(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
軽量かつ強度と耐食性に優れ、再生性に富むアルミ合金製の押出し製品が、運輸機器(新幹線のボディ)や電子機器の構成部品及び建材(アルミサッシ)など広く利用されている。
【0003】
押出し加工は、
図14に示すように、コンテナ100内の例えばアルミ合金等の円柱素材101をステム102で加圧し、コンテナ100の端部に設けた製品断面と同じダイス孔110aを持つダイス110から円柱素材101を塑性流動(塑性:加圧時に永久変形を生じる物質の性質)させる加工法である。
【0004】
一般的な形材押出し加工では、長尺の各種断面形状製品を押出し方向に真っ直ぐに成形加工することが要求される。同時にアルミ合金の熱間押出し加工では、加工品表層部に現れる表面再結晶(べび皮模様)の発生を抑える必要がある。
【0005】
押出し加工では、ダイス110のダイス孔110aの各所における材料の不均一な流出速度が原因で、製品に曲がりやゆがみなど製品欠陥が発生する。発生原因は、
図15に示すように、ダイス孔110aの出口付近の材料の流出速度差によるものであり、速度差の要因は、デッドゾーン(被加工材料の内部において、加工開始から加工終了まで材料が塑性流動せずに全く動かず滞留している領域)形状が左右非対称(起伏を有するため3次元的な形状となる)となり、
図15に示すとおり、その高さと押出し方向軸に対する傾きが不均一なためである。
【0006】
流出速度を均一化するには、
図14に示すように、一般にフローガイド120(塑性流動制御板、すなわち材料流出速度を促進または抑制する機能を果たす)を円柱素材101とダイス110間に設置するが、フローガイド120の設計は経験と勘に依存している。適正な塑性流動の制御機能を発揮するフローガイド120を設計するには、ダイス孔110aの近傍における塑性流動を3次元的に可視化し、デッドゾーン形状を正確に把握し、材料の流出速度の不均一分布を高精度で計測しておく必要がある。また、表面再結晶は、押出し加工過程の材料塑性流動と密接な関係があるため、ダイス孔110a付近の速度ベクトルを高精度に把握しておく必要がある。
【0007】
鍛造加工や押出し加工等の金属の塑性加工においては、3次元的に変形する複雑形状部品の内部変形情報をモデル実験で可視化して、加工プロセス設計、金型設計又は加工欠陥対策等を評価・検討することを目的とする塑性加工の3次元実験シミュレーション方法及び装置に関するものがある(特許文献1)。このシミュレーション実験に用いるモデル材料として、粘土質材料でありながら加工中の各種金属材料の変形過程を再現できるモデル材料に関するものがある(特許文献2)。
【0008】
また、金属の押出し加工時のデッドゾーンの特定など3次元的な塑性流動を実験的に解明する研究(非特許文献1乃至非特許文献5)、押出し加工の塑性流動を数学モデルのみで表現し、計算機で数値解析(有限要素法)的に解明する研究(非特許文献6乃至非特許文献8)など多くの試みが行われてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の実験的に解明する研究では、ダイス孔近傍の塑性流動を動的に(時々刻々と変化する様子を)3次元で可視化した例は無く、その上、モデル材料を用いた場合、塑性流動(内部変形量)を定量化する際、加工品を型から取り出す必要があるため加工品の取り扱い時に人的に変形させる(モデル材料は軟質であるため)こともあるので精度の観点から問題があった。また、実験時およびデータ解析時に膨大な手間と時間(数日)を要し、実用性に乏しかった。
【0011】
一方、数値解析的に解明する研究では、3次元塑性流動の場合、数日から週単位の膨大な解析時間を要するため技術的検討の中断を余儀なくされる。また、特に3次元変形の場合、得られた解析結果を物理的に検証する術は無い。
【0012】
この発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、かつ確実にアルミ合金等の金属製押出し加工品の加工時における曲がりの要因となる3次元デッドゾーン形状の特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成した。
