特許第5909836号(P5909836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5909836電子供与体供給剤および、それを用いた環境浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909836
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】電子供与体供給剤および、それを用いた環境浄化方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/00 20060101AFI20160414BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20160414BHJP
   C02F 3/28 20060101ALI20160414BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20160414BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20160414BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20160414BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   C02F3/00 D
   C02F3/34 101A
   C02F3/28 Z
   B09B3/00 C
   B09B3/00 E
   C02F3/10 Z
   C12N1/00 P
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-22257(P2012-22257)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-158697(P2013-158697A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】平石 明
(72)【発明者】
【氏名】辻 秀人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 宏行
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成志
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−104551(JP,A)
【文献】 特開2003−117587(JP,A)
【文献】 特開2006−218456(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/055903(WO,A1)
【文献】 特開2003−138153(JP,A)
【文献】 特開2012−077246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00 − 3/34
B09B 3/00
B09C 1/10
C12N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物による生物学的処理に用いられ、該微生物に電子供与体を供給する生分解性樹脂からなる電子供与体供給剤において、生分解性樹脂中に、該生分解性樹脂より加水分解速度の速い酸放出性樹脂が分散している複合体であ酸放出性樹脂の含有量が1〜30重量%である、電子供与体供給剤。
【請求項2】
酸放出性樹脂が生分解性樹脂を加水分解し、かつ、該酸放出性樹脂の分解物が生分解性樹脂からブリーディングして微生物に作用する、請求項1に記載の電子供与体供給剤。
【請求項3】
被処理物質中にブリーディングする成分が水溶性である、請求項1又は2に記載の電子供与体供給剤。
【請求項4】
酸放出性樹脂が放出する酸がシュウ酸、マレイン酸及びグリコール酸及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜のいずれか1項に記載の電子供与体供給剤。
【請求項5】
前記酸放出性樹脂のFedors法から計算される溶解度パラメーターが25以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電子供与体供給剤。
【請求項6】
前記酸放出性樹脂がポリオキサレート及び/又はポリグリコール酸系樹脂である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電子供与体供給剤。
【請求項7】
生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の電子供与体供給剤。
【請求項8】
被処理物質が土壌、液体又は粘性体である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電子供与体供給剤。
