(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極材用粉末、これを用いたリチウムイオン二次電池負極およびキャパシタ負極、ならびにリチウムイオン二次電池およびキャパシタ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化および軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池の開発が強く要望されている。現在、高エネルギー密度の二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池およびポリマー電池等がある。このうち、リチウムイオン二次電池は、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて格段に高寿命かつ高容量であることから、その需要は電源市場において高い伸びを示している。
【0003】
図1は、コイン形状のリチウムイオン二次電池の構成例を示す図である。リチウムイオン二次電池は、同図に示すように、正極1、負極2、電解液を含浸させたセパレーター3、および正極1と負極2の電気的絶縁性を保つとともに電池内容物を封止するガスケット4から構成されている。充放電を行うと、リチウムイオンがセパレーター3の電解液を介して正極1と負極2の間を往復する。
【0004】
正極1は、対極ケース1aと対極集電体1bと対極1cとで構成され、対極1cにはコバルト酸リチウム(LiCoO
2)やマンガンスピネル(LiMn
2O
4)が主に使用される。負極2は、作用極ケース2aと作用極集電体2bと作用極2cとで構成され、作用極2cに用いる負極材は、一般に、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質(負極活物質)と導電助剤およびバインダーとで構成される。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、カーボン系材料が用いられている。従来のものよりもリチウムイオン二次電池を高容量とする新規負極活物質として、リチウムとホウ素の複合酸化物、リチウムと遷移金属(V、Fe、Cr、Mo、Ni等)との複合酸化物、Si、GeまたはSnとNおよびOを含む化合物、化学蒸着により表面を炭素層で被覆したSi粒子等が提案されている。
【0006】
しかし、これらの負極活物質はいずれも、充放電容量を向上させ、エネルギー密度を高めることができるものの、リチウムイオンの吸蔵、放出時の膨張や収縮が大きくなる。そのため、これらの負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電の繰り返しによる放電容量の維持性(以下、「サイクル特性」という)が不十分である。
【0007】
これに対し、負極活物質としてSiO等、SiO
x(0<x≦2)で表される珪素酸化物の粉末を用いることが、従来から試みられている。珪素酸化物は、充放電時のリチウムイオンの吸蔵、放出による結晶構造の崩壊や不可逆物質の生成等の劣化が小さいことから、有効な充放電容量がより大きな負極活物質となり得る。そのため、珪素酸化物を負極活物質として用いることにより、カーボンを用いた場合と比較して高容量であり、SiやSn合金といった高容量負極材を用いた場合と比較してサイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池が得られている。
【0008】
負極活物質として珪素酸化物の粉末を用いる場合、珪素酸化物の電気伝導度の低さを補うために、一般に導電助剤としてカーボン粉末等が混合される。これにより、珪素酸化物の粉末と導電助剤との接触部近辺の電気伝導性は確保できる。しかし、接触部から離れた箇所では電気伝導性が確保できず、負極活物質として機能しにくい。
【0009】
この問題を解決するため、特許文献1では、珪素の微結晶が二酸化珪素に分散した構造を有する粒子(導電性珪素複合体)の表面にCVD(化学気相成長)で炭素の皮膜を形成した非水電解質二次電池負極材用の導電性珪素複合体およびその製造方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1で提案された方法によれば、導電性珪素複合体に均一な導電性炭素皮膜が形成され、十分な電気伝導性を付与することができる。しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1の導電性珪素複合体を用いたリチウムイオン二次電池は、珪素の微結晶が分散した二酸化珪素を負極材として用いるため、充放電時におけるリチウムイオンの吸蔵、放出時の膨張、収縮が大きくなり、充放電を繰り返すと、ある時点で容量が突然低下する等の課題があった。また、放電容量およびサイクル特性が十分ではなかった。
