(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  交差点に流入する流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナのうちのいずれか1つを、受信アンテナとして選択する選択部として、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、
  前記流入路の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間を記憶部から読み出すステップと、
  読み出された前記受信時間に基づいて、前記アンテナを選択するタイミングを決定するステップと、を含み、
  前記受信時間は、前記流入路における車両感知器の設置状況に応じて時分割で割り当てられたものであることを特徴とするコンピュータプログラム。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
  従来の無線通信システムにおいて、交差点に流入するすべての流入路をカバーする受信エリアとなる無指向性の受信アンテナを採用すると、いわゆる「隠れ端末」の位置関係にある複数の車載通信機からの無線信号が互いに干渉し、路側通信機が車載通信機の無線信号を適切に受信できないことがある。
  そこで、交差点に流入する流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナを1つの路側通信機に設けることにより、隠れ端末による干渉を防止することが提案されている(例えば、特願2010−87917号の段落0005〜0006参照)。
【0005】
  一方、複数のアンテナを有する無線通信機による無線信号の処理方法としては、例えば次の方式が考えられる。
  1)  各々のアンテナが受信した無線信号をすべて復調し、それぞれの復調信号から受信データを取り出す方式(以下、「全受信方式」という。)
  2)  複数のアンテナのうちのいずれか1つを受信アンテナとして選択し、選択された受信アンテナが受信した無線信号だけを復調し、その復調信号から受信データを取り出す方式(以下、「選択受信方式」という。)
【0006】
  上記両方式のうち、全受信方式では、車載通信機の無線信号をすべて無駄なく受信処理できる利点があるが、無線信号の増幅や復調を行う受信回路がアンテナごとに必要となり、また、取り出された受信データのバッファ容量も大きくなるので、路側通信機の製作コストが高くなるという欠点がある。
  これに対して、選択受信方式では、増幅や復調を行う受信回路が1つで足りるので、路側通信機の製作コストの高騰化を抑えることができる。
【0007】
  しかし、選択受信方式では、受信アンテナとして選択されたアンテナのみで無線信号を受信するので、各アンテナに対する受信時間の割り当て方によっては、実際の流入路の実情に即しない非効率的な情報収集となる場合がある。
  例えば、ある交差点に流入する複数の流入路に、車両感知器がない第1流入路と車両感知器がある第2流入路が含まれている場合には、第1流入路にある車載通信機からの情報の方が、第2流入路にある車載通信機からの情報よりも有用である。
【0008】
  このように、各流入路での車両感知器の設置状況が異なる場合においても、仮に単純に、各流入路に対応する複数のアンテナの受信時間を均等に割り当てるとすると、有用な第1流入路にある車載通信機からの無線信号がそれほど多く得られない反面、余り有用でない第2流入路にある車載通信機からの無線信号が無駄に多く得られる可能性があり、交差点に向かう車両の車載通信機からの情報収集を効率的に行うことができない。
【0009】
  本発明は、かかる従来の問題点に鑑み、複数のアンテナを有する路側通信機に選択受信方式を採用する場合において、車載通信機からの情報収集を効率的に行えるようにすることを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0010】
  (1)  本発明の路側通信機は、車載通信機が送信した無線信号を受信する路側通信機であって、交差点に流入する流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナと、複数の前記アンテナのうちのいずれか1つを受信アンテナとして選択可能な選択部と、前記受信アンテナが受信した前記無線信号を復調して受信データを取り出す復調部と、前記流入路の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間を記憶する記憶部と、を備えており、前記選択部は、記憶された前記受信時間に基づいて、前記アンテナを選択するタイミングを決定することを特徴とする。
【0011】
  本発明の路側通信機によれば、選択部が、流入路の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間に基づいて、交差点に流入する流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナのいずれか1つを受信アンテナとして選択するタイミングを決定するので、各アンテナの受信時間を単純に均等に割り当てる場合に比べて、実情に即した適切なタイミングでアンテナを選択することができる。
  このため、流入路を走行する車両の車載通信機からの情報収集を、より効率的に行うことができる。
【0012】
  (2)  本発明の路側通信機において、記憶された前記受信時間としては、例えば、前記流入路における車両感知器の設置状況に応じて時分割で割り当てられたものを採用することが好ましい。
  その理由は、上述した車両感知器の有無のように、流入路における車両感知器の設置状況は、特定の交通情報(例えば、渋滞長や旅行時間など)の推定精度に影響を与え、当該流入路にある車載通信機から取得する情報の有用性(価値)を左右するからである。
【0013】
  (3)  従って、複数の前記流入路が、前記設置状況が次の(x)の第1設置状況である第1流入路と、前記設置状況が次の(y)の第2設置状況である第2流入路とを含む場合には、前記第1流入路に対応する前記受信時間を、前記第2流入路に対応する前記受信時間よりも長めに設定することが好ましい。
  (x)  交通情報の推定精度が第2設置状況よりも低い第1設置状況
  (y)  交通情報の推定精度が第1設置状況よりも高い第2設置状況
【0014】
  その理由は、交通情報の推定精度が低い第1設置状況の第1流入路の場合には、車載通信機からの情報によってその推定精度が高まることから、当該情報の有用性が高いからである。
  逆に、交通情報の推定精度が高い第2設置状況の第2流入路の場合には、車載通信機からの情報によってその推定精度がさほど高まらないことから、当該情報の有用性が低いからである。
【0015】
  (4)  本発明の路側通信機において、第1及び第2設置状況の具体例としては、例えば、前記第1設置状況が次の(a)の状況であり、前記第2設置状況が次の(b)の状況である場合が考えられる。
  (a)  車両感知器が未設置である状況
  (b)  車両感知器が既設置である状況
【0016】
  その理由は、車両感知器が未設置である第1流入路の場合には、車両感知器からの情報がないために交通情報を推定できないことから、第1流入路にある車載通信機からの情報の有用性が高いからである。
  逆に、車載通信機が既設置である第2流入路の場合には、車両感知器からの情報によって交通情報の推定が可能であることから、第2流入路にある車載通信機からの情報の有用性が低いからである。
【0017】
  (5)  また、本発明の路側通信機において、第1及び第2設置状況の別の具体例としては、例えば、前記第1設置状況が次の(c)の状況であり、前記第2設置状況が次の(d)の状況である場合もある。
  (c)  特定種別の車両感知器の設置間隔がより大である状況
  (d)  同種の特定種別の車両感知器の設置間隔がより小である状況
【0018】