【0014】
請求項1に記載の発明は、金属材料の変形特性を再現できるモデル材料と、材質が前記モデル材料の密度以下であるモデル型を使用して、所定形状の前記モデル材料の外周部
のみに球体を埋め込む工程と、
前記モデル型に装填した前記モデル材料を最終ストロークまで止めることなく連続的に押出し加工する工程と、
前記押出し加工に同期し
て、視差を形成する
X線とX線I.I.カメラにより撮像する工程と、
前記球体の3次元座
標を一定時刻間隔で演算する工程と、
前記球体の
移動軌跡と前記モデル型の形状データとを重ね合わせて表示する工程と、
前記球体の
移動軌跡と前記モデル型の形状データとを重ね合わせて表示した結果に基づいてデッドゾーンの3次元形状を特定する工程とを有することを特徴とする押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、金属材料の変形特性を再現できるモデル材料と透明なモデル型を使用して、前記モデル材料の外周部に球体を埋め込む工程と、
前記モデル型に装填した前記モデル材料を、止めることなく連続的に押出し加工する工程と、
前記押出し加工に同期して、前記球体が前記モデル材料の外周部から内部へ沈み込み視認不可となる直前の時点まで前記球体が移動する様子を、視差を形成する2方向から可視光下でビデオカメラにより撮像する工程と、
前記モデル材料の外周部から内部へ沈み込み視認不可となる直前の時点の前記球体の3次元座標を演算して前記モデル材料の外周部におけるデッドゾーン高さを特定する工程と、
前記モデル材料の外周部から内部へ沈み込む時点の前記球体の重心とダイス図心を通る断面において、前記断面とダイス上端面との交点を原点とし、前記原点からダイス上端面上の外周へ向かう方向をX軸の正方向、前記原点から加工方向とは逆方向をY軸の正方向と定義する座標系を定義し、前記原点および前記モデル材料の外周部から内部へ沈み込む時点の座標を利用して数値解析的に下に凸なる二次曲線で近似する工程と、
全ての前記2次曲線と前記モデル型の形状データとを重ね合わせて表示した結果に基づいてデッドゾーンの3次元形状を特定する工程とを有することを特徴とする押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、
前記モデル材料の外周部に、加圧軸に対して垂直な少なくとも1つ以上の平面であり、前記平面の高さはデッドゾーン高さより高い位置に等間隔で放射状に少なくとも1つ以上埋め込むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法である。
【発明の効果】
【0017】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0018】
この発明では、金属材料の塑性変形を高精度に再現可能な粘土質のモデル材料を用いて、球体を必要最小限の個数だけモデル材料の外周に埋め込み加工前の素材とし、押出し加工によるモデル材料の塑性流動に伴う球体の移動軌跡をステレオ構成にてX線撮影することで、押出し加工品の曲がりの要因となる3次元デッドゾーン形状を短時間で簡単かつ確実に特定することができる。また、球体がモデル材料の外周部からその内部へ沈み込み視認不可となるまでを可視光下でステレオ構成にてビデオカメラ撮影するだけで、ある断面のデッドゾーン形状を二次曲線で近似でき、全ての断面の二次曲線を3次元的に再構成することで、3次元デッドゾーン形状を短時間で簡単かつ確実に特定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の金属材料の押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法の実施の形態について説明する。この実施の形態は、この発明の好ましい形態を示すものであるが、この発明はこれに限定されない。
【0021】
[押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法1]
この実施の形態の押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法は、
