特許第5909600号(P5909600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909600
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/00 20060101AFI20160412BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20160412BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20160412BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20160412BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160412BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20160412BHJP
【FI】
   C22C19/00 F
   H01M4/38 A
   !B22F1/00 R
   !B22F9/04 C
   !C22F1/00 621
   !C22F1/00 661C
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/10 A
   !C22F1/00 641A
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-538778(P2015-538778)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2015059100
(87)【国際公開番号】WO2015147044
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2014/082370
(32)【優先日】2014年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-64159(P2014-64159)
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宮之原 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】畑 祥巳
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−285406(JP,A)
【文献】 特開2008−166027(JP,A)
【文献】 特開2012−102343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00−19/05
C22F 1/00− 1/18
B22F 1/00− 1/02
B22F 9/00− 9/30
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaCu型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、一般式:MmNiMnAlCo(式中、Mmはミッシュメタル、式中aは3.8以上4.7以下、bは0.1以上0.6以下、cは0.1以上0.6以下、dは0.0より多く0.7以下)、又は、一般式:MmNiMnAlCo(式中、Mmはミッシュメタル、Mは、Fe、Cu、V、Zn及びZrのうちの1種又は2種以上、式中aは3.8以上4.7以下、bは0.1以上0.6以下、cは0.1以上0.6以下、dは0.0より多く0.7以下、eは0より多く0.20以下)で表すことができる水素吸蔵合金であって、
Aサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率(「ABx」と称する)が5.00<ABx≦5.40であり、且つ、Aサイトを構成する元素の合計モル数に対するCoのモル数の比率が0.0より多く0.7より少なく、且つ、残留磁化が0(emu/g)より大きく且つ0.020(emu/g)以下であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
請求項1に記載の水素吸蔵合金を含有する、ニッケル水素電池の負極活物質。
【請求項3】
請求項2記載の負極活物質を用いたニッケル水素電池。
【請求項4】
請求項2記載の負極活物質を用いた、電気自動車或いはハイブリッド自動車に搭載するニッケル水素電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CaCu型結晶構造を有するAB型水素吸蔵合金に関する。詳しくは、電気自動車及びハイブリッド自動車用途等に搭載するニッケル水素電池に用いる負極活物質として好適な水素吸蔵合金に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、水素と反応して金属水素化物となる合金であり、室温付近で多量の水素を可逆的に吸蔵・放出し得るため、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle;電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車)やデジタルスチルカメラに搭載されるニッケル水素電池(「Ni−MH電池」とも称する)や燃料電池等、様々な分野で電池材料として実用化が進められている。
【0003】
水素吸蔵合金としては、LaNiに代表されるAB型合金、ZrV0.4Ni1.5に代表されるAB型合金、そのほかAB型合金やAB型合金など様々な合金が知られている。その多くは、水素との親和性が高く水素吸蔵量を高める役割を果たす元素グループ(Ca、Mg、希土類元素、Ti、Zr、V、Nb、Pt、Pdなど)と、水素との親和性が比較的低く吸蔵量は少ないが、水素化反応が促進し反応温度を低くする役割を果たす元素グループ(Ni、Mn、Cr、Feなど)との組合せで構成される。
【0004】
これらの中で、CaCu型の結晶構造を有するAB型水素吸蔵合金、例えばAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Co等の元素を用いてなる合金(以下、この種の合金を「Mm−Ni−Mn−Al−Co合金」と称する)は、他の合金組成に比べて、比較的安価な材料で負極を構成でき、しかもサイクル寿命が長く、過充電時の発生ガスによる内圧上昇が少ない密閉型ニッケル水素電池を構成できるなどの特徴を備えている。
【0005】
この種のAB型水素吸蔵合金については、例えば特許文献1(WO2006/085542号公報)において、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、4.0≦a≦4.7、0.30≦b≦0.65、0.20≦c≦0.50、0<d≦0.35、5.2≦a+b+c+d≦5.5)で表すことができるCaCu型結晶構造を有する低Co水素吸蔵合金であって、当該CaCu型結晶構造の結晶格子のa軸長が499.0pm以上であり、かつc軸長が405.0pm以上であって、45℃における圧力−組成等温線図(PCT曲線)において、水素吸蔵量(H/M)0.5における平衡水素圧が0.06MPa以下であることを特徴とする低Co水素吸蔵合金が開示されている。
