(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カーボンナノ構造体を成長させる工程では、前記分離界面領域において前記触媒部材と前記分離部材との間をつなぐ様にカーボンナノ構造体が成長している、請求項1に記載のカーボンナノ構造体の製造方法。
前記カーボンナノ構造体の形状は、柱形状、筒形状、およびテープ形状からなる群から選択される1種である、請求項1または2に記載のカーボンナノ構造体の製造方法。
前記カーボンナノ構造体を成長させる工程では、前記カーボンナノ構造体に前記触媒部材および前記分離部材の少なくともいずれか一方を介して張力が印加されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0014】
(実施の形態1)
図1〜
図4を参照して、本発明によるカーボンナノ構造体の製造方法の実施の形態1を説明する。
【0015】
図1を参照して、この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造方法では、まず準備工程(S10)を実施する。この工程(S10)では、触媒を含む触媒部材と、分離部材とが接触または一体化したベース体を準備する。
【0016】
図2および
図3に示すように、ベース体20としては、触媒となる金属のシート(金属箔)を用いることができる。当該金属としては、たとえば純鉄やニッケル、コバルトなどを用いることができる。当該ベース体20では、後述するCNT形成工程(S30)(
図1参照)において、破断する位置を規定するための凹部であるノッチ21を形成しておくことが好ましい。そして、
図2および
図3に示すような金属箔をベース体20として用いる場合、上記触媒部材と分離部材とが一体となって金属箔により構成されていることになる。
【0017】
ここで、
図2および
図3を参照して、カーボンナノ構造体の製造方法を実施するためのカーボンナノ構造体の製造装置を説明する。
図2に示すように、カーボンナノ構造体の製造装置は、反応室1と、反応室1の内部に配置された加熱部材4と、加熱部材4と対向配置されるベース体20を保持するための石英ブロック9〜12と、石英ブロック9〜12を支持するためのベース架台8と、石英ブロック11と連結棒13により連結された駆動部材2と、反応室1に原料ガスなどを供給するためのガス供給部3と、反応室1からガスを排気するためのポンプ7および排気部6と、加熱部材4、ガス供給部3、駆動部材2、ポンプ7、および排気部6を制御するための制御部14とを備える。
【0018】
反応室1の内部には、ベース架台8の上に石英ブロック9〜12が配置されている。石英ブロック9、10により、ベース体20の一方端部が把持されている。また、ベース体20の他方端部が石英ブロック11、12により把持されている。石英ブロック11は、ベース架台8の上を移動可能になっている。一方、石英ブロック9、10は、ベース架台8に固定されている。
【0019】
石英ブロック9〜12により固定されるベース体20と対向するように、加熱部材4が配置されている。なお、加熱部材4は反応室1の内部に配置されているが、反応室1の壁を石英などの透光性部材により構成することで、当該反応室1の外部に加熱部材4を配置してもよい。加熱部材4としては、たとえば電熱ヒータなど任意の加熱装置を用いることができる。
【0020】
上述した工程(S10)で準備されたベース体20は、
図2および
図3に示すように製造装置の反応室1の内部に配置される。
【0021】
次に、酸化工程(S20)を実施する。この工程では、ベース体20において触媒部材と分離部材との接触部の少なくとも一部を酸化する。具体的には、反応室1の内部雰囲気を大気雰囲気として加熱部材4によりベース体20を加熱することで、ベース体20を酸化する。
【0022】
次に、CNT成長工程(S30)を実施する。この工程(S30)では、カーボンナノ構造体を成長させる。具体的には、工程(S30)では、加熱部材4によりベース体20を加熱するとともに、炭素を含有する原料ガスをガス供給部3から反応室1に供給する。そして、触媒部材を含むベース体20に当該原料ガスを接触させる工程を実施する。そして、駆動部材2により石英ブロック11、12を
図3の矢印27に示す方向へ移動させる。この結果、ベース体20は
図4に示すようにノッチ21が形成された部分で破断していく。この状態で(つまりベース体20の石英ブロック9、10により把持された側のベース体部分25である触媒部材から、ベース体20の石英ブロック11、12により把持された側のベース体部分26である分離部材を分離しつつ)、上述のようにベース体20を加熱部材4により加熱する。この結果、
図4に示すように、触媒部材と分離部材との分離界面領域であるベース体20の破断界面領域にカーボンナノ構造体30が成長する。
【0023】
