特許第5909609号(P5909609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アストリウム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧 ▶ エアバス ディフェンス アンド スペース リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許5909609-衛星通信システム及びデータ伝送方法 図000002
  • 特許5909609-衛星通信システム及びデータ伝送方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909609
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】衛星通信システム及びデータ伝送方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/185 20060101AFI20160414BHJP
   H04H 20/74 20080101ALI20160414BHJP
   H04L 13/08 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   H04B7/185
   H04H20/74
   H04L13/08
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-501669(P2013-501669)
(86)(22)【出願日】2011年3月24日
(65)【公表番号】特表2013-527650(P2013-527650A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】EP2011001460
(87)【国際公開番号】WO2011120654
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2012年11月27日
【審判番号】不服2014-16035(P2014-16035/J1)
【審判請求日】2014年8月12日
(31)【優先権主張番号】10003401.6
(32)【優先日】2010年3月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500466717
【氏名又は名称】エアバス デーエス ゲーエムベーハー
(73)【特許権者】
【識別番号】316004516
【氏名又は名称】エアバス ディフェンス アンド スペース リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ヘルフェルズ,ティム
(72)【発明者】
【氏名】レオン,チオク
(72)【発明者】
【氏名】ロブソン,ディビッド
【合議体】
【審判長】 水野 恵雄
【審判官】 近藤 聡
【審判官】 梅本 章子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−217762(JP,A)
【文献】 特開2001−53691(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0033355(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B
H04H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星通信システムにおいて、
‐少なくとも1つの基地局(1)と、
‐前記基地局(1)との間でデータ伝送のための通信接続を確立することのできる少なくとも1つの衛星(2)と、
‐前記衛星(2)から送信された信号を受信することのできる複数の受信装置(32)とを備え、
‐該衛星通信システムは、前記基地局(1)から前記衛星(2)へのデータ伝送を少なくとも1つのアップリンク・データストリーム(U)により第1のデータ伝送速度で行い、前記衛星(2)から前記受信装置(32)へのデータ伝送を少なくとも1つのダウンリンク・データストリーム(D)により第2のデータ伝送速度で行うように構成されており、
‐前記第1のデータ伝送速度は前記第2のデータ伝送速度より低速であり、
‐前記衛星(2)はデータ・ストレージ手段(22)を備えており、該データ・ストレージ手段(22)は、前記基地局(1)から前記衛星(2)へ伝送されたデータを格納でき、且つ、前記受信装置(32)へ伝送するためのデータを供給できるように構成され、
前記アップリンク・データストリーム(U)の帯域幅は前記ダウンリンク・データストリーム(D)の帯域幅より狭く、
前記ダウンリンク・データストリーム(D)はオン・デマンド方式で配信を行うためのデータストリームである
ことを特徴とする衛星通信システム。
【請求項2】
複数の受信装置(32)群の各群が個別のダウンリンク・データストリーム(D)の放射ビームの照射領域内に包含されるようにして、前記衛星(2)から複数の受信装置(32)群へ、複数本のダウンリンク・データストリーム(D)の放射ビームが放射されるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の衛星通信システム。
