【実施例】
【0056】
図1に示す病原菌および害虫の駆除装置1を作製した。
反応容器2は、内径が3mm、外径が6mm、長さが110mmの石英からなる容器を用いた。陰極側の電極は、ステンレスを用いた。陽極側の電極は、タングステンを用いた。水供給部4には、水をポンプから供給すると共にガスを供給し、反応容器2内に水ミストを供給した。ガスとして、室温で、圧力が0〜0.2MPaのアルゴン及びヘリウムをガス搬送管3aに供給した。
【0057】
ガス搬送管3aにガスをマスフローコントローラーで流量を制御して流し、大気圧、室温の下でガス搬送管3aから噴出させた大気圧下の放電を行った。印加電圧Vを2〜25kVとして放電を行い、放電で生成したOHラジカルを、分光器を用いて検知した。なお、オゾン臭は発生しなかった。
【0058】
(ヘリウム又はアルゴンを用いたプラズマ放電)
大気圧下の放電条件の概要を以下に示す。
ガス:ヘリウム又はアルゴン
印加電圧:V=0〜25kV
周波数 :f=5〜20kHz
水導入量:0.001〜20mL/時間(Lはリットルである)
ガス流量:F
gas=1〜10L/分
【0059】
(ヘリウム又はアルゴンを用いたプラズマ放電)
図9は、ヘリウムガスと水ミストによるプラズマの発光分光スペクトルを示す図である。
図9から明らかなように、発光波長309nmのOHラジカルによる発光と、発光波長700nmのHeによる発光が観測された。
【0060】
図10は、水導入量に対するOHラジカルのヘリウム及びアルゴンに対する発光強度比依存性を示す図であり、(a)はヘリウムプラズマ、(b)はアルゴンプラズマの場合である。横軸は水導入量(mL/時間)であり、縦軸は発光強度比(OHラジカル/He)である。
図10(a)から明らかなように、ヘリウムプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、水導入量が0.001mL/時間以上で急激に増大し、2〜6mL/時間の範囲では、凹凸状の変化を示すことが分かった。
図10(b)から明らかなように、アルゴンプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、水導入量が0.1mL/時間以上で急激に増大し、2〜6mL/時間の範囲では、ほぼ一定であることが分かった。
【0061】
(印加電圧依存性)
図11は、印加電圧に対するOHラジカルのヘリウム及びアルゴンに対する発光強度比依存性を示す図であり、(a)はヘリウムプラズマ、(b)はアルゴンプラズマの場合である。
図11の横軸は印加電圧(kV)であり、縦軸は発光強度比(OHラジカル/He)である。
図11(a)から明らかなように、ヘリウムプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、印加電圧が10kVで1となり、印加電圧の増大と共に発光強度比は増加し、印加電圧が約14kVで、発光強度比は約9のピークとなった。その後は、印加電圧を17kV迄増加しても発光強度比は9から6迄単調に減少することが分かった。
図11(b)から明らかなように、アルゴンプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、印加電圧が9kVで0.5となり、印加電圧の増大と共に発光強度比は増加し、印加電圧が約14kV〜24kVにおいて、発光強度比は約0.9と一定になった。
【0062】
(空気を用いたプラズマ放電)
図3に示す病原菌および害虫の駆除装置20を作製した。
反応容器2は、内径が4mm、外径が6mm、長さが85mmの石英からなる容器を用いた。陰極電極25の挿入部25bには、注射針を用いた。この注射針に水をポンプから供給し、水供給部4から水ミストを反応容器2内に供給した。ガス供給部3から反応容器2内にガスを供給した。反応容器2に挿入した陽極電極26はタングステン製の線束であり、直径が0.5mmの線を5本使用した。ガスとして、大気圧、室温の下で、アルゴン、酸素、空気の何れかをガス搬送管3aに供給した。
【0063】
ガス搬送管3aにガスをマスフローコントローラーで流量を制御して流し、大気圧、室温の下でガス搬送管3aから噴出させた大気圧下の放電を行った。印加電圧Vを0〜25kVで変化させて放電を行い、放電で生成したOHラジカルを、分光器を用いて検知した。なお、オゾン臭は発生しなかった。
【0064】
空気の圧力が0.05MPa(約0.5気圧)の放電条件の概要を以下に示す。
ガス:空気
印加電圧:V=10〜25kV
周波数 :f=5〜20kHz
水導入量:0〜13mL/時間
【0065】
図12は、空気と水ミストの有無によるプラズマの発光分光スペクトルの、(a)は水ミストが添加されない場合、(b)は水ミストが添加された場合を示す図である。
図13は、
図12の発光分光スペクトルの300nm〜350nmの波長領域の拡大図である。