図1に示すように、球体3を埋め込む工程A1、押出し加工する工程B1、撮像する工程C1、演算する工程D1、表示する工程E1、3次元デッドゾーン形状を特定する工程F1の手順で実施される。なお、工程B1と工程C1は、撮像しながら押出し加工(すなわち、同期して実施)する。
【0022】
球体3を埋め込む工程A1は、モデル型1を使用し、かつ金属材料の変形特性を再現できるモデル材料2を使用して、所定形状(図の場合は円柱)のモデル材料2の外表面に球体3を埋め込む工程である。この球体3を埋め込む工程A1において、球体3は、
図3に示すように、円柱状のモデル材料2の外周部に、加圧軸に対して垂直な少なくとも1つの平面上(図の場合は2つの平面)に等間隔で放射状に少なくとも1つ以上埋め込む。なお、加圧軸に対して垂直な平面の素材に対する高さ方向の位置は、外周部におけるデッドゾーン高さより高く設定する必要がある。外周部におけるデッドゾーン高さが不明な場合は、予備的なモデル実験として球体3を1個だけ円柱状のモデル材料2の高さ方向で中心部と上端部(ダイス110とは反対側)の間に埋め込み押出し加工を実施すればよい。すなわち、球体3がモデル材料2の外周部から内部へ沈み込むので、その位置が外周部におけるデッドゾーン高さとなる。
図3の場合は、加圧軸に対して垂直であり、加圧軸方向の高さが異なる2つの平面に球体3を埋め込んである。こうすることで真横からX線撮影した時の球体3同士の重なりを回避し、放射状に埋め込んだ全ての球体3の位置座標を特定できる。なお、モデル材料2への球体3の埋め込みは、軟質な粘土状モデル材料2に対して硬質な金属製球体3を予めマーキングした所定位置に指で球体3の直径分だけ押し込むことにより容易に実施できる。
【0023】
押出し加工する工程B1は、モデル型1に装填したモデル材料2を最終ストロークまで止めることなく連続的に押出し加工する工程である。この押出し加工によって、モデル材料2の外周部のみに埋め込まれた必要最小限の個数の球体3が、モデル材料2の3次元的な塑性流動に伴い移動する。
【0024】
撮像する工程C1は、押出し加工の非定常変形状態(加工開始から定常変形状体の前までであり、材料内部の変形領域が時々刻々と変化する過程)から定常変形状態(時間が経過しても材料内部の変形領域が変化しない過程)を経て球体3がダイス孔110aから流出するまでの球体3を、視差を形成する2方向からのX線と1台のX線I.I.カメラにより撮像する工程である。
【0025】
演算する工程D1は、球体3の3次元座標と速度ベクトルを一定時刻間隔で演算する工程である。
【0026】
表示する工程E1は、3次元座標での球体3の形状データあるいは速度ベクトルとモデル型1の形状データとを重ね合わせて表示する工程である。
【0027】
3次元デッドゾーン形状を特定する工程F1は、球体3の形状データとモデル型1の形状データとを重ね合わせて表示した結果に基づいて加圧軸を含む2次元断面を複数表示することで金型設計者等が認識しやすいようにデッドゾーンの3次元形状を特定する工程である。以上の工程A1からF1までに要する操作時間は1時間以内であり、他方法に比べて実用的である。
【0028】
[押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法2]
この実施の形態の押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法は、
図2に示すように、球体3を埋め込む工程A2、押出し加工する工程B2、撮像する工程C2、球体の沈み込み時点の3次元座標を演算し、デッドゾーン高さを演算する工程D2、1つの断面のデッドゾーン形状を二次曲線で近似する工程E2、3次元デッドゾーン形状を特定する工程F2の手順で実施される。なお、工程B2と工程C2は、撮像しながら押出し加工(すなわち、同期して実施)する。
【0029】
球体3を埋め込む工程A2は、透明なモデル型1を使用し、かつ金属材料の変形特性を再現できるモデル材料2を使用して、円柱のモデル材料2の外表面に球体3を埋め込む工程である。球体3を埋め込む工程A2は、