【請求項3】
前記アップリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルは前記ダウンリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルと異なることを特徴とする請求項1または2記載の衛星通信システム。
【請求項4】
前記データ・ストレージ手段(22)はフラッシュ・メモリ・チップで構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の衛星通信システム。
【請求項5】
前記衛星(2)は、前記基地局(1)から受信したアップリンクデータに復調処理を施すための少なくとも1つの復調器(21)と、前記複数の受信装置(32)へ伝送するデータに変調処理を施すための少なくとも1つの変調器(23)とを備えており、前記データ・ストレージ手段は前記復調器と前記変調器との間に配設されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の衛星通信システム。
【請求項6】
前記復調器及び/または前記変調器はプログラムの書き換えが可能なプロセッサを備えていることを特徴とする請求項5記載の衛星通信システム。
【請求項7】
前記衛星(2)は、オン・デマンド方式で配信するコンテンツの代金支払を促進するために該衛星(2)上において前記データ・ストレージ手段(22)の格納データに暗号化を施すための暗号化手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の衛星通信システム。
【請求項8】
少なくとも1つの基地局(1)から少なくとも1つの衛星(2)を介して複数の受信装置(32)へデータを伝送するためのデータ伝送方法において、
a)前記基地局(1)から前記衛星(2)へのデータ伝送を少なくとも1つのアップリンク・データストリーム(U)により第1のデータ伝送速度で行うステップと、
b)前記基地局(1)から前記衛星へ伝送されたデータを前記衛星(2)に搭載されたデータ・ストレージ手段(22)に格納するステップと、
c)前記衛星(2)から1つまたは複数の受信装置(32)へのデータ伝送を少なくとも1つのダウンリンク・データストリーム(D)により第2のデータ伝送速度で行うステップとを含み、
前記第1のデータ伝送速度は前記第2のデータ伝送速度より低速であり、
前記アップリンク・データストリーム(U)の帯域幅は前記ダウンリンク・データストリーム(D)の帯域幅より狭く、
前記ダウンリンク・データストリーム(D)はオン・デマンド方式で配信を行うためのデータストリームである
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記アップリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルは前記ダウンリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルと異なることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記衛星(2)で受信したデータを少なくとも1つのフラッシュ・メモリ・チップに格納することを特徴とする請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
前記基地局(1)から前記衛星が受信した前記アップリンク・データストリーム(U)のデータを、前記データ・ストレージ手段(22)に格納する前に、前記衛星(2)に搭載した復調器(21)において当該データに復調処理を施し、且つ、前記ダウンリンク・データストリーム(D)のデータとするために前記データ・ストレージ手段(22)から供給されるデータを、1つまたは複数の前記受信装置(32)へ送信する前に、前記衛星(2)に搭載した変調器(23)において当該データに変調処理を施すことを特徴とする請求項8乃至10の何れか1項記載の方法。
【請求項12】
動画コンテンツなどの連続鑑賞されるコンテンツのデータを効率的に分割することにより、前記アップリンク・データストリーム及び/または前記ダウンリンク・データストリームのデータを圧縮して当該データストリームの使用帯域幅を最小にすると共に、新たに当該コンテンツの鑑賞を開始しようとするユーザが僅かな待ち時間の後に鑑賞を開始できるようにするための少なくとも1つのアルゴリズムを採用しており、前記少なくとも1つのアルゴリズムは、ハーモニック・ブロードキャスティング、アメンデッド・ハーモニック・ブロードキャスティング、または、ファジー・ブロードキャスティングを実行するアルゴリズムであることを特徴とする請求項8乃至11の何れか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星通信システムと、少なくとも1つの基地局から少なくとも1つの衛星を介して複数の受信装置へデータを伝送するためのデータ伝送方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
