特許第5909505号(P5909505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909505
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】ブレーキ装置の制動の順序付け
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/32 20060101AFI20160412BHJP
   B66B 5/04 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   B66B1/32
   B66B5/04 Z
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-552508(P2013-552508)
(86)(22)【出願日】2011年2月4日
(65)【公表番号】特表2014-504579(P2014-504579A)
(43)【公表日】2014年2月24日
(86)【国際出願番号】US2011023769
(87)【国際公開番号】WO2012105986
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2013年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】591020353
【氏名又は名称】オーチス エレベータ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】デラ ポルタ,ジョセフ,エル.
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−286950(JP,A)
【文献】 特開2001−278572(JP,A)
【文献】 特開平05−201678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00−1/52
B66B 5/00−5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご(30)と、
第1の電磁ブレーキコイル(64)を有し、解放位置と係合位置との間で移動可能な第1のブレーキ(62)と、
ブレーキ電源(94)を有するとともに、第1のブレーキ(62)に電気的に接続され、第1のブレーキコイル(64)の残留電流によって第1のブレーキ(62)の係合位置への移動を選択的に遅延するように設けられたブレーキ制御デバイス(60)と、
第2の電磁ブレーキコイル(68)を有するとともに、ブレーキ制御デバイス(60)に電気的に接続されており、かつブレーキ電源(94)によって第2のブレーキコイル(68)が励磁されたときに係合位置から解放位置に移動し、第2のブレーキコイル(68)の励磁が断たれたときに係合位置に移動する第2のブレーキ(66)と、を備え
ブレーキ制御デバイス(60)は、第2のブレーキコイル(68)の第2の残留電流によって、第2のブレーキ(66)の係合位置への移動を選択的に遅延するように設けられており、
ブレーキ制御デバイス(60)に電気的に接続された安全チェーン(54)をさらに備え、安全チェーン(54)は、開位置と閉位置との間で移動可能なガバナスイッチ(106)を含み、
かご(30)に意図したものでないかご動作が発生したときに、第2のブレーキ(66)が第1のブレーキ(62)の前に作動され、ガバナスイッチ(106)が開位置に移動したときに、第1のブレーキ(62)が第2のブレーキ(66)の前に作動されることを特徴とするエレベータ装置(20)。
【請求項2】
第1のブレーキ(62)は、ブレーキ電源(94)によって第1のブレーキコイル(64)が励磁されたときに解放位置に移動し、かつ第1のブレーキコイル(64)の励磁が断たれたときに係合位置に移動するように設けられていることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置(20)。
【請求項3】
第2のブレーキ(66)の係合位置への移動が、ガバナスイッチ(106)の開位置への移動に応じて遅延されることを特徴とする請求項記載のエレベータ装置(20)。
【請求項4】
全チェーン(54)は、安全チェーン(54)に接続されたエレベータ電源(56)を含み、第1のブレーキ(62)の動作は、エレベータ電源(56)から安全チェーン(54)への電力供給の停止に応じて遅延されることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置(20)。
【請求項5】