【請求項9】
電子供与体供給剤がペレット、フィルム、粉末、繊維、又は、フィルターの形態にある、請求項1〜のいずれか1項に記載の電子供与体供給剤。
【請求項10】
被処理物質中の特定物質を無害化又は無害化を促進する環境浄化方法において、請求項1〜のいずれか1項に記載の電子供与体供給剤を用いて生物学的処理が行われる環境浄化方法。
【請求項11】
被処理物質から窒素化合物を除去する請求項10に記載の環境浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂、特に易分解性の乳酸系樹脂を利用した電子供与体供給剤および、環境浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生活廃水や工場廃水などの影響による河川、湖沼の富栄養化や、農地への窒素肥料の施肥による周辺水環境(地下水、河川、湖沼)への汚染を防止するために、廃水処理が行なわれている。
【0003】
かかる廃水処理は、一般的にコスト的に有利な生化学的処理によって行なわれる。廃水処理施設では、処理槽に導入された汚水が活性汚泥の存在下で曝気され、汚水に含まれる有機物(BOD(Biochemical Oxygen Demand)源)は、活性汚泥中の好気性微生物の作用によって酸化分解される。この活性汚泥による処理では、窒素成分を除去する機能が弱く、アンモニア等の窒素成分は残存しやすい。
【0004】
富栄養化の原因物質の一つは硝酸塩(窒素成分)であり、廃水中の有機物が完全に取り除かれたとしても、最終放流水中にかかる窒素成分が多く含まれていると、植物性プランクトンの異常増殖を促進するなどして廃水処理は意味を失ってしまう。
【0005】
そこで、近年では、活性汚泥処理の後に、硝化菌によってアンモニアを硝酸塩とする硝化処理が行われ、次いで、無酸素条件下で、脱窒菌による脱窒処理にて窒素成分(硝酸塩)の除去が行なわれている。
【0006】
この脱窒処理は、有機物(即ちBOD源)をエネルギー源とし、硝酸塩を電子受容体とする脱窒菌の還元作用を利用したものであり、エネルギー源である有機物は電子供与体となって還元反応に必要な電子を供給する。これにより、硝酸塩は、亜硝酸、一酸化窒素、一酸化二窒素を経て窒素まで還元され、その結果、廃水中の各種窒素化合物は、窒素ガスとして大気中に放散されて除去される。
【0007】
この脱窒処理には、上記したように微生物のエネルギーとなる電子供与体が必要であるが、活性汚泥による処理にて電子供与体となりうる有機物は大部分が既に取り除かれているので、脱窒に必要な還元力が不足してしまう。この脱窒に必要な還元力を補うために、廃メタノールや廃エタノールなどの低分子有機物を電子供与体として処理槽に添加する手法が従来より行われていたが、このような液体添加物は作業性が悪い上、槽内での消費量を把握することが難しい。このため、かかる電子供与体の添加のタイミングや添加量の的確な判断が困難となって、本来の必要量に対して電子供与体の過不足が生じ易い。電子供与体が不足する場合には、脱窒が不十分となって河川等の富栄養化や温室効果およびオゾン層破壊ガスである一酸化二窒素の大気中への放散を招きかねず、電子供与体が過剰である場合には、添加した電子供与体による二次汚染を引き起こしかねない。
【0008】
そこで、固形有機物を電子供与体として用いるいわゆる固相脱窒法が提案されている。例えば特許文献1では、特定の重量平均分子量及び結晶化度を有するポリ乳酸系樹脂を使用する手法が開示されている。しかし、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が低い領域でない乳酸の放出速度が増加せず、効果が得られないため、低分子量化工程などの処理が必要であった。従って、改良された固相脱窒法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2011−104551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、改良された電子供与体供給剤および、それを用いた環境浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、特定の電子供与体供給剤を使用することによって、従来の問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、微生物による生物学的処理に用いられ、該微生物に電子供与体を供給する生分解性樹脂からなる電子供与体供給剤において、生分解性樹脂と酸放出性樹脂の複合体である、電子供与体供給剤を提供する。
また、被処理物質中の特定物質を無害化又は無害化を促進する環境浄化方法において、本発明の電子供与体供給剤を用いて生物学的処理が行われる環境浄化方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子供与体供給剤を被処理物質に添加することで、微生物に電子供与体を供給する。生分解性樹脂の他に酸放出性樹脂の分解物も微生物にて代謝されるので、投入した電子供与体供給剤がほぼ完全に生分解され、残渣の発生が少ない。また、酸放出性樹脂が加水分解し、生分解性樹脂が速やかに分解されるので、低分子量化工程にかかるエネルギーが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】各重量平均分子量に調整したPEOxPLAと乳酸遊離速度との関係を示した図である。
