【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成24年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業(高密度・高伸縮性を併せ持つニッティング技術とナノテク融合による複合高機能性繊維用品の開発)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、前記経編生地の緯方向及び経方向に沿って強伸度特性を測定したとき、いずれの方向においても引張り破断強度が250N以上であることを特徴とする請求項3に記載の透湿防水性生地。
請求項1〜9に記載の透湿防水性生地を用いて作製された衣服であって、発汗サーマルマネキン(京都電子工業株式会社製)を用いて、以下の衣服内温湿度測定条件で、衣服内温湿度測定試験を行ったときに、測定される最高湿度(最高到達湿度)が70%以下となることを特徴とする衣服。
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(衣服内温湿度測定条件)
環境温湿度: 20℃、30%RH
マネキン表面温度:全箇所(19部位) 33℃
発汗箇所: 胸部上のみ
発汗時発汗量: 20g/m2・h
試験方法: 温湿度センサーを胸部2カ所に設置し、下記要領で試験手順を
実行した際の温湿度を測定
試験手順: (1)ジャケット着用後45分間環境になじませるため静置
(2)発汗開始 22分間発汗継続
(3)発汗停止
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明の発明者らの研究により、従来の透湿防水性生地のうち、基材層としてニット(編物生地)を用いた透湿防水性生地においては、基材層を高度に伸長させることが容易である半面、そのように基材層を高度に伸長させた場合にはナノ繊維層がその伸長に追随できずに破損してしまうという問題があることがわかった。
【0011】
そこで、本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地を提供することを目的とする。また、そのような透湿防水性生地を用いて作製された衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明の透湿防水性生地は、経編生地からなる基材層と、電界紡糸法により作製されたナノ繊維層とを備え、前記基材層と前記ナノ繊維層とが積層された構造を有する透湿防水性生地であって、前記経編生地は、36ゲージ以上の高密度経編機を用いて作製された経編生地であることを特徴とする。
【0013】
なお、経編機のゲージとは、経編機において並列する針の本数が1インチ(2.54cm)あたり何本あるのかを示す数値である。
【0014】
[2]本発明の透湿防水性生地においては、前記経編生地は、繊度がフロント、バックともに56dtex以下の経編生地であることが好ましい。
【0015】
なお、繊度とは、糸の太さを示す単位で、糸10000mあたりの重量(g)を示す。また、編地を形成する際に筬(オサ)に通す糸のうち、編機を正面から見たとき手前側の筬に通す糸をフロントといい、後ろ側の筬に通す糸をバックという。「56dtex(フロント)」というのは手前側の筬に通す糸の繊度が56dtexという意味であり、「33dtex(バック)」というのは後ろ側の筬に通す糸の繊度が33dtexという意味である。
【0016】
[3]本発明の透湿防水性生地においては、前記透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、前記経編生地の緯方向に沿って強伸度特性を測定したとき、伸び率40%のときの引張り応力が100N以下であり、かつ、伸び率70%のときの引張り応力が150N以上であることが好ましい。
【0017】
[4]本発明の透湿防水性生地においては、前記透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、前記経編生地の緯方向及び経方向に沿って強伸度特性を測定したとき、いずれの方向においても引張り破断強度が250N以上であることが好ましい。
【0018】
[5]本発明の透湿防水性生地においては、前記経編生地は、ポリエステル又はポリアミドからなることが好ましい。
【0019】
[6]本発明の透湿防水性生地においては、JIS L 1092(B法 高水圧法)による耐水圧が8000mmH
2O以上であり、JIS L 1099(A−1法)による透湿度が8000g/m
2・24h以上であり、通気度が0.4cc/m
2・s以上であることが好ましい。
【0020】
