特許第5909831号(P5909831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909831
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】病原菌および害虫の駆除装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/00 20060101AFI20160414BHJP
   H05H 1/26 20060101ALI20160414BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20160414BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20160414BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20160414BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   A01M1/00 Z
   H05H1/26
   A01N59/00 Z
   A01P3/00
   A01P7/04
   A01P7/02
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-554615(P2014-554615)
(86)(22)【出願日】2013年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2013085232
(87)【国際公開番号】WO2014104350
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-289269(P2012-289269)
(32)【優先日】2012年12月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊顕
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−145689(JP,A)
【文献】 特開2006−202541(JP,A)
【文献】 特開2010−225361(JP,A)
【文献】 特開2012−252843(JP,A)
【文献】 特表2012−531699(JP,A)
【文献】 特開2008−237047(JP,A)
【文献】 特開2008−135242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/00
A01M 1/00−99/00
A61L 2/00−2/26;11/00
A01P 3/00;7/02;7/04
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器と1対の電極と水供給部とガス供給部と電源部とを有し、
一方の電極は、前記反応容器に挿入される挿入部を有し、
他方の電極は、前記挿入部と対向する位置に配置され、
前記水供給部は、前記挿入部を介して水を前記反応容器に供給可能に設けられ、
前記ガス供給部は、プラズマとなるガスを前記反応容器に供給可能に設けられ、
前記電源部は、前記水と前記ガスとが供給された前記反応容器中にOHラジカルを発生させるよう、前記挿入部と前記他方の電極との間に電圧を印加可能に設けられていることを
特徴とする病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項2】
前記挿入部は筒状を成し、その内部を通して前記水を前記反応容器に供給可能であることを特徴とする請求項記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項3】
前記挿入部は、内部を通った水が伝うよう先端から突出して設けられた、細線から成る線状体を有することを特徴とする請求項記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項4】
前記挿入部の先端および外側面との間に隙間をあけて、前記挿入部の先端および外側面を覆い、前記挿入部を通った水が前記隙間を通った後、前記反応容器に供給されるよう設けられた冷却手段を有することを特徴とする請求項記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項5】
前記水供給部は、水ミストを前記反応容器に供給可能であることを特徴とする請求項または記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項6】
前記他方の電極は、前記反応容器の内側又は外側に配設されたコイルを有することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項7】
前記他方の電極は、複数の細線から成る放射状電極部を有することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項8】
前記電源部はパルス電源であることを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項9】
前記電源部は交流電源を含むことを特徴とする請求項記載の病原菌および害虫の駆除装置。
【請求項10】
請求項乃至のいずれか1項に記載の病原菌および害虫の駆除装置から成り、発生させた前記OHラジカルを照射して病原菌又は害虫を駆除する農業用駆除方法で使用することを特徴とするプラズマ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原菌又は害虫を殺菌し駆除するための病原菌および害虫の駆除方法ならびに病原菌および害虫の駆除装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ放電を利用した薄膜の形成やエッチングは従来から広く用いられている。例えば、無機金属化合物の薄膜が大気圧グロー放電プラズマにより形成されている(特許文献1参照)。また、特許文献2には、元素分析を行うプラズマ分析装置において、被分析物を液体と共に噴霧して、プラズマ中に導入する装置が開示されている。
【0003】
一方、プラズマの利用方法として、空気プラズマを用いて殺菌を行う方法が開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
なお、農業の分野では、無農薬で野菜等を栽培することが行われている。しかし、従来の農業では、農薬を使用しないでは、効率的に作物の病原菌や害虫を駆除できず、作物や土壌への農薬の残留が問題となっている。近年、殺菌に最も効果の高い水酸基ラジカル(以下、OHラジカルと呼ぶ。)が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−138761号公報
【特許文献2】特開2006−202541号公報
【特許文献3】特開2010−187648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載のような空気プラズマを用いた殺菌方法では、殺菌効果に優れたOHラジカルを効率良く生成することができず、病原菌および害虫を効果的に駆除することができないという課題があった。このため、例えば、農業の分野で使用しても、農薬に替わる程の効果を発現することはできないという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、OHラジカルを効率良く生成することができ、病原菌および害虫の駆除効果に優れた、病原菌および害虫の駆除方法ならびに病原菌および害虫の駆除装置を提供することを第1の目的としている。また、農業分野に使用したとき、農薬を使用しないで農作物や土壌等の殺菌又は殺虫が可能になる、病原菌および害虫の駆除方法ならびに病原菌および害虫の駆除装置を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、水ミスト等の水を空気等のプラズマ中に導入することにより、OHラジカルを生成すると共に、OHラジカルにより殺菌又は殺虫ができるとの知見を得て本発明に想到した。
