特許第5909562号(P5909562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909562
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】加熱装置及び加熱方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/42 20060101AFI20160422BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20160422BHJP
   H05B 6/36 20060101ALI20160422BHJP
   B21B 45/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C21D1/42 K
   C21D1/42 B
   H05B6/10 381
   H05B6/36 E
   B21B45/00 N
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-549984(P2014-549984)
(86)(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公表番号】特表2015-510544(P2015-510544A)
(43)【公表日】2015年4月9日
(86)【国際出願番号】KR2012011440
(87)【国際公開番号】WO2013100544
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2014年7月29日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0144622
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】パク、 チョン−ス
(72)【発明者】
【氏名】ベ、 ジン−ス
(72)【発明者】
【氏名】ハ、 テ−チョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ウン−クァン
(72)【発明者】
【氏名】シン、 ゴン
(72)【発明者】
【氏名】オー、 キ−チャン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ダク−マン
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−164017(JP,A)
【文献】 特開2004−243362(JP,A)
【文献】 特開2000−015319(JP,A)
【文献】 特開2005−256034(JP,A)
【文献】 特開2002−043042(JP,A)
【文献】 特開2006−294396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/42、9/60
H05B 6/10、6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を加熱する磁場を発生させるために金属板の一面に離隔して前記金属板に平行に設置され、金属板の幅方向に延長される一対の横部及び金属板の進行方向に延長される一対の縦部を備える巻線コイルを含む第1加熱部と、
金属板の他面に離隔して前記金属板に平行に設置され、金属板の幅方向に延長される一対の横部及び金属板の進行方向に延長される一対の縦部を備える巻線コイルを含む第2加熱部と、を含み、
前記第1及び第2加熱部は、前記巻線コイルの一対の横部に沿って延長される磁気鉄心を含み、
前記磁気鉄心は、前記横部の内側面に沿って延長される第1部材、及び前記巻線コイルの金属板の反対面に位置する第2部材を備え、前記巻線コイルの横部の外側面は開放され
前記磁気鉄心の第2部材は、前記巻線コイルの金属板の幅方向の端部まで延長された延長部を含み、
前記磁気鉄心は、金属板の進行方向の前方の前方磁気鉄心と、金属板の進行方向の後方の後方磁気鉄心と、を含み、前記前方磁気鉄心と後方磁気鉄心が前記巻線コイルの内面において前記第1部材に対向し離隔して配置され、
前記巻線コイルの内側の長辺に配置される前記磁気鉄心の長さは、金属板の幅方向の長さの80%を超え120%以下である、加熱装置。
【請求項2】
前記巻線コイル及び前記磁気鉄心を内部に含み、前記巻線コイルによる磁場の漏れを防止するために提供された磁場遮蔽箱をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