図12(b)から明らかなように、水ミストが空気プラズマに添加された場合には、水ミストが添加されない場合(
図12(a)参照)に比較すると、水素(H)による656nmのHα発光が増大し、さらに、OHラジカルの発光波長である309nm近傍の発光強度が増大することが分かる。酸素(O)の発光は、777nmである。発光分光スペクトルの300nm〜350nmの詳細は、
図13から明らかなように、水ミストが添加された場合には、水ミストが添加されない場合よりも309nmのOHラジカルの強度が3倍以上に増大し、空気に含まれている窒素(N
2)の337nmの発光は、水ミストの添加の有無に関わらずにほぼ同じ強度であることが判明した。
【0066】
図14は、水導入量に対するOHラジカルのN
2に対する発光強度比依存性を示す図である。
図14の横軸は水導入量(mL/時間)で、縦軸は発光強度比(OHラジカル/N
2)である。
図14から明らかなように、空気プラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/N
2)は、水導入量が約1〜10ml/時間の範囲では、約0.4〜0.7程度の変動があり、水導入量が10〜12mL/時間の範囲では、約0.4〜1に増加し、その後水導入量が12〜14.5mL/時間の範囲では、約0.9まで減少することが判明した。
【0067】
図15は、水導入量に対するOHラジカルのヘリウムに対する発光強度比依存性を示す図である。
図15の横軸は水導入量(mL/時間)であり、縦軸は発光強度比(OHラジカル/He)である。
図15から明らかなように、ヘリウムプラズマの場合には、水導入量が0〜4mL/時間の範囲では、発光強度比(OHラジカル/He)は約2.3〜3.2に増加し、その後水導入量を12〜14.5mL/時間の範囲で増加させても、発光強度比(OHラジカル/He)は3.3〜3.6で飽和することが判明した。なお、オゾン臭は発生しなかった。
【0068】
(空気プラズマの印加電圧依存性)
図16は、OHラジカル及びN
2の発光強度に対する印加電圧依存性を示す図である。
図16の横軸は印加電圧(kV)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。
図16から明らかなように、OHラジカルの発光は、印加電圧が14kV以上で発生し、印加電圧を約24kVまで増大させても発光強度はほぼ一定であった。N
2の発光強度は、印加電圧が約14kV以上で発生し、その後印加電圧を18kVで最大値となり、その後さらに印加電圧を増加すると、N
2の発光強度は、減少することが分かった。つまり、印加電圧が約14〜約24kVの範囲で大きな山形の変化を示すことがわかった。
【0069】
(ヘリウムプラズマの印加電圧依存性)
図17は、OHラジカル及びヘリウムの発光強度に対する印加電圧依存性を示す図である。
図17の横軸は印加電圧(kV)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。
図17から明らかなように、OHラジカルの発光強度は印加電圧が4kV以上で発生し、印加電圧の増大と共にOHラジカルの発光強度は増加した。ヘリウムの発光は、印加電圧が約4kV以上で発生し、その後印加電圧を約23.5kV迄増加させると、ヘリウムの発光は、印加電圧に比例して増大することが分かった。
【0070】
上記結果から、空気によるプラズマ放電においても、ヘリウムプラズマと同様に水ミストの導入により、水ミストの導入量にほぼ比例してOHラジカルを発生できることが分かった。
【0071】
(OHラジカル密度の測定)
次に、上記病原菌および害虫の駆除装置1で発生したOHラジカルの密度測定方法について説明する。
上記病原菌および害虫の駆除装置1で発生したOHラジカルによる殺菌又は殺虫に応用するために、OHラジカルでテレフタル酸の水酸化を行い、その蛍光を測定することでOHラジカルの密度を測定した。
【0072】
図18は、OHラジカルによるテレフタル酸の水酸化を利用したOHラジカルの密度を調べる測定方法を模式的に示す図である。
図18に示すように、テレフタル酸にOHラジカルが反応(水酸化)してヒドロキシテレフタル酸が生成される。ヒドロキシテレフタル酸は、310nmの紫色光を照射すると、波長が425nmの蛍光が発生する。この蛍光の強度は、OHラジカルとテレフタル酸とが反応して生成するヒドロキシテレフタル酸の量に比例して増大する。
【0073】
図19は、ヘリウムガスの流量を変えたときのテレフタル酸の水酸化で発生する蛍光の発光スペクトトルを示す図であり、(a)が1slm、(b)が3slm、(c)が5slm、(d)が8slmである。ここで、slmは、スタンダードリットル/分であり、L/分の単位を表す。
図19の横軸は波長(nm)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。
