(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内筒部と、該内筒部よりも背の高い外筒部と、該外筒部内周面の前記内筒部よりも高い位置に形成された周方向溝と、前記外筒部および前記内筒部を結合する底部連結部からなるコイン形電池用パッキンにおいて、前記周方向溝の上側の側壁と前記周方向溝の底面のなす角度が鈍角であり、前記周方向溝の底面に凸部が設けられ、前記凸部の高さが、前記周方向溝の深さに対して30%以上90%以下の範囲内であることを特徴とするコイン形電池用パッキン。
前記周方向溝には、その底面から上側の側壁にかけて半径0.03mm以上0.8mm以下の丸みが形成されている、請求項1または2に記載のコイン形電池用パッキン。
前記凸部の上側の側面と下側の側面とで形成される角部をR面取りすることにより、前記凸部の頂部に、半径0.01mm以上0.10mm以下の丸みが形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載のコイン形電池用パッキン。
固定側金型および可動側金型を用いてパッキンを成形する工程と、成形されたパッキンを可動側金型に保持した状態で金型を開く工程と、可動側金型に保持されたパッキンを取り出す工程とを有し、該パッキンの周方向溝の底面に設けられた凸部を保持するための凹部が前記可動側金型に設けられている、請求項1〜7のいずれかに記載のコイン形電池用パッキンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
コイン形電池(ボタン形電池と呼ばれることもある。)は、形状や電圧が規格化されており、丸く薄いものが多く、大きさは極めて小さい。その多くは一次電池であり、種類としてはリチウム電池、アルカリマンガン電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池、水銀電池などが挙げられるが、寿命や高出力の点から、近年はリチウム電池が多用されている。
【0003】
ボタン電池は極めて小型であるがゆえに、その電源の容量が通常の乾電池などに比べて小さいため、消費電力は小さく、独立した状態で電源を必要とする製品に特に用いられる。
【0004】
特に、小型化により移動体内部に取り付けられることが多いので、場合によっては衝撃に耐えうる必要がある。さらに各種メータや測定用電源などにも採用され、その用途は広がる一方である。
【0005】
また、近年、インフラ整備や災害リスクへの対応などの観点から、信号機、通信基地局、サーバーなどのバックアップ電源、冷凍倉庫内の非常照明などの独立電源システムへの関心が高まっており、低温あるいは高温雰囲気下においても常温域と遜色のない性能を発揮できる電池が求められている。特にコイン形電池は小型で装置内に入れやすいことから利用範囲が広まっている。
【0006】
このように、コイン形電池を取り巻く環境が変化し、コイン形電池に要望される品質特性もより厳しいものになってきている。
【0007】
ところで、一般的なコイン形電池は、正極ケース、負極封口板および樹脂製のコイン形電池用パッキンを備えており、正極ケースをかしめ加工して正極ケースと負極封口板との間でコイン形電池用パッキンを圧縮して電池を封口している。そのため、耐衝撃性や温度特性の要求水準が向上するに伴い、より高品質なコイン形電池用パッキンが求められるようになってきている。
【0008】
例えば、特許文献1には、U字断面形状のガスケット(すなわち、パッキン)の底部内周部に環状突起部を有するボタン型電池が開示されている。このガスケットにおいては、電池の活物質の充填空間を確保する観点から、厚みの薄い立ち上がり部が設けられている。しかしながら、このようなガスケットは立ち上がり部が肉薄であるため樹脂が充填不足になりやすく、成形が困難であった。さらに、薄肉部の強度不足から加工時に変形が起こるおそれもあった。
【0009】
また、特許文献2には、外筒部と、外筒部よりも背の低い内筒部と、この両者を結合する底部連結部からなるコイン形電池用ガスケットにおいて、外筒部の上部の少なくとも一部の厚さを外筒部と内筒部の間に形成される溝部の幅より大きくすることが記載されている。このような構成によれば、輸送中や組立工程中に外筒部が他のガスケットの溝部に入り込んで変形することがなくなり、輸送中の変形による部品不良の減少や組立工程における稼働率の向上につながる。しかしながら、外筒部の上部の肉厚を大きくすることや極端な凸部を設けることで肉厚が厚くなると、ヒケが発生しやすくなるおそれがある。また、ヒケが発生しやすいことで寸法安定性に欠け不良品が多くなるおそれもある。
【0010】
