(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909770
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】吸気通路構造
(51)【国際特許分類】
F02M 35/024 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
F02M35/024 521E
F02M35/024 511A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-8884(P2012-8884)
(22)【出願日】2012年1月19日
(65)【公開番号】特開2013-148001(P2013-148001A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】新井 篤典
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−064416(JP,U)
【文献】
特開2003−120245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00−13/06
F02M 35/00−35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアクリーナとスロットルバルブとの間に設けられ、エンジン本体からのブローバイガス通路が接続される吸気通路の構造であって、
前記スロットルボディ入口から前記エアクリーナ側に向かって、吸気通路フロアと吸気通路ルーフの両方に重力下方に向かって凸形溝形状が形成され、
前記凸形溝形状は、前記エアクリーナ側から前記スロットルボディ入口に向かって、前記スロットルボディ入口よりも狭い幅になるように溝幅が狭くなり、
前記ルーフ側の凸形溝形状の幅は、前記フロア側の凸形溝形状の幅より狭く、
前記スロットルバルブの回転軸は、前記フロア側の凸形溝形状の形成方向に対して略直角に配置されることを特徴とする吸気通路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以後「エンジン」という)の吸気通路の構造に関するものであり、特に、ブローバイガスを吸気側に戻す地点からスロットルボディまでの間の吸気通路の構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
エンジン内に設けられた燃焼室では、吸気に燃料を混合し、爆発的な燃焼を行なっている。しかし、燃料が混合された混合ガスの一部は、クランク室側に漏出する。この漏出したガスはブローバイガスと呼ばれ、炭化水素などが含有されるため、そのまま排出すると環境汚染につながる。そこで、このブローバイガスは、吸気に返されて再燃焼ガスとして利用することが行われている。
【0003】
ブローバイガスが吸気側に供給される地点は、エアクリーナからスロットルボディまでの間に戻される場合が多い。この際には、ブローバイガス中の凝縮した液滴の処理について問題が生じる。この液滴には、燃料成分ばかりでなく、炭素成分といった粒子成分も混在している。そのため、この液滴が付着すると、固形化するおそれが高い。
【0004】
したがって、スロットルボディのスロットル軸芯などに液滴が付着すると、スロットルの動作を著しく阻害し、動作不良の原因となる場合がある。
【0005】
特許文献1では、スロットルの直前に吸気通路の開口径を狭くするようなフランジ状の突出壁部を形成する技術が開示されている。この突出壁部によってスロットル側に流れる液滴の進行を防止するとされている。
【0006】
また特許文献2では、ダウンフロー型の吸気通路において、スロットルの軸芯ではなく、スロットルが開く際に下側に開く側のスロットルバルブ側に液滴を誘導するための、環状段部を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平02−119970号公報
【特許文献2】特開2003−120245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、吸気路中に突出壁部を設けた場合は、吸気路の開口径が狭くなる。また、吸気路中の突出壁部は、吸気の流れを阻害し、突出壁部の付近で吸気流が乱気流を生じる可能性がある。吸気に乱気流が生じると、燃焼室への吸気の流れまで影響を受け、エンジンの吹き上がりが悪化するなどの弊害を生じる。
【0009】
また、特許文献2のように吸気路内面に環状の段差を設けるのは、吸気経路を一体成形する場合には、金型が複雑化する。また、分割して成形する場合にしても、後からの繋ぎ合せの際の段差の繋ぎ合せ部分の精度といった点に注意が必要となり、製造が煩雑になるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みて想到された発明である。より具体的には、
