特許第5909837号(P5909837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5909837フルオロポリエーテル化合物、これを含有する潤滑剤ならびに磁気ディスク
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  • 特許5909837-フルオロポリエーテル化合物、これを含有する潤滑剤ならびに磁気ディスク 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909837
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】フルオロポリエーテル化合物、これを含有する潤滑剤ならびに磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/23 20060101AFI20160414BHJP
   C10M 105/54 20060101ALI20160414BHJP
   C10M 107/38 20060101ALI20160414BHJP
   G11B 5/725 20060101ALI20160414BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20160414BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160414BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20160414BHJP
【FI】
   C07C43/23 CCSP
   C07C43/23 D
   C10M105/54
   C10M107/38
   G11B5/725
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:18
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-28593(P2012-28593)
(22)【出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2013-163667(P2013-163667A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100081536
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 巌
(72)【発明者】
【氏名】相方 良介
(72)【発明者】
【氏名】清水 豪
(72)【発明者】
【氏名】八田 知勇
(72)【発明者】
【氏名】小林 永芳
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−059491(JP,A)
【文献】 特表2004−525238(JP,A)
【文献】 特開2006−070173(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/066784(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/038773(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/123043(WO,A1)
【文献】 特開2010−143855(JP,A)
【文献】 特開昭63−027599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 43/23
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−R (1)
式中Rは、H、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−、または−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−、である。x、yは、それぞれ0〜15の実数である。zは1〜15の実数である。nは0〜4の実数である。R CHCH(OH)CHOH、または−CHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH、または−(CHOHである。mは2〜6の整数である。
【請求項2】
x、yが、それぞれ0〜10の実数であり、zが1〜10の実数である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(1)の化合物を含有する潤滑剤
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−R (1)
式中Rは、H、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−、または−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−、である。x、yは、それぞれ0〜15の実数である。zは1〜15の実数である。nは0〜4の実数である。Rは、−CHCH(OH)CHOH、または−CHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH、または−(CHOHである。mは2〜6の整数である。
【請求項4】
x、yが、それぞれ0〜10の実数であり、zが1〜10の実数である請求項3に記載の潤滑剤。
【請求項5】
支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面に潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が下記式(1)で表される化合物を含有する磁気ディスク
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−R (1)
式中Rは、H、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−、または−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−、である。x、yは、それぞれ0〜15の実数である。zは1〜15の実数である。nは0〜4の実数である。Rは、−CHCH(OH)CHOH、または−CHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH、または−(CHOHである。mは2〜6の整数である。
