(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法、表示装置の製造方法、表示パネルおよび表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面における部材の縮尺は実際のものとは同じとは限らない。
【0013】
[本発明の一態様の概要]
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法は、基板上の異なる領域に形成された表示部および端子部を備えた表示パネルの製造方法であって、前記基板上に表示部を形成する表示部形成工程と、前記基板上の前記端子部を形成する予定の領域に、導電性金属酸化物または金属からなる導電層を形成する導電層形成工程と、前記表示部を覆うと共に前記導電層の少なくとも上面に接し、且つ、前記導電層の上面が変質するように、化学蒸着法によって無機化合物からなる化学蒸着層を形成する化学蒸着層形成工程と、前記化学蒸着層の前記導電層上の部分を引き剥がして除去する除去工程とを含む。
【0014】
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法の特定の局面では、前記導電層は導電性金属酸化物からなり、前記化学蒸着層形成工程には、前記導電層の上面の前記導電性金属酸化物を、還元性ガスによって還元して変質させる工程が含まれる。
【0015】
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法の特定の局面では、さらに、前記化学蒸着層形成工程の後、前記除去工程の前に、前記化学蒸着層の前記導電層上の部分に、粘着テープを貼着する粘着テープ貼着工程を含み、前記除去工程においては、前記粘着テープを剥離することによって、前記化学蒸着層の前記導電層上の部分を引き剥がして除去する。
【0016】
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法の特定の局面では、さらに、前記化学蒸着層形成工程の後、前記除去工程の前に、原子層堆積法によって前記化学蒸着層上に原子層堆積膜を形成する原子層堆積膜形成工程を含む。
【0017】
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法の特定の局面では、さらに、前記原子層堆積膜形成工程の後、前記除去工程の前に、前記原子層堆積膜の前記導電層上の部分に、粘着テープを貼着する粘着テープ貼着工程を含み、前記除去工程においては、前記粘着テープを剥離することによって、前記化学蒸着層の前記導電層上の部分および前記原子層堆積膜の前記導電層上の部分を引き剥がして除去する。
【0018】
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法の特定の局面では、前記導電性金属酸化物は、ITOまたはIZOである。
【0019】
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法の特定の局面では、前記還元性ガスは、SiNまたはSiH
4である。
【0020】
本発明の一態様に係る表示パネルは、基板上の異なる領域に形成された表示部および端子部を備えた表示パネルであって、前記表示部は、化学蒸着法によって形成された無機化合物からなる封止層によって覆われており、前記端子部は、導電性金属酸化物または金属からなり、前記封止層によって覆われておらず、且つ、前記端子部の上面の少なくとも一部が前記化学蒸着法により変質している。
【0021】
本発明の一態様に係る表示装置は、上記記載の表示パネルを備える。
【0022】
[表示装置]
図1は、本発明の一態様に係る表示装置の全体構成を示す図である。
図1に示すように、本発明の一態様に係る表示装置1は、表示パネル100と、駆動制御部200と、配線板300とを備える。表示パネル100は、例えば、エレクトロルミネッセンス効果を利用した有機ELパネルである。駆動制御部200は、4つの駆動回路210と、制御回路220とから構成されている。配線板300は、例えば、フレキシブル配線板であって、駆動回路210としてのICが搭載されている。
【0023】
図2は、表示パネルと配線板との接続の態様を説明するための斜視図である。
図2に示すように、表示パネル100の中央領域に表示部101が形成されており(
図2において二点鎖線で囲んだ部分)、中央領域を囲繞する外周領域には、外周領域の4辺全てに、それぞれ複数の端子部114(