このようにすれば、ベース体20の破断界面領域において、ベース体部分25からベース体部分26にまで延びる、曲がりなどの変形が抑制されたカーボンナノ構造体30を容易に成長させることができる。また、ベース体20の少なくとも一部を先に酸化させることにより、カーボンナノ構造体30を成長させる工程において当該カーボンナノ構造体30の成長を効率的に行なうことが可能になる。
【0024】
なお、炭素を含有する原料ガスをガス供給部3から反応室1に供給し、当該原料ガスをベース体20に接触させた後に、ベース体20を破断する(分離する)工程に関して、ベース体20の破断界面領域が酸化から還元された後に当該ベース体20を破断する(分離する)工程を行う事が好ましい。
【0025】
またベース体20を破断する工程において、駆動部材2による連結棒13および石英ブロック11、12の移動は、形成されるカーボンナノ構造体30が破断しないように張力制御しながら実施される事が好ましい。さらには、たとえば破断界面領域以外のベース体20の部分は、予め表面を金等の貴金属や酸化物等の膜といった被覆膜で覆うことにより、炭素を含有する原料ガスからの浸炭を抑制する(つまり脆くなる事を防止する)処置を施す事が好ましい。
【0026】
(実施の形態2)
図5を参照して、本発明によるカーボンナノ構造体の製造装置の実施の形態2を説明する。
【0027】
図5を参照して、カーボンナノ構造体の製造装置は、反応室1と、反応室1の外部に配置された加熱部材4と、加熱部材4と対向する位置において、ベース体20を構成する触媒部材35を保持するために当該触媒部材35と接続された隔壁31と、当該触媒部材35に接触して配置された分離部材36と、当該分離部材36と連結棒13により連結された駆動部材2と、反応室1に原料ガスなどを供給するためのガス供給部(図示せず)と、反応室1からガスを排気するためのポンプ7および排気部6と、加熱部材4、ガス供給部、駆動部材2、ポンプ7、および排気部6を制御するための制御部(図示せず)とを備える。触媒部材35の平面形状はたとえば円形状であり、当該触媒部材35に接続された隔壁31はたとえば円筒状の形状を有する。隔壁31の内部には、原料ガスをガイドするためのガイド筒体32が配置されている。原料ガスは、矢印37に示すようにガイド筒体32の内部を流れ、触媒部材35の裏面側に供給される。なお、触媒部材35の裏面に到達した後、当該原料ガスは矢印38に示すようにガイド筒体32の外周側(ガイド筒体32と隔壁31の内周との間の空間)を流れて隔壁31の内部から排出される。また、隔壁31の外周と反応室1の内周面との間の空間を、矢印39に示すように原料ガスとは異なるガス(パージガス)が供給される。
【0028】
図5に示すように、触媒部材35は、多孔質部材33と、当該多孔質部材33に形成されている開口部(多孔質部材33の裏面から表面にまで貫通する貫通穴)に充填された触媒34とからなる。触媒34は、多孔質部材33において隔壁31の内周側に面する裏面側から、分離部材36に接触する表面側にまで延在するように配置されている。多孔質部材33は、たとえばナノポーラスアルミナやナノポーラスシリコンを用いることができる。また、触媒34としてはたとえば純鉄またはその酸化物を用いることができる。また、分離部材36としては純鉄のブロック(あるいは触媒部材35と接触する表面のみ純鉄の層を形成したブロック体など)を用いることができる。また、触媒部材35は、たとえば多孔質部材33の材料として銀や金、触媒34として純鉄を用い、塑性加工等でこれらの材料を複合化することで形成されてもよく、あるいは半導体プロセス等を利用した微細加工技術により形成されてもよい。
【0029】
次に、
図5に示したカーボンナノ構造体の製造装置を用いた、カーボンナノ構造体の製造方法を説明する。なお、当該カーボンナノ構造体の製造方法は、基本的には
図1に示したカーボンナノ構造体の製造方法と同様であるが、準備工程(S10)において準備されるベース体20の構成が、
図1に示したカーボンナノ構造体の製造方法とは異なっている。すなわち、
図5に示した装置を用いる場合には、ベース体20として、上述した触媒部材35と分離部材36とを接合したものを準備する。触媒部材35と分離部材36との接合方法は、溶接や圧着など任意の方法を用いることができる。ただし、触媒部材35の触媒34と分離部材36とが接触した状態とすることが必要である。
【0030】
準備されたベース体20は、
図5に示すように触媒部材35が隔壁31の端部に固定されるとともに、分離部材36が連結棒13に接続される。
【0031】
次に、
図1に示した製造方法と同様に、酸化工程(S20)を実施する。この工程では、ベース体20において触媒部材35と分離部材36との接触部の少なくとも一部を酸化する。具体的には、反応室1または隔壁31の内周側の内部雰囲気を酸素含有雰囲気として加熱部材4によりベース体20を加熱することで、ベース体20を酸化する。
【0032】
次に、