  その理由は、特定種別の車両感知器(例えば、車両の存在を検出する超音波式車両感知器)の設置間隔がより大である第1流入路の場合には、渋滞長等の交通情報の推定精度が低いことから、第1流入路にある車載通信機からの情報の有用性が高いからである。
  逆に、上記と同種の特定種別の車両感知器の設置間隔がより小である第2流入路の場合には、渋滞長等の交通情報の推定精度が高いことから、第2流入路にある車載通信機からの情報の有用性が低いからである。
【0019】
  (6)  更に、本発明の路側通信機において、第1及び第2設置状況の別の具体例としては、例えば、前記第1設置状況が次の(e)の状況であり、前記第2設置状況が次の(f)の状況である場合であってもよい。
  (e)  得られる情報の種類がより少ない車両感知器が設置されている状況
  (f)  得られる情報の種類がより多い車両感知器が設置されている状況
【0020】
  その理由は、得られる情報の種類がより少ない車両感知器(例えば、車両の存在を検出する超音波式車両感知器)が設置されている第1流入路の場合には、その車両感知器の感知情報による交通情報の推定精度が低く、第1流入路にある車載通信機からの情報の有用性が高いからである。
  逆に、得られる情報の種類がより多い車両感知器(例えば、車両の存在だけでなく渋滞長を画像データから直接検出できる画像式車両感知器)が設置されている第2流入路の場合には、その車両感知器の感知情報による交通情報の推定精度が高く、第2流入路にある車載通信機からの情報の有用性が低いからである。
【0021】
  (7)  また、本発明の路側通信機において、第1及第2設置状況の別の具体例としては、例えば、前記第1設置状況が次の(g)の状況であり、前記第2設置状況が次の(h)の状況である場合も考えられる。
  (g)  路車間通信が不能な車両感知器が設置されている状況
  (h)  路車間通信が可能な車両感知器が設置されている状況
【0022】
  その理由は、路車間通信が不能な車両感知器(例えば、車両の存在のみを検出する超音波式車両感知器)が設置されている第1流入路の場合には、その車両感知器の感知情報による交通情報の推定精度が低く、第1流入路にある車載通信機からの情報の有用性が高いからである。
  逆に、路車間通信が可能な車両感知器(例えば、光学式車両感知器(光ビーコン))が設置されている第2流入路の場合には、光通信対応の車載機から得たプローブ情報などによって精度の高い交通情報の推定が行え、第2流入路にある車載通信機からの情報の有用性が低いからである。
【0023】
  (8)  本発明の路側通信機において、記憶された前記受信時間は、例えば、前記流入路における混雑状況に応じて時分割で割り当てられたものであってもよい。
  なお、上記混雑状況を表す指標としては、例えば、当該流入路における混雑度(交通量を交通容量で除した値)、渋滞長、平均速度又は旅行時間などが含まれる。
【0024】
  (9)  そして、複数の前記流入路が、混雑している或いは混雑が予想される第1流入路と、混雑していない或いは混雑が予想されない第2流入路とを含む場合には、前記第1流入路に対応する前記受信時間を、前記第2流入路に対応する前記受信時間よりも長めに設定すればよい。
  このようにすれば、実際に混雑中或いは混雑が予想される第1流入路にある車載通信機からの情報をより多く取得することができ、第1流入路における混雑度合いを正確に推定することができる。
【0025】
  (10)  ところで、流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナのうちのいずれか1つを受信アンテナとして選択すると、選択されない時間帯にアンテナに達した車載通信機の無線信号は復調されない。
  このため、複数のアンテナの指向性と対応する方向の各流入路にそれぞれ車載通信機が存在する場合には、路側通信機が自身の受信エリアに含まれる複数の車載通信機から取得できる、単位時間当たりの情報量は減少する。
【0026】
  一方、路側通信機が取得する単位時間当たりの情報量を多くするには、出来るだけ、すべてのアンテナを受信アンテナとして選択する「全選択モード」を実行すればよいが、各流入路に存在する車載通信機が、お互いの存在を知らずに同時に無線信号を送信すると、その無線信号が各アンテナに同時に到達して混信し、無線信号を復調できなくなる。
  そこで、本発明の路側通信機において、前記選択部は、前記交差点に流入する前記流入路の交通量に応じて、すべての前記アンテナを前記受信アンテナとして選択する全選択モードを実行可能であることが好ましい。
【0027】
  この場合、例えば、すべての流入路の交通量が所定値以下で閑散状態である場合に、全選択モードを実行すれば、各流入路に存在する車載通信機からの無線信号が対応するアンテナに同時に到達して混信する可能性が低い。
  このため、混信の可能性が低い状態で、各流入路に存在する車載通信機からの無線信号を受信でき、路側通信機が取得する単位時間当たりの情報量を増やすことができる。
【0028】
  (11)  本発明の無線通信システムは、CSMA方式による車車間通信を無線で行う車載通信機と、前記車載通信機が送信した前記無線信号を受信する上述の(1)〜(9)のいずれかに記載した本発明の路側通信機と、を備えていることを特徴とする。
  従って、本発明の無線通信システムは、上述の(1)〜(9)のいずれかに記載した本発明の路側通信機と同様の作用効果を奏する。
【0029】
  (12)  本発明の受信方法は、車載通信機が送信した無線信号を路側通信機が受信する方法であって、交差点に流入する流入路の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間に基づいて、前記流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナのうちのいずれか1つを、受信アンテナとして選択するタイミングを決定するステップと、前記受信アンテナが受信した前記無線信号を復調して受信データを取り出すステップと、を含むことを特徴とする。
【0030】
  本発明の受信方法によれば、交差点に流入する流入路の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間に基づいて、流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナのうちのいずれか1つを、受信アンテナとして選択するタイミングを決定するので、各アンテナの受信時間を単純に均等に割り当てる場合に比べて、実情に即した適切なタイミングでアンテナを選択することができる。
  このため、流入路を走行する車両の車載通信機からの情報収集を、効率的に行うことができる。
【0031】
  (13)  本発明のコンピュータプログラムは、交差点に流入する流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナのうちのいずれか1つを、受信アンテナとして選択する選択部として、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記流入路の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間を記憶部から読み出すステップと、読み出された前記受信時間に基づいて、前記アンテナを選択するタイミングを決定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0032】
  本発明のコンピュータプログラムによれば、流入路の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間を記憶部から読み出し、読み出された受信時間に基づいて、流入路の方向に対応する指向性を有する複数のアンテナのうちのいずれか1つを受信アンテナとして選択するタイミングを決定するので、各アンテナの受信時間を単純に均等に割り当てる場合に比べて、実情に即した適切なタイミングでアンテナを選択することができる。
  このため、流入路を走行する車両の車載通信機からの情報収集を、効率的に行うことができる。
 