鉄損を最小化するために、前記磁気鉄心は、相対透磁率が1000以上の粉末状高透磁率材料を圧縮焼結したり、相対透磁率が1000以上の電磁鋼板を長さ方向に積層して形成することを特徴とする、請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記磁気鉄心と前記巻線コイルの間には絶縁板が配置され、前記磁気鉄心の外側には放熱板が配置されることを特徴とする、請求項1に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記放熱板は、前記磁気鉄心に対応する形状を有し、外側に水冷式コイルが配置される水冷式放熱板であることを特徴とする、請求項に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記巻線コイル及び前記磁気鉄心を内部に含み、前記巻線コイルによる磁場の漏れを防止するために提供された磁場遮蔽箱をさらに含み、
前記巻線コイル、絶縁板、磁気鉄心、及び放熱板は、前記磁場遮蔽箱の内部のベースに結合手段を介して固定されることを特徴とする、請求項に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記磁気鉄心は、相対透磁率が1000以上の粉末状高透磁率材料を圧縮焼結したもので、前記高透磁率材料の直径は磁場浸透深さ以下であることを特徴とする、請求項に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記磁気鉄心は、相対透磁率が1000以上の電磁鋼板を長さ方向に積層したもので、前記電磁鋼板の厚さは磁場浸透深さ以下であることを特徴とする、請求項に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記磁気鉄心は、前記電磁鋼板を長さ方向に沿って接着層で積層させ、前記金属板の幅方向の均一加熱パターンを具現するために、前記磁気鉄心の全体体積に対する前記電磁鋼板の体積比率が95%以上であることを特徴とする、請求項に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記磁場遮蔽箱は磁場浸透深さを超えて構成され、
前記磁場遮蔽箱の誘導電流損失を低減させるために、前記巻線コイルと前記金属板との距離より、前記巻線コイルと前記磁場遮蔽箱の内面との距離が遠いことを特徴とする、請求項に記載の加熱装置。
【請求項11】
請求項1に記載の加熱装置と、
前記加熱装置の後段に配置される圧延機と、を含み、
前記加熱装置によって加熱された金属ストリップを圧延機で圧延する、圧延ライン。
【請求項12】
金属板の両面に配置される請求項1に記載の加熱装置で連続的に供給される金属板を加熱する加熱方法であって、
前記加熱装置に金属板を供給する供給段階と、
前記加熱装置の巻線コイルで金属板に垂直の磁場を発生させて、供給される金属板を加熱する加熱段階と、を含み、
前記加熱段階は、前記巻線コイルで発生する磁場の強さを磁気鉄心を介して調節して前記金属板のエッジ部を中央部より過熱させ、金属板の中央部は幅方向の温度分布が均一となるように加熱させる、加熱方法。
【請求項13】
前記加熱段階で加熱された金属板が圧延工程に供給されるように、前記加熱段階は圧延工程の前に行われることを特徴とする、請求項12に記載の加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱装置及び加熱方法に関し、連続的に供給される金属板を加熱する加熱装置であって、エッジ部の過熱が可能でありながら、エッジ部を除いた部分では均一な加熱が可能な加熱装置及び加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
横方向フラックス誘導コイル(Transverse Flux Induction Coil、「TFIC」という)は、ソレノイド加熱コイル(Longitudinal Flux Induction Coil、「LFIC」という)から開発された誘導加熱技術の一つである。
【0003】
図1には、LFICによって金属板が加熱される原理が示されている。
【0004】
即ち、図1の(a)に示されたように、LFICによって発生する磁場は金属板の縦方向に作用するため、金属板の垂直断面に渦電流(Eddy current)を発生させる。上記渦電流による金属板の効率的な加熱のためには、金属板の厚さが磁場浸透深さ(δ=√(1/πfμσ))の3倍以上でなければならないが、これは、図1の(b)に示されたように、金属板の上部と下部とで反対に流れる渦電流が互いに衝突して相殺(A)されることを防止するためである。
【0005】
従って、LFICによる効率的な誘導加熱のためには、金属板の厚さが薄くなるほど、浸透深さも低くならなければならい。そのため、材料の高透磁率(μ)と装置の高運転周波数(f)が必要である。
【0006】
しかし、透磁率は金属の固有物性値であるため、制御が不可能であり、高運転周波数は大容量電力設備の具現において制限があるため、LFICによる非磁性金属薄板の誘導加熱には限界がある。
