特許第5909544号(P5909544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909544
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】口腔タバコ材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A24B 13/00 20060101AFI20160412BHJP
   A24B 15/30 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   A24B13/00
   A24B15/30
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-500739(P2014-500739)
(86)(22)【出願日】2013年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2013054196
(87)【国際公開番号】WO2013125587
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2014年1月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-39027(P2012-39027)
(32)【優先日】2012年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】横井 道徳
(72)【発明者】
【氏名】古越 雅之
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/141278(WO,A1)
【文献】 特表2012−528593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24B 13/00
A24B 15/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
8を超えるpH値を示す口腔用乾燥タバコ材料からなる出発材料に、クエン酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、酸性を示す口腔用乾燥タバコ材料からなる群より選択される酸性物質を添加することによりpH値を8以下に低下させ、前記酸性物質を添加したタバコ材料を80℃以上の温度で加熱することを特徴とする口腔タバコ材料の製造方法。
【請求項2】
前記加熱を130℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔タバコ材料の製造方法および口腔タバコ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スヌース等の口腔タバコ製品が注目されてきている。これら口腔タバコ製品は、粉末タバコ等を含む口腔タバコ材料を、水分透過性のポーチに収容したもので、口腔内で唇と歯茎の間に挿入し、粉末タバコの味・香りを楽しむものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような口腔タバコ製品に使用される口腔タバコ材料には、亜硝酸塩が含まれている。亜硝酸塩は、刺激味を有することが知られており、特に口腔タバコ材料が亜硝酸塩を多く含むと、タバコ風味を損なう原因となる。そのため、スウェーデン国のある口腔タバコ製品製造会社は、口腔タバコ材料に含まれる亜硝酸量の上限を設定している。
【0004】
亜硝酸塩に起因して風味が損なわれることのない口腔タバコ製品を提供するためには、亜硝酸塩含有量の少ない口腔タバコ材料を選んで用いることが必要である。しかしながら、そのような制約の下では、亜硝酸塩含有量を除くと口腔タバコ材料として良好な官能特性を有する口腔タバコ材料であっても、使用に不適切であるとして排除されてしまう。すなわち、亜硝酸塩含有量の少ない口腔タバコ材料を選んで用いるという制約は、使用し得る口腔タバコ材料に対する大きな制約である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/062549号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、小さい制約の下で、亜硝酸塩の含有量が低下した口腔タバコ材料を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、スヌース等の口腔タバコ材料はアルカリ性成分を添加することにより良好な風味が引き出されるということが当該分野でよく知られているところ、酸性物質を添加し、所定の温度で加熱することにより、口腔タバコ材料中の亜硝酸(塩)量を大幅に低下させ得ることを見いだした。本発明は、かかる知見に基づく。
【0008】
すなわち、本発明の第1の側面によると、8を超えるpH値を示す口腔用乾燥タバコ材料からなる出発材料に、酸性物質を添加することによりpH値を8以下に低下させ、前記酸性物質を添加したタバコ材料を80℃以上の温度で加熱することを特徴とする口腔タバコ材料の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の側面によると、本発明の口腔タバコ材料の製造方法により製造された口腔タバコ材料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により製造された口腔タバコ材料は、有意に低減された亜硝酸含有量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の種々の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
本発明によると、口腔タバコ材料は、8を超えるpH値を示す口腔用乾燥タバコ材料からなる出発材料に、酸性物質を添加することにより前記pH値を8以下に低下させ、前記酸性物質を添加した口腔タバコ材料を80℃以上の温度で加熱することにより製造される。
【0013】
本発明においては、8を超えるpH値を示す口腔用乾燥タバコ材料を出発材料として用いる。通常、8を超え、10以下のpH値を示す口腔用乾燥タバコ材料を出発材料として用いる。かかるpH値を示す口腔タバコ材料は、豊富に作られており、大きな制約とはならないであろう。出発材料としては、バーレー種(burley tobacco)、暗色気干葉(dark air-cured tobacco)、気干葉(air-cured tobacco)等の一部を例示することができる。
【0014】
本明細書において、乾燥タバコ材料のpHは、タバコ材料2〜10gに10倍の20〜100gの蒸留水を加え、室温で水とたばこの混合物を200rpmで10分間振盪し5分間静置した後、得られた抽出液のpHをpHメーター(IQ Scientific Instruments Inc.製IQ240)で測定した値を指す。
【0015】
本発明では、まず、出発材料に、酸性物質を添加することにより、そのpH値を8以下に低下させる。通常、酸性物質の添加により、pH値を4〜8に低下させる。酸性物質としては、クエン酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等の有機酸を用いることができる。