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る病原菌および害虫の駆除方法は、水を反応容器に導入し、ガス供給部からプラズマとなるガスを前記反応容器に供給し、前記反応容器に配設された陽極電極と陰極電極との間に電圧を印加して前記ガスを放電すると共にOHラジカルを発生し、前記OHラジカルを照射して病原菌又は害虫を駆除することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る病原菌および害虫の駆除方法は、反応容器中にガスだけでなく、水も導入することにより、OHラジカルを効率良く生成することができる。OHラジカルは優れた殺菌効果を有するため、病原菌を殺菌したり害虫を殺したりすることにより効果的に駆除することができる。
【0011】
本発明に係る病原菌および害虫の駆除方法で、水はいかなる形態で反応容器に導入されてもよく、好ましくは、水ミストや水滴とする。この場合、OHラジカルを発生しやすくすることができる。また、ガスはプラズマとなるガスであれば何でもよく、好ましくは、空気、ヘリウム、アルゴンの何れか、又は該ガスの混合物とする。また、水ミストおよび/またはガスの供給量の供給量を制御することで、OHラジカルの発生量を制御してもよい。
【0012】
本発明に係る病原菌および害虫の駆除方法は、植物等を害する病原体や害虫によって何らかの被害を受ける又は被害を受けた被殺菌物、例えば当該被害を受ける又は被害を受けた植物又は土壌に対して使用されることが好ましい。ここで、病原体としては、糸状菌(主にカビ)および細菌(バクテリア)といった病原菌や、ウイルスなどが挙げられる。病原菌は、イネいもち病、ムギうどんこ病、ダイズ紫斑病、イチゴ灰色かび病、キュウリ灰色かび病、トマト灰色かび病、ユリ葉枯病、キュウリうどんこ病、イチゴうどんこ病、トマト葉かび病、ネギさび病、キク白さび病、ネギ黒斑病、ネギ黒斑病、リンゴ斑点落葉病、キュウリ褐斑病、シュンギク炭疽病、セリ葉枯病、リンゴ褐斑病、馬鹿苗病の何れであってもよい。害虫は、植物を害する害虫なら何でも適用可能で、好ましくは、ダニ又はアブラムシとしても良い。
【0013】
本発明に係る病原菌および害虫の駆除方法では、さらに好ましくは、電圧を10kV〜20kVとし、1時間当たり0.001mL〜10mLの水ミストを導入して生成したOHラジカルを用いても良く、また、ガスの供給量を7リットル/分〜20リットル/分としても良く、さらに加えて、被殺菌物又は被殺虫物に少なくとも5分以上〜15分間照射しても良い。
【0014】
本発明に係る農業用駆除方法は、本発明に係る病原菌および害虫の駆除方法から成ることを特徴とする。
本発明に係る農業用駆除方法によれば、優れた殺菌効果を有するOHラジカルを効率良く生成することができるため、農薬を使用しないで農作物や土壌等の殺菌又は殺虫が可能になる。
【0015】
また、上記の目的を達成するため、本発明に係る病原菌および害虫の駆除装置は、反応容器と1対の電極と水供給部とガス供給部と電源部とを有し、一方の電極は、前記反応容器に挿入される挿入部を有し、他方の電極は、前記挿入部と対向する位置に配置され、前記水供給部は、前記挿入部を介して水を前記反応容器に供給可能に設けられ、前記ガス供給部は、プラズマとなるガスを前記反応容器に供給可能に設けられ、前記電源部は、前記水と前記ガスとが供給された前記反応容器中にOHラジカルを発生させるよう、前記挿入部と前記他方の電極との間に電圧を印加可能に設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る病原菌および害虫の駆除装置は、上記のいずれかに記載の本発明に係る病原菌および害虫の駆除方法で好適に使用される。本発明に係る病原菌および害虫の駆除装置は、反応容器中にガスだけでなく、挿入部を介して水も導入するため、OHラジカルを効率良く生成することができる。OHラジカルは優れた殺菌効果を有するため、病原菌を殺菌したり害虫を殺したりすることにより効果的に駆除することができる。このため、農業分野に使用したとき、農薬を使用しないで農作物や土壌等の殺菌又は殺虫が可能になる。この農業分野で使用するものとして、本発明に係るプラズマ装置は、本発明に係る病原菌および害虫の駆除装置から成り、本発明に係る農業用駆除方法で使用することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る病原菌および害虫の駆除装置で、前記挿入部は筒状を成し、その内部を通して前記水を前記反応容器に供給可能であることが好ましい。この場合、反応容器内の各電極に挟まれた位置に水を供給することができ、OHラジカルを効果的に発生させることができる。
【0018】
この挿入部が筒状を成す場合、前記挿入部は、内部を通った水が伝うよう先端から突出して設けられた、細線から成る線状体を有していてもよい。この場合、線状体を伝う水から効率的にOHラジカルを発生させることができる。線状体を伝う水は、水滴状であることが好ましい。また、前記挿入部の先端および外側面との間に隙間をあけて、前記挿入部の先端および外側面を覆い、前記挿入部を通った水が前記隙間を通った後、前記反応容器に供給されるよう設けられた冷却手段を有していてもよい。この場合、冷却手段により挿入部を冷却することができ、発生するOHラジカルを含むプラズマが高温になるのを抑えることができる。このため、プラズマを照射する植物などの被照射物への熱による影響を抑制することができる。
【0019】
また、本発明に係る病原菌および害虫の駆除装置で、前記水供給部は、水ミストや水滴を前記反応容器に供給可能であってもよく、特に水ミストを供給可能であることが好ましい。この場合、特にOHラジカルを発生しやすくすることができる。
【0020】
本発明に係る病原菌および害虫の駆除装置で、前記他方の電極は、前記反応容器の内側又は外側に配設されたコイルを有していてもよく、複数の細線から成る放射状電極部を有していてもよい。この場合、プラズマを発生しやすくなり、OHラジカルを効率良く発生することができる。また、前記電源部は、好ましくはパルス電源であり、交流電源も使用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水ミスト等の水とプラズマとなるガスにより発生するOHラジカルを効率良く生成することができ、短時間で、かつ、殺菌又は殺虫ができ、病原菌および害虫の駆除効果に優れた、病原菌および害虫の駆除方法ならびに病原菌および害虫の駆除装置を提供することができる。また、本発明によれば、例えば、農業分野に使用したとき、農薬を使用しないで農作物や土壌等の殺菌又は殺虫が可能になる、病原菌および害虫の駆除方法ならびに病原菌および害虫の駆除装置を提供することができる。
【0022】
本発明のプラズマ装置によれば、0.5気圧〜大気圧下において、空気、ヘリウム、アルゴンを用いたプラズマ中に水ミストを供給することにより強酸化力を有するOHラジカルを効率良く発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す病原菌および害虫の駆除装置から発生する水酸基ラジカル量と水導入量との関係の一例を示す図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置の構成例を示す図である。
図4】本発明の第2の実施形態の変形例に係る病原菌および害虫の駆除装置の構成例を示す図である。
図5】本発明の第3の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置の構成例を示す、電極付近の拡大図である。
図6】本発明の第4の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置の構成例を示す、電極付近の拡大図である。
図7図6に示す病原菌および害虫の駆除装置の、(a)冷却手段に水を導入しないときのプラズマ発生時の温度変化、(b)冷却手段に水を導入したときのプラズマ発生時の温度変化を示すグラフである。
図8】本発明の第5の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置の構成例を示す図である。
図9図1に示す病原菌および害虫の駆除装置による、ヘリウムガスと水ミストによるプラズマの発光分光スペクトルを示す図である。
図10図1に示す病原菌および害虫の駆除装置による、水導入量に対するOHラジカルのヘリウム及びアルゴンに対する発光強度比依存性を示す図であり、(a)はヘリウムプラズマ、(b)はアルゴンプラズマの場合である。