【請求項6】
x、yが、それぞれ0〜10の実数であり、zが1〜10の実数である請求項5に記載の磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族基と水酸基を有するフルオロポリエーテル化合物、これを含有する潤滑剤、ならびにこれを用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクの記録密度の増大に伴い、記録媒体である磁気ディスクと情報の記録・再生を行うヘッドとの距離は殆ど接触するまで狭くなっている。磁気ディスク表面にはヘッドとの接触・摺動の際の摩耗抑制や、ディスク表面の汚染防止等の目的で、炭素保護膜や潤滑剤被膜が設けられている。
【0003】
炭素保護膜は、一般にスパッタ法やCVD法で製膜される。ディスクの表面保護は、炭素保護膜と、この上層に位置する潤滑剤被膜の両者で担うことになる。
【0004】
潤滑剤としては一般に官能基を有するフルオロポリエーテルが用いられている。官能基としては、水酸基やアミノ基、さらにはシクロホスファゼン基などがある。とくにホスファゼン基を有する潤滑剤は耐分解性に優れた材料であり、磁気ディスクの耐久性を向上させる材料として知られている(例えば特許文献1、2)。
【0005】
シクロホスファゼン基は、3つの燐原子と3つの窒素原子から構成される6員環を中心骨格とし、各燐原子から2つの置換基が6員環の上下に伸びる分子構造をとる。(例えば非特許文献1)。近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量のもとで、磁気ディスク上で用いられる潤滑膜に対しても更なる薄膜化が求められるなか、シクロホスファゼン化合物には、分子の嵩高さを低減する点において困難が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許 第4137447号
【特許文献2】特許 第4570622号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tribology letters,2008,Vol.31,p25−35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ホスファゼン系化合物が示すのと同様の優れた耐分解性を維持しつつ、分子の嵩高さを低減した化合物およびこれを用いた潤滑剤ならびに磁気ディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の発明に係る。
1.式(1)で表される化合物
−CO−CHCH(OH)CHOCH−R−CH−O−R (1)
式中Rは、H、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基である。Rは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−、または−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−、または−CFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−、である。x、yは、それぞれ0〜15の実数である。zは1〜15の実数である。nは0〜4の実数である。Rは、−CHCH(OH)CHOH、または−CHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH、または−(CHOHである。mは2〜6の整数である。
【0010】
2.式(1)の化合物を含有する潤滑剤。
3.支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面に潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が式(1)で表される化合物を含有する磁気ディスク。
【発明の効果】
【0011】
本発明の芳香族基と水酸基を有するフルオロポリエーテル化合物は、一分子あたりの膜厚低減と耐分解性という2つの課題を同時に解決する潤滑剤である。また、本発明の化合物を潤滑剤として用いる磁気ディスクは、ヘッドとディスクのスペーシングを低減でき、かつヘッドとディスクの接触摺動においても優れた耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の磁気ディスクの構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
潤滑剤の合成方法
式(1)で表される本発明の潤滑剤は、例えば片方の末端に水酸基を有しており、かつ他方の末端にヒドロキシアルキル基を有する直鎖フルオロポリエーテルとエポキシ基を有するフェノキシ化合物を反応させることにより得られる。具体的には以下の方法により合成される。
【0014】
(1)片方の末端に水酸基を有しており、かつ他方の末端にアルキルアルコール基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)の合成
両末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(b)と、水酸基と反応してヒドロキシアルキル基を形成する化合物(c)を反応させる。反応温度は20〜90℃、好ましくは60〜80℃である。反応時間は、5〜20時間、好ましくは10〜15時間である。化合物(c)の使用量は、フルオロポリエーテル(b)に対して0.5〜1.5当量であることが好ましい。反応促進剤を使用しても良い。その後、例えばカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、片方の末端に水酸基を有し、かつ他方の末端にアルキルアルコール基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)を得る。反応は溶剤中で行ってもよい。溶剤としてt−ブチルアルコール、ジメチルホルムアルデヒド、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。反応促進剤としてナトリウム、t−ブトキシカリウム、水素化ナトリウムなどを例示することができる。
【0015】