【0006】
特許文献2(WO2007/040277号公報)には、一般式MmNiaMnbAlcCodFee(式中、MmはLaを含むミッシュメタル、0.2≦d≦0.5、5.025≦a+b+c+d+e≦5.200)で表すことができるCaCu型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、Laの含有量が水素吸蔵合金中13〜27wt%であり、X線回折測定と共に格子定数の精密化を行って得られる、CaCu型結晶構造の格子体積が88.70×106(pm3)以下であって、且つ、(002)面の半値全幅が0.29(°)以下であることを特徴とする水素吸蔵合金が開示されている。
【0007】
特許文献3(WO2008/123616号公報)には、CaCu型結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[[(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)]×100(%)]が103(%)<Feピーク強度比<245(%)であることを特徴とする水素吸蔵合金が開示されている。
【0008】
また、特許文献4(特開2011−231362号公報)には、インターナショナルテーブル番号191(P6/mmm)の空間群を有するCaCu型結晶構造からなる、Alを含有する水素吸蔵合金であって、水素吸蔵合金の結晶構造解析において、3gサイトの熱振動パラメータBeq(3g)に対する2cサイトの熱振動パラメータBeq(2c)の比率としてのBeq比(2c/3g)が1.4〜10.0であることを特徴とする水素吸蔵合金が開示されている。
【0009】
電気自動車及びハイブリッド自動車用途等に搭載するNi−MH電池に水素吸蔵合金を使用することを考慮すると、当該電池の寿命特性及び出力特性をさらに向上させる必要がある。
特に水素吸蔵合金を負極活物質とするNi−MH電池は、強アルカリ性の電解液によって水素吸蔵合金の腐食が徐々に進行するため、電池の長寿命化を図る上で合金の耐食性を高める必要がある。すなわち、ニッケルに富む表面状態の水素吸蔵合金は、初期の活性度は高いが、正極から発生する酸素やアルカリ電解液によって、水素吸蔵合金中のマンガンやアルミニウムなどが酸化されて水酸化物になり、この水酸化物によって合金表面に導電性に劣る皮膜が生じて負極導電性が低下するなど、電解液によって水素吸蔵合金の腐食が進行するからである。
【0010】
そこで、水素吸蔵合金の耐食性を改善する方法として、例えば特許文献5(特開平9−63581号公報)には、水素吸蔵合金電極をアルカリ性水溶液と接触させて前記水素吸蔵合金粉末の比表面積を増大させ、ついで、フッ素イオンを含むpH3〜6の酸性水溶液と接触させて前記比表面積が増加した水素吸蔵合金粉末の表面にフッ化処理を施す方法が提案されている。
【0011】
他方、Ni−MH電池の出力特性は、主として水素吸蔵電極の放電特性に左右されるため、水素吸蔵電極の高率放電特性を向上させるために、水素吸蔵合金粉末を予め高温のアルカリ水溶液に浸漬することによって水素吸蔵合金粉末を活性化させる方法が提案されている。例えば、水素吸蔵合金粉末を、pH値が0.5〜5の弱酸性水溶液により表面処理を行う方法が開示されている(例えば特許文献6(特開平11−260361号公報参照))。
【0012】
また、水素吸蔵合金の初期活性を高めるため、アルカリ水溶液などで表面活性化処理を行うことにより、水素吸蔵合金の表面近傍に、水素の触媒層として働くNi凝集層を形成させ、水素吸蔵合金の水素吸蔵・放出をより一層容易にすることが行われている。例えば特許文献7(特開2002−256301号公報)には、水素吸蔵合金の表面近傍にNi凝集層を形成し、このNi凝集層の量的な定義としてNi磁化率が3〜9であることを特徴とする水素吸蔵合金が開示されている。
【0013】
以上のように、電池の寿命特性を高める目的並びに出力特性を高めるいずれの目的においても、水素吸蔵合金粉をアルカリ溶液中に浸漬してアルカリ処理することが行われてきた。水素吸蔵合金粉をアルカリ処理すると、合金成分の中でも特にMn、Al及びMm(La、Ce、Nd、Pr)が合金表面からアルカリ溶液中に溶出し、残りの合金成分であるNi、Co及びFeを主体とした成分は水素吸蔵合金表面層を形成するため、水素吸蔵合金表面に強磁性体であるNi、Co及びFeが存在することになり、残留磁化は高くなる傾向にある。すなわち、従来の水素吸蔵合金の研究開発においては、概ね水素吸蔵合金の残留磁化を高める方向で研究開発が為されてきた経緯がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2006/085542号公報
【特許文献2】WO2007/040277号公報
【特許文献3】WO2008/123616号公報
【特許文献4】特開2011−231362号公報
【特許文献5】特開平9−63581号公報
【特許文献6】特開平11−260361号公報
【特許文献7】特開2002−256301号公報
【特許文献8】特開2010−255104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、水素吸蔵合金粉末中に合金を構成しない不純物が含まれていると、水素吸蔵量が低下する可能性があるばかりか、たとえば通常の条件で充放電を繰り返すうちは問題なくても、過放電のような厳しい条件下で充放電を繰り返すうちに不純物が電解液(アルカリ性溶液)に溶出し、セパレータを貫通して短絡(電圧降下)を生じる可能性がある。
そこで例えば特許文献8(特開2010−255104号公報)などでは、水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯とし、これを冷却して得られた水素吸蔵合金インゴットを粉砕した後、最終的に、磁石を用いて水素吸蔵合金粉末から磁着物を排除する磁選処理を行うことにより、短絡の原因となる不純物を除去する方法が提案されている。
【0016】
しかしながら、このように磁石を用いて水素吸蔵合金粉末から磁着物を排除する磁選処理を行うと、短絡の原因となる不純物を除去することができる反面、合金自体も磁着して歩留まりが低下し、生産コストが高くなってしまうという課題を抱えていた。
【0017】
そこで本発明は、短絡の原因となる不純物が少なく、しかも、磁選処理しても歩留まりを良好に維持することができる、新たな水素吸蔵合金を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、CaCu型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Al、Mn、Coなどのいずれか或いはこれらの二種類以上の組合せが構成する水素吸蔵合金であって、且つ、Aサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率(「ABx」と称する)が5.00<ABx≦5.40であり、且つ、Aサイトを構成する元素の合計モル数に対するCoのモル数の比率が0.0より多く0.7より少なく、且つ、残留磁化が0(emu/g)より大きく且つ0.020(emu/g)以下であることを特徴とする水素吸蔵合金を提案する。
【発明の効果】
【0019】
