特許第5909778号(P5909778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909778
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】分散体
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160414BHJP
   B01J 23/88 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   C01B31/02 101F
   B01J23/88 M
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-135319(P2012-135319)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1084(P2014-1084A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 正実
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−297255(JP,A)
【文献】 特開2012−021070(JP,A)
【文献】 特開2012−021071(JP,A)
【文献】 特開2006−298713(JP,A)
【文献】 特開2007−169120(JP,A)
【文献】 特開2007−169121(JP,A)
【文献】 特開2005−220245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00 − 31/36
B01J 21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ集合体と、アミン価を有する分散剤(A)および/または酸価を有する分散剤(B)とを、分散媒に分散させてなる分散体であって、カーボンナノチューブ集合体の膨潤率が5以上であり、アミン価を有する分散剤(A)の固形分のアミン価が5〜100mgKOH/gであり、酸価を有する分散剤(B)の固形分が5〜120mgKOH/gであることを特徴とする分散体。
【請求項2】
分散媒が、アルコール類、炭化水素類、環式及び非環式エーテル類、モノカルボン酸エステル・ジ又はポリカルボン酸エステル等のカルボン酸エステル類、エーテルエステル類、ラクトン類、アルデヒド及びケトン類、酸アミド類、アミン類、および、ラクタム類から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒を混合した分散媒であることを特徴とする、請求項1記載の分散体。
【請求項3】
膨潤率が5以上であるカーボンナノチューブ集合体のアミン吸着量が5〜500μmol/g、且つ酸吸着量が1〜100μmol/gであることを特徴とする、請求項1または2記載の分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒にカーボンナノチューブ集合体を分散させてなる分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブに代表される筒状の形状を持った炭素材料は、その直径は数nmから数100nmで、長さは数10nmから1mmであり、アスペクト比が大きく、高い導電性、機械的強度を有することから、燃料電池、電極、電磁波シールド材、導電性樹脂、電界放出ディスプレー(FED)用部材、水素を始めとする各種ガスの吸蔵材料などの機能性材料として、エレクトロニクス、エネルギー分野等の幅広い分野への利用が期待されている。
【0003】
通常、カーボンナノチューブは隣接するカーボンナノチューブ同士が絡まり合った凝集物(以下、カーボンナノチューブ集合体と称する)として得られる。一般に、カーボンナノチューブを使用する場合には、溶液中に微分散していることが好ましい。しかし、カーボンナノチューブそのものは、親水性液体にも疎水性液体にも分散しにくいのが現状である。
【0004】
現在まで、様々な方法で分散やインキ化を試みた検討がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。これらの文献では、カーボンナノチューブを分散させるための分散剤の検討や、カーボンナノチューブ自体を化学修飾して易分散化(特許文献3等参照)等が検討されている。また、カーボンナノチューブの合成に使用した触媒を、除去等の為の酸性処理を行わずに、塩基性を示すカーボンナノチューブを用いて、分散性、分散安定性を改善する検討(特許文献4等参照)もなされているが、いずれも満足できるものではなく、未だ十分な分散性、分散安定性に優れた分散体が得られていないため、導電材料等への展開が困難であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−238126号公報
【特許文献2】特開2004−276232号公報
【特許文献3】特表2008−517863号公報
【特許文献4】特開2007−297255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、凝集しやすい、筒状の形状を持ったカーボンナノチューブ集合体、特に膨潤性に優れるカーボンナノチューブ集合体を有機溶媒等の分散媒に均一に分散させて、沈殿を生じなく、低粘度であり、また保存経時後でも粘度変化が小さく、沈殿を生じない、保存安定性が良好な分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、膨潤率が5以上であるカーボンナノチューブ集合体と、酸価を有する分散剤またはアミン価を有する分散剤、および/または酸価を有する分散剤とアミン価を有する分散剤の組み合わせとを、有機溶媒等の分散媒に分散してなる分散体が、極めて良好な分散性、保存安定性を示すことを見いだしたものである。
【0008】
すなわち本発明は、カーボンナノチューブ集合体と、アミン価を有する分散剤(A)および/または酸価を有する分散剤(B)とを、分散媒に分散させてなる分散体であって、カーボンナノチューブ集合体の膨潤率が5以上であり、アミン価を有する分散剤(A)の固形分のアミン価が5〜100mgKOH/gであり、酸価を有する分散剤(B)の固形分が5〜120mgKOH/gであることを特徴とする分散体に関する。
