnt3a/BIO(例えば、参照により本明細書に組み入れられるDaltonらのWO2008/094597を参照のこと)、BMP4(Dalton(前記)を参照のこと)、GW788388(-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)(例えば、Gellibert et al.,Journal of Medicinal Chemistry 49(7):2210-2221(2006)を参照のこと)、SM16(例えば、Suzuki et al.,Cancer Research 67(5):2351-2359(2007)を参照のこと)、IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)(例えば、Kim et al.,Xenobiotica 38(3):325-339(2008)を参照のこと)、GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)(例えば、de Gouville et al.,Drug News Perspective 19(2):85-90(2006)を参照のこと)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩)(例えば、DaCosta et al.,Molecular Pharmacology 65(3):744-752(2004)を参照のこと)、およびピリミジン誘導体(例えば、参照により本明細書に組み入れられるStieflらのWO2008/006583にリストされたものを参照のこと)、SU5416;2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩(SB-505124);レルデリムマブ(lerdelimumb)(CAT-152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT-192);GC-1008;ID11;AP-12009;AP-11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB-505124;SB-431542;SD-208;SM16;NPC-30345;Ki26894;SB-203580;SD-093;グリーベック(Gleevec);3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン);アクチビン-M108A;P144;ならびに可溶性TBR2-Fc(例えば、Wrzesinski et al.,Clinical Cancer Research 13(18):5262-5270(2007);Kaminska et al.,Acta Biochimica Polonica 52(2):329-337(2005);およびChang et al.,Frontiers in Bioscience 12:4393-4401(2007)を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。さらに、「ALK5阻害剤」は非特異的キナーゼ阻害剤を包含するものではないが、「ALK5阻害剤」は、例えば、SB-431542(例えば、Inman et al.,J Mol.Phamacol.62(1):65-74(2002)を参照のこと)のような、ALK5に加えてALK4および/またはALK7を阻害する阻害剤を包含するものと理解されるべきである。本発明の範囲を制限するためではないが、ALK5阻害剤は間葉系上皮変換/移行(MET)過程に影響を与えると考えられている。TGFβ/アクチビン経路は、上皮間葉系移行(EMT)のための駆動因子である。従って、TGFβ/アクチビン経路の阻害によって、MET(即ち、再プログラム)過程を容易にすることができる。
【0079】
ALK5阻害の効果を示す本明細書中のデータを考慮すると、TGFβ/アクチビン経路の阻害は類似した効果を有するであろうと考えられる。従って、TGFβ/アクチビン経路の(例えば、上流または下流の)任意の阻害剤が、本明細書中の各パラグラフに記載されたようなALK5阻害剤と組み合わせて、またはその代わりに、使用可能である。例示的なTGFβ/アクチビン経路阻害剤には、TGFβ受容体阻害剤、SMAD2/3リン酸化の阻害剤、SMAD2/3およびSMAD4の相互作用の阻害剤、ならびにSMAD6およびSMAD7の活性化剤/アゴニストが含まれるが、これらに限定されない。さらに、下記分類は、組織的な目的のためのものに過ぎず、化合物が経路内の一つまたは複数の点に影響を与える場合があり、従って、化合物が定義されたカテゴリのうちの複数において機能する場合があることを、当業者は承知しているであろう。
【0080】
SMAD2/3リン酸化の阻害剤には、SMAD2またはSMAD3に対する抗体、SMAD2またはSMAD3のドミナントネガティブ異型、およびSMAD2またはSMAD3を標的とするアンチセンス核酸が含まれ得る。阻害剤の具体例には、PD169316;SB203580;SB-431542;LY364947;A77-01;および3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)が含まれる。例えば、各々、参照により内容が本明細書に組み入れられる、Wrzesinski(前記);Kaminska(前記);Shimanuki,et al.,Oncogene 26:3311-3320(2007);およびKataokaらのEP1992360を参照のこと。
【0081】
SMAD2/3およびSMAD4の相互作用の阻害剤には、SMAD2、SMAD3、および/またはSMAD4に対する抗体、SMAD2、SMAD3、および/またはSMAD4のドミナントネガティブ異型、ならびにSMAD2、SMAD3、および/またはSMAD4を標的とするアンチセンス核酸が含まれ得る。SMAD2/3およびSMAD4の相互作用の阻害剤の具体例には、Trx-SARA、Trx-xFoxH1b、およびTrx-Lef1が含まれるが、これらに限定されない(例えば、Cui et al.,Oncogene 24:3864-3874(2005)およびZhao et al.,Molecular Biology of the Cell,17:3819-3831(2006)を参照のこと)。
【0082】
SMAD6およびSMAD7の活性化剤/アゴニストには、SMAD6またはSMAD7に対する抗体、SMAD6またはSMAD7のドミナントネガティブ異型、およびSMAD6またはSMAD7を標的とするアンチセンス核酸が含まれるが、これらに限定されない。阻害剤の具体例には、smad7-as PTO-オリゴヌクレオチドが含まれるが、これに限定されない。例えば、両方とも参照により本明細書に組み入れられる、MiyazonoらのUS6534476、およびSteinbrecherらのUS2005119203を参照のこと。
【0083】
VI.MEK阻害剤
MEKの阻害剤には、MEKに対する抗体、MEKのドミナントネガティブ異型、ならびにMEKの発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれ得る。MEK阻害剤の具体例には、PD0325901(例えば、Rinehart,et al.,Journal of Clinical Oncology 22:4456-4462(2004) を参照のこと)、PD98059(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、U0126(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、SL327(例えば、Sigma-Aldrichから入手可能)、ARRY-162(例えば、Array Biopharmaから入手可能)、PD184161(例えば、Klein et al.,Neoplasia 8:1-8(2006)を参照のこと)、PD184352(CI-1040)(例えば、Mattingly et al.,The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 316:456-465(2006)を参照のこと)、スニチニブ(例えば、参照により本明細書に組み入れられるVossらのUS2008004287を参照のこと)、ソラフェニブ(Voss(前記)を参照のこと)、バンデタニブ(Voss(前記)を参照のこと)、パゾパニブ(Voss(前記)を参照のこと)、アキシチニブ(Voss(前記)を参照のこと)、およびPTK787(Voss(前記)を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
現在、数種のMEK阻害剤が臨床試験評価を受けている。CI-1040は、癌のため第I相および第II相臨床試験において評価されている(例えば、Rinehart et al.,Journal of Clinical Oncology 22(22):4456-4462(2004)を参照のこと)。臨床試験において評価されているその他のMEK阻害剤には、PD184352(例えば、English et al.,Trends in Pharmaceutical Sciences 23(1):40-45(2002)を参照のこと)、BAY43-9006(例えば、Chow et al.,Cytometry(Communications in Clinical Cytometry)46:72-78(2001)を参照のこと)、PD-325901(PD0325901)、GSK1120212、ARRY-438162、RDEA119、AZD6244(ARRY-142886またはARRY-886)、RO5126766、XL518、およびAZD8330(ARRY-704)が含まれる。例えば、ワールドワイドウェブ上のclinicaltrials.govに位置するNational Institutes of Healthからの情報、およびワールドワイドウェブ上のcancer.gov/clinicaltrialsに位置するNational Cancer Instituteからの情報も参照のこと。