第1の残留電流は、第1のブレーキコイル(64)の蓄積エネルギの減衰速度を遅くすることによって、第1のブレーキ(62)の係合位置への移動を遅延することを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置(20)。
【請求項6】
前記の遅延は、約150〜約600ミリ秒であることを特徴とする請求項記載のエレベータ装置(20)。
【請求項7】
第1のブレーキ(62)の係合位置への移動は、かご(30)の意図したものでないかご動作に応じて遅延されることを特徴とする請求項記載のエレベータ装置(20)。
【請求項8】
第1のブレーキ(62)は、かご(30)の昇降に使用される機械(31)の一部であることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置(20)。
【請求項9】
第1の電磁ブレーキコイル(64)を有し、解放位置と係合位置との間で移動可能な第1のブレーキ(62)と、
第1のブレーキ(62)に電気的に接続されているとともに、第1のブレーキコイル(64)の残留電流によって、第1のブレーキ(62)の係合位置への移動を選択的に遅延するブレーキ制御デバイス(60)と、
ブレーキ制御デバイス(60)に電気的に接続された第2のブレーキ(66)と、を備え、第2のブレーキ(66)は、第2の電磁ブレーキコイル(68)を有するとともに、解放位置と係合位置との間で移動可能に設けられており、ブレーキ制御デバイス(60)は、第2のブレーキコイル(68)の残留電流によって第2のブレーキ(66)の係合位置への移動を遅延し、
意図したものでないかご動作の発生に応じて第2のブレーキ(66)が第1のブレーキ(62)の前に作動され、過速度の発生に応じて第1のブレーキ(62)が第2のブレーキ(66)の前に作動されることを特徴とするブレーキ装置(58)。
【請求項10】
ブレーキ制御デバイス(60)は、意図したものでないかご動作の発生に応じて第1のブレーキ(62)の移動を遅延することを特徴とする請求項記載のブレーキ装置(58)。
【請求項11】
ブレーキ制御デバイス(60)は、過速度の発生に応じて第2のブレーキ(66)の移動を遅延することを特徴とする請求項記載のブレーキ装置(58)。
【請求項12】
ブレーキ装置(58)は、エレベータ電源(56)に電気的に接続されており、ブレーキ制御デバイス(60)は、エレベータ電源(56)からの電力供給の停止に応じて第1のブレーキ(62)の移動を遅延することを特徴とする請求項記載のブレーキ装置(58)。
【請求項13】
前記の遅延は、約150〜約600ミリ秒であることを特徴とする請求項記載のブレーキ装置(58)。
【請求項14】
かご(30)と、第1の電磁ブレーキコイル(64)を有する第1のブレーキ(62)と、第2の電磁ブレーキコイル(68)を有する第2のブレーキ(66)と、ブレーキ制御デバイス(60)と、を備えるエレベータ装置(20)の改装方法であって、
第1の電磁ブレーキコイル(64)の蓄積エネルギの減衰速度を制御することによって、第1のブレーキ(62)の作動を選択的に遅延させるようにブレーキ制御デバイス(60)を変更し、
第2の電磁ブレーキコイル(68)の蓄積エネルギの減衰速度を制御することによって、第2のブレーキ(66)の作動を選択的に遅延するようにブレーキ制御デバイス(60)を変更することを含み
エレベータ装置(20)は、閉位置と開位置との間で移動可能なガバナスイッチ(106)を有する安全チェーンをさらに備え、
かご(30)に意図したものでないかご動作が発生したときに、第2のブレーキ(66)が第1のブレーキ(62)の前に作動され、ガバナスイッチ(106)が開位置に移動したときに、第1のブレーキ(62)が第2のブレーキ(66)の前に作動されることを特徴とするエレベータ装置(20)の改装方法。
【請求項15】
第1の電磁ブレーキコイル(64)の蓄積エネルギの減衰速度は、第1の電磁ブレーキコイル(64)を通して残留電流を再循環させることによって制御されることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記の遅延は、約150〜約600ミリ秒であることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
第2の電磁ブレーキコイル(68)の蓄積エネルギの減衰速度は、第2の電磁ブレーキコイル(68)を通して残留電流を再循環させることによって制御されることを特徴とする請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、ブレーキ装置に関し、特に、エレベータで使用されるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、エレベータは多数の階床を有するビルで人や荷物を搬送する広く普及している機械である。エレベータは、種々の階床で頻繁に停止しながら一日中連続的に運転されるので、エレベータのブレーキ装置はエレベータの円滑な運転のために重要な役目を果たす。