図1に示した製造方法と同様に、CNT成長工程(S30)を実施する。具体的には、工程(S30)では、加熱部材4によりベース体20を加熱するとともに、炭素を含有する原料ガスをガス供給部からガイド筒体32の内部を介して触媒部材35の裏面側に供給する。そして、触媒部材35を含むベース体20に当該原料ガスを接触させた状態で、駆動部材2により分離部材36を
図6の矢印27に示す方向へ移動させる。この結果、
図6に示すように、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域にカーボンナノ構造体30が成長する。
【0033】
このようにすれば、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域において、触媒部材35から分離部材36にまで延びる、曲がりなどの変形が抑制されたカーボンナノ構造体30を容易に成長させることができる。
【0034】
(実施の形態3)
図7を参照して、本発明によるカーボンナノ構造体の製造装置の実施の形態3を説明する。
【0035】
図7を参照して、カーボンナノ構造体の製造装置は、基本的には
図5に示したカーボンナノ構造体の製造装置と同様の構成を備えるが、用いるベース体20の構成が異なっている。すなわち、ベース体20を構成する触媒部材35が鉄箔であり、分離部材36が鉄箔膜からなる触媒薄膜41と、当該触媒薄膜41を挟むことで保持する2つの固定部材42、43とから構成される。分離部材36は、把持部材44により把持される。当該把持部材44は連結棒13に接続されている。
【0036】
次に、
図7に示したカーボンナノ構造体の製造装置を用いた、カーボンナノ構造体の製造方法を説明する。なお、当該カーボンナノ構造体の製造方法は、基本的には
図5に示したカーボンナノ構造体の製造装置を用いたカーボンナノ構造体の製造方法と同様であるが、準備工程(S10)において準備されるベース体20の構成が、
図5に示したカーボンナノ構造体の製造装置に用いられるベース体20とは異なっている。すなわち、
図7に示した装置を用いる場合には、ベース体20として、上述した触媒部材35と分離部材36とを接合したものを準備する。触媒部材35と分離部材36との接合方法は、溶接や圧着など任意の方法を用いることができる。ただし、触媒部材35と分離部材36の触媒薄膜41の端部とが接触した状態とすることが必要である。
【0037】
準備されたベース体20は、
図7に示すように触媒部材35が隔壁31の端部に固定されるとともに、分離部材36が把持部材44を介して連結棒13に接続される。なお、触媒部材35は予め隔壁31の端部に固定されていてもよい。
【0038】
次に、
図1に示した製造方法と同様に、酸化工程(S20)を実施する。この工程では、ベース体20において触媒部材35と分離部材36との接触部の少なくとも一部を酸化する。具体的には、反応室1または隔壁31(
図5参照)の内部雰囲気を酸素含有雰囲気として加熱部材4によりベース体20を加熱することで、ベース体20を酸化する。
【0039】
次に、
図1に示した製造方法と同様に、CNT成長工程(S30)を実施する。具体的には、工程(S30)では、加熱部材4によりベース体20を加熱するとともに、炭素を含有する原料ガスをガス供給部からガイド筒体32の内部を介して触媒部材35の裏面側に供給する。そして、触媒部材35を含むベース体20に当該原料ガスを接触させた状態で、駆動部材2(
図5参照)により分離部材36を
図8の矢印27に示す方向へ移動させる。この結果、
図8に示すように、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域にカーボンナノ構造体30が成長する。ここで、形成されるカーボンナノ構造体30は、
図8および
図9に示すように、断面形状が触媒薄膜41の端面の形状と同じになっているシート状である。なお、
図9は
図8の矢印45に示す方向からカーボンナノ構造体30および分離部材36を見た模式図である。
【0040】
このようにすれば、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域において、触媒部材35から分離部材36にまで延びる、曲がりなどの変形が抑制されたシート状のカーボンナノ構造体30を容易に成長させることができる。また、触媒薄膜41の形状を制御することで、形成されるカーボンナノ構造体の断面形状(
図8の矢印27に示す方向に対して垂直な方向における断面での形状)を制御することができる。
【0041】
(実施の形態4)
図10を参照して、本発明によるカーボンナノ構造体の製造装置の実施の形態4を説明する。
【0042】
図10を参照して、カーボンナノ構造体の製造装置は、基本的には
図5に示したカーボンナノ構造体の製造装置と同様の構成を備えるが、用いるベース体20の構成が異なっている。すなわち、ベース体20を構成する触媒部材35が