図2】低分子量化PEOxPLAの重量平均分子量と生物学的硝酸除去速度との関係を示した図である。
図3】改質したポリ乳酸(重量平均分子量=約15500)を基質としたときの活性汚泥の脱窒速度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の環境浄化方法は、生分解性樹脂と酸放出性樹脂の複合体である電子供与体供給剤及び脱窒菌を用いて被処理物質を生化学的脱窒処理することを特徴とする。
本発明に使用する電子供与体供給剤は、ポリ乳酸系樹脂の低分子量化したものを電子供与体の供給源とするものであり、効率的な環境浄化、特に窒素(硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化二窒素)除去を行うことのできるものである。また、本発明の電子供与体供給剤は、生物学的処理において微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えつつ固体状態のものとすることができるものである。低分子量化は、自然環境下に暴露する非人為的処理、オートクレーブなどの機械的処理、又は、アルカリ分解等の化学処理を含む人的処理によりなされる。
【0015】
本発明の電子供与体供給剤の生分解性樹脂は、主に非生物学的加水分解によって、電子供与体となる乳酸または乳酸の誘導体等の炭素源を産生するものであり、かかる乳酸等が脱窒菌のエネルギー源である電子供与体、即ち基質となる。
【0016】
本発明の電子供与体供給剤は酸放出性樹脂を含有した生分解性樹脂である。生分解性樹脂としては、生分解性を示すものであればよく、例えばポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体、ポリブチレンテレフタレート・アジペート、澱粉系樹脂、セルロース系樹脂、キチン、キトサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族系ポリエステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
生分解性樹脂のコポリマーを形成する成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ビスフェノールA、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アントラセンジカルボン酸などのジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;グリコリド、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
生分解性樹脂の分子量としては、特に制限されるものではないが、機械的特性や加工性を考えると、重量平均分子量で5,000〜1,000,000の範囲が好ましく、10,000〜500,000の範囲がより好ましい。
【0018】
酸放出性樹脂は、極性が高い、即ち水への親和性が高いポリエステルであり、生分解性樹脂より加水分解速度が速いことが好ましい。このような酸放出性樹脂は加水分解速度が速くなるため、生分解性樹脂中で加水分解し、水溶性の酸を放出し、その酸が生分解性樹脂からブリーディングする過程で生分解性樹脂を分解する。その結果、電子供与体供給剤の分解速度も速くなる。極性はFedors法から計算されるSP値(溶解度パラメーター)(Polym.Eng.Sci.,14,147-154(1974))などを指標とすることが可能であり、前記SP値は例えば場合22.0以上、23.0以上、24.0以上であればよく、25.0以上であることが好ましい。
放出する酸としては、0.005g/ml濃度の水溶液でpH(25℃)が4以下、特に3以下を示すものがよい。
上記特徴を有するものとして、ポリオキサレート、ポリグリコール酸系樹脂が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、ブレンドしてもよい。本明細書ではホモポリマー、共重合体、ブレンド体において、少なくとも一つのモノマーとしてシュウ酸を重合したポリマーをポリオキサレートとしている。
酸放出性樹脂のコポリマーを形成する成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ビスフェノールA、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アントラセンジカルボン酸などのジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;グリコリド、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0019】