【0003】
エレベータ装置では、ベルト駆動またはロープ駆動の装置によってエレベータかごを昇降するために使用される牽引機械などは、特定の動作を停止または一時的に止めるために典型的に機械式または電気機械式のブレーキ装置を使用する。エレベータの電気機械式ブレーキは、例えば、エレベータかごの減速あるいは固定位置での保持に十分な保持トルクあるいはブレーキトルクを提供するクラッチ式ブレーキ機構を一般に使用する。クラッチ式ブレーキによって提供されるブレーキトルクは、機械のシャフトに固定された回転するブレーキディスクと、ブレーキディスクの表面と解放可能に接触するように配置された一組の摩擦パッドと、の間の摩擦によって機械的に生じる。摩擦パッドの係合または解放は、ブレーキコイルによって電気機械的に制御される。ブレーキコイルが励磁されると、アーマチュアプレートと電磁コアとの間の磁気的吸引力によって、摩擦パッドがブレーキディスクの表面から解放される。ブレーキコイルの励磁が断たれると、アーマチュアプレートに係合するばねは、アーマチュアプレートを付勢してブレーキディスクの表面と接触させる。
【0004】
このようなクラッチ式ブレーキは、効果的であることが実証されており、今日でもエレベータなどの牽引用途で広く使用されているが、なお改善の余地がある。
【0005】
例えば、クラッチ式ブレーキは、要求される停止の種類(例えば、非常停止に対して通常の停止)に応じてエレベータを停止させるために、選択的に異なる大きさの力を加えることができない。典型的なクラッチ式ブレーキは、定格トルクに制限され、定格トルクは、さらにブレーキの機械的限界や摩擦パッドの材料組成などによって決まる。ビルの停電などの非常時には、ブレーキ装置はエレベータを直ちに停止させる必要がある。このような非常停止は、多くの場合急であり、ジャークを伴ってエレベータかごを停止させる。これは、エレベータかご内で移動している乗客にとっては不快な経験である。エレベータブレーキ装置は、通常停止と非常停止とで同じブレーキトルクを提供するので、エレベータかごおよびエレベータかご内の乗客はブレーキ装置がエレベータかごを非常停止させる度にジャークを経験しうる。よって、クラッチ式ブレーキでは、エレベータかごを停止させるために加えられる制動力を制御したり変化させたりすることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上を踏まえて、エレベータを安全に停止させるとともに、停止時における乗客の乗り心地を最大化する効果的なブレーキ装置を提供するための改良が引き続き求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態によれば、エレベータ装置が開示されている。このエレベータ装置は、かごと、第1の電磁ブレーキコイルを有する第1のブレーキと、ブレーキ電源を有するブレーキ制御デバイスと、を備える。第1のブレーキは、解放位置と係合位置との間で移動可能でありうる。ブレーキ制御デバイスは、第1のブレーキに電気的に接続し、第1のブレーキコイルの第1の残留電流によって第1のブレーキの係合位置への移動を選択的に遅延するように構成することができる。第1のブレーキは、ブレーキ電源によって第1のブレーキコイルが励磁されたときに解放位置に移動し、第1のブレーキコイルの励磁が断たれたときに係合位置に移動するように構成することができる。第1の残留電流は、第1のブレーキコイルの蓄積エネルギの減衰速度を遅くすることによって、第1のブレーキの係合位置への移動を遅延することができる。一実施例では、遅延は、約150ミリ秒〜約600ミリ秒とすることができる。実施例によっては、第1のブレーキの係合位置への移動は、エレベータかごの意図したものでない移動に応じて遅延されうる。
【0008】
エレベータ装置は、実施例によっては、さらに、第2の電磁ブレーキコイルを有する第2のブレーキを備えうる。第2のブレーキは、ブレーキ制御デバイスに電気的に接続し、解放位置と係合位置との間で移動可能とすることができる。第2のブレーキは、第2の電磁ブレーキコイルを有しうる。第2のブレーキは、第2のブレーキコイルがブレーキ電源によって励磁されたときに係合位置から解放位置に移動するように設けることができる。第2のブレーキは、第2のブレーキコイルの励磁が断たれると係合位置に移動するように構成することができる。一実施例では、ブレーキ制御デバイスは、第2のブレーキコイルの第2の残留電流によって第2のブレーキの係合位置への移動を選択的に遅延するように構成することができる。