【0012】
また、本発明者らが、SiO
x(0.4≦x≦1.2)粉末の表面に導電性炭素皮膜を形成した負極材用粉末を用いたリチウムイオン二次電池について充放電試験を行ったところ、導電性炭素皮膜の状態によってサイクル特性が大きく変化することがわかった。具体的には、導電性炭素皮膜が粗い場合には、滑らかな場合と比較して、サイクル特性が劣り、充分なリチウムイオン二次電池の性能を維持するのが困難であった。これは、導電性炭素皮膜が粗い負極材用粉末がリチウムイオンを吸蔵した際にSiO
x粉末が膨張し、導電性炭素皮膜に多くの亀裂が生じ、実質的な負極材用粉末の比表面積の増大が引き起こされ、電解質の分解が進行するためと考えられる。この状態で充放電を繰り返すと、1サイクル(1回の充放電)ごとに負極材用粉末の比表面積が増大し、電解質の分解が促進され、電解液の劣化が進行し、サイクル特性が低下することとなる。
【0013】
また、CVDによりSiO
x粉末の表面に導電性炭素皮膜を形成する際に、導電性炭素皮膜の成長速度を上げた場合には、炭素の凝集が生じ、炭素の皮膜ではなく微粒子が生成することがある。この炭素の微粒子が負極材用粉末に混入すると、負極材用粉末の比表面積が増大し、電解質の劣化の一因となる。
【0014】
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、放電容量が大きく、かつサイクル特性が良好であり、実用レベルでの使用に耐え得るリチウムイオン二次電池の負極材用粉末、この負極材用粉末を用いたリチウムイオン二次電池負極およびキャパシタ負極、ならびにリチウムイオン二次電池およびキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者らは様々な比表面積の負極材用粉末を使用したリチウムイオン二次電池を作製し、負極材用粉末の比表面積とリチウムイオン二次電池のサイクル特性との関係について検討した。その結果、SiO
x粉末の表面に導電性炭素皮膜を形成した負極材用粉末が、粒度分布から求めた比表面積Aと、BET法で測定した比表面積Bとが1.5≦B/A≦100の関係を満たす場合に、この負極材用粉末を使用したリチウムイオン二次電池はサイクル特性が良好であり、かつ放電容量も大きいことを知見した。
【0016】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記(1)
または(
2)のリチウムイオン二次電池負極材用粉末、下記(
3)のリチウムイオン二次電池負極および下記(
4)のキャパシタ負極、ならびに下記(
5)のリチウムイオン二次電池および下記(
6)のキャパシタにある。
【0017】
(1)表面に導電性炭素皮膜を有するSiO
x(0.4≦x≦1.2)の粉末からなり、下記(1)式を満足
し、粒度分布におけるD50の値が、1μm≦D50≦50μmを満足することを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用粉末。
1.5≦B/A≦100 …(1)
ただし、A:粒度分布を用い、粒子が球体であると仮定して算出したリチウムイオン二次電池負極材用粉末の比表面積、B:BET法により1点法で測定したリチウムイオン二次電池負極材用粉末の比表面積であり、Aは下記(2)式で表される。
A=Σ{n
i×(4π(d
i/2)
2)}/[ρ×Σ{n
i×(4π(d
i/2)
3/3)}] …(2)
ここで、d
i:リチウムイオン二次電池負極材用粉末の粒径、n
i:粒度分布において粒径d
i〜d
i+1の範囲にある粒子数、ρ:SiOの真密度(2.2g/cm
3)である。
【0019】
(
2)前記導電性炭素皮膜の占める割合が3質量%以下で、かつX線回折装置で測定した場合にSiの結晶に由来するピークが現れないことを特徴とする前記(1
)のリチウムイオン二次電池負極材用粉末。
【0020】
(
3)前記(1)
または(
2)のリチウムイオン二次電池負極材用粉末を用いたリチウムイオン二次電池負極。