図5参照)が形成されている。
【0024】
配線板300は、例えば、ポリイミド製のベースフィルム310に、銅等によって導電パターン(不図示)を形成したものであって、ベースフィルム310の表示パネル100側の端部の下面(TFT基板111と対向する側の主面)には、各端子部114と対応した位置に、前記導電パターンと電気的に接続された配線端子320(
図3参照)が複数形成されている。
【0025】
TFT基板111の外周領域には、4辺全てにそれぞれベースフィルム310の表示パネル100側の端部が、ACF(異方性導電接着フィルム)400を介して接着されている。このACF400によって、表示パネル100の各端子部114とそれに対応する配線板300の配線端子320とが電気的に接続されている。
【0026】
なお、端子部114は、必ずしもTFT基板111の外周領域の4辺全てに形成されている必要はなく、1辺にだけ形成されていても良いし、2辺或いは3辺に形成されていても良い。そして、駆動回路210および配線板300は、端子部114が形成されている辺にだけ接着されていれば良い。
【0027】
[表示パネル]
図3は、
図2に示すA−A線に沿った端面図である。
図3に示すように、表示パネル100は、例えば、デバイス基板110と、CF(Color Filter)基板120とを備える。デバイス基板110およびCF基板120は対向配置され貼り合わされている。
【0028】
デバイス基板110の上方には、シール部材102aを介してCF基板120が配置され、デバイス基板110とCF基板120との間には樹脂層102bが充填される。シール部材102a及び樹脂層102bは、緻密な樹脂材料(例えばシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂等)からなり、デバイス基板110の表示部101を封止し有機発光層116が水分やガス等に触れるのを防止している。
【0029】
TFT基板111の上面(CF基板120側の主面。以下の説明では、デバイス基板110を構成する各層についても、CF基板120側の面を上面と称する。)には、マトリクス状に配置された複数の画素で構成される表示部101が形成されており、それら各画素が出射するR(赤色)、G(緑色)またはB(青色)の光がCF基板120を透過し、表示パネル100の正面にカラー画像が表示される。そして、TFT基板111の上面の表示部101を囲繞する領域に端子部114が設けられている。なお、ここではCF基板120が設置される場合で説明したが、CF基板は必ずしも設置される必要はない。
【0030】
<デバイス基板>
デバイス基板110は、TFT基板111と、EL(Electro Luminescence)基板124とからなり、EL基板124は、TFT基板111の上面に、平坦化膜112、下部電極113、コンタクトホール113X、アノードリング113Y、バンク115、有機発光層116、電子輸送層116X、上部電極117、封止層118、および保護膜119等を有する積層構造であって、デバイス基板110の表示部101を構成する各画素は、下部電極113、有機発光層116、電子輸送層116X、上部電極117で構成されるトップエミッション型の有機EL素子で構成されている。
【0031】
TFT基板111は、例えば、基板111aの上面に、TFT層111bを形成した構造である。TFT層111bには、SD配線111cおよびパッシベーション膜111dなどが含まれる。基板111aは、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、アルミナ等の絶縁性材料からなるベース基板の上面に、複数のTFTおよびその引き出し電極を所定パターンで形成した構造である。パッシベーション膜111dは、SiO(酸化シリコン)またはSiNからなる薄膜であって、SD配線111cを被覆し、これらを保護している。
【0032】
平坦化膜112は、例えば、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂等の絶縁材料からなり、パッシベーション膜111dの上面の段差を平坦化している。なお、平坦化膜112は必ずしも必要ではない。
【0033】