また、酸放出性樹脂から放出される成分は、生分解性樹脂からブリーディングした後、微生物による生物学的処理に利用されるものがよい。電子供与体供給剤が水中で完全に分解し、全分解物を生物学的処理に利用されることで、残渣を発生しない環境浄化方法を提供できる。また、酸放出性樹脂から放出される成分は、被処理物質を浄化する微生物の活性を高める等の効果も見込める。ここでいうブリーディングとは、酸放出性樹脂の加水分解物が生分解性樹脂内部から生分解性樹脂表面ににじみ出る現象をいう。
【0020】
本発明の電子供与体供給剤は、生分解性樹脂と酸放出性樹脂の複合体であれば、特に限定されるものではない。複合体としては、例えば、生分解性樹脂と酸放出性樹脂との多層、或いは、生分解性樹脂中に酸放出性樹脂を分散させた形態がある。フィルム、芯鞘構造の繊維、又は、コアシェル構造の粒子とすることができる。生分解性樹脂層の外側に酸放出性樹脂層、酸放出性樹脂層の外側に生分解性樹脂層としてもよい。なお、分散形態としては、生分解性樹脂中に均一、或いは、偏在していてもよい。
本発明の電子供与体供給剤における酸放出性樹脂の含有量は、加工性を考えると好ましくは1〜30重量%であり、より好ましくは5〜20重量%である。
【0021】
生分解性樹脂と酸放出性樹脂とを含む本発明の電子供与体供給剤は、常法により製造することができる。例えば、生分解性樹脂と酸放出性樹脂とを、同時に単軸又は二軸押出し混練機に供給して溶融混合した後、ペレット化することにより本発明の電子供与体供給剤を製造することができる。溶融押出し温度としては、使用する生分解性樹脂と酸放出性樹脂のガラス転移温度、融点、混合比率などを考慮して、当業者が適宜設定できるが、一般的には100〜250℃である。
【0022】
本発明の電子供与体供給剤には、必要に応じて、公知の可塑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、顔料、フィラー、充填剤、離型剤、帯電防止剤、香料、滑剤、発泡剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤などの添加剤を配合してもよい。また、前記生分解性樹脂及び酸放出性樹脂以外の樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどの水溶性の樹脂の他、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、酸変性ポリオレフィン、エチレンーメタクリル酸共重合体、エチレンー酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステルゴム、ポリアミドゴム、スチレンーブタジエンースチレン共重合体などを配合することができる。また、酸放出性樹脂の分散性を向上させる目的で生分解性樹脂と酸放出性樹脂の共重合体を配合してもよい。
【0023】
また、本発明の電子供与体供給剤の形態は、特に限定されるものではなく、ペレット、フィルム、粉末、繊維又は、フィルターなどの形態にすることができる。
また、環境浄化に必要な微生物を本発明の電子供与体供給剤に固定化し、微生物固定化担体として、用いてもよい。
【0024】
本発明の環境浄化方法は、本発明の電子供与体供給を用いて微生物を活性化し、その還元作用によって特定の成分を無害化又は無害化を促進するものである。
【0025】
被処理物質は、水溶液、廃水、汚水、湖沼、河川等の水などの液体、ヘドロ、泥漿などの粘性体や、土壌である。被処理物質が水であり、脱窒処理を行う場合には、硝化菌による硝化処理が行われた後に、本発明の電子供与体供給剤を微好気あるいは無酸素条件下で水相に投入することで、脱窒菌を活性化させ窒素成分の除去を行う。
【0026】
ここで、水中の電子供与体供給剤濃度は、実用的かつ効果的に硝酸除去が達成できる範囲として、含まれている電子供与体供給剤が、0.01w/v%〜3w/v%となる範囲が望ましく、好適には、0.1w/v%〜1w/v%である。
【0027】
特に、重量平均分子量を約8500以上約240000以下のポリ乳酸を含む電子供与体供給剤が窒素除去に最適であり、さらに、添加濃度を約0.5w/v%とすることにより、最大の脱窒効率を得ることができる。
【0028】
尚、かかる環境下で活動する脱窒菌としては、ベータプロテオバクテクテリア綱コマモナス科Comamonadaceaeおよびアルカリゲネス科Alcaligenaceaeに属する脱窒性細菌種(Comamonas属菌種、Alcaligenes属菌種など)が主体である。
【0029】
また、被処理物質が土壌である場合には、本発明の電子供与体供給剤を土中に漉き込むことや埋設することで脱窒菌を活性化させ窒素成分の除去を行うことができる。
【0030】