【0021】
(
4)前記(1)
または(
2)のリチウムイオン二次電池負極材用粉末を用いたキャパシタ負極。
【0022】
(
5)前記(
3)のリチウムイオン二次電池負極を用いたリチウムイオン二次電池。
【0023】
(
6)前記(
4)のキャパシタ負極を用いたキャパシタ。
【0024】
本発明における、SiO
xのx、リチウムイオン二次電池負極材用粉末の粒度分布、比表面積(上記AおよびB)およびD50の値、ならびにリチウムイオン二次電池負極材用粉末において導電性炭素皮膜の占める割合の、それぞれの測定方法については後述する。
【0025】
SiO
xの粉末について「表面に導電性炭素皮膜を有する」とは、後述するように、X線光電子分光分析装置を用いて表面分析を行った結果、SiとCのモル比の値Si/Cが0.1以下であることをいう。
【発明の効果】
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末、ならびにリチウムイオン二次電池負極またはキャパシタ負極を用いることにより、放電容量が大きく、かつサイクル特性が良好であり、実用レベルでの使用に耐え得るリチウムイオン二次電池またはキャパシタを得ることができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池およびキャパシタは、放電容量が大きく、かつサイクル特性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末(以下、単に「負極材用粉末」ともいう。)は、表面に導電性炭素皮膜を有するSiO
x(0.4≦x≦1.2)の粉末からなる。本発明において、SiO
xのxの範囲を0.4≦x≦1.2とする理由は、xの値が0.4を下回ると、本発明の負極材用粉末を用いたリチウムイオン二次電池およびキャパシタの充放電サイクルに伴う劣化が激しく、1.2を超えると電池の容量が小さくなるからである。また、xは、0.8≦x≦1.05を満足するのが好ましい。
【0029】
本発明の負極材用粉末は、下記(1)式を満足する。
1.5≦B/A≦100 …(1)
ただし、A:粒度分布を用い、粒子が球体であると仮定して算出した負極材用粉末の比表面積、B:BET法により1点法で測定した負極材用粉末の比表面積であり、Aは下記(2)式で表される。
A=Σ{n
i×(4π(d
i/2)
2)}/[ρ×Σ{n
i×(4π(d
i/2)
3/3)}] …(2)
ここで、d
i:負極材用粉末の粒径、n
i:粒度分布において粒径d
i〜d
i+1の範囲にある粒子数、ρ:SiOの真密度(2.2g/cm
3)である。
【0030】
負極材用粉末の粒子の形状が完全な球体であればB/Aの値は1であり、粒子の形状が球体から乖離したいびつな形状であるほど1よりも大きい。また、B/Aは、負極材用粉末の表面状態、すなわち導電性炭素皮膜の状態の指標として用いることができる。B/Aの値が1に近いほど導電性炭素皮膜は滑らかであり、1よりも大きいほど粗くなる。
【0031】
本発明者らが検討したところ、B/Aの値が100以下である場合に、サイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池が得られることがわかった。B/Aの値が100よりも大きい場合、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が劣る。
【0032】
これは、上述のように、導電性炭素皮膜が粗い負極材用粉末がリチウムイオンを吸蔵した際にSiO
x粉末が膨張し、導電性炭素皮膜に多くの亀裂が生じ、実質的な負極材用粉末の比表面積の増大が引き起こされ、電解質の分解が進行するためと考えられる。この状態で充放電を繰り返すと、1サイクルごとに負極材用粉末の比表面積が増大し、電解質の分解が促進され、電解液の劣化が進行し、サイクル特性が低下することとなる。
【0033】
一方、B/Aの値が100以下であれば、導電性炭素皮膜が滑らかであるため、充放電で導電性炭素皮膜に亀裂が生じるのを抑制することができ、電解液の劣化または枯渇が進行しにくく、サイクル特性の低下が抑制される。そのため、上記(1)式のように、B/Aの値を100以下と規定した。
【0034】
また、B/Aの値を1.5よりも小さくするには、導電性炭素皮膜の形成速度を極端に低下させる必要があり、負極材用粉末の工業的な生産が困難である。そのため、上記(1)式のように、B/Aの値を1.5以上と規定した。