【0009】
本発明の他の形態によれば、エレベータ装置は、開位置と閉位置との間で移動可能なガバナスイッチを含む安全チェーンを備えうる。この安全チェーンは、ブレーキ制御デバイスに電気的に接続可能である。一実施例では、第2のブレーキの係合位置への移動は、ガバナスイッチの開位置への移動に応じて遅延されうる。エレベータ電源を安全チェーンに接続し、エレベータ電源から安全チェーンへの電力供給の停止に応じて第1のブレーキの動作を遅延することができる。
【0010】
本発明の他の形態によれば、エレベータのためのブレーキ装置が開示されている。ブレーキ装置は、第1の電磁ブレーキコイルを有し、解放位置と係合位置との間で移動可能に設けられた第1のブレーキと、第1のブレーキに電気的に接続されており、第1のブレーキコイルの残留電流によって第1のブレーキの係合位置への移動を選択的に遅延するブレーキ制御デバイスと、を備えうる。
【0011】
他の実施例では、ブレーキ装置は、第2の電磁ブレーキコイルを有し、解放位置と係合位置との間で移動可能に設けられた第2のブレーキを備え、ブレーキ制御デバイスは、第2のブレーキに電気的に接続されており、第2のブレーキコイルの残留電流によって第2のブレーキの係合位置への移動を選択的に遅延することができる。
【0012】
一実施例では、ブレーキ制御デバイスは、エレベータかごの意図したものでない移動および/またはエレベータ電源からの電力供給の停止に応じて、第1のブレーキの動作を遅延することができる。第2のブレーキを含む一実施例では、ブレーキ制御デバイスは、過速度の発生に応じて第2のブレーキの移動を遅延しうる。一実施例では、このような遅延は、約150ミリ秒〜約600ミリ秒である。
【0013】
本発明のさらに他の形態によれば、かごと、第1の電磁ブレーキコイルを有する第1のブレーキと、ブレーキ制御デバイスと、を備えるエレベータ装置の改装方法が開示されている。この方法は、第1の電磁ブレーキコイルの蓄積エネルギの減衰速度を制御することによって、第1のブレーキの作動を選択的に遅延するようにブレーキ制御デバイスを変更することを含む。減衰速度は、第1の電磁ブレーキコイルを通して残留電流を再循環させることによって制御することができる。一実施例では、このような遅延は、約150ミリ秒〜約600ミリ秒とすることができる。
【0014】
他の実施例では、上記方法は、さらに、第2の電磁ブレーキコイルの蓄積エネルギの減衰速度を制御することによって、第2のブレーキの作動を選択的に遅延するようにブレーキ制御デバイスを変更することを含む。第2の電磁ブレーキコイルの蓄積エネルギの減衰速度は、第2の電磁ブレーキコイルを通して残留電流を再循環させることによって制御することができる。一実施例では、このような遅延は、約150ミリ秒〜約600ミリ秒とすることができる。
【0015】
一実施例では、エレベータ装置は、閉位置と開位置との間で移動可能なガバナスイッチを有する安全チェーンをさらに備える。エレベータかごで意図したものでない移動が発生したときには、第1のブレーキを第2のブレーキの前に作動させることができ、ガバナスイッチが開位置に移動したときには、第2のブレーキを第1のブレーキの前に作動させることができる。
【0016】
本発明の上述およびその他の形態は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことでさらに明らかとなる。
【0017】
本発明では、種々の変更や代替的な構成が可能であるが、特定の例示的な実施例を図面に示すとともに以下に詳細に説明した。しかし、開示した特定の形態に限定する意図はなく、本発明の趣旨および範囲に含まれる全ての変更、代替的な構成、および同等物を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の教示に従って構成されたブレーキ制御装置を使用することができる例示的なエレベータ装置を示す説明図である。
図2】本発明の教示によるブレーキ制御装置の一実施例を示す概略説明図である。
図3図2のブレーキ制御装置で使用されるブレーキ制御デバイスの一実施例を示す説明図である。
図4図3のブレーキ制御デバイスの種々の電気部品とエレベータ装置との相互接続の一実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照すると、例示的なエレベータ装置20が概略的に示されている。図1に示すエレベータ装置20の形式は、説明のためだけのものであり、一般的なエレベータ装置の種々の構成要素の背景を示すためのものである。