図19から明らかなように、波長が425nmの蛍光強度(図中の矢印の位置)、すなわちOHラジカルの密度は、ヘリウムガスの流量が1slm、3slm、5slm、8slmと増大すると共に増加することが分かった。
【0074】
図20は、蛍光強度のヘリウムガス流量依存性を示す図である。
図20の横軸はヘリウムガス流量(slm)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。
図20から明らかなように、蛍光強度、すなわちOHラジカル密度は、ヘリウムガスの流量にほぼ比例して増大することが判明した。以上の結果から、本発明の病原菌および害虫の駆除装置1によれば、ヘリウムガス流量を変化することで、OHラジカルを効率よく発生できることが分かる。
【0075】
(OHラジカルの水導入量および空気導入量依存性)
図1に示す病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、水導入量および空気導入量を変えたときに発生するプラズマ中の過酸化水素の濃度測定を行った。過酸化水素の濃度測定には、パックテスト(登録商標;株式会社共立理化学研究所製)を用いた。パックテストの試薬は、酵素(ペルオキシダーゼ)と4−アミノアンチピリンである。測定では、プラズマの照射距離が30〜200mmの位置に、純水(2.4mL)を入れたシャーレを設置し、その純水にプラズマを照射したものを検体として使用した。プラズマの照射距離を50mmとし、水導入量を変化させたときのプラズマの照射時間を10分、空気導入量を変化させたときのプラズマの照射時間を1分とした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHzとした。
【0076】
水導入量を変化させたときの結果を
図21(a)に、空気導入量を変化させたときの結果を
図21(b)に示す。
図21(a)に示すように、水導入量を100〜200μL/minまで増やすと、水を導入しない場合と比べて、過酸化水素の濃度が2〜10倍程度まで急激に増加することがわかった。また、
図21(b)に示すように、空気導入量を4L/minから16L/minまで4倍に増やすと、過酸化水素の濃度が10〜100倍以上増加することがわかった。特に、7L/min以上のとき、過酸化水素の濃度が大きくなっていることがわかった。過酸化水素を利用してOHラジカルが生成されるため、OHラジカルも、水導入量の増加や空気導入量の増加とともに、過酸化水素濃度の増加と同程度増加していると考えられる。
【0077】
(OHラジカルのプラズマ照射時間および照射距離依存性)
図1に示す病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、プラズマ照射時間およびプラズマ照射距離を変えたときに発生するプラズマ中のOHラジカル密度および過酸化水素の濃度測定を行った。OHラジカル密度の測定は、
図18に基づいた波長425nmの蛍光強度を利用して行い、過酸化水素の濃度測定は、パックテストを用いて行った。プラズマ照射時の電圧を11.7kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を91μL/minとした。また、プラズマ照射時間を変化させたときのプラズマ照射距離を30mm、プラズマ照射距離を変化させたときのプラズマ照射時間を15分とした。
【0078】
プラズマ照射時間tを変化させたときの結果を
図22に、プラズマ照射距離dを変化させたときの結果を
図23に示す。また、OHラジカル密度の変化を
図22(a)および
図23(b)に、過酸化水素の濃度変化を
図22(b)および
図23(b)に示す。
図22に示すように、プラズマ照射時間tが長くなるに従って、OHラジカル密度および過酸化水素濃度ともに増加する傾向が認められた。また、
図23(a)に示すように、OHラジカル密度は、プラズマ照射距離dが60mm〜100mmの範囲で大きくなっており、70mm付近で最大となることがわかった。また、
図23(b)に示すように、過酸化水素濃度は、プラズマ照射距離dが長くなるに従って低下する傾向が認められた。
なお、上述の病原菌および害虫の駆除装置を用いた場合には、オゾン臭は発生しなかった。
【0079】
(OHラジカルによる殺菌)
病原菌に対する殺菌効果を調べる実験を行った。実験では、主に農作物の病原菌を用い、OHラジカル照射後の病原菌の様子の変化を顕微鏡により観察した。
【0080】
(ユリ葉枯病菌(学名:Botrytis elliptica)の殺菌)
ユリ葉枯病菌をPDA培地で培養後、ユリ葉枯病菌をPDA培地ごと5mm角に切り出し、
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、Heプラズマに水ミストを添加して発生したOHラジカルを照射後、9分割し、PDA培地を使用して20℃で2日間培養した。反応容器とPDA培地との距離は約5cmとした。また、放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。