図5に示したような多孔質部材33および触媒34からなり、分離部材36が鉄のブロック体(断面形状が長方形状のブロック体)からなる。分離部材36は、把持部材44により把持される。当該把持部材44は連結棒13に接続されている。
【0043】
次に、
図10に示したカーボンナノ構造体の製造装置を用いた、カーボンナノ構造体の製造方法を説明する。なお、当該カーボンナノ構造体の製造方法は、基本的には
図5に示したカーボンナノ構造体の製造装置を用いたカーボンナノ構造体の製造方法と同様であるが、準備工程(S10)において準備されるベース体20の構成が、
図5に示したカーボンナノ構造体の製造装置に用いられるベース体20とは異なっている。すなわち、
図10に示した装置を用いる場合には、ベース体20として、上述した触媒部材35と分離部材36とを接合したものを準備する。触媒部材35と分離部材36との接合方法は、溶接や圧着など任意の方法を用いることができる。ただし、触媒部材35と分離部材36とが接触した状態とすることが必要である。
【0044】
準備されたベース体20は、
図5に示すように触媒部材35が隔壁31の端部に固定されるとともに、
図10に示すように分離部材36が把持部材44を介して連結棒13に接続される。なお、触媒部材35は予め隔壁31の端部に固定されていてもよい。
【0045】
次に、
図1に示した製造方法と同様に、酸化工程(S20)を実施する。具体的には、反応室1または隔壁31(
図5参照)の内部雰囲気を酸素含有雰囲気として加熱部材4によりベース体20を加熱することで、ベース体20を酸化する。
【0046】
次に、
図1に示した製造方法と同様に、CNT成長工程(S30)を実施する。具体的には、工程(S30)では、加熱部材4(
図5参照)によりベース体20を加熱するとともに、炭素を含有する原料ガスをガス供給部からガイド筒体32(
図5参照)の内部を介して触媒部材35の裏面側に供給する。そして、触媒部材35を含むベース体20に当該原料ガスを接触させた状態で、駆動部材2(
図5参照)により分離部材36を
図11の矢印27に示す方向へ移動させる。この結果、
図11に示すように、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域にカーボンナノ構造体30が成長する。ここで、形成されるカーボンナノ構造体30は、断面形状が分離部材36の端面の形状と同じになっているシート状である。
【0047】
このようにすれば、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域において、触媒部材35から分離部材36にまで延びる、曲がりなどの変形が抑制されたシート状のカーボンナノ構造体30を容易に成長させることができる。また、分離部材36の形状を制御することで、形成されるカーボンナノ構造体の断面形状(
図11の矢印27に示す方向に対して垂直な方向における断面での形状)を制御することができる。
【0048】
その後、カーボンナノ構造体30を触媒部材35と分離部材36とともに製造装置から取り出し、枠体51により相対的な位置を固定する。枠体51は、カーボンナノ構造体30が真直ぐな状態を維持できるように、触媒部材35と分離部材36とを固定できれば任意の形状を採用できるが、たとえば
図12に示すように四角形状の形状を有していてもよい。当該四角形状の枠体51の内周側に、触媒部材35と分離部材36とを固定する。このようにして、カーボンナノ構造体アセンブリ50を形成できる。このようなカーボンナノ構造体アセンブリ50により、真直ぐに形状が保持されたカーボンナノ構造体を容易にハンドリングできる。
【0049】
(実施の形態5)
図13を参照して、本発明によるカーボンナノ構造体の製造方法の実施の形態5を説明する。
【0050】
図13に示したカーボンナノ構造体の製造方法は、基本的には
図1に示したカーボンナノ構造体の製造方法と同様の構成を備えるが、ベース体を形成する前に予め触媒部材および分離部材を酸化している点が
図1に示した方法と異なっている。すなわち、
図13に示したカーボンナノ構造体の製造方法では、まず部材準備工程(S15)を実施する。当該工程(S15)では、触媒部材35および分離部材36を準備する。
【0051】
次に、酸化工程(S20)を実施する。この工程(S20)では、触媒部材35および分離部材36を酸化する。酸化の方法は任意の方法を採用できるが、たとえば大気中で触媒部材35および分離部材36を加熱するといった方法を用いることができる。
【0052】
次に、ベース体形成工程(S40)を実施する。この工程(S40)では、触媒部材35と分離部材36とを接合する。接合方法としては、
図1に示した製造方法と同様に、任意の方法を採用できる。
【0053】
次に、
図1に示した製造方法と同様に、CNT成長工程(S30)を実施する。このようにしても、