【0009】
また本発明は、分散媒が、アルコール類、炭化水素類、環式及び非環式エーテル類、モノカルボン酸エステル・ジ又はポリカルボン酸エステル等のカルボン酸エステル類、エーテルエステル類、ラクトン類、アルデヒド及びケトン類、酸アミド類、アミン類、および、ラクタム類から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒を混合した分散媒であることを特徴とする、上記記載の分散体に関する。
【0010】
また本発明は、膨潤率が5以上であるカーボンナノチューブ集合体のアミン吸着量が5〜500μmol/g、且つ酸吸着量が1〜100μmol/gであることを特徴とする、上記記載の分散体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって得られるカーボンナノチューブ集合体の分散体は、低粘度で沈殿物が生じなく、分散媒中に極めて良好な分散性を示した。また、保存経時することによる粘度変化が小さく、また沈殿も生じなく、良好な保存安定性を示し、導電用材料等への展開が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の分散体の各構成要素について説明する。
【0013】
[カーボンナノチューブ集合体]
本発明の分散体に用いる、膨潤率が5以上のカーボンナノチューブ集合体(以下、単にカーボンナノチューブ集合体と称する)について説明する。
【0014】
本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体は、5以上の膨潤率を有することで、容易にほぐれ易く、また分散性に優れ、少ない配合量で高い導電性を有する材料を提供できる。ここで、カーボンナノチューブ集合体がほぐれるとは、該集合体中の絡まっているカーボンナノチューブ間の距離が大きくなることであり、ほぐれ易さとは、該集合体中のカーボンナノチューブ間に樹脂や溶媒等の分散媒体を容易に取り込み、カーボンナノチューブ同士の距離が大きくなることにより集合体が膨潤して大きくなることであると考えられるものである。そこで、本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体のほぐれ易さの指標として、室温におけるメタノール中での膨潤率で表した。
【0015】
膨潤率は、下記で示した方法で測定し、式(1)により算出した。
【0016】
直径35mm×高さ78mmのガラス瓶に、メタノール40ccと評価用のカーボンナノチューブ粉体0.2gを量り取り、室温で60分放置後溶媒中のカーボンナノチューブ集合体の高さを測定し、分散処理前の高さとした。BRANSON製 超音波分散機 SONIFIER MODEL450Dを用いて、出力5Wで30分処理し、60分静置した後、溶媒中のカーボンナノチューブ集合体の高さを測定し、超音波分散処理後の高さとした。

膨潤率=超音波分散処理後の高さ÷分散処理前の高さ ・・・・式(1)
【0017】
本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体の膨潤率は5以上であることが重要であり、更に好ましくは10以上である。膨潤率が5未満であると、分散媒体を容易に取り込み難く、優れた分散性、保存安定性が得られない。一方、膨潤率が50以上であると、該集合体を形成するカーボンナノチューブのアスペクト比(カーボンナノチューブの直径に対する長さの比)が小さくなり、優れた導電性が得られにくくなる場合があり、膨潤率は50未満であることがより好ましい。
【0018】
本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体は、膨潤率5以上、より好ましくは膨潤率5以上50未満の特性を有しているものである。
【0019】
次に、本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体の表面官能基の推量方法について説明する。
【0020】
一般的に、カーボンナノチューブ集合体の表面には、酸性を呈する部位と塩基性を呈する部位が存在することが知られている。
【0021】
更に、カーボンナノチューブの製造には金属化合物が触媒として使用され、カーボンナノチューブを生成後、硝酸や硫酸などの強酸で洗浄し、カーボンナノチューブから触媒として用いた金属化合物を取り除くことを行うことにより、カーボンナノチューブの表面はさらに酸化されて酸性を呈する官能基量が増大することも知られており、必要に応じて強酸洗浄を行っても良い。
【0022】
また、酸性を呈する部位や塩基性を呈する部位の量を推量することは、カーボンナノチューブ集合体を分散安定化させるのに用いる分散剤を選択する際に有用であることが知られている。
【0023】
一般的に、酸性を呈する部位の量を推量する時は、カーボンナノチューブ集合体のアミン吸着量を用いて、塩基性を呈する部位の量を推量する時は酸吸着量を用いて推量することができることが知られている。
【0024】
後記で説明する本発明に用いる分散剤は、カーボンナノチューブ集合体の酸性を呈する部位に対しては、分散剤中のアミン価を有する部位が吸着しやすく、また塩基性を呈する部位に対しては、分散体中の酸価を有する部位が吸着しやすいと考えられる。
【0025】
本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体のアミン吸着量と酸吸着量は、色材, 67 [9], 547−554 (1994)に記載の方法に則り、アミン吸着量は、被吸着アミン物質としてn−ヘキシルアミンを用いて、酸吸着量は、被吸着酸物質として酢酸を用いて測定した場合と定義し、次のようにして測定した。
【0026】
アミン吸着量は、密閉できるガラス容器に、測定する試料2gを測り取り、0.02mol/lのn−ヘキシルアミン(吸着物質)のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液30ml加えた。容器に栓をして超音波洗浄機に1時間かけ、カーボンナノチューブ集合体の表面に吸着物質を吸着させた。遠心分離機にかけてカーボンナノチューブ集合体を沈降させ上澄み液を得た。上澄み液を15ml採取し、0.02mol/lの過塩素酸ジオキサン溶液にて残存したn−ヘキシルアミンを電位差滴定装置により逆滴定した。ブランクを測定し、定量してアミン吸着量が得られた。