【0007】
図2にはTFICの技術が示されている。TFICは、横方向に移動する金属板に垂直に磁場を発生させて、広い横方向断面に渦電流を誘導させるため、渦電流の相殺を防ぐことができ、また、図2の(b)に示されたように、金属板の厚さが薄いほど、金属板の上部及び下部に流れる同一方向の渦電流が互いに重畳(B)されて電流密度を上昇させるため、加熱効果(P=I^2*R)をさらに向上させることができる。
【0008】
よって、非磁性金属薄板の誘導加熱では、TFICにより加熱効率が向上する効果が期待できる。
【0009】
初期のTFICは、図3に示されたように、単純な長方形の巻線形態を取っていたが、鋼板に伝達されるエネルギーが幅方向に不均一で、特にエッジ部20の内側は中心に比べて約20%減少したエネルギーが伝達され、不十分な加熱区間が発生した(図3bのCを参照)。これを克服するために、TFICの両端部分を円形にしてヘッド部を作るが、特にヘッド部10の断面の大きさを減らすか、外側に大きく円形を作ることで、不十分な加熱部分の電流密度を上昇させるか、電流パスを延長させて、エッジ部の内側の不十分な加熱を補償し、幅方向の均一な加熱を可能にした。
【0010】
しかし、上記TFICの場合、コイルの位置、特にTFICのヘッド部10の端と金属板のエッジとの距離によって加熱パターンが大きく変わるため、TFICのヘッド部10の位置を正確に制御しなければならなかった。言い換えれば、金属板の幅変化や蛇行に係らず幅方向を均一に加熱するためには、金属板に対するTFICの最適位置が存在し、そのためにはTFICを移動させなければならない。
【0011】
よって、上記コイルの位置制御のために、図4に示されたように、上下一対の加熱コイルを二対に分けたU字型TFICが開発された。
【0012】
二対のTFICを利用する誘導加熱システムは、2つの電源装置とマッチング構成(コンデンサー、トランスフォーマー等)が必要で、金属板の幅変化と蛇行に応じたコイルの位置制御が必須であるため、機具部が必ず必要である。また、加熱コイルの断面や形態がヘッド部で変わるため、溶接によるコイル製作が避けられないが、溶接部での過熱による穿孔や、これに伴うコイル冷却水の漏れが発生する可能性がある。即ち、コイルの製作が困難で、システムが複雑であり、初期投資費が高いという短所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためのもので、コイルの形状が簡単で、かつ金属板のエッジ部の過熱と幅方向の均一加熱が可能な加熱装置を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、構成が簡単で、コイルの位置制御機具を必要とせず、エッジ部の過熱と幅方向の均一加熱が可能な加熱装置を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、蛇行が発生しても、エッジ部の過熱と幅方向の均一加熱が可能な加熱装置及び加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記のような目的を達成するために、以下のような加熱装置及び加熱方法を提供する。
【0017】
本発明は、金属板を加熱する磁場を発生させるために金属板の一面に離隔して上記金属板に平行に設置され、金属板の幅方向に延長される一対の横部及び金属板の進行方向に延長される一対の縦部を備える巻線コイルを含む第1加熱部と、金属板の他面に離隔して上記金属板に平行に設置され、金属板の幅方向に延長される一対の横部及び金属板の進行方向に延長される一対の縦部を備える巻線コイルを含む第2加熱部と、を含み、上記第1及び第2加熱部は、上記巻線コイルの一対の横部に沿って延長される磁気鉄心を含み、上記磁気鉄心は、上記横部の内側面に沿って延長される第1部材を備え、上記巻線コイルの横部の外側面は開放される加熱装置を提供する。
【0018】
上記巻線コイルは、金属板の幅方向に長い長さを有する長方形状に巻き取られ、上記磁気鉄心は、金属板の進行方向の前方の前方磁気鉄心と金属板の進行方向の後方の後方磁気鉄心を含んでもよい。
【0019】
上記磁気鉄心は、上記巻線コイルの金属板の反対面に位置する第2部材をさらに含んでもよい。
【0020】
上記磁気鉄心の第2部材は、上記第1部材より金属板の幅方向に長さが長くなるように延長部を含んでもよく、上記延長部は、上記巻線コイルの金属板の幅方向の端部まで延長されてもよい。
【0021】
上記巻線コイル及び上記磁気鉄心を内部に含み、上記巻線コイルによる磁場の漏れを防止するために提供された磁場遮蔽箱をさらに含んでもよい。
【0022】
一方、鉄損を最小化するために、上記磁気鉄心は、相対透磁率が1000以上の粉末状高透磁率材料を圧縮焼結したもの、あるいは相対透磁率が1000以上の電磁鋼板を長さ方向に積層したものであってもよい。