本発明が提案する水素吸蔵合金は、所定の組成、すなわちABx及びCo含有量が所定の範囲である組成において、残留磁化を0(emu/g)より大きく且つ0.020(emu/g)以下の範囲に制御することにより、短絡の原因となる不純物量を少なくするために磁選処理しても、歩留まりを良好にすることができる。また、本発明が提案する水素吸蔵合金は、磁選処理しなくても、残留磁化を下げたことにより、微粉化残存率を高めることができる。すなわち、ニッケル水素電池の負極活物質として用いると寿命特性を良好とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態について詳細に述べる。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<本水素吸蔵合金>
本実施形態の水素吸蔵合金(以下「本水素吸蔵合金」という)は、インターナショナルテーブル番号191(P6/mmm)の空間群を有するCaCu型結晶構造、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金である。
【0022】
(組成)
本水素吸蔵合金は、ABx組成におけるAサイトにミッシュメタル(「Mm」と称する)を含有する一方、BサイトにNi、Al、Mn、Coなどのいずれか或いはこれらの二種類以上の組合せを含有する合金である。
例えば、一般式:MmNiMnAlCo(式中、Mmはミッシュメタル)、又は、一般式:MmNiMnAlCo(式中、Mmはミッシュメタル、Mは、Ni、Mn、Al及びCoを除く遷移金属のうちの1種又は2種以上)で表すことができるAB型水素吸蔵合金を挙げることができる。
【0023】
本水素吸蔵合金において、ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数(すなわち、上記式の「a+b+c+d」若しくは「a+b+c+d+e」)の比率(「ABx」と称する)は、特に限定するものではない。
例えば電気自動車(「EV」と称する)及びハイブリッド自動車(「HEV」と称する)に搭載するNi−MH電池の負極活物質に使用する観点からは、5.00<ABx≦5.40であるのが好ましい。ABxが5.00以上であれば、低温容量及び寿命特性(容量維持率)の低下を抑制することができる。よって、このような観点から、ABxは5.10以上であるのがより好ましく、5.20以上、特に5.30以上であるのがさらに好ましく、他方、残留磁化を低減する観点からABxが5.35以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
Coについては、コスト、寿命特性及び残留磁化低減の観点から、Aサイトを構成するMmの合計モル数に対するCoのモル数の比率、すなわち上記一般式におけるCoのモル比率(d)は0.0より多く0.7以下であるのが好ましい。中でも0.0より多く0.5以下、その中でも特に0.03より多いか或いは0.4以下、その中でも特に0.03より多いか或いは0.3以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
Mm、Ni、Mn、Al及びMの組成比率は、本発明の課題を解決する観点からは特に限定するものではない。但し、EV及びHEVに搭載するNi−MH電池の負極活物質に使用する観点からは、次のように考えることができる。
【0026】
Niについては、出力特性を維持しつつ、微粉化特性及び寿命特性を維持する観点から、Aサイトを構成するMmの合計モル数に対するNiのモル数の比率、すなわち上記一般式におけるNiのモル比率(a)は、3.8以上4.7以下であるのが好ましく、中でも4.0以上或いは4.6以下、その中でも4.1以上或いは4.5以下、その中でも特に4.15以上或いは4.4以下であるのがさらに好ましい。
【0027】
Mnについては、微粉化残存率を維持し易くする観点から、上記一般式におけるMnのモル比率(b)は、0.1以上0.6以下であるのが好ましく、中でも0.2以上或いは0.5以下、その中でも特に0.3以上或いは0.45以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
Alについては、プラトー圧力が必要以上に高くなって充放電のエネルギー効率を悪化させるのを抑えることでき、しかも水素吸蔵量が低下するのを抑えることもできる観点から、上記一般式におけるAlのモル比率(c)は、0.1以上0.6以下であるのが好ましく、中でも0.15以上或いは0.45以下、その中でも0.2以上或いは0.4以下、さらにその中でも0.25以上或いは0.35以下であるのがさらに好ましい。
【0029】
一般式:MmNiMnAlCo(式中、Mmはミッシュメタル)におけるM元素は、例えばNi、Mn、Al及びCoを除く遷移金属のうちの1種又は2種以上であればよい。例えばFe、Cu、V、Zn、Zrなどを挙げることができる。中でも寿命特性の観点から、Fe及びCuのうちの1種又は2種、その中でもFeを好ましく例示することができる。例えばFeを適当量添加することにより微粉化の抑制、すなわち寿命特性を高めることができる。但し、上記組成式におけるM元素は必須元素ではない。
上記一般式におけるM元素のモル比率(e)は、0≦e≦0.20であるのが好ましく、中でも0.10以下、その中でも0.05以下の範囲内で調整するのが好ましい。
【0030】
Mmは、少なくともLa及びCeを含む希土類系の混合物(ミッシュメタル)であればよい。通常のMmは、La及びCeのほかにPr、Nd、Sm等の希土類を含む。例えばCe(3wt%〜10wt%)、La(15wt%〜40wt%)、Pr、Ndを主要構成元素とする希土類混合物を挙げることができる。中でも、本水素吸蔵合金においては、Laの含有量が水素吸蔵合金中13wt%〜30wt%、特に18wt%〜28wt%、中でも20wt%〜27wt%で、Ceの含有量が水素吸蔵合金中3wt%〜10wt%、特に4wt%〜9wt%、中でも特に4.5wt%〜8.5wt%であるのが好ましい。
【0031】
なお、Ti,Mo,W,Si,Ca,Pb,Cd,Mgのいずれかの不純物を0.05質量%程度以下であれば含んでいてもよい。
【0032】
(残留磁化)
本水素吸蔵合金は、残留磁化が0(emu/g)より大きく且つ0.020(emu/g)以下であることが重要である。
残留磁化が0(emu/g)より大きく且つ0.020(emu/g)以下であれば、磁選処理を施しても歩留まりを高めることができる。また、磁選処理しない場合も、残留磁化を下げたことにより、微粉化残存率を高めることができる。
かかる観点から、本水素吸蔵合金の残留磁化は0(emu/g)より大きく、0.020(emu/g)以下であることが重要であり、中でも0.015(emu/g)以下或いは0.010(emu/g)以下であるのがさらに好ましい。
【0033】
本水素吸蔵合金の残留磁化を上記範囲に調整するには、熱処理条件を調整するのが好ましい。例えば、熱処理の温度制御に関し、所定の温度を維持する熱処理を行い、冷却後、さらに所定の温度を維持するように2度目の熱処理を行うのが好ましい。また、所定の温度(熱処理温度)を維持すると共に、当該中心温度から一旦温度を上げて、短時間のうちに中心温度まで再び戻し、次に当該中心温度から一旦温度を下げて、短時間のうちに中心温度まで再び戻す温度制御を所定の間隔をおいて行うパルス制御温度制御を行うのも好ましい。但し、このような方法に限定するものではない。
【0034】