【発明の効果】
【0033】
  以上の通り、本発明によれば、複数のアンテナを有する路側通信機に選択受信方式を採用する場合において、実情に即した適切なタイミングでアンテナを選択できるので、流入路を走行する車両の車載通信機からの情報収集を効率的に行うことができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0035】
  〔システムの全体構成〕
  
図1は、本発明の実施形態に係る高度道路交通システム(ITS)の全体構成を示す概略斜視図である。なお、本実施形態では、道路構造の一例として、南北方向と東西方向の複数の道路が互いに交差した碁盤目構造を想定している。
  
図1に示すように、本実施形態の高度道路交通システムは、交通信号機1、路側通信機2、車載通信機3(
図2及び
図3参照)、中央装置4、車載通信機3を搭載した車両5、及び、各種の車両感知器よりなる路側センサ6などを含む。
 
【0036】
  交通信号機1と路側通信機2は、複数の交差点Ji(図例では、i=1〜12)のそれぞれに設置されており、電話回線等の通信回線7を介してルータ8に接続されている。このルータ8は交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
  中央装置4は、自身が管轄するエリアに含まれる各交差点Jiの交通信号機1及び路側通信機2とLAN(Local Area Network)を構成している。従って、中央装置4は、各交通信号機1及び各路側通信機2との間で双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
 
【0037】
  図1及び
図2では、図示を簡略化するために、十字路交差点である各交差点Jiに信号灯器が1つだけ描写されているが、実際の各交差点Jiには、互いに交差する道路の上り下り用として少なくとも4つの信号灯器が設置されている。
 
【0038】
  路側センサ6は、各交差点Jiに流入する車両台数をカウントしたり、渋滞末尾を検出したりする目的で、管轄エリア内の適所に設置された各種の車両感知器よりなる。
  本実施形態では、車両感知器として例えば以下に述べる種別のものが採用されており、各種別の車両感知器の機能に応じて生成された感知情報S4が、通信回線7を通じて中央装置4に送られる。
 