図11図1に示す病原菌および害虫の駆除装置による、印加電圧に対するOHラジカルのヘリウム及びアルゴンに対する発光強度比依存性を示す図であり、(a)はヘリウムプラズマ、(b)はアルゴンプラズマの場合である。
図12図3に示す病原菌および害虫の駆除装置による、空気と水ミストの有無によるプラズマの発光分光スペクトルを示し、(a)は水ミストが添加されない場合、(b)は水ミストが添加された場合を示す図である。
図13図12の発光分光スペクトルの300nm〜350nmの波長領域の拡大図である。
図14図3に示す病原菌および害虫の駆除装置による、水導入量に対するOHラジカルのN2に対する発光強度比依存性を示す図である。
図15図3に示す病原菌および害虫の駆除装置による、水導入量に対するOHラジカルのヘリウムに対する発光強度比依存性を示す図である。
図16図3に示す病原菌および害虫の駆除装置による、OHラジカル及びN2の発光強度に対する印加電圧依存性を示す図である。
図17図3に示す病原菌および害虫の駆除装置による、OHラジカル及びヘリウムの発光強度に対する印加電圧依存性を示す図である。
図18】OHラジカルによるテレフタル酸の水酸化を利用したOHラジカル密度を調べる測定方法を模式的に示す図である。
図19図3に示す病原菌および害虫の駆除装置による、ヘリウムガスの流量を変えたときのテレフタル酸の水酸化で発生する蛍光のスペクトルを示す図であり、(a)が1slm、(b)が3slm、(c)が5slm、(d)が8slmである。
図20図3に示す病原菌および害虫の駆除装置による、蛍光強度のヘリウムガス流量依存性を示す図である。
図21図1に示す病原菌および害虫の駆除装置による、プラズマ中の過酸化水素濃度の(a)水導入量依存性、(b)空気導入量依存性を示す図である。
図22図1に示す病原菌および害虫の駆除装置による、プラズマ中の(a)OHラジカル密度、(b)過酸化水素濃度のプラズマ照射時間依存性を示す図である。
図23図1に示す病原菌および害虫の駆除装置による、プラズマ中の(a)OHラジカル密度、(b)過酸化水素濃度のプラズマ照射距離依存性を示す図である。
図24図1に示す病原菌および害虫の駆除装置の、ヘリウムプラズマにより発生したOHラジカルを照射した2日後のユリ葉枯病菌の顕微鏡像を示す図であり、(a)はOHラジカルを照射しないときの菌、(b)電源部をオフしてHeと水ミストを10分照射したときの菌、(c)はOHラジカルを5分照射したときの菌、(d)はOHラジカルを10分照射したときの菌である。
図25図4に示す病原菌および害虫の駆除装置の、空気プラズマにより発生したOHラジカルを照射した2日後のユリ葉枯病菌の顕微鏡像を示す図であり、(a)はOHラジカルを照射しないときの菌、(b)電源部をオフして空気と水ミストを10分照射したときの菌、(c)はOHラジカルを5分照射したときの菌、(d)はOHラジカルを10分照射したときの菌である。
図26図1に示す病原菌および害虫の駆除装置により、ユリ葉枯病菌に対して(a)水ミストを導入せずにプラズマを照射したとき、(b)水ミストを導入せずにドライヤーの風を当てたとき、(c)水ミストを導入してプラズマを照射したとき、(d)水ミストを導入してドライヤーの風を当てたとき、(e)プラズマ照射もドライヤーも水の導入も行わなかったときの、経過日数ごとの観察結果を示す顕微鏡写真である。
図27図1に示す病原菌および害虫の駆除装置による、菊白サビ葉菌のOHラジカル照射後4日後の顕微鏡像を示す図である。
図28図1の病原菌および害虫の駆除装置1により、馬鹿苗病菌に対して(a)プラズマ照射を毎日15分、(b)毎日10分、(c)毎日4分行ったとき、(d)プラズマ照射を行わず、空気のみを毎日4分間送風したとき、(e)プラズマ照射を行わなかったときの、経過日数ごとの観察結果を示す顕微鏡写真である。
図29図1の病原菌および害虫の駆除装置1により、馬鹿苗病菌に対して(a)プラズマを毎日、(b)2日ごと、(c)5日ごとに照射したとき、(d)プラズマ照射を行わず、空気のみを毎日送風したとき、(e)プラズマ照射を行わなかったときの、経過日数ごとの観察結果を示す顕微鏡写真である(太枠がプラズマ照射実施日)。
図30図1の病原菌および害虫の駆除装置1により、水ミストを導入せずに、灰色かび病菌に対して(a)プラズマを15分、(b)10分、(c)7分、(d)2分、(e)1分照射したとき、(f)プラズマ照射を行わなかったときの、経過日数ごとの観察結果を示す顕微鏡写真である。
図31図1の病原菌および害虫の駆除装置1により、水ミストを導入して、灰色かび病菌に対して(a)プラズマを15分、(b)10分、(c)7分、(d)2分、(e)1分照射したとき、(f)プラズマ照射を行わなかったときの、経過日数ごとの観察結果を示す顕微鏡写真である。
図32図1の病原菌および害虫の駆除装置1により、灰色かび病菌の胞子に対して(a)プラズマの照射時間を15分、照射距離を200mmとしたとき、(b)プラズマの照射時間を15分、照射距離を100mmとしたとき、(c)プラズマの照射時間を4分、照射距離を100mmとしたとき、(d)プラズマ照射を行わなかったときの、経過日数ごとの観察結果を示す顕微鏡写真である。
図33】灰色かび病菌に対して、(a)1000mg/L、(b)625mg/L、(c)250mg/L、(d)100mg/Lの過酸化水素を滴下したとき、(e)過酸化水素の代わりに純水を滴下したとき、(e)何も滴下しなかったときの、経過日数ごとの観察結果を示す顕微鏡写真である。
図34図1に示す病原菌および害虫の駆除装置によりアブラムシにOHラジカルを照射したときのアブラムシの顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置1の構成例を示す図である。図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置1は、反応容器2と、反応容器2にガスを供給するガス供給部3と、反応容器2に水ミストを供給する水供給部4と、反応容器の外側に配設される陰極電極5及び陽極電極6と、電源部7と、を含んで構成されている。
【0025】
反応容器2は、石英ガラス等のガラスや樹脂等の絶縁物からなる容器である。反応容器2にはガス搬送管3aが接続される。さらに、反応容器2には、陰極電極5と陽極電極6とが配設されている。陰極電極5は、ガス搬送管3aの近傍に配設されている。陽極電極6は、反応容器2に巻回された外側コイル8を有している。外側コイル8は、銅線や被覆銅線を用いて形成される。外側コイル8を挿入すると、空気プラズマを発生し易くなる。
【0026】
ガス供給部3は、ボンベに接続される圧力調整器、ストップバルブ及びマスフローコントローラー等からなり、樹脂や金属からなる配管によってガス搬送管3aの入口に接続される。ガス搬送管3aには、ガス供給部3から、ガスとして、空気、ヘリウム、アルゴンの何れか、又は該ガスの混合物が供給される。空気としては、通常の大気や、コンプレッサからの圧縮空気でもよい。ガス搬送管3aは、樹脂やガラスからなる管で構成されている。
【0027】
ガスとして空気を使用する場合には、例えば、ガス供給部3が、送風ファンと、その送風ファンの空気吸入口に装備され開閉により風量を調節可能なダンパーからなる構成としてもよい。さらに、インバータにより回転数制御する送風ファンを採用すれば、ダンパーを省略することも可能である。このようなガス供給部3を設けることによって、高価なヘリウムやアルゴンを使用しないことに加えて、ボンベが不要となり、病原菌および害虫の駆除装置1のランニングコストの削減、軽量化、およびコンパクト化を図ることができる。これにより、本発明の病原菌および害虫の駆除装置1を、例えば苺等の農作物の殺菌のために使用する場合、病原菌および害虫の駆除装置1を農作物の上方を移動しながら殺菌することが容易となる。
【0028】
水供給部4は、水を供給するポンプ4aと、水ミスト発生器4bと、水ミスト発生器4bに接続される水ミスト搬送用ガス供給器4cと、ポンプ4aで搬送する水の流量を制御する水量制御装置4d等を含んで構成されている。水ミスト発生器4bは、水の噴霧装置でありネブライザとも呼ばれている。水供給部4で発生した水ミストは、反応容器2に配設される陰極電極5の左下側から反応容器2内に供給される。
【0029】
水供給部4では、ポンプ4aから供給される極微量の水と水ミスト搬送用ガス供給器4cから供給されるガスとに水ミストを発生する。この際、ポンプ4aから供給される水量は、水量制御装置4dにより制御される。