下部電極113は、コンタクトホール113Xを介してTFT層111bと電気的に接続されている。なお、下部電極113は、例えば、金属層と金属酸化物層との2層構造であってもよい。金属層は、例えば、Ag(銀)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等の光反射性導電材料からなり、各画素に対応した領域にマトリクス状に形成されている。金属酸化物層は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等の導電材料からなり、金属層上に金属層を被覆するように形成されている。
【0034】
端子部114は、例えば、金属層114aと金属酸化物層114bとの2層構造である。金属層114aは、例えば、SD配線111cの一部で構成されており、Cr、Mo、Al、Ti、Cuなどの金属や、これらの金属を含む合金(例えば、MoW、MoCr、NiCrなど)等の電気抵抗が低くプロセス安定性の高い導電材料からなり、TFT基板111の外周領域の4辺全てに、TFT基板111の外周縁に沿って複数個ずつ間隔を空けて形成されている。金属酸化物層114bは、例えば、ITO、IZO等の光透過性材料からなり、各金属層114a上に各金属層114aを被覆するように形成されている。なお、金属酸化物層114bの表面には、金属酸化物が変質した物質(後述するダメージ層114eの残渣)が付着している。
【0035】
バンク115は、例えば、絶縁性の有機材料(例えばアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等)からなり、TFT基板111の中央領域内に、下部電極113が形成された領域を避けるように形成されている。本実施の形態では、バンク115は井桁構造のピクセルバンクであるが、バンクはストライプ構造のラインバンクであっても良い。
【0036】
有機発光層116は、バンク115で規定された各画素に対応した領域に形成されており、表示パネル100の駆動時において、ホールと電子との再結合によりR、GまたはBに発光する。有機発光層116は有機材料で構成されており、有機材料としては、例えば、特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質等を挙げることができる。
【0037】
電子輸送層116Xは、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、またはこれらの混合物等からなり、上部電極117から注入された電子を有機発光層116へ輸送する機能を有する。
【0038】
上部電極117は、例えば、ITO、IZO等の光透過性導電材料で形成された透明電極であって、バンク115および有機発光層116の上面を覆うように、表示部101のほぼ全体に亘って形成されている。
【0039】
封止層118は、例えば、表示部101を覆って封止し、有機発光層116が水分やガス等に触れるのを防止するための層であって、例えば、SiN、SiO、SiON(酸窒化シリコン)、SiC(炭化ケイ素)、SiOC(炭素含有酸化シリコン)等の光透過性材料からなり、上部電極117上に形成されている。
【0040】
保護膜119は、表示部101を覆って封止し、有機発光層116が水分やガス等に触れるのを防止するための膜であって、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、AlN(窒化アルミニウム)等の光透過性材料からなり、封止層118上に形成されている。封止層118の上にさらに保護膜119を形成することで、例えば封止層118にピンホールと呼ばれる封止欠陥部分が存在する場合でも、その封止欠陥部分から封止層118内に水分やガス等が浸入するのを防止することができる。
【0041】
以上のように説明したEL基板124の積層構造に関して、下部電極113と有機発光層116との間には、ホール輸送層、ホール注入層等の他の層が1層または複数層さらに形成されていても良い。また、有機発光層116と上部電極117との間には、電子輸送層、電子注入層等の他の層が1層または複数層さらに形成されていても良い。
【0042】
<CF基板>
CF基板120は、ガラス基板121の下面(デバイス基板110側の主面)側に、R、GまたはBのカラーフィルタ122と、ブラックマトリクス層123とが形成された構造である。
【0043】
カラーフィルタ122は、R、GまたはBに対応する波長の可視光を透過する透明層であって、公知の樹脂材料等からなり、各画素に対応した領域に形成されている。
【0044】
ブラックマトリクス層123は、パネル内部への外光の入射を防止したり、CF基板120越しに内部部品が透けて見えるのを防止したり、外光の照り返しを抑えて表示パネル100のコントラストを向上させたりする目的で形成されている黒色樹脂層であって、例えば光吸収性および遮光性に優れる黒色顔料を含む紫外線硬化樹脂材料からなる。