特許文献3には、溶融された樹脂をガスケット金型の中心部の注入口から注入し、射出成形し、その後、ガスケット中央部のディスク状部とガスケットの折り返し部の境界部を切り離し、所定の形状のガスケットを得る方法が記載されている。しかしながらこのような方法では、成形品が固定側金型に取られる離型不良がディスク状注入部で発生するおそれがあり、それを防止するためかなり大きな製品ロック部を設ける必要があるが、この製品ロック部が大きいと収率の低下を引き起こすおそれがある。また、製品ロック部が小さいと離型不良が発生しやすくなり、稼働率が低下するおそれがある。さらに、固定側金型に取られた製品を除去するためにイレギュラーな作業を行うことで、金型を傷めるおそれもある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明に係るコイン形電池用パッキン(以下、単に「パッキン」と呼ぶこともある。)は、内筒部と、該内筒部よりも背の高い外筒部と、該外筒部内周面の前記内筒部よりも高い位置に形成された周方向溝と、前記外筒部および前記内筒部を結合する底部連結部からなるコイン形電池用パッキンにおいて、前記周方向溝の上側の側壁と前記周方向溝の底面のなす角度が鈍角であ
り、前記周方向溝の底面に凸部が設けられ、前記凸部の高さが、前記周方向溝の深さに対して30%以上90%以下の範囲内であることを特徴とするものである。
【0022】
最初に、コイン形電池用パッキンおよびコイン形電池の概略について、図を参照しつつ説明する。コイン形電池用パッキン1の外観は、
図2の概略斜視図にて示すように、略リング状をなしている。また、
図9は、コイン形電池用パッキン1を用いてなるコイン形電池の一例を示す概略縦断面図である。コイン形電池91は、
図9に示すように、正極端子を兼ねる有底円筒状の正極ケース92と、負極端子を兼ねる負極封口板93と、正極ケース92と負極封口板93の間に介在するコイン形電池用パッキン1を備えている。正極ケース92内には、正極96と負極94がセパレーター95を介して対向配置されており、さらに電解液が充填されている。正極ケース92の開口部にはコイン形電池用パッキン1を介して負極封口板93が配置されており、正極ケース92の開口端を内側に折り曲げるかしめ加工により、正極ケース92の開口部が封口されている。なお、
図9のコイン形電池91では、負極封口板93の端部を折り曲げてコイン形電池用パッキン1のかしめ溝7内に密着させることで、さらなるシール性の向上を図っている。
【0023】
本発明のコイン形電池用パッキンの一例を
図1に示す。
図1において、コイン形電池用パッキン1は、内筒部2と、内筒部2よりも背の高い外筒部3と、外筒部内周面8の内筒部2よりも高い位置に形成され円周方向に延びる周方向溝4と、外筒部3および内筒部2を結合する底部連結部6からなり、内筒部2と外筒部3の間には、かしめ加工を行うためのかしめ溝7が設けられている。外筒部内周面8に設けられた周方向溝4は外筒部3の内側に開口しており、周方向溝4の上側の側壁10と周方向溝4の底面9のなす角度(角度A)は鈍角である。また、周方向溝4の上側の隅11と開口部上端12には丸みが形成されている。周方向溝4の底面9には、周方向溝4の開口方向に突出する凸部5が設けられており、凸部5の上側の側面13と、凸部5の下側の側面14のなす角度(角度B)は鋭角である。
【0024】
比較のため、従来のコイン形電池用パッキンの一例を
図3に示す。
図1のコイン形電池用パッキン1とは異なり、
図3に示す従来のコイン形電池用パッキン31では、周方向溝4の上側の側壁10と周方向溝4の底面9のなす角度(角度A)がほぼ直角となっており、周方向溝4内には、丸みづけなどの加工はなされていない。なお、コイン形電池用パッキン31の他の構成は
図1のコイン形電池用パッキン1と同様であるため、
図1と同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0025】
図5は、従来のコイン形電池用パッキン31の製造方法を例示する概略工程図である。
図5(a)は、金型51を用いて射出成形を行い、金型内に樹脂を充填した状態を示している。金型51は、固定側金型42と、可動側金型43と、スライドコア46と、突き出しピン47が設けられた突き出しプレート48を備えており、可動側金型43の先端には、コイン形電池用パッキン31の凹部4と係合可能な形状を有する入れ子55が取り付けられている。なお、射出成形時のゲート位置に関しては、図が煩雑になるため、記載を省略している。
【0026】
樹脂充填後に可動側金型43を矢印52の方向に移動させると、
図5(b)に示すように、コイン形電池用パッキン31は固定側金型42のキャビティ54から取り出され、入れ子55に保持された状態で可動側金型43とともに移動する。
【0027】
そして、
図5(c)に示すようにスライドコア46を矢印53の方向へ移動させた後、