[7]本発明の透湿防水性生地においては、前記ナノ繊維層を構成するナノ繊維の平均繊維径が0.01μm〜1μmの範囲内にあり、前記ナノ繊維層の厚さが2μm〜30μmの範囲内にあり、前記ナノ繊維層の破断時の伸び率がタテ方向、ヨコ方向ともに70%以上であることが好ましい。
【0021】
[8]本発明の透湿防水性生地においては、前記ナノ繊維層を構成するナノ繊維がポリウレタンからなることが好ましい。
【0022】
[9]本発明の透湿防水性生地においては、前記ナノ繊維層における前記基材層に対向する面とは反対側の面に配設された保護層をさらに備えることが好ましい。
【0023】
[10]本発明の衣服は、本発明の透湿防水性生地を用いて作製された衣服であって、発汗サーマルマネキン(京都電子工業株式会社製)を用いて、以下の衣服内温湿度測定条件で、衣服内温湿度測定試験を行ったときに、測定される最高湿度(最高到達湿度)が70%以下となることを特徴とする。
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(衣服内温湿度測定条件)
環境温湿度: 20℃、30%RH
マネキン表面温度:全箇所(19部位) 33℃
発汗箇所: 胸部上のみ
発汗時発汗量: 20g/m
2・h
試験方法: 温湿度センサーを胸部2カ所に設置し、下記要領で試験手順を
実行した際の温湿度を測定
試験手順: (1)ジャケット着用後45分間環境になじませるため静置
(2)発汗開始 22分間発汗継続
(3)発汗停止
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【発明の効果】
【0024】
本発明の透湿防水性生地は、経編生地からなる基材層と電界紡糸法により作製されたナノ繊維層とが積層された構造を有することから、伸縮性に優れた透湿防水性生地となる。
【0025】
また、本発明の透湿防水性生地は、経編生地が、36ゲージ以上の高密度経編機を用いて作製された高密度の経編生地であることから、後述する試験例(試験例1,2)からも分かるように、伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地となる。
【0026】
本発明の衣服は、後述する試験例(試験例3)からも分かるように、従来の、透湿防水性生地から作製された衣服よりも快適性に優れた衣服となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の透湿防水性生地及び衣服について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0029】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る透湿防水性生地10の構成
図1は、実施形態1に係る透湿防水性生地10を説明するために示す図である。
実施形態1に係る透湿防水性生地10は、
図1に示すように、経編生地からなる基材層20と、電界紡糸法により作製されたナノ繊維層30とを備え、基材層20とナノ繊維層30とが積層された構造を有する透湿防水性生地である。基材層20とナノ繊維層30とは、ドット状の接着剤50により接合されている。
【0030】
実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、基材層20の厚さは、0.1mm〜1.0mmの範囲内にあり、基材層20の目付は、30g/m
2〜300g/m
2の範囲内にある。基材層20を構成する経編生地は、36ゲージ以上(好ましくは36ゲージ〜50ゲージの範囲内、例えば36ゲージ又は44ゲージ)の高密度経編機を用いて作製された経編生地であり、繊度がフロント、バックともに56dtex以下(好ましくはフロント、バックともに8dtex〜56dtexの範囲内、例えば22dtex(フロント)/22dtex(バック)及び56dtex(フロント)/33dtex(バック))である。経編生地は、ポリエステル又はポリアミドからなる。
【0031】
ここで、経編生地として、36ゲージ以上の高密度経編機を用いて作製された経編生地を用いたのは、36ゲージ以上の経編機を用いて作製された経編生地の場合には、後述する試験例(試験例1及び2)からも分かるように、生地を伸長させたときにナノ繊維層が破損し難くなるからである。一方、50ゲージ以下の高密度経編機を用いて作製された経編生地を用いることが好ましいのは、現在の技術では50ゲージを超える高密度経編機を用いて経編生地を製造するのが困難であるからである。
【0032】
また、繊度をフロント、バックともに56dtex以下としたのは、フロント、バックのいずれかでも繊度が56dtexを超えると、高密度の経編生地を構成するのが容易ではなくなるからであり、また、経編生地の目付が大きくなり衣類としたときの商品価値が低下するからである。一方、繊度がフロント、バックともに8dtex以上であることが好ましいのは、繊度が8dtex未満になると経編生地を構成する糸を製造するのが困難になるからである。