【0027】
酸吸着量は、吸着物質として0.02mol/lの酢酸のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を、逆滴定に0.02mol/lの水酸化カリウムのエタノール溶液を用いた他はアミン吸着量の測定と同様にして測定した。ブランクを測定し、定量して酸吸着量が得られた。
【0028】
本発明の分散体に用いる前記のカーボンナノチューブ集合体は、膨潤率が5以上であることに加えて、アミン吸着量が、5〜500μmol/gである。アミン吸着量が5μmol/g未満であると、後述する分散剤中のアミン価を有する部位との相互作用が小さくなり、分散性、保存安定性が劣る。一方、500μmol/gより大きいと、後述する分散剤中のアミン価を有する部位との相互作用が強くなりすぎること、且つ酸価を有する部位との反発が強くなりすぎることにより、分散が困難となる。より好ましくは10〜300μmol/gであり、更に好ましくは20〜250μmol/gである。
【0029】
また、本発明の分散体に用いる前記の膨潤率が5以上のカーボンナノチューブ集合体の酸吸着量は、1〜100μmol/gである。酸吸着量が1μmol/g未満であると、後述する分散剤中の酸価を有する部位との相互作用が小さくなり、分散安定性が劣る。一方、100μmol/gより大きいと、後述する分散剤中の酸価を有する部位との相互作用が大きすぎること、且つアミン価を有する部位との反発が強くなりすぎることにより、分散が困難となる。より好ましくは3〜80μmol/gであり、更に好ましくは5〜70μmol/gである。
【0030】
次に、本発明の分散体に用いる、前記の膨潤率が5以上のカーボンナノチューブ集合体を得るためのカーボンナノチューブ合成用触媒(C)(以下、単にカーボンナノチューブ合成用触媒(C)または触媒(C)と称する)について説明する。
【0031】
カーボンナノチューブ合成用触媒(C)は、膨潤率を制御する重要な因子であり、組成、物性と作成条件を最適化することが重要である。
【0032】
本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体を得るためのカーボンナノチューブ合成用触媒(C)は、鉄、コバルト、および、ニッケルの少なくともいずれか1つ以上の活性成分の金属元素を含む水溶性の有機酸塩と、マグネシウムおよびアルミニウムの少なくともいずれか1つ以上の担体成分の金属元素を含む水溶性の有機酸塩、および/または、担体成分の金属元素の水酸化物と、必要に応じて、モリブデンを含む水溶性の金属塩とを、水溶液中に溶解、ないし担体成分の金属元素の水酸化物は、水に分散して混合し、100〜200℃の温度で、溶媒を除去、固形化し、さらに空気中で微細化処理して、平均粒径(D50)が50μm以下の触媒前駆体を作成した後、前記触媒前駆体を、酸素の存在下、焼成温度350〜550℃の範囲で加熱し、冷却した後、得られた焼成物を粉砕して、平均粒径(D50)が、0.1〜5μmの範囲とすることが好ましい。
【0033】
本発明の分散体に用いるカーボンナノチューブ集合体を得るためのカーボンナノチューブ合成用触媒(C)において、活性成分である、鉄、コバルト、および、ニッケルの少なくともいずれか1つ以上の活性成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩と、担体成分である、マグネシウムおよびアルミニウムの少なくともいずれか1つ以上の担体成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩、または前記担体成分の金属元素を含む水酸化物との割合は、得られるカーボンナノチューブ合成用触媒(C)中の、前記活性成分と前記担体成分との合計100モル%に対する前記活性成分の含有割合が50〜80%であることが好ましい。
【0034】
また、前記活性成分の活性度を向上させる助触媒成分としての酸化モリブデンの原料となるモリブデンを含む水溶性の金属塩の割合は、得られる触媒中の前記活性成分の100モル%に対して1モル%〜20モル%であることが好ましい。
【0035】
本発明に用いるカーボンナノチューブ集合体を製造するためのカーボンナノチューブ合成用触媒(C)は、以下(1)〜(3)の工程を経て得られるものである。
【0036】
前記のカーボンナノチューブ合成用触媒(C)の工程(1)は、鉄、コバルト、および、ニッケルの少なくともいずれか1つ以上の活性成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩と、マグネシウムおよびアルミニウムの少なくともいずれか1つ以上の担体成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩、または前記担体成分の金属元素を含む水酸化物とを、水溶媒中に溶解および/または分散し、混合する工程である。
【0037】
工程(1)において、鉄、コバルト、および、ニッケルの少なくともいずれか1つ以上の活性成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩は、触媒の活性成分としての、それぞれ酸化鉄、酸化コバルト、および、酸化ニッケルの原料となる。また、水溶性のマグネシウムの有機金属塩や水分散性のマグネシウム、および、アルミニウムの水酸化物は、前記活性成分の担体としてのマグネシア、および、アルミナの原料となる。
【0038】
活性成分の鉄、コバルト、および、ニッケルの少なくともいずれか1つ以上の活性成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩は、例えば酢酸塩、クエン酸塩等を例示できる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。中でも、コバルト化合物塩とニッケル化合物塩については無水酢酸塩、酢酸塩水和物、クエン酸塩が、鉄化合物塩についてはクエン酸塩、クエン酸鉄アンモニウム塩が水溶性の点において好ましい。
【0039】
担体成分の原料であるマグネシウムおよびアルミニウムの少なくともいずれか1つ以上の担体成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩、または前記担体成分の金属元素を含む水酸化物としては、例えば酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムを例示できる。