図5(d)に示すように、突き出しピン47を備えた突き出しプレート48を矢印56の方向へ移動させ、突き出しピン47によってコイン形電池用パッキン31を押し出す。突き出しピン47による押圧を受けたコイン形電池用パッキン31はわずかに弾性変形しながら入れ子55から押し出され、その結果、コイン形電池用パッキン31が可動側金型43から取り外される。なお、コイン形電池用パッキン31の形態や大きさによっては、スライドコア46を設定せず、直接突き出しピン47でコイン形電池用パッキン31を押し出してもよい。
【0028】
ここで、従来のコイン形電池用パッキン31では、
図11に示すように、周方向溝4の上側の側壁10が、パッキンを取り外す方向(すなわち、矢印56で表される突き出しピン47の移動方向)に対しほぼ垂直になっているので、
図5(d)に示す取り外し時に周方向溝4が入れ子55に引っ掛かるおそれがあった。また、このような引っ掛かりは、カエリや割れなどの不具合の原因となる場合があり、従来の技術では、良品を安定して製造することは困難であった。
【0029】
図7は、カエリが生じたコイン形電池用パッキン71を示す図である。周方向溝4の上側の側壁10がパッキンを取り外す方向に対し垂直であると、周方向溝4が入れ子55に引っ掛かり、
図7に示すように、周方向溝4の上側開口端にカエリ72が生じる場合がある。このようなカエリが存在すると、コイン形電池組み立て時にセパレーターなどが入らず嵌合不良を引き起すおそれがある。その結果、組立製造ラインを止めることとなり、歩留まりの低下原因となる。
【0030】
また、
図8は、割れが生じたコイン形電池用パッキン81を示す図である。周方向溝4が入れ子55に引っ掛かると、局所的に過大な負荷がかかり、その結果、
図8に示すように割れ82が生じる場合がある。このような割れは、コイン形電池組み立て後に液漏れを引き起こす原因となるおそれがあり、コイン形電池だけでなく、それが組み込まれた電子機器などの故障の原因となるおそれもある。
【0031】
さらに、従来の製造方法では、パッキンが固定側金型内に残ってしまうおそれもある。このような例を
図6に示す。
図6の各工程は
図5とほぼ同様であるが、
図6においては、樹脂充填後に可動側金型43を矢印52の方向に移動させたとき、
図6(b)に示すように、コイン形電池用パッキン31が固定側金型42内に残ってしまい、突き出しプレート48を操作してもコイン形電池用パッキン31を金型から取り出すことができない状態となっている。このような離型不良が発生すると、製品が取り出せず、射出成形をいったん停止して固定側金型から製品を取り出す作業が必要となり、稼働率が低下する。その結果、短時間で効率的にパッキンを製造することが困難となり、製造コストが嵩むおそれがある。
【0032】
さらに、離型不良が発生すると、固定側金型から製品を取り出す際に金型を傷つけ、金型補修に大幅な時間と費用を要するおそれもある。また金型に微細な傷をつけたことに気付かず成形を続けると、不良品が大幅に発生することとなり、製造コストの上昇を招くおそれがある。
【0033】
これに対し、本発明によれば、金型を開く際に固定側金型にパッキンが取られることを阻止でき、さらに、可動側金型からパッキンを取り外す際にもカエリや割れなどの不具合を防止することが可能となる。以下、この点について詳細に説明する。
【0034】
図4は、
図1に示した本発明のコイン形電池用パッキン1の製造方法を示す概略工程図であり、本発明におけるコイン形電池用パッキンの製造方法の一例を示している。
図4(a)は、金型41を用いて射出成形を行い、金型内に樹脂を充填した状態を示す図である。金型41は、固定側金型42と、可動側金型43と、スライドコア46と、突き出しピン47が設けられた突き出しプレート48を備えており、可動側金型43の先端には、コイン形電池用パッキン1の凸部5と係合可能な凹部49を有する入れ子45が取り付けられている。なお、コイン形電池用パッキン1の形態や大きさによっては、スライドコア46を設定せず、直接突き出しピン47でコイン形電池用パッキン1を押し出してもよい。
【0035】
樹脂充填後に可動側金型43を矢印52の方向に移動させると、
図4(b)に示すように、コイン形電池用パッキン1は入れ子45に保持された状態で可動側金型43とともに移動する。コイン形電池用パッキン1の周方向溝4の底面9には凸部5が設けられており、可動側金型43の入れ子45には、凸部5と対応する形状を有する凹部49が設けられている。このような構成によれば、周方向溝4の凸部5と入れ子45の凹部49の嵌合によってコイン形電池用パッキン1を可動側金型43に良好に保持することができるため、金型を開く際に、コイン形電池用パッキン1が固定側金型42に残る離型不良を防止することができる。
【0036】
続いて、
図4(c)に示すようにスライドコア46を矢印53の方向へ移動させた後、突き出しプレート48を矢印56の方向へ移動させ、