【0030】
陰極電極5の材料としては、銅(Cu)やステンレスを使用できる。また、W線を用いた電極としてもよい。陽極電極6の材料としては、タングステン(W)からなる板や線を使用できる。陽極電極6は、アース又はグランド電位として接地されてもよい。この電位は0Vである。以降、陰極電極5に印加される電圧をVで表わす。
【0031】
電源部7は、陰極電極5と陽極電極6とに接続される電源である。例えば電源部7は、電圧が制御できる交流高圧電源とコンデンサとダイオードと抵抗等を含む半波整流電源から構成される。電源部7としては、低周波の高圧電源等の交流電源やパルス電源を用いてもよい。
なお、反応容器2の内壁には、OHラジカルを含むガス流を渦巻流の発生が起きるような溝を形成してもよく、またガス流が放出される先端に向かって容器径を小さくする構造を有しても良い。
【0032】
本発明の病原菌および害虫の駆除装置1は、反応容器2にガスと水ミストとを供給し、反応容器2中にOHラジカルを発生させる。OHラジカルの発生量は、水量制御装置4dにより制御することができる。
【0033】
図2は、病原菌および害虫の駆除装置1から発生する水酸基ラジカル量と水導入量との関係の一例を示す図である。縦軸は発生するOHラジカル(任意目盛)であり、横軸は水導入量(μl/分)である。1μlは、10-6リットルである。図2に示すように、病原菌および害虫の駆除装置1から発生する水酸基ラジカル量は、水導入量に対して増加し、ピークに達した後で減少するという山形の変化を示すことが分かる。
【0034】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置20の構成例を示す図である。
図3に示す病原菌および害虫の駆除装置20が、図1の病原菌および害虫の駆除装置1と異なるのは、陰極電極25、陽極電極26の構成と、水ミストが陰極電極25側から反応容器2に導入される点である。
【0035】
陰極電極25は、反応容器2と接続される本体部25aと、本体部25aに接続されると共に反応容器2に挿入される挿入部25bとを含んで構成されている。挿入部25bは、先端が尖った細管から成っている。水供給部4は、挿入部25bを介して水ミストを反応容器2に導入するようになっている。陽極電極26は、W(タングステン)等からなる束ねた細線から成り、陰極電極25の挿入部25bと対向する側において、束ねた細管が解かれた複数の細線からなる放射状電極部26aを有している。
【0036】
図3に示す病原菌および害虫の駆除装置20は、陰極電極25の挿入部25bと陽極電極26の放射状電極部26aとの間で、所謂平板電極板の場合よりも高電界強度の部分が生じるようになり、かつ、多数の電気力線を発生できる。これにより、ガスとして空気を用いた場合に、大気圧オーダーの圧力での放電が容易にできる。空気の圧力は、例えば0.1気圧から大気圧程度である。
【0037】
(第2の実施形態の変形例)
図4は、本発明の第2の実施形態の変形例に係る病原菌および害虫の駆除装置20Aの構成例を示す図である。図4に示す病原菌および害虫の駆除装置20Aが、図3の病原菌および害虫の駆除装置20と異なるのは、陽極電極26に接続される内側コイル9を備えている点である。他の構成は、図3の病原菌および害虫の駆除装置20と同様であるので、説明は省略する。
【0038】
陽極電極26に接続される内側コイル9は被覆銅線を用いて形成されている。内側コイル9を挿入すると、空気プラズマを発生し易くなる。
【0039】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置30の構成例を示す図である。
図5に示す病原菌および害虫の駆除装置30が、図1の病原菌および害虫の駆除装置1と異なるのは、陰極電極25の構成と、水が陰極電極25側から反応容器2に導入される点である。
【0040】
陰極電極25は、反応容器2に挿入される筒状の挿入部25bと、挿入部25bの先端に設けられた、細線から成る線状体25cとを有している。陰極電極25は、挿入部25bの先端部および線状体25cが、反応容器2に巻回された陽極電極26の外側コイル8の内側に配置されている。病原菌および害虫の駆除装置30は、挿入部25bの内部を通して、水供給部4からの水を反応容器2に導入するようになっている。また、挿入部25bの内部を通った水が、水滴状になって線状体25cを伝うようになっている。
【0041】
病原菌および害虫の駆除装置30は、陰極電極25の挿入部25bおよび線状体25cと、陽極電極26の外側コイル8との間に、電源部7で電圧を印加することにより、プラズマを発生させ、線状体25cを伝う水から効率的にOHラジカルを発生させることができる。
【0042】
(第4の実施形態)
図6は、本発明の第4の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置40の構成例を示す図である。
図6に示す病原菌および害虫の駆除装置40が、図1の病原菌および害虫の駆除装置1と異なるのは、陰極電極25の構成と、水が陰極電極25側から反応容器2に導入される点である。
【0043】
陰極電極25は、反応容器2に挿入される筒状の挿入部25bと、挿入部25bを覆う円筒状の冷却手段25dとを有している。冷却手段25dは、石英ガラス製であり、挿入部25bの先端側の開口が塞がれている。冷却手段25dは、挿入部25bの先端および外側面との間に隙間をあけて、挿入部25bの先端および外側面を覆うよう配置されている。陰極電極25は、挿入部25bの先端部が、反応容器2に巻回された陽極電極26の外側コイル8の内側に配置されている。
【0044】
病原菌および害虫の駆除装置40は、挿入部25bの内部を通して、水供給部4からの水を反応容器2に導入するようになっている。また、挿入部25bの内部を通った水が、挿入部25bの先端から、挿入部25bと冷却手段25dとの隙間を通り、冷却手段25dの後端側の開口から冷却手段25dの外部、すなわち反応容器2の内壁と冷却手段25dとの間に供給されるようになっている。
【0045】
病原菌および害虫の駆除装置40は、陰極電極25の挿入部25bと陽極電極26の外側コイル8との間に、電源部7で電圧を印加することにより、プラズマを発生させ、冷却手段25dの外部に供給された水から効率的にOHラジカルを発生させることができる。また、冷却手段25dにより挿入部25bを冷却することができ、発生するOHラジカルを含むプラズマが高温になるのを抑えることができる。このため、プラズマを照射する植物などの被照射物への熱による影響を抑制することができる。
【0046】
図7は、病原菌および害虫の駆除装置40の冷却手段25dに水を導入しないとき、および水を導入したときの、プラズマ発生時の挿入部25bおよびプラズマの温度変化を示すグラフである。挿入部25bは放射温度計で、発生したプラズマは放射温度計および熱電対(反応容器の出口の中心位置;r=0mm)で温度測定を行っている。図7に示すように、冷却手段25dに水を導入することにより、挿入部25bおよび発生したプラズマの温度上昇が抑制されることが確認された。
【0047】
(第5の実施形態)
図8は、本発明の第5の実施形態に係る病原菌および害虫の駆除装置50の構成例を示す図である。図8に示す病原菌および害虫の駆除装置50は、図1の病原菌および害虫の駆除装置1、図3の病原菌および害虫の駆除装置20、図4の病原菌および害虫の駆除装置20A、図5の病原菌および害虫の駆除装置30、または図6の病原菌および害虫の駆除装置40の複数から構成されている。図8に示す病原菌および害虫の駆除装置50によれば、OHラジカルを大量に発生することができる。図8の病原菌および害虫の駆除装置50を、例えば、トラクター等の車両に載置して、作物を栽培している農地の畝方向に沿って移動させて掃引可能にすれば、操作性が向上する。図8に示す病原菌および害虫の駆除装置50では、病原菌および害虫の駆除装置1、20、20A、30または40を列状に配設しているが、同一列状でなく面状に配設しても良く、面状配設の場合はさらに大きな面積にOHラジカルを照射することが可能となる。
なお、病原菌および害虫の駆除装置1、20、20A、30、40、50を用いた場合には、オゾン臭は発生しなかった。
【0048】
(殺菌方法)
本発明の実施形態の病原菌および害虫の駆除方法について説明する。
以下に本発明の実施形態の病原菌および害虫の駆除装置を用いた病原菌および害虫の駆除方法について説明する。