【0085】
VII.再プログラム
現在までに、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞(iPSC)へ誘導するため、多数の異なる方法およびプロトコルが確立された。iPSCは、奇形腫形成およびキメラ寄与により判断される、形態学、増殖、および多能性に関して、ESCに類似している。任意で、HDAC阻害剤と組み合わせられ、任意で、ALK5阻害剤と組み合わせられ、任意で、Mek阻害剤と組み合わせられる、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)は、iPSC生成のための再プログラムプロトコルを本質的に改良するであろうと考えられる。改良され得る再プログラムプロトコルには、Octポリペプチド(Oct3/4を含むが、これに限定されない)、Soxポリペプチド(Sox2を含むが、これに限定されない)、Klfポリペプチド(Klf4を含むが、これに限定されない)、および/またはMycポリペプチド(c-Mycを含むが、これに限定されない)より選択される1種または複数種の再プログラム転写因子の導入を含むものが含まれると考えられる。従って、いくつかの態様において、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件には、Octポリペプチド(Oct3/4を含むが、これに限定されない)、Soxポリペプチド(Sox2を含むが、これに限定されない)、Klfポリペプチド(Klf4を含むが、これに限定されない)、および/またはMycポリペプチド(c-Mycを含むが、これに限定されない)より選択される1種または複数種の再プログラム転写因子が細胞へ導入される条件が含まれる。実施例に述べられるように、PDK1活性化剤は、わずか1種の再プログラム転写因子(例えば、Oct4単独)による再プログラムを改良することが示された。従って、いくつかの態様において、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件には、1種の再プログラム転写因子(例えば、Oct4単独)が細胞へ導入される条件が含まれる。
【0086】
いくつかの態様において、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件には、例えば、標的細胞へ導入された組換え発現カセットから発現させることにより、または、ポリペプチドが細胞に入るよう、外因性再プログラム転写因子ポリペプチドの存在下で細胞をインキュベートすることにより、再プログラム因子を細胞へ導入することが含まれる。
【0087】
ESCに高発現している4種の転写因子(Oct-3/4、Sox2、KLF4、およびc-Myc)によるマウス繊維芽細胞のレトロウイルス形質導入が、誘導多能性幹(iPS)細胞を生成することが、研究によって示されている。Takahashi,K.& Yamanaka,S.Cell 126,663-676(2006);Okita,K.,Ichisaka,T.& Yamanaka,S.Nature 448,313-317(2007);Wernig,M.et al.Nature 448,318-324(2007);Maherali,N.et al.Cell Stem Cell 1,55-70(2007);Meissner,A.,Wernig,M.& Jaenisch,R.Nature Biotechnol.25,1177-1181(2007);Takahashi,K.et al.Cell 131,861-872(2007);Yu,J.et al.Science 318,1917-1920(2007);Nakagawa,M.et al.Nature Biotechnol.26,101-106(2007);Wernig,M.,Meissner,A.,Cassady,J.P.& Jaenisch,R.Cell Stem Cell.2,10-12(2008)を参照のこと。ESCに高発現している転写因子によるヒト体細胞の再プログラムも、研究によって証明されている:Hockemeyer et al.Cell Stem Cell.11;3(3):346-53(2008);Lowry et al.Proc Natl Acad Sci USA.105(8):2883-8(2008);Park et al.Nature.10;451(7175):141-6(2008);Nakagawa et al.Nat Biotechnol.Jan;26(1):101-6(2008);Takahashi et al.Cell.131(5):861-72(2007);およびYu et al.Science.318(5858):1917-20(2007)。そのような方法は、PDK1活性化剤または1種または複数種の解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)を含め、任意で、本明細書に記載されるようなその他の薬剤も含めることにより、改良されると考えられる。
【0088】
組み込まれた外因性配列を保持している標的細胞ゲノムから発生する安全性の問題を解決するため、多数の修飾された遺伝学的プロトコルがさらに開発されており、本発明によって使用可能である。これらのプロトコルは、潜在的に低下したリスクを有するiPS細胞を作製し、再プログラム遺伝子を送達するための非組み込み型(non-integrating)アデノウイルス(Stadtfeld,M.,et al.(2008)Science 322,945-949)、再プログラムプラスミドの一過性トランスフェクション(Okita,K.,et al.(2008)Science 322,949-953)、piggyBac転位系(Woltjen,K.,et al.(2009).Nature 458,766-770、Yusa et al.(2009)Nat.Methods 6:363-369、Kaji,K.,et al.(2009)Nature 458,771-775)、Cre切除可能ウイルス(Soldner,F.,et al.(2009)Cell 136,964-977)、およびoriP/EBNA1に基づくエピソーム発現系(Yu,J.,et al.(2009)Science DOI:10.1126)(各々、参照によりその内容全体が本明細書に組み入れられる)を含む。従って、いくつかの態様において、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件には、上記プロトコルのうちのいずれかに従い、非組み込み型アデノウイルス、再プログラムプラスミドの一過性トランスフェクション、piggyBac転位系、re切除可能ウイルス(Soldner,F.,et al.(2009)Cell 136,964-977)、および/またはoriP/EBNA1に基づくエピソーム発現系により、再プログラム因子が送達される条件が含まれる。いくつかの態様において、上記プロトコルのうちのいずれかにおいて、PDK1活性化剤、または1種もしくは複数種の解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)が細胞と共にインキュベートされ、任意で、本明細書に記載されるようなその他の薬剤も細胞と共にインキュベートされる。
【0089】
上述のように、再プログラムは、細胞へのタンパク質の導入を可能にする条件の下で、1種または複数種のタンパク質の存在下で、標的細胞を培養することを含み得る。例えば、Zhou H et al.,Cell Stem Cell.2009 May 8;4(5):381-4;WO/2009/117439を参照のこと。ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの導入を含まない、多数の異なる方法により、外因性ポリペプチド(即ち、細胞の外部から供給され、かつ/または細胞により産生されないタンパク質)を細胞へ導入することが可能である。いくつかの態様において、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件には、転写因子の細胞(およびいくつかの態様において細胞核)へ入る能力を増強するポリペプチドに連結された(例えば、融合タンパク質として、またはその他の様式で共有結合的にもしくは非共有結合的に連結された)関心対象の転写因子ポリペプチドを各々含む、1種または複数種の外因性タンパク質を細胞へ導入することが含まれる。
【0090】