エアクリーナとスロットルバルブとの間に設けられ、エンジン本体からのブローバイガス通路が接続される吸気通路の構造であって、
前記スロットルボディ入口から前記エアクリーナ側に向かって
、吸気通路フロアと吸気通路ルーフの
両方に重力下方に向かって凸形溝形状が形成され、
前記凸形溝形状は、前記エアクリーナ側から前記スロットルボディ入口に向かって、前記スロットルボディ入口よりも狭い幅になるように溝幅が狭くな
り、
前記ルーフ側の凸形溝形状の幅は、前記フロア側の凸形溝形状の幅より狭く、
前記スロットルバルブの回転軸は、前記フロア側の凸形溝形状の形成方向に対して略直角に配置されることを特徴とする吸気通路構造である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸気構造では、ブローバイガス通路に発生した凝縮水(液滴)が溝形状を伝い、スロットル回転軸の中央付近に流れるので、回転軸端に液滴が付着せず、スロットル開閉不具合の発生を防止することができる。
【0012】
また、溝形状が吸気通路に沿って設けられるので、吸気の流れを阻害することがないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の吸気通路構造を搭載したエンジンの概略的な構成を示す図である。
【
図2】本発明に係るエアクリーナキャップの上面視を示す図である。
【
図3】
図2のA−AおよびB−Bの断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、下記の実施形態を変形してもよい。
【0015】
図1に本発明の吸気通路構造1を有するエンジンの概略図を示す。
図1は、シリンダブロック2、シリンダヘッド3およびヘッドカバー4と、ヘッドカバー4の上方に配置されたエアクリーナ9およびエアクリーナキャップ10を示している。エアクリーナ9には、エアクリーナパイプ8が連結されている。矢印11i方向は、エンジンの吸気側であり、矢印11e方向がエンジンの排気側である。吸気はエアクリーナパイプ8から導入され、エキゾーストマニホールド13の上方を通過し、エアクリーナ9に導入される。エアクリーナ9からの吸気がエアクリーナキャップ10に導入される。
【0016】
エアクリーナキャップ10は、ヘッドカバー4上部に配置される。エアクリーナキャップ10は、ヘッドカバー4の上部の略中央付近で吸気側11iに曲がる略L字形状をしている。エアクリーナキャップ10の下流端10eには、下方に向けて開口10hが形成される。この開口10hはスロットルボディ15(
図3(a)参照)の入口15i(
図2参照)に連通している。スロットルボディ15の下方には、サージタンクおよび各気筒への吸気配管が配置されている。
【0017】
図2にエアクリーナキャップ10の上面視を示す。実線はエアクリーナキャップ10の底面を表す。この底面は、吸気通路フロア10f(
図3(a)参照)である。また、一点差線は、エアクリーナキャップ10の天面の内面側を表す。エアクリーナキャップ10の天面は、吸気通路ルーフ10r(
図3(a)参照)である。
【0018】
また、図面の上側がエアクリーナ9との接続口方向である。従って、吸気は図面上方から下方に向かって流れ、左方向(吸気側11i)に曲がって、スロットルボディ15の入口15iに流れる。スロットルボディ15には、スロットルバルブ15bが配置されている。
【0019】
スロットルバルブ15bは回転軸15xで回転可能に枢支されていて、スロットルの操作によって回転軸15xを中心に回転する。この回転によってスロットルボディ15の入口15iの開口度が変化する。この回転軸15xは、吸気の上流側から下流側に向かう流線16に対して略直角に配置されている。そして、スロットルバルブ15bは、吸気の流れの上流側に当たる15dが下側(紙面に対して向こう側)に向かって回転する。
【0020】
なお、ここで、流線16とは、エアクリーナキャップ10の下流端10eの開口10h近傍における吸気の上流側から下流側に向かう方向を示す仮想線である。エアクリーナキャップ10の開口10hの上流側には、ブローバイガスの排出口18が形成されている。
【0021】
吸気通路フロア10fには、開口10hの近傍に、開口10hの直径20より小さな幅から上流に向かうにしたがって、幅が広くなるフロア溝形状22が形成されている。このフロア溝形状22は、開口10hからブローバイガス排出口18に至るまでの少なくとも1/4の長さは形成するのが好ましい。このフロア溝形状22は、重力方向で下方に凸形状をした溝である。
【0022】
また、吸気通路ルーフ10rには、吸気通路フロア10fのフロア溝形状22の溝幅22wより狭いルーフ凸形状24が形成されている。ルーフ凸形状24は、重力方向下方に突出する凸形状である。また、このルーフ凸形状24は、エアクリーナキャップ10の終端10tまで形成されていてよい。