本発明の病原菌および害虫の駆除装置を用いて発生したOHラジカルを用いて、被殺菌物にOHラジカルを照射して殺菌又は殺虫を行うことができる。
【0049】
以下に一例として、農業法駆除方法として、農業分野に使用した場合について説明する。本発明の病原菌および害虫の駆除装置を用いて発生したOHラジカルを、被殺菌物の農作物に照射して殺菌又は殺虫できる。農作物の病気を発生させる原因は、病原体(糸状菌、細菌、ウイルス等)や害虫によるとされ、本明細書では、特に病原体を広く「菌」と記載することもある。
【0050】
OHラジカルで殺菌できるのは、例えばイネいもち病、ムギうどんこ病、ダイズ紫斑病、イチゴ灰色かび病、キュウリ灰色かび病、トマト灰色かび病、ユリ葉枯病、キュウリうどんこ病、イチゴうどんこ病、トマト葉かび病、ネギさび病、キク白さび病、ネギ黒斑病、ネギ黒斑病、リンゴ斑点落葉病、キュウリ褐斑病、シュンギク炭疽病、セリ葉枯病、リンゴ褐斑病、馬鹿苗病等が挙げられる。さらに、本発明においては、水ミスト等の水とプラズマとなるガスにより発生するOHラジカルで、ダニ、アブラムシの殺虫による駆除ができる。本発明では、被殺虫物は、植物を害する害虫なら何でも適用できる。
【0051】
農作物の病気を発生させる病原菌および害虫の駆除方法は、印加電圧を10kV〜20kVとし(図11、16参照)、1時間当たり0.001mL〜10mLの水ミスト(図14、15参照)を導入するのが好ましい。さらに好ましくは、0.01mL〜5mLの水ミストを導入する。また、ガスの供給量を7リットル/分〜20リットル/分とするのが好ましい(図21参照)。また、本発明の病原菌および害虫の駆除方法は、さらにヘリウムプラズマや空気プラズマを用いて生成されたOHラジカルを、少なくとも5分以上〜15分間程度被殺菌物又は被殺虫物に照射すればよい。
【0052】
本発明の病原菌および害虫の駆除方法ならびに病原菌および害虫の駆除装置1、20、20A、30、40、50は、通常の農場の他に所謂ビニールハウスを用いた栽培、植物工場などにも適用できる。本発明の病原菌および害虫の駆除方法では、農作物に水ミスト等の水とプラズマとなるガスにより発生するOHラジカルを照射するので、農薬のように農作物には残留せず安全である。OHラジカルは、栽培中の農作物に照射しても、収穫後の農作物に照射してもよい。さらに、当該OHラジカルの照射は、農作物だけではなく、農作物に与える肥料、液肥、水、土壌、農場や植物工場で使用する物品等の殺菌又は殺虫による駆除方法にも適用可能である。
【0053】
栽培中の農作物にOHラジカルを照射する方法は、いかなる方法であってもよい。例えば、病原菌および害虫の駆除装置50を、トラクターや自動搬送車などの移動車両に載置し、農作物を栽培している農地の畝方向に沿って移動車両を移動させながら農作物にOHラジカルを照射してもよい。また、ハウスなどで、栽培している農作物の上方に、天井に沿ってレールを取り付け、そのレールに沿って移動可能な自動搬送車等に、病原菌および害虫の駆除装置1、20、20A、30、40、50を吊り下げ、自動搬送車等を移動させながら農作物の上方からOHラジカルを照射してもよい。また、農作物が栽培されたポット等がレール等の移動経路に沿って移動可能に設けられ、その移動経路の脇に病原菌および害虫の駆除装置1、20、20A、30、40、50を配置し、移動経路を移動してきた農作物に順次OHラジカルを照射してもよい。また、ヘリコプターやラジコンヘリコプター、ラジコン飛行機などの飛行体に、病原菌および害虫の駆除装置1、20、20A、30、40、50を搭載し、上空から農作物にOHラジカルを照射してもよい。
【0054】
また、本発明の病原菌および害虫の駆除方法ならびに病原菌および害虫の駆除装置1、20、20A、30、40、50は、農業分野に限らず、病院や老人ホーム、一般家庭などでのウイルス除去や空気清浄、脱臭などに使用されてもよい。
【0055】
このように、本発明の病原菌および害虫の駆除方法は、水ミスト等の水を反応容器2に導入し、ガス供給部3からプラズマとなるガスを反応容器2に供給し、反応容器2に配設された陽極電極6と陰極電極5との間に電圧を印加してガスを放電すると共にOHラジカルを発生させ、OHラジカルにより、ヒト、動物及び植物において『病原体』と呼ばれる、ウイルス、真正細菌、菌類、原生動物などの微生物の病原菌又は害虫に照射して駆除することを特徴とする。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【実施例】
【0056】
図1に示す病原菌および害虫の駆除装置1を作製した。
反応容器2は、内径が3mm、外径が6mm、長さが110mmの石英からなる容器を用いた。陰極側の電極は、ステンレスを用いた。陽極側の電極は、タングステンを用いた。水供給部4には、水をポンプから供給すると共にガスを供給し、反応容器2内に水ミストを供給した。ガスとして、室温で、圧力が0〜0.2MPaのアルゴン及びヘリウムをガス搬送管3aに供給した。
【0057】
ガス搬送管3aにガスをマスフローコントローラーで流量を制御して流し、大気圧、室温の下でガス搬送管3aから噴出させた大気圧下の放電を行った。印加電圧Vを2〜25kVとして放電を行い、放電で生成したOHラジカルを、分光器を用いて検知した。なお、オゾン臭は発生しなかった。
【0058】
(ヘリウム又はアルゴンを用いたプラズマ放電)
大気圧下の放電条件の概要を以下に示す。
ガス:ヘリウム又はアルゴン
印加電圧:V=0〜25kV
周波数 :f=5〜20kHz
水導入量:0.001〜20mL/時間(Lはリットルである)
ガス流量:Fgas=1〜10L/分
【0059】
(ヘリウム又はアルゴンを用いたプラズマ放電)
図9は、ヘリウムガスと水ミストによるプラズマの発光分光スペクトルを示す図である。図9から明らかなように、発光波長309nmのOHラジカルによる発光と、発光波長700nmのHeによる発光が観測された。
【0060】
図10は、水導入量に対するOHラジカルのヘリウム及びアルゴンに対する発光強度比依存性を示す図であり、(a)はヘリウムプラズマ、(b)はアルゴンプラズマの場合である。横軸は水導入量(mL/時間)であり、縦軸は発光強度比(OHラジカル/He)である。図10(a)から明らかなように、ヘリウムプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、水導入量が0.001mL/時間以上で急激に増大し、2〜6mL/時間の範囲では、凹凸状の変化を示すことが分かった。図10(b)から明らかなように、アルゴンプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、水導入量が0.1mL/時間以上で急激に増大し、2〜6mL/時間の範囲では、ほぼ一定であることが分かった。
【0061】
(印加電圧依存性)
図11は、印加電圧に対するOHラジカルのヘリウム及びアルゴンに対する発光強度比依存性を示す図であり、(a)はヘリウムプラズマ、(b)はアルゴンプラズマの場合である。図11の横軸は印加電圧(kV)であり、縦軸は発光強度比(OHラジカル/He)である。図11(a)から明らかなように、ヘリウムプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、印加電圧が10kVで1となり、印加電圧の増大と共に発光強度比は増加し、印加電圧が約14kVで、発光強度比は約9のピークとなった。その後は、印加電圧を17kV迄増加しても発光強度比は9から6迄単調に減少することが分かった。図11(b)から明らかなように、アルゴンプラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/He)は、印加電圧が9kVで0.5となり、印加電圧の増大と共に発光強度比は増加し、印加電圧が約14kV〜24kVにおいて、発光強度比は約0.9と一定になった。
【0062】
(空気を用いたプラズマ放電)
図3に示す病原菌および害虫の駆除装置20を作製した。
反応容器2は、内径が4mm、外径が6mm、長さが85mmの石英からなる容器を用いた。陰極電極25の挿入部25bには、注射針を用いた。この注射針に水をポンプから供給し、水供給部4から水ミストを反応容器2内に供給した。ガス供給部3から反応容器2内にガスを供給した。反応容器2に挿入した陽極電極26はタングステン製の線束であり、直径が0.5mmの線を5本使用した。ガスとして、大気圧、室温の下で、アルゴン、酸素、空気の何れかをガス搬送管3aに供給した。