【0020】
図1に示すように、エレベータ装置20は、多数の階床を有するビル24内に垂直に設けられた昇降路22に少なくとも部分的に配置される。エレベータ装置のいくつかの構成要素は、昇降路22の外部、例えば、昇降路の上方の機械室に配置することができる。典型的に、昇降路22は、ビル24の中央部に設けられた中空のシャフトであり、ビルが十分に大きく、複数のエレベータを含む場合には、複数の昇降路が設けられる。実質的に昇降路22の長さにわたって延在するように、レール26,28が設けられる。エレベータかご30が、一対のレール26(明瞭化のために、図1には1本のレール26のみ示している)に摺動可能に取り付けられ、釣合いおもり32が、一対のレール28(明瞭化のために、図1には1本のレール28のみ示している)に摺動可能に取り付けられる。図1には詳細に示していないが、当業者であれば分かるように、かご30と釣合いおもり32は、レール26,28に沿って滑らかに移動するようにローラマウント34や軸受などを含みうる。ローラマウントや軸受なども、レール26,28に摺動可能に確実に取り付けることができる。
【0021】
かご30、そしてかご内の乗客および/または荷物を移動させるために、電気モータ36を含む機械31が、典型的に昇降路22の頂部または昇降路22の上方の機械室に配置される。モータ36には、電子制御器38が電気的に接続され、次いで電子制御器には、エレベータかご30を呼ぶために各階床に設けられた複数のオペレータ・インターフェイス40ならびに乗客がかご30の方向を指示することを可能にするために各かご30に設けられたオペレータ・インターフェイス42が電気的に接続される。
【0022】
安全チェーン回路54ならびに電源56も、電子制御器38に電気的に接続される。モータ36から駆動シャフト44が機械的に延在し、次いで駆動シャフト44は、駆動綱車46に動作可能に連結され、さらにブレーキ機構52に動作可能に連結されるように延在しうる。駆動綱車46は、駆動シャフト44の一部とすることもできる。
【0023】
円形ロープや平形ベルトなどの引張り部材48が、綱車46の周りに巻き掛けられる。引張り部材48は、次いで適切なローピング配置で釣合いおもり32とかご30に動作可能に連結される。勿論、これらの構成要素の複数の異なる実施例や配置が可能であり、典型的な装置は、複数の引張り部材48ならびにエレベータ装置20のモータおよび綱車の種々の配置を含む。
【0024】
エレベータ装置20は、さらに、ブレーキ制御装置58を含みうる。実施例によっては、エレベータかご30の昇降に使用される機械31がブレーキ制御装置58を含む。図2に示すように、ブレーキ制御装置58は、電源56に電気的に接続され、エレベータ装置20のモータ36に機械的に連結される。また、ブレーキ制御装置58は、ブレーキ制御デバイス60に電気的に接続されたブレーキ装置52を含む。
【0025】
ブレーキ装置52は、少なくとも1つのブレーキを含む。例示的な実施例では、ブレーキ装置42は、常用ブレーキ66などの第1のブレーキおよび非常ブレーキ62などの第2のブレーキを含む。第1のブレーキを第2のブレーキとは別個のユニットとするか、第1のブレーキと第2のブレーキを単一のブレーキユニットの構成要素とすることができる。非常ブレーキ62は、非常ブレーキ磁気コイル64を有し、常用ブレーキ66は、常用ブレーキ磁気コイル68を有する。ブレーキコイル64,68は、励磁されると、エレベータかご30を減速あるいは停止させる制動力が加わらないようにブレーキ62,66を解放する。ブレーキコイル64,68が励磁されない(または十分に励磁されない)場合、ブレーキ62,66が係合し、制動力がエレベータかごに加わる(これは、“ブレーキがかかる”ということもできる)。
【0026】
ブレーキ制御デバイス60は、ブレーキ装置52のブレーキコイル64,68に接続され、特定の動作条件において一方または両方のコイル64,68における蓄積エネルギの減衰を選択的に制御することができる。一実施例では、ブレーキ制御デバイス60は、電子制御器38の一部である。他の実施例では、ブレーキ制御デバイス60は、電子制御器38とは別の装置またはエレベータ装置20の他の構成要素に組み込まれた装置である。一実施例では、ブレーキ制御デバイス60は、ブレーキ62,66の一方が比較的速く係合し、ブレーキの他方が関連するブレーキコイルの蓄積エネルギの自然減衰によって遅延されるように、各々のブレーキコイル64,68における蓄積エネルギの減衰を制御する。非常ブレーキ62と常用ブレーキ66を順にかけることで、駆動シャフト44(図1参照)に加わる初期の制動力を減少させることができ、これにより、エレベータかご30の減速度が比較的小さくなる。一方または両方のコイルの蓄積エネルギの減衰が選択的に制御されうるエレベータ装置の動作条件には、例えば、停電、意図したものでないかご動作、かごの上昇方向の過速度などが含まれる。