<本水素吸蔵合金の製造方法>
本水素吸蔵合金は、例えば、所定の合金組成となるように各水素吸蔵合金原料を秤量及び混合し、例えば誘導加熱による高周波加熱溶解炉を用いて上記水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯となし、これを鋳型、例えば水冷型の鋳型に流し込んで、例えば1350〜1550℃の鋳湯温度で鋳造し、所定の熱処理を行い、その後、粉砕することにより得ることができる。
但し、本水素吸蔵合金の製造方法がこのような製法に限定されるものではない。
【0035】
熱処理する際の雰囲気は不活性ガス、例えばAr、N2などが好ましい。
熱処理する際の温度制御としては、900〜1100℃の温度(「熱処理温度」と称する)を1〜10時間維持する熱処理を行い、次いで、500℃まで降温速度10〜30℃/分で冷却後、100℃以下まで自然冷却し、その後、前記と同条件にて熱処理及び冷却を2回或いは3回以上行うのがより好ましい。
上記熱処理において、1回の熱処理時間は1時間以上10時間以下が好ましく、中でも2時間以上或いは8時間以下、さらに2時間以上或いは5時間以下であるのが好ましい。
【0036】
また、900〜1100℃の温度(「熱処理中心温度」と称する)まで昇温し、その熱処理中心温度から温度を上げた後、短時間のうちに前記熱処理中心温度まで再び戻し、次に、前記熱処理中心温度から温度を下げて、短時間のうちに熱処理中心温度まで再び戻すという温度制御を、必要に応じて所定の間隔をおいて、複数回行うパルス制御を行うようにしてもよい。
このようなパルス制御においては、熱処理中心温度から2℃〜10℃上下するように昇温及び降温するのが好ましく、中でも2℃〜8℃、その中でも2℃〜5℃上下するように昇温及び降温するのがさらに好ましい。
また、上記パルス制御において、昇降温速度は0.1〜1.0℃/分、中でも0.1〜0.8℃/分、その中でも0.2℃/分以上或いは0.5℃/分以下であるのが好ましい。
上記パルス制御での熱処理時間、すなわち合計熱処理時間は1時間〜10時間が好ましく、中でも2時間以上或いは8時間以下、その中でも2時間以上或いは5時間以下であるのが好ましい。
そしてこのようなパルス制御での熱処理後、500℃まで降温速度10〜30℃/分で冷却後、100℃以下まで自然冷却するのが好ましい。
【0037】
得られた水素吸蔵合金インゴットの粉砕は、例えば500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粉砕するのが好ましい。但し、粗砕の程度は、必要に応じて1000μmの篩目を通過する粒子サイズ(−1000μm)までの粉砕であっても、また、850μmの篩目を通過する粒子サイズ(−850μm)までの粉砕であってもよい。
なお、この段階で細かく粉砕し過ぎると磁選効率が低下するため、ある程度微粉化してもよいが、150μmオーバーの粗粉が50質量%以上含まれるように粗砕するのが好ましい。
【0038】
水素吸蔵合金インゴットの粗砕は、粉体と接触する粉砕部分、すなわち粉砕手段が鉄或いは鉄合金からなる解砕装置乃至粉砕装置を用いて行うことができる。このような解砕装置乃至粉砕装置としては、例えばロールクラッシャー、ダブルロールクラッシャー、ジョークラッシャーなどを挙げることができる。
鉄或いは鉄合金を含有する粉砕手段を備えた装置で粗砕すれば、当該鉄或いは鉄合金が粗砕された中に混入することになるが、次の磁選工程において少なくとも短絡に影響する磁着物を除去することができるから、このような粉砕装置で粗砕することができる。但し、ここでの意味は、鉄或いは鉄合金を含有する粉砕手段を備えた装置で粗砕するのが好ましいという意味ではなく、本発明の効果をより享受できるという意味である。
水素吸蔵合金インゴットの粗砕は、乾式で行うものであっても、湿式で行うものであってもよい。
【0039】
<本水素吸蔵合金の利用>
本水素吸蔵合金(インゴット及び粉末を含む)は、必要に応じて磁選処理を行った後、電池の負極材料として利用することができる。すなわち、本水素吸蔵合金に多くの不純物が含まれていると、水素吸蔵量が低下する可能性があるばかりか、過放電のような厳しい条件下で充放電を繰り返すうちに不純物が電解液(アルカリ性溶液)に溶出し、セパレータを貫通して短絡(電圧降下)を生じる可能性があるため、必要に応じて、次のような磁選処理を行うことにより、短絡の原因となる不純物を除去するのが好ましい。磁選処理しても歩留まりを良好に維持することができる点は、本水素吸蔵合金の特徴の一つである。
但し、本水素吸蔵合金は、磁選処理を行わないで、電池の負極材料として利用することも可能である。この際、磁選処理しなくても、残留磁化が低いために、微粉化残存率を良好に高めることができる点は本水素吸蔵合金の特徴の一つである。
【0040】
本水素吸蔵合金(インゴット及び粉末を含む)を電池の負極材料として利用する場合、上述のように必要に応じて磁選処理を行った後、例えば公知の方法により、電池用負極を調製することができる。すなわち、公知の方法により結着剤、導電助剤などを混合、成形することにより水素吸蔵合金負極を構成することができる。
【0041】
(磁選処理)
磁選処理は、粉砕直後は応力があって磁石に磁着物が付着し易くて好ましくないため、粗砕後20秒以上、より好ましくは30秒以上、中でも好ましくは40秒以上の時間を置いて磁選装置に投入するのが好ましい。
但し、粗砕後あまりに長時間置くと、変質する可能性があるため、48時間以内、中でも24時間以内、その中でも特に12時間以内とするのが好ましい。
【0042】
磁選処理では、磁石を用いて磁着物を磁石に付着させ、付着した磁着物を除去し、すなわち非磁着物を回収して水素吸蔵合金粉末を得るようにする。
なお、磁選は、乾式でも、湿式でも行うことができる。
【0043】
磁選処理に用いる磁石は、磁力が100mT±10%〜700mT±10%であるのが好ましく、中でも150mT±10%以上或いは650mT±10%以下であるのがより好ましく、特に200mT±10%以上或いは600mT±10%以下であるのがさらに好ましく、その中でも特に250mT±10%以上或いは600mT±10%以下であるのがさらに好ましい。
なお、同じ磁力100mTの磁石であっても、その磁力は環境によって20%程度は変化するため、「±10%」と表記している。
【0044】
用いる磁石は、永久磁石でも電磁石でも構わない。また、磁石の形状、大きさ、表面積、磁石間距離などは適宜選択が可能であり、最適なもの選択すればよい。
目安としては、磁石の表面積(複数個の場合はその合計表面積)は50cm2〜3000cm2が好ましく、特に50cm2〜2000cm2が好ましい。
また、磁石の大きさは、磁選する粉体の粘性等により決定するのが好ましいが、目安としてはφ1mm〜100mmの径を有するものが好ましく、特にφ10mm〜80mmの径、その中でも特にさらにφ20mm〜50mmを有するものが好ましい。
【0045】
水素吸蔵合金を磁選装置に投入する速度は、150g/分〜15000g/分が好ましく、特に200g/分〜10000g/分、さらに200g/分〜8500g/分が好ましい。
また、磁石の表面積(複数個の場合はその合計表面積)に対する投入速度が、300((g/分)/cm2)以下となるように、その中でも150((g/分)/cm2)以下、特に75((g/分)/cm2)以下となるように調整するのが好ましい。