図4(d)に示すように、突き出しピン47によりコイン形電池用パッキン1を可動側金型43から押し出す。ここで、周方向溝4の上側の側壁10と周方向溝4の底面9のなす角度は鈍角であり、従って上側の側壁10は、突き出しピン47の移動方向に対して緩やかな勾配をなしている。また、周方向溝4には、その底面9から上側の側壁10にかけて丸みが形成されている。このような構成によれば、これらの勾配や丸みを周方向溝4内に設けることによって、周方向溝4の入れ子45への引っ掛かりが防止されるので、コイン形電池用パッキン1を可動側金型43からスムーズに取り外すことができ、カエリや割れなどの不具合の発生が効果的に防止される。また、離型をスムーズにすることで取り外し時の変形や歪みを最小限に抑えることができるため、形状のばらつきが小さくなり、高い寸法精度を達成することができる。
【0037】
図10は、周方向溝の構造を例示する拡大図である。
図10(a)では、周方向溝4の上側の側壁10と周方向溝4の底面9のなす角度は120°となっており、上側の側壁10は、突き出しピンの移動方向(矢印56の方向)に対して緩やかな勾配をなしている。このような構成によれば、突き出しピンを矢印56の方向に動かした際に外筒部3が上側の側壁10の勾配に沿って移動できるので、コイン形電池用パッキン1を可動側金型43からスムーズに取り外すことができる。
【0038】
図10の(b)および(c)は、周方向溝4における上側の側壁10から底面9にかけての部位、すなわち周方向溝4の上側の隅11に丸みを形成した場合の例を示している。
図10(b)では丸みの半径は0.05mmであり、
図10(c)では丸みの半径は0.5mmである。このように、周方向溝には、その底面から上側の側壁にかけて丸みが形成されていることが好ましい。周方向溝の上側の隅にこのような丸みを形成することで、パッキンを可動側金型からスムーズに取り外すことができる。丸みの半径は、0.03mm以上から0.8mm以下であることが好ましく、0.05mm以上0.5mm以下であることがより好ましく、0.08mm以上0.3mm以下であることがさらに好ましく、0.1mm以上0.25mm以下であることが特に好ましい。半径の下限値を上記範囲内とすることで、引っ掛かりを防止し不良率を低減させることができる。また、半径の上限値を上記範囲内とすることで、成形品が固定側金型に残る離型不良を防止することができ、稼働率を高い水準に維持することが可能となる。
【0039】
周方向溝の上側の側壁と周方向溝の底面のなす角度(
図1の角度A)は、鈍角であることが好ましい。より具体的には、角度は100°以上160°以下であることが好ましく、100°以上150°以下であることがより好ましく、110°以上140°以下であることがさらに好ましく、115°以上130°以下であることが特に好ましい。角度の下限値を上記範囲内とすることで、引っ掛かりを防止し不良率を低減させることができる。また、角度の上限値を上記範囲内とすることで、成形品が固定側金型に残る離型不良を防止することができ、稼働率を高い水準に維持することが可能となる。
【0040】
周方向溝の底面には凸部が設けられてい
る。凸部を設けることで、
図4(b)に示すようにパッキン1が可動側金型43の入れ子45に良好に保持されることとなり、金型を開く際の離型不良をより効果的に防止することができる。
【0041】
周方向溝の底面に設ける凸部の高さは、周方向溝の深さを基準として、30%以上
90%以下であ
り、50%以上
90%以下であることがより好ましく、60%以上90%以下であることがさらに好ましく、65%以上85%以下であることが特に好ましい。凸部の高さの上限値を上記範囲内とすることで、製品取り出し時のカエリや割れの発生を防ぐことができる。また、凸部の高さの下限値を上記範囲内とすることで、製品を安定して可動側金型に保持しつつ移動させることができ、離型不良を防止できる。
【0042】
また、周方向溝の底面に設ける凸部の高さは、0.03mm以上0.1mm以下であることが好ましく、0.05mm以上0.1mm以下であることがより好ましく、0.06mm以上0.09mm以下であることがさらに好ましく、0.07mmから0.08mmであることが特に好ましい。凸部の高さの上限値を上記範囲内とすることで、製品取り出し時のカエリや割れの発生を防ぐことができる。また、凸部の高さの下限値を上記範囲内とすることで、製品を安定して可動側金型に保持しつつ移動させることができ、離型不良を防止できる。
【0043】
周方向溝の底面に設ける凸部に関しては、その上側の側面とその下側の側面のなす角度が鋭角であることが好ましい。より具体的には、上側の側面と下側の側面のなす角度は、40度以上90度
未満であることが好ましく、45度以上90度