【0045】
[表示パネルおよび表示装置の製造方法]
本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法を説明する。
図4および
図5は、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法を説明するための工程図である。
【0046】
まず、
図4(a)に示すように、TFT基板111上の端子部114を形成する予定の領域に、金属層114aおよび導電層114dからなる積層体114cを形成する。この積層体114cが後に端子部114となる。具体的には、TFT基板111から、パッシベーション膜111dにおける端子部形成予定領域の部分を取り除くことによって、SD配線111cにおける金属層114aに相当する部分を露出させ、その露出した部分の上に、プラズマ蒸着またはスパッタリングにより導電性を有する金属酸化物からなる導電層114dを形成する。
【0047】
次に、
図4(b)に示すように、例えば、樹脂をスピンコートし、フォトレジスト/フォトエッチングでパターニングすることによって、平坦化膜112(例えば厚さ4μm)を形成し、さらに、コンタクトホール113Xと、下部電極113と、アノードリング113Yと、を形成する。
【0048】
下部電極113については、例えば、まず、真空蒸着またはスパッタリングにより金属薄膜を形成し、当該金属薄膜をフォトレジスト/フォトエッチングでパターニングすることにより、金属層を形成する(。次に、プラズマ蒸着またはスパッタリングにより導電性を有する金属酸化物薄膜を形成し、当該金属酸化物薄膜をフォトレジスト/フォトエッチングによりパターニングすることにより、金属酸化物層を形成する。
【0049】
次に、
図4(c)に示すように、バンク115、有機発光層116、電子輸送層116X、および上部電極117を順次形成する。
【0050】
バンク115は、例えば、表示部101が形成される領域の全体を覆うようにバンク材料層を形成し、形成したバンク材料層の一部をフォトレジスト/フォトエッチングで除去することによって形成する。なお、バンク115は、列方向および行方向に伸長し平面形状が井桁状のピクセルバンクであっても良いし、列方向または行方向にだけ伸長するストライプ状のラインバンクであっても良い。
【0051】
次に、バンク115間の凹部に、例えば、インクジェット法で有機発光層用インクを充填し、充填したインクを雰囲気25℃の減圧下で乾燥し、ベーク処理することによって、有機発光層116を形成する。さらに、バンク115および有機発光層116を覆うように、ETL蒸着で電子輸送層116Xを形成する。なお、インクをバンク115間に充填する方法は、インクジェット法に限定されず、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等であっても良い。
【0052】
次に、バンク115および有機発光層116を覆うように、上部電極117を形成する。例えば、光透過性の材料を蒸着することによって、上部電極117を形成する。
【0053】
以上により、TFT基板111上に表示部101を形成する表示部形成工程と、TFT基板111上の端子部114が形成される領域に、導電性金属酸化物からなる導電層114dを形成する導電層形成工程とが完了する。本実施の形態では、表示部形成工程を行う前に導電層形成工程を行っているが、表示部形成工程を行った後に導電層形成工程を行っても良いし、表示部形成工程中の例えば下部電極を形成する工程と同時に導電層形成工程を行っても良い。
【0054】
次に、
図4(d)に示すように、TFT基板111の上面側全体に化学蒸着法によって無機化合物からなる化学蒸着層118aを形成する(例えば厚さ620nm)。その際、導電層114dの表面の露出した部分、すなわち導電層114dの上面および側面が変質し、導電層114dの表面にダメージ層114eが形成される。これにより、表示部101を覆うと共に導電層114dの少なくとも上面に接し、且つ、導電層114dの上面が変質するように、化学蒸着層を形成する化学蒸着層形成工程が完了する。この時点において、導電層114dは、ダメージ層114eと、その内側の金属酸化物層114bとで構成される。
【0055】
化学蒸着法は、具体的には、例えば、SiN、SiH
4(モノシラン)等の還元性ガスを使用したプラズマ化学蒸着法である。化学蒸着層118aが形成される際、導電層114dの上面および側面が還元ガスにより還元され変質し、ダメージ層114eが形成される。