また、棒状の磁石において、長さ方向位置によって磁力と向き(N・S)が変化する場合、磁力の最大絶対値を示すことが通常である。
【0046】
好ましい磁力選別機の一例として、所定の磁力を有する棒状の磁石を間隔を置いて並設し、且つそれを上下に複数段重ねた構成を備えた磁力選別機を挙げることができる。このような装置において、上下に磁石を複数段重ねる場合、磁石の方向を上下で互い違いとなるように配置することもできる。
また、好ましい磁力選別機の他例として、所定の磁力を有する棒状の磁石、特に丸棒状の磁石を円周上に間隔を置いて配置して円筒状を構成し、当該円筒が水平軸を中心に回転し、かつ円筒の上から水素吸蔵合金を落下させる構成の磁力選別機を挙げることができる。この場合の磁石(円筒体)の回転数は、回転を速めると、磁着した磁着物が遠心力により剥がれてしまうため、100回転/分以下、特に60回転/分以下、中でも40回転/分以下に調整するのが好ましい。
【0047】
磁選装置に関しては、投入速度に対する磁選槽体積(:水素吸蔵合金を投入して磁選を行う空間の体積)の比率が、0.5〜100(cm3/(g/分))であるのが好ましい。この範囲に規定される磁選装置であれば、有効に磁着物を除去できるからである。
かかる観点から、投入速度に対する磁選槽体積の比率は0.5〜90(cm3/(g/分))であるのが特に好ましく、中でも0.5〜80(cm3/(g/分))であるのがさらに好ましい。
【0048】
磁選して得られた水素吸蔵合金粉末は、用途に応じて、さらに微粉砕するのが好ましい。
微粉砕は、粉体と接触する粉砕部分、すなわち粉砕手段が鉄或いは鉄合金からなる解砕装置乃至粉砕装置を用いて行うことができる。このような解砕装置乃至粉砕装置としては、例えばピンミルやハンマーミルなどを挙げることができる。
なお、鉄或いは鉄合金を含有する粉砕手段を備えた装置で微粉砕すれば、当該鉄或いは鉄合金が粗砕された中に混入することになるが、微粉砕では、短絡の原因となる磁着物量がほとんど増えないことを本発明者は確認している。
必要に応じて、金属材料や高分子樹脂等により、水素吸蔵合金の表面を被覆したり、酸やアルカリで表面を処理したりするなど適宜表面処理を施し、各種の電池の負極活物質として用いることができる。
【0049】
(電池)
このようにして得られる水素吸蔵合金負極、すなわち、公知の方法により、本水素吸蔵合金に結着剤、導電助剤などを混合、成形することにより得られる水素吸蔵合金負極は、二次電池のほか一次電池(燃料電池含む)にも利用することができる。例えば、水酸化ニッケルを活物質とする正極と、アルカリ水溶液よりなる電解液と、セパレータとから、Ni−MH電池を構成することができる。
特に本水素吸蔵合金は、耐食性に優れており、出力を低下させずに寿命特性を高めることができるため、これらの特性が求められるEVやHEVなどに搭載するNi−MH電池として特に好適に用いることができる。
【0050】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」或いは「X≦」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」或いは「≦Y」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であるのが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0051】
次に、実施例に基づいて、本発明についてさらに説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
各元素の質量比率で、Mm:32.03%、Ni:59.30%、Mn:5.67%、Al:2.29%、Co:0.68%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。
なお、Mmは、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全質量に対してLa:62.4%、Ce:26.8%、Nd:8.2%、Pr:2.6%となるよう調整したものを原料として用いた。
【0053】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、水素吸蔵合金(インゴット)を得た。
【0054】
この際、熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で980℃まで昇温し、980℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で980℃まで昇温し、980℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
【0055】
次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
【0056】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.41Al0.37Mn0.45Co0.05(ABx=5.28)であることが確認された。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、実施例1で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも950℃とした。これ以外は、実施例1と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0058】
(実施例3)
実施例1において、実施例1で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも920℃とした。これ以外は実施例1と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0059】
(実施例4)
実施例1において、実施例1で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1020℃とした。これ以外は実施例1と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0060】
(実施例5)
実施例1において、実施例1で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1040℃とした。これ以外は実施例1と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0061】
(実施例6)
各元素の質量比率で、Mm:31.93%、Ni:58.49%、Mn:4.41%、Al:2.47%、Co:2.70%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。
なお、Mmは、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全質量に対してLa:78.3%、Ce:15.5%、Nd:4.7%、Pr:1.5%となるよう調整したものを原料として用いた。
【0062】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、水素吸蔵合金(インゴット)を得た。