【0023】
上記磁気鉄心と上記巻線コイルの間には絶縁板が配置され、上記磁気鉄心の外側には放熱板が配置されてもよく、上記放熱板は、上記磁気鉄心に対応する形状を有し、外側に水冷式コイルが配置される水冷式放熱板であってもよい。
【0024】
また、上記巻線コイル及び上記磁気鉄心を内部に含み、上記巻線コイルによる磁場の漏れを防止するために提供された磁場遮蔽箱をさらに含み、上記巻線コイル、絶縁板、磁気鉄心、及び放熱板は、上記磁場遮蔽箱の内部のベースに結合手段を介して固定されてもよい。
【0025】
上記磁気鉄心は、相対透磁率が1000以上の粉末状高透磁率材料を圧縮焼結したもので、上記高透磁率材料の直径は磁場浸透深さ以下であってもよい。
【0026】
また、上記磁気鉄心は、相対透磁率が1000以上の電磁鋼板を長さ方向に積層したもので、上記電磁鋼板の厚さは磁場浸透深さ以下であってもよい。
【0027】
このとき、上記磁気鉄心は、上記電気鋼板を接着層で積層させ、上記金属板の幅方向の均一加熱パターンを具現するために、上記磁気鉄心の全体体積に対する上記電磁鋼板の体積比率が95%以上であることが好ましい。
【0028】
上記巻線コイルの内側の長辺の長さは、金属板の幅方向の長さの80%を超え120%未満であってもよい。
【0029】
また、上記磁場遮蔽箱は磁場浸透深さを超えて構成され、上記磁場遮蔽箱の誘導電流損失を低減させるために、上記巻線コイルと上記金属板との距離より、上記巻線コイルと上記磁場遮蔽箱の内面との距離が遠いことが好ましい。
【0030】
一方、本発明は、上述した加熱装置と、上記加熱装置の後段に配置される圧延機と、を含む圧延ラインを提供する。
【0031】
本発明は、金属板の両面に配置される加熱装置で連続的に供給される金属板を加熱する加熱方法であって、上記加熱装置に金属板を供給する供給段階と、上記加熱装置の巻線コイルで金属板に垂直の磁場を発生させて、供給される金属板を加熱する加熱段階と、を含み、上記加熱段階は、上記巻線コイルで発生する磁場の強さを磁気鉄心を介して調節して上記金属板のエッジ部を中央部より過熱させ、金属板の中央部は幅方向の温度分布が均一となるように加熱させる、加熱方法を提供する。
【0032】
上記加熱段階で加熱された金属板が圧延工程に供給されるように、上記加熱段階は圧延工程の前に行われることができ、これは、圧延工程において、エッジ部は冷却が多く発生するため、圧延工程の前にエッジ部を過熱することが好ましく、エッジ部を除く中央部は均一な温度を有することが圧延後の製品特性が均一であるためである。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、上記のような構成により、コイルの形態が簡単で、かつ金属板のエッジ部の過熱と幅方向の均一加熱が可能な加熱装置を提供することができる。
【0034】
また、本発明は、構成が簡単で、コイルの位置制御機具を必要せず、エッジ部の過熱と幅方向の均一加熱が可能であり、蛇行が発生しても、同じ性能を提供することができる加熱装置及び加熱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】従来のLFICを示したものである。
図2】従来のTFICを示したものである。
図3a】従来のTFICの一例のコイルと金属板の平面図である。
図3b図3aのTFICで加熱した金属板の電力分布グラフである。
図4a】従来のTFICの他例のコイルと金属板の平面図である。
図4b図4aのTFICで加熱した金属板の電力分布グラフである。
図5a図3のTFICで加熱したときの渦電流密度分布度を示したものである。
図5b図5aの金属板に誘導される渦電流パス(Eddy current path)を示したものである。
図6】本発明による横方向フラックス誘導加熱器の斜視図である。
図7】本発明による横方向フラックス誘導加熱器の加熱部における巻線コイルの斜視図及び平面図である。
図8】本発明による横方向フラックス誘導加熱器の加熱部における磁気鉄心の斜視図(a)、側面図(b)、正面図(c)及び平面図(d)である。
図9】本発明による加熱部の図面であり、(a)は加熱部の組立図で、(b)は加熱部の組立断面図である。
図10】比較例と第1実施例の磁気鉄心の位置を示したものである。
図11図10の磁気鉄心の位置による電力分布グラフである。
図12】第1〜第3実施例の磁気鉄心の位置を示したものである。
図13図12の磁気鉄心の位置による電力分布グラフである。
図14図12の第3実施例と従来技術の電力分布を比べたグラフである。
図15a】本発明の加熱装置の平面図である。
図15b】本発明の加熱装置の磁気鉄心の長さ変化による電力分布グラフである。
図16】本発明の加熱装置の断面図である。
図17】金属板の蛇行による電力分布グラフである。
図18】本発明の横方向フラックス誘導加熱器による金属板の電力分布グラフである。