【0027】
ブレーキ制御デバイス60は、複数の接点を有するブレーキピック70、複数の接点を有する電源監視リレイ72、複数の接点を有する過速度リレイ74、意図したものでないかご動作(Unintended Car Movement UCM)リレイ76および安全チェーンリレイ78を含みうる。ブレーキピック70は、エレベータの走行の始めにブレーキコイル64,68を励磁するためにスイッチ80,82を閉じ、エレベータの走行の終わりにスイッチ80,82を開くよう機能する。一実施例では、電源監視リレイ72は、交流(AC)電源を監視する。他の実施例では、電源監視リレイ72は、直流(DC)電源またはDC電源およびAC電源を監視する。以下でさらに説明するように、ブレーキ制御デバイス60は、さらに、ブレーキ電源、複数のダイオードおよび複数のスナバを含んでもよい。スナバは、突然の停電時にブレーキ制御デバイスの要素の損傷を防止するために、本明細書で説明するブレーキ制御デバイス60で使用することができる。
【0028】
次に、図3を参照すると、例示的なブレーキ制御デバイス60が示されている。ブレーキ制御デバイス60は、非常ブレーキコイル64を介して非常ブレーキ62に電気的に接続され、常用ブレーキコイル68を介して常用ブレーキ66に電気的に接続されている。第1のブレーキスイッチ80が、UCMリレイ76に接続されている。図3に示すように、ブレーキ制御デバイス60は、第1のダイオード84を含み、この第1のダイオード84は、過速度リレイ74の第1の接点86および電源監視リレイ72の一次接点88を介して非常ブレーキコイル64と並列に接続されている。過速度リレイ74は、過速度の発生時にスイッチ86を開いてダイオード84を切り離し、非常ブレーキコイル64における電流の循環を防止するように機能する。第1のスナバ90も、非常ブレーキコイル64と並列に接続することができる。UCMリレイ76は、非常ブレーキコイル64に接続されている。上記で説明したブレーキ制御デバイス60の部分および非常ブレーキコイル64は、まとめて“非常ブレーキ回路”92と呼ぶことができる。一実施例では、非常ブレーキ回路92は、ブレーキ制御デバイス60の一部とすることができるブレーキ電源94から電力供給を受ける。
【0029】
図3にさらに示すように、第2のブレーキスイッチ82が安全チェーンリレイ78に接続されている。安全チェーンリレイ78は、常用ブレーキコイル68に接続されている。第2のダイオード96が、過速度リレイ74の第2の接点98および電源監視リレイ72の二次接点100を介して常用ブレーキコイル68と並列に接続されている。スナバ91も、常用ブレーキコイル68と並列に接続することができる。第3のダイオード102が、安全チェーンリレイ78に接続されている。上記で説明したブレーキ制御デバイス60の部分および常用ブレーキコイル68は、まとめて“常用ブレーキ回路”104と呼ぶことができる。常用ブレーキ回路104は、ブレーキ電源94から電気の供給を受ける。
【0030】
図4に概略的に示すように、電源56は、安全チェーン54および電源リレイ72に通電する。電源56は、電子制御器38およびオペレータ・インターフェイス40,42を含むがこれらに限定されない、エレベータ装置20の他の構成要素に通電することもできる。さらに、電源56は、通電される構成要素の電力要求に応じてAC電源および/またはDC電源を提供することができる。さらに、エレベータ装置20は、装置20内の種々の構成要素に通電するために2つ以上の電源を含むことができる。例えば、一実施例では、別個のブレーキ電源94を使用して、非常ブレーキ回路92および常用ブレーキ回路104に電力を供給することができる。
【0031】
安全チェーン54は、電気的に接続されたガバナ106および種々の電気保護装置(Electrical Protective Devices EPD)108を含みうる。ガバナ106は、かご30の速度を監視する。他の実施例では、ガバナ106以外の装置が、かご30の過速度を含む速度を監視する。EPD108は、エレベータ装置20の種々の構成要素の安全状態を監視する。ガバナ106とEPD108は、直列回路として接続することができる。ガバナ106またはEPD108の1つが閉じなければ(回路を閉じなければ)安全チェーン54は“開いて”いる。安全チェーン54が開いているときは、典型的に、エレベータかご30は停止されるか停止したままとなる。このような開いた状態は、かご30の速度が閾値を超えたときにガバナ106によって引き起こされうる。開いた状態は、EPD108によって安全でない状態が検知された場合にも引き起こされうる。図4に示すように、過速度リレイ74、UCMリレイ76および安全チェーンリレイ78は、安全チェーン54に電気的に接続されている。実施例によっては、これらの要素は、安全チェーン54の一部である。加えて、ブレーキピック70も、電源56によって通電することができる。