膜輸送を増強するポリペプチド配列の例には、ショウジョウバエホメオタンパク質アンテナペディア(antennapedia)転写タンパク質(AntHD)(Joliot et al.,New Biol.3:1121-34,1991;Joliot et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:1864-8,1991;Le Roux et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:9120-4,1993)、ヘルペス単純ウイルス構造タンパク質VP22(Elliott and O'Hare,Cell 88:223-33,1997);HIV-1転写活性化剤TATタンパク質(Green and Loewenstein,Cell 55:1179-1188,1988;Frankel and Pabo,Cell 55:1 289-1193,1988);カポジFGFシグナル配列(kFGF);タンパク質形質導入ドメイン-4(PTD4);ペネトラチン、M918、トランスポータン(Transportan)-10;核移行配列、PEP-Iペプチド;両親媒性ペプチド(例えば、MPGペプチド);米国特許第6,730,293号に記載されような、送達を増強する輸送体(少なくとも5〜25個以上の連続するアルギニンを含むペプチド配列、または30、40、もしくは50個のアミノ酸の連続するセットの中の5〜25個以上のアルギニンを含むが、これらに限定されない;十分な、例えば、少なくとも5個のグアニジノモエティまたはアミジノモエティを有するペプチドを含むが、これらに限定されない);および市販されているPenetratin(商標)1ペプチド、およびDaitos S.A.(Paris,France)から入手可能なVectocell(登録商標)プラットフォームのDiatos Peptide Vector(「DPV」)が含まれるが、これらに限定されない。WO/2005/084158およびWO/2007/123667、ならびにそれらに記載された付加的な輸送体も参照のこと。これらのタンパク質は、原形質膜を通過することができるのみならず、本明細書に記載された転写因子のような他のタンパク質の付着は、これらの複合体の細胞取り込みを刺激するのに十分である。会合した分子の細胞への導入を媒介することができる多数のポリペプチドが、以前に記載されており、本発明に適合し得る。例えば、Langel(2002)Cell Penetrating Peptides CRC Press,Pharmacology and Toxicology Seriesを参照のこと。
【0091】
膜輸送を増強する例示的なポリペプチド配列には、以下のものが含まれる:
【0092】
いくつかの態様において、膜輸送を増強するポリペプチドは、少なくとも5個以上の連続するかまたは連続しないアルギニンを含むペプチド配列(例えば、8アルギニンペプチド)である。いくつかの態様において、膜輸送を増強するポリペプチドは、少なくとも7個以上の連続するかまたは連続しないアルギニンを含むペプチド配列である。例えば、膜輸送を増強するポリペプチドは、11個の連続するアルギニンを含むペプチド配列、例えば、
である。上述のように、輸送を増強する配列の中のアルギニンは全て連続している必要はない。いくつかの態様において、ポリアルギニン(例えば、連続するかまたは連続しない)領域は、少なくとも5、8、10、12、15、20アミノ酸長、またはそれ以上であり、少なくとも、例えば、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上のアルギニンを有する。
【0093】
いくつかの態様において、細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件には、1種もしくは複数種の外因性ポリペプチド、例えば、Octポリペプチド(Oct3/4を含むが、これに限定されない)、Soxポリペプチド(Sox2を含むが、これに限定されない)、Klfポリペプチド(Klf4を含むが、これに限定されない)、および/またはMycポリペプチド(c-Mycを含むが、これに限定されない)が、リポフェクション、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、粒子銃、および/もしくは微量注入のような伝統的な方法によって細胞へ導入されるか、またはタンパク質送達剤によって細胞へ導入されてもよい条件が含まれる。例えば、共有結合または非共有結合で接着した脂質、例えば、共有結合で接着したミリストイル基によって、外因性ポリペプチドを細胞へ導入することができる。いくつかの態様において、リポフェクションのために使用される脂質は、任意で、細胞送達モジュールから排除される。いくつかの態様において、本明細書に記載された転写因子ポリペプチドは、リポソームまたは(市販されているFugene6およびLipofectamineのような)脂質カクテルの一部分として外因的に導入される。もう一つの別法において、転写因子タンパク質は、標的細胞へ微量注射されるかまたはその他の様式で直接導入されてもよい。いくつかの態様において、転写因子ポリペプチドは、Profectタンパク質送達試薬、例えば、Profect-P1およびProfect-P2(Targeting Systems,El Cajon,CA)を使用して、またはProject(登録商標)トランスフェクション試薬(Pierce,Rockford IL,USA)を使用して、細胞へ送達される。いくつかの態様において、転写因子ポリペプチドは、単層ナノチューブ(SWNT)を使用して、細胞へ送達される。
【0094】
WO/2009/117439の実施例に論じられるように、本発明の転写因子ポリペプチドと共に、長期間、細胞をインキュベートすることは、細胞にとって毒性であり得る。従って、本発明のいくつかの態様において、非多能性哺乳動物細胞が多能性幹細胞になるよう誘導するのに十分な条件には、PDK1活性化剤または1種もしくは複数種の解糖代謝を促進する化合物(例えば、PDK1活性化剤)をインキュベートし、任意で、HDAC阻害剤、ALK5阻害剤、および/またはMek阻害剤もインキュベートし、1種もしくは複数種の以下のポリペプチドの非存在下で細胞をインキュベートする期間を介在させて、断続的に、非多能性哺乳動物細胞を、Octポリペプチド(Oct3/4を含むが、これに限定されない)、Soxポリペプチド(Sox2を含むが、これに限定されない)、Klfポリペプチド(Klf4を含むが、これに限定されない)、および/またはMycポリペプチド(c-Mycを含むが、これに限定されない)の1種もしくは複数種と共にインキュベートすることが含まれる。いくつかの態様において、ポリペプチドとのインキュベーションおよびポリペプチドなしのインキュベーションのサイクルは、2回、3回、4回、5回、6回、またはそれ以上、繰り返されてもよく、多能性細胞の発達を達成するために十分な長さの時間、実施される(即ち、タンパク質とのインキュベーションおよびタンパク質なしのインキュベーション)。
【0095】
様々な薬剤(例えば、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物、HDAC阻害剤、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、および/またはRho GTPase/ROCK阻害剤等)は、(例えば、発現カセットを介して、またはタンパク質として送達される)プログラム転写因子の送達の前に、それと同時に、またはその後に、非多能性細胞と接触させられ得る。便宜のため、再プログラム因子が送達される日を「1日目」と指定する。いくつかの態様において、阻害剤は、約3〜7日目に、凝集物中で(即ち、「カクテル」として)細胞と接触させられ、7〜14日間継続される。あるいは、いくつかの態様において、カクテルは、0日目(即ち、再プログラム因子の1日前)に細胞と接触させられ、約14〜30日間インキュベートされる。
【0096】
関心対象のタンパク質が導入される細胞は、哺乳動物細胞であり得る。細胞は、ヒトであってもよいし、または非ヒト(例えば、霊長類、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、イヌ、ネコ、ブタ等)であってもよい。細胞は、例えば、培養物、または組織、液体等の中にあってよく、かつ/または生物に由来してもよいしもしくは生物の中にあってもよい。多能性へと誘導可能な細胞には、ケラチノサイト細胞、毛包細胞、HUVEC(ヒト臍静脈内皮細胞)、臍帯血細胞、神経前駆細胞、および繊維芽細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
いくつかの態様において、低分子は、多能性細胞(例えば、iPS細胞)の生成の過程の効率を改良することができる。例えば、改良された効率は、そのような多能性細胞を生成するための時間を加速することにより(例えば、多能性細胞の発達までの時間を、低分子を含まない類似または同一の過程と比較して、少なくとも1日、短縮することにより)顕在化し得る。あるいは、またはそれと組み合わせて、低分子は、特定の過程により生成される多能性細胞の数を増加させることができる(例えば、所定の期間内の数を、低分子を含まない類似または同一の過程と比較して、少なくとも10%、30%、50%、100%、200%、500%等、増加させる)。
【0098】
任意で、または付加的に、低分子は、多能性細胞をもたらすため、これらのタンパク質のうちの1種の必要な発現として一般に理解されるものを「補完する」かまたはそれに取って代わることができる。転写因子のうちの1種に機能的に取って代わる薬剤と、細胞を接触させることにより、その薬剤によって取って代わられたかまたは補完された転写因子を除く、上にリストされた転写因子の全てによって、多能性細胞を生成することが可能である。
【0099】
VIII.形質転換
本発明は、組換え遺伝学の領域のルーチンの技術を利用する。本発明において有用な一般的な方法を開示している基本的な参考書には、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3rd ed.2001);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.,1994)が含まれる。いくつかの態様において、1種または複数種の再プログラム転写因子の発現のための発現カセットが、細胞へ導入される。