ここで、ポリ乳酸系樹脂は、固形基質分解菌が優占せず、非生物学的加水分解によって分解されるので、必要に応じて、被処理物質のpH調整を行って電子供与体の供給速度を調整してもよい。このため、例えばポリ(3−ヒドロキシ酪酸)やポリカプロラクトンなどの固形基質を用いた従来の環境浄化方法のように、分解微生物の存在量にポリマーの分解が依存してしまい脱窒速度の制御が困難になるといったことがない。
【0031】
また、嫌気的条件下においては、本発明の電子供与体供給剤をエネルギー源として有機塩素系化合物を無害化する微生物を活性化する環境浄化方法にも適用できる。ここで、有機塩素系化合物の生物学的処理による分解は他の有機化合物の分解に比べて非常に低速度で進行する。しかし、本発明の電子供与体供給剤は、電子供与体の放出速度を制御できるので、有機塩素系化合物の無害化又は無害化を促進するに寄与する微生物が、電子供与体を消費する速度に応じて電子供与体を供給し得、当該微生物の微生物活性を安定に維持することができる。
【0032】
更に、本発明の脱窒処理方法では、酢酸と乳酸とが添加された硝酸含有水溶液を用い、該水溶液中で増殖する微生物を予め集積培養し、その集積培養微生物を被処理物質中に添加するようにしてもよい。
【0033】
ポリ乳酸系樹脂を電子供与体供給源とする固相脱窒プロセスでは遊離した乳酸のみならず、その代謝産物である酢酸も基質として働くため、上記の集積培養によって乳酸と酢酸に親和性のある脱窒微生物が集積された集積培養微生物を得ることができる。そして、かかる集積培養微生物を添加することで当該固相脱窒プロセスを初発から効率的に動かすことができる。また、本発明の電子供与体供給剤では、乳酸に先立って酸放出性樹脂の分解物が放出されるため、容易に入手可能な分子量の高いポリ乳酸系樹脂を原材料として用いた場合であっても脱窒が可能であり、低濃度で脱窒を行うことが可能である。
【実施例】
【0034】
<使用材料>
PLA(ポリ乳酸樹脂)はnatureworks社製4032D(d乳酸1.4%)を用いた。
PEOx(ポリエチレンオキサレート)は下記合成品を用いた。
<ポリエチレンオキサレート (以下「PEOx」とも略す)の合成>
マントルヒーター、攪拌装置、窒素導入管、冷却管を取り付けた1Lのセパラブルフラスコにシュウ酸ジメチル354g(3.0mol)、エチレングリコール223.5g(3.6mol)、テトラブチルチタネート0.30gを入れ窒素気流下フラスコ内温度を110℃からメタノールを留去しながら170℃まで加熱し9時間反応させた。最終的に210mlのメタノールを留去した。その後内温150℃で0.1-0.5mmHgの減圧下で1時間攪拌し、内温170℃〜190℃で7時間反応後、取り出した。得られたPEOxの融点(m.p.)及びガラス転移温度(℃)は、m.p.172℃、Tg25℃であった。また、溶解度パラメーター(Fedors法に基づく)は、26である。また、ポリエチレンオキサレートのモノマーのシュウ酸の、0.005g/mlの濃度で水に溶解させたときのpH測定値は1.63である。
【0035】
<PEOx5%含有PLAペレットの作製>
各種材料をドライブレンドし、二軸押出機(テクノベル社製ULT Nano05-20AG)を用いて溶融混合し、マスターペレットを作製した。酸放出性樹脂としてPEOxを用いた場合は200℃で成形した。
【0036】
<PLA分子量の測定>
GPCを用いて、以下に示す条件下で測定し、PLAの分子量を測定した。
機種:東ソー株式会社製HLC−8120
溶媒:クロロホルム
流速:0.5mL/ml
温度:40℃
注入量:20μL
カラム:TSKgel SuperHM−H×2
ガードカラム:TSKguard column SuperH−H
サンプル濃度:3mg/ml
スタンダード:ポリスチレン
【0037】
<PLAの低分子量化方法>
オートクレーブで各時間処理を行った。
【0038】
<遊離乳酸量の測定>
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて、以下に示す条件下で測定し、遊離乳酸濃度を測定した。
機種:フォトダイオードアレイ検出器(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L7470)、ポンプ(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L7100)、オーブン(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L7300)
溶媒:0.1%H3PO4水溶液
流速:1.0mL/ml
温度:40℃
注入量:20μL
カラム:商品名RSpak KC-G(昭和電工社製)
【0039】
<硝酸塩濃度の測定>
イオンクロマトグラフィを用いて、以下に示す条件下で測定し、硝酸イオン濃度を測定した。