【0081】
図24は、ヘリウムプラズマにより発生したOHラジカルを照射した2日後のユリ葉枯病菌の顕微鏡像を示す図であり、(a)はOHラジカルを照射しないときの菌、(b)電源部7をオフしてHeと水ミストを10分照射したときの菌、(c)はOHラジカルを5分照射したときの菌、(d)はOHラジカルを10分照射したときの菌である。
図24に示すように、OHラジカルを10分間照射することによりユリ葉枯病菌が死滅することがわかった。
【0082】
図4の病原菌および害虫の駆除装置20Aを使用して、空気プラズマに水ミストを添加して発生したOHラジカルを、Heプラズマの場合と同様にPDA培地に照射後、9分割し、PDA培地を使用して20℃で2日間培養した。反応容器とPDA培地との距離は約1cmとした。また、放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。
【0083】
図25は、空気プラズマにより発生したOHラジカルを照射した2日後のユリ葉枯病菌の顕微鏡像を示す図であり、(a)はOHラジカルを照射しない場合の菌、(b)電源部7をオフして空気と水ミストを10分照射したときの菌、(c)はOHラジカルを5分照射したときの菌、(d)はOHラジカルを10分照射したときの菌である。
図25に示すように、OHラジカルを10分間照射することによりユリ葉枯病菌が死滅することがわかった。
【0084】
次に、
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、水ミストを導入したときと導入しなかったとき、および、プラズマを照射せずに、プラズマ照射時の温度状態をドライヤーで再現した場合の、水ミストを導入したときと導入しなかったときについて実験を行った。ユリ葉枯病菌は、プラズマ照射後またはドライヤーの風を当てた後、PDA培地を使用して、20℃で10日間培養し、その変化を観察した。ドライヤーによる温度状態の再現は、プラズマ照射時の温度状態を放射温度計により測定した結果を利用して、放射温度計で温度測定を行いながらドライヤーの風を当てることにより行った。プラズマの照射時間およびドライヤーの風を当てる時間を10分、プラズマの照射距離およびドライヤーによる風の噴射距離を30mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を98μL/minとした。
【0085】
実験結果を、
図26に示す。
図26の(a)は水ミストを導入せずにプラズマを照射したとき、(b)は水ミストを導入せずにドライヤーの風を当てたとき、(c)は水ミストを導入してプラズマを照射したとき、(d)は水ミストを導入してドライヤーの風を当てたとき、(e)は比較のためにプラズマの照射も、ドライヤーも、水の導入も行わなかったときの結果である。
図26に示すように、プラズマの照射を行ったもの(
図26(a)および(c))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、10日間培養しても菌が繁殖していないことから、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、ドライヤーの風を当てたもの(
図26(b)および(d))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、菌が繁殖しており、殺菌効果が得られていないことがわかる。この結果から、
図26(a)および(c)で得られた殺菌効果は、熱によるものではなく、熱以外の要因によるものであるといえる。
【0086】
(菊白サビ葉菌(学名:Puccinia horiana Hennings)の殺菌)
ユリ葉枯病菌と同様に、菊白サビ葉菌をPDA培地で培養後、PDA培地を5mm角に切り出し、OHラジカル照射後、9分割し、PDA培地を使用して20℃で4日間培養した。OHラジカルは、ヘリウムプラズマを用いて発生した。また、放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。
【0087】
図27は、菊白サビ葉菌のOHラジカル照射後4日後の顕微鏡像を示す図である。
図27に示すように、OHラジカルを照射することにより菊白サビ葉菌が死滅することがわかった。
【0088】
(馬鹿苗病菌(学名:Gibberella fujikuroi)の殺菌)