最近のエンターテイメント・コンテンツの配信技術によれば、ユーザがオン・デマンド方式で、例えば動画、コンピュータ・ゲーム、音楽、それに電子ブックなどのエンターテイメント・コンテンツのデータにアクセスする際に、地上通信システムを介してアクセスするのみならず、衛星通信システムを介してアクセスすることも可能となっている。
【0003】
図2に、従来の衛星通信システムの一例を示した。この従来の衛星通信システムでは、基地局、即ち地上局101に、データ・ストレージ手段110が装備されており、このデータ・ストレージ手段110から衛星通信接続を介して末端ユーザ端末群103へデータ配信が行われる。地上局101に装備されたデータ・ストレージ手段110は、例えば音楽データ用カルーセルや動画データ用カルーセルなどの、データメモリを有している。データ・マネージャ112が、多数の末端ユーザ端末130から発せられるリクエストを処理して、夫々の末端ユーザ端末130へ所要のデータを送信するようにしている。地上局101には更に、変調器114が装備されている。変調器114は、データ・ストレージ手段110からデータを受取り、そのデータに変調処理を施すことによって、通常は暗号化した、適切なデータ伝送用フォーマットを有するデータに変換する。こうして変調処理が施されたデータは、地上に設置されている衛星通信用アンテナ116を介して、アップリンク・データストリームU’として衛星102へ送信される。
【0004】
送信されたアップリンク・データストリームU’は、衛星102の第1のアンテナ120を介して、衛星102に搭載されている受信装置121により受信され、そして、衛星102に搭載されている中継手段122に供給される。中継手段122は、通常はその受信信号を増幅した上で、それを送信装置123に供給する。送信装置123は衛星102の第2のアンテナ124に接続されている。増幅されたデータ信号はこの第2のアンテナ124からダウンリンク・データストリームD’として多数の末端ユーザ端末130へ送信される。送信先の末端ユーザ端末130では、通常は受信したデータストリームに復号化処理を施してそれをデータ信号に変換する。そして、このデータ信号に更なる信号処理が施されることによって、ユーザが要求したエンターテイメント・コンテンツが当該ユーザに提供され、より具体的には、例えばディスプレイ画面上に動画コンテンツが再生される。
【0005】
この公知の衛星通信システムでは、アップリンク・データストリームU’のデータ伝送速度が、ダウンリンク・データストリームD’のデータ伝送速度と同じだけの速度でなければならない。ひいては、アップリンク・データストリームU’の帯域幅が、ダウンリンク・データストリームD’の帯域幅と同じだけの幅を有していなければならない。
【0006】
この公知の衛星通信システムの方式では、アップリンク・データストリームの通信帯域幅が無駄に消費されており、またそれに加えて、アクセス・タイムが少なくともアップリンク・データストリームの信号伝搬時間の分だけ余計に延びている。例えば、HDTV画質の動画コンテンツをオン・デマンド方式で200本のチャネルで配信する場合には、アップリンクとダウンリンクのデータストリームのそれぞれに約580Mbpsのデータ伝送速度が必要とされている。
【0007】
米国特許US6697850B1号公報に開示されている衛星通信システムは、衛星にインターネット・ウェブ・プロキシ・キャッシュが搭載されている。また、末端ユーザ端末が、通常ユーザ端末と拡張ユーザ端末との2種類に分けられており、それら2種類の末端ユーザ端末はいずれも、ウェブ・ページを指定したリクエストを衛星へ送出する。衛星の側では、リクエストを受信したならば先ず、そのリクエストを送出した末端ユーザ端末が、標準ユーザ端末と拡張ユーザ端末とのいずれであるかを判定する。リクエストの送出元が標準ユーザ端末であった場合には、衛星の側では、ウェブ・ページを指定しているそのリクエストをそのまま地上局へ転送する。地上局の側では、そのリクエストが指定しているウェブ・ページをローカル・キャッシュまたはインターネットから取得して衛星へ送信し、そして衛星は、受信したそのウェブ・ページをリクエストの送出元である通常ユーザ端末へ送信する。一方、リクエストの送出元が拡張ユーザ端末であった場合には、衛星の側では続いて、そのリクエストが指定しているウェブ・ページのコピーが衛星搭載のメモリ・キャッシュに既に格納されているか否かを判定する。そのリクエストが指定しているウェブ・ページのコピーが衛星搭載のメモリ・キャッシュに格納されていた場合には、当該ウェブ・ページをメモリ・キャッシュから読出してリクエストの送出元である拡張ユーザ端末へ送信する。一方、そのリクエストが指定しているウェブ・ページのコピーが衛星搭載のメモリ・キャッシュに格納されていなかった場合には、衛星の側から地上局へ、当該ウェブ・ページを衛星へ送信するように要求する。この公知のシステムは、インターネットに適用されるものであり、衛星にキャッシュ・メモリを装備して、衛星から送信したウェブ・ページがそこにキャッシュされるようにしたものである。