図1に示した製造方法と同様に、曲がりの抑制されたカーボンナノ構造体を得ることができる。
【0054】
ここで、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
【0055】
この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造方法は、触媒を含む触媒部材35と、分離部材36とが接触または一体化したベース体20を準備する工程(準備工程(S20))と、ベース体20において触媒部材35と分離部材36との接触部または一体化した部位の少なくとも一部を酸化する工程(酸化工程(S20))と、炭素を含有する原料ガスを触媒部材35および/または分離部材36に接触させる工程(CNT成長工程(S30))と、カーボンナノ構造体を成長させる工程(CNT成長工程(S30))とを備える。CNT成長工程(S30)では、触媒部材35から分離部材36を分離しつつベース体20を加熱することにより、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域にカーボンナノ構造体30を成長させる。
【0056】
このようにすれば、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域において、触媒部材35から分離部材36にまで延びる、曲がりなどの変形が抑制されたカーボンナノ構造体30を容易に成長させることができる。また、触媒部材35と分離部材36との接触部の少なくとも一部を先に酸化させることにより、カーボンナノ構造体30を成長させるCNT成長工程(S30)において当該カーボンナノ構造体30の成長を効率的に行なうことが可能になる。
【0057】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、カーボンナノ構造体を成長させるCNT成長工程(S30)では、分離界面領域において触媒部材35と分離部材36との間を繋ぐ様にカーボンナノ構造体30が成長していてもよい。この場合、分離部材36が触媒部材35から分離しながらカーボンナノ構造体30が成長することにより、カーボンナノ構造体30に一定の張力が加わった状態を確実に維持できるため、真直ぐなカーボンナノ構造体30を得ることができる。
【0058】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、カーボンナノ構造体30の形状は、柱形状、筒形状、およびテープ形状からなる群から選択される1種であってもよい。
【0059】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、酸化工程(S20)と炭素を含有する原料ガスを触媒部材35および/または分離部材36に接触させる工程(CNT成長構成(S30))とを同時に実施してもよい。また、炭素を含有する原料ガスを触媒部材35および/または分離部材36に接触させる工程(CNT成長構成(S30))とカーボンナノ構造体を成長させる工程(CNT成長工程(S30))とを同時に実施してもよい。また、上記酸化工程(S20)、CNT成長工程(S30)の上記接触させる工程、および当該工程(S30)のカーボンナノ構造体を成長させる工程という3つの工程を同時に実施してもよい。この場合、カーボンナノ構造体30の製造プロセスを簡略化できる。なお、酸化工程(S20)を実施した後、CNT成長工程(S30)において用いる原料ガスに酸素を含有させることで、カーボンナノ構造体の成長工程と同時に酸化処理を実施してもよい。
【0060】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、カーボンナノ構造体を成長させるCNT成長工程(S30)では、カーボンナノ構造体30に触媒部材35および分離部材36の少なくともいずれか一方を介して張力が印加されていてもよい。この場合、張力を制御することにより、曲がりの抑制されたカーボンナノ構造体30を確実に得ることができる。
【0061】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、準備工程(S10)では、触媒部材35と分離部材36とが接合されることによりベース体20が準備されてもよい。カーボンナノ構造体30を成長させるCNT成長工程(S30)では、触媒部材35と分離部材36とが接合された接合部を破断させることで触媒部材35から分離部材36を分離してもよい。この場合、触媒部材35と分離部材36との接合部の形状などを制御することで、当該接合部において破断を発生させることにより、カーボンナノ構造体30が形成される部位やカーボンナノ構造体30の形状を制御することができる。