機種:導電率検出器(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L2420)、ポンプ(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L2130)、オーブン(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L2350)、オートサンプラー(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L2200)、オーガナイザー(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L2000)
溶媒:2.3Mフタル酸2.5Mトリス水溶液
流速:1.5mL/ml
温度:40℃
注入量:10μL
カラム:商品名#2740(日立ハイテクノロジーズ社製)
【0040】
(実験例1)
各重量平均分子量に調整したPEOxPLAが乳酸遊離速度に及ぼす影響を試験したものである。
75ml容バイアル瓶に60ml人工排水(0.216%KNO3、0.2%NH4Cl、0.68%KH2PO4、0.872%K2HPO4、0.02%NaCl、0.02%MgCl2・6H2O、0.045%CaCl2・2H2Oおよび0.1%SL8溶液)を添加して行った。このとき、SL8溶液とは、0.5%EDTA・2Na、0.1%FeCl2・4H2O、0.03%HBO3、0.01%CoCl2、0.005%ZnCl2、0.003%MnCl2・4H2O、0.003%NaMoO4・2H2O、0.03%NiSO4・6H2Oおよび0.001%CuCl2・2H2Oを含む溶液である。乳酸放出試験は、低分子量化PEOxPLA毎に3回行い、乳酸放出速度の平均値と標準偏差を算出した。各バイアル瓶には、更に、各低分子量化PEOxPLAペレット1gを添加した。これらのバイアル試験はすべて25℃、撹拌速度70rpmでの条件で行った。
図1は、各重量平均分子量に調整したPEOxPLAと乳酸遊離速度との関係を示した図であり、横軸に重量平均分子量、縦軸に乳酸遊離速度が示されている。図1に示したように、重量平均分子量約5000〜約40000の範囲では乳酸遊離量(速度)が確認されたが、約100000以上では確認されなかった。
【0041】
(実験例2)
次に、各低分子量化PEOxPLAを基質とし、無酸素条件下で、活性汚泥による脱窒試験を行なった。
75ml容バイアル瓶に実験例1と同様の人工排水60mlおよび各重量平均分子量に調整したPEOxPLA1gを添加し、活性汚泥を2000mg/mlとなるように調整して添加した。脱窒試験は、低分子量化PEOxPLA毎に3回行い、硝酸除去速度の平均値と標準偏差を算出した。各バイアル瓶には、更に、各低分子量化PEOxPLAペレット1gを添加した。これらのバイアル試験はすべて25℃、撹拌速度70rpmでの条件で行った。
図2は、低分子量化PEOxPLAの重量平均分子量と生物学的硝酸除去速度との関係を示した図であり、横軸は分子量を、縦軸は硝酸除去速度を示している。図2からも分かるように、重量平均分子量が約8500〜約238000の間において、硝酸除去速度が1(mg−N/g−MLSS/h)を超えており、現実的に脱窒処理を行うことのできる十分な硝酸除去速度が得られることが示されている。尚、重量平均分子量が約15500において、脱窒速度が極大値となった。
一方、得られた低分子量化PEOxPLAのうち、重量平均分子量が約8500(図2においてaで示す黒丸)では固体状態であったが、それ以下の重量平均分子量が約5000以下(図2においてbで示す黒丸)のものは、短時間で固形損失が著しく、大部分が液状化した。また、重量平均分子量が約5000以下のものは、過剰の乳酸放出に伴って水中の酸性化が顕著となり、脱窒反応が進行しなかった。図1および図2からもわかるとおり、重量平均分子量約8500〜約43000の間において、主に、酸放出性樹脂および生分解性樹脂から放出される加水分解物が脱窒反応に作用し、重量平均分子量約100000以上では、初期においては酸放出性樹脂由来の加水分解物が主たる脱窒反応の電子供与体として作用する。
以上の結果から、固形損失や酸性化を考慮して、重量平均分子量が約8500以上、約240000以下の範囲が、良好な脱窒を行なうことができる分子量範囲であることが示された。
【0042】
(実験例3)
実験例3は、本実施形態に係る脱窒処理用樹脂組成物について、被処理物質に添加する濃度が脱窒速度に及ぼす影響を試験したものである。低分子量化PEOxPLA(重量平均分子量=約15500)を基質として、実験例2と同様の活性汚泥による脱窒試験を行った。その結果を、図3に示す。
図3は、改質したポリ乳酸(重量平均分子量=約15500)を基質としたときの活性汚泥の脱窒速度を示した図であり、横軸に硝酸水溶液中の低分子量化PEOxPLAの濃度、縦軸に脱窒速度が示されている。図3からも分かるように、低分子量化PEOxPLA濃度が0.5w/v%の場合に脱窒速度が極大値となった。尚、低分子量化PEOxPLAの濃度が1w/v%以内で、水中のpHは中性(pH6.5以上)に保たれた。また、低分子量化PEOxPLAの濃度が3w/v%以上の添加では、水中のpHが酸性化し、脱窒反応が進行しなかった。
図1
図2
図3