【0035】
本発明の負極材用粉末は、粒度分布におけるD50の値が、1μm≦D50≦50μmを満足
する。D50の値は、3μm≦D50≦15μm
を満足することがより好ましい。これは、負極材用粉末の粒径が小さすぎると、負極材用粉末全体の比表面積が大きすぎるため、リチウムイオン二次電池において電解液と負極材用粉末の反応が過度に促進され、場合によっては電解液の枯渇によるブレイクダウンが生じる可能性があるからである。また、負極材用粉末の粒径が大きすぎると、リチウムイオン二次電池においてセパレーターが破壊され、ショートする可能性があるからである。
【0036】
また、負極材用粉末において導電性炭素皮膜の占める割合(以下、「炭素皮膜率」という)が3質量%以下で、かつX線回折装置で測定した場合にSiの結晶に由来するピークが現れないことが好ましい。
【0037】
炭素皮膜率が3質量%以下であることが好ましい理由は、導電性炭素皮膜も、SiO
xと同様にリチウムイオン二次電池の充放電容量に寄与するものの、その単位質量あたりの充放電容量はSiO
xに比較して小さいからである。
【0038】
また、負極材用粉末をX線回折装置で測定した場合に、Siの結晶に由来するピークが現れないのが好ましい理由は、負極材用粉末中のSiO
xは、結晶性を有する場合よりもアモルファスである場合の方が、リチウムイオンの侵入による膨張が緩和されやすく、リチウムイオン二次電池のサイクル特性に優れるからである。
【0039】
図2は、負極材用粉末についてのX線回折測定の結果を示す図である。製造条件の異なる負極材用粉末について、CuK
α線を用いたX線回折測定を行い、同図の結果を得た。Siの結晶の粉末についてCuK
α線を用いてX線回折測定を行った場合、2θ=28.4°±0.3°にピークが現れる。同図(a)はSiの結晶に由来するピークが明確に現れた場合の図、同図(b)はSiの結晶に由来するピークが現れた場合の図、同図(c)はSiの結晶に由来するピークが現れなかった場合の図である。本発明の負極材用粉末は、同図(c)のように、Siの結晶に由来するピークが現れないことが好ましい。
【0040】
2.分析方法
2−1.SiO
xのxの算出方法
SiO
xのxは、負極材用粉末中のO含有率とSi含有率のモル比(O/Si)であり、例えば下記測定方法で測定したO含有率およびSi含有率を用いて算出することができる。
【0041】
2−2.O含有率の測定方法
負極材用粉末中のO含有率は、酸素濃度分析装置(Leco社製、TC436)を用いて、試料10mgを不活性ガス融解・赤外線吸収法によって分析することで定量評価した試料中のO含有量から算出する。
【0042】
2−3.Si含有率の測定方法
負極材用粉末中のSi含有率は、試料に硝酸およびフッ酸を加えて試料を溶解させ、得られた溶液をICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製)で分析することによって定量評価した試料中のSi含有量から算出する。
【0043】
2−4.導電性炭素皮膜の形成状態の評価方法
本発明の負極材用粉末において、「低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有する」とは、AlK
α線(1486.6eV)を用いたX線光電子分光分析装置(XPS)で、導電性炭素皮膜の形成処理を施した低級酸化珪素粉末の表面分析を行った場合に、SiとCとのモル比の値Si/Cが0.1以下であることをいう。XPSの測定条件は表1に示す通りとする。負極材用粉末に十分に電気伝導性を付与するには、Si/Cは、0.05以下が好ましく、0.02以下がさらに好ましい。「Si/Cが0.02以下」とは、低級酸化珪素粉末の表面のほとんどがCに覆われており、Siがほとんど露出していない状態である。
【0045】
2−5.リチウムイオン二次電池負極材用粉末の粒度分布および比表面積の測定方法
図3は、本発明の負極材用粉末の粒度分布の一例を示す図である。同図には、粉末の粒径の区間ごとの頻度、および通過分積算の値を示す。粒度分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置を使用して、表2に示す条件で行った。
【0047】
この測定における粒径dの測定レンジは0.02μm〜2000μmとし、この測定レンジを対数等分割で85等分した区間を1区間とした。例えば、第1区間は粒径d