【0023】
このエアクリーナキャップ10の終端10t部分における吸気通路フロア10fには、終端10tから開口10hに向けて幅の狭くなる終端部フロア溝形状23が形成されている。
【0024】
図3(a)は、
図2のA−Aの断面図を示す。吸気は図面右方向から開口10hに向かって流れる。エアクリーナキャップ10は、上下の部材を付き合わせることによって形成されている。上部材10uは吸気通路ルーフ10rを構成し、下部材10dは吸気通路フロア10fを構成する。吸気通路フロア10fおよび吸気通路ルーフ10rは略水平である。
【0025】
図3(b)は、
図2のB−Bの断面図を表す。上述したように、吸気通路フロア10fに形成されたフロア溝形状22は、重力下方向に凹んだ溝である。また、吸気通路ルーフ10rに形成されたルーフ凸形状24も、重力下方に凹んだ溝であり、吸気通路内面から見ると、吸気通路ルーフ10rに形成された突起形状である。
【0026】
再び
図2を参照して、本発明の吸気通路構造1の作用を説明する。エアクリーナパイプ8からの吸気はエアクリーナ9を経由してエアクリーナキャップ10に導入される。エアクリーナキャップ10では、吸気は開口10h(
図3(a)参照)に向かって流れる。その際に、ブローバイガス排出口18から排出されたブローバイガスが吸気と混合され、開口10hへ流れる。開口10hはスロットルボディ15の入口15iに連通されている。
【0027】
比較的高温のブローバイガス中に存在する水分は、エアクリーナキャップ10内で急激に熱を失うため、凝集し液滴となる。この液的中には、カーボン等の微粒子成分も含まれている。この液滴は、エアクリーナキャップ10内の内壁で凝集し液滴となる。吸気通路内には、開口10hに向かう空気の流れがあるため、これらの液滴は、開口10hに向かって移動する。
【0028】
この時、吸気通路内の側面で凝集した液滴は、重力によって吸気通路フロア10f(
図3(a)参照)側に流れる。また、吸気通路内の天面で凝集した液滴は、吸気通路フロア10f側に流れるか、若しくは吸気通路ルーフ10r(
図3(a)参照)のルーフ凸形状24に向かって流れる。天面側では、ルーフ凸形状24の方が低いからである。
【0029】
吸気通路フロア10fを流れる液滴は、開口10h付近でフロア溝形状22の溝形状に流れ込む。フロア溝形状22の溝幅22wは、開口10hでは、開口10hの直径20より狭くなっている。したがって、スロットルバルブ15bの回転軸15xに液滴が付着することなく、スロットルボディ15を通過する。したがって、ブローバイガスによるスロットルバルブ15bの動作不良は発生しない。
【0030】
また、吸気通路ルーフ10rのルーフ凸形状24を流れる液滴はフロア溝形状22の溝幅22wより狭いので、フロア溝形状22に落下する、若しくはエアクリーナキャップ10の終端10tまで流れる。
【0031】
図3(a)を参照して、エアクリーナキャップ10の終端10tまで流れた液滴は、吸気通路フロア10fの開口10hより奥側に形成された終端部フロア溝形状23(
図2参照)、で捕獲され、開口10hに送り込まれる。この時終端部フロア溝形状23の溝幅22w(
図2参照)も開口10hの直径20より狭く形成されているので、液滴がスロットルの回転軸15xに付着することがない。従って、スロットルバルブ15bの動作不良が発生することはない。
【0032】
以上のように本発明の吸気通路構造では、ブローバイガスが混入した液滴をスロットルボディ入口15iの直径20より狭い幅で誘導するため、液滴が回転軸15xに付着しない。したがって、スロットルの動作不良という問題を回避することができる。なお、フロア溝形状22若しくはルーフ凸形状24は少なくともいずれか一方が形成されていればよく、好ましくはフロア溝形状22は形成されているのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、エンジンの吸気系の構造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 吸気通路構造
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 ヘッドカバー
8 エアクリーナパイプ
9 エアクリーナ
10 エアクリーナキャップ
10e (エアクリーナキャップの)下流端
10f 吸気通路フロア
10h (エアクリーナキャップの下流端の)開口
10r 吸気通路ルーフ
11i 吸気側
11e 排気側
13 エキゾーストマニホールド
15 スロットルボディ
15i (スロットルボディの)入口
15x 回転軸
16 流線
18 ブローバイガス排出口
19 流線
20 (開口の)直径
22 フロア溝形状
22w (フロア溝形状の)溝幅
23 終端部フロア溝形状
24 ルーフ凸形状