図3に示す円柱状のモデル材料2の外周部に、加圧軸に対して垂直な1つの平面上のみに等間隔で放射状に少なくとも1つ以上埋め込む。なお、加圧軸に対して垂直な平面のダイス110上端面からの高さは、外周部におけるデッドゾーン高さより高く設定する必要がある。外周部におけるデッドゾーン高さが不明な場合は、段落[0022]に記載の手順に従って設定する。この実施の場合は、透明なモデル型1を使用するので、可視光下で外表面の球体3を追跡することができ、特定方法1の様に重なりを回避する必要はない。
【0030】
押出し加工する工程B2は、モデル型1に装填したモデル材料2を途中で止めることなく連続的に押出し加工する工程である。この押出し加工によって、モデル材料2の外周のみに埋め込まれた必要最小限の個数の球体3が、モデル材料2の3次元的な塑性流動に伴い移動する。
【0031】
撮像する工程C2は、押出し加工開始からのモデル材料2の外周部から内部へ沈み込む(見えなくなる)時点までの球体3を、視差を形成する2方向からのビデオカメラ19により可視光下で撮像する工程である。なお、放射状に埋め込まれた球体3の内、モデル材料2の裏側にあり、見えない球体3については、回転台11を見える位置まで回転させ、複数回の押出しモデル実験を繰り返せばよい。
【0032】
デッドゾーン高さを演算する工程D2は、塑性流動が進みモデル材料2の外周部から内部へ沈み込む(見えなくなる)時点の球体3の3次元座標を演算し、ダイス110の上端面からの距離を演算する工程である。この工程を全ての球体3について繰り返す。
【0033】
1つの断面のデッドゾーン形状を二次曲線で近似する工程E2は、着目した1つの球体3について、モデル材料2の外周部から内部へ沈み込む時点の球体3の重心とダイス図心を通る断面において、その断面とダイス110上端面との交点を原点とし、原点からダイス110上端面上の外周へ向かう方向をX軸の正方向、原点から加工方向とは逆方向をY軸の正方向とする座標系を定義し、座標が既知である原点とモデル材料2の外周部でのデッドゾーン高さを利用して数値解析的に下に凸なる2次曲線で近似する工程である。この工程を全ての球体3について繰り返す。
【0034】
3次元デッドゾーン形状を特定する工程F2は、得られた全ての2次曲線とモデル型1の形状データとを重ね合わせて表示した結果に基づいて金型設計者等が認識しやすいようにデッドゾーンの3次元形状を特定する工程である。以上のA2からF2までに要する操作時間は1時間以内であり、他方法に比べて実用的である。
【0035】
特定方法1および2のように、金属材料の塑性変形を高精度に再現可能なモデル材料2を用いて、モデル材料2の外周部に必要最小限の個数の球体3を埋め込み、モデル材料2の塑性流動に伴う球体3の移動軌跡をX線撮影あるいは外周部に埋め込んだ球体3がモデル材料内部に沈み込むまでを可視光下でビデオ撮影することで、金属材料の押出し加工品の押出し時における曲がりの要因となる3次元デッドゾーン形状を短時間で簡単かつ確実に特定することができる。
【0036】
この実施の形態の押出し加工における3次元デッドゾーン形状のいずれの特定方法においても
図4に示す3次元塑性流動可視化システムと、
図5(a)に示す金属材料の変形を再現できるモデル材料(特殊な粘土)を用いたモデル実験を実施した。なお、
図5(a)、(b)は、モデル材料とアルミ合金の変形の相似性を実証した結果である。変形模様が類似しており、モデル材料で金属材料の塑性変形特性を再現できることを示している。
【0037】
図4に示す3次元塑性流動可視化システムは、X線防御壁10で覆われた装置内に、回転台11、押圧装置12、X線発生器13、X線I.I.カメラ14又はビデオカメラ19が配置され、回転台11の上に樹脂製押出しモデル型1を置き、押圧装置12によりモデル型1内の円柱形状のモデル材料2を加圧しながらモデル型1にX線発生器13によりX線を照射し、X線I.I.カメラ14により撮影するか、あるいは透明なモデル型1をビデオカメラ19により撮影する構造である。
【0038】