【0033】
実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、ナノ繊維層30の厚さは、2μm〜30μmの範囲内にある。ナノ繊維層30を構成するナノ繊維の平均繊維径は、0.01〜1μmの範囲内にある。ナノ繊維層30の破断時の伸び率は、タテ方向、ヨコ方向ともに70%以上である。
【0034】
実施形態1に係る透湿防水性生地10は、JIS L 1092(B法 高水圧法)による耐水圧が8000mmH
2O以上であり、JIS L 1099(A−1法)による透湿度が8000g/m
2・24h以上であり、通気度が0.4cc/m
2・s以上である。
【0035】
実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向に沿って強伸度特性を測定したとき、伸び率40%のときの引張り応力が100N以下であり、かつ、伸び率70%のときの引張り応力が150N以上である。
【0036】
ここで、伸び率40%のときの引張り応力を100N以下としたのは、伸び率40%のときの引張り応力が100Nを超えると、通常使用時における伸縮性が低下するからである。この観点から言うと、伸び率40%のときの引張り応力は、80N以下であることがより好ましく、70N以下であることがより一層好ましい。一方、伸び率70%のときの引張り応力を150N以上としたのは、伸び率70%のときの引張り応力が150N未満となると、衣服の着脱時等において生地が伸びすぎてナノ繊維が破損し易くなるからである。この観点から言うと、伸び率70%のときの引張り応力は、170N以上であることがより好ましく、180N以上であることがより一層好ましい。
【0037】
実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向及び経方向に沿って強伸度特性を測定したとき、いずれの方向においても引張り破断強度が250N以上である。
【0038】
2.実施形態1に係る透湿防水性生地10の製造方法
実施形態1に係る透湿防水性生地10は、以下のようにして製造することができる。
【0039】
(1)基材層20の準備
基材層20として、36ゲージ以上の高密度経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さが0.1mm〜1.0mmの範囲内にあり、目付が30g/m
2〜300g/m
2の範囲内にあり、繊度がフロント、バックともに56dtex以下であるポリエステル製又はポリアミド製の経編生地を準備する。
【0040】
(2)ナノ繊維層30の作製
電界紡糸装置(例えば韓国トップテック社製マルチファンクションナノファイバーシステム)を用いた電界紡糸法により、ナノ繊維層30を構成するナノ繊維の平均繊維径が0.01〜1μmの範囲内にあり、ナノ繊維層30の厚さが2μm〜30μmの範囲内にあり、ナノ繊維層30の破断時の伸び率がタテ方向、ヨコ方向ともに70%以上である、ポリウレタン製の不織布状のナノ繊維層30を作製する。
【0041】
(3)貼り合わせ
ドット状接着剤を用いて、基材層20とナノ繊維層30とを圧接しながら貼り合わせる。これによって、基材層20とナノ繊維層30とが積層された構造を有する透湿防水性生地(実施形態1に係る透湿防水性生地10)が完成する。
【0042】
3.実施形態1に係る透湿防水性生地10の効果
実施形態1に係る透湿防水性生地10は、経編生地からなる基材層20と、電界紡糸法により作製されたナノ繊維層30とを備え、基材層20とナノ繊維層30とが積層された構造を有することから、伸縮性に優れた透湿防水性生地となる。
【0043】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地は、経編生地が、36ゲージ以上の高密度経編機を用いて作製された高密度の経編生地であることから、後述する試験例(試験例1及び2)からも分かるように、伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地となる。
【0044】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地は、経編生地が、繊度がフロント、バックともに56dtex以下の(すなわち極細の)経編生地であることから、高密度の経編生地でありながら小さな目付の軽い透湿防水性生地となる。