【0062】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、CNT成長工程(S30)における炭素を含有する原料ガスを触媒部材35および/または分離部材36に接触させる工程では、分離界面領域以外の領域において触媒部材35に原料ガスを接触させる一方、分離界面領域には原料ガスとは異なる組成の雰囲気ガス(たとえばアルゴンガスなど)を供給してもよい。この場合、カーボンナノ構造体30が成長する領域である分離界面領域には、カーボンナノ構造体30の品質を劣化させる恐れのある原料ガスが直接接触しないことになるので、高品質のカーボンナノ構造体30を得ることができる。
【0063】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、分離部材36は分離側触媒(たとえば
図5の分離部材36を構成する純鉄のブロックや
図7の触媒薄膜41)を含んでいてもよく、ベース体を準備する準備工程(S10)では、触媒部材35と分離部材36との接触部において、触媒部材35に含まれる触媒と分離部材36との接触領域の形状を規定するための形状規定部材(たとえば
図5の多孔質部材33や
図7の固定部材42、43)が配置されたベース体20が準備されてもよい。カーボンナノ構造体を成長させるCNT成長工程(S30)では、形状規定部材により形状が規定された接触領域において触媒部材35と分離部材36とが分離されてもよい。この場合、接触領域の形状が制御されることにより、形成されるカーボンナノ構造体30の断面形状を制御することができる。つまり、任意の断面形状のカーボンナノ構造体30を得ることができる。
【0064】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、
図5や
図7などに示すように、触媒部材35の触媒および分離部材36の分離側触媒のうちのいずれか一方の形状がフィラメント状またはシート状であってもよい。この場合、線状またはシート状のカーボンナノ構造体30を容易に得ることができる。
【0065】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、
図5に示すように、形状規定部材は複数の開口部を有する多孔質部材33であってもよい。触媒部材35は、多孔質部材33と、多孔質部材33の開口部に充填された触媒34とからなっていてもよい。ベース体を準備する準備工程(S10)では、触媒部材35の開口部から露出する触媒34に、分離部材36の分離側触媒(
図7の分離部材36を構成する純鉄ブロック)を接触または接合することによりベース体20を準備してもよい。この場合、線状のカーボンナノ構造体30を容易に得ることができる。
【0066】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、多孔質部材33は、ナノポーラスアルミナまたはナノポーラスシリコンであってもよい。この場合、多孔質部材33における開口部のサイズなどを比較的容易に制御することができるので、当該開口部に充填される触媒34の端面サイズを容易に制御できる。この結果、形成されるカーボンナノ構造体30の断面サイズを容易に制御できる。
【0067】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、
図7に示すように、分離部材36は、シート状の分離側触媒としての触媒薄膜41と、触媒薄膜41の端面が露出した状態で触媒薄膜41を把持する形状規定部材としての固定部材42、43とからなっていてもよい。ベース体を準備する準備工程(S10)では、触媒部材35に含まれる触媒(
図7の触媒部材35を構成する純鉄ブロック)に、分離側触媒(触媒薄膜41)を接触または接合することによりベース体20を準備してもよい。この場合、シート状のカーボンナノ構造体30を容易に得ることができる。
【0068】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、
図2や
図3などに示すように、ベース体を準備する準備工程(S10)では、ベース体20として触媒からなる単一部材(たとえば純鉄箔)を準備してもよい。酸化工程(S20)では、単一部材の少なくとも一部を酸化してもよい。CNT成長工程(S30)における原料ガスを触媒部材35および/または分離部材36に接触させる工程では、原料ガスを単一部材に接触させてもよい。また、カーボンナノ構造体を成長させるCNT成長工程(S30)では、原料ガスを単一部材であるベース体20に接触させた後(もしくは接触させた状態で)、ベース体20を破断することにより2つの部分(
図4のベース体部分25、26)に分離しつつベース体20を加熱することにより、2つのベース体部分25、26の分離界面領域にカーボンナノ構造体30を成長させてもよい。触媒部材と分離部材とは、単一部材であるベース体20を破断することにより得られた2つの上記ベース体部分25、26であってもよい。この場合、ベース体20として単一部材を用いることで、触媒部材と分離部材とを一体化する工程を実施する場合より、カーボンナノ構造体30の製造工程を簡略化できる。