ただし、末端ユーザ端末からリクエストされる可能性のある全てのウェブ・ページがキャッシュされている訳ではないため、キャッシュされていないウェブ・ページでも迅速に末端ユーザ端末へ送信されるようにするには、アップリンク・データストリームの通信接続のデータ伝送速度をダウンリンク・データストリームの通信接続のデータ伝送速度と同じ速度にしておかねばならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許US6697850B1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、衛星通信システムを提供すること、及び、少なくとも1つの基地局から少なくとも1つの衛星を介して複数の受信装置へデータを伝送するためのデータ伝送方法を提供することにあり、それらシステム及び方法は、複数の受信装置へ例えばマルチ・メディア・コンテンツのデータなどの大量のデータを伝送することのできるものであり、本発明はそれらシステム及び方法を経済的に提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的のうち衛星通信システムに関する目的は、請求項1に記載した特徴を備えた衛星通信システムにより達成される。
【0011】
新規にして発明性を備えたこの衛星通信システムは、少なくとも1つの基地局と、前記基地局との間でデータ伝送のための通信接続を確立することのできる少なくとも1つの衛星と、前記衛星から送信された信号を受信することのできる複数の受信装置とを備えている。この衛星通信システムは、前記基地局から前記衛星へのデータ伝送を少なくとも1つのアップリンク・データストリームにより第1のデータ伝送速度で行い、前記衛星から前記受信装置へのデータ伝送を少なくとも1つのダウンリンク・データストリームにより第2のデータ伝送速度で行うように構成されている。前記第1のデータ伝送速度は前記第2のデータ伝送速度よりも低速であり、前記衛星はデータ・ストレージ手段を備えており、該データ・ストレージ手段は、前記基地局から前記衛星へ伝送されたデータを格納でき、且つ、前記受信装置へ伝送するためのデータを供給できるように構成されている。
【0012】
かかる構成のデータ・ストレージ手段を衛星に搭載することにより、基地局と衛星との間の通信接続におけるアップリンクデータ伝送速度を低下させることができ、ひいては、アップリンクデータ伝送速度をダウンリンクデータ伝送速度と同じ速度にしていた衛星通信システムと比較して、コストを大幅に軽減することが可能になる。
【0013】
本発明にかかる革新点は、衛星にデータ・ストレージ能力を付与すること、即ち、末端ユーザ端末の直前に位置するインスタンスにデータ・ストレージ能力を付与することにあり、この点において、基地局にデータ・ストレージ能力を付与していた従来技術と相違するものである。また、そのデータ・ストレージ能力は、配信することを反復して要求されるあらゆるデータを格納するために用いられるものである。
【0014】
本発明の1つの好適な実施の形態によれば、前記アップリンク・データストリームの帯域幅は前記ダウンリンク・データストリームの帯域幅より狭い。
【0015】
また、前記アップリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルは前記ダウンリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルとは異なるようにするのもよい。そうすることによって、固定端末と移動端末とを含めた末端ユーザの様々な種類の端末ないしデバイスにデータ配信を行うことが可能になる。
【0016】
前記データ・ストレージ手段はフラッシュ・メモリ・チップで構成されているものとすることが好ましい。フラッシュ・メモリ・チップを用いることによって、データ格納容量を大きなものとすることができると共に、格納したデータに高速でアクセスすることが可能になる。
【0017】
本発明の別の1つの好適な実施の形態によれば、前記衛星は、前記基地局から受信したアップリンクデータに復調処理を施すための少なくとも1つの復調器と、前記複数の受信装置へ伝送するデータに変調処理を施すための少なくとも1つの変調器とを備えており、前記データ・ストレージ手段は前記復調器と前記変調器との間に配設されている。この構成によれば、衛星に搭載したデータ・ストレージ手段に、復調処理が施された状態のデータを格納することができ、それによって、衛星上においてデータの配列変更が可能となり、このデータの配列変更は、例えば、データの反復配信を好適に行えるようにするためなどに実行されるものである。
【0018】
前記復調器及び/または前記変調器はプログラムの書き換えが可能なプロセッサを備えたものとすることが好ましい。復調処理及び/または変調処理の処理手順プログラムを書き換え可能にしておくことにより、また、それら処理を実行するハードウェアの動作プログラムを書き換え可能にしておくことにより、前記衛星通信システムは、多種多様なダウンリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルに対応可能なものとなり、ひいては、前記衛星通信システムから多種多様な末端ユーザ端末にデータを配信することが可能になる。また更に、それらを書き換え可能にしておけば、将来、新たなデータ伝送プロトコルが開発されたときに、衛星上において、その新たなデータ伝送プロトコルに対応するように前記衛星通信システムのソフトウェアを更新することも可能になる。