両末端に水酸基を有するフルオロポリエーテル(b)としては、例えばHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOHで示される化合物、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHで示される化合物、またはHOCHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCHOHで示される化合物を例示できる。このフルオロポリエーテルの数平均分子量は500〜2000、好ましくは800〜1500である。ここで数平均分子量は日本電子製JNM−ECX400による19F−NMRによって測定された値である。NMRの測定において、試料を溶媒へは希釈せず、試料そのものを測定に使用した。ケミカルシフトの基準は、フルオロポリエーテルの骨格構造の一部である既知のピークをもって代用した。x、yは、それぞれ0〜15の実数であり、好ましくは0〜10の実数である。x、yが0〜10の実数の場合、分子鎖がより平坦であり好ましい。zは、1〜15の実数であり、好ましくは1〜10の実数である。zが1〜10の実数の場合、分子鎖がより平坦でありであり好ましい。nは0〜4の実数である。
【0016】
上記フルオロポリエーテル(b)は、分子量分布を有する化合物であり、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(PD)として、1.0〜1.5であり、好ましくは1.0〜1.3であり、より好ましくは1.0〜1.1である。なお、当該分子量分布は、東ソー製HPLC−8220GPCを用いて、ポリマーラボラトリー製のカラム(PLgel Mixed E)、溶離液はHCFC系代替フロン、基準物質としては、無官能のパーフルオロポリエーテルを使用して得られる特性値である。
【0017】
水酸基と反応してヒドロキシアルキル基を形成する化合物(c)としては、例えばエポキシ基を有する化合物、X(CHOHで示されるハロアルキルアルコールなどを挙げることができる。Xはハロゲン原子であり、mは2〜8の実数である。
【0018】
具体的には例えばグリシドール、プロピレンオキシド、グリシジルメチルエーテル、イソブチレンオキシド、2−クロロエタノール、3−クロロプロパノール、4−クロロブタノール、5−クロロペンタノール、6−クロロヘキサノール、7−クロロヘプタノール、8−クロロオクタノール、2−ブロモエタノール、3−ブロモプロパノール、4−ブロモブタノール、5−ブロモペンタノール、6−ブロモヘキサノール、7−ブロモヘプタノール、8−ブロモオクタノール、2−ヨードエタノール、3−ヨードプロパノール、4−ヨードブタノール、5−ヨードペンタノール、6−ヨードヘキサノール、7−ヨードヘプタノール、8−ヨードオクタノールなどを例示できる。
【0019】
例えば、化合物(b)としてHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOHを用い、化合物(c)としてグリシドールを用いた場合、両者の反応により、化合物(a)としてHOCHCH(OH)CHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOHが生成する。
また化合物(c)として2−クロロエタノールを用いた場合、化合物(a)としてHOCHCHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOHが生成する。
【0020】
(2)本発明の潤滑剤の合成
上記で得られる片方の末端に水酸基を有しており、かつ他方の末端にヒドロキシアルキル基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)と、エポキシ基を有するフェノキシ化合物(A)を触媒の存在下、反応させる。反応温度は20〜90℃、好ましくは60〜80℃である。反応時間は、5〜20時間、好ましくは10〜15時間である。上記化合物(a)に対して、化合物(A)を1.0〜2.0当量、触媒を0.05〜0.1当量使用するのが好ましい。触媒としてt−ブトキシナトリウム、t−ブトキシカリウムなどのアルカリ化合物を用いることができる。反応は溶剤中で行ってもよい。溶剤としてt−ブタノール、トルエン、キシレンなどを用いることができる。その後、例えば水洗、脱水する。これにより本発明の化合物(1)が得られる。
【0021】
エポキシ基を有するフェノキシ化合物(A)は下記の式で例示される。Rは水素、炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
具体的には例えば、グリシジルフェニルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル、グリシジル4−エトキシフェニルエーテル、グリシジル4−プロポキシフェニルエーテル、グリシジル4−ブトキシフェニルエーテルなどを例示できる。
またRが炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、アミド基である化合物などを用いることもできる。このような化合物としてグリシジル4−メチルフェニルエーテル、グリシジル4−エチルフェニルエーテル、グリシジル4−プロピルフェニルエーテル、グリシジル4−ブチルフェニルエーテル、グリシジル4−アミノフェニルエーテル、グリシジル4−メチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−ジメチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−エチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−ジエチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4−アセトアミドフェニルエーテル、グリシジル4−プロピオンアミドフェニルエーテルなどを例示できる。
【0024】
本発明の化合物を磁気ディスク表面に塗布するには、化合物を溶剤に希釈して塗布する方法が好ましい。溶剤としては、例えば3M製PF−5060、PF−5080、HFE−7100,HFE−7200、DuPont製Vertrel−XF等が挙げられる。希釈後の化合物の濃度は1wt%以下、好ましくは0.001〜0.1wt%である。