図19】本発明の加熱装置が圧延ラインに配置された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、添付の図面を参照して本発明の具体的な実施例について説明する。
【0037】
図5aには図3のTFICで加熱したときの渦電流密度分布度が示されており、図5bには図5aの金属板に誘導される渦電流パス(Edd ycurrent path)が示されている。図5に示されたように、図3のTFICを使用すると、エッジ部Eに渦電流が集中することが分かる。これは、エッジ部Eにおける磁場の歪み及び集中によって渦電流密度が高くなる端部効果(End effect)のためである。
【0038】
上記端部効果は、加熱コイル内のエッジ部Eだけでなく、加熱コイル外のエッジ部E’でも発生するため、渦電流ループ(Loop)は、図5bのように、中間の主な電流パスの他にも外側に回転するループを形成するようになる。即ち、エッジ部の内側で電流が二つに分割される地点が生じ、この地点での電流密度が低くなるため、不十分な加熱区間が発生する。
【0039】
上記した根本的な原因により発生する不十分な加熱区間を除去するために、外側のエッジ部E’との電磁気的結合を遮断し、加熱コイル内のエッジ部Eに電流を集中させなければならず、これにより、電流パスが外側に分割されることを防止しなければならない。
【0040】
そこで、本発明の発明者は、加熱コイル内のエッジ部Eに電流を集中させるために、磁気鉄心を導入し、分割される電流パスを加熱コイルの内側に集中させた。
【0041】
図6には、本発明による横方向フラックス誘導加熱器1の斜視図が示されている。図6に示されたように、本発明の横方向フラックス誘導加熱器(Transverse Flux Induction Heater)1は、金属板Pの上面に配置される上部加熱部100と、金属板Pの下面に配置される下部加熱部200と、を含む。
【0042】
上部加熱部100は、巻線コイルによって発生する磁場の外部漏れを防止する磁場遮蔽箱101と、その内部に配置され、金属板の水平面に垂直の磁場を発生させる巻線コイル110と、上記巻線コイル110の内面及び上面の一部をカバーし、上記巻線コイル110で発生する磁場の位置毎の磁束密度を制御する磁気鉄心120、130と、を含んで構成される。
【0043】
即ち、金属板Pの幅方向の巻線コイル110を一対の横部、金属板Pの進行方向の巻線コイル110を一対の縦部としたとき、磁気鉄心120、130は、横部の上面及び内面に位置する。
【0044】
同様に、下部加熱部200は、磁場遮蔽箱201と、その内部に配置される巻線コイル210と、上記巻線コイル210の内面及び下面の一部をカバーする磁気鉄心220、230と、を含んで構成される。
【0045】
図7には、本発明による横方向フラックス誘導加熱器1の上部加熱部100における巻線コイル110の斜視図及び平面図が示されている。
【0046】
巻線コイル110には、熱伝導率と導電率に優れた銅を使用し、横方向に移動する金属板の厚さ方向に所定距離離隔されて配置される。巻線コイル110は、設計に応じて異なってもよいが、本実施例では、長方形の断面を有するコイルが金属板の幅方向に長い長さを有する長方形状に3回巻かれて、外側巻線部111、中央巻線部112、内側巻線部113を有する。
【0047】
即ち、巻線コイル110の長い長さaが金属板の幅方向、即ち、横部であり、短い長さbは金属板の進行方向、即ち、縦部である。巻線コイル110の外側巻線部111と内側巻線部113には、電力供給部と連結される連結部114、115が備えられる。
【0048】
金属板Pと巻線コイル110の間隔は、金属板Pが垂直変形しても巻線コイル110が衝突されない程度であるが、巻線コイル110と金属板Pの電磁気的結合(Electromagneticcoupling)が強くなるように可能な限り狭いことが好ましい。例えば、厚さ20mmの金属板を加熱する場合、上側の巻線コイル110と下側の巻線コイル210の間隔を約80mm程度にして、衝突を避けながら、電磁気的結合効果を確保することが好ましいが、これは設計に応じて変更されてもよい。
【0049】
図8の(a)には本発明による横方向フラックス誘導加熱器1の上部加熱部100における磁気鉄心120、130の斜視図が示されており、図8の(b)には磁気鉄心120の側面図、図8の(c)は磁気鉄心120の正面図、図8の(d)には磁気鉄心120の平面図が示されている。
【0050】
図8の(a)に示されているように、本発明における磁気鉄心120、130は、金属板Pの進行方向に沿って前方磁気鉄心130と後方磁気鉄心120からなり、前方及び後方磁気鉄心120、130は同じ形状であるが、連結部115によって垂直部121の長さが異なることもある。前方磁気鉄心130と後方磁気鉄心120は、巻線コイル110の内面において、垂直部121が対向し離隔して配置されるが、磁気鉄心120、130の厚さと巻線コイル110の短い長さb(図7参照)によって、単一の磁気鉄心120、130で構成されてもよい。
