【実施例】
【0034】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
[1:従来技術品との比較]
本発明のキサンタンガム造粒物、又は従来のキサンタンガム造粒物を用いて製造した増粘用組成物の分散性、粘度の立上りを以下の通り比較した。
【0036】
[1−1.本発明のキサンタンガム造粒物の調製]
[試作1]
キサンタンガム粉末(80メッシュパス品)3kgに対して水2.4kgをバインダー液として用い、転動流動層造粒機(ローターコンテナ付フローコーターFLO−05M、フロイント産業株式会社)によりキサンタンガム造粒物を製造した。具体的な条件は以下の通りである。
(試作1条件):空気温度:70℃、風量:2.0〜4.0m
3/分、
バインダー供給速度:80ml/分、噴霧時間:30分
ローター回転速度:300rpm
【0037】
[1−2.従来のフローコーターによるキサンタンガム造粒物の調製]
[試作2]
キサンタンガム粉末(80メッシュパス品)3kgに対して水0.35kgをバインダー液として用い、流動層造粒機(フローコーターFLO−5A、フロイント産業株式会社)によりキサンタンガム造粒物を製造した。具体的な条件は以下の通りである。
(試作2条件):空気温度:70℃、風量:1.0m
3/分、
バインダー供給速度:11.7ml/分、噴霧時間:30分
【0038】
[試作3]
噴霧時間を1時間にした以外は全て試作2の条件を用いてキサンタンガム造粒物を製造した。
【0039】
[1−3.キサンタンガム造粒物の物性測定方法]
[嵩密度]
容量100mlの容器にすりきり一杯のキサンタンガム造粒物を充填し、充填された顆粒の重量を測定することにより嵩密度を求めた。
[粒度分布]
キサンタンガム造粒物を下記篩で分級して、キサンタンガム造粒物の質量粒度分布を測定した。
【0040】
[硬質度]
粒度分布測定で使用した各メッシュの篩上にあるキサンタンガム顆粒10粒を無作為に取出し、1粒ずつクリープメーター(RE2−33005B、株式会社山電)により硬質度を測定した。荷重棒は直径2.5mmの円柱棒を用いた。10粒の硬質度の平均値をその篩上にあるキサンタンガム顆粒全体の平均硬質度とし、該平均硬質度のキサンタンガム顆粒が粒度分布測定で測定した質量%存在するとした。ここで、120メッシュを通過した顆粒中には、顆粒化されていない原料粉が含まれていることがあり測定精度が悪くなるため、硬質度の測定サンプルとしては30〜120メッシュ上の顆粒を採用した。
【0041】
[1−4.製造したキサンタンガム造粒物の物性比較]
表1に、試作1、試作2、試作3で製造したキサンタンガム造粒物の質量分布、硬質度測定結果を示す。表1に示す通り、試作1〜試作3で製造したキサンタンガム造粒物の嵩密度は共に0.31g/ml程度であった。ただし、両者では特定の硬質度の顆粒含量が異なり、試作2、試作3には硬質度の数値で表される顆粒が存在しないのに対し、試作1には硬質度4.13Nの顆粒が3.2質量%、5.69Nの顆粒が10.5質量%存在した。
【0042】
【表1】
【0043】
[1−5.増粘用組成物の調製]
表2に示すように試作1、試作2又は試作3のキサンタンガム造粒物とデキストリン(TK-16,松谷化学工業株式会社)をキサンタンガム:デキストリン=70:30(質量比)で混合し、該混合物2.0kgに対してキサンタンガム0.2質量%含む水溶液300gをバインダー液として用い、流動層造粒機(フローコーターFLO−5A、フロイント産業株式会社)により2次造粒して増粘用組成物を製造した。2次造粒の具体的な製造条件は以下の通りである。
(2次造粒条件)空気温度:80℃、風量:1.0〜2.5m
3/分
バインダー供給速度:23ml/分、噴霧時間:13分
【0044】
【表2】
【0045】
[1−6.増粘用組成物の評価方法]
[分散性-試験方法]
200mlビーカーに20℃±1℃のイオン交換水100gを準備する。増粘多糖類(キサンタンガム)が1gとなる量の増粘用組成物をビーカーに一気に投入し、3秒、5秒又は10秒静置させる。その後、スパーテルを用い200rpmで1分間撹拌し、ダマの状態を目視で観察した。
【0046】
[分散性-評価]
ダマの発生状況を以下のように数値化し、分散性の得点とした。得点が高いほど分散性は好ましく、増粘用組成物として好ましい。特に5秒静置した条件で4点以上が好ましい。
5:ダマなし
4:小ダマが1〜3個
3:小ダマが4〜10個
2:小ダマが10個より多い
1:5mm以上の大きなダマが発生
【0047】
[粘度の立上り-評価方法]
200mlビーカーに20℃±1℃のイオン交換水100gを準備する。イオン交換水をスパーテルを用いて200rpm程度で撹拌しながら、増粘多糖類(キサンタンガム)が1gとなる量の増粘組成物をビーカーに一気に投入する。溶解開始から所定の時間経過後の溶液粘度をBM型粘度計(TOKIMEC)で測定した。