【0063】
この際、熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1030℃まで昇温し、1030℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1030℃まで昇温し、1030℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
【0064】
次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
【0065】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.35Al0.40Mn0.35Co0.20(ABx=5.30)であることが確認された。
【0066】
(実施例7)
実施例6において、実施例6で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1045℃とした。これ以外は実施例6と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0067】
(実施例8)
実施例6において、実施例6で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1050℃とした。これ以外は実施例6と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0068】
(実施例9)
実施例6において、実施例6で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1055℃とした。これ以外は実施例6と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0069】
(実施例10)
各元素の質量比率で、Mm:31.71%、Ni:55.43%、Mn:5.00%、Al:1.96%、Co:5.90%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。
なお、Mmは、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全質量に対してLa:78.8%、Ce:15.1%、Nd:4.6%、Pr:1.5%となるよう調整したものを原料として用いた。
【0070】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、水素吸蔵合金(インゴット)を得た。
【0071】
この際、熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1035℃まで昇温し、1035℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1035℃まで昇温し、1035℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
【0072】
次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
【0073】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.15Al0.32Mn0.40Co0.44(ABx=5.31)であることが確認された。
【0074】
(実施例11)
実施例10において、実施例10で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1040℃とした。これ以外は実施例10と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0075】
(実施例12)
実施例10において、実施例10で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1055℃とした。これ以外は実施例10と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0076】
(実施例13)
実施例10において、実施例10で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1020℃とした。これ以外は実施例10と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0077】
(実施例14)
実施例10において、実施例10で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1030℃とした。これ以外は実施例10と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0078】
(実施例15)
実施例10において、実施例10で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1090℃とした。これ以外は実施例10と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0079】
(実施例16)
各元素の質量比率で、Mm:32.40%、Ni:55.93%、Mn:3.95%、Al:2.25%、Co:5.47%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。
なお、Mmは、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全質量に対してLa:61.7%、Ce:27.3%、Nd:8.4%、Pr:2.6%となるよう調整したものを原料として用いた。
【0080】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、水素吸蔵合金(インゴット)を得た。
【0081】
この際、熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1080℃まで昇温し、1080℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1080℃まで昇温し、1080℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
【0082】
次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
【0083】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.11Al0.36Mn0.31Co0.40(ABx=5.18)であることが確認された。
【0084】
(実施例17)
実施例16において、実施例16で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用した。熱処理は、昇温速度10℃/分で1080℃まで昇温し、1080℃を中心温度として、中心温度+3℃の1083℃まで昇温速度0.3℃/分で昇温した後、その直後に、中心温度−3℃の1077℃まで降温速度0.3℃/分で降温し、さらにその直後に、再び1083℃まで昇温速度0.3℃/分で昇温するというように、1080℃を中心温度として±3℃の昇温及び降温を昇降温速度0.3℃/分で繰り返すパルス熱処理を合計3時間行った。このようにパルス熱処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。このパルス熱処理及び冷却を1回行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0085】