【0040】
触媒の製造に用いる前記活性成分の水溶性の有機金属塩と、前記担体成分の水溶性の有機金属塩は、水に溶解させて混合する。また、活性成分の有機金属塩と担体成分の有機金属塩は、所定量を混合してから水に溶解させてもよく、また、それぞれを単独で水に溶解させてから、所定量を混合しても良い。また、水に溶解させる時に、溶解性を向上させるために、水が沸騰しない範囲で加熱しても良い。
【0041】
また、担体成分の水分散性のマグネシウムおよびアルミニウムの水酸化物は、単独で所定量を水に分散した後、前記活性成分と混合してもよく、また、前記活性成分と所定量を混合してから水に分散させても良い。
【0042】
更に、水分散させる際に、ビーズミル分散機等を使用して、微細分散を行っても良い。
【0043】
工程(1)に、さらにモリブデンを含む水溶性の金属塩を、溶液中に含有することもできる。モリブデンを含む水溶性の金属塩は、前記触媒活性成分の活性度を向上させる助触媒成分としての酸化モリブデンの原料となる。モリブデンを含む水溶性の金属塩は、前記活性成分および/または前記担体成分と所定量を混合してから水に溶解させても良く、また、前記助触媒成分を単独で水に溶解させてから、前記活性成分および/または前記担体成分と混合しても良い。
【0044】
モリブデンを含む水溶性の金属塩は、例えばモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム、リンモリブデン酸等を例示できる。
【0045】
次に、前記のカーボンナノチューブ合成用触媒の工程(2)について説明する。
【0046】
工程(2)は、工程(1)で得られた、鉄、コバルト、および、ニッケルの少なくともいずれか1つ以上の活性成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩と、マグネシウムおよびアルミニウムの少なくともいずれか1つ以上の担体成分の金属元素を含む水溶性の有機金属塩、または前記担体成分の金属元素を含む水酸化物とを、水溶媒中に溶解および/または分散し、混合した溶液を、空気雰囲気下で、もしくは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で100〜200℃の範囲の温度で、乾燥して水分を除去して固形化し、さらに空気中で微細化処理して、平均粒径(D50)が50μm以下の触媒前駆体を作製する工程である。
【0047】
ここで、粉体の平均粒径(D50)は、Malvern Instruments社製の粉体粒度分布計mastersizer2000を用いて乾式で測定し、積算(累積)重量百分率で積算値50%の粒度を平均粒径(D50)として算出した。
【0048】
工程(2)の触媒前駆体を製造する際に、乾燥して水分を除去するときの温度が重要であり、好ましくは100℃以上200℃以下である。
【0049】
乾燥時の温度が200℃を超えてしまうと、乾燥と同時に有機酸塩の一部で分解が起こり、前記の活性成分の担体としてのマグネシア、および、アルミナの原料となる、水溶性のマグネシウムの有機金属塩と均一に混合することができなくなるか、あるいは、水分散性のマグネシウム、および、アルミニウムの水酸化物の分散体表面に均一に存在することができなくなるため、乾燥して水分を除去して固形化した時に触媒の活性成分が微細に均一に存在できなくなるため好ましくない。
【0050】
一方、乾燥温度が100℃未満であると、水分の乾燥に長時間かかるため、量産をする上で好ましくない。また、水分が残存していると、後述の微細化処理が難しく、触媒前駆体に適度の空気を含むことが難しくなってしまうため好ましくない。
【0051】
工程(2)において、触媒前駆体を製造するときに、乾燥して水分を除去するときの温度は、好ましくは100℃以上200℃以下であるが、より好ましくは120℃以上170℃以下である。触媒前駆体を量産する際は、短時間で乾燥するように、できるだけ高温の雰囲気下が好ましいが、一方、高温の雰囲気下では、乾燥と同時に有機金属塩の一部で分解が起こり易いため、できるだけ低温の雰囲気下での乾燥が好ましい。120℃以上170℃以下の温度範囲は、短時間での乾燥性と有機金属塩の分解の起こり難さをいずれも満足する。
【0052】
工程(2)において、乾燥して水分を除去して固形化した後、さらに微細化処理して、平均粒径(D50)が50μm以下の触媒前駆体を得ることが好ましい。
【0053】
前記の触媒前駆体は、乾燥して水分を除去して固形化した後、微細化処理することにより製造されるが、50μm以下の平均粒径(D50)まで微細化することにより、適度の空気を含むことができるようになる為、後述の工程(3)の触媒前駆体を焼成するときに、活性成分と担持成分双方の有機金属塩の有機化合物部位を効率的に分解させて消失させることができるようになる。一方、乾燥して水分を除去して固形化した後、微細化処理しないで焼成処理する、あるいは、50μm以下の平均粒径(D50)まで微細化処理しないで焼成を行うと、有機金属塩の有機化合物部位が完全に分解消失しないで、多量の炭素質不純物が触媒中に残り、カーボンナノチューブにおける異物の原因となり、また担体成分への活性成分粒子の均一担持が不十分となるため好ましくない。
【0054】
工程(2)において、平均粒径(D50)が50μm以下の触媒前駆体を作成することが好ましいが、より好ましくは1μm以上30μm以下である。平均粒径(D50)が小さい方がより多くの空気を含むことができるようになる為、後述の工程(3)の触媒前駆体を焼成するときに、有機金属塩の有機化合物部位をより効率的に分解させて消失させることができる。一方、平均粒径(D50)が1μm未満であると、工程(3)の焼成時に浮遊してしまい、結果として周囲の焼成雰囲気の汚染や焼成物の収率低下を起こしてしまうため、平均粒径(D50)は大きい方が望ましい。1μm以上30μm以下の平均粒径(D50)は、工程(3)の焼成時の効率的な分解と汚染や収率低下の問題をいずれも満足する。
【0055】
工程(2)において、触媒前駆体製造時の微細化処理手段としては特に制限はないが、少量の場合は乳鉢を用いて、一度に多量を処理する場合は、ピンミル、ハンマーミル、パルペライザー、ターボミル、クリプトロンKTM等の機械式粉砕機、ジェットミル等の衝突式粉砕機を用いることができる。
【0056】