本発明の化合物を単独使用する以外にも、例えばSolvay Solexis製のFomblin ZdolやZtetraol、Zdol TX、AM、ダイキン工業製のDemnum、Dupont製のKrytoxなどと任意の比率で混合して使用することもできる。
【0025】
本発明の化合物は、磁気ディスク装置内の磁気ディスクとヘッドの低スペーシング化を実現し、さらに摺動耐久性を向上させるための潤滑剤としての用途が挙げられる。また、本発明の化合物は、水酸基による炭素保護膜に存在する極性部位との相互作用、芳香族基による炭素保護膜に存在する炭素の不飽和結合との相互作用を形成することを特徴とする。従って、磁気ディスク以外にも炭素保護膜を有する磁気ヘッドや、光磁気記録装置、磁気テープ等や、プラスチックなどの有機材料の表面保護膜、さらにはガラス、金属などの無機材料の表面保護膜としても応用できる。
【0026】
図1に本発明の磁気ディスク断面の模式図を示す。本発明の磁気ディスクは、まず支持体1上に少なくとも1層以上の記録層2、その上に保護層3、更にその上に本発明の化合物を含有する潤滑層4を最外層として有する構成である。支持体としてはアルミニウム合金、ガラス等のセラミックス、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0027】
磁気ディスクの記録層である磁性層の構成材料としては鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素を中心として、これにクロム、白金、タンタル等を加えた合金、又はそれらの酸化物が挙げられる。これらはメッキ法、或いはスパッタ法等で形成される。保護層の材料はカーボン、SiC、SiO等が挙げられる。これらはスパッタ法、或いはCVD法で形成される。
【0028】
現在、流通している潤滑層の厚さは20Å以下であるため、粘性が20℃で100mPa・s程度以上の潤滑剤をそのまま塗布したのでは膜厚が大きくなりすぎる恐れがある。そこで塗布の際は溶剤に溶解したものを用いる。本発明の化合物を潤滑剤として単独で使用する場合も、他の潤滑剤と混合して使用する場合も、溶剤に溶解した方が必要な膜厚に制御しやすい。但し、濃度は塗布方法・条件、混合割合等により異なる。本発明の潤滑剤の膜厚は、5〜15Åが好ましい。
【0029】
下地層に対する潤滑剤の吸着を促進させるために、熱処理や紫外線処理を行うことができる。熱処理温度は、60〜160℃、好ましくは80〜160℃である。紫外線処理では、185nmと254nmの波長を主波長とする紫外線を用いるのが好ましい。
【0030】
本発明の磁気ディスクは、ディスクを格納し、情報の記録・再生・消去を行うためのヘッドやディスクを回転するためのモーター等が装備されている磁気ディスクドライブとそのドライブを制御するための制御系からなる磁気ディスク装置に応用できる。
本発明の磁気ディスク、およびそれを応用した磁気ディスク装置の用途としては電子計算機、ワードプロセッサー等の外部メモリーが挙げられる。またナビゲーションシステム、ゲーム、携帯電話、PHS等の各種機器、及びビルの防犯、発電所等の管理・制御システムの内部・外部記録装置等にも適用可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0032】
実施例1
O−CHCH(OH)CHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCH−OCHCH(OH)CHOH (化合物1)の合成
アルゴン雰囲気下、t−ブチルアルコール(41g)、HO−CHCFO(CFCFO)(CFO)CFCH−OHで表わされるフルオロポリエーテル(数平均分子量1305、分子量分布1.25)95g、カリウム t−ブトキシド(0.8g)、グリシドール(8g)を70℃で14時間撹拌した。その後、水洗、脱水し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、一方の末端に一つの水酸基を有し、もう一方の末端に二つの水酸基を有する、パーフルオロポリエーテル(平均分子量1379)を95g得た。この化合物(95g)をt−ブチルアルコール(43g)に溶解させ、カリウム t−ブトキシド(0.4g)、グリシジルフェニルエーテル(15g)を70℃で14時間撹拌した。その後、水洗、脱水した後、蒸留により精製し、化合物1を65g得た。
化合物1は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.75g/cmであった。NMRを用いて行った化合物1の同定結果を示す。
【0033】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−52.1ppm、−53.7ppm、−55.4ppm
〔12F、−OCO−〕、
δ=−89.1ppm、−90.7ppm
〔24F、−OCO−〕、
δ=−77.9ppm、−80.0ppm
〔4F、−OCCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCCHOCHCH(OH)CHOH〕、
x=6.1、y=6.4
【0034】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔17H、CO−C(O)COC−CFO(CFCFO)(CFO)CF−O−C(O)C
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔5H、−OCFCHOCHCH(OH)CH−C
【0035】
実施例2
O−CHCH(OH)CHO−CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH−O−CHCH(OH)CHOH (化合物2)の合成
実施例1において用いたHO−CHCFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルの代わりに、HO−CHCFCFO(CFCFCFCFO)CFCF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物2を61g得た。
化合物2は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.69g/cmであった。NMRを用いて行った化合物2の同定結果を示す。
【0036】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−129.7ppmとする。)