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、馬鹿苗病菌に対して毎日プラズマを照射し、その照射時間を変えたときの変化を調べた。馬鹿苗病菌は、PDA培地を使用して、20℃で24日間培養し、その間のプラズマ照射による変化を観察した。プラズマの照射時間をそれぞれ毎日15分、10分、4分とし、プラズマの照射距離を100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を98μL/minとした。
【0089】
実験結果を、
図28に示す。
図28の(a)はプラズマ照射時間を毎日15分としたとき、(b)はプラズマ照射時間を毎日10分としたとき、(c)はプラズマ照射時間を毎日4分としたとき、(d)は比較のためにプラズマ照射を行わず、空気のみを毎日4分間送風したとき、(e)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。
図28に示すように、毎日15分間プラズマ照射を行ったもの(
図28(a))および毎日10分間プラズマ照射を行ったもの(
図28(b))は、菌が徐々に減少しており、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、毎日4分間プラズマ照射を行ったもの(
図28(c))は、菌の繁殖を抑える効果は得られているが、菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0090】
次に、馬鹿苗病菌に対してプラズマを照射する間隔を変えたときの変化を調べた。馬鹿苗病菌は、PDA培地を使用して、20℃で26日間培養し、その間のプラズマ照射による変化を観察した。プラズマの1回の照射時間を15分とし、プラズマの照射距離を100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を98μL/minとした。
【0091】
実験結果を、
図29に示す。
図29の(a)はプラズマを毎日照射したとき、(b)はプラズマを2日ごとに照射したとき、(c)はプラズマを5日ごとに照射したとき、(d)は比較のためにプラズマ照射を行わず、空気のみを毎日送風したとき、(e)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。
図29に示すように、毎日プラズマ照射を行ったもの(
図29(a))は、菌が徐々に減少しており、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、2日ごとにプラズマを照射したもの(
図29(b))および5日ごとにプラズマを照射したもの(
図29(c))は、菌の繁殖を抑える効果は得られているが、菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0092】
(灰色かび病菌(学名:Botryotinia fuckeliana)の殺菌)
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、灰色かび病菌に対して、水ミストを導入したときと導入しなかったときについてプラズマ照射を行い、その照射時間を変えたときの変化を調べた。灰色かび病菌は、プラズマ照射後、PDA培地を使用して20℃で10日間培養し、その変化を観察した。プラズマの照射時間をそれぞれ15分、10分、7分、2分、1分とし、プラズマの照射距離を100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/minとした。また、水ミストを導入したときの水導入量を、照射時間が1〜4分のとき117μL/min、7〜15分のとき91μL/minとした。
【0093】
水ミストを導入しなかったときの実験結果を
図30に、水ミストを導入したときの実験結果を
図31に示す。
図30および
図31の(a)はプラズマ照射時間を15分、(b)は10分、(c)は7分、(d)は2分、(e)は1分としたとき、(f)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。
図30および
図31に示すように、プラズマ照射を15分間行ったもの(
図30(a)、
図31(a))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、10日間培養しても菌が繁殖していないことから、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、プラズマ照射が10分間以下のもの(
図30(b)〜(e)、
図31(b)〜(e))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、照射時間が長くなるほど菌の繁殖を抑える効果は大きくなっているが、いずれも菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0094】
次に、