【0051】
図8の(b)に示されているように、後方磁気鉄心120は、巻線コイル110の内面をカバーする垂直部121(第1部材)と、上面をカバーする水平部122(第2部材)を含み、側面図のように、略「L」字状である。上記水平部122は、上記垂直部121に対応する中央部122bと、その両側に巻線コイル110の端部まで延長される延長部122a、122cと、を含む。垂直部121は、巻線コイル110の内側面をカバーするため、延長部122a、122cに対応する位置には備えられず、本発明では、巻線コイル110の横部の外側面には磁気鉄心120、130が配置されないため、巻線コイル110は横部の外側面が開放される。
【0052】
一方、図8の(d)の磁気鉄心120の断面拡大図から分かるように、本発明における磁気鉄心120は、相対透磁率が1000以上の高透磁率の電気鋼板123が長さ方向、即ち、金属板の幅方向に積層されて構成されてもよい。このとき、電気鋼板123の間には接着層124が配置されてもよい。ここで、電気鋼板123の厚さは、巻線コイル110によって誘導される磁場の浸透深さ以下であることが磁気鉄損を低減できるため、好ましい。例えば、運転周波数1000Hzでの磁気鉄心120、130の浸透深さは約0.37mmであるため、電気鋼板123の厚さはこれより薄いことが好ましい。
【0053】
また、本発明における磁気鉄心は、相対透磁率1000以上あるいは高透磁率材料を圧縮焼結して具現されることができ、このように高透磁率材料を圧縮焼結する場合、材料の直径は磁場浸透深さ以下であることが磁気鉄損を低減できるため、好ましい。例えば、運転周波数1000Hzでの浸透深さは約0.37mmであるため、高透磁率材料の直径はこれより小さいことが好ましい。
【0054】
特に、電気鋼板123を接着層124を介して積層した場合、磁気鉄心120において電磁鋼板123の占める体積が95%以上となるように積層することができる。これは、接着層124が5%を超えると、磁気鉄心120の性能が低下して、金属板Pの幅方向のパターンが変わる恐れがあるためである。
【0055】
図9には、磁場遮蔽箱101の内部において、磁気鉄心120、130及び巻線コイル110が固定される様子が示されており、図9の(a)は斜視図、図9の(b)は断面図である。
【0056】
図9に示されたように、磁場遮蔽箱101に連結されるベース190に磁気鉄心120、130と巻線コイル110が装着される。具体的には、巻線コイル110と磁気鉄心120、130の間には絶縁板140が備えられて、巻線コイル110及び磁気鉄心120、130を絶縁させると同時に、磁気鉄心120、130を冷却させる。磁気鉄心120、130上には放熱板150が磁気鉄心120、130を包んで配置される。絶縁板140と放熱板150は、熱伝導率の高い材料からなる。
【0057】
上記放熱板150には水冷式コイル180が配置され、巻線コイル110によって発生する磁場による磁気鉄心120、130の熱を外部に排出させる。
【0058】
放熱板150とベース190の間には、水冷式コイル180を配置するための空間を確保し、ベース190と放熱板150が所定距離離隔するように所定厚さを有するブッシュ160が挿入される。該ブッシュ160は、磁気鉄心120、130、絶縁板140、放熱板150を貫通し、巻線コイル110に連結される。
【0059】
該ブッシュ160とベース190が接触し、上記ベース190を貫通する結合手段としてのボルト170が上記ブッシュ160に締結されることで、巻線コイル110、絶縁板140、放熱板150、磁気鉄心120、130がベース190に固定される。
【0060】
このようにベース190に固定された巻線コイル110、絶縁板140、放熱板150、磁気鉄心120、130は、ベース190が磁場遮蔽箱101に連結されることで、磁場遮蔽箱101の内部で位置固定されることができる。
【0061】
以上では、本発明の一実施例を中心に説明したが、以下では、本発明による他の磁気鉄心の形状について説明する。
【0062】
図10には本発明の第1実施例と比較例が示されており、図11には数値解析により得られた第1実施例と比較例の金属板の中心からの距離による電力分布グラフが示されている。
【0063】
図10に示されたように、本発明の第1実施例IIIは、磁気鉄心120が巻線コイル110の内面に位置する垂直部121のみで具現されるが、比較例IIは、磁気鉄心120が巻線コイル110の外側面に位置して、巻線コイル110の外側面をカバーする垂直部125のみで具現され、他の比較例IIは、磁気鉄心120が巻線コイル110の上面をカバーする水平部122のみで具現される。
【0064】