【0056】
好ましい成膜条件は、例えばSiH
4を還元性ガスとして使用する場合、成膜温度が50℃〜70℃、成膜圧力が80Pa〜120Pa、RFが1.1kW〜1.7kW、SiH
4流量が120sccm〜180sccm、NH
3流量が70sccm〜100sccm、N
2流量が2800sccm〜4200sccm、成膜時間が130sec〜190secである。還元力が弱すぎると、後に形成される封止層118の封止性が不十分になる。還元力が強すぎると、封止層118の剥離性が高まるが、表示部101がダメージを受ける。
【0057】
次に、
図4(e)に示すように、TFT基板111の上面側全体に、原子層堆積(ALD)法によって原子層堆積膜119aを形成する(例えば厚さ20nm)。具体的には、例えば、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス存在下で酸素プラズマによりAl
2O
3膜を形成する。好ましい成膜条件は、成膜温度が75℃〜95℃、成膜圧力が80Pa〜120Pa、RFが0.8kW〜1.2kW、成膜サイクルが0.12nm/cycle〜0.18nm/cycleである。
【0058】
ここで、原子層堆積法は、原子レベルの小さいガスを吸着により堆積させる方法であるため、マスクによる選択成膜を行っても、マスクの下側にガスが回り込んでしまい、所望の領域に正確に成膜することが難しい。また、原子層堆積法で形成した原子層堆積膜119aは緻密であるため、端子部114上に存在していると、端子部114と配線端子320との導通を妨げる。これに対して、本実施の形態に係る製造方法では、後述する除去工程によって化学蒸着層118aの所望の部分だけを正確に除去することができるため、マスクが不要であり、端子部114上に原子層堆積膜119aが存在し難い。
【0059】
次に、
図5(a)に示すように、導電層114dの表面にダメージ層114eが残っている状態で、
図4(f)および
図5(b)に示すように、原子層堆積膜119aのダメージ層114e上の部分(導電層114d上の部分でもある)に粘着テープ500を貼着する。これにより、粘着テープ貼着工程が完了する。なお、粘着テープ500としては、例えば、ACF等を利用することができる。
【0060】
次に、粘着テープ500を剥離することによって、
図4(g)に示すように、原子層堆積膜119aの導電層114d上の部分、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分、および、導電層114dのダメージ層114eを引き剥がして除去し、金属酸化物層114bを露出させる。露出するのは、
図5(c)において実線Bで示す粘着テープ500が貼着されていた領域である(
図4(g)に示す領域Bも参照)。化学蒸着層118aの導電層114d上の部分の一部のみに粘着テープ500が貼着された場合は、
図3および
図5(c)に示すように、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分の一部のみが引き剥がされ、金属酸化物層114bの一部のみが露出する。この場合、粘着テープ500が貼着されず引き剥がされなかった部分には、
図3に示すように金属酸化物114b上にダメージ層114eが残留する。
【0061】
なお、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分の全部に粘着テープ500を貼着し、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分の全部を引き剥がす構成であっても良い。
【0062】
これにより、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分を引き剥がして除去する除去工程が完了する。
【0063】
原子層堆積膜119aの導電層114d上の部分、および、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分が除去されるため、端子部114と配線端子320とを電気的に接続した際に、端子部114と配線端子320との導通性は良好である。なお、原子層堆積膜119aの導電層114d上の部分、および、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分は、完全に除去されることが好ましいが、それらの一部が残渣として導電層114d上に残っていても良い。その場合は、導電性に影響がでない程度の残渣であることが好ましい。