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、灰色かび病菌の胞子に対してプラズマ照射を行い、その照射時間および照射距離を変えたときの変化を調べた。灰色かび病菌の胞子は、プラズマ照射後、PDA培地を使用して20℃で10日間培養し、その変化を観察した。プラズマの照射時間をそれぞれ15分、4分とし、プラズマの照射距離をそれぞれ200mm、100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.7kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を91μL/minとした。また、胞子の密度は、100個/10μLとした。
【0095】
実験結果を、
図32に示す。
図32の(a)はプラズマの照射時間を15分、照射距離を200mmとしたとき、(b)はプラズマの照射時間を15分、照射距離を100mmとしたとき、(c)はプラズマの照射時間を4分、照射距離を100mmとしたとき、(d)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。
図32に示すように、プラズマ照射を15分間行ったもの(
図32(a)および(b))は、照射距離にかかわらず、10日間培養しても菌が繁殖していないことから、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、プラズマ照射が4分間のもの(
図32(c))は、菌の繁殖を抑える効果は得られているが、菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0096】
次に、灰色かび病菌に、さまざまな濃度の過酸化水素を滴下した後、PDA培地を使用して20℃で7日間培養し、その変化を観察した。過酸化水素の濃度は、1000、625、250、100mg/Lとし、それぞれ100μLを滴下した。
【0097】
実験結果を、
図33に示す。
図33の(a)は過酸化水素の濃度が1000mg/Lのとき、(b)は625mg/Lのとき、(c)は250mg/Lのとき、(d)は100mg/Lのとき、(e)は比較のために過酸化水素の代わりに純水を滴下したとき、(f)は比較のために何も滴下しなかったときの結果である。
図33に示すように、過酸化水素の濃度が高くなるほど菌の繁殖を抑える効果は大きくなっているが、いずれも菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。この結果から、プラズマ照射時の殺菌効果は、過酸化水素によるものではないといえ、OHラジカルによるものであると考えられる。
【0098】
(OHラジカルによる殺虫)
害虫に対する殺菌効果を調べる実験を行った。
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、ヘリウムプラズマを用いて発生したOHラジカルを、アブラムシに照射した。放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。
図34は、アブラムシにOHラジカルを照射したときの、アブラムシの顕微鏡像を示す図である。
図34に示すように、アブラムシにOHラジカルを照射した場合、アブラムシは死滅し又は衰弱した。その個体を目視又は顕微鏡観察で確認した。
【0099】
次に、
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、ヘリウムプラズマを用いて発生したOHラジカルを、ダニに照射した。放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5ml/時間とした。OHラジカルを照射した個体は、数日後で死滅することを顕微鏡観察で確認した。一方、OHラジカルを照射しなかったダニは、生存した。
【0100】
上記結果から、農作物の病気を発生させる菌の殺菌や害虫の駆除は、印加電圧を10kV〜20kVとし(
図11、16参照)、1時間当たり0.001mL〜10mLの水ミスト(
図14、15参照)を導入し、ヘリウムや空気などのガスの供給量を7リットル/分〜20リットル/分とし(
図21参照)。ヘリウムプラズマや空気プラズマを用いて生成されたOHラジカルを、少なくとも5分以上〜15分間程度病原菌又は害虫に照射すればよいことが確認できた。
【0101】
本発明においては、OHラジカル量は、用いる病原菌および害虫の駆除装置1の反応容器2の内径の大きさ、陰極電極5や陽極電極6の長さ、電極の表面積、電圧の範囲及び導入される水ミスト量等に依存して制御されるものであり、前述の、1時間当たり0.001mL〜10mLの水ミストの導入範囲に制限されるものではない。また、前述の、5分以上〜15分間の照射時間に制限されない。
【0102】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。