【0039】
  a)  超音波式車両感知器
  超音波式車両感知器は、ヘッドと呼ばれる超音波送受器から超音波を地上に向けて発射し、超音波が反射して戻るまでの時間を計測することにより、車両5の有無を感知する車両感知器である。ヘッドは、通常、道路の真上約5mの高さで路面に垂直に取り付けられている。
 
【0040】
  b)  マイクロ波式車両感知器
  マイクロ波式車両感知器は、マイクロ波送受器から送出されたマイクロ波の反射波の強弱により、車両5の存在を感知する車両感知器である。また、マイクロ波式車両感知器は、ドップラー効果を利用した車両速度の計測が可能であるとともに、車両5の存在時間から車種を判別することもできる。
 
【0041】
  c)  光学式車両感知器(以下、「光ビーコン」ともいう。)
  光ビーコンは、道路の比較的狭い通信エリアで近赤外線光を投光又は受光するビーコンヘッドを備えており、車両5がその通信エリアを通過する間に光通信可能な車載機との間で双方向通信(路車間通信)を行う機能を有する車両感知器である。また、光ビーコンは、道路を走行する車両5の存在を感知する機能を併有していることが多い。
 
【0042】
  d)  画像式車両感知器
  画像式車両感知器は、テレビカメラで複数の車線を走行する車両を撮像し、画像処理することによって車両5の速度や車種の計測、車両5の存在などを感知する車両感知器である。
 
【0043】
  e)旅行時間計測用感知器
  この感知器は、道路の上部に配置したCCDカメラによって車両を撮影し、撮影された車両5の画像をリアルタイムに読み取って、同一車両の通過時刻の差から特定区間の旅行時間を計測するものである。
 
【0044】
  〔中央装置〕
  中央装置4は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなる制御部を有している。この制御部は、路側通信機2や路側センサ6からの各種の交通情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。
  具体的には、中央装置4の制御部は、自身のネットワークに属する交差点Jiの交通信号機1に対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を行うことができる。
 
【0045】
  また、中央装置4は、通信回線7を介してLAN側と接続された通信インタフェースである通信部を有している。この通信部は、信号灯器の灯色切り替えタイミングに関する信号制御指令S1や、渋滞情報等を含む交通情報S2を所定時間ごとに交通信号機1及び路側通信機2に送信している(
図1参照)。
  信号制御指令S1は、前記系統制御や広域制御を行う場合の信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、交通情報S2は、例えば5分ごとに送信される。
 
【0046】
  また、中央装置4の通信部は、各交差点Jiに対応する路側通信機2から、当該路側通信機2が車載通信機3から受信した車両5の位置や速度等を含む車両情報S3を受信し、各道路に設置された路側センサ6から前記感知情報S4を受信する。
  中央装置4の制御部は、管轄エリア内の路側通信機2や路側センサ6などから通信部が取得した車両情報S3及び感知情報S4に基づいて、前記系統制御や広域制御を実行することができる。
 
【0047】
  〔無線通信の方式等〕
  
図2は、上記高度道路交通システムの管轄エリアの一部を示す道路平面図である。
  
図2では、互いに交差する2つの道路の各々が上りと下りで片側1車線のものとして例示されているが、道路構造はこれに限られるものではない。
  
図2にも示すように、本実施形態の高度道路交通システムは、車載通信機3との間で無線通信が可能な複数の路側通信機2と、CSMA方式で無線通信を行う移動無線送受信機の一種である複数の車載通信機3とを有する、無線通信システムを含んでいる。
 
【0048】
  路側通信機2は、それぞれ路側の交差点Jiごとに設置されていて、
図1及び
図2に例示するように、例えば交通信号機1の支柱に取り付けられている。車載通信機3は、道路を走行する車両5に搭載されている。
  路側通信機2は、自身の受信エリアAr内にある車載通信機3からの無線信号を受信可能であり、その受信エリアArが他の路側通信機2のアンテナに到達している場合には、当該他の路側通信機2からの無線信号も受信可能である。
 
【0049】
  本実施形態の路側通信機2では、道路の延長方向に沿った指向性を有する複数のアンテナ20a,20b(
図3及び
図6参照)を採用しているため、受信エリアArが交差点J2から道路の延長方向に沿って延びた形状になっている。
  なお、
図2では、交差点J2に設置された路側通信機2の受信エリアArのみが描かれているが、その他の交差点Jiに設置された路側通信機2の受信エリアArも同様に、交差点Jiから道路の延長方向に沿って延びた形状になっている。
 
【0050】
  本実施形態の高度道路交通システムでは、路側通信機2同士(路路間通信)については無線通信が用いられ、また、路側通信機2と車載通信機3との間(「路」から「車」への路車間通信と「車」から「路」への車路間通信との双方を含む。)と車載通信機3同士(車車間通信)についても、無線通信が用いられている。
  なお、前記した通り、交通管制センターに設けられた中央装置4は、各路側通信機2と有線での双方向通信が可能となっているが、これらの間も無線通信であってもよい。
 