【0064】
除去工程において、ダメージ層114eは、全部が除去されても良いし、一部だけが除去されても良いし、全く除去されなくても良い。ダメージ層114eが全部引き剥がされた場合は、端子部114上にはダメージ層114eの残渣は残らない。一方、ダメージ層114eの一部だけが引き剥がされた場合には、端子部114上にダメージ層114eの残渣が残り、ダメージ層114eが全く除去されなかった場合は、端子部114上にダメージ層114eがそのまま残る。ダメージ層114eは、端子部114上に残っていても導電性の妨げとはならない。ダメージ層114eの一部或いは全部が端子部114上に残っている場合は、本発明に係る製造方法で製造された表示パネル100および表示装置1であると推定することができる。
【0065】
除去工程においては、導電層114dの表面にダメージ層114eが存在しているため、粘着テープ500と共に化学蒸着層118aおよび原子層堆積膜119aがTFT基板111側から剥がれる。剥がれるのは、ダメージ層114eと化学蒸着層118aとの界面、或いは、ダメージ層114eと金属酸化物層114bとの界面、或いは、ダメージ層114eの厚み内においてであり、それらの部分が剥がれ易くなっているからである。
【0066】
それらの部分が剥がれ易くなっている理由として、例えば、導電層114dの表面が化学蒸着法で使用する還元ガスに晒されると、導電層114dの表面を構成する金属酸化物の一部が還元され金属となり、金属酸化物の一部消失と金属の析出により導電層114dの表面に凹凸が形成され、この凹凸により導電層114dと化学蒸着層118aとの密着性が低下するからであると考えられる。なお、導電層114dの表面が変質していることは、例えば、ITOで構成される透明であった金属酸化物層114bが、化学蒸着法を行った後は表面が白濁したり黒化したりする現象からも確認できる。
【0067】
図6は、ガラス基板上にITOからなる導電層を形成した実験用基板につき、上述のようにプラズマ化学蒸着法によって化学蒸着層を形成し、原子層堆積法により原子層堆積膜を形成した後、ACFで引き剥がした表面の電子顕微鏡写真である。
図7は、
図6に示す線分Dに沿った断面の電子顕微鏡写真である。
図8は、
図7に示す二点鎖線E,Fで囲んだ部分を拡大した電子顕微鏡写真である。
【0068】
図6から
図8に示すように、除去工程後は、化学蒸着層の導電層上の部分、および、原子層堆積膜の導電層上の部分が、殆ど除去されていることが確認できる。なお、
図7および
図8において、Al
2O
3で構成される部分が原子層堆積膜119aに対応し、SiNで構成される部分が化学蒸着層118aに対応し、ITOで構成される部分が金属酸化物層114bに対応する。
【0069】
以上により、デバイス基板110が完成する。
【0070】
なお、
図4に示した製造プロセスでは、CF基板を貼り合わせる工程を省略して説明しているが、CF基板を設置する場合には、
図4(e)に示した原子層堆積膜を形成する工程の後、
図4(f)に示した粘着テープを貼着する工程の前に、CF基板を設置する工程を設けるのがよい。
【0071】
[実験]
実験により、化学蒸着層および原子層堆積膜が導通性に及ぼす影響について調べた。
図9は、化学蒸着層および原子層堆積膜が導通性に及ぼす影響についての実験結果を示す図である。実験では、100mm角のガラス板上に、ITO層、SiN層およびAl
2O
3膜を適宜積層させた積層体を形成して、それら積層体にACFを介して配線板を接続し、テスターで積層体の抵抗値を測定した。
【0072】
ACFは、導電粒子として4μmのNiコートプラスチック粒子が混入されたものを使用した。ACFを介しての積層体への配線板の圧着は、熱圧着装置を用いて、設定温度が250℃、設定時間が15sec、設定圧力が120Paで行なった。
【0073】
図9に示すように、SiN層およびAl
2O
3膜が存在しない場合(実験1)と比較して、2nmのAl
2O
3膜が存在する場合(実験2)の抵抗値は約1.5倍であった。さらに、5nmのAl
2O
3膜が存在する場合(実験3)の抵抗値は約2倍であり、8nm以上のAl
2O
3膜が存在する場合(実験4〜6)は導通しなかった。この結果から、2nm以上のAl
2O
3膜が存在すると、導通の妨げとなることがわかった。
【0074】
一方、20nmのAl
2O