【0045】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地10は、透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向に沿って強伸度特性を測定したとき、伸び率40%のときの引張り応力が100N以下であることから、伸び率40%までは透湿防水性生地が伸び易く、また、伸び率70%のときの引張り応力が150N以上であることから、伸び率が40%〜70%にかけて透湿防水性生地が伸び難くなる。すなわち、本発明の透湿防水性生地は、伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地となる。
【0046】
もう少し詳細に説明すると、本発明の透湿防水性生地をウェア状に縫製して衣服を作製した場合、当該衣服の着用者が通常の動作を行うとき(伸び率40%に対応)には、伸び率40%のときの引張り応力が100N以下であることから、ストレスを感じることなく動作を行うことができる。その一方において、当該衣服の着用者が衣服を着脱するとき、衣服を着用した状態で激しい運動をして衣服に衝撃や摩擦が付与されたとき、衣服を洗濯するときなど、透湿防水性生地に過度な応力が付与されたとき(伸び率70%に対応)には、伸び率70%のときの引張り応力が150N以上であることから、透湿防水性生地が過度に伸長されることが抑制される。その結果、基材層よりも弱いナノ繊維層(ナノ繊維層を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、所定方向に沿って強伸度特性を測定したとき、伸び率70%のときの引張り応力は例えば1〜2Nであり、破断時の伸び率は例えば80%程度である。後述する
図8参照。)が破損することが抑制される。
【0047】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地10は、透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向及び経方向に沿って強伸度特性を測定したとき、いずれの方向においても引張り破断強度が250N以上であることから、高強度の透湿防水性生地となる。
【0048】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、経編生地が、36ゲージ以上の高密度経編機を用いて作製された高密度な経編生地であり、かつ、繊度がフロント、バックともに56dtex以下の極細繊維からなる経編生地であることから、伸び率が40%までは伸び易く、また、伸び率が40%〜70%にかけて伸び難くなる性質の透湿防水性生地となる。
【0049】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地10は、JIS L 1092(B法 高水圧法)による耐水圧が8000mmH
2O以上であり、JIS L 1099(A−1法)による透湿度が8000g/m
2・24h以上であり、通気度が0.4cc/m
2・s以上であることから、優れた耐水性、透湿性及び通気性を有する透湿防水性生地となる。
【0050】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、ナノ繊維層30を構成するナノ繊維の平均繊維径が0.01〜1μmの範囲内にあり、ナノ繊維層30の厚さが2μm〜30μmの範囲内にあり、ナノ繊維層30の破断時の伸び率がタテ方向、ヨコ方向ともに70%以上であることから、上記した基材層20に積層して用いたときに、耐水性、透湿性及び通気性を付与するとともに、強度的にも優れた透湿防水性生地となる。
【0051】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、基材層20がポリエステル製又はポリアミド製の経編生地からなることから、上記したように優れた基材層を構成することが可能となる。
【0052】
また、実施形態1に係る透湿防水性生地10においては、ナノ繊維層30を構成するナノ繊維がポリウレタンからなることから、上記したように優れたナノ繊維層を構成することが可能となる。
【0053】
[実施形態2]
図2は、実施形態2に係る透湿防水性生地12の構造を示す図である。また、
図3は、実施形態2に係る透湿防水性生地12の断面構造を示すレーザー顕微鏡写真である。
図3中、符号70は写真撮影用の支持体(両面テープ)を示す。
【0054】
実施形態2に係る透湿防水性生地12は、基本的には実施形態1に係る透湿防水性生地10と同様の構成を有するが、保護層40をさらに備える点で実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合とは異なる。すなわち、実施形態2に係る透湿防水性生地12は、
図2及び
図3に示すように、ナノ繊維層30における基材層20に対向する面とは反対側の面に配設された保護層40をさらに備える。ナノ繊維層30と保護層40とは、ドット状の接着剤60により接合されている。なお、