【0069】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、触媒部材35に含まれる触媒および分離部材36に含まれる分離側触媒(たとえば触媒薄膜41など)は炭素を固溶する金属を含んでいてもよい。この場合、当該金属に原料ガス中の炭素が浸炭して当該金属の表面にカーボンナノ構造体30を容易に成長させることができる。
【0070】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、上記金属は、鉄、ニッケルおよびコバルトからなる群から選択される1種であってもよい。この場合、カーボンナノ構造体30を当該金属表面に確実に成長させることができる。
【0071】
この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造装置は、
図2や
図5に示すように、保持部(
図2のベース架台8と石英ブロック9〜12または
図5の隔壁31および連結棒13)と駆動部材2とガス供給部3と加熱部材4とを備える。保持部は、触媒を含む触媒部材35と分離部材36とが、接触または一体化したベース体20を、触媒部材側と分離部材側とでそれぞれ保持可能である。駆動部材2は、触媒部材35から分離部材36を分離するように保持部(
図2の製造装置では石英ブロック11、12、また
図5に示した製造装置では連結棒13)を移動させる。ガス供給部3は、ベース体20に反応ガスを供給する。加熱部材4は、ベース体20を加熱する。このような装置を用いることにより、触媒部材35と分離部材36との分離界面領域、または
図4に示したベース体20が破断したベース体部分25、26の破断界面において曲がりの抑制されたカーボンナノ構造体30を成長させることができる。
【0072】
この発明に従ったカーボンナノ構造体アセンブリ50は、
図12に示すように、対向配置された一対の保持部を含む保持部材(
図12の触媒部材35および分離部材36)と、当該一対の保持部の間をつなぐように形成された、複数のカーボンナノ構造体30とを備える。このようにすれば、保持部の間で張力を印加された状態のカーボンナノ構造体30を、カーボンナノ構造体アセンブリ50として容易に取り扱うことができる。また、当該カーボンナノ構造体アセンブリ50は、触媒部材35および分離部材36の相対的な位置を固定するための保持部材(枠体51)を備えていてもよい。
【0073】
上記カーボンナノ構造体アセンブリ50では、カーボンナノ構造体30の形状がシート状であってもよい。また、上記カーボンナノ構造体アセンブリ50において、保持部はカーボンナノ構造体30を形成するための触媒を含んでいてもよい。
【0074】
<実験1>
(実施例の試料について)
本発明の効果を確認するため、以下のような実験を行った。まず、ベース体として50μm厚の純鉄箔(純度5N)を準備した。そして、当該純鉄箔からなるベース体を、
図3に示すように石英ブロック9〜12により保持した。当該ベース体を、大気中で加熱温度を850℃、熱処理時間を1分とした条件で熱処理(酸化処理)した。その後、加熱炉の反応室内部にArガス(アルゴンガス)をフローし当該加熱炉の反応室内から酸素を排出した。
【0075】
次に、Arガス中にアセチレンガスを5%含有した原料ガスを、石英ブロック9と石英ブロック11との間においてベース体に供給しながら、加熱温度を850℃とした熱処理を行った。加熱温度を850℃とした原料ガス中熱処理を7分間実施しながら、純鉄箔からなるベース体に張力をかけて、鉄箔を破断した。この結果、破断した純鉄箔の破断面を繋ぐようにカーボンナノ構造体としてのファイバ状カーボンが成長していた。
【0076】
形成されたファイバ状カーボンの走査型電子顕微鏡写真を、
図14〜
図17に示す。
図14〜
図17に示されるように、ベース体である純鉄箔の破断面を繋ぐ様に、ファイバ状カーボン(カーボンナノファイバ)および局所的にテープ状カーボン(カーボンナノテープ)が成長していることが分かる。
【0077】
(比較例の試料について)
比較例として、大気中で熱処理(酸化処理)せずに、そのまま上記のような原料ガス中で、加熱温度850℃、熱処理時間を7分とした条件で熱処理した純鉄箔からなるベース体を破断した。この結果、破断面を繋ぐようなファイバ状カーボンの成長は確認できなかった。
【0078】
<実験2>
酸化処理後の熱処理における処理時間の影響を調査するため、以下のような実験を行った。
【0079】
すなわち、実験1における実施例と同様のベース体を準備し、また当該実施例と同様の酸化処理および熱処理(原料ガス中での熱処理)を行った。当該熱処理では、所定の加熱温度(850℃)での熱処理を実施しながらベース体に張力を加えることでクラックを発生させた。そして、当該クラックが発生した部分を観察した。その結果を