【0100】
いくつかの態様において、細胞の種と、発現させるタンパク質の種は、同一である。例えば、マウス細胞が使用される場合には、マウスオルソログが細胞へ導入される。ヒト細胞が使用される場合には、ヒトオルソログが細胞へ導入される。
【0101】
2種以上のタンパク質を細胞において発現させる場合、1種または複数種の発現カセットが使用され得ることが認識されるであろう。例えば、1種の発現カセットが複数種のポリペプチドを発現する場合には、ポリシストロン性発現カセットが使用され得る。
【0102】
本発明の発現カセットを細胞へ導入するため、任意の型のベクターを使用することができる。例示的なベクターには、プラスミドおよびウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。例示的なウイルスベクターには、例えば、アデノウイルスベクター、AAVベクター、およびレトロウイルス(例えば、レンチウイルス)ベクターが含まれる。
【0103】
本発明において使用するための、細胞、組織、または生物の形質転換のための、核酸送達のための適当な方法には、本明細書に記載されるか、または当業者に公知であろう、細胞、組織、または生物へ核酸(例えば、DNA)を導入することができる事実上任意の方法が含まれると考えられる(例えば、Stadtfeld and Hochedlinger,Nature Methods 6(5):329-330(2009);Yusa et al.,Nat.Methods 6:363-369(2009);Woltjen,et al.,Nature 458,766-770(9 April 2009))。そのような方法には、任意で、Fugene6(Roche)またはLipofectamine(Invitrogen)による、エクスビボトランスフェクション(Wilson et al.,Science,244:1344-1346,1989、Nabel and Baltimore,Nature 326:711-713,1987)、微量注入(参照により本明細書に組み入れられるHarland and Weintraub,J.Cell Biol.,101:1094-1099,1985;米国特許第5,789,215号)を含む、注射(各々参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、および第5,580,859号);電気穿孔(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号;Tur-Kaspa et al.,Mol.Cell Biol.,6:716-718,1986;Potter et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA,81:7161-7165,1984);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb,Virology,52:456-467,1973;Chen and Okayama,Mol.Cell Biol.,7(8):2745-2752,1987;Rippe et al.,Mol.Cell Biol.,10:689-695,1990);DEAEデキストラン、それに続く、ポリエチレングリコールの使用(Gopal,Mol.Cell Biol,5:1188-1190,1985);直接音波負荷(direct sonic loading)(Fechheimer et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA,84:8463-8467,1987);リポソームにより媒介されるトランスフェクション(Nicolau and Sene,Biochim.Biophys.Acta,721:185-190,1982;Fraley et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA,76:3348-3352,1979;Nicolau et al.,Methods Enzymol,149:157-176,1987;Wong et al.,Gene,10:87-94,1980;Kaneda et al.,Science,243:375-378,1989;Kato et al.,J Biol.Chem.,266:3361-3364,1991)および受容体により媒介されるトランスフェクション(Wu and Wu,Biochemistry,27:887-892,1988;Wu and Wu,J.Biol.Chem.,262:4429-4432,1987);ならびにそのような方法の任意の組み合わせ(各々参照により本明細書に組み入れられる)によるもののようなDNAの直接送達が含まれるが、これらに限定されない。
【0104】
IX.混合物
本明細書に論じられるように、本発明は、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物と、(a)TGFβ受容体/ALK5阻害剤;(b)MEK阻害剤;(c)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または(d)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される外因性ポリペプチドのうちの一つまたは複数とを含む混合物の中の哺乳動物細胞を提供する。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、PDK1活性化剤である。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、PS48である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖活性化剤、例えば、フルクトース2,6-二リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖の基質、例えば、フルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖中間体またはその代謝前駆物質、例えば、ニコチン酸、NADH、またはフルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、グルコース取り込み輸送体活性化剤である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ミトコンドリア呼吸モジュレーターである。いくつかの態様において、ミトコンドリア呼吸モジュレーターは、酸化的リン酸化阻害剤、例えば、2,4-ジニトロフェノールまたは2-ヒドロキシグルタル酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、低酸素誘導因子活性化剤、例えば、N-オキサロイルグリシンまたはケルセチンである。
【0105】
いくつかの態様において、混合物は、TGFβ受容体/ALK5阻害剤をさらに含む。TGFβ受容体/ALK5阻害剤には、A-83-01が含まれるが、これに限定されない。いくつかの態様において、混合物は、MEK阻害剤をさらに含む。MEK阻害剤には、PD0325901が含まれるが、これに限定されない。いくつかの態様において、混合物はヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤をさらに含む。HDAC阻害剤には、酪酸ナトリウム(NaB)およびバルプロ酸(VPA)が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、混合物は、外因性転写因子、例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される外因性転写因子をさらに含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0106】
いくつかの態様において、化合物(例えば、PDK1活性化剤、または解糖代謝を促進する化合物)は、多能性を誘導するかまたは多能性の誘導の効率を改良するのに十分な濃度で混合物中に存在する。例えば、いくつかの態様において、化合物は、少なくとも0.1nM、例えば、少なくとも1nM、10nM、100nM、1000nM、10000nM、または100000nM、例えば、0.1nM〜100000nM、例えば、1nM〜10000nM、例えば、10nM〜10000nMの濃度で存在する。いくつかの態様において、混合物は、合成容器(例えば、試験管、ペトリ皿等)内に存在する。従って、いくつかの態様において、細胞は、単離された細胞である(動物の一部分ではない)。いくつかの態様において、細胞は、動物(ヒトまたは非ヒト)から単離され、容器に置かれ、本明細書に記載されるような1種または複数種の化合物と接触させられる。細胞は、その後、培養され、任意で、特定の細胞型または系統になるよう刺激された後、任意で、同一のまたは異なる動物に戻し挿入されてもよい。いくつかの態様において、阻害剤の濃度は、混合物が細胞の誘導多能性幹細胞への変換を誘導するのに十分な条件に供された時、混合物中の非多能性細胞の誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%、20%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、またはそれ以上、改良するのに十分なものである。
【0107】