(実施例18)
各元素の質量比率で、Mm:31.89%、Ni:58.53%、Mn:4.41%、Al:2.47%、Co:2.70%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。
なお、Mmは、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全質量に対してLa:81.6%、Ce:18.4%となるよう調整したものを原料として用いた。
【0086】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、水素吸蔵合金(インゴット)を得た。
【0087】
この際、熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1060℃まで昇温し、1060℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1060℃まで昇温し、1060℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
【0088】
次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
【0089】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.35Al0.40Mn0.35Co0.20(ABx=5.30)であることが確認された。
【0090】
(実施例19)
実施例18において、水素吸蔵合金(インゴット)を得るための熱処理を次にように行った以外、実施例18と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
すなわち、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1070℃まで昇温し、1070℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1070℃まで昇温し、1070℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
実施例19で得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.35Al0.40Mn0.35Co0.20(ABx=5.30)であることが確認された。
【0091】
(実施例20)
実施例18において、水素吸蔵合金(インゴット)を得るための熱処理を次にように行った以外、実施例18と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
すなわち、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1080℃まで昇温し、1080℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1080℃まで昇温し、1080℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
実施例20で得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.35Al0.40Mn0.35Co0.20(ABx=5.30)であることが確認された。
【0092】
(比較例1)
実施例16において、実施例16で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理及びその後の冷却を1回のみ行った以外は、実施例16と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0093】
(比較例2)
各元素の質量比率で、Mm:33.18%、Ni:49.26%、Mn:5.20%、Al:1.91%、Co:10.45%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。
なお、Mmは、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全質量に対してLa:33.1%、Ce:47.7%、Nd:14.6%、Pr:4.6%となるよう調整したものを原料として用いた。
【0094】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、水素吸蔵合金(インゴット)を得た。
【0095】
この際、熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1045℃まで昇温し、1045℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却し、続いて、再度、アルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/分で1045℃まで昇温し、1045℃を3時間温度維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
【0096】
次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
【0097】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi3.55Al0.30Mn0.40Co0.75(ABx=5.00)であることが確認された。
【0098】
(比較例3)
比較例2において、比較例2で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1055℃とした。これ以外は比較例2と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0099】
(比較例4)
比較例2において、比較例2で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1065℃とした。これ以外は比較例2と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0100】
(比較例5)
比較例2において、比較例2で作製の水素吸蔵合金のインゴットを使用し、高温保持処理における保持温度を2回とも1085℃とした。これ以外は比較例2と同様に熱処理を行って水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0101】
(比較例6)
各元素の質量比率で、Mm:31.80%、Ni:55.35%、Mn:5.10%、Al:2.15%、Co:4.03%、Fe:1.57%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。