【0048】
[粘度の立上り評価]
T=[3分後の粘度値/60分後の粘度値]とし、Tの値によって以下のように粘度の立上りの得点とした。得点が高いほど粘度の立上りは好ましく、増粘用組成物として好ましい。特に4点以上が好ましい。
5:0.85≦X≦1
4:0.70≦X<0.85
3:0.55≦X<0.70
2:0.40≦X<0.55
1: X<0.40
【0049】
[1−7.製造した増粘剤組成物の評価]
試作1〜試作3のキサンタンガム造粒物はいずれも嵩密度が0.31g/ml程度であるが、表3に示すように本発明のキサンタンガム造粒物である試作1を用いた実施例1の増粘用組成物では、キサンタンガム濃度が70質量%と高いにもかかわらず分散性が極めてよかった。増粘用組成物をイオン交換水に投入し静置10秒という厳しい条件においても、試作1のキサンタンガム顆粒を含む増粘用組成物を用いた場合、大きなダマは発生しなかった。一方で、従来のフローコーターで製造した試作2、試作3のキサンタンガム造粒物を用いた比較例1、比較例2の増粘用組成物では、静置3秒という条件においてもダマが発生した。増粘用組成物の粘度の立上りについては実施例1、比較例1ともに結果はよかった(表4)。嵩密度及び/又は粒度分布が同程度でも、硬質度の違うキサンタンガム造粒物を用いることで、キサンタンガム濃度の高い増粘用組成物が調製できた。
【0050】
なお、本発明のキサンタンガム造粒物を用いた場合、増粘用組成物中のキサンタンガム濃度が50質量%未満においても、従来のキサンタンガム造粒物を用いた場合に比べて分散性は優れていることを別途確認した。また、キサンタンガム濃度45質量%程度までは従来のキサンタンガム造粒物を用いても分散性は問題ないレベルであったが、キサンタンガム濃度が50質量%以上になると、従来のキサンタンガム造粒物では分散性が悪くなりダマが発生しやすくなった。このことから、キサンタンガム濃度が50質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上の増粘用組成物においては、本発明のキサンタンガム造粒物の使用が非常に有効であることがわかった。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
[2.キサンタンガム造粒物の硬質度詳細検討]
[2−1.キサンタンガム造粒物の製造]
処理時間以外を試作1と同様の条件でキサンタンガム粉末を造粒し、一定時間ごとにサンプリングすることで、No.S1〜S14のキサンタンガム造粒物を製造した。[1−3]記載の方法で、粒度分布及び硬質度を測定した。表5に測定結果を示す。
【0054】
[2−2.増粘用組成物の調製]
キサンタンガム造粒物とデキストリン(TK-16-AG,松谷化学工業株式会社)を用いて、キサンタンガム:デキストリン=50:50(質量比)の割合で混合し増粘用組成物を製造した。
【0055】
[2−3.キサンタンガム造粒物の硬質度値について]
キサンタンガム造粒物として表5を参考に特定の硬質度の顆粒を抽出し、[2−2]記載の増粘用組成物を製造した。具体的には、平均硬質度1.38N(S12の120−166メッシュから抽出)、1.78N(S14の83−120メッシュから抽出)、2.13N(S14の 60−83メッシュから抽出)、7.89N(S9の30−42メッシュから抽出)又は8.32N(S11の60−83メッシュから抽出)のキサンタンガム造粒物を用いて、[2−2]記載の増粘用組成物を製造した。
上記増粘用組成物について、[1−6]記載の分散性評価試験(静置時間5秒)を実施したところ、平均硬質度1.38N又は1.78Nのキサンタンガム造粒物を用いた場合、ダマが多数発生した。一方、平均硬質度2.13N、7.89N又は8.32Nのキサンタンガム造粒物を用いた場合、静置5秒でもダマは発生しなかった。また、[1−6]記載の粘度立上がり評価試験を実施したところ、平均硬質度8.32Nのキサンタンガム造粒物を用いた場合、増粘用組成物の粘度の立上りは(3分/60分の粘度比=0.65)遅く、平均硬質度1.38N、1.78N、2.13N又は7.89Nのキサンタンガム造粒物を用いた場合、増粘用組成物の粘度の立上りは優れていた(いずれも3分/60分の粘度比=0.78以上)。このことから、キサンタンガム造粒物中のキサンタンガム顆粒の硬質度としては、2N以上〜8N未満の顆粒が多いほうがよく、8N以上の顆粒は少ないほうがよいということがわかった。
【0056】
【表5】
【0057】
【表5-1】
【0058】
[2−4.S1〜S14のキサンタンガム造粒物を用いて調製した増粘用組成物の評価]
キサンタンガム造粒物として、S1〜S15のキサンタンガム造粒物を用いて[2−2]記載の増粘用組成物を製造し、前記の分散性評価、粘度立上がり評価を実施した。