図18〜
図22に示す。
図18は、熱処理開始後2分経過したベース体におけるクラック近傍の走査型電子顕微鏡写真である。また、
図19〜
図22は、それぞれ熱処理開始後4分、7分、10分、60分経過したベース体におけるクラック近傍の走査型電子顕微鏡写真である。
【0080】
図18〜
図22に示すように、熱処理開始後2分ではほとんどファイバ状カーボンは成長していないが(
図18参照)、熱処理開始後4分から7分程度で、クラックにファイバ状カーボンが成長していることがわかる。熱処理開始後2分では、まだ還元されていない酸化鉄がクラック近傍に残留していることが分かる(
図18の細かい穴の空いた白色部分を参照)。一方、熱処理開始後7分では、クラック近傍を観察したところ、酸化鉄が還元・浸炭されて炭素が析出していることが確認出来る(
図20参照)。
【0081】
<実験3>
100μm厚の純鉄箔を表面に設置した鉄ブロックからなる分離部材と、20nm径の貫通孔に鉄を充填したナノポーラスアルミナ板からなる触媒部材とをアーク溶接により接合して、
図5に示すようなベース体20を形成した。その後、ナノポーラスアルミナ板のアーク溶接した反対側の面から、酸素濃度が10%であるアルゴンガスを吹き付けながら、加熱温度を800℃、熱処理時間を10分とした条件で、ベース体20を熱処理(酸化処理)した。その後、実験1での熱処理と同様の条件でベース体20に熱処理(つまり、加熱温度を850℃とした原料ガス中熱処理)を施した。そして、熱処理開始後ベース体に張力を与えて、アーク溶接した部分を破断した。その結果、ナノポーラスアルミナに充填していた鉄と、純鉄箔とが引き剥がされた破断面間にカーボンナノファイバが成長している事が確認できた。
【0082】
<実験4>
実験3において用いたベース体20と同じ構成のベース体を準備し、同様に酸化処理および熱処理を行った。熱処理開始後ベース体に張力を与えて、ベース体においてアーク溶接した部分を破断した。この結果、実験3の場合と同様に破断面間にカーボンナノファイバが成長している事が確認できた。
【0083】
<実験5>
実験3において用いた触媒部材と分離部材とを準備し、当該触媒部材と分離部材とを接合する前に、それぞれ酸化処理を行った。当該酸化処理の処理条件は実験3における酸化処理の条件と同様とした。その後、酸化処理された触媒部材と分離部材とをアーク溶接し、ベース体を構成した。さらに、当該ベース体に対して実験3と同様の熱処理を行い、熱処理開始後ベース体に張力を与えて、アーク溶接した部分を破断した。その結果、破断面間にカーボンナノファイバが成長している事が確認できた。
【0084】
<実験6>
100μm厚の純鉄箔を表面に設置した鉄ブロックからなる分離部材と、50nm径の鉄フィラメントが表面から裏面にまで貫通した金板からなる触媒部材とを圧着により接合して、
図5に示すようなベース体20を形成した。その後、触媒部材と分離部材との接合界面に酸素濃度が1%であるアルゴンガスを吹き付けながら、加熱温度を800℃、熱処理時間を5分とした条件で、ベース体20を熱処理(酸化処理)した。その後、酸素を100ppm含有するエチレンガスからなる原料ガス中で、加熱温度850℃とした条件で熱処理を施した。そして、熱処理開始後、ベース体に張力を与えて、アーク溶接した部分を破断した。その結果、破断面間にカーボンナノファイバが成長している事が確認できた。
【0085】
<実験7>
50μm厚の純鉄箔を表面に設置した鉄ブロックからなる分離部材と、表面に鉄とアルミナとを同時蒸着した表層膜を形成した鉄ブロックからなる触媒部材とを、当該表層膜が接合界面に位置するように、熱圧着により接合して、ベース体を形成した。その後、触媒部材と分離部材との接合界面に酸素濃度が1%であるアルゴンガスを吹き付けながら、加熱温度を800℃とした条件で、ベース体20を熱処理(酸化処理)した。その後、水分を500ppm含有するアセチレンガスからなる原料ガス中で、加熱温度850℃とした条件で熱処理を施した。そして、熱処理開始後、ベース体に張力を与えて、アーク溶接した部分を破断した。その結果、破断面間にカーボンナノファイバが成長している事が確認できた。
【0086】
<実験8>
50μm厚の純鉄箔からなる触媒部材と、鉄のシートを石英ブロックからなる固定部材42、43(
図7参照)により把持して固定した分離部材とを準備した。そして、
図7に示すように、触媒部材である純鉄箔に、鉄のシートの端面が接触するように接触部材と分離部材とを接合した。その後、実験3と同様の酸化処理および熱処理を実施した。熱処理開始後ベース体に張力を与えて、接合した部分を破断した。その結果、触媒部材と鉄のシートの端面との間の破断面間にカーボンナノファイバが成長している事が確認できた。
【0087】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。