本明細書において説明されるように、いくつかの態様において、細胞は、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、Soxポリペプチド、およびKlfポリペプチドのうちの少なくとも1種または複数種の異種発現のための発現カセットを含む。いくつかの態様において、細胞は、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、Soxポリペプチド、またはKlfポリペプチドのうちの1種または複数種を発現するための発現カセットを含まない(いくつかの態様において、全く含まない)。
【0108】
本発明に係る細胞は、ヒトであってもよいし、または非ヒト(例えば、霊長類、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、イヌ、ネコ、ブタ等)であってもよい。非多能性細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織、および末梢血より選択される組織に由来する細胞を含むが、これらに限定されない、本明細書に記載されたものが含まれる。例示的な細胞型には、繊維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、T細胞、ケラチノサイト細胞、毛包細胞、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)、臍帯血細胞、および神経前駆細胞が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、混合物中の細胞の少なくとも99%が、最初は非多能性細胞である。いくつかの態様において、混合物中の細胞の本質的に全てが、最初は非多能性細胞である。
【0109】
いくつかの態様において、混合物中の細胞の少なくとも0.001%、少なくとも0.002%、少なくとも0.005%、少なくとも0.01%、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、多能性細胞へ誘導される。いくつかの態様において、混合物中の細胞の少なくとも99%が、多能性細胞へ誘導される。いくつかの態様において、本質的に全ての細胞が非多能性細胞へ誘導される。
【0110】
X.キット
本発明は、PDK1活性化剤または解糖代謝を促進する化合物と、(a)TGFβ受容体/ALK5阻害剤;(b)MEK阻害剤;(c)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;または(d)Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される外因性ポリペプチドのうちの一つまたは複数とを含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキットを提供する。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、PDK1活性化剤である。いくつかの態様において、PDK1活性化剤は、アロステリックPDK1活性化剤、例えば、PS48である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖活性化剤、例えば、フルクトース2,6-二リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖の基質、例えば、フルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、解糖中間体またはその代謝前駆物質、例えば、ニコチン酸、NADH、またはフルクトース6-リン酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、グルコース取り込み輸送体活性化剤である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、ミトコンドリア呼吸モジュレーターである。いくつかの態様において、ミトコンドリア呼吸モジュレーターは、酸化的リン酸化阻害剤、例えば、2,4-ジニトロフェノールまたは2-ヒドロキシグルタル酸である。いくつかの態様において、解糖代謝を促進する化合物は、低酸素誘導因子活性化剤、例えば、N-オキサロイルグリシンまたはケルセチンである。
【0111】
いくつかの態様において、キットは、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、例えば、A-83-01をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、MEK阻害剤、例えば、PD0325901をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)またはバルプロ酸(VPA)をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、外因性転写因子、例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドより選択される外因性転写因子をさらに含む。いくつかの態様において、外因性転写因子は、細胞膜輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0112】
いくつかの態様において、キットは、非多能性細胞をさらに含む。非多能性細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織、および末梢血より選択される組織に由来する細胞を含むが、これらに限定されない、本明細書に記載されたものが含まれる。例示的な細胞型には、繊維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、T細胞、ケラチノサイト細胞、毛包細胞、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)、臍帯血細胞、および神経前駆細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0113】
以下の実施例は、特許請求の範囲に記載された本発明を、限定するためではなく、例示するために提示されるものである。
【0114】
実施例1:OCT4および化学的化合物によるヒト初代体細胞の再プログラム
ここで、本発明者らは、OCT4のみの外因性発現による、ヒト初代体細胞のiPSCへの再プログラムを可能にする新規低分子カクテルを報告する。
【0115】
結果
いくつかの容易に入手可能な初代ヒト体細胞型の中で、ヒトの皮膚または毛包から容易に単離可能なケラチノサイトは、KLF4およびcMYCを内因的に発現しており、従来の4TFまたは(MYCを含まない)3TFを使用してより効率的に再プログラムされることが報告されたため、再プログラムのための魅力的な細胞起源を表す(Aasen,T.et al.,Nat Biotechnol 26:1276-1284(2008);Maherali,N.et al.,Cell Stem Cell 3,340-345(2008))。さらに最近、本発明者らは、低分子(即ち、それぞれ、SB431542およびPD0325901)を使用したTGFβ経路およびMAPK/ERK経路の二重阻害が、4種の外因性TF(即ち、Oct4、Sox2、Klf4、およびc-Myc TF、または「OSKM」)によるヒト繊維芽細胞の再プログラムのための強烈に増強された条件を提供することを報告した(Lin,T.et al.,Nat Methods 6:805-808(2009))。さらに、本発明者らは、2種の低分子パルネート(Parnate)(リジン特異的デメチラーゼ1の阻害剤)およびCHIR99021(GSK3阻害剤)による、そのような二重経路阻害が、2種の外因性TF(即ち、Oct4およびKlf4、または「OK」)によるヒトケラチノサイトの再プログラムも増強し得ることを示した(Li,W.et al.,Stem Cells 27:2992-3000(2009))。しかしながら、そのような2TF再プログラム過程は、極めて非効率的であり、複雑であり(例えば、2種の外因性TFおよび4種の化学物質を含む)、1種でも少ないTFによる再プログラムは、極めて困難なようであった。OCT4のみによる再プログラムに向けて、本発明者らは、再プログラム条件を洗練し、新たな再プログラム化学的エンティティを同定するための段階的な戦略を開発した。
【0116】
本発明者らは、第一に、以前に報告されたiPSC特徴決定法(Lin,T.et al.,Nat Methods 6:805-808(2009))を使用して、異なる濃度で、TGFβ経路およびMAPK経路の様々な阻害剤を試験することにより、新生児ヒト上皮ケラチノサイト(NHEK)における4TFまたは3TF(即ち、OSKMまたはOSK)条件下での再プログラム過程をさらに最適化することを試みた。本発明者らは、0.5μM PD0325901および0.5μM A-83-01(より強力かつ選択的なTGFβ受容体阻害剤)の組み合わせが、OSKMまたはOSKにより形質導入されたヒトケラチノサイトの再プログラムの増強においてより有効であることを見出した(
図1a)。注目すべきことに、ウイルス形質導入を2因子/OKのみへとさらに低下させた時、0.5μM PD0325901および0.5μM A-83-01により処理すると、低い効率ではあったが、やはりNHEKからiPSCを生成することが可能であった。次いで、本発明者らは、以前に報告されたように、様々な濃度で、公知の生理活性化合物のコレクションからの付加的な低分子のスクリーニングを開始した。現在までに試験された多数の化合物の中で、再プログラムにおいて報告されたことがないPDK1(3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1)の低分子活性化剤PS48(5μM)が、再プログラム効率を有意に約15倍増強し得ることを、驚くべきことに、本発明者らは見出した。興味深いことに、本発明者らは、0.25mM酪酸ナトリウム(NaB、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤)が、OK条件下でのiPSCの生成について、以前に報告された0.5mM VPAよりはるかに信頼性がありかつ効率的であることが判明したことを見出した(