なお、Mmは、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全質量に対してLa:62.9%、Ce:26.1%、Nd:8.3%、Pr:2.7%となるよう調整したものを原料として用いた。
【0102】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10−4〜10−5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総質量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中でオーバーシュート後に高温保持処理を行い、水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0103】
この際、オーバーシュート及び高温保持処理は、昇温速度10℃/分で1070℃まで昇温させた後、1070℃から1080℃まで20分で昇温させ、1080℃に到達した直後から降温を開始し、1080℃から1070℃まで20分で降温させるようにしてオーバーシュートを行った後、1070℃を4時間5分温度維持するように行った。その後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで室温まで自然冷却した。
【0104】
次に、Fuji Paudl社製ジョークラッシャー(型式1021−B)と吉田製作所製ブラウンミル(型式1025−HBG)とを用いて、上記の水素吸蔵合金(インゴット)を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粗砕した。
【0105】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.15Al0.35Mn0.41Co0.30Fe0.12(ABx=5.33)であることが確認された。
【0106】
<評価方法>
実施例・比較例で得た水素吸蔵合金粉末(サンプル)について、次のようにして各種評価を行った。
【0107】
<残留磁化の測定>
(試料の調製)
実施例・比較例で得られた水素吸蔵合金粉末(-500μm篩下)を20gをサイクロミル((型式1033−200)吉田製作所製)で1分間粉砕し、目開き20μmの篩で分級して―20μm(20μmの篩目を通過する粒子)の水素吸蔵合金粉末(サンプル)を得た。
【0108】
得られたサンプルを、VSM(Vibration Sample Magnetometer:試料振動式磁束計、株式会社玉川製作所製「TM−VSM1014−MRO−M型」,電磁石:TM−WTF51.406−101.5FA型、サンプルホルダー:TM-VSMSH-21−3型、サンプル容器:TM-VSMPCA-C型)にて、ヒステリシスループの測定を行った。
【0109】
(振動試料型磁力計の測定条件)
・max magnetic field・・・10(kOe)
・time constant lock−in amp・・・100(msec)
・measuring method・・・sweep{speed1:5sec/1kOe speed2:10sec/1kOe(1〜−1[kOe])}
・angle・・・fix 0[°]
・gap of pole chips・・・14mm
・measuring loop・・・half
【0110】
残留磁化は、+10(kOe)印加後、上記の測定条件でスイープ、−10(kOe)まで印加した際の0(kOe)時の磁化の値であり、得られたヒステリシスループからVSM測定プログラムにあるAnalysis(測定結果)の表示画面内のMr値(emu)を測定サンプル重量(g)で割って、残留磁化(emu/g)とした。
その際の基本解析条件は、以下の通り。
・Ms or Mmax・・・Mmax
・Y軸の単位・・・磁束密度
【0111】
<磁選歩留りの測定>
得られた水素吸蔵合金粉末(サンプル)を、磁石の合計表面積に対するサンプルの投入速度が0.25((g/分)/cm2)となるように、実施例・比較例で得られた水素吸蔵合金粉末(サンプル)を磁力選別機へ投入し、磁石に残った磁着物を回収して、その重量を計測して磁着物量を得た。
なお、磁力選別機には、300mT(±30mT)の磁力を有する断面丸型棒状の磁石を並設し、且つそれを上下に4段重ねた構成(磁石の合計表面積400cm2)の磁力選別機を使用した。
【0112】
計測した磁着物量と投入量から、下記式を用い、磁選歩留りを算出した。
磁選歩留り(%)=(投入量−磁着物量)/投入量×100
【0113】
<微粉化残存率の測定>
上記実施例及び比較例で得られた水素吸蔵合金粉末を、篩い分けして粒度20μm〜53μmの範囲に調整し、測定サンプルを得た。得られた測定サンプル2gをPCTホルダーに投入し、PCT特性測定装置((株)鈴木商館)に接続した。また、残りのサンプルを20サイクル前のサンプルとした。
【0114】
サイクルを回す前に次のような操作を実施した。
(1)合金表面洗浄処理:マントルヒーター(250℃)中、PCTホルダーを加熱した状態で1.75MPaの水素を導入し、10分間放置後、真空引きを行う一連の操作を2回実施した。
(2)合金活性化処理:マントルヒーターからPCTホルダーを取り出し、3MPaの水素を導入し、10分間保持をした。その後、マントルヒーター(250℃)中でPCTホルダーを加熱した状態で10分間真空引きを行った。この一連の操作を2回実施した。
【0115】
マントルヒーターからPCTホルダーを取り出し、45℃の恒温槽にホルダーを移動させた後、真空引きを30分行い、その後、水素吸蔵・放出サイクルを下記条件設定の下で行った。
(導入圧力)2.9MPa
(吸蔵時間)300sec
(放出時間)420sec
(サイクル数)20サイクル
【0116】
20サイクル終了後、30分の真空引きを行った後、PCTホルダーからサンプルを取り出し、20サイクル後のサンプルを得た。
【0117】
20サイクル前後の粉の平均粒径(D50)をマイクロトラック(日機装(株)、HRA9320−X100)を使用して下記条件設定の下で測定し、次式により微粉化残存率(%)を求めた。
(式)・・微粉化残存率(%)=(サイクル後D50/サイクル前D50)×100
(Transp):Reflec
(Sphere):No
(Ref Inx):1.51
(Flow):60ml/sec
(Power):25watts
(Time):10sec
【0118】
【表1】
【0119】
(考察)
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果などから、ABx及びCo含有量が所定の範囲である組成において、残留磁化を0(emu/g)より大きく且つ0.020(emu/g)以下の値に制御することにより、磁選処理した際の歩留まりを良好にすることができることが分かった。また、磁選処理しなくても、残留磁化が低いために、微粉化残存率を良好に高めることができることも分かった。
【0120】
なお、実施例での粗砕によって、粉砕機から鉄或いは鉄合金が不純物として混入することになるが、磁選を行って得られた磁着物を調べてみたところ、磁着物中の当該不純物量は0.1%未満であり、残りは水素吸蔵合金であった。磁選処理した際の歩留まりが悪くなると、磁着物として分離される水素吸蔵合金が多くなるから、磁選器内で目詰まりを起こすようになり、磁選処理そのものが出来なくなってしまうと考えられる。