【0051】
  路側通信機2は、自身が無線送信するための専用のタイムスロット(
図4の第1スロットT1)をTDMA方式で割り当てており、このタイムスロット以外の時間帯(
図4の第2スロットT2)には無線送信を行わない。従って、路側専用のタイムスロット以外の時間帯は、車載通信機3のためのCSMA方式による送信時間として開放されている。
  また、路側通信機2は、自身の送信タイミングを制御するために、他の路側通信機2との時刻同期機能を有している。この路側通信機2の時刻同期は、例えば、自身の時計をGPS時刻に合わせるGPS同期や、自身の時計を他の路側通信機2からの送信信号に合わせるエア同期等によって行われる。
 
【0052】
  〔路側通信機〕
  
図3は、路側通信機2と車載通信機3の内部構成を示すブロック図である。
  路側通信機2は、無線通信のためのアンテナ20a,20bを有する無線通信部(送受信部)21と、中央装置4と双方向通信する有線通信部22と、それらの通信制御を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)等よりなる制御部23と、制御部23に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部24とを備えている。
 
【0053】
  記憶部24は、制御部23が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信機2,3の通信機IDなどを記憶している。
  無線通信部21は、交差点Jiの道路方向に沿った指向性を有する2つのアンテナ20a,20bを備えており、この2つのアンテナ20a,20bのうちのいずれか1つを受信アンテナとして選択する選択受信方式を採用している。なお、選択受信方式を採用する無線通信部21の具体的構成(
図6)については後述する。
 
【0054】
  制御部23は、無線通信部21や有線通信部22が送受信するデータを総括的に制御する通信制御機能を有する。
  具体的には、制御部23は、無線通信部21が車載通信機3から受信した車両情報S3を記憶部24に一時的に記憶させ、有線通信部22を通じて中央装置4に転送する。また、制御部23は、有線通信部22が中央装置4から受信した交通情報S2等を、記憶部24に一時的に記憶させ、無線通信部21からブロードキャスト送信する。
 
【0055】
  また、制御部23は、記憶部24に記憶されたタイムスロットの割当情報S5を、無線通信部21を介してブロードキャスト送信する。この割当情報S5は、路側通信機2の送信時間(
図4の第1スロットT1)を車載通信機3に通知するための情報である。
  路側通信機2から割当情報S5を取得した車両5の車載通信機3は、その割当情報S5を送信した路側通信機2が送信を行わない時間帯(
図4の第2スロットT2)に、キャリアセンス方式による無線送信を行う。
 
【0056】
  〔タイムスロットの割当情報〕
  
図4は、上記割当情報S5に含まれるタイムスロットの一例を示す概念図である。
  
図4に示すように、タイムスロットには第1スロットT1と第2スロットT2とが含まれており、これらのスロットT1,T2は所定長のサイクルC(例えば、100m秒)内で所定回数だけ繰り返すようになっている。
  第1スロットT1は、路側通信機2用のタイムスロットであり、この時間帯においては路側通信機2による無線送信が許容される。第1スロットT1にはスロット番号iが付されており、このスロット番号iは周期的にインクリメント又はデクリメントされる。
 
【0057】
  また、第2スロットT2は、車載通信機3用のタイムスロットである。この時間帯は車載通信機3による無線送信用として開放するため、路側通信機2は第2スロットT2では無線送信を行わない。
  
図4に示すタイムスロットにおいて、各スロット番号i=1〜3の第1スロットT1に記したドット●は、当該第1スロットT1に複数の路側通信機2の送信時間が割り当てられていることを示している。
 
【0058】
  すなわち、
図4に示す例では、スロット番号(1)の第1スロットT1には、交差点J1とJ5(
図1参照)にある2つの路側通信機2の送信時間が割り当てられ、スロット番号(2)の第1スロットT1には、交差点J2,J6及びJ8にある3つの路側通信機2の送信時間が割り当てられ、スロット番号(3)の第1スロットT1には、交差点J3にある1つの路側通信機2の送信時間が割り当てられている。
 
【0059】
  このように、各路側通信機2の送信時間は、第1スロットT1に対して1対1対応で割り当てられるのではなく、互いに電波干渉が生じない交差点Jiに設置された路側通信機2同士について、同じスロット番号iに重複して割り当て可能となっている。
  かかるスロット割当は、中央装置4が総括的に行うこともできるし、他装置から取得した設置位置やスロット情報を利用して各路側通信機2が自律的に行うこともできる。
  また、複数の路側通信機2,2…の中から1つの親機を予め選定しておき、この親機が、他の路側通信機2である子機同士で電波干渉が生じない送信タイミングとなるように、スロット割当を行うようにすることもできる。
 
【0060】
  〔車載通信機〕
  
図3に戻り、車載通信機3は、無線通信のためのアンテナ30を有する通信部(送受信部)31と、この通信部31に対する通信制御を行うプロセッサ等よりなる制御部32と、この制御部32に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部33とを備えている。
  記憶部33は、制御部32が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信機2,3の通信機ID等を記憶している。
 
【0061】
  車載通信機3の制御部32は、車車間通信のためのキャリアセンス方式による無線通信を通信部31に行わせるものであり、路側通信機2との間の時分割多重方式での通信制御機能は有していない。
  従って、車載通信機3の通信部31は、所定の搬送波周波数の受信レベルを常時感知しており、その値がある閾値以上である場合は無線送信を行わず、当該閾値未満になった場合にのみ無線送信を行うようになっている。
 