図3には、ドット状の接着剤50のみが表されており、ドット状の接着剤60は表れていない。
【0055】
実施形態2に係る透湿防水性生地12において、保護層40は、例えば20ゲージ〜44ゲージの範囲内にある経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さ0.05mm〜0.5mmの範囲内にあり、目付が15g/m
2〜150g/m
2の範囲内にあり、繊度がフロント、バックともに20dtex〜84dtexの範囲内にあるポリエステル製、ポリアミド製又はポリウレタン製の経編生地からなる。
【0056】
実施形態2に係る透湿防水性生地12は、実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合と同様に、JIS L 1092(B法 高水圧法)による耐水圧が8000mmH
2O以上であり、JIS L 1099(A−1法)による透湿度が8000g/m
2・24h以上であり、通気度が0.4cc/m
2・s以上である。
【0057】
また、実施形態2に係る透湿防水性生地12は、実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合と同様に、透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向に沿って強伸度特性を測定したとき、伸び率40%のときの引張り応力が100N以下であり、かつ、伸び率70%のときの引張り応力が150N以上である。
【0058】
また、実施形態2に係る透湿防水性生地12は、実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合と同様に、透湿防水性生地を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向及び経方向に沿って強伸度特性を測定したとき、いずれの方向においても引張り破断強度が250N以上である。
【0059】
このように、実施形態2に係る透湿防水性生地12は、保護層40をさらに備える点で実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合とは異なるが、実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合と同様に、経編生地からなる基材層20と、電界紡糸法により作製されたナノ繊維層30とを備え、基材層20とナノ繊維層30とが積層された構造を有することから、伸縮性に優れた透湿防水性生地となる。
【0060】
また、実施形態2に係る透湿防水性生地12は、実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合と同様に、経編生地が、36ゲージ以上の高密度経編機を用いて作製された高密度の経編生地であることから、後述する試験例(試験例1及び2)からも分かるように、伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地となる。
【0061】
なお、実施形態2に係る透湿防水性生地12は、保護層40をさらに備える点で実施形態1に係る透湿防水性生地10の場合とは異なるが、これ以外の点では、実施形態1に係る透湿防水性生地10と同様の構成を有するため、実施形態1に係る透湿防水性生地10が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0062】
実施形態2に係る透湿防水性生地12は、以下のようにして製造することができる。
【0063】
(1)基材層20及び保護層40の準備
基材層20として、実施形態1の場合と同様の基材層を準備する。また、保護層40として、20ゲージ〜44ゲージの範囲内にある経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さ0.05mm〜0.5mmの範囲内にあり、目付が15g/m
2〜150g/m
2の範囲内にあり、繊度がフロント、バックともに20dtex〜84dtexの範囲内にある、ポリエステル製、ポリアミド製又はポリウレタン製の経編生地を準備する。
【0064】
(2)ナノ繊維層30の作製
ナノ繊維層30として、実施形態1の場合と同様の方法によりナノ繊維層を作製する。
【0065】
(3)貼り合わせ
ドット状接着剤50,60を用いて、基材層20とナノ繊維層30と保護層40とを圧接しながら貼り合わせる。これによって、基材層20とナノ繊維層30と保護層40とが積層された構造を有する透湿防水性生地(実施形態2に係る透湿防水性生地12)が完成する。
【0066】
[試験例1]