図11には、その他に巻線コイル110の巻線数、ポールピッチ、間隔等は全て同じで、数値解析により、幅方向の各地点における鋼板の進行方向と厚さ方向のジュール熱(Joule heat)を全て積分した値が示されている。即ち、鋼板がTFICを通過した後に得られる最終加熱パターンが示されている。
【0065】
図11に示されたように、比較例Iは、金属板Pのエッジ部の内側で、磁気鉄心120のない従来の図3bと同等のレベルに温度が低下するため、不十分に加熱される部分が全く補償されないことが分かる。また、比較例IIは、不十分に加熱される部分を一部補償するが、その効果は僅かであることが分かる。これに対し、第1実施例IIIは、不十分な加熱区間を補償した。
【0066】
これは、磁気鉄心120を巻線コイル110の内側に配置することで、コイル内の磁場を集中させ、これにより上下巻線コイル110、210の間の主な渦電流パスを強化させて、相対的に外側のエッジ部(図5のE’)と結合される磁場を悪化させることで、電流パスが外側に分割されることを防止したためである。これにより、磁気鉄心120を巻線コイル110の内側に配置することで、幅方向の均一加熱が可能であることが分かる。
【0067】
図12及び図13には、内側面をカバーする垂直部121を含み、かつ2面以上をカバーするように本発明の磁気鉄心120を変更し、それによる追加実施例及びその金属板の中心からの距離による電力分布グラフが示されている。
【0068】
図12の上段の第1実施例IIIは、図10と同様に、巻線コイル110の内側面だけを磁気鉄心120の垂直部121がカバーする。
【0069】
中間の第2実施例IVの磁気鉄心120は、内側面をカバーする垂直部121とそれに対応する幅で上面をカバーする水平部122を含み、略「L」字状であり、巻線コイル110の外側面と金属板を向く面が開放される。
【0070】
下段の第3実施例Vの磁気鉄心120は、第2実施例IVのように内側面をカバーする垂直部121とそれに対応する幅で上面をカバーする水平部122を含み、水平部122は巻線コイル110の幅方向の端部まで延長される形状を有する。これに対しては図8で詳細に説明した。第3実施例Vも第2実施例IVと同様に、巻線コイル110の外側面と金属板を向く面が開放される。
【0071】
図12の第1〜第3実施例III〜Vの加熱パターンを示した電力分布グラフである図13に示されたように、第1〜第3実施例III〜Vの全てにおいて、金属板のエッジ部に隣接した不十分な加熱区間が補償されていることが分かる。
【0072】
具体的には、第2実施例IVは、第1実施例IIIより改善された加熱パターンを示す。さらに、第3実施例Vは、第2実施例IVより改善された加熱パターンを示す。
【0073】
特に、第3実施例Vは不十分な加熱区間、即ち、正規化電力分布において1.0以下の部分がない上、エッジ部では過熱が発生しているため、加熱部100に続く圧延で過冷される部分、即ち、エッジ部を過熱させることが可能でありながら、不十分な加熱区間が無くなることができる。
【0074】
図14には、上記第3実施例Vと、図4のように上下一対の加熱コイルを二対に分けたU字型TFICの幅方向の加熱パターンを示す電力分布グラフが示されている。
【0075】
図14から、不十分な加熱区間を除去する技術として提案された図4の場合も幅方向の加熱パターンが波打つが、本発明の第3実施例Vは安定的な加熱パターンを有することが分かる。
【0076】
また、図4のように、二対のTFICを利用する誘導加熱システムは、2つの電源装置とマッチング構成(コンデンサー、トランスフォーマー等)が必要で、金属板の幅変化と蛇行によるコイルの位置制御が必須であるため、機具部が必ず必要であるが、本発明の実施例は、蛇行にも敏感ではない。これは、後述する図16図17を参照して後に詳細に説明する。
【0077】
また、図4では、加熱コイルの断面や形態がヘッド部10(図4参照)で変わるため、溶接によるコイル製作が避けられないが、溶接部での過熱による穿孔や、これに伴うコイル冷却水の漏れが発生する恐れがある。しかし、本発明では、巻線コイル110の断面が保持されるため、巻線コイル110の製作に有利であるという利点もある。
【0078】
一方、図15a及び図15bには、金属板Pの幅と本発明の磁気鉄心120、130の幅方向の長さとの関係による加熱パターンが示されている。図15aには、本発明の加熱部100の平面図が示されている。巻線コイル110は3回巻かれて、外側巻線部111、中央巻線部112、及び内側巻線部113を含み、上記巻線コイル110の内側面及び上面に位置するように前方磁気鉄心130と後方磁気鉄心120が配置されている。
【0079】
図15aの磁気鉄心120、130は、図8の磁気鉄心120、130と同様に、垂直部121と水平部122を含み、水平部122は延長部122a、122cを含んで構成される。磁気鉄心120、130の長さは水平部122と垂直部121の共通の長さ、即ち、磁気鉄心130の垂直部の長さLを意味し、巻線コイル110の内側巻線部113において短い長さを意味する。