0(0.02μm)以上d
1(0.022μm)以下の範囲、第2区間は粒径d
1より大きくd
2(0.026μm)以下の範囲とし、第85区間は粒径d
84(1754.6μm)より大きくd
85(2000μm)以下の範囲とした。
【0048】
すなわち、以下に再掲する(2)式において、iは1≦i≦85を満たす整数とした。また下記(2)式では、各区間(粒径d
i〜d
i+1の範囲)に含まれる粒子を、粒径d
iの球と見なし、各区間の粒子数n
iを用いて負極材用粉末全体の比表面積を算出した。
図3に示す粒度分布の場合、Aの値は1.8169m
2/gであった。
A=Σ{n
i×(4π(d
i/2)
2)}/[ρ×Σ{n
i×(4π(d
i/2)
3/3)}] …(2)
ここで、d
i:負極材用粉末の粒径、n
i:粒度分布において粒径d
i〜d
i+1の範囲にある粒子数、ρ:SiOの真密度(2.2g/cm
3)である。
【0049】
また、粒度分布におけるD50の値とは、粒度分布において粒径が小さい方からの通過分積算の値が50%に達するときの粒径である。
図3に示す粒度分布の場合、D50の値は、6.4626μmであった。
【0050】
2−6.BET法によるリチウムイオン二次電池負極材用粉末の比表面積の測定方法
導電性炭素皮膜を形成した低級酸化珪素粉末の比表面積は、以下のBET法によって測定することができる。試料0.5gをガラスセルに入れて、200℃で約5時間、減圧乾燥する。そして、この試料について測定した液体窒素温度(−196℃)における窒素ガス吸着等温線から比表面積を算出する。測定条件は表3に示す通りとする。
【0052】
2−7.炭素皮膜率の測定方法
炭素皮膜率は、負極材用粉末の質量と、炭素濃度分析装置(Leco社製、CS400)を用いて酸素気流燃焼−赤外線吸収法によってCO
2ガスを分析することで定量評価した炭素量の結果から算出する。ルツボはセラミックルツボを、助燃剤は銅を用い、分析時間は40秒とする。
【0053】
3.本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末の製造方法
3−1.SiO
x粉末の製造方法
図4は、珪素酸化物の製造装置の構成例を示す図である。この装置は、真空室5と、真空室5内に配置された原料室6と、原料室6の上部に配置された析出室7とを備える。
【0054】
原料室6は円筒体で構成され、その中心部には、円筒状の原料容器8と、原料容器8を囲繞する加熱源10が配置される。加熱源10としては、例えば電熱ヒーターを用いることができる。
【0055】
析出室7は、原料容器8と軸が一致するように配置された円筒体で構成される。析出室7の内周面には、原料室6で昇華して発生した気体状のSiOを蒸着させるためのステンレス鋼からなる析出基体11が設けられる。
【0056】
原料室6と析出室7とを収容する真空室5には、雰囲気ガスを排出するための真空装置(図示せず)が接続されており、矢印A方向にガスが排出される。
【0057】
図4に示す製造装置を用いてSiO
xを製造する場合、原料としてSi粉末とSiO
2粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料9を用いる。この混合造粒原料9を原料容器8に充填し、不活性ガス雰囲気または真空中で加熱源10によって加熱してSiOを生成(昇華)させる。昇華により発生した気体状のSiOは、原料室6から上昇して析出室7に入り、周囲の析出基体11上に蒸着し、SiO析出物12として析出する。その後、析出基体11からSiO析出物12を取り外し、ボールミル等を使用して粉砕することにより、SiO
x粉末が得られる。粉末についてSiO
xと表記したのは、SiO析出物12の粉砕後、粉末の表面に酸化膜が形成されること等によって、xの値が1から変動するためである。
【0058】
粉砕条件について、以下に具体的に説明する。SiO析出物12は、粉砕前の塊状の状態で、ラトラ値が10.0W%以下のものを用いる。ラトラ値とは、圧粉体の耐摩耗性の評価に用いられる値であり、圧粉体をかごの中で繰り返し回転、落下させる試験の前後の重量減少率で表される値である。ラトラ値の測定方法は、日本粉末冶金工業会(JPMA)の規格「JPMA
P11−1992金属圧粉体のラトラ値測定方法」に記載の方法で測定した値とする。
【0059】