【0019】
本発明の方法に関する目的は、請求項に記載した特徴を備えた方法により達成される。
【0020】
新規にして発明性を備えたこのデータ伝送方法は、少なくとも1つの基地局から少なくとも1つの衛星を介して複数の受信装置へデータを伝送するためのデータ伝送方法であって、
a)前記基地局から前記衛星へのデータ伝送を少なくとも1つのアップリンク・データストリームにより第1のデータ伝送速度で行うステップと、
b)前記基地局から前記衛星へ伝送されたデータを前記衛星に搭載されたデータ・ストレージ手段に格納するステップと、
c)前記衛星から1つまたは複数の受信装置へのデータ伝送を少なくとも1つのダウンリンク・データストリームにより第2のデータ伝送速度で行うステップとを含み、
更に、前記第1のデータ伝送速度は前記第2のデータ伝送速度より低速であることを特徴とする方法である。
【0021】
前記アップリンク・データストリームの帯域幅は前記ダウンリンク・データストリームの帯域幅より狭くすることが好ましい。
【0022】
アップリンク・データストリームのデータ伝送をただ1本の放射ビームによって行う場合に、そのアップリンク・データストリームの帯域幅を狭くすることの利点は、アップリンク・データストリームの1つのゲートウェイによって対応し得るダウンリンク・データストリームの放射ビームの本数を、従来例のシステムの場合よりも格段に増大させることができることである。
【0023】
本方法によれば、例えば動画データ用カルーセルや音楽データ用カルーセルに格納するデータなどのデータ・ストックを衛星にアップロードする際に、データ伝送容量の小さな、好ましくは帯域幅の狭いアップリンク通信接続によって低速でアップロードすることができ、そのためコストが削減される。また更に、そのようなデータ・ストックが、衛星に搭載されたデータ・ストレージ手段に格納され、即ち、末端ユーザ端末により近い位置に格納され、そこから末端ユーザ端末へのデータ伝送が、データ伝送容量の大きな、好ましくは帯域幅の広いデータ伝送速度が高速のダウンリンク通信接続によって、迅速に行われる。
【0024】
更に、複数の受信装置群即ち複数の末端ユーザ端末群の各群が個別のダウンリンク・データストリーム放射ビームの照射領域内に包含されるようにして、前記衛星から複数の受信装置群即ち複数の末端ユーザ端末群へ、複数本のダウンリンク・データストリーム放射ビームが放射されるようにするとよい。
【0025】
好適な1つの実施の形態によれば、前記衛星は、オン・デマンド方式で配信するコンテンツの代金支払を促進するために該衛星上において前記データ・ストレージ手段の格納データに暗号化を施すための暗号化手段を備えている。
【0026】
前記アップリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルと前記ダウンリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルとを異なったものとすることによって、本発明の効果を更に増強することができる。そのようにすれば、アップリンクデータ伝送に関しては、データのアップロードを効率的に行えるプロトコルを採用する一方で、ダウンリンクデータ伝送に関しては、データ配信プロトコルが夫々に異なった様々な種類の末端ユーザ端末へデータ伝送を行うことが可能になる。
【0027】
本方法は、前記衛星で受信したデータを少なくとも1つのフラッシュ・メモリ・チップに格納するようにすることで、特に効果的なものとなる。
【0028】
前記衛星通信システムの説明において言及したように、前記基地局から前記衛星が受信した前記アップリンク・データストリームのデータを、前記データ・ストレージ手段に格納する前に、前記衛星に搭載した復調器において当該データに復調処理を施し、且つ、前記ダウンリンク・データストリームのデータとするために前記データ・ストレージ手段から供給されるデータを、1つまたは複数の前記受信装置へ送信する前に、前記衛星に搭載した変調器において当該データに変調処理を施すようにすると、特に有利である。
【0029】
本発明に係る方法を採用することが特に好適であるのは、前記ダウンリンク・データストリームが例えばビデオ・オン・デマンドや、ミュージック・オン・デマンドなどのオン・デマンド方式で配信を行うためのデータストリームである場合、並びに、前記ダウンリンク・データストリームがプッシュ型の情報配信サービスを行うためのデータストリームである場合、即ち、サービス・プロバイダの側でデータ伝送を制御する場合である。
【0030】