モデル実験では、モデル材料2の外表面に塑性流動を検知する球体3として金属(超硬合金)製微小球(直径0.5〜1.5mm)を少なくとも1つ以上埋め込み、樹脂製押出しモデル型1内で加圧すると、その塑性流動は球体3の移動軌跡として表される。ここで、同移動軌跡(3次元座標)は、特定方法1の場合は、照射時期を制御したX線発生器13(2台)と1台のX線I.I.カメラ14を用いた立体視撮影によって、特定方法2の場合は2台のビデオカメラ19を用いた立体視撮影によって3次元で高精度に計測できる。
【0039】
[実施例]
次に、押出し加工における3次元デッドゾーン形状の特定方法の実施例(2件)を説明する。
[実施例1−X線I.I.カメラを用いたデッドゾーン特定方法]
(可視化システム)
可視化システムの写真と模式図を、
図6及び
図7に示す。可視化システムは、ステレオ構成のX線発生器13(最大管電圧100kV、最大管電流0.1mA、X線発生器間距離(視差間隔)120mm)とX線I.I.カメラ14(視野:112mm×86mm)を相対して設置した。その他、押圧装置12(最大加圧能力9.8kN)、360°回転と3軸動作(上下0〜200mm、X線照射方向0〜150mm、X線照射軸直角方向0〜300mm)が可能な回転台11、制御装置16、画像キャプチャーボード15、表示部17、PC30およびデータ処理ソフト(図示せず)で構成した。また、加工力とパンチ変位は、システムに組み込んだ計測器18により計測した。
【0040】
可視化システムのシステム操作は、まず、PC30から制御装置16を制御して回転台11の位置と角度を調整し、次に、PC30から制御装置16へ押出し加工の加圧量を入力した。次に、X線発生器13とX線I.I.カメラ14の間に置いたモデル型1を用い、押圧装置12で加圧を開始した。ここで、加圧変形と同時に2台のX線発生器13のONとOFFを電子シャッターでNTSC(ビデオ)信号の1フレーム(1/30秒)ごとに切り換えながらX線を照射した。最後に、X線I.I.カメラ14で撮影されたNTSC(ビデオ)信号を画像キャプチャーボード15経由でPC30に取り込む(記憶装置31に保存する)とともに表示部17に表示した。
【0041】
その後、記憶装置31に保存したデータをX線照射方向別に分別し、ステレオ画像(JPEG形式,8bitモノクロ,640×480画素)として記憶装置31に再保存した。得られたステレオ画像から画像処理により連続フレームごとに球体3の2次元(重心)位置座標を同定した。以上の時系列かつX線照射方向別の球体3の2次元位置座標をもとに三角測量の原理で3次元位置座標を算出すると、球体移動座標の実時間3次元計測が可能となる。ここで、NTSC(ビデオ)信号のフレーム間の時刻間隔は既知であるため、球体3の速度ベクトルが算出可能となる。速度ベクトルが判明すると曲がりの要因である速度差の程度を把握できる。
【0042】
(可視化実験に使用したモデル型)
図8は可視化実験に使用したモデル型1の外観図であり、
図9はモデル型1の断面図である。モデル型1は、回転台11上に設置されたモデル型設置台11aおよびモデル型設置蓋11bに取り付けられ、押圧装置12(詳細図は省く)のプレスシリンダー12aにより押圧される。モデル型1は、コンテナ21内にダイスベース22、ダイス23が配置され、フローガイド24を円柱形状のモデル材料2とダイス23間に設置し、モデル材料2を押圧プレート25を介して押圧する構造である。
【0043】
モデル型1は、塑性変形量を追跡するための球体3の視認性を向上させるためX線を透過しやすい樹脂製とした。こうすることで、密度の大きい球体3(黒い点として撮像される)が密度の小さい樹脂型(薄いグレーの背景として撮像される)の中にコントラスト良くX線撮像されるため、球体3のみを追跡することが可能となる。なお、押圧装置12のプレスシリンダー12aと回転台11は金属製であるが、X線I.I.カメラ14の視野外であるため球体3の撮影には邪魔にならない。実験で押出されたモデル材料2は、下方のスライドベース50上を滑り、緩やかに曲げられて型外へ排出する構造となっている。モデル材料2は円柱であり、直径50mm,高さ50mmとした。コンテナ21は、X線の透過を容易にするために可能な限り薄く(肉厚3mm)した。
【0044】
(ダイス孔形状)
モデル実験で使用したダイス23のダイス孔23aの形状を