【0063】
ガス搬送管3aにガスをマスフローコントローラーで流量を制御して流し、大気圧、室温の下でガス搬送管3aから噴出させた大気圧下の放電を行った。印加電圧Vを0〜25kVで変化させて放電を行い、放電で生成したOHラジカルを、分光器を用いて検知した。なお、オゾン臭は発生しなかった。
【0064】
空気の圧力が0.05MPa(約0.5気圧)の放電条件の概要を以下に示す。
ガス:空気
印加電圧:V=10〜25kV
周波数 :f=5〜20kHz
水導入量:0〜13mL/時間
【0065】
図12は、空気と水ミストの有無によるプラズマの発光分光スペクトルの、(a)は水ミストが添加されない場合、(b)は水ミストが添加された場合を示す図である。図13は、図12の発光分光スペクトルの300nm〜350nmの波長領域の拡大図である。図12(b)から明らかなように、水ミストが空気プラズマに添加された場合には、水ミストが添加されない場合(図12(a)参照)に比較すると、水素(H)による656nmのHα発光が増大し、さらに、OHラジカルの発光波長である309nm近傍の発光強度が増大することが分かる。酸素(O)の発光は、777nmである。発光分光スペクトルの300nm〜350nmの詳細は、図13から明らかなように、水ミストが添加された場合には、水ミストが添加されない場合よりも309nmのOHラジカルの強度が3倍以上に増大し、空気に含まれている窒素(N2)の337nmの発光は、水ミストの添加の有無に関わらずにほぼ同じ強度であることが判明した。
【0066】
図14は、水導入量に対するOHラジカルのN2に対する発光強度比依存性を示す図である。図14の横軸は水導入量(mL/時間)で、縦軸は発光強度比(OHラジカル/N2)である。図14から明らかなように、空気プラズマの場合には、発光強度比(OHラジカル/N2)は、水導入量が約1〜10ml/時間の範囲では、約0.4〜0.7程度の変動があり、水導入量が10〜12mL/時間の範囲では、約0.4〜1に増加し、その後水導入量が12〜14.5mL/時間の範囲では、約0.9まで減少することが判明した。
【0067】
図15は、水導入量に対するOHラジカルのヘリウムに対する発光強度比依存性を示す図である。図15の横軸は水導入量(mL/時間)であり、縦軸は発光強度比(OHラジカル/He)である。図15から明らかなように、ヘリウムプラズマの場合には、水導入量が0〜4mL/時間の範囲では、発光強度比(OHラジカル/He)は約2.3〜3.2に増加し、その後水導入量を12〜14.5mL/時間の範囲で増加させても、発光強度比(OHラジカル/He)は3.3〜3.6で飽和することが判明した。なお、オゾン臭は発生しなかった。
【0068】
(空気プラズマの印加電圧依存性)
図16は、OHラジカル及びN2の発光強度に対する印加電圧依存性を示す図である。図16の横軸は印加電圧(kV)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。図16から明らかなように、OHラジカルの発光は、印加電圧が14kV以上で発生し、印加電圧を約24kVまで増大させても発光強度はほぼ一定であった。N2の発光強度は、印加電圧が約14kV以上で発生し、その後印加電圧を18kVで最大値となり、その後さらに印加電圧を増加すると、N2の発光強度は、減少することが分かった。つまり、印加電圧が約14〜約24kVの範囲で大きな山形の変化を示すことがわかった。
【0069】
(ヘリウムプラズマの印加電圧依存性)
図17は、OHラジカル及びヘリウムの発光強度に対する印加電圧依存性を示す図である。図17の横軸は印加電圧(kV)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。図17から明らかなように、OHラジカルの発光強度は印加電圧が4kV以上で発生し、印加電圧の増大と共にOHラジカルの発光強度は増加した。ヘリウムの発光は、印加電圧が約4kV以上で発生し、その後印加電圧を約23.5kV迄増加させると、ヘリウムの発光は、印加電圧に比例して増大することが分かった。
【0070】
上記結果から、空気によるプラズマ放電においても、ヘリウムプラズマと同様に水ミストの導入により、水ミストの導入量にほぼ比例してOHラジカルを発生できることが分かった。
【0071】
(OHラジカル密度の測定)
次に、上記病原菌および害虫の駆除装置1で発生したOHラジカルの密度測定方法について説明する。
上記病原菌および害虫の駆除装置1で発生したOHラジカルによる殺菌又は殺虫に応用するために、OHラジカルでテレフタル酸の水酸化を行い、その蛍光を測定することでOHラジカルの密度を測定した。
【0072】
図18は、OHラジカルによるテレフタル酸の水酸化を利用したOHラジカルの密度を調べる測定方法を模式的に示す図である。図18に示すように、テレフタル酸にOHラジカルが反応(水酸化)してヒドロキシテレフタル酸が生成される。ヒドロキシテレフタル酸は、310nmの紫色光を照射すると、波長が425nmの蛍光が発生する。この蛍光の強度は、OHラジカルとテレフタル酸とが反応して生成するヒドロキシテレフタル酸の量に比例して増大する。
【0073】
図19は、ヘリウムガスの流量を変えたときのテレフタル酸の水酸化で発生する蛍光の発光スペクトトルを示す図であり、(a)が1slm、(b)が3slm、(c)が5slm、(d)が8slmである。ここで、slmは、スタンダードリットル/分であり、L/分の単位を表す。図19の横軸は波長(nm)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。図19から明らかなように、波長が425nmの蛍光強度(図中の矢印の位置)、すなわちOHラジカルの密度は、ヘリウムガスの流量が1slm、3slm、5slm、8slmと増大すると共に増加することが分かった。
【0074】
図20は、蛍光強度のヘリウムガス流量依存性を示す図である。図20の横軸はヘリウムガス流量(slm)であり、縦軸は発光強度(任意目盛)である。図20から明らかなように、蛍光強度、すなわちOHラジカル密度は、ヘリウムガスの流量にほぼ比例して増大することが判明した。以上の結果から、本発明の病原菌および害虫の駆除装置1によれば、ヘリウムガス流量を変化することで、OHラジカルを効率よく発生できることが分かる。
【0075】
(OHラジカルの水導入量および空気導入量依存性)
図1に示す病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、水導入量および空気導入量を変えたときに発生するプラズマ中の過酸化水素の濃度測定を行った。過酸化水素の濃度測定には、パックテスト(登録商標;株式会社共立理化学研究所製)を用いた。パックテストの試薬は、酵素(ペルオキシダーゼ)と4−アミノアンチピリンである。測定では、プラズマの照射距離が30〜200mmの位置に、純水(2.4mL)を入れたシャーレを設置し、その純水にプラズマを照射したものを検体として使用した。プラズマの照射距離を50mmとし、水導入量を変化させたときのプラズマの照射時間を10分、空気導入量を変化させたときのプラズマの照射時間を1分とした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHzとした。
【0076】
水導入量を変化させたときの結果を図21(a)に、空気導入量を変化させたときの結果を図21(b)に示す。図21(a)に示すように、水導入量を100〜200μL/minまで増やすと、水を導入しない場合と比べて、過酸化水素の濃度が2〜10倍程度まで急激に増加することがわかった。また、図21(b)に示すように、空気導入量を4L/minから16L/minまで4倍に増やすと、過酸化水素の濃度が10〜100倍以上増加することがわかった。特に、7L/min以上のとき、過酸化水素の濃度が大きくなっていることがわかった。過酸化水素を利用してOHラジカルが生成されるため、OHラジカルも、水導入量の増加や空気導入量の増加とともに、過酸化水素濃度の増加と同程度増加していると考えられる。
【0077】
(OHラジカルのプラズマ照射時間および照射距離依存性)