【0062】
  なお、車載通信機3の制御部32は、車両5(車載通信機3)の現時の位置、方向及び速度等を含む車両情報S3を、通信部31を介して外部にブロードキャストで無線送信させている。
  また、車載通信機3の制御部32は、他の車両5から直接受信した車両情報S3や、路側通信機2から受信した他の車両5の車両情報S3に含まれる、位置、速度及び方向に基づいて、右直衝突や出合い頭衝突等を回避するための安全運転支援制御を行うことができる。
 
【0063】
  図5は、車載通信機3の送信信号のフレームフォーマットの一例を示す図である。
  
図5に示すように、車載通信機3の送信信号には、プリアンブル、ヘッダ、データ、CRC(Cyclic Redundancy Check)が含まれている。
  このうち、データには、車両5の位置、方向(進行方向)及び速度が含まれるが、路側通信機2からの送信信号を受信した場合の受信レベルを含めることもできる。
  車両5の位置や方向は、通常は、GPS等の車両5側のセンサ類が自律的に測定した情報であるが、光ビーコン等のインフラ側から取得可能な場合もある。速度は、車両5の速度センサに基づいた情報である。
 
【0064】
  〔路側通信機の無線通信部〕
  
図6は、無線通信部21の構成例を示すブロック図である。
  
図6に示すように、路側通信機2の無線通信部21は、2つのアンテナ20a,20bと、いずれか一方のアンテナ20a,20bで受信された無線信号を受信処理して受信データを生成する受信部40と、制御部23からの受信データを無線信号に変換して送信する送信部41とを備えている。
 
【0065】
  また、無線通信部21は、アンテナ20a,20bと送受信部40,41との間に切替スイッチ42及びサーキュレータ43を備えている。
  このうち、切替スイッチ42はa接点とb接点とc接点を有する3ポートスイッチよりなり、a接点とb接点にそれぞれアンテナ20a,20bが接続されている。また、c接点には、後段のサーキュレータ43の一つのポートに接続されている。サーキュレータ43は3ポートを有しており、この各ポートには、切替スイッチ42のc接点、受信部40及び送信部41がそれぞれ接続されている。
 
【0066】
  図7は、路側通信機2のアンテナ20a,20bと受信エリアAr1,Ar2との関係を示す道路平面図である。
  
図7に示すように、路側通信機2の2つのアンテナ20a,20bは、交差点Jの近傍に設置されている。各アンテナ20a,20bは、所定方向に対する感度が大きい指向性アンテナよりなり、本実施形態では、交差点Jに流入する流入路L1〜L4の延長方向を指向するように設置されている。
 
【0067】
  すなわち、2つのアンテナ20a,20bのうち、第1アンテナ20aは、東西の流入路L1,L2の延長方向に強い感度を示す指向性を有しており、第2アンテナ20bは、南北の流入路L3,L4の延長方向に強い感度を示す指向性を有している。
  従って、第1アンテナ20aに対応する第1受信エリアAr1は、交差点Jを中心として東西方向に長いほぼ楕円形状になっており、第2アンテナ20bに対応する第2受信エリアAr2は、交差点Jを中心として南北方向に長いほぼ楕円形状になっている。
 
【0068】
  なお、各アンテナ20a,20bの送信エリア(送信電波の届くエリア)は、送信電力の強弱に応じて大きさが変化することから、必ずしもアンテナ20a,20bの受信エリアAr1,Ar2と合同にはならないが、受信エリアAr1,Ar2と相似のほぼ楕円形状となる。
 
【0069】
  図6に戻り、切替スイッチ42は、制御部23が生成する制御信号Sに従って接点a,bの切り替え動作を行う。すなわち、制御部23は、第1アンテナ20aを送受信アンテナとして選択する場合には、接点aへ切り替える制御信号Sを切替スイッチ42に出力し、第2アンテナ20bを送受信アンテナとして選択する場合には、接点bへ切り替える制御信号Sを切替スイッチ42に出力する。
  従って、制御部23は、2つのアンテナ20a,20bのうちのいずれか1つを送受信アンテナとして選択する選択部としての機能を有する。
 
【0070】
  受信部(復調部)40は、選択されたアンテナ20a,20bが受信した無線信号を増幅してからOFDM復調などの所定の復調処理を行い、その復調信号にA/D変換などの処理を行って無線信号から受信データを取り出し、受信データを制御部23に入力する。
  また、送信部(変調部)41は、制御部23から送出された送信データにOFDM変調などの所定の変調処理を行い、その変調信号をD/A変換及び増幅して無線信号を生成し、その無線信号を制御部23から指定する送信タイミングでアンテナ20a,20bに送出する。
 
【0071】
  〔アンテナの選択タイミング〕
  
図6に示すように、路側通信機2の記憶部24には、流入路L1〜L4の状況に応じて時分割で割り当てられた受信時間が記録されたタイムテーブルTが格納されている。
  このタイムテーブルTは、路側通信機2が有する第1及び第2アンテナ20a,20bをエントリに含んでおり、そのアンテナ20a,20bを使用する時間(受信時間)を予め定義した参照テーブルよりなる。
 