3膜と620nmのSiN層を形成したとしても、除去工程を行った場合(実験7)は、実験1と比較して同程度の抵抗値であった。これは、除去工程によって、SiN層およびAl
2O
3膜が除去されたからである。なお、除去工程を行う前の状態では導通しなかった。
【0075】
次に、粘着テープの状態が剥離性に与える影響について調べた。
図10は、粘着テープの状態が剥離性に与える影響についての実験結果を示す図である。実験では、100mm角のガラス板上に、ITO層、SiN層およびAl
2O
3膜を適宜積層させた積層体を形成して、それら積層体から粘着テープを用いてSiN層およびAl
2O
3膜を引き剥がして除去し、引き剥がす際の剥離性を評価した。粘着テープとしては、ACFを使用した。粘着テープの圧着は、上記の圧着装置を用いて、
図10に記載の条件で行なった。
【0076】
図10に示すように、基本条件(実験8)と比較して、圧着温度を高くしてACFをより硬化させた場合は(実験9)、ACFがやや剥がれ難くなり、ACFの残渣がガラス板に残ったが、剥離性および導通性への影響は殆どなかった。また、圧力を高くしたり(実験10)、低くしたり(実験11)して、ACFの硬さを変えてみたが、剥離性および導通性への影響はなかった。
【0077】
ACFの硬さは圧着温度と圧着時間との積により定まるが、ACFの樹脂硬化状態(接着強度)を考慮した条件範囲内では、高温条件である場合を除き、剥離性は良好であった。なお、高温条件の場合は、ACFと原子層堆積膜119aとの界面、或いは、TFT基板111と金属層114aとの界面で、剥離するおそれがある。
【0078】
最後に、導電粒子が混入されていないACFを使用した場合(実験12)と、導電粒子が混入されているACFを使用した場合(実験8)とを比較すると、剥離性および導通性に違いはなかった。このことから、導電性が確保されているのは、導電粒子がSiN層およびAl
2O
3膜にクラックを発生させて剥れやすくしているのではなく、ダメージ層の界面により、SiN層およびAl
2O
3膜が除去されているからであることが確認できた。
【0079】
[変形例]
以上、本発明の一態様に係る表示パネルの製造方法、表示装置の製造方法、表示パネルおよび表示装置を具体的に説明してきたが、上記実施の形態は、本発明の構成および作用・効果を分かり易く説明するために用いた例であって、本発明の内容は、上記の実施の形態に限定されない。例えば、以下のような変形例が考えられる。
【0080】
図11は、変形例1に係る表示パネルの製造方法を説明するための工程図である。変形例1に係る表示パネルの製造方法は、保護膜を形成しない点において、保護層を形成する上記実施の形態に係る表示パネルの製造方法と相違する。それ以外については基本的に上記実施形態に係る表示パネルの製造方法と同じである。したがって、相違点についてのみ詳細に説明し、その他の構成については説明を省略または簡略する。なお、上記実施の形態に係る表示パネルと全く同じ部材には、上記実施の形態に係る表示パネルと同じ符号を用いて説明する。
【0081】
変形例1に係る表示パネルの製造方法では、
図4(d)に示すように、化学蒸着法により化学蒸着層118aを形成した後は、原子層堆積膜119aを形成せずに、
図11(a)に示すように、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分に粘着テープ500を貼着する。これにより、粘着テープ貼着工程が完了する。
【0082】
次に、粘着テープ500を剥離することによって、
図11(b)に示すように、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分、および、導電層114dのダメージ層114eを引き剥がして除去し、金属酸化物層114bを露出させる。これにより、化学蒸着層118aの導電層114d上の部分を引き剥がして除去する除去工程が完了する。
【0083】
以上により、デバイス基板610が完成する。
【0084】
なお、CF基板を設置する場合には、
図4(d)に示したような化学蒸着層を形成する工程の後、
図11(a)に示した粘着テープを貼着する工程の前に、CF基板を設置する工程を設けるのがよい。
【0085】
このように、本発明に係る表示パネルの製造方法において、原子層堆積膜形成工程は不可欠ではない。
【0086】