図1b)。その後の追跡研究は、5μM PS48および0.25mM NaBの組み合わせが、25倍を超えて、再プログラム効率をさらに増強し得ることを証明した(
図1bおよび表3)。
【0117】
わずか2種のTFによるNHEKの再プログラムの、そのような先例がない効率により、本発明者らは、異なる処理ウィンドウにおいて、それらの低分子の組み合わせを洗練することにより、OCT4単独によるiPSC生成の可能性をさらに探求した。初代NHEKをOCT4により形質導入し、化学物質により処理した(
図1c)。様々な条件の中で、0.25mM NaB、5μM PS48、および0.5μM A-83-01により最初の4週間処理され、続いて、0.25mM NaB、5μM PS48、0.5μM A-83-01、および0.5μM PD0325901によりさらに4週間処理されたOCT4感染NHEKにおいて、hESCに類似している小さなiPSCコロニー(播種された細胞1,000,000個から4〜6個のコロニー)が出現した(
図1c)。そのようなTRA-1-81陽性iPSCコロニー(
図1d)は、従来のhESC培養培地でより大きく成長し、連続継代されて、安定したiPSCクローンを与えることができた。それらのiPSCクローンをさらに特徴決定した(
図1eおよび2)。さらに、(OK条件下でのNHEKの再プログラムを改良することが示された)2μMパルネートおよび3μM CHIR99021を、この化学物質カクテルへ添加することにより、ヒト成体ケラチノサイトからも、OCT4のみによりiPSCを生成することができた。OCT4および低分子による初代ケラチノサイトのiPSCへの信頼性のある再プログラムの後、本発明者らは、さらに、HUVEC(分化中胚葉細胞)およびAFDC(羊水由来細胞)を含む、他のヒト初代細胞型へその条件を適用した。同様に、化学物質により処理されたOCT4感染HUVECおよびOCT4感染AFDCにおいて、TRA-1-81陽性iPSCコロニーが出現した。注目すべきことに、OCT4および低分子の条件下で、HUVECおよびAFDCの再プログラムは、NHEKの再プログラムより効率的でかつより迅速であるようであった(表3)。各細胞型からのiPSCの2個のクローンを、従来のhESC培養条件の下で20代を超えて長期に拡大させ、さらに特徴決定した(表4)。
【0118】
これらの安定的に拡大したhiPSC-OK細胞およびhiPSC-O細胞は、hESCと形態学的に識別不可能であって、フィーダーフリーの化学的に定義された条件の下で、ECMコーティング表面において培養可能であった(
図1eおよび
図6)。それらはアルカリホスファターゼ(ALP)染色が陽性であって、免疫細胞化学/ICCにより検出された、OCT4、SOX2、NANOG、TRA-1-81、およびSSEA4を含む、典型的な多能性マーカーを発現していた(
図1e、3b、
図4〜5)。さらに、RT-PCR分析は、内因性のヒトのOCT4遺伝子、SOX2遺伝子、NANOG遺伝子、REX1遺伝子、UTF1遺伝子、TDGF2遺伝子、FGF4遺伝子の発現、ならびに外因性のOCT4およびKLF4のサイレンシングを確認した(
図2aおよび3c)。さらに、重亜硫酸塩配列決定分析は、hiPSC-OK細胞およびhiPSC-O細胞のOCT4プロモーターおよびNANOGプロモーターが概して脱メチルされていることを明らかにした(
図2bおよび3d)。この結果は、hiPSC-OK細胞およびhiPSC-O細胞における多能性転写プログラムの再活性化のさらなる証拠を提供する。hiPSC-O細胞、NHEK、およびhESCの全般的遺伝子発現分析は、hiPSC-O細胞が、NHEKと異なり(ピアソン相関値:0.87)、hESCに最も類似している(ピアソン相関値:0.98)ことを示した(
図2c)。遺伝子型決定分析は、hiPSC-O細胞が、トランスジーンKLF4またはSOX2の混入なしに、OCT4トランスジーンのみを含有していることを示した(
図8)。サザンブロット分析は、OCT4トランスジーンの複数の異なる組み込み部位が、異なるクローンに存在することを示した(
図9)。さらに、核型決定結果は、再プログラムおよび拡大の過程の全体において、hiPSC-Oが正常な核型を維持することを証明した(
図10)。さらに、DNAフィンガープリント試験は、これらのhiPSCが、実験室におけるhESC汚染から発生した可能性を排除した(表5)。
【0119】
これらのhiPSC-O細胞の発達可能性を調査するため、それらを、標準的な胚様体(EB)分化法によりインビトロで分化させた。ICC分析は、それらが、βIII-チューブリン
+の特徴的なニューロン細胞(外胚葉)、SMA
+中胚葉細胞、およびAFP
+内胚葉細胞へ効果的に分化し得ることを証明した(
図2dおよび3e)。定量的PCR分析は、さらに、外胚葉細胞(βIIIチューブリンおよびネスチン)、中胚葉細胞(MSX1およびMLC2a)、ならびに内胚葉細胞(FOXA2およびAFP)を含む、これらおよび付加的な系統特異的マーカー遺伝子の発現を確認した(
図2e)。EBプロトコルの後、これらのhiPSC-OK細胞およびhiPSC-O細胞は、規則的に拍動する心筋細胞も与えることができた。インビボ多能性を試験するため、それらをSCIDマウスへ移植した。4〜6週間後、これらのhiPSC-O細胞は、三つ全ての胚葉の派生物を含有している典型的な奇形腫を効果的に生成した(
図2fおよび3f)。総合すると、これらのインビトロおよびインビボの特徴決定は、定義された低分子カクテルと組み合わせられた単一転写因子OCT4が、数種のヒト初代体細胞を、形態学的、分子的、かつ機能的に多能性hESCに類似したiPSCへ再プログラムするのに十分であることを証明した。
【0120】
考察
上に提示された研究は、多数の重要な意義を有する:第一に、胎児NSCは、OCT4単独の異所発現によりiPSCへ再プログラムされることが示されたが、SOX2(再プログラムにおける2種のマスター多能性遺伝子のうちの1種)を内因的に発現せず、より遅い発達段階(例えば、初期胚/胎児に対して生後/成体)にあり、かつ個体への著しい危害なしに入手することが可能な、他のより実用的なヒト体細胞を再プログラムするのにも、単独の外因性OCT4遺伝子が十分であるかは、非常に懐疑的であった。本発明者らの知る限り、本発明者らの研究は、単一の外因性再プログラム遺伝子OCT4により形質導入された、容易に入手可能な初代ヒト体細胞(例えば、ケラチノサイト)から、iPSCが実際に派生し得ることの最初の証明である。脳由来の神経幹細胞とは対照的に、ケラチノサイトは、より利用可能性が高く、より侵襲性の低い手法によって、生後の個体から容易に入手することが可能である。これは、より安全なアプローチおよび/またはより高い品質を有するiPSC生成のため、様々な実際に利用可能性が高いヒト体細胞を活用する戦略をさらに強化する。従って、この新たな方法およびそのさらなる開発は、様々な適用のための患者特異的な多能性幹細胞の作製を著しく容易にするであろう。
【0121】
第二に、1種または2種のみの再プログラムTFに取って代わる低分子およびそれらの組み合わせが同定されたが、より多くの外因性再プログラムTFが共に省かれる時、iPSCの生成は指数関数的に困難となる。OCT4単独によるiPSCの生成を可能にするための、3種のマスター転写因子(即ち、SOX2、KLF4、およびMYC)の全てに機能的に取って代わる、この新たな低分子カクテルの同定は、低分子のみによる究極の再プログラムに向けての大きな前進を表し、iPSCの化学的アプローチをさらに立証し、強化した。
【0122】
第三に、この証明された単一遺伝子条件は、タンパク質誘導多能性幹細胞(piPSC)テクノロジーにとっても大きな意義を有する。piPSCテクノロジーのための実際の課題は、各々、製造において異なる挙動(例えば、発現、折り畳み、安定性等)を示す4種の形質導入可能再プログラムタンパク質の大規模かつ信頼性のある作製である。明らかに、この低分子カクテルを、単一の形質導入可能タンパク質と組み合わせることは、piPSCテクノロジーを著しく単純化し、その適用を容易にするであろう。
【0123】