試験例1は、「本発明の透湿防水性生地が、生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地となる」ことを示す試験例である。
【0067】
図4は、試験例(試験例1及び2)に用いた試料の諸元を示す図表である。
図5は、試験例(試験例1及び2)の結果を示す図表である。
【0068】
1.試料の調整
(1)試料1(実施例)
基本的には実施形態2に係る透湿防水性生地12と同様の透湿防水性生地を試料1とした。但し、基材層20としては、44ゲージの高密度経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さが0.44mm、目付が160g/m
2、繊度が22dtex(フロント)/22dtex(バック)の、ポリエステル製の経編生地を用いた。また、ナノ繊維層30としては、厚さが15μm、ナノ繊維層の平均繊維径が450nmの、ポリウレタン製のナノファイバー不織布を用いた。また、保護層40としては、28ゲージの経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さが0.2mm、目付が70g/m
2、繊度が33dtex(フロント)/33dtex(バック)の、ポリエステル製の経編生地を用いた(
図4参照。)。なお、試料1の耐水圧(JIS L1092 B法により測定した耐水圧)は10500mmH
2Oであり、試料1の透湿度1(JIS L1099 A−1法により測定した透湿度)は10300g/m
2・24hであり、試料1の透湿度2(JIS L1099 B−1法により測定した透湿度)は33700g/m
2・24hである(
図5参照。)。
【0069】
(2)試料2(実施例)
基本的には試料1と同様の透湿防水性生地を試料2とした。但し、基材層20としては、36ゲージの経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さが0.57mm、目付が208g/m
2、繊度が56dtex(フロント)/33dtex(バック)の、ポリエステル製の経編生地を用いた(
図4参照。)。ナノ繊維層30及び保護層40は、試料1のものと同様である。なお、試料2の耐水圧(JIS L1092 B法により測定した耐水圧)は12000mmH
2Oであり、試料2の透湿度1(JIS L1099 A−1法により測定した透湿度)は10600g/m
2・24hであり、試料2の透湿度2(JIS L1099 B−1法により測定した透湿度)は26200g/m
2・24hである(
図5参照。)。
【0070】
(3)試料3(比較例)
基本的には試料1と同様の透湿防水性生地を試料3とした。但し、基材層20としては、32ゲージの経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さが0.41mm、目付が125g/m
2、繊度が33dtex(フロント)/33dtex(バック)の、ポリエステル製の経編生地を用いた(
図4参照。)。ナノ繊維層30及び保護層40は、試料1のものと同様である。なお、試料3の耐水圧(JIS L1092 B法により測定した耐水圧)は8000mmH
2Oであり、試料3の透湿度1(JIS L1099 A−1法により測定した透湿度)は11200g/m
2・24hであり、試料3の透湿度2(JIS L1099 B−1法により測定した透湿度)は38600g/m
2・24hである(
図5参照。)。
【0071】
(4)試料4(比較例)
基本的には試料1と同様の透湿防水性生地を試料4とした。但し、基材層20としては、28ゲージの経編機を用いて作製された経編生地であって、厚さが0.67mm、目付が176g/m
2、繊度が33dtex(フロント)/22dtex(バック)の、ポリエステル製及びポリウレタン製の経編生地(特許文献1の実施例5と同様の2way経編生地)を用いた(
図4参照。)。ナノ繊維層30及び保護層40は、試料1のものと同様である。なお、試料4の耐水圧(JIS L1092 B法により測定した耐水圧)は9500mmH
2Oであり、試料4の透湿度1(JIS L1099 A−1法により測定した透湿度)は11100g/m
2・24hであり、試料4の透湿度2(JIS L1099 B−1法により測定した透湿度)は28200g/m
2・24hである(
図5参照。)。
【0072】
(5)試料5(比較例)
基本的には試料1と同様の透湿防水性生地を試料5とした。但し、基材層20としては、厚さが0.27mm、目付が105g/m
2、繊度が56dtex(タテ糸)/84dtex(ヨコ糸)の、ポリエステル製の織物生地を用いた(
図4参照。)。ナノ繊維層30及び保護層40は、試料1のものと同様である。なお、試料5の耐水圧(JIS L1092 B法により測定した耐水圧)は1100mmH