【0032】
図3図4に示すように、エレベータ装置20の通常動作時には、第1および第2のブレーキスイッチ80,82は閉じており、安全チェーンリレイ78は閉じており、UCMリレイ76は閉じており、過速度リレイ74および電源監視リレイ72は共に通電されている。通電されると、非常ブレーキ回路92において、過速度リレイの第1の接点86が閉じ、電源監視リレイの一次接点88が開く。常用ブレーキ回路104では、過速度リレイの第2の接点98が開き、電源監視リレイの二次接点100が閉じる。この実施例では、過速度リレイの第2の接点98が開いているので、第2のダイオード96は常用ブレーキコイル68から実質的に切り離されている。
【0033】
乗客を乗車あるいは降車させるためにエレベータかご30を階床で停止させる信号が受信されると、モータはエレベータを停止させるように動作する。常用ブレーキ66および非常ブレーキ62は、停止中にエレベータかご30を所定位置に保持するようにかけられる。このような状況では、第1および第2のブレーキスイッチ80,82が開かれる。しかし、図3に示す実施例では、常用ブレーキコイル68から流れる残留電流が、第3のダイオード102および安全チェーンリレイ78を通って常用ブレーキコイル68に戻るように循環し続けることができる。また、非常ブレーキコイル64のいくらかの残留電流が、第1のダイオード84および過速度リレイの第1の接点86を通って非常ブレーキコイル64に戻るように循環し続けることができる。このような回路は、ブレーキコイル64,68の残留電流のための低インピーダンス電流路を提供するので、ブレーキコイル64,68を通って流れる電流は比較的ゆっくりと減衰する。ブレーキコイル64,68の両方におけるこのようなゆっくりとした減衰は、ブレーキスイッチ80,82によって電源が切断されたときに、常用ブレーキ66および非常ブレーキ62の両方がかかるのを遅らせる。電流が閾値を超えて放散すると、それ以上コイルを励磁することができず、対応するブレーキが係合される(かかる)。一実施例では、この遅延は、約150ミリ秒〜約600ミリ秒である。
【0034】
当該技術で周知のように、かごの過速度は、いずれの方向でも移動するエレベータかご30の速度が所定の閾値を超えると発生する。このような過速時には、ガバナ106が開く。図3図4に示す実施例では、ガバナ106が開くことにより、安全チェーン54が切断され(開かれ)、これにより、UCMリレイ76、過速度リレイ74および安全チェーンリレイ78がそれぞれ開かれる。たとえガバナ106が開いていても、電源監視リレイ72は通電されたままでありうる。
【0035】
過速度の発生時には、非常ブレーキ回路92において、過速度リレイの第1の接点86および電源監視リレイの一次接点88が開いている。これにより、第1のダイオード84が非常ブレーキコイル64から切り離される。従って、非常ブレーキコイル64内の電流が比較的速く放散され、電流が非常ブレーキコイル64を励磁し続けるには弱くなりすぎるとすぐに非常ブレーキ62が係合される。
【0036】
図3に示す実施例では、安全チェーンリレイ78が開くと、第3のダイオード102が常用ブレーキコイル68から切り離される。常用ブレーキ回路104では、過速度リレイの第2の接点98と電源監視リレイの二次接点100が閉じているため、第2のダイオード96が常用ブレーキコイル68と並列に接続される。この構成は残留電流の低インピーダンス循環路を提供するので、常用ブレーキコイル68のいくらかの残留電流が第2のダイオード96、過速度リレイの第2の接点98および電源監視リレイの二次接点100を通って、常用ブレーキコイル68に戻るように循環し続ける。これは、常用ブレーキコイル68における電流の減衰を遅延し、常用ブレーキ66がかかるのを遅延する。一実施例では、遅延は、約150ミリ秒〜約600ミリ秒である。常用ブレーキ66は、残留電流が常用ブレーキコイル68を励磁し続けるには弱くなり過ぎるとすぐに係合し、ブレーキのばねが励磁されたコイルによって発生する力に打ち勝って制動力を加える。対照的に、非常ブレーキコイル64の残留電流は、低インピーダンス循環路を有しておらず、速く減衰し、これにより、非常ブレーキが常用ブレーキより一般に速くかかる。
【0037】