更に、本発明に係る方法の好適な実施の形態の一要素として、連続鑑賞されるコンテンツ(例えば動画コンテンツなど)のデータを効率的に分割することにより、前記アップリンク・データストリーム及び/または前記ダウンリンク・データストリームのデータを圧縮して当該データストリームの使用帯域幅を最小にすると共に、新たに当該コンテンツの鑑賞を開始しようとするユーザが僅かな待ち時間の後に鑑賞を開始できるようにするための様々なアルゴリズムがある。その種のアルゴリズムには、ハーモニック・ブロードキャスティング、アメンデッド・ハーモニック・ブロードキャスティング、それに、ファジー・ブロードキャスティングを実行するアルゴリズムなどがあり、それらについて詳述した文献としては、‘Improving Efficiency and Enhanced Utilizabilityof Media-on-Demand Systems’, a Dissertation by Boris Nikolaus, Dem Fachbereich 3- Mathematik/Informatik- der Universitaet Bremen, 2008/07/01(「メディア・オン・デマンド・システムの効率及び拡張用途の改良」、ボリス・ニコラウスによる論文、第3分野(数学/情報)、ブレーメン大学、2008年7月1日)がある。また、それらアルゴリズムは周知のものであり、それらアルゴリズムを用いることによって、ここに提示している衛星通信システムのパフォーマンスを、また特に、モバイル用途における伝送品質並びにその他の現在直面している問題に関するパフォーマンスを向上させることができる。
【0031】
以下に添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施の形態について詳細に説明して行く。添付図面については以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る衛星通信システムの1つの具体例を示した模式図である。
図2】従来の衛星通信システムの一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1に本発明に係る衛星通信システムの模式図を示した。この衛星通信システムは、基地局1と、衛星2と、末端ユーザ端末群3とを含んでおり、それらは無線データ伝送経路U及びDを介して相互に接続されている。基地局1は、地上側の設置機器である変調/送信デバイス14を備えており、この変調/送信デバイス14へは、データ・ソース(不図示)からデータ入力ライン10を介してデータが供給される。供給されたデータは、変調処理を施された後に、地上に設置された変調/送信デバイス14から衛星通信用アンテナ16を介して衛星2へ伝送され、このデータ伝送は、アップリンク・データストリームUにより第1のデータ伝送速度で行われる。
【0034】
衛星2は、アップリンク・データストリームUを受信するための第1のアンテナ20を備えている。受信されたデータストリームは、この第1のアンテナ20から受信/復調デバイス21に供給され、この受信/復調デバイス21において、変調処理が施されているそのデータストリームに復調処理が施される。復調処理が施されたデータはデータ・ストレージ手段22へ供給され、そしてこのデータ・ストレージ手段22において、オンボード・メモリに格納され、このメモリは、例えばフラッシュ・メモリ・チップなどのハードウェアで構成されている。
【0035】
末端ユーザ端末群3に含まれている末端ユーザ端末30から、ないしは、サービス・プロバイダから、例えば任意の時刻に、要請(デマンド)が発せられたならば、その要請は衛星2へ伝送される。衛星2の側では、データ・マネージメント・デバイス25が、その要請において要求されているデータの選定を行い、データ・ストレージ手段22を制御することによって、その要求されているデータをデータ・ストレージ手段22のメモリから変調/送信デバイス23へ転送させる。転送されたデータは、変調/送信デバイス23において変調処理を施され、その変調処理によって、ダウンリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルに則った適切な形式に変換される。こうして変調処理が施されたデータは、変調/送信デバイス23から衛星2の第2のアンテナ24へ転送され、そしてこの第2のアンテナ24から、送信先として指定されている1つまたは複数の末端ユーザ端末30の受信装置32へ、ダウンリンク・データストリームDにより伝送される。送信先のユーザ端末30では、伝送されてきた変調処理が施されているダウンリンク・データストリームDに復調処理を施し、その復調処理によって得られた信号を用いて、ユーザから要請された情報をユーザに提供する。この情報は例えば、動画、音楽、電子ブック、コンピュータ・ゲーム、等々のエンターテイメント・コンテンツであることもあれば、その他のアプリケーションであることもある。
【0036】
いずれも衛星搭載機器であるところの、受信/復調デバイス21、データ・ストレージ手段22、変調/送信デバイス23、それにデータ・マネージメント・デバイス25は、格納/ストリーム・ユニット26というべき1つのユニットを構成しており、この格納/ストリーム・ユニット26は、図示例の衛星通信システムにおける、衛星側の中核的構成要素である。また、衛星搭載機器であるこの格納/ストリーム・ユニット26において、受信/復調デバイス21のうちの受信部と、変調/送信デバイス23のうちの変調部とはいずれも、プログラムの書き換えが可能なデバイスとして構成されている。