次に、前記のカーボンナノチューブ合成用触媒の工程(3)について説明する。
【0057】
工程(3)は、工程(2)で得られた前記触媒前駆体を、酸素の存在下、焼成温度350〜550℃の範囲で加熱し、冷却した後、得られた焼成物を粉砕して平均粒径(D50)が5μm以下のカーボンナノチューブ合成用触媒を得る工程である。
【0058】
工程(3)において、触媒前駆体を焼成するとき、焼成雰囲気として酸素の存在下、空気中ないし空気と窒素混合雰囲気を用いることが重要である。酸素の欠乏雰囲気下での焼成では、活性成分と担持成分に由来する有機金属塩の有機化合物部位が完全に分解消失しないで、多量の炭素質不純物(以下、残炭分と称する)が触媒中に残り、カーボンナノチューブにおける異物の原因となり、また担体成分への活性成分粒子の均一担持が不十分となるため好ましくない。
【0059】
工程(3)において、焼成は、350℃以上550℃以下で行われることが好ましい。焼成温度が550℃よりも高いと活性成分の金属元素が焼結してしまい、350℃よりも低いと有機金属塩の有機化合物部位が未分解となり、多量の残炭分が触媒中に残り、カーボンナノチューブにおける異物の原因となり、また担体成分への活性成分粒子の均一担持が不十分となるため好ましくない。
【0060】
工程(3)において、焼成は、より好ましくは350℃以上500℃以下、さらに好ましくは370℃以上470℃以下である。有機金属塩の有機化合物部位は燃焼により、分解・気化し、排出され、残炭分が望ましい範囲まで少なくなるには、できるだけ高温の雰囲気下で焼成することが好ましい。一方、高温の雰囲気下では活性成分の金属元素が焼結を起こしてしまい、後述のカーボンナノチューブ析出反応の効率が低下してしまう可能性があること、および急激な析出反応が起こるため生成するカーボンナノチューブの絡まりが大きくなり、分散性に劣るカーボンナノチューブ集合体となってしまうため好ましくない。
【0061】
焼結を起こさせないためには、できるだけ低温の雰囲気下で焼成することが好ましい。370℃以上470℃以下の温度範囲は、この残炭分と焼結のいずれも満足する。
【0062】
工程(3)の焼成により、活性成分は鉄、コバルト、および、ニッケルのいずれかの酸化物、担体成分はマグネシア、および、アルミナのいずれかとなり、前記の鉄、コバルト、および、ニッケルのいずれかの酸化物が、前記のマグネシア、および、アルミナのいずれかに担持された触媒が得られる。
【0063】
工程(3)において、このようにして得られた焼成物を更に微粉砕して平均粒径(D50)が5μm以下の微粒子状の触媒とすることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上5μm以下である。
【0064】
工程(3)の微粉砕手段としては特に制限はないが、少量の場合は乳鉢を用いて、一度に多量を処理する場合は、ピンミル、ハンマーミル、パルペライザー、ジェットミル等を用いることができる。また、微粉砕後に分級機を用いることにより、粒度分布を調整することが好ましい。例えば、このジェットミルによる微粉砕時に、圧縮気体(通常、空気もしくは窒素が用いられる。)の圧力を制御するか、後段への分級機設置により粉砕粒度を調整して、所望の粒径の微粒子状触媒を得ることができる。分級機としては、エルボージェット分級機、気流式分級機、回転式分級機等を用いることができる。
【0065】
この様に、工程(1)〜(3)を経ることによって、本発明の分散体に用いる前記カーボンナノチューブ集合体を製造するための前記カーボンナノチューブ合成用触媒(C)が得られる。
【0066】
次に、得られた前記のカーボンナノチューブ合成用触媒(C)を使用し、本発明の分散体に用いる前記のカーボンナノチューブ集合体(D)の製造方法について説明する。
【0067】
本発明の分散体に用いる前記のカーボンナノチューブ集合体(D)を製造するには、触媒として前記のカーボンナノチューブ合成用触媒を用いて、炭素源としての原料ガスを加熱下、この触媒に接触させて、カーボンナノチューブの析出反応を行い製造する。
【0068】
カーボンナノチューブの炭素源としての原料ガスとしては、従来公知の任意のものを使用でき、例えば、炭素を含むガスとしてメタンやエチレン、プロパン、ブタン、アセチレンなどの炭化水素や、一酸化炭素、メタノールやエタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコールなどを用いることができるが、特に使い易さ等の理由により、プロパン、ブタンやエタノールを用いることが好ましい。
【0069】
また、必要に応じて、還元雰囲気下で活性化した後、又は還元性ガスと共にカーボンナノチューブ原料ガスと接触させて製造することが好ましい。活性化時における還元性ガスは、水素(H2)、アンモニア等を用いることができるが、特にH2が好ましく、その濃度は、原料ガス濃度100体積%に対して0.1〜100体積%、特に1〜100体積%であることが好ましい。還元性ガスの濃度が0.1体積%未満であると、濃度が薄すぎて還元性ガスの効果が期待できない。100体積%を超える濃度だと相対的に原料ガスが少なくなり、カーボンナノチューブ集合体の収率が低下してしまうため好ましくない。
【0070】
前記のカーボンナノチューブ集合体(D)を製造する方式としては、前記のカーボンナノチューブ合成用触媒(C)を、大気圧より減圧した雰囲気で原料ガスを導入する方式(以下、減圧法とする)でも良く、あるいは、大気圧下で原料ガスを導入する方式(以下、常圧法とする)でも良い。
【0071】
減圧法は、減圧が可能で、外部ヒーターで加熱が可能な反応管内に、前記のカーボンナノチューブ合成用触媒(C)を設置し、反応管内部の空気を真空ポンプで吸引して減圧後、窒素やアルゴン等の不活性ガスを導入して、更に吸引して減圧することで、反応管内の酸素濃度を0.1%以下とした後、所定の反応温度で炭化水素ガス、必要に応じて水素ガス等の還元性ガスを混合して反応管内に導入してカーボンナノチューブ集合体(D)を製造する方式である。
【0072】
常圧法は、常圧にて、窒素やアルゴン等の不活性ガスを導入して、反応管内部の空気を不活性ガスで置換して、反応管内の酸素濃度を0.1%以下とした後、所定の反応温度で炭化水素ガス、必要に応じて水素ガス等の還元性ガスを混合して反応管内に導入してカーボンナノチューブ集合体を製造する方式である。
【0073】