【0080】
図15bには、図15aの垂直部の長さLの変化による加熱パターンが示されている。図15bに示されたように、金属板Pの幅が1000mmのとき、磁気鉄心130の長さLが金属板Pの80%である800mmの場合にエッジ部の過熱が発生しないという問題があった。また、金属板Pの幅が1000mmのとき、磁気鉄心130の長さLが金属板Pの120%である1200mmの場合に不十分な加熱区間が増大することが分かる。よって、磁気鉄心120、130の長さLは、金属板Pの幅に対して80%を超え120%以下であることが、金属板Pのエッジ部は過熱させながら、その他の部分では均一に加熱する加熱パターンを有することができる。
【0081】
一方、図16において、本発明の磁気遮蔽箱101と巻線コイル110との距離d2は、巻線コイル110と金属板Pとの距離d1より大きくなるように配置されることが好ましく、これは磁場遮蔽箱101の誘導電流損失を最小化するためである。
【0082】
また、磁場遮蔽箱101は、誘導電流による磁場遮蔽効果が期待できるように金属板で構成されることが好ましく、本実施例では、磁場遮蔽箱101に銅を使用したが、これに限定されない。
【0083】
また、巻線コイル110で発生して外部に漏れる磁場を70%以上減衰させるために、磁場遮蔽箱101の厚さは、周波数による材質の浸透深さを超えることが好ましい。例えば、1100Hzの運転周波数における銅の浸透深さは2mmであるため、磁場遮蔽箱101の厚さは2mmを超えるように構成されることが好ましい。
【0084】
図16は本発明の加熱装置で金属板Pの蛇行が発生する場合の様子を示した断面図であり、図17図16の蛇行距離による電力分布、即ち、加熱パターンを示したグラフである。
【0085】
図16には、本発明の加熱部100、200が金属板Pの上側及び下側に配置された状態で、巻線コイル110、210の間に金属板Pが通過する様子が示されている。金属板Pの中心は、巻線コイル110、210の中心と一致するように進行することが理想的であるが、実際には、蛇行(Off−Centering)が発生し、蛇行が発生したときに上述した加熱パターンが保持されない場合には、加熱装置が蛇行に対応するように機具装置を設置しなければならない。
【0086】
ここで、蛇行距離OCは、巻線コイル110、210の中心と金属板Pの中心の水平距離を意味する。
【0087】
図17の(a)及び(b)には、蛇行距離OCが30mm及び40mmのときの電力分布グラフが示されている。該グラフから、本発明による加熱部100、200は、蛇行が発生してもエッジ部では過熱が発生し、中央部では均一な加熱が可能であることが分かる。即ち、加熱パターンが略「U」字状であることが分かる。
【0088】
図18には、図6の実施例を実際に製作して設置した横方向フラックス誘導加熱器の性能評価グラフが示されている。この実施例では、磁気鉄心120、130の長さLは金属板Pの幅に対応する長さを適用しており、横方向フラックス誘導加熱器1の電力容量は100kWで、運転周波数は1100kHで、通過する金属板はステンレス鋼板(導電率:1.1×10S/m)であった。
【0089】
図18から分かるように、本発明による横方向フラックス誘導加熱器1の場合、上述した実施例の数値解析の結果と同様に、エッジ部では過熱が発生し、中央部では均一な加熱が可能であった。
【0090】
図19には、本発明の加熱装置が圧延ラインに配置された様子が示されている。図19に示されたように、本発明の加熱装置は、上部加熱部100と下部の加熱部200が金属板としてのストリップの上側及び下側で、通過するストリップを加熱し、このように加熱されたストリップは、圧延機7に入って粗圧延あるいは仕上げ圧延されることができる。
【0091】
以上では、本発明の具体的な実施例を中心に本発明について説明したが、本発明は、上述した実施例に限定されず、該発明が属する分野の通常の知識を有する者であれば、本発明の要旨を変更せずに、本発明を変更して使用できることは言うまでもない。
【0092】
本発明における横部及び縦部は、金属板の幅方向、進行方向に形成された巻線コイルを意味し、直線に限らず曲線に形成されてもよい。
【0093】
例えば、本発明の実施例では、磁気鉄心が2面以上をカバーする場合、片面をカバーする磁気鉄心が他面をカバーする磁気鉄心に連結されるように設定されるが、これに限定されず、別途の部品に製作されてもよい。
【0094】
本発明の加熱装置は、薄板の加熱装置に限定されず、巻線コイルの巻線数、巻線形状及び周波数を金属板の厚さに応じて変更することで、厚い金属板を加熱することも可能である。
図1
図2
図3b
図4b
図5b
図9
図11
図13
図14
図15b
図17
図18