塊状のSiO析出物12は、湿度60%以下の空気雰囲気内で粉砕し、SiO
x粉末とした後、圧力10Pa以上、1000Pa以下で、温度200℃以上、400℃以下に一定時間保持する加圧熱処理を施す。この加圧熱処理は、導電性炭素皮膜の形成前に行われるため、以下「事前乾燥」ともいう。事前乾燥を施したSiO
x粉末は、密閉容器に収容して大気と接触しない状態として、後述のロータリーキルンに投入する。
【0060】
3−2.粒度の調整方法
塊状のSiO析出物12を粉砕して得られたSiO
x粉末の粒度の調整をする場合には、例えば次の方法を採用することができる。水深10cmとなるように水を入れたビーカー内でSiO
x粉末を浸漬させ、超音波洗浄機によって超音波振動を付与する。その後、自然沈降を行い、上澄みの水を捨てることによって水層に残った微粉を除去し、沈降した粉末のみを回収する。SiO
x析出物の粉砕時間およびSiO
x粉末の沈降時間を調整することにより、SiO
x粉末の粒度を調整し、D50の値を所定の範囲とすることができる。
【0061】
回収されたSiO
x粉末は、オーブンを用いて大気圧下、130℃の条件で24時間以上乾燥させる。その後、メノウ乳鉢で解砕し、再度同条件で乾燥させ、さらに上記の事前乾燥を施す。
【0062】
SiO
x粉末の粒度の調整は、沈降分離に限られず、風力分級等によっても行うことができる。
【0063】
3−3.導電性炭素皮膜の形成方法
事前乾燥を施したSiO
x粉末の表面への導電性炭素皮膜の形成は、CVD等により行う。具体的には、装置としてロータリーキルンを用い、ガスとして炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いて行う。皮膜の成長速度は比較的遅くし、0.1nm/h以上、10nm/h以下とする。皮膜の成長速度をこの範囲とすることにより、凝集による炭素の微粒子の生成を抑制することができる。皮膜の成長速度はガスの流量によって制御することができる。
【0064】
SiO
x粉末に事前乾燥を施すことにより、水分によるSiO
x粉末の凝集が抑制されるため、導電性炭素皮膜の均一性を向上させることができる。また、成長速度を遅くすることにより、滑らかな導電性炭素皮膜を形成することができる。ロータリーキルンに投入する前の事前乾燥と、導電性炭素皮膜の遅い成長速度の両方が揃うことにより、B/Aが1.5≦B/A≦100を満足する負極材用粉末を得ることができる。
【0065】
炭素源である炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、アセチレン等を使用することができる。このうち、プロパン(C
3H
8)がもっとも望ましい。混合ガスとしては、例えばアルゴンを使用することができる。混合ガス中の炭化水素ガスの含有率は、体積%で、2%以上、50%以下とし、20%以上、40%以下が望ましい。
【0066】
導電性炭素皮膜の形成処理温度は、600℃以上、900℃以下とし、700℃以上、750℃以下が望ましい。形成処理温度の調整は、ロータリーキルンに設けられたヒーターにより行う。
【0067】
4.リチウムイオン二次電池の構成
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末およびリチウムイオン二次電池負極を用いた、コイン形状のリチウムイオン二次電池の構成例を、前記
図1を参照して説明する。同図に示すリチウムイオン二次電池の基本的構成は、上述の通りである。
【0068】
負極2、すなわち本発明のリチウムイオン二次電池負極を構成する作用極2cに用いる負極材は、本発明の負極材用粉末を用いて構成する。具体的には、活物質である本発明の負極材用粉末とその他の活物質と導電助材とバインダーとで構成することができる。負極材中の構成材料のうち、バインダーを除いた構成材料の合計に対する本発明の負極材用粉末の割合は20質量%以上とする。本発明の負極材用粉末以外の活物質は必ずしも添加しなくてもよい。導電助材としては、例えばアセチレンブラックやカーボンブラックを使用することができ、バインダーとしては例えばポリアクリル酸(PAA)やポリフッ化ビニリデンを使用することができる。
【0069】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述の本発明の負極材用粉末およびリチウムイオン二次電池負極を用いたため、放電容量が大きく、かつサイクル特性が良好であり、実用レベルでの使用に耐え得る。