前記のカーボンナノチューブ合成用触媒(C)を用いて、前記のカーボンナノチューブ集合体(D)を製造する温度については、500〜1000℃の範囲で析出反応を行うことが好ましく、より好ましくは600〜900℃の範囲である。温度が500℃未満であると、析出反応がほとんど起こらずカーボンナノチューブ集合体が製造できない。温度が1000℃を超えると、前記得られたカーボンナノチューブ合成用触媒中の活性成分の焼結が発生し、カーボンナノチューブ析出反応の効率が低下してしまうこと、および急激な析出反応が起こるためカーボンナノチューブの絡まりが大きくなり、分散性に劣るカーボンナノチューブ集合体となってしまうため好ましくない。温度が600〜900℃は、ほぐれ易さを満足する。
【0074】
原料ガスの供給量は、従来公知の任意の値から、適宜選択し決定すれば良いが、反応圧力は、減圧法の場合は大気圧以下圧力100Pa以上が好ましい。圧力が100Pa未満であると原料ガスが少なく、収率が低下してしまうため好ましくない。
【0075】
常圧法の場合は、常圧以上40kPa以下、特に常圧以上30kPa以下とすることが好ましい。反応時間は、反応温度や触媒と原料ガスとの接触比率に応じて任意に設定されるが、通常0.5〜6時間程度である。本発明での反応速度は反応開始から約1時間で最大となり、その後、徐々に失速して反応開始から5〜5.5時間で停止する。従って、反応時間は0.5〜6時間の範囲で管理することが好ましい。
【0076】
反応終了後の原料ガス置換には、アルゴンガスや窒素等の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0077】
[分散剤(A),(B)]
次に、本発明の分散体に用いる分散剤(A)、(B)について説明する。
【0078】
本発明の分散体に用いるアミン価を有する分散剤(A)は、固形分のアミン価が5〜100mgKOH/gであることが重要であり、より好ましくはアミン価を有し酸価を有しない分散剤である。固形分のアミン価が5mgKOH/g未満であると、前記のカーボンナノチューブ集合体が有する酸性を呈する部位との相互作用が小さくなり、分散安定性が劣る。一方、100mgKOH/gより大きいと、酸性を呈する部位との相互作用が大きすぎて、分散が困難となる。また、アミン価と酸価の両方を有する分散剤であると、後述の酸価を有する分散剤(B)と併用する場合、分散剤(A)と分散剤(B)同士の相互作用が強くなり、分散剤(A)と分散剤(B)が凝集してしまって分散剤の効果が小さくなるため、アミン価を有し酸価を有しない分散剤であることが好ましい。
【0079】
本発明の分散体に用いる酸価を有する分散剤(B)は、固形分の酸価が5〜120mgKOH/gであることが重要であり、より好ましくは酸価を有しアミン価を有しない分散剤である。固形分の酸価が5mgKOH/g未満であると、前記のカーボンナノチューブ集合体が有する塩基性を呈する部位との相互作用が小さくなり、分散安定性が劣る。一方、120mgKOH/gより大きいと、塩基性を呈する部位との相互作用が大きすぎて、分散が困難となる。また、酸価とアミン価の両方を有する分散剤であると、前記のアミン価を有する分散剤(A)と併用する場合、分散剤(A)と分散剤(B)同士の相互作用が強くなり、分散剤(A)と分散剤(B)が凝集してしまって分散剤の効果が小さくなるため、酸価を有しアミン価を有しない分散剤であることが好ましい。
【0080】
ここで、本発明に用いる分散剤の固形分のアミン価は、ASTM D 2074の方法に準拠し、測定した全アミン価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0081】
また、本発明に用いる分散剤の固形分の酸価は、JIS K 0070の電位差滴定法に準拠し、測定した酸価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0082】
本発明に使用するアミン価を有する分散剤(A)としては、具体的には市販の分散剤であるDISPERBYK−2000(固形分のアミン価 10mgKOH/g)、DIPERBYK−167(固形分のアミン価 25mgKOH/g)、BYK−9077(固形分のアミン価(固形分のアミン価 49mgKOH/g)以上ビックケミー・ジャパン(株)社製、TEGO Dispers710(固形分のアミン価 86mgKOH/g)以上エポニックデグサ・ジャパン(株)社製等を例示できる。
【0083】
また、本発明に使用する酸価を有する分散剤(B)としては、具体的には市販の分散剤であるアジスパーPN−411(固形分の酸価 6mgKOH/g)以上味の素ファインテクノ(株)社製、DISPERBYK−2096(固形分の酸価 40mgKOH/g)以上ビックケミー・ジャパン(株)社製、TEGO Dispers630(固形分の酸価 100mgKOH/g)以上エポニックデグサ・ジャパン(株)社製等を例示できる。
【0084】
分散剤(A)および/または分散剤(B)は、前記のカーボンナノチューブ集合体と、分散媒と共に所定量を測り取り、予備混合をしてもよく、また、分散媒と共に所定量を測り取り、分散媒に溶解させた後、前記のカーボンナノチューブ集合体を測り取り、予備混合をしても良い。また、分散剤(A)と分散剤(B)を併用する場合、分散剤(A)と分散剤(B)の混合順は問わず、どちらを先に予備混合しても良い。
【0085】
分散剤(A)および/または分散剤(B)は、入手できる溶液または固形品をそのまま使用することも、必要に応じて分散剤を溶解できる溶媒に予め溶解させてから使用することもできるが、溶解性や前記のカーボンナノチューブ集合体と均一に相互作用させるためには、予め分散媒で希釈溶解させておくことが好ましい。
【0086】
[分散媒]
本発明で言う分散媒とは、アミン価を5mgKOH/g以上有する分散剤および/または酸価を5mgKOH/g以上有する分散剤を溶解し、かつカーボンナノチューブ集合体を分散できる分散媒であれば、特に種類は問わない。具体的には、次の(i)〜(xi)を例示することができる。
(i)アルコール、特にメタノール、エタノール、ブタノール、エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデシルアルコール、ベンジルアルコール、プロパルジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、オキソ−加工アルコール、ネオペンチルアルコール、シクロヘキサノール、脂肪アルコールのような直鎖、分枝又は環式の一価又は多価アルコール、及び、グリコールのようなジオール及びポリオール;