δ=−129.7ppm
〔12F、−OCFCFO−〕、
δ=−83.7
〔24F、−OCCFO−〕、
δ=−124.2ppm
〔4F、−OCCFCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCCFCHOCHCH(OH)CHOH〕、
δ=−86.5ppm
〔4F、−OCFCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
z=6.3
【0037】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔16H,CO−C(O)CO−CCFCFO(CFCFCFO)CFCF−O−C(O)C
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔5H、−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C
【0038】
実施例3
O−CHCH(OH)CHO−CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCH−O−CHCH(OH)CHOH (化合物3)の合成
実施例1において用いたHO−CHCFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルの代わりに、HO−CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物3を63g得た。
化合物3は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.72g/cmであった。NMRを用いて行った化合物3の同定結果を示す。
【0039】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−83.7ppm
〔16F、−OCCFCFO−、−OCCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCCFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕、
δ=−123.3ppm
〔4F、−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCCFCHOCHCH(OH)CHOH〕、
δ=−125.8ppm
〔12F、−OCFCFO−〕、
δ=−127.6ppm
〔4F、−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C、−OCFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
n=3.0
【0040】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔16H、CO−C(O)CO−CCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−O−C(O)C
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔5H、−OCFCHOCHCH(OH)CH−C
【0041】
実施例4
CHO−CO−CHCH(OH)CHOCH−CFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−O−CHCH(OH)CHOH (化合物4)の合成
実施例1において用いたグリシジルフェニルエーテルの代わりに、グリシジル4−メトキシフェニルエーテルを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物4を66g得た。
化合物4は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.74g/cmであった。NMRを用いて行った化合物4の同定結果を示す。
【0042】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−52.1ppm、−53.7ppm、−55.4ppm
〔12F、−OCO−〕、
δ=−89.1ppm、−90.7ppm
〔24F、−OCO−〕、
δ=−77.9ppm、−80.0ppm
〔4F、−OCCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH、−OCCHOCHCH(OH)CHOH〕、
x=6.1、y=6.4
【0043】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔20H、CO−CO−C(O)COCCFO(CFCFO)(CFO)CF−O−C(O)C
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔4H、−OCFCHOCHCH(OH)CH−C−OCH
【0044】
実施例5
CHO−CO−CHCH(OH)CHO−CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH−O−CHCH(OH)CHOH (化合物5)の合成
実施例2において用いたグリシジルフェニルエーテルの代わりに、グリシジル4−メトキシフェニルエーテルを用いた以外は実施例2と同様にして、化合物5を71g得た。
化合物5は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.75g/cmであった。NMRを用いて行った化合物5の同定結果を示す。
【0045】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−129.7ppmとする。)
δ=−129.7ppm
〔12F、−OCFCFO−〕、
δ=−83.7
〔24F、−OCCFO−〕、
δ=−124.2ppm
〔4F、−OCCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH、−OCCFCHOCHCH(OH)CHOH〕、
δ=−86.5ppm
〔4F、−OCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH、−OCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
z=6.3