図1に示す病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、プラズマ照射時間およびプラズマ照射距離を変えたときに発生するプラズマ中のOHラジカル密度および過酸化水素の濃度測定を行った。OHラジカル密度の測定は、図18に基づいた波長425nmの蛍光強度を利用して行い、過酸化水素の濃度測定は、パックテストを用いて行った。プラズマ照射時の電圧を11.7kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を91μL/minとした。また、プラズマ照射時間を変化させたときのプラズマ照射距離を30mm、プラズマ照射距離を変化させたときのプラズマ照射時間を15分とした。
【0078】
プラズマ照射時間tを変化させたときの結果を図22に、プラズマ照射距離dを変化させたときの結果を図23に示す。また、OHラジカル密度の変化を図22(a)および図23(b)に、過酸化水素の濃度変化を図22(b)および図23(b)に示す。図22に示すように、プラズマ照射時間tが長くなるに従って、OHラジカル密度および過酸化水素濃度ともに増加する傾向が認められた。また、図23(a)に示すように、OHラジカル密度は、プラズマ照射距離dが60mm〜100mmの範囲で大きくなっており、70mm付近で最大となることがわかった。また、図23(b)に示すように、過酸化水素濃度は、プラズマ照射距離dが長くなるに従って低下する傾向が認められた。
なお、上述の病原菌および害虫の駆除装置を用いた場合には、オゾン臭は発生しなかった。
【0079】
(OHラジカルによる殺菌)
病原菌に対する殺菌効果を調べる実験を行った。実験では、主に農作物の病原菌を用い、OHラジカル照射後の病原菌の様子の変化を顕微鏡により観察した。
【0080】
(ユリ葉枯病菌(学名:Botrytis elliptica)の殺菌)
ユリ葉枯病菌をPDA培地で培養後、ユリ葉枯病菌をPDA培地ごと5mm角に切り出し、図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、Heプラズマに水ミストを添加して発生したOHラジカルを照射後、9分割し、PDA培地を使用して20℃で2日間培養した。反応容器とPDA培地との距離は約5cmとした。また、放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。
【0081】
図24は、ヘリウムプラズマにより発生したOHラジカルを照射した2日後のユリ葉枯病菌の顕微鏡像を示す図であり、(a)はOHラジカルを照射しないときの菌、(b)電源部7をオフしてHeと水ミストを10分照射したときの菌、(c)はOHラジカルを5分照射したときの菌、(d)はOHラジカルを10分照射したときの菌である。図24に示すように、OHラジカルを10分間照射することによりユリ葉枯病菌が死滅することがわかった。
【0082】
図4の病原菌および害虫の駆除装置20Aを使用して、空気プラズマに水ミストを添加して発生したOHラジカルを、Heプラズマの場合と同様にPDA培地に照射後、9分割し、PDA培地を使用して20℃で2日間培養した。反応容器とPDA培地との距離は約1cmとした。また、放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。
【0083】
図25は、空気プラズマにより発生したOHラジカルを照射した2日後のユリ葉枯病菌の顕微鏡像を示す図であり、(a)はOHラジカルを照射しない場合の菌、(b)電源部7をオフして空気と水ミストを10分照射したときの菌、(c)はOHラジカルを5分照射したときの菌、(d)はOHラジカルを10分照射したときの菌である。図25に示すように、OHラジカルを10分間照射することによりユリ葉枯病菌が死滅することがわかった。
【0084】
次に、図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、水ミストを導入したときと導入しなかったとき、および、プラズマを照射せずに、プラズマ照射時の温度状態をドライヤーで再現した場合の、水ミストを導入したときと導入しなかったときについて実験を行った。ユリ葉枯病菌は、プラズマ照射後またはドライヤーの風を当てた後、PDA培地を使用して、20℃で10日間培養し、その変化を観察した。ドライヤーによる温度状態の再現は、プラズマ照射時の温度状態を放射温度計により測定した結果を利用して、放射温度計で温度測定を行いながらドライヤーの風を当てることにより行った。プラズマの照射時間およびドライヤーの風を当てる時間を10分、プラズマの照射距離およびドライヤーによる風の噴射距離を30mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を98μL/minとした。
【0085】
実験結果を、図26に示す。図26の(a)は水ミストを導入せずにプラズマを照射したとき、(b)は水ミストを導入せずにドライヤーの風を当てたとき、(c)は水ミストを導入してプラズマを照射したとき、(d)は水ミストを導入してドライヤーの風を当てたとき、(e)は比較のためにプラズマの照射も、ドライヤーも、水の導入も行わなかったときの結果である。図26に示すように、プラズマの照射を行ったもの(図26(a)および(c))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、10日間培養しても菌が繁殖していないことから、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、ドライヤーの風を当てたもの(図26(b)および(d))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、菌が繁殖しており、殺菌効果が得られていないことがわかる。この結果から、図26(a)および(c)で得られた殺菌効果は、熱によるものではなく、熱以外の要因によるものであるといえる。
【0086】
(菊白サビ葉菌(学名:Puccinia horiana Hennings)の殺菌)
ユリ葉枯病菌と同様に、菊白サビ葉菌をPDA培地で培養後、PDA培地を5mm角に切り出し、OHラジカル照射後、9分割し、PDA培地を使用して20℃で4日間培養した。OHラジカルは、ヘリウムプラズマを用いて発生した。また、放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。
【0087】
図27は、菊白サビ葉菌のOHラジカル照射後4日後の顕微鏡像を示す図である。図27に示すように、OHラジカルを照射することにより菊白サビ葉菌が死滅することがわかった。
【0088】
(馬鹿苗病菌(学名:Gibberella fujikuroi)の殺菌)
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、馬鹿苗病菌に対して毎日プラズマを照射し、その照射時間を変えたときの変化を調べた。馬鹿苗病菌は、PDA培地を使用して、20℃で24日間培養し、その間のプラズマ照射による変化を観察した。プラズマの照射時間をそれぞれ毎日15分、10分、4分とし、プラズマの照射距離を100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を98μL/minとした。
【0089】
実験結果を、図28に示す。図28の(a)はプラズマ照射時間を毎日15分としたとき、(b)はプラズマ照射時間を毎日10分としたとき、(c)はプラズマ照射時間を毎日4分としたとき、(d)は比較のためにプラズマ照射を行わず、空気のみを毎日4分間送風したとき、(e)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。図28に示すように、毎日15分間プラズマ照射を行ったもの(図28(a))および毎日10分間プラズマ照射を行ったもの(図28(b))は、菌が徐々に減少しており、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、毎日4分間プラズマ照射を行ったもの(図28(c))は、菌の繁殖を抑える効果は得られているが、菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0090】
次に、馬鹿苗病菌に対してプラズマを照射する間隔を変えたときの変化を調べた。馬鹿苗病菌は、PDA培地を使用して、20℃で26日間培養し、その間のプラズマ照射による変化を観察した。プラズマの1回の照射時間を15分とし、プラズマの照射距離を100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を98μL/minとした。