【0072】
  制御部23は、上記タイムテーブルTを記憶部24から読み出し、そのテーブルTにて定義された使用時間に従って、2つのアンテナ20a,20bのうちのいずれかを選択するタイミングを決定する。
  例えば、
図6の例では、第1アンテナ20aの使用時間が8秒で、第2アンテナ20bの使用時間が2秒と定義されている。そこで、制御部23は、10秒間の制御周期において、8秒間はスイッチ42の接点aを選択する制御信号Sを生成し、2秒間はスイッチ42の接点bを選択する制御信号Sを生成する。
 
【0073】
  〔アンテナの使用時間の設定方法〕
  ここで、
図7に示すように、ある交差点Jに流入する流入路L1〜L4のうち、東西方向の流入路L1,L2が比較的交通量の少ない「従道路」(以下、「第1流入路」ともいう。)であり、南北方向の流入路L3,L4が比較的交通量の多い「主道路」(以下、「第2流入路」ともいう。)であるとする。
 
【0074】
  また、第1流入路L1,L2は従道路であるため、車両感知器(路側センサ6)が設置されておらず、第2流入路L3,L4は主道路であるため、前記したいずれかの種別の車両感知器(路側センサ6)が設置されているものとする。
  この場合、第1流入路L1,L2については、感知情報S4がないので交通情報を推定できず、車載通信機3からの車両情報S3を取得する必要性が高いが、第2流入路L3,L4については、感知情報S4が得られるので交通情報の推定が可能であり、車載通信機3からの車両情報S3を取得する必要性が、第1流入路L1,L2よりは低い。
 
【0075】
  そこで、
図7に示す交差点Jの場合には、車両感知器が未設置である第1流入路L1,L2に対応する第1アンテナ20aの使用時間を、車両感知器が既設置である第2流入路L3,L4に対応する第2アンテナ20bの使用時間をよりも長めに設定する。
  このため、本実施形態では、前述の
図6に示すタイムテーブルTにおいて、第1アンテナ20aの使用時間が「8秒」に設定され、第2アンテナ20bの使用時間が「2秒」に設定されている。
 
【0076】
  なお、タイムテーブルTで定義するアンテナ20a,20bの使用時間は、路側通信機2を交差点Jに設置する際に事業者が予め手動で記憶部24に設定すればよい。
  もっとも、中央装置4が路側通信機2にアンテナ20a,20bの使用時間を通知し、通知された使用時間に基づいて、路側通信機2の制御部23がタイムテーブルTを作成することにしてもよい。また、中央装置4からは車両感知器の設置状況のみを通知し、通知された設置状況に基づいて、路側通信機2の制御部23がアンテナ20a,20bの使用時間を自身で特定して、タイムテーブルTを作成することにしてもよい。
 
【0077】
  〔路側通信機の効果〕
  以上の通り、本実施形態の路側通信機2によれば、記憶部24が、交差点Jに流入する流入路L1〜L4における車両感知器(路側センサ6)の設置状況に応じて時分割で割り当てられた、アンテナ20a,20bの使用時間を定義したタイムテーブルTを記憶しており、制御部23が、そのタイムテーブルTに記録された使用時間に基づいて、流入路L1〜L4の方向に対応する指向性を有するアンテナ20a,20bのいずれか1つを受信アンテナとして選択するタイミングを決定する。
 
【0078】
  従って、例えば
図6及び
図7に示すように、車載通信機3からの車両情報S3の有用性(価値)が高い第1流入路L1,L2に対応する、第1アンテナ20aの使用時間を長く設定し、車載通信機3からの車両情報S3の有用性が低い第2流入路L3,L4に対応する、第2アンテナ20bの使用時間を長く設定することができる。
  このため、アンテナ20a,20bの使用時間を単純に均等に割り当てる場合に比べて、実情に即した適切なタイミングでアンテナ20a,20bを選択することができ、流入路L1〜L4を走行する車両5の車載通信機3からの情報収集を、より効率的に行うことができる。
 
【0079】
  〔車両感知器の設置状況のバリエーション〕
  
図7の例では、第1流入路L1,L2に車両感知器が未設置であり、第2流入路L3,L4に車両感知器が既設置である場合を例示したが、アンテナ20a,20bの使用時間に格差を付ける第1及び第2流入路L1〜L4における車両感知器の設置状況としては、
図7の例以外にも種々のバリエーションがある。
 
【0080】
  例えば、実際の交差点Jにおいて、第1流入路L1,L2と第2流入路L3,L4のいずれにも車両5の存在を検出する「超音波式車両感知器」が設置されているが、流入路の規模に応じてその設置間隔が異なる場合がある。
  一例として、第1流入路L1,L2では、渋滞長や旅行時間などを推定するために、交差点Jの停止線から250m間隔で超音波式車両感知器が設置されているが、第2流入路L3,L4では、それらの交通情報をより正確に推定するため、150m、300m及び500mの位置に同感知器が設置されているとする。
 