第四に、本発明者らは、再プログラムの増強における新たな標的/機序と共に、新たな低分子PS48を同定した。PS48は、PDK1のアロステリック低分子活性化剤である(Hindie,V.et al.,Nat Chem Biol 4:758-764(2009))。PS48が再プログラムを増強する一つの機序は、(ワールブルク効果としても公知である)主として成体体細胞により使用されるミトコンドリア酸化から、主としてESCにより使用される解糖への代謝再プログラムを容易にすることのようである(Manning,B.D.and Cantley,Cell 129:1261-1274(2007);Kondoh,H.et al.,Antioxid Redox Signal 9:293-299(2007);Heiden,M.G.V.et al.,Science 324:1029-1033(2009))。そのように多能性幹細胞がミトコンドリア呼吸より解糖代謝をディファレンシャルに使用することは、より少ない酸化ストレスにより増殖/細胞周期移行を促進することにより、多能性にとって好都合であろう。高度に増殖中の細胞にとって、酸化的リン酸化は、細胞複製のための高分子前駆物質の供給という需要を満たすことができないのみならず、過度の酸化的傷害を誘導し得る相当量の活性酸素種をミトコンドリア内に生成する。他方、解糖代謝は、非必須アミノ酸のための解糖中間体および脂肪酸のためのアセチル-CoAのような高分子前駆物質をより効果的に生成することができ、増殖中の細胞の必要性を満たすために十分なエネルギーを供給する(Kondoh,H.et al.,Antioxid Redox Signal 9:293-299(2007);Heiden,M.G.V.et al.,Science 324:1029-1033(2009))。興味深いことに、低酸素条件およびそのエフェクターHIF-1α活性化は、解糖代謝の促進に密接に関連しているのみならず、マウスおよびヒトの両方の再プログラムを増強することも示された(Yoshida,Y.et al.,Cell Stem Cell 5:237-241(2009))。機構的に、増殖因子シグナル伝達経路、低酸素条件/HIF-1α、および再プログラム因子Mycは、GLUT1、HK2、およびPFK1のようなグルコース輸送体および解糖代謝酵素のアップレギュレーションを含む、細胞代謝の補足的な局面を調節するようである(Gordan,J.D.et al.,Cancer Cell 12:108-113(2007);DeBerardinis,R.J.et al.,Cell Metabolism 7:11-20(2008))。これらの研究は、再プログラムの増強における、Myc、低酸素条件/HIF-1α、および増殖因子/Akt経路活性化の、一つの可能性のある保存された機序が、解糖代謝の調節における本質的な役割に集中することを示唆している。この概念を支持して、本発明者らは、PS48による処理が、下流のAkt/PKBを活性化し(
図11a)、数種のキー解糖遺伝子の発現をアップレギュレートし(
図11d)、解糖への代謝スイッチを容易にすることを見出した(
図11c)。反対に、本発明者らは、UCN-01(PDK1阻害剤)によるPDK1活性の不活化、または2-デオキシ-D-グルコース(解糖阻害剤)による解糖の阻害が、解糖を減弱させるのみならず(
図11c)、再プログラム過程も阻止することを見出した(
図11b)。さらに、ミトコンドリア呼吸(2,4-ジニトロフェノール)、解糖代謝(フルクトース2,6-二リン酸およびシュウ酸)、または、より特異的に、HIF経路活性化(N-オキサロイルグリシンおよびケルセチン)をモジュレートするために広く使用されている数種の公知の低分子も、再プログラムに対して対応する一貫した効果を示した。即ち、(2,4-ジニトロフェノールおよびN-オキサロイルグリシンのような)解糖代謝を容易にする化合物は再プログラムを増強し、(シュウ酸のような)解糖代謝を阻止する化合物は再プログラムを阻害する(
図11e)(Hewitson,K.S.and Schofield,C.J.,Drug Discov Today 9:704-711(2004);Pelicano,H.et al.,Oncogene 25:4633-4646(2006))。結論として、これらの結果は、嫌気的解糖への代謝スイッチが、体細胞の多能性幹細胞への再プログラムにとって重大であり、それを容易にすることを示した。
【0124】
最後に、再プログラムのための、この新規の強力な低分子カクテルは、究極の化学物質のみにより誘導される多能性幹細胞に向けた作製アプローチとして、本明細書に提示された段階的な化学物質の最適化およびスクリーニングの戦略をバリデートした。さらに、本発明者らは、A-83-01およびNaBの、ヒトケラチノサイトにおけるより優れた再プログラム増強活性に例示されるように、同一の標的/機序をモジュレートする異なる低分子が、異なる情況においては、有意に異なる効果を再プログラムに対して及ぼすことを見出した。このことは、特定の再プログラム情況のため、異なる計画により「個別化された」最適化および処理が重要であることを示唆している。
【0125】
方法
細胞培養
正常ヒト上皮ケラチノサイト(Lonza)は、ケラチノサイト培養培地(KCM、Lonza)において維持された。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、Millipore)は、EndoGRO-VEGF完全培地(HCM、CHEMICON)において維持された。ヒトESCおよびhiPSCは、従来のヒトESC培養培地(hESCM:DMEM/F12、15%ノックアウト血清代替物、1%グルタマックス(Glutamax)、1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mM β-メルカプトエタノール、および10ng/ml bFGF)において、MEFフィーダー細胞上で培養された。言及されない場合、全ての細胞培養製品が、Invitrogen/Gibco BRL製であった。
【0126】
レンチウイルス作製
レンチウイルス上清は、以前に記載されたようにして(Yu,J.et al.,,Science 318:1917-1920(2007))、作製され採集された。レンチウイルス作製のために使用されたプラスミドには、pSin-EF2-Puro-hOCT4、pSin2-EF2-Puro-hSOX2、pLove-mKlf4、pLove-mMyc、パッケージングプラスミドpsPAX2、およびエンベロープをコードするプラスミドpMD2.Gが含まれる(Yu,J.et al.,Science 318:1917-1920(2007)およびLi,W.et al.,Stem Cells 27:2992-3000(2009))。
【0127】
NHEKの再プログラム
NHEKを、100mm組織培養ディッシュにおいて培養し、新鮮に作製されたレンチウイルス上清により3回形質導入した(各形質導入3〜4時間)。1,000,000個の形質導入NHEKを、100mmディッシュ内のX線照射不活化CF1 MEFフィーダー細胞上に播種し、KCMにおいて培養し、5μM PS48、0.25mM NaB(Stemgent)、および0.5μM A-83-01(Stemgent)により2週間処理し、続いて、さらに2週間、培地の半量をhESCMに変更し、5μM PS48、0.25mM NaB、および0.5μM A-83-01を補足した。次いで、細胞培養培地をhESCMに変更し、さらに4週間、5μM PS48、0.25mM NaB、0.5μM A-83-01、および0.5μM PD0325901(Stemgent)を補足した。化学物質を含まない培地において培養された、同一のOCT4感染ケラチノサイトを、対照として使用した。培養物をAccutase(Millipore)により分離し、分離後初日に1μMチアゾビビン(Stemgent)により処理した。Alexa Fluor 555マウス抗ヒトTRA-1-81抗体(BD Pharmingen)による染色が陽性のiPSCコロニーを、hESCMにおけるフィーダー細胞上での拡大のためピックアップし、ルーチンに培養した。
【0128】
HUVECの再プログラム
HUVECを、100mm組織培養ディッシュにおいて培養し、新鮮に作製されたレンチウイルス上清により2回形質導入した(各形質導入4〜6時間)。200,000個の形質導入HUVECを、ゼラチンコーティング100mmディッシュに播種し、HCMにおいて培養し、5μM PS48、0.25mM NaB、および0.5μM A-83-01により2週間処理し、続いて、さらに2週間、培地の半量をhESCMに変更し、5μM PS48、0.25mM NaB、および0.5μM A-83-01を補足した。次いで、細胞培養培地をhESCMに変更し、さらに1〜2週間、5μM PS48、0.25mM NaB、0.5μM A-83-01、および0.5μM PD0325901を補足した。Alexa Fluor 555マウス抗ヒトTRA-1-81抗体による染色が陽性のiPSCコロニーを、hESCMにおけるフィーダー細胞上での拡大のためピックアップし、ルーチンに培養した。培養物をAccutaseにより分離し、分離後初日に1μMチアゾビビンにより処理した。
【0129】
代謝をモジュレートする様々な化合物を使用したHUVECの再プログラム
HUVECを、100mm組織培養ディッシュにおいて培養し、4種の再プログラム因子(Klf、Sox、Myc、およびOct)を含有している、新鮮に作製されたレンチウイルス上清により、2回形質導入した(各形質導入4〜6時間)。約20,000個の形質導入HUVECを、ゼラチンコーティング6穴プレートに播種し、HCMにおいて培養し、2週間、代謝をモジュレートする化合物により処理した。次いで、細胞培養培地をhESCMに変更し、さらに1〜2週間、代謝をモジュレートする化合物を補足した。Alexa Fluor 555マウス抗ヒトTRA-1-81抗体による染色が陽性のiPSCコロニーの数を計数した。10mMフルクトース2,6-二リン酸(F2,6P)、10mMフルクトース6-リン酸(F6P)、10μM 6-アミノニコチンアミド(6-AN)、10μMシュウ酸(OA)、1μM 2,4-ジニトロフェノール(DNP)、1μM N-オキサロイルグリシン(NOG)、1μMケルセチン(QC)、10μM 2-ヒドロキシグルタル酸(2-HA)、または10μMニコチン酸(NA)を含む、代謝をモジュレートする様々な化合物を試験した。
【0130】
インビトロ分化