未満であることがより好ましく、60度以上80度以下であることがさらに好ましい。角度の上限値を上記範囲内とすることで、製品を安定して可動側金型に保持させつつ移動させることができ、離型不良を防ぐことができる。また、角度の下限値を上記範囲内とすることで、突き出しピンを用いて可動側金型から離型する際に必要となる力を最小限に抑えることができ、割れを防ぐことができる。
【0044】
周方向溝の底面に設ける凸部に関しては、その頂部に丸みが形成されていることが好ましい。より具体的には、丸みの半径が0.01mm以上0.1mm以下であることが好ましく、0.02mm以上0.08mm以下であることが好ましく、0.03mm以上0.07mm以下であることがさらに好ましく、0.04mm以上0.06mm以下であることが特に好ましい。丸みの半径の上限値を上記範囲内とすることで、製品を安定して可動側金型に保持させつつ移動させることができ、離型不良を防ぐことができる。また、半径の下限値を上記範囲内とすることで、製品が可動側金型に強く保持されることを防ぐことができ、製品取り出し時に割れを防ぐことができる。
【0045】
周方向溝の底面に設ける凸部の幅は、0.05mm以上0.25mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.2mm以下であることが好ましく、0.13mm以上0.17mm以下であることがさらに好ましい。幅の下限値を上記範囲内とすることで、製品を安定して可動側金型に保持させつつ移動させることができ、離型不良を防ぐことができる。また、幅の上限値を上記範囲内とすることで、製品が可動側金型に強く保持されることを防ぐことができ、製品取り出し時に割れを防ぐことができる。
【0046】
周方向溝は円筒軸方向に複数列設けられていてもよい。より具体的には、周方向溝の数は、1列以上5列以下が好ましく、1列または2列であることがより好ましい。
【0047】
周方向溝の形状としては、外筒部内周面に周方向に沿って形成された溝であればよく、環状であってもよいし円弧状であってもよい。より具体的には、周方向溝の周方向長さは、外筒部内周面の円周方向長さを基準として、30%以上100%以下であることが好ましく、50%以上100%以下であることがより好ましく、70%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
周方向溝の形状は、連続であってもよいし不連続であってもよい。
【0049】
周方向溝の底面において、凸部は円筒軸方向に複数列設けられていてもよい。より具体的には、一つの周方向溝内に形成される凸部の数は、1列以上10列以下が好ましく、1列または2列であることがより好ましい。
【0050】
凸部の周方向長さは、その凸部が設けられている周方向溝の周方向長さを基準として、30%以上100%以下であることが好ましく、50%以上100%以下であることがより好ましく、70%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
凸部の形状は、連続であってもよいし不連続であってもよい。
【0052】
周方向溝の底面において凸部が設けられる位置はとくに限定されないが、周方向溝の中心またはその付近に設けられることが好ましい。
【0053】
周方向溝の数および位置、ならびに凸部の数および位置はとくに限定されないが、製品を可動側金型に保持でき、しかも製品取り出し時に割れが生じないような条件であることが好ましい。
【0054】
外筒部内周面における周方向溝の位置については、外筒部の下端を0%とし、上端を100%とするとき、周方向溝の上端が50%以上95%以下の位置にあることが好ましく、65%以上85%以下の位置にあることがより好ましい。
【0055】
本発明のコイン形電池用パッキンにおいては、(A)周方向溝において上側の側壁と底面のなす角度が鈍角であるという構成、または(B)周方向溝の底面から上側の側壁にかけて丸みが形成されているという構成、の少なくとも一方を有していればよいが、安定で良好な稼働率の実現という観点からは、上記(A)、(B)の構成を両方とも採用することが好ましい。(A)、(B)の構成を具備することにより、金型を開く際に成形品を可動側金型に保持することができ、その後、突き出しによって成形品を可動側金型からスムーズに取り外すことができる。
【0056】
また、
図1に例示するような本発明のコイン形電池用パッキン1において、上側の隅11の角度Aと丸みの半径を要素1とし、凸部5の角度Bと高さと丸みの半径を要素2としたとき、少なくとも1つ以上の要素が上述の好ましい範囲内にあることが好ましく、要素1及び要素2の両方が上述の好ましい範囲内にあることがより好ましい。
【0057】