【0081】
  この場合は、設置間隔がより大である第1流入路L1,L2に対応する第1アンテナ20aの受信時間を、設置間隔がより小である第2流入路L3,L4に対応する第2アンテナ20bの受信時間よりも長めに設定すればよい。
  これにより、交通情報の推定精度がより低い設置状況である、第1流入路L1,L2を走行中の車両5の車載通信機3からの車両情報S3をより多く取得でき、第1流入路L1,L2における交通情報の推定精度を高めることができる。
 
【0082】
  また、第1流入路L1,L2と第2流入路L3,L4のいずれにも車両感知器が設置されているが、設置されている車両感知器の種別が異なるために、各流入路L1〜L4から得られる情報の種類が異なる場合もある。
  一例として、第1流入路L1,L2では、「超音波式車両感知器」が設置されているが、第2流入路L3,L4では、「画像式車両感知器」が設置されているとする。
 
【0083】
  ここで、超音波式車両感知器は、取得した超音波のパルス信号から車両5の存在を検出するから、所定の推定式を用いて渋滞長や旅行時間を算出する必要がある。
  これに対して、画像式車両感知器は、テレビカメラで撮影した画像を処理することで、車両5の存在や速度を特定できるので、画像式車両感知器を設けた路線では、超音波式車両感知器を設けた路線に比べて、渋滞長や旅行時間などの交通情報をより正確に推定することができる。
 
【0084】
  従って、この場合は、得られる情報の種類が少ない超音波式車両感知器が設置されている第1流入路L1,L2に対応する第1アンテナ20aの受信時間を、得られる情報の種類が多い画像式車両感知器が設置されている第2流入路L3,L4に対応する第2アンテナ20bの受信時間よりも長めに設定すればよい。
  これにより、交通情報の推定精度がより低い設置状況である第1流入路L1,L2を走行中の車両5の車載通信機3からの車両情報S3をより多く取得でき、第1流入路L1,L2における交通情報の推定精度を高めることができる。
 
【0085】
  更に、第1流入路L1,L2と第2流入路L3,L4のいずれにも車両感知器が設置されているが、設置されている車両感知器の通信機能の有無により、各流入路L1〜L4から得られる情報量が異なる場合もある。
  一例として、第1流入路L1,L2では、路車間通信が不能な「超音波式車両感知器」が設置されているが、第2流入路L3,L4では、路車間通信が可能な「光学式車両感知器」(光ビーコン)が設置されているとする。
 
【0086】
  ここで、超音波式車両感知器は、上述の通り、取得した超音波のパルス信号から車両5の存在を検出するだけであるが、光学式車両感知器(光ビーコン)では、光通信対応の車載機からのアップリンク情報から、車両5の走行履歴を含むプローブ情報を取得することもできる。
  このため、光ビーコンが設けられた路線では、超音波式車両感知器が設けられた路線に比べて、渋滞長や旅行時間などの交通情報をより正確に推定することができる。
 
【0087】
  従って、この場合も、超音波式車両感知器が設置されている第1流入路L1,L2に対応する第1アンテナ20aの受信時間を、光ビーコンが設置されている第2流入路L3,L4に対応する第2アンテナ20bの受信時間よりも長めに設定すればよい。
  これにより、交通情報の推定精度がより低い設置状況である第1流入路L1,L2を走行中の車両5の車載通信機3からの車両情報S3をより多く取得でき、第1流入路L1,L2における交通情報の推定精度を高めることができる。
 
【0088】
  このように、交通情報の推定精度がより低い「第1設置状況」となっている第1流入路L1,L2と、交通情報の推定精度がより高い「第2設置状況」となっている第2流入路L3,L4とを含む交差点Jの場合には、第1流入路L1,L2に対応する第1アンテナ20aの受信時間を、第2流入路L3,L4に対応する第1アンテナ20bの受信時間よりも、長めに設定すればよい。
 
【0089】
  〔第1の変形例〕
  
図8は、無線通信部21の別の構成例を示すブロック図である。
  上述の実施形態に係る無線通信部(
図6)と
図8の変形例に係る無線通信部21との相違は、前者では、サーキュレータ43によってアンテナ20a,20bが送受信兼用となっているのに対して、後者では、送信部41に送信専用の無指向性のアンテナ20tを設けることにより、2つのアンテナ20a,20bを受信専用とした点にある。
 
【0090】
  図9は、路側通信機2のアンテナ20a,20b,20tと受信エリアAr1,Ar2及び送信エリアAtとの関係を示す道路平面図である。
  
図9に示すように、この変形例では、送信専用のアンテナ20tが無指向性アンテナよりなるので、アンテナ20tからの電波が届く範囲である送信エリアAtは、交差点Jを中心としたほぼ円形となっている。
 
【0091】
  〔第2の変形例〕
  上述の実施形態では、各流入路L1〜L4における「車両感知器の設置状況」に応じて、2つのアンテナ20a,20bの受信時間を設定しているが、その設置状況に代えて、流入路L1〜L4における「混雑状況」に応じて、アンテナ20a,20bの受信時間を時分割で割り当てるようにしてもよい。
 
【0092】
  かかる混