hiPSCのインビトロ分化は、標準的な胚様体(EB)法により実施された。簡単に説明すると、hiPSCをAccutase(Millipore)により解離させ、8日間、超低接着(ultra-low attachment)6穴プレートにおいて培養し、次いで、分化培地でマトリゲルコーティング6穴プレートに移した。8日後、細胞を、免疫細胞化学的分析のため固定するか、またはRT-PCR試験のため採集した。分化培地:DMEM/F12、10%FBS、1%グルタマックス、1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mM β-メルカプトエタノール。
【0131】
アルカリホスファターゼ染色および免疫細胞化学アッセイ
アルカリホスファターゼ染色は、アルカリホスファターゼ検出キット(Stemgent)を使用して、製造業者のプロトコルに従って実施された。標準的な免疫細胞化学アッセイが、以前に報告されたように(Li,W.et al.,Stem Cells 27:2992-3000(2009))実施された。使用された一次抗体は、表2に見出され得る。二次抗体は、Alexa Fluor 488ロバ抗マウスまたは抗ウサギIgG(1:1000)(Invitrogen)であった。核はDAPI(Sigma-Aldrich)染色により可視化された。画像はNikon Eclipse TE2000-U顕微鏡を使用して捕獲された。
【0132】
RT-PCRおよびqRT-PCRによる遺伝子発現分析
RT-PCR分析およびqRT-PCR分析のため、QIAshredder(Qiagen)と組み合わせられたRNeasy Plus Mini Kitを使用して、ヒトiPSCから全RNAが抽出された。第一鎖逆転写は、iScript(商標)cDNA合成キット(BioRad)を使用して、2μg RNAにより実施された。多能性マーカーの発現は、Platinum PCR SuperMix(Invitrogen)を使用したRT-PCRにより分析された。分化後の系統特異的マーカーの発現は、iQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を使用したqRT-PCRにより分析された。プライマーは表1に見出され得る。
【0133】
マイクロアレイ分析
NHEK、hiPSC細胞、およびhES細胞の全般的遺伝子発現を調査するため、ヒトRef-8_v3 expression Beadchip(Illumina,CA,USA)をマイクロアレイハイブリダイゼーションのために使用した。ビオチン-16-UTP標識cRNAを、Illumina TotalPrep RNA増幅キット(Ambion AMIL1791,Foster City,CA,USA)により、500ngの全RNAから合成した。標識された増幅されたcRNAを750ng含有しているハイブリダイゼーション混合物を、供給された試薬およびGE Healthcareストレプトアビジン-Cy3染色溶液を使用して、Illumina BeadStation 500X System Manual(Illumina,San Diego,CA,USA)に従って調製した。Illumina Human Ref-8_v3 expression Beadchipへのハイブリダイゼーションは、BeadChip Hyb Wheel上で55℃で18時間行われた。アレイはIllumina BeadArray Readerを使用してスキャンされた。全ての試料が、二つの生物学的複製物として調製された。マイクロアレイデータの加工および分析は、Illumina BeadStudioソフトウェアにより実施された。データは、バックグラウンドを差し引かれ、ランク不変(rank invariant)オプションを使用して規格化された。
【0134】
重亜硫酸塩ゲノム配列決定
ゲノムDNAを、Non Organic DNA Isolation Kit(Millipore)を使用して単離し、次いで、EZ DNA Methylation-Gold Kit(Zymo Research Corp.,Orange,CA)により処理した。次いで、処理されたDNAを、関心対象の配列を増幅するための鋳型として使用した。OCT4プロモーターおよびNANOGプロモーターの断片の増幅のために使用されたプライマーは、表1に示される。得られた断片を、配列決定用のTOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を使用してクローニングし、配列決定した。
【0135】
hiPSCの遺伝子型決定
hiPSC株の遺伝子型決定は、特異的なプライマー(表1;Yu,J.et al.,Science 318:1917-1920(2007)およびLi,W.et al.,Stem Cells 27:2992-3000(2009))によるゲノムDNAのRT-PCRを使用して実施された。
【0136】
奇形腫形成
0.05%トリプシン-EDTAを使用することによりhiPSC株を採集した。500万個の細胞をSCIDマウス(n=3)の腎被膜下に注射した。4〜6週間後、よく発達した奇形腫を採集し、固定し、次いで、TSRIヒストロジーコアファシリティ(histology core facility)で組織学的に分析した。
【0137】
(表1)使用されたプライマー
【0138】
(表2)適用された一次抗体
【0139】
(表3)再プログラム実験の要約
【0140】
NHEK、新生児ヒト上皮ケラチノサイト;HUVEC、ヒト臍静脈内皮細胞;AHEK、成体ヒト上皮ケラチノサイト;AFDC、羊水由来細胞。使用された化学物質濃度:PD、0.5μM PD0325901;A83、0.5μM A-83-01;PS48、5μM PS48;VPA、0.5mMバルプロ酸;NaB、0.25mM酪酸ナトリウム;Par、2μMパルネート;CHIR、3μM CHIR99021。4因子または3因子による誘導再プログラムについては、NHEKが、10cmディッシュ1枚当たり100,000個の形質導入細胞の密度で播種され、4週間後に陽性コロニーが計数された;2因子誘導再プログラムについては、NHEKが、10cmディッシュ1枚当たり100,000個の形質導入細胞の密度で播種され、6週間後に陽性コロニーが計数された;1因子誘導再プログラムについては、NHEKおよびAHEKが、10cmディッシュ1枚当たり1,000,000個の形質導入細胞の密度で播種され、8週間後に陽性コロニーが計数された。HUVECおよびAFDCは、10cmディッシュ1枚当たり200,000個の形質導入細胞の密度で播種され、6週間後に陽性コロニーが計数された。
【0141】
(表4)確立されたヒトiPSC細胞株の特徴決定
【0142】
特徴決定された細胞株は、従来のhESC培養条件の下で、20代を超えて長期に拡大させられ、さらにマーカー発現および多能性について特徴決定された;確立されたその他の細胞株は、5代目または6代目で保管された。空欄は「未決定」を示す。
【0143】
(表5)Oct4誘導iPSCおよび親細胞株に対するDNAフィンガープリント分析
【0144】
15の多形ショートタンデムリピート(STR)DNA遺伝子座および性染色体マーカーアメロゲニンが調査された。
【0145】
実施例2:ヒト臍静脈内皮細胞の再プログラム
本発明者らは、再プログラムの動力学および効率に対する効果について、Oct4単独によりレンチウイルス形質導入されたHUVECに対する、HDAC阻害剤、PDK1活性化剤、TGFβ受容体阻害剤、およびMEK阻害剤の組み合わせの効果を試験した。
【0146】
方法
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、Millipore)を、EndoGRO-VEGF完全培地(HCM、CHEMICON)において維持した。HUVECを、100mm組織培養ディッシュにおいて培養し、新鮮に作製されたレンチウイルス上清により2回形質導入した(各回4〜6時間)。次いで、200,000個の形質導入HUVECを、ゼラチンコーティング100mmディッシュに播種し、HCMにおいて培養し、PDK1活性化剤PS48(5μM)、HDAC阻害剤NaB(0.25mM)、およびTGFβ受容体阻害剤A-83-01(0.5μM)により2週間処理し、続いて、さらに2週間、培地の半量をhESCMへ変更し、PDK1活性化剤PS48(5μM)、HDAC阻害剤NaB(0.25mM)、およびTGFβ受容体阻害剤A-83-01(0.5μM)を補足した。次いで、細胞培養培地をhESCMへ変更し、さらに2週間、PDK1活性化剤PS48(5μM)、HDAC阻害剤NaB(0.25mM)、およびTGFβ受容体阻害剤A-83-01(0.5μM)、およびMEK阻害剤PD0325901(0.5μM)を補足した。iPSCコロニーは、Alexa Fluor 555マウス抗ヒトTRA-1-81抗体(BD Pharmingen)による染色が陽性であった。hESCM:DMEM/F12、15%ノックアウト血清代替物、1%グルタマックス、1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mM β-メルカプトエタノール、および10ng/ml bFGF。
【0147】
結果
Oct4単独により形質導入されたHUVECについて、本発明者らは、再プログラム効率に対するHDAC阻害剤、PDK1活性化剤、TGFβ受容体阻害剤、MEK阻害剤の組み合わせの効果を試験した。本発明者らは、5μM PS48、0.25mM NaB、0.5μM A-83-01、および0.5μM PD0325901の組み合わせによる処理が、およそ0.0015%の再プログラム効率をもたらすことを見出した。
【0148】
上記実施例は、本発明の範囲を制限するためではなく、本発明を例示するために提供されている。本発明のその他の別態様は、当業者には容易に明らかであり、添付の特許請求の範囲に包含される。本明細書中に引用された刊行物、データベース、Genbank配列、特許、および特許出願は、全て、参照により本明細書に組み入れられる。