表6に示すように、硬質度2N以上硬質度8N未満の顆粒が5質量%以上であり、且つ硬質度8N以上の顆粒が20質量%以下を満たすキサンタンガム造粒物を用いて製造した増粘用組成物は、分散性に優れ、且つ粘度の立上りに優れていた。また、硬質度2N以上硬質度8N未満の顆粒が19.6質量%以上であり、且つ硬質度8N以上の顆粒が3質量%以下であるキサンタンガム造粒物(S5〜S7)を用いて製造した増粘用組成物では、分散性且つ粘度の立上りが共により優れていた。
【0059】
ここで、[2−3] 記載の平均硬質度2.13Nの顆粒は60〜83メッシュ上から抽出したため、その粒子径は180〜250μmの範囲となる。本発明のキサンタンガム造粒物では、特許文献1に記載のある250μm以上のキサンタンガム顆粒を用いた場合とは異なり、250μm以下の顆粒を用いた場合でも分散性に優れていた。
また、S9のキサンタンガム造粒物中の42〜60メッシュの範囲の顆粒(平均硬質度4.11N)と、押出し造粒で製造した顆粒(平均硬質度9.70N)を80:20(質量比)で混合した後、2次造粒して増粘用組成物を調製し、上記と同様に分散性、粘度の立上りを評価したところ良好であった。すなわち、本発明の増粘用組成物は、このような方法によっても調製できることがわかった。
【0060】
【表6】
【0061】
[3.キサンタンガム濃度の検討]
[3−1.増粘用組成物の製造]
表7及び8に示すように、No.S3又はS5のキサンタンガム造粒物とデキストリンを用いて、キサンタンガム:デキストリン=70:30〜98:2(質量比)の割合で、増粘用組成物を製造した。デキストリンはDE18の金属塩封入デキストリンを用いた。300gのイオン交換水に100gのデキストリンを溶解した水溶液に、封入物中の金属塩濃度が表7に示した濃度となるようにそれぞれ溶解させた後、スプレードライ法又はドラムドライ法を用いて乾燥し、金属塩封入デキストリンを調製した。
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
[3−2.増粘用組成物の評価]
表9及び10に示すように、キサンタンガム濃度70質量%の増粘用組成物の分散性、粘度の立上りは共に良好な結果を示した。実施例1に示す通り通常のデキストリンを用いて製造した増粘用組成物も評価はよかったが、金属塩封入デキストリンを用いると、増粘用組成物を水溶液投入後5秒静置してもダマが発生せず分散性はさらに向上した。
また、金属塩封入デキストリンの製造方法としては、スプレー法、ドラム法共に好ましい結果となった。金属塩をより少なくできるという観点でみると、ドラム法で製造した金属塩封入デキストリンを用いたほうがより好ましい結果であった。
本発明のキサンタンガム造粒物を用いることで、スプレー法で製造した金属塩封入デキストリンを用いると増粘用組成物中のキサンタンガム濃度が90質量%、ドラム法で製造した金属塩封入デキストリンを用いると増粘用組成物中のキサンタンガム濃度が98質量%でもダマが発生しない増粘用組成物を製造することができた。増粘用組成物を水溶液に投入後5秒静置してもダマが発生しないという観点から、増粘用組成物中のキサンタンガム濃度は90質量%までが好ましいといえる。
なお、分散剤として金属塩を封入しないデキストリンを用いた場合は、粘度の立上りの点から増粘用組成物中のキサンタンガム濃度は75質量%までが好ましい。
【0065】
【表9】
【0066】
【表10】
【0067】
[4.一般の飲料での増粘用組成物の効果]
実施例18 お茶
お茶(商品名「お〜いお茶」、(株)伊藤園)100gに、実施例10で調製した増粘用組成物0.7gを添加し、スパーテルで撹拌したところ、直ちに液中全体に分散し、ダマの発生がなく、粘度発現も良好であった。わずか0.7gの添加で咀嚼・嚥下困難者向けのお茶として十分な粘度が発現した。
【0068】
実施例19 清涼飲料
清涼飲料(商品名「アクエリアス/AQUARIUS」、日本コカ・コーラ株式会社)100gに、実施例10で調製した増粘用組成物0.7gを添加し、スパーテルで撹拌したところ直ちに液中全体に分散し、ダマの発生がなく、粘度発現も良好であった。わずか0.7gの添加で咀嚼・嚥下困難者向けのお茶として十分な粘度が発現した。
【0069】
[5.増粘用組成物中の顆粒の硬質度について]
実施例1の増粘用組成物中の顆粒の硬質度について[1−3]記載の方法で調べたところ、増粘用組成物の調製に使用したキサンタンガム造粒物(試作1)中の顆粒の硬質度分布とよく似ていた。また、比較例2の増粘用組成物中の顆粒の硬質度について調べたところ、わずかに硬質度を示す顆粒も存在したが99質量%以上において硬質度が0であった。本発明の増粘用組成物中の顆粒の硬質度は、使用したキサンタンガム造粒物中の顆粒の硬質度に近いことがわかった。