2Oであり、試料5の透湿度1(JIS L1099 A−1法により測定した透湿度)は9500g/m
2・24hであり、試料5の透湿度2(JIS L1099 B−1法により測定した透湿度)は15200g/m
2・24hである(
図5参照。)。
【0073】
2.評価方法(評価方法1)
上記した各試料(試料1〜5)について、JIS L 1092(B法 高水圧法)と同様の方法により(但し、基材層20側を水に接触させた状態で)水圧を加えていったときにおいて、試料が破壊されて著しく水が漏れ出したときの水圧(破壊水圧)を測定した。そして、破壊水圧が比較例(試料3,4)の破壊水圧よりも大きいかどうかを確認した。その結果、破壊水圧が試料3,4の破壊水圧よりも大きい場合に「○」の評価を与え、破裂水圧が試料3,4の破壊水圧と同等以下の場合に「×」の評価を与えた。なお、試料1,2においては、試料1,2の生地が優れた伸縮性を示すことから、試験中に試料が膨らんでいき、ピストンの可動域の関係から、137kPa(測定限界)以上の水圧を加えることができなかった。従って、試料1,2の破壊水圧は、137kPa以上である。
【0074】
3.評価結果
図5から分かるように、試料3,4は、評価項目1について「×」の評価が得られた。これに対して、試料1,2,5は、評価項目1について「○」の評価が得られた。以上の結果、試料1,2に係る透湿防水性生地(実施例)はいずれも、「伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地」であることが分かった。
【0075】
[試験例2]
試験例2は、「本発明の透湿防水性生地が、生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地となる」ことを示す(試験例1とは別の)試験例である。
【0076】
1.試料の調整
試験例1で用いたものと同様の試料を試料(試料1(実施例)、試料2(実施例)、試料3(比較例)、試料4(比較例)及び試料5(比較例))とした。
【0077】
2.評価方法(評価項目2〜4)
図6は、試験例2における各試料の強伸度曲線(緯方向)を示す図である。
図7は、試験例2における各試料の強伸度曲線(縦方向)を示す図である。
図8は、ナノファイバー不織布の強伸度曲線を示す図である。
図6〜8においてはいずれも、試料を50mm幅のテープ状にカットしたものについて、JIS L1096のストリップ法に準拠して測定した強伸度特性を示したものである。
図6〜8において、曲線の右上端(最終点)が破断点である。試験例1及び2においては、
図8に示すように、約80%伸長で破断に至るナノファイバー不織布を用いた。
【0078】
(1)評価項目2
試料1〜5のそれぞれを50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向に沿って強伸度特性を測定し、強伸度曲線を作成した(
図6参照。)。そして、伸び率40%のときの引張り応力が100N以下であるかどうかを確認した。その結果、伸び率40%のときの引張り応力が100N以下である場合に「○」の評価を与え、伸び率40%のときの引張り応力が100Nを超える場合又は超えると判断した場合に「×」の評価を与えた。
【0079】
(2)評価項目3
試料1〜5のそれぞれを50mm幅のテープ状にカットしたものについて、経編生地の緯方向に沿って強伸度特性を測定し、強伸度曲線を作成した(
図6参照。)。そして、伸び率70%のときの引張り応力が150N以上であるかどうかを確認した。その結果、伸び率70%のときの引張り応力が150N以上である場合に「○」の評価を与え、伸び率70%のときの引張り応力が150N未満である場合に「×」の評価を与えた。
【0080】
(3)評価項目4
試料1〜5のそれぞれについて、評価項目2における強伸度曲線(
図6参照。)及び評価項目3における強伸度曲線(
図7参照。)を用いて、いずれの方向においても引張り破断強度が250N以上であるかどうかを確認した。その結果、いずれの方向においても引張り破断強度が250N以上である場合に「○」の評価を与え、いすれかの方向において引張り破断強度が250N未満である場合に「×」の評価を与えた。
【0081】
3.評価結果
図5から分かるように、試料3は、評価項目3について「×」の評価が得られた。また、試料4は、評価項目3,4について「×」の評価が得られた。試料5は、評価項目2,3について「×」の評価が得られた。なお、試料4(特許文献1の実施例5と同様の2way経編生地を用いた透湿防水性生地)の場合には、