本発明のコイン形電池用パッキンにおいて、周方向溝の開口部上端には丸みが形成されていることが好ましい。より具体的には、丸みの半径は0.02mm以上0.2mm以下であることが好ましい。
【0058】
本発明におけるコイン形電池用パッキンは熱可塑性樹脂からなることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン)、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、芳香族ナイロン)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルフォキサイド、ポリテトラフルオロエチレン、アクロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリオキシメチレンなどの樹脂が挙げられる。
【0059】
また、上記熱可塑性樹脂として、生物由来の樹脂(例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなど)を用いてもよい。
【0060】
さらに、上記樹脂の誘導体や、上記樹脂の共重合体、さらにそれらの混合物を用いることも可能である。
【0061】
上記熱可塑性樹脂の中では、PP、PE、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が特に好ましく、さらにエラストマーが混合されていることが好ましい。
【0062】
また、本発明におけるコイン形電池用パッキンはフィラーを含有していることが好ましい。フィラーを用いることにより、パッキンの強度を向上させることができ、パッキンの耐久性が向上する。フィラーとしては、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、ガラス粒子、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸塩、酸化鉄、カーボンブラック、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、石英粉、タルク、カリオン、アルミナ、ウルオストナイト、銅、アルミ、鉄、銀、亜鉛の粒子などを用いることができ、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維が好ましい。
【0063】
また、フィラーの含有量としては、コイン形電池用パッキンの総重量を基準として、10重量%以上60重量%以下が好ましく、20重量%以上50重量%以下がより好ましく、30重量%以上50重量%以下が特に好ましい。
【0064】
本発明のコイン形電池用パッキンの製造方法は、固定側金型および可動側金型を用いてパッキンを成形する工程と、成形されたパッキンを可動側金型に保持した状態で金型を開く工程と、可動側金型に保持されたパッキンを取り出す工程とを有することが好ましい。
【0065】
また、可動側金型にスライドコアを設置しておき、成形されたパッキンを可動側金型に保持した状態で金型を開いた後、スライドコアを移動させる工程を実施することも可能である。金型を開いた後にスライドコアを移動させて空間を作ることにより、安定して製品を取り出すことができる。
【0066】
コイン形電池用パッキンの成形方法としては、射出成形を用いることが好ましい。
【0067】
なお、射出成形において、樹脂充填に用いるゲートの種類はとくに限定されず、樹脂の充填が完了できるものであれば問題ない。例えば、ゲートはフィルムゲートであってもよいし、ピンゲートであってもよいし、アンダーゲートであってもよい。
【0068】
また、金型を開く際、成形されたパッキンをより確実に可動側金型に保持するという観点からは、パッキンの周方向溝の底面には凸部が設けられていることが好ましく、可動側金型には、パッキンの周方向溝の底面に設けられた凸部を保持するための凹部が設けられていることが好ましい。なお、この凹部は、可動側金型自体に設けられていてもよいし、可動側金型に備えられた入れ子に設けられていてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例
、参考例および比較例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、各実施例
、参考例および比較例における試験条件は、特に記載しない限り、基本的に実施例1に準じるものとする。
【0070】
(実施例1)
ポリフェニレンサルファイドを90重量%、ポリエステル系エラストマーを10重量%含有する樹脂を用いて、
図4に示す方法で射出成形を行い、コイン形電池用パッキン1を成形した。まず、
図4(a)に示すように、固定側金型42と、コイン形電池用パッキン1の形状に対応する入れ子45を備えた可動側金型43を用いて、325℃にて射出成形を行い、コイン形電池用パッキン1を成形した。次に、