【0070】
また、本発明の負極材用粉末およびこれを用いた負極は、キャパシタにも適用することができる。
【実施例】
【0071】
本発明の効果を確認するため、リチウムイオン二次電池を用いた以下の試験を行い、その結果を評価した。
【0072】
1.試験条件
1−1.リチウムイオン二次電池の構成
リチウムイオン二次電池の構成は、前記
図1に示すコイン形状とした。
【0073】
最初に負極2について説明する。Si粉末とSiO
2粉末とを配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を原料とし、前記
図4に示す装置を用いて析出基板上にSiOを析出させた。SiO析出物は、アルミナ製ボールミルを使用して粉砕し、D50=10μmの粉末とした。この粉末は、O/Simol比(SiO
xのxの値)が1.02であった。
【0074】
SiO
x粉末の表面には導電性炭素皮膜を形成し、リチウムイオン二次電池負極材用粉末とした。導電性炭素皮膜の形成には、装置としてロータリーキルン、ガスとしてプロパンとアルゴンの混合ガスを使用し、処理温度は700℃とした。炭素皮膜率は2.5%とした。
【0075】
表4に示すように、SiO
x粉末への事前乾燥の実施または不実施、および導電性炭素皮膜の成長速度の設定によって、B/Aの値を変化させた。本発明例1〜4は、B/Aが1.5≦B/A≦100を満足した。比較例1〜5は、B/Aが1.5≦B/A≦100を満足しなかった。事前乾燥の条件は、真空中で200℃に3時間加熱することとした。表4からわかるように、炭素皮膜形成速度が同じであればSiO
x粉末に事前乾燥を施した方がB/Aの値は小さく、事前乾燥条件が同じであれば炭素皮膜形成速度が小さいほどB/Aの値は小さかった。
【0076】
【表4】
【0077】
この負極材用粉末を65質量%、アセチレンブラックを10質量%、PAAを25質量%とした混合物に、n−メチルピロリドンを加えてスラリーを作成する。このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃の雰囲気下で30分乾燥した後、片面の面積が1cm
2となる大きさに打ち抜いて負極2とした。
【0078】
対極はリチウム箔とした。電解質は、EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)を1:1の体積比とした混合液に、LiPF
6(六フッ化リンリチウム)を1mol/Lの割合となるように溶解させた溶液とした。セパレーターには厚さ30μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用いた。
【0079】
1−2.充放電試験条件
充放電試験には、二次電池充放電試験装置(株式会社ナガノ製)を用いた。充電は、リチウムイオン二次電池の両極間の電圧が0Vに達するまでは1mAの定電流で行い、電圧が0Vに達した後は、0Vを維持したまま充電を行った。その後、電流値が20μAを下回った時点で充電を終了した。放電は、リチウムイオン二次電池の両極間の電圧が1.5Vに達するまでは1mAの定電流で行った。以上の充放電試験は100サイクル行った。
【0080】
2.試験結果
上記条件で作製したリチウムイオン二次電池について充放電試験を行い、初回放電容量および100サイクル後のサイクル維持率を指標として評価を行った。これらの値を試験条件と併せて前記表4に示す。サイクル維持率とは、1サイクル目の充放電容量に対する100サイクル目の充放電容量の比の値(%)である。総合評価は、初回放電容量が1900mAh/g以上かつサイクル維持率が85%以上の場合を◎(優良)、初回放電容量が1700mAh/g以上かつサイクル維持率が80%以上の場合を○(良)とし、初回放電容量が1700mAh/g未満またはサイクル維持率が80%未満の場合を×(不可)とした。
【0081】
表4からわかるように、B/Aの値が小さいほど、初回放電容量およびサイクル維持率のいずれも大きかった。また、B/Aが1.5≦B/A≦100を満足しなかった比較例は、いずれも総合評価が×であり、満足した本発明例はいずれも総合評価が○または◎であった。本発明例のうち、特に、B/Aの値が30以下であった本発明例3および4では、初回放電容量が1952mAh/g以上かつサイクル維持率が88.7%以上と優れた値であり、総合評価が◎であった。