【0037】
アップリンク・データストリームUのデータ伝送速度は、ダウンリンク・データストリームDのデータ伝送速度と比べて著しく低速である。衛星2にデータ・ストレージ手段22を搭載することで、ダウンリンク・データストリームDはアップリンク・データストリームUから独立している。その結果として、アップリンク・データストリームに要求されるデータ伝送速度は、ダウンリンク・データストリームに要求されるデータ伝送速度に比べて比較的小さい。例えば、動画データ用カルーセルを用いたビデオ・オン・デマンドの用途において、HDTV画質の動画コンテンツを200本のチャネルで配信する場合には、ダウンリンク・データストリームのデータ伝送速度は約580Mbpsになる。その動画データ用カルーセルに格納している画像データを4週間毎に更新するものとするならば、そのために必要とされるアップリンク・データストリームのデータ伝送速度は6Mbpsにしかならず、従って、衛星へのアップリンク・データストリームに必要とされる帯域幅は、僅か100分の1に減少する。
【0038】
衛星の側で受信したデータストリームに一旦復調処理を施した後に、再び変調処理を施すようにすることで、また特に、その変調処理をプログラムの書き換えが可能な変調器を用いて行うことによって、衛星へのアップリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルからは独立して、ダウンリンク・データストリームのデータ伝送プロトコルを様々に設定することが可能となる。このことは大きな利点であり、なぜならば、アップリンク・データストリームのデータ伝送は、1つまたは複数の大規模な地上局と衛星との間の通信接続により定義されるデータ伝送であるのに対して、ダウンリンク・データストリームのデータ伝送は、衛星と極めて多数の小規模な末端ユーザ端末との間の通信接続により定義されるデータ伝送であり、それゆえ、両方の通信接続に対して同一のデータ伝送プロトコルを適用することは、どちらの通信接続にとっても有益なことではない。
【0039】
好適な1つの実施の形態によれば、衛星2は、オン・デマンド方式で配信するコンテンツの代金支払を促進するためにこの衛星2上においてデータ・ストレージ手段22の格納データに暗号化を施すための暗号化手段を備えている。
【0040】
本発明に係る衛星通信システムを用いて実行され、ないしは、本発明に係るデータ伝送方法に従って実行される、反復的なデータ・ブロードキャスティングの具体的な用途例を以下に幾つか列挙する。
‐動画データ用カルーセルを用いて、コンティニュアス・ハーモニック・ブロードキャスティング(CHB)方式によって、僅かな再生開始待ち時間はあるものの任意の時刻に動画コンテンツを鑑賞可能にするビデオ・オン・デマンドの用途。
‐ビデオ・オン・デマンドと同様の配信方式を採用して、例えば電子ブック、ゲーム、音楽、等々の、動画コンテンツ以外のマルチ・メディア・コンテンツのデータを配信するオン・デマンド配信の用途。
‐例えば車載デバイスなどのモバイル・デバイスであって、スイッチがオフになっていることや、電波を受信できない状況下にあることがあるデバイス(例:ナビゲーション装置など)に対して、ソフトウェアやコンフィギュレーションを更新するためのデータを配信する用途。
‐膨大な数のゲーム参加者を擁するエンドレス・ゲームのゲーム状況情報を配信する用途。
‐衛星群ネットワークのネットワーク内データを配信する用途(例:特定の衛星が可視状態になるまでの間データを格納しておく用途、衛星との通信接続が再確立されたときにデータの再伝送を行う用途など)。
‐非静止衛星に格納されているマルチ・メディア・コンテンツのデータを、地球上の様々な位置にある当該衛星から、多数の末端ユーザ端末へブロードキャスティング配信する用途。
【0041】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中に使用した参照符号は本発明の理解を容易にするために付したものであり、本発明の保護範囲を規定するものではなく、本発明の保護範囲は特許請求の範囲の文言並びに解釈により規定されるものである。
【符号の説明】
【0042】
1 基地局
2 衛星
3 末端ユーザ端末群
10 データ入力ライン
14 地上側に設置された変調/送信デバイス
16 衛星通信用アンテナ
20 第1のアンテナ
21 受信/復調デバイス
22 ストレージ手段
23 変調/送信デバイス
24 第2のアンテナ
25 データ・マネージメント・デバイス
26 格納/ストリーム・ユニット
30 末端ユーザ端末
32 受信装置
101 地上局
102 衛星
103 末端ユーザ端末群
110 データ・ストレージ手段
112 データ・マネージャ
114 変調手段
116 衛星通信用アンテナ
120 第1のアンテナ
121 受信装置
122 中継手段
123 送信装置
124 第2のアンテナ
130 末端ユーザ端末
D、D’ ダウンリンク・データストリーム
U、U’ アップリンク・データストリーム
図1
図2