図4(b)に示すように、可動側金型43を矢印52の方向に移動させ、コイン形電池用パッキン1を可動側金型43に保持した状態で金型を開いた後、
図4(c)に示すように、スライドコア46を矢印53の方向に移動させた。そして、
図4(d)に示すように、突き出しピン47を備えた突き出しプレート48を矢印56の方向に移動させて成形品を突き出し、
図2に示すコイン形電池用パッキン1を得た。
得られたコイン形電池用パッキンの寸法は、外径が25mm、内筒部2の高さが2.0mm、外筒部3の高さが4.5mm、内筒部2の厚みが0.7mm、外筒部3の厚みが0.8mmであった。かしめ溝7の寸法は、幅が1.2mm、底部連結部6の厚さが1.0mmであった。周方向溝4の形状は、外筒部内周面8の全周にわたって設けられた環状溝であり、周方向溝4の寸法は、幅が0.3mm、深さが0.11mmであった。また、周方向溝4の開口部上端12は、外筒部3の頂上から下方向に1.0mm離れていた。周方向溝4において、底面9と上側の側壁10のなす角度は120度であり、周方向溝4の上側の隅11には、底面9から上側の側壁10にかけて半径0.2mmの丸みが形成されていた。周方向溝4の底面9には凸部5が設けられており、凸部5の寸法は、幅が0.15mm、高さが0.08mmであった。凸部5の上側の側面13と凸部5の下側の側面14のなす角度は70度であり、凸部5の頂部には、半径0.06mmの丸みが形成されていた。
本実施例の製造方法を100万ショット実施したところ、射出成形時の離型不良の発生回数は0回、カエリの発生個数は0個、割れの発生個数も0個であった。
また、得られたコイン形電池用パッキンを用いて
図9に示すコイン形電池91を組み立てたところ、コイン形電池用パッキンが原因となる不良の発生回数は、100万個中0回であった。
【0071】
(
参考例2)
周方向溝4の底面9に凸部5を設けなかった他は、実施例1と同様にしてコイン形電池用パッキンを製造した。
得られたコイン形電池用パッキンの寸法は、外径が25mm、内筒部2の高さが2.0mm、外筒部3の高さが4.5mm、内筒部2の厚みが0.7mm、外筒部3の厚みが0.8mmであった。かしめ溝7の寸法は、幅が1.2mm、底部連結部6の厚さが1.0mmであった。周方向溝4の形状は、外筒部内周面8の全周にわたって設けられた環状溝であり、周方向溝4の寸法は、幅が0.3mm、深さが0.11mmであった。また、周方向溝4の開口部上端12は、外筒部の頂上から下方向に1.0mm離れていた。周方向溝4において、底面9と上側の側壁10のなす角度は120度であり、周方向溝4の上側の隅11には、底面9から上側の側壁10にかけて半径0.2mmの丸みが形成されていた。なお、周方向溝4の底面9には、凸部は設けられていなかった。
本
参考例の製造方法を100万ショット実施したところ、射出成形時の離型不良の発生回数は15回、カエリの発生個数は0個、割れの発生個数は0個であった。
得られたコイン形電池用パッキンから離型不良品を取り除き、選別されたコイン形電池用パッキンを用いて
図9に示すコイン形電池91を組み立てたところ、コイン形電池用パッキンが原因となる不良は、100万個中2回発生した。
【0072】
(
参考例3)
周方向溝4において、底面9と上側の側壁10のなす角度を90度とし、底面9から上側の側壁10にかけて半径0.01mmの丸みを形成した他は、実施例1と同様にしてコイン形電池用パッキンを製造した。
得られたコイン形電池用パッキンの寸法は、外径が25mm、内筒部2の高さが2.0mm、外筒部3の高さが4.5mm、内筒部2の厚みが0.7mm、外筒部3の厚みが0.8mmであった。かしめ溝7の寸法は、幅が1.2mm、底部連結部6の厚さが1.0mmであった。周方向溝4の形状は、外筒部内周面8の全周にわたって設けられた環状溝であり、周方向溝4の寸法は、幅が0.3mm、深さが0.11mmであった。また、周方向溝4の開口部上端12は、外筒部の頂上から下方向に1.0mm離れていた。周方向溝4において、底面9と上側の側壁10のなす角度は90度であり、周方向溝4の上側の隅11には、底面9から上側の側壁10にかけて半径0.01mmの丸みが形成されていた。周方向溝4の底面9には凸部5が設けられており、凸部5の寸法は、幅が0.15mm、高さが0.08mmであった。凸部5の上側の側面13と凸部5の下側の側面14のなす角度は70度であり、凸部5の頂部には、半径0.06mmの丸みが形成されていた。
本
参考例の製造方法を100万ショット実施したところ、射出成形時の離型不良の発生回数は0回、カエリの発生個数は29個、割れの発生個数は10個であった。
得られたコイン形電池用パッキンから不良品を取り除き、選別されたコイン形電池用パッキンを用いて