当該技術で周知のように、エレベータかご30では、動作中に意図したものでないかご動作(UCM)が発生することがある。このようなUCMの例は、かご30が、ドアが開いているかロック解除されている状態で乗場に位置するときに、かご30が動いたときである。動作中にUCMが感知されると、UCMリレイ76と安全チェーン54の両方が開く。図3図4に示す実施例では、安全チェーン54が開くと安全チェーンリレイ78も開き、第3のダイオード102が常用ブレーキコイル68から切り離される。図3図4に示すように、過速度リレイ74と電源監視リレイ72の両方が通電されている。通電時には、非常ブレーキ回路92において、過速度リレイの第1の接点86は閉じ、電源監視リレイの一次接点88が開く。常用ブレーキ回路104では、過速度リレイの第2の接点98が開き、電源監視リレイの二次接点100が閉じる。過速度リレイの第2の接点98が開いているため、第2のダイオード96が常用ブレーキコイル68から切り離される。第1のダイオード84は、過速度リレイの第1の接点86を介して非常ブレーキコイル64と並列に接続されている。よって、UCMが発生すると、常用ブレーキコイル68の残留電流が低インピーダンス循環路を有していないため、常用ブレーキ66は遅延なくかかる。反対に、非常ブレーキは、非常ブレーキコイル64を通って再循環する残留電流によって遅延される。残留電流が非常ブレーキコイル64を励磁するには弱くなり過ぎるとすぐに、非常ブレーキ62が係合される。一実施例では、遅延は約150ミリ秒〜約600ミリ秒である。
【0038】
エレベータの停電時には、図3図4に示すように、過速度リレイ74と電源監視リレイ72の両方ならびにUCMリレイ76および安全チェーンリレイ78への通電が停止される。このような場合には、非常ブレーキ回路92において、過速度リレイの第1の接点86が開き、電源監視リレイの一次接点88が閉じる。常用ブレーキ回路104では、過速度リレイの第2の接点98が閉じ、電源監視リレイの二次接点100が開く。
【0039】
図3の実施例では、第1のダイオード84は、電源監視リレイの一次接点88を介して非常ブレーキコイル64と並列に接続される。一方、電源監視リレイの二次接点100が開いているため、第2のダイオード96は常用ブレーキコイル68から実質的に切り離される。加えて、第3のダイオード102は、安全チェーンリレイ78によって常用ブレーキコイル68から切り離されている。常用ブレーキ66の電流が低インピーダンス循環路を有していないため、常用ブレーキコイル68の電流は比較的速く放散し、常用ブレーキ66が比較的速く係合することを可能にする。非常ブレーキ62がかかるのは、電源監視リレイの一次接点88を通って非常ブレーキコイル64に戻る非常ブレーキコイルのいくらかの残留電流の再循環によって遅延される。残留電流が非常ブレーキコイル64を励磁するのに弱くなり過ぎるとすぐに、非常ブレーキ62が係合する。一実施例では、遅延は約150ミリ秒〜約600ミリ秒である。
【0040】
上記に照らして、本発明は、非常停止時または停電時にエレベータがブレーキによって停止されたときの乗客の不快感を最小化する新規のブレーキ装置を備えるエレベータを開示していることが分かる。エレベータは、1つの階床から次の階床に乗客を搬送するために頻繁に停止しながら連続的に使用される。本発明のブレーキ装置は、非常時においても乗客の不快感を最小化する。非常事態は、エレベータの停電または過速度やUCMの発生などの動作不良が生じた場合に起こる。非常事態が起こった場合には、ブレーキ装置はエレベータが滑らかに停止することを保証する。
【0041】
エレベータ装置は、かご、開位置と閉位置との間で移動可能なガバナスイッチを含む安全チェーン、第1の電磁ブレーキコイルを有する第1のブレーキ、第2の電磁ブレーキコイルを有する第2のブレーキおよびブレーキ電源を有するブレーキ制御デバイスを備えうる。第1のブレーキは、係合位置と解放位置の間で移動可能でありうる。第2のブレーキは、係合位置と解放位置の間で移動可能である。ブレーキ制御デバイスは、第1および第2のブレーキとガバナスイッチに電気的に接続することができ、対応するブレーキコイルの残留電流によって、第1および第2のブレーキの係合位置への移動を選択的に遅延するように構成することができる。選択的で順序付けられたブレーキの係合の遅延は、少なくとも乗客ためにエレベータかごの停止時の衝撃を和らげる。
【0042】
特定の実施例のみを開示したが、当業者には上述の説明から代替物や変更が明らかである。上述および他の代替例は、同等物と見なされ、本発明の趣旨および範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4