図10に示す。ダイス孔23aの形状は、実生産の押出し加工において多く実施されているC形(C−Channel)で、ダイス23は、厚さ2mmの円盤状プレートである。
【0045】
(実験条件)
モデル材料2は、特許文献2に示す材料を用い、アルミ合金の熱間加工の塑性変形状態を再現できるように成分を調整した。モデル材料2による素材の作製は、真空土練機でモデル材料2を混練・脱気後、直径50mm,高さ50mmの円柱状に押出し成形した。次に、機械的性質を安定させるために恒温器内に20℃で24時間以上保持した。モデル材料2への球体3の埋め込みは、実験効率の向上、低コスト化、データ処理の迅速性および精度向上など様々な事情を考慮すると、埋め込み個数を最小限とすべきである。そこで実験に先立ち、以下の仮説を想定した。
【0046】
<仮説>
「押出し加工では、加圧の初期にデッドゾーンが形成され、塑性流動しない塊体となった3次元的なデッドゾーン上を材料が滑るように塑性流動する」と仮定した。
【0047】
この仮説が真ならば、球体3をモデル材料2内部へは埋め込む必要がなく、外周部のみに埋め込むことで球体個数を最小限とすることができる。すなわち、外径部からダイス孔23aへ塑性流動する球体3の移動軌跡を撮影することで、デッドゾーンの3次元形状が特定できると考えた。
【0048】
そこで、実験では
図3に示すとおり、22.5°間隔で16個の球体3を埋め込んだ。
図3(a)はモデル材料2の正面図、
図3(b)はモデル材料2の上面図、
図3(c)はモデル材料2の斜視図である。全ての球体3を個別に視認し、時系列での軌跡を追跡するため、底面より14mmの位置に8個、12mmの位置に8個の2段構造で埋め込んだ。モデル実験は、潤滑剤として石けん水を用い、加圧速度0.3mm/sで加圧量が35mmに達するまで途中で止めることなく連続的に加圧した。X線は、管電圧100kV、管電流0.1mAとし、加圧の1秒前からX線照射と撮影を開始し、加圧終了と同時に終了した。なお、この実験で球体3を埋め込まない場合との比較を実施し、球体3がモデル材料2の塑性流動を阻害することが無いことを確認した。なお、フローガイド24が無い場合、どの程度の曲がりが発生するかを見るために、この実験ではフローガイド24を設置していない。
【0049】
[デッドゾーン特定結果]
モデル実験・可視化結果を
図11に示す。
図11(a)はデッドゾーン形状の3次元表示である。16個の球体3を時系列(10秒間隔)で表示するだけで球体3とダイス23間の空間で示されるデッドゾーン形状を特定することができた。すなわち、段落〔0046〕の<仮説>は立証されたと言える。
図11(b)は上面から見た(c)に対応する断面番号を示し、
図11(c)は各断面におけるデッドゾーン形状を2次元表示したものである。
【0050】
C形(C−Channel)は線対称であるため、断面(1)以外はデッドゾーン形状が対称となり、断面(1)の非対称性が加工品の曲がりを生じさせる要因であることがわかった。なお、断面(1)のデッドゾーン高さはそれぞれ7mm、8mmであった。また、フローガイド24を用いない場合は、押出し加工の初期曲がり角は15.86°であった。なお、加工品の曲がりは、
図15に示すとおり加圧軸と材料流出方向が成す角度として定義し、曲がり角と呼ぶ。
【0051】
[実施例2−ビデオカメラを用いたデッドゾーン特定方法]
(可視化システム)
可視化システムは、X線発生器13とX線I.I.カメラ14をビデオカメラ19に置き換えた以外は実施例1と同様である。なお、2台のビデオカメラ19の視差間隔は120mmとした。
【0052】
可視化システムのシステム操作は段落[0040]と同様である。加圧変形と同時に2台のビデオカメラ19でモデル材料2の外周部に埋め込んだ球体3がモデル材料内部に沈み込むまでをビデオ撮影した。最後に、撮影したNTSC(ビデオ)信号を画像キャプチャーボード15経由でPC30に取り込む(記憶装置31に保存する)とともに表示部17に表示した。
【0053】
その後、記憶装置31に保存したステレオ画像(JPEG形式,8bitモノクロ,640×480画素)から画像処理により一定時刻間隔のフレームごとに球体3の2次元(重心)位置座標を同定した。以上の時系列かつ視差画像別の球体3の2次元位置座標をもとに三角測量の原理で3次元位置座標を算出した。