【0046】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔20H、CO−CO−C(O)CO−CCFCFO(CFCFCFO)CFCF−O−C(O)C
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔4H、−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C−OCH
【0047】
実施例6
CHO−CO−CHCH(OH)CHO−CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCH−O−CHCH(OH)CHOH (化合物6)の合成
実施例3において用いたグリシジルフェニルエーテルの代わりに、グリシジル4−メトキシフェニルエーテルを用いた以外は実施例2と同様にして、化合物6を59g得た。
化合物6は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.75g/cmであった。NMRを用いて行った化合物6の同定結果を示す。
【0048】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−83.7ppm
〔16F,−OCCFCF2O−、−OCCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH、−OCCFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕,
δ=−123.3ppm
〔4F,−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH、−OCCFCHOCHCH(OH)CHOH〕,
δ=−125.8ppm
〔12F,−OCFCFO−〕,
δ=−127.6ppm
〔4F,−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C−OCH、−OCFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
n=3.0
【0049】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔20H,CO−CO−C(O)CO−CCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−O−C(O)C
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔4H,−OCFCHOCHCH(OH)CH−C−OCH
【0050】
実施例7
O−CHCH(OH)CHOCH−CFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−O−CHCHOH (化合物7)の合成
アルゴン雰囲気下、ジトリフルオロメチルベンゼン(180g)、HO−CHCFO(CFCFO)(CFO)CFCH−OHで表わされるフルオロポリエーテル(数平均分子量1305、分子量分布1.25)60g、2−ブロモエタノール(12g)、金属ナトリウム(4g)を60℃で120時間攪拌した。その後、水洗、脱水し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、一方の末端に一つの水酸基を有し、もう一方の末端に2−ヒドロキシエチル基を有するパーフルオロポリエーテル(平均分子量1310)を30g得た。この化合物(30g)をt−ブチルアルコール(60g)に溶解させ、カリウムt−ブトキシド(0.5g)とグリシジルフェニルエーテル(15g)を70℃で17時間攪拌した。その後、水洗、脱水した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物7を12g得た。
化合物7は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.74g/cmであった。NMRを用いて行った化合物7の同定結果を示す。
【0051】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−52.1ppm、−53.7ppm、−55.4ppm
〔12F,−OCO−〕,
δ=−89.1ppm、−90.7ppm
〔24F,−OCO−〕,
δ=−77.9ppm、−80.0ppm
〔4F,−OCCHOCHCH(OH)CH−O−C、−CCHOCHCHOH〕
x=6.1、y=6.4
【0052】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.53〜3.82ppm
〔14H,CO−C(O)COC−CFO(CFCFO)(CFO)CF−C−O−CFOCOH〕,
δ=4.61ppm
〔1H,−CFCHOCHCH〕,
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔5H,−OCFCHOCHCH(OH)CH−C
【0053】
実施例8
O−CHCH(OH)CHO−CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH−O−CHCHOH (化合物8)の合成
実施例7において用いたHO−CHCFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルの代わりに、HO−CHCFCFO(CFCFCFCFO)CFCF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物8を15g得た。
化合物8は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.67g/cmであった。NMRを用いて行った化合物8の同定結果を示す。
【0054】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−129.7ppmとする。)
δ=−129.7ppm
〔12F,−OCFCFO−〕,
δ=−83.7
〔24F,−OCCFO−〕,
δ=−124.2ppm
〔4F,−OCCFCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCCFCHOCHCHOH〕,
δ=−86.5ppm