図9に示すコイン形電池91を組み立てたところ、コイン形電池用パッキンが原因となる不良は、100万個中6回発生した。
【0073】
(実施例4)
ポリプロピレンからなる樹脂を用いて220℃にて射出成形を行い、パッキンの寸法を変更した他は、実施例1と同様にしてコイン形電池用パッキンを製造した。
得られたコイン形電池用パッキンの寸法は、外径が30mm、内筒部2の高さが1.9mm、外筒部3の高さが5.5mm、内筒部2の厚みが0.65mm、外筒部3の厚みが1.1mmであった。かしめ溝7の寸法は、幅が1.2mm、底部連結部6の厚さが1.1mmであった。周方向溝4の形状は、外筒部内周面8の全周にわたって設けられた環状溝であり、周方向溝4の寸法は、幅が0.4mm、深さが0.09mmであった。また、周方向溝4の開口部上端12は、外筒部の頂上から下方向に1.0mm離れた位置にあった。周方向溝4において、底面9と上側の側壁10のなす角度は105度であり、周方向溝4の上側の隅11には、底面9から上側の側壁10にかけて半径0.45mmの丸みが形成されていた。周方向溝4の底面9には凸部5が設けられており、凸部5の寸法は、幅が0.10mm、高さが0.05mmであった。凸部5の上側の側面13と凸部5の下側の側面14のなす角度は85度であり、凸部5の頂部には、半径0.09mmの丸みが形成されていた。
本実施例の製造方法を100万ショット実施したところ、射出成形時の離型不良の発生回数は5回、カエリの発生個数は6個、割れの発生個数は2個であった。
得られたコイン形電池用パッキンから不良品を取り除き、選別されたコイン形電池用パッキンを用いて
図9に示すコイン形電池91を組み立てたところ、コイン形電池用パッキンが原因となる不良は、100万個中4回発生した。
【0074】
(実施例5)
ポリエチレンからなる樹脂を95重量%、エーテル系エラストマーを5重量%含有する樹脂を用いて160℃にて射出成形を行い、パッキンの寸法を変更した他は、実施例1と同様にしてコイン形電池用パッキンを製造した。
得られたコイン形電池用パッキンの寸法は、外径が35mm、内筒部2の高さが2.0mm、外筒部3の高さが5.0mm、内筒部2の厚みが1.1mm、外筒部3の厚みが1.0mmであった。かしめ溝7の寸法は、幅1.5mm、底部連結部6の厚さが1.0mmであった。周方向溝4の形状は、外筒部内周面8の全周にわたって設けられた環状溝であり、周方向溝4の寸法は、幅が0.3mm、深さが0.10mmであった。また、周方向溝4の開口部上端12は、外筒部の頂上から下方向に1.0mm離れた位置にあった。周方向溝4において、底面9と上側の側壁10のなす角度は150度であり、底面9から上側の側壁10にかけて、半径0.08mmの丸みが形成されていた。周方向溝4の底面9には凸部5が設けられており、凸部5の寸法は、幅が0.15mm、高さが0.03mmであった。凸部5の上側の側面13と凸部5の下側の側面14のなす角度は80度であり、凸部5の頂部には、半径0.07mmの丸みが形成されていた。
本実施例の製造方法を100万ショット実施したところ、射出成形時の離型不良の発生回数は10回、カエリの発生個数は0個、割れの発生個数は0個であった。
得られたコイン形電池用パッキンから不良品を取り除き、選別されたコイン形電池用パッキンを用いて
図9に示すコイン形電池91を組み立てたところ、コイン形電池用パッキンが原因となる不良は、100万個中5回発生した。
【0075】
(比較例1)
周方向溝4において底面9と上側の側壁10のなす角度を90度とし、周方向溝4の底面9に凸部5を設けなかった他は、実施例1と同様の手順を実施して、
図3に示すコイン形電池用パッキン31を製造した。
得られたコイン形電池用パッキン31の寸法は、外径が25mm、内筒部2の高さが2.0mm、外筒部3の高さが4.5mm、内筒部2の厚みが0.6mm、外筒部3の厚みが0.8mmであった。かしめ溝7の寸法は、幅が1.2mm、底部連結部6の厚さが1.0mmである。周方向溝4の形状は、外筒部内周面8の全周にわたって設けられた環状溝であり、周方向溝4の寸法は、幅が0.3mm、深さが0.14mmであった。また、周方向溝4の上端は、外筒部の頂上から下方向に0.8mm離れていた。周方向溝4において、底面9と上側の側壁10のなす角度は90度であり、周方向溝4の上側の隅11には、底面9から上側の側壁10にかけて半径0.01mmの丸みが形成されていた。なお、周方向溝4の底面9には、凸部は設けられていなかった。
本実施例の製造方法を100万ショット実施したところ、射出成形時の離型不良の発生回数は20回、カエリの発生個数は64個、割れの発生個数は32個であった。
得られたコイン形電池用パッキンから不良品を取り除き、選別されたコイン形電池用パッキンを用いて
図9に示すコイン形電池91を組み立てたところ、コイン形電池用パッキンが原因となる不良は、100万個中1850回発生した。