【0054】
(可視化実験に使用したモデル型)
可視化実験に使用したモデル型は、実施例1と同様である。
【0055】
モデル型1の内、コンテナ21は、塑性変形量を追跡するための球体3を可視光下でも視認できる様に透明な樹脂製とした。実験で押出されたモデル材料2は、下方のスライドベース50上を滑り、緩やかに曲げられて型外へ排出する構造となっている。モデル材料2は円柱であり、直径50mm,高さ50mmとした。コンテナ21は、透明性を確保するために可能な限り薄く(肉厚3mm)した。
【0056】
(ダイス孔形状)
モデル実験で使用したダイス23のダイス孔23aは、実施例1と同様である。
【0057】
(実験条件)
モデル材料2の材質は実施例1と同様である。モデル材料2による素材の作製は、実施例1と同様である。モデル材料2への球体3の埋め込みは、実験効率の向上、低コスト化、データ処理の迅速性および精度向上など様々な事情を考慮すると、埋め込み個数を最小限とすべきである。そこで実験に先立ち、以下の仮説を想定した。
【0058】
<仮説>
「押出し加工が進むと共に、モデル材料2の外周部に埋め込んだ球体3が外周部を加圧方向に直線的に動き、その後、加圧の初期に形成されたデッドゾーン上に到達した時にモデル材料内部に沈み込み(可視光下のビデオカメラでは見えなくなる)、その後、デッドゾーンを二次曲線で近似した軌跡をたどり、ダイス孔110aに達し、流出する。」と仮定した。なお、二次曲線での近似は、実際の物理現象である実施例1の
図11(C)のデッドゾーン形状から判断しても妥当である。
【0059】
[モデル実験について]
実験に使用したモデル材料2の形状と球体3の個数は実施例1と同様である。これらの球体3の中で、仮説を立証するために
図11(b)に示す断面(1)の右側(デッドゾーン高さ8mm側)に相当する1個の球体3のみをビデオ撮影してデータ処理した。モデル実験条件についても撮影方法以外は、実施例1と同様である。
【0060】
[断面におけるデッドゾーン形状の推定方法]
モデル実験・可視化結果を
図12に示す。
図12(a)は、ダイス110の上端面図、
図12(b)は、外周部から内部への沈み込み時点の球体の重心とダイス図心を通る断面を表示してある。沈み込み時点の球体の3次元座標を演算して外周部におけるデッドゾーン高さHを特定したところ8mmであった。次に、断面とダイス上端面との交点を原点とし、原点からダイス上端面上の外周へ向かう方向をX軸の正方向、原点から加工方向とは逆方向をY軸の正方向とする座標系を定義した。ここで、原点からモデル材料2の外周までの距離(既知)をRとし、断面(1)のデッドゾーン形状を二次曲線
Y=aX
2+bX+C ・・・式(1)
で近似する。
ここで、(X、Y)=(0、0)および(X、Y)=(R、H)は既知であるので、X=0、Y=0の時、式(1)は、C=0であるので式(1)は
Y=aX
2+bX ・・・式(2)
となる。X=Rの時、Y=Hであるから
H=aR
2+bR ・・・式(3)
ここで、二次曲線は下に凸であるからa>0の条件で数値解析的にa、bを求めると二次曲線すなわち、ある断面におけるデッドゾーン形状を推定することができる。式(3)の場合a=H/2R
2、b=H/2Rであり、次の式(4)が求める二次曲線である。
Y=(H/2R
2)X
2+(H/2R)X ・・・式(4)
図13に示すとおり、得られた二次曲線は実施例1の実測のデッドゾーン形状とほぼ一致している。すなわち、段落〔0058〕の<仮説>は立証されたと言える。
【0061】
[3次元デッドゾーン形状の推定方法]
以上の断面において二次曲線で近似したデッドゾーン形状をすべての球体3に対して適用し、推定した2次曲線とモデル型1の形状データとを重ね合わせて表示した結果に基づいてデッドゾーンの3次元形状を推定することができる。
【0062】
このように、金属材料の塑性変形を高精度に再現可能なモデル材料を用いて、素材外周に必要最小限の個数の金属製球体を埋め込み、モデル材料の塑性流動に伴う球体の移動軌跡を撮影することで、押出し加工品の曲がりの要因となる3次元デッドゾーン形状を簡単かつ確実に特定することができる。