図6からも分かるように、比較的弱い弱い引張り応力(150N程度)で透湿防水性生地が破壊されてしまうことが分かった。これは、特許文献1の実施例5と同様の2way経編生地を基材層に用いた場合には、基材層が柔らかすぎることから、比較的弱い引張り応力(80N〜150N程度)で透湿防水性生地が高度に伸長し(80%〜110%程度)、これにより、基材層よりも弱いナノ繊維層が破壊されてしまうことによるものと考えられる。
【0082】
これに対して、試料1及び2は、評価項目2〜4のすべてについて「○」の評価が得られた。以上の結果、試料1及び2に係る透湿防水性生地はいずれも、「伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地」であることが分かった。
【0083】
[試験例3]
試験例3は、「本発明の衣服が、従来の透湿防水性生地を用いて作製された衣服よりも快適性に優れた衣服である」ことを示す試験例である。
【0084】
1.試料の調整
試験例1で用いた試料1と同様の透湿防水性生地を用いてジャケット1(実施例)を作製した。また、試験例1で用いた試料2と同様の透湿防水性生地を用いてジャケット2(実施例)を作製した。また、従来の透湿防水性生地を用いて作製された市販のジャケット(耐水圧:45000mmH
2O、JIS L1099 B−2法による透湿度:13500g/m
2・24h)を購入してジャケット3(比較例)とした。
【0085】
2.評価方法(評価項目5)
図9は、試験例3における衣服内温湿度測定試験を説明するために示す図である。
図10は、試験例3における衣服内温湿度測定試験の結果を示す図である。
【0086】
発汗サーマルマネキン(京都電子工業株式会社製)を用いて、以下の条件で、上記したジャケット1,2,3について、衣服内温湿度測定試験を行った(
図9参照。)。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
環境温湿度: 20℃、30%RH
マネキン表面温度:全箇所(19部位) 33℃
発汗箇所: 胸部上のみ
発汗時発汗量: 20g/m
2・h
試験方法: 温湿度センサーを胸部2カ所に設置し、下記要領で試験手順を
実行した際の温湿度を測定
試験手順: (1)ジャケット着用後45分間環境になじませるため静置
(2)発汗開始 22分間発汗継続
(3)発汗停止
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0087】
3.評価結果
図10からも分かるように、ジャケット3(市販のジャケット)の場合には測定中に到達する最高湿度(最高到達湿度)が91%となり、着用者の快適性が著しく損なわれる70%よりも高い値となるのに対して、ジャケット1(試料1を用いて作製したジャケット)及びジャケット2(試料2を用いて作製したジャケット)の場合には最高到達温度がそれぞれ59%、61%となり、着用者の快適性が著しく損なわれる70%よりも低い値となった。
【0088】
以上の結果、試料1,2を用いて作製したジャケット1,2は、従来の透湿防水性生地を用いて作製された市販のジャケット3よりも快適性に優れた(汗をかいてもむれにくい)ジャケットであることが明らかとなった。
【0089】
[総合評価]
以上の試験例1〜3の結果、本発明の透湿防水性生地は「伸縮性に優れた透湿防水性生地でありながら生地を伸長させたときに従来よりもナノ繊維層が破損し難い透湿防水性生地」であり、本発明の衣服は「従来よりも快適性に優れた衣服」であることが分かった。
【0090】
以上、本発明の透湿防水性生地及び衣服を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施することが可能である。
【0091】
(1)上記した実施形態2においては、保護層として、所定の経編生地をドット状の接着剤によりナノ繊維層30と接合した保護層を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。ナノ繊維層30に対して非全面にコーティングした樹脂層(例えばドット状の開口部を有する樹脂層)からなる保護層を用いてもよい。また、ナノ繊維層30に対して全面コーティングした樹脂層からなる保護層を用いてもよい。
【0092】
(2)上記した各実施形態においては、基材層として、2枚の筬に糸を通して作製した経編生地からなる基材層を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。1枚の筬に糸を通して作製した経編生地からなる基材層を用いることもできるし、3枚以上の筬のそれぞれに糸を通して作製した経編生地からなる基材層を用いることもできる。
【0093】
(3)上記した試験例3においては、ジャケットを用いて試験を実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明はジャケット以外の衣服にも適用可能である。