〔4F,−OCFCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCFCHOCHCHOH〕
z=6.3
【0055】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔14H,CO−C(O)CO−CCFCFO(CFCFCFO)CFCF−O−COH〕
δ=4.61ppm
〔1H,−CFCHOCHCH〕,
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔5H,−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C
【0056】
実施例9
O−CHCH(OH)CHO−CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCH−O−CHCHOH (化合物9)の合成
実施例7において用いたHO−CHCFO(CFCFO)(CFO)CF−CH−OHで表わされるフルオロポリエーテルの代わりに、HO−CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCH−OHで表わされるフルオロポリエーテルを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物9を10g得た。
化合物9は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.75g/cmであった。NMRを用いて行った化合物9の同定結果を示す。
【0057】
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−83.7ppm
〔16F,−OCCFCFO−、−OCCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C、−OCCFCFCHOCHCHOH〕,
δ=−123.3ppm
〔4F,−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−O−C−OCH、−OCCFCHOCHCHOH〕,
δ=−125.8ppm
〔12F,−OCFCFO−〕,
δ=−127.6ppm
〔4F,−OCFCFCHOCHCH(OH)CH−C、−OCFCFCHOCHCHOH〕
n=3.0
【0058】
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.2〜3.8ppm
〔14H,CO−C(O)CO−CCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCF−O−COH〕,
δ=4.61ppm
〔1H,−CFCHOCHCH〕,
δ=6.1ppm、6.7ppm
〔5H,−OCFCHOCHCH(OH)CH−C
【0059】
実施例10
酸化アルミニウムに対する耐分解性の評価
化合物1および2に、それぞれ20重量%のAlを入れ、強く振とうしたのち超音波でさらに良く混合することにより、耐分解性評価用の試料を調製する。熱分析装置(TG/TDA)を用いて、250℃で100分間加熱した後の潤滑剤の重量減少率(B)を算出し、さらにAlを添加せず、潤滑剤そのものを20mg使用して同様の熱分析を行うことにより得られる潤滑剤の重量減少率(C)を算出する。耐分解性の評価は、BとCの差(B−C)で評価した。
【0060】
実施例11
単分子膜厚の測定
磁気ディスク上に塗布された潤滑剤の単分子膜厚(一分子あたりの膜厚)は、非特許文献2にも記載されているように、ディスク上での潤滑剤の拡散挙動をエリプソメーターで観察する際に確認される。単分子膜厚は、潤滑剤被膜のテラス部位の膜厚として得られる。
【0061】
〔非特許文献2〕 Journal of Tribology,October 2004,Vol.126,p751
【0062】
具体的には、実施例で合成した化合物1および2を、それぞれDuPont製Vertrel−XFに溶解する。この溶液の化合物1および2の濃度はいずれも0.05重量%である。直径2.5インチの磁気ディスクの一部分(約1/4)をこの溶液に浸漬し、速度4mm/sで引き上げることにより、潤滑層として化合物1および2が塗布された部分と塗布されていない部分からなるディスクを作製した。塗布された部分の平均膜厚は、20Åであった。
上記のディスクを作製後すぐに、エリプソメーターに装着し、50℃の温度条件下にて一定時間毎に塗布部と非塗布部の境界付近における膜厚の変化を測定し、形成するテラス部位の膜厚として潤滑剤の単分子膜厚を得た。
【0063】
比較のために、シクロホスファゼン基を有する潤滑剤10及びパーフルオロポリエーテルの両末端にそれぞれ2つの水酸基を有する潤滑剤11を使用した。
【0064】
(潤滑剤10)
(m−CF−CO)(P)OCHCFO(CF2CF2O)x(CF2O)yCF2CH2OCHCH(OH)CHOH
ここでxは10.1、yは10.9である。分子量分布は1.18である。
(潤滑剤11)
HOCHCH(OH)CHO(CFCFO)(CFO)CHCH(OH)CHOH
ここでxは9.8、yは9.7である。分子量分布は1.20である。
【0065】
耐分解性の評価及び単分子膜厚の測定の結果を表1に記す。これらの結果から、本発明の芳香族基と水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物は、シクロホスファゼン基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と同程度の優れた耐分解性を有しており、かつ低い単分子膜厚を示すことが確認された。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例12
磁気ディスクの作製
実施例で得られた化合物1および2をDuPont製Vertrel−XFに溶解する。この溶液の化合物1〜2の濃度は0.05重量%である。直径2.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。その後150℃で10分間乾燥し、塗布された化合物の膜厚をFT−IRで測定した。
【0068】
結果を表2に示す。これらの結果から、耐分解性を有し、かつ一分子あたりの膜厚を低減できる本発明の化合物を有する磁気ディスクを作製できることが確認された。
【0069】
【表2】
【符号の説明】
【0070】
1 支持体
2 記録層
3 保護層
4 潤滑層
図1