図12は、変形例2に係る表示パネルの製造方法を説明するための工程図である。変形例2に係る表示パネルの製造方法は、金属層のみで構成される端子部を形成する点において、金属層と金属酸化物層とで構成される端子部を形成する上記実施の形態に係る表示パネルの製造方法と相違する。それ以外については基本的に上記実施形態に係る表示パネルの製造方法と同じである。したがって、相違点についてのみ詳細に説明し、その他の構成については説明を省略または簡略する。なお、上記実施形態に係る表示パネルと全く同じ部材には、上記実施形態に係る表示パネルと同じ符号を用いて説明する。
【0087】
変形例2に係る表示パネルの製造方法では、まず、
図12(a)に示すように、パッシベーション膜111dにおける端子部形成予定領域の部分を取り除くことによって、SD配線111cにおける金属層714aに相当する部分を露出させたTFT基板111を用意する。TFT基板111のSD配線111cにおける端子部714を形成する予定の領域が導電層714aである。
【0088】
次に、
図12(b)に示すように、例えば、樹脂をスピンコートし、フォトレジスト/フォトエッチングでパターニングすることによって、平坦化膜112(例えば厚さ4μm)を形成し、さらに、金属層からなる下部電極113等を形成する。下部電極113は、例えば、まず、真空蒸着またはスパッタリングにより金属薄膜を形成し、当該金属薄膜をフォトレジスト/フォトエッチングでパターニングすることにより形成する。
【0089】
次に、
図12(c)に示すように、バンク115、有機発光層116、電子輸送層116Xおよび上部電極117を順次形成する。
【0090】
以上により、TFT基板111上に表示部を形成する表示部形成工程と、TFT基板111上の端子部714が形成される領域に、金属からなる導電層714aを形成する導電層形成工程とが完了する。
【0091】
次に、
図12(d)に示すように、TFT基板111の上面側全体にプラズマ化学蒸着法によって無機化合物からなる化学蒸着層118aを形成する。その際、導電層714aの表面の露出した部分、すなわち導電層714aの上面および側面が変質し、導電層714aの表面にダメージ層714bが形成される。これにより、表示部を覆うと共に導電層714aの少なくとも上面に接し、且つ、導電層714aの上面が変質するように、化学蒸着層を形成する化学蒸着層形成工程が完了する。この時点において、導電層714aは、ダメージ層714bと、その内側の金属からなる端子部714とで構成される。
【0092】
次に、
図12(e)に示すように、TFT基板111の上面側全体に、原子層堆積法によって原子層堆積膜119aを形成する。
【0093】
次に、
図12(f)に示すように、原子層堆積膜119aのダメージ層714b上の部分(導電層714a上の部分でもある)に粘着テープ500を貼着する。これにより、粘着テープ貼着工程が完了する。
【0094】
次に、粘着テープ500を剥離することによって、
図12(g)に示すように、原子層堆積膜119aの導電層714a上の部分、化学蒸着層118aの導電層714a上の部分、および、導電層714aのダメージ層714bを引き剥がして除去し、端子部714を露出させる。これにより、化学蒸着層118aの導電層714a上の部分を引き剥がして除去する除去工程が完了する。
【0095】
除去工程においては、導電層714aの表面にダメージ層714bが存在しているため、粘着テープ500と共に化学蒸着層118aおよび原子層堆積膜119aがTFT基板111側から剥がれる。剥がれるのは、ダメージ層714bと化学蒸着層118aとの界面、或いは、ダメージ層714bと端子部714との界面、或いは、ダメージ層714b内においてであり、それらの部分が剥がれ易くなっているからである。それらの部分が剥がれ易くなっている理由として、例えば、導電層714aの表面がプラズマ化学蒸着法で使用するプラズマによってダメージを受けるからであると考えられる。
【0096】
以上により、デバイス基板710が完成する。
【0097】
なお、
図12に示した製造プロセスでは、CF基板を貼り合わせる工程を省略して説明しているが、CF基板を設置する場合には、
図12(e)に示した原子層堆積膜を形成する工程の後、
図12(f)に示した粘着テープを貼着する工程の前に、CF基板を設置する工程を設けるのがよい。
このように、本発明に係る表示パネルの製造方法では、導電層形成工程では、金属からなる導電層を形成しても良い。
【0098】
その他の変形例として、原子層堆積膜の上に、1層または複数層を形成しても良い。その場合でも、除去工程を行うことによって、導電層上の部分を引き剥がすことができる。また、化学蒸着層を引き剥がす方法としては、粘着テープを利用する方法に限定されず、例えば、レーザーリムーブ等の方法で引き剥がしても良い。