(ii)2−メトキシエタノール、モノフェニルヂグリコール、フェニルエタノール、エチレングリコール、及びポリプロピレングリコールのようなエーテルアルコール;
(iii)トルエン、キシレンのような炭化水素、脂肪族及び/若しくは脂環式ベンジン画分、クロロホルム及びトリクロロエタンのような塩素化炭化水素;
(iv)エーテル、特にジオキサン、テトラヒドロフラン、及びポリアルキレングリコールジアルキルエーテルのような環式及び非環式エーテル;
(v)カルボン酸エステル、特にエチルアセテート及びブチルアセテートのようなモノカルボン酸エステル、及びC2〜C4時カルボン酸のジアルキルエステルにようなのジカルボン酸又はポリカルボン酸エステル(「二塩基エステル」);
(vi)エーテルエステル、特にエチルグリコールアセテート及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのようなアルキルグリコールエステル;
(vii)ブチロラクトンのようなラクトン;
(viii)可塑剤、特にフタレート;
(ix)メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びアセトンのようなアルデヒド及びケトン;
(x)ジメチルホルムアミドのような酸アミド;
(xi)N−メチルピロリドン;及び上述した分散媒体の混合物
この中で、樹脂の溶解性や取扱い性などの観点より、メチルエチルケトンのようなケトン類や酢酸エチルのようなカルボン酸エステルが好ましい。
【0087】
[分散方法]
分散媒に、炭素材料を分散させる工程としては、特に限定はなく、公知の方法が用いられる。具体的には、例えば、ビーズミル分散法等のメディア分散法;超音波分散法、ロールミル分散法等のメディアレス分散法等が挙げられる。このうち、分散安定性等の点から、好ましくはロールミル分散法又はビーズミル分散法であり、特に好ましくはビーズミル分散法である。
【実施例】
【0088】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0089】
実施例中の表2〜9中の略称(溶剤・分散媒)は以下に示すとおりである。
・PGMAc:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
・MEK:メチルエチルケトン
【0090】
(製造例1)[カーボンナノチューブ合成用触媒(C)の製造]
酢酸コバルト・四水和物200部、酢酸マグネシウム・四水和物172部、七モリブデン酸六アンモニウム・四水和物3.5部をビーカーに量り取り、精製水を1488部加えて、完全に溶解するまで攪拌した。耐熱性容器に移し替え、電気オーブンを用いて、雰囲気温度150±5℃の温度で60分乾燥させ水分を蒸発させた後、乳鉢で粉砕して平均粒径(D50)20μmの触媒(C)前駆体を得た。得られた触媒(C)前駆体300部を耐熱容器に量り取り、マッフル炉にて、空気中450℃±5℃雰囲気下で60分焼成した後、乳鉢で粉砕して平均粒径(D50)2μmの触媒(C)を得た。
【0091】
(製造例2)[カーボンナノチューブ集合体(D−1)の製造]
減圧が可能で、外部ヒーターで加熱可能な横型反応管の中央部に、製造例1で得られた触媒(C)1.0g を散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。横型反応管中の空気を真空ポンプにて1×103Paまで減圧後、アルゴンガスを8×104Paまで注入し、再度真空ポンプにて1×103Paまで減圧する、を2回繰り返して、横型反応管中の酸素濃度を0.1体積%以下とした。1×103Paに保ちながら外部ヒーターにて加熱し、横型反応管の中心部が850℃まで加熱した。合成温度850±5℃に保ち、ブタン/プロパン混合ガスを注入し、3×104Pa〜6×104Paに反応管内の圧力を維持しながら3時間反応させてカーボンナノチューブ集合体を製造した。合成終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、200℃以下の温度で取り出し、カーボンナノチューブ集合体を得た。得られたカーボンナノチューブ集合体は、40メッシュの金網で粉砕ろ過して、製造例2のカーボンナノチューブ集合体(D−1)の粉体を得た。
【0092】
(製造例3)[カーボンナノチューブ集合体(D−2)の製造]
ある程度まで加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10リットルの横型反応管の中央部に、製造例1で得られた触媒(C)1.0g を散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。アルゴンガスを注入しながら排気をして、反応管内の空気をアルゴンガスで置換し、横型反応管中の酸素濃度を0.1体積%以下とした。外部ヒーターにて加熱し、横型反応管の中心部が750℃まで加熱した。合成温度750±5℃に保ち、ブタン/プロパン混合ガスを毎分1リットルの速度で注入し、3時間分反応させてカーボンナノチューブ集合体を製造した。合成終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、200℃以下の温度で取り出し、カーボンナノチューブ集合体を得た。得られたカーボンナノチューブ集合体は、40メッシュの金網で粉砕ろ過して、製造例3のカーボンナノチューブ集合体(D−2)の粉体を得た。
【0093】
(製造例4)[カーボンナノチューブ集合体(D−3)の製造]
ある程度まで加圧可能で、反応器の外側に設けられたヒーターで加熱可能な、内容積が80リットルの縦型反応器の内部にシリコン基板を設置し、該シリコン基板上に、製造例1で得られた触媒(C)10gを散布した。反応器内にアルゴンガスを注入しながら排気をして、反応器内の空気をアルゴンガスで置換し、酸素濃度を0.1体積%以下とした。反応器の外側ヒーターで加熱し、反応器内部温度を650℃まで加熱した。合成温度650±5℃に保ち、ブタン/プロパン混合ガスを毎分5リットルの速度で注入し、3時間反応させてカーボンナノチューブ集合体を製造した。合成終了後、反応器内のガスをアルゴンガスで置換し、200℃以下の温度で取り出し、カーボンナノチューブ集合体を得た。得られたカーボンナノチューブ集合体は、40メッシュの金網で粉砕ろ過して、製造例4のカーボンナノチューブ集合体(D−3)の紛体を得た。