【0016】
また、上記酸性物質として、有機酸の代わりに、酸性(すなわちpH7未満)を示す口腔用乾燥タバコ材料を用いることもできる。かかる酸性を示す口腔用乾燥タバコ材料としては、黄色種(flue-cured tobacco)、バーレー種、暗色気干葉、暗色火干葉(dark fire-cured tobacco)、青干葉(air-cured tobacco by early-dehydrating)、日干葉(sun-cured tobacco)、オリエンタル(oriental tobacco)等を例示することができる。酸性物質として酸性を示す口腔用乾燥タバコ材料を用いる場合、その量は、出発材料の重量の100%以下であることが好ましい。
【0017】
次に、酸性物質を添加した出発材料を80℃以上の温度で加熱する。亜硝酸塩は、pH8を超えるアルカリ性条件下では、安定に存在するが、本発明により、pH値が8以下に低下されると、不安定となり、80℃以上の加熱により、亜硝酸をNOxガスとして分解放出させることができる。加熱温度は、通常、130℃以下である。また、加熱時間は、通常、10分〜30分である。
【0018】
100℃を超える温度でタバコ材料を加熱するためには、外側にジャケットを有し、かつ加熱蒸気の導入管と排出管を備えた密閉加熱容器(例えば、円筒状)にタバコ材料を入れ、上記導入管からタバコ材料中に加熱蒸気を直接吹き込むとともに、ジャケット内に加熱蒸気を循環させて、同加熱蒸気の温度でタバコ材料を加熱することができる。
【0019】
本発明によれば、出発材料中の亜硝酸量を90%以上減少させることができる。
【0020】
なお、特開昭50−111295公報に、アスコルビン酸等の化学物質をタバコ全体に分散させることにより、タバコ組成物を製造することが開示されている。しかしながら、この先行技術は、タバコを燃焼したときに発生するタバコ主流煙中の二酸化窒素の量を減少させるものであって、タバコ自体に含まれる二酸化窒素の量を減少させるものではない。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明は、それら実施例により限定されるものではない。
【0022】
実施例1
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.5)5kgを加熱容器に入れ、クエン酸を2重量%添加してpHを6.5に調整した。このpHを調整したタバコ材料を、攪拌しながら、タバコ材料中に110℃の加熱蒸気を吹き込むとともに、加熱容器の外側に設けたジャケット内に110℃の加熱蒸気を循環させることにより、タバコ材料を110℃で30分間加熱した。しかる後、室温まで冷却し、加熱容器からタバコ材料を取り出し、タバコ材料中の亜硝酸濃度を以下の方法で測定した。なお、出発材料自体における亜硝酸濃度も測定した。結果を下記表1に示す。
【0023】
実施例2
pH8.5の粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位)2.5kgとpH6.7の粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位)2.5kgとをブレンドした。このブレンドタバコ材料のpHは、7.8であった。このブレンドタバコ材料を実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0024】
実施例3
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.1)5kgにアスコルビン酸を2重量%添加してpHを7.8に調整した。このアスコルビン酸添加タバコ材料を、実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0025】
実施例4
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.35)5kgに酢酸を2重量%添加してpHを6.32に調整した。この酢酸添加タバコ材料を、実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0026】
実施例5
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.35)5kgに乳酸を2重量%添加してpHを7.13に調整した。この乳酸添加タバコ材料を、実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0027】
実施例6
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.19)5kgにリンゴ酸を2重量%添加してpHを6.38に調整した。このリンゴ酸添加タバコ材料を、実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0028】
実施例7
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.38)5kgに酒石酸を2重量%添加してpHを6.54に調整した。この酒石酸添加タバコ材料を、実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0029】
実施例8
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.14)5kgにコハク酸を2重量%添加してpHを6.25に調整した。このコハク酸添加タバコ材料を、実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0030】
比較例1
pH8.7の乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位)をそのまま実施例1と同様に加熱処理し、その亜硝酸濃度を測定した。結果を表1に併記する。
【0031】
比較例2
粉砕した乾燥口腔タバコ材料(バーレー葉の中骨部位;pH8.06)5kgにクエン酸を2重量%添加してpHを6.03に調整した。このpHを調整したタバコ材料を、攪拌しながら、加熱容器の外側に設けたジャケット内に110℃の加熱蒸気を循環させることにより、タバコ材料を60℃で30分間加熱した。しかる後、室温まで冷却し、加熱容器からタバコ材料を取り出し、タバコ材料中の亜硝酸濃度を以下の方法で測定した。なお、出発材料自体における亜硝酸濃度も測定した。結果を下記表1に示す。
【0032】
<亜硝酸濃度の測定方法>
サンプル中の亜硝酸と芳香族第一アミン(スルファニルアミド)を反応させ、ジアゾニウム塩を生成する。ジアゾニウム塩がN−(1−ナフチル)−エチレンジアミン(NED)とアゾカップリングし、赤紫色のアゾ化合物を生成する。この呈色部分の吸光度(540nm)を測定することでサンプル中の亜硝酸態窒素(N)の濃度を測定し、亜硝酸に換算する。
【表1】
【0033】
表1に示す結果から明らかなように、本発明によれば、出発タバコ材料中の亜硝酸量を大幅に減少させることができる。従って、本発明により製造された口腔タバコ材料は、刺激味が低下した喫味を味わうことができるものと期待される。