【0091】
実験結果を、図29に示す。図29の(a)はプラズマを毎日照射したとき、(b)はプラズマを2日ごとに照射したとき、(c)はプラズマを5日ごとに照射したとき、(d)は比較のためにプラズマ照射を行わず、空気のみを毎日送風したとき、(e)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。図29に示すように、毎日プラズマ照射を行ったもの(図29(a))は、菌が徐々に減少しており、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、2日ごとにプラズマを照射したもの(図29(b))および5日ごとにプラズマを照射したもの(図29(c))は、菌の繁殖を抑える効果は得られているが、菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0092】
(灰色かび病菌(学名:Botryotinia fuckeliana)の殺菌)
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、灰色かび病菌に対して、水ミストを導入したときと導入しなかったときについてプラズマ照射を行い、その照射時間を変えたときの変化を調べた。灰色かび病菌は、プラズマ照射後、PDA培地を使用して20℃で10日間培養し、その変化を観察した。プラズマの照射時間をそれぞれ15分、10分、7分、2分、1分とし、プラズマの照射距離を100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.5kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/minとした。また、水ミストを導入したときの水導入量を、照射時間が1〜4分のとき117μL/min、7〜15分のとき91μL/minとした。
【0093】
水ミストを導入しなかったときの実験結果を図30に、水ミストを導入したときの実験結果を図31に示す。図30および図31の(a)はプラズマ照射時間を15分、(b)は10分、(c)は7分、(d)は2分、(e)は1分としたとき、(f)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。図30および図31に示すように、プラズマ照射を15分間行ったもの(図30(a)、図31(a))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、10日間培養しても菌が繁殖していないことから、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、プラズマ照射が10分間以下のもの(図30(b)〜(e)、図31(b)〜(e))は、水ミストの導入の有無にかかわらず、照射時間が長くなるほど菌の繁殖を抑える効果は大きくなっているが、いずれも菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0094】
次に、図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、灰色かび病菌の胞子に対してプラズマ照射を行い、その照射時間および照射距離を変えたときの変化を調べた。灰色かび病菌の胞子は、プラズマ照射後、PDA培地を使用して20℃で10日間培養し、その変化を観察した。プラズマの照射時間をそれぞれ15分、4分とし、プラズマの照射距離をそれぞれ200mm、100mmとした。また、プラズマ照射時の電圧を11.7kV、周波数を8.3kHz、空気導入流量を16L/min、水導入量を91μL/minとした。また、胞子の密度は、100個/10μLとした。
【0095】
実験結果を、図32に示す。図32の(a)はプラズマの照射時間を15分、照射距離を200mmとしたとき、(b)はプラズマの照射時間を15分、照射距離を100mmとしたとき、(c)はプラズマの照射時間を4分、照射距離を100mmとしたとき、(d)は比較のためにプラズマ照射を行わなかったときの結果である。図32に示すように、プラズマ照射を15分間行ったもの(図32(a)および(b))は、照射距離にかかわらず、10日間培養しても菌が繁殖していないことから、殺菌効果が得られていることがわかる。これに対し、プラズマ照射が4分間のもの(図32(c))は、菌の繁殖を抑える効果は得られているが、菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。
【0096】
次に、灰色かび病菌に、さまざまな濃度の過酸化水素を滴下した後、PDA培地を使用して20℃で7日間培養し、その変化を観察した。過酸化水素の濃度は、1000、625、250、100mg/Lとし、それぞれ100μLを滴下した。
【0097】
実験結果を、図33に示す。図33の(a)は過酸化水素の濃度が1000mg/Lのとき、(b)は625mg/Lのとき、(c)は250mg/Lのとき、(d)は100mg/Lのとき、(e)は比較のために過酸化水素の代わりに純水を滴下したとき、(f)は比較のために何も滴下しなかったときの結果である。図33に示すように、過酸化水素の濃度が高くなるほど菌の繁殖を抑える効果は大きくなっているが、いずれも菌が徐々に繁殖しており、殺菌効果は得られていないことがわかる。この結果から、プラズマ照射時の殺菌効果は、過酸化水素によるものではないといえ、OHラジカルによるものであると考えられる。
【0098】
(OHラジカルによる殺虫)
害虫に対する殺菌効果を調べる実験を行った。
図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、ヘリウムプラズマを用いて発生したOHラジカルを、アブラムシに照射した。放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5mL/時間とした。図34は、アブラムシにOHラジカルを照射したときの、アブラムシの顕微鏡像を示す図である。図34に示すように、アブラムシにOHラジカルを照射した場合、アブラムシは死滅し又は衰弱した。その個体を目視又は顕微鏡観察で確認した。
【0099】
次に、図1の病原菌および害虫の駆除装置1を使用して、ヘリウムプラズマを用いて発生したOHラジカルを、ダニに照射した。放電時の印加電圧Vを10〜20kV、水導入量を0.1〜5ml/時間とした。OHラジカルを照射した個体は、数日後で死滅することを顕微鏡観察で確認した。一方、OHラジカルを照射しなかったダニは、生存した。
【0100】
上記結果から、農作物の病気を発生させる菌の殺菌や害虫の駆除は、印加電圧を10kV〜20kVとし(図11、16参照)、1時間当たり0.001mL〜10mLの水ミスト(図14、15参照)を導入し、ヘリウムや空気などのガスの供給量を7リットル/分〜20リットル/分とし(図21参照)。ヘリウムプラズマや空気プラズマを用いて生成されたOHラジカルを、少なくとも5分以上〜15分間程度病原菌又は害虫に照射すればよいことが確認できた。
【0101】
本発明においては、OHラジカル量は、用いる病原菌および害虫の駆除装置1の反応容器2の内径の大きさ、陰極電極5や陽極電極6の長さ、電極の表面積、電圧の範囲及び導入される水ミスト量等に依存して制御されるものであり、前述の、1時間当たり0.001mL〜10mLの水ミストの導入範囲に制限されるものではない。また、前述の、5分以上〜15分間の照射時間に制限されない。
【0102】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0103】
1,20,30:病原菌および害虫の駆除装置
2:反応容器
3:ガス供給部
3a:ガス搬送管
4:水供給部
4a:ポンプ
4b:水ミスト発生器
4c:水ミスト搬送用ガス供給器
4d:水量制御装置
5:陰極電極
6:陽極電極
7:電源部
8:外側コイル
9:内側コイル
25:陰極電極
25a:本体部
25b:挿入部
25c:線状体
25d:冷却手段
26:陽極電極
26a:放射状電極部
図22
図23
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図2
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