【0094】
(製造例5)[カーボンナノチューブ集合体(D−4)の製造]
市販のCNano Technology Limited製カーボンナノチューブFloTube9000−Mを用いて、40メッシュの金網で粉砕ろ過して、製造例5のカーボンナノチューブ集合体(D−4)の粉末を得た。
【0095】
表1に、実施例中に用いたカーボンナノチューブ集合体(D−1〜D−4)の膨潤率、アミン吸着量、酸吸着量を示した。
【0096】
表1
【表1】
【0097】
(製造例6)[分散剤溶液の製造]
市販の分散剤であるDISPERBYK−2000、DISPERBYK−167、BYK−9077、DISPERBYK−2096、DISPERBYK−111,DISPERBYK−109(以上ビックケミー・ジャパン株式会社)、TEGO Dispers710、TEGO Dispers610、TEGO Dispers630(以上エポニックデグサ・ジャパン株式会社)、アジスパーPN−411(以上味の素ファインテクノ株式会社)を、表2〜3で示した配合比でプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)で希釈し、固形分40%の分散剤溶液E−1〜3、E−5〜10を得た。なお、分散剤溶液E−4については、希釈前の固形分が35%であり、希釈しないで用いた。
【0098】
表2
【表2】
【0099】
表3
【表3】
【0100】
(実施例1)
70ccガラス瓶に、製造例6にて製造した分散剤(A)溶液E−1を1.88部、カーボンナノチューブ集合体D−1を0.75部、分散媒(メチルエチルケトン)27.37部を配合し、2mmφジルコニアビーズ部を加えスキャンデックスで3時間分散し、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0101】
(実施例2〜6)
表4に示した分散剤(A)溶液の種類および配合量、カーボンナノチューブ集合体の種類、分散媒の配合量に変更した以外は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0102】
表4
【表4】
【0103】
(実施例7)
70ccガラス瓶に、製造例6にて製造した分散剤(B)溶液E−6を1.88部、カーボンナノチューブ集合体D−1を0.75部、分散媒(メチルエチルケトン)27.37部を配合し、2mmφジルコニアビーズ部を加えスキャンデックスで3時間分散し、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0104】
(実施例8〜11)
表5に示した分散剤(B)溶液の種類およびカーボンナノチューブ集合体の種類に変更した以外は実施例7と同様にして、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0105】
表5
【表5】
【0106】
(実施例12)
70ccガラス瓶に、製造例6にて製造した分散剤(A)溶液E−2を0.94部、分散剤(B)溶液E−7を0.94部、カーボンナノチューブ集合体D−1を0.75部、分散媒(メチルエチルケトン)27.3部を配合し、2mmφジルコニアビーズ部を加えスキャンデックスで3時間分散し、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0107】
(実施例13〜15)
表6に示した分散剤(A)溶液の種類および分散剤(B)溶液の種類、カーボンナノチューブ集合体の種類に変更した以外は実施例12と同様にして、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0108】
表6
【表6】
【0109】
(比較例1〜6)
表7に示した分散剤(A)溶液の種類および配合量、カーボンナノチューブ集合体の種類、分散媒の配合量に変更した以外は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0110】
表7
【表7】
【0111】
(比較例7〜11)
表8に示した分散剤(B)溶液の種類およびカーボンナノチューブ集合体の種類に変更した以外は実施例7と同様にして、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0112】
表8
【表8】
【0113】
(比較例12〜14)
表9に示した分散剤(A)溶液の種類および分散剤(B)溶液の種類、カーボンナノチューブ集合体の種類に変更した以外は実施例12と同様にして、カーボンナノチューブ集合体の分散体を調製した。
【0114】
表9
【表9】
【0115】
[カーボンナノチューブ集合体の分散体評価方法および結果]
本発明のカーボンナノチューブ分散組成物の分散状態の評価は、溶剤中で分散したカーボンナノチューブ分散組成物の分散状態(沈殿の有無、粘度、経時安定性)で行った。
・初期粘度:カーボンナノチューブ分散組成物を、分散後室温で1日静置後、 25℃に調整し、E型粘度計RE−80(東機産業社製)にて測定した。
・沈殿の有無:目視で沈殿の有無を確認し、全く沈殿の無いものを○、僅かに 沈殿が見られるものを△、沈殿の多いものを×とした。
・経時安定性:カーボンナノチューブ分散組成物を、40℃1ヶ月経時保存し た後、上記と同様にして、沈殿の有無、経時粘度を測定した。経時粘度につ いては、初期粘度からの変化が10%以内を◎、10〜30%以内を○、3 0〜100%以内を△、それ以上の変化または増粘して粘度が測定不能にな った場合を×とした。
【0116】
表10に、実施例1〜15のカーボンナノチューブ集合体の分散体評価結果(分散1日後および40℃30日経時後)を示した。
【0117】
表10
【表10】
【0118】
表11に、比較例1〜14のカーボンナノチューブ集合体の分散体評価結果(分散1日後および40℃30日経時後)を示した。
【0119】
表11
【表11】
【0120】
表10より、実施例1〜15で得られたカーボンナノチューブ集合体の分散体は、表11で得られた比較例1〜14と比較して、分散1日後および40℃30日経時後で良好な分散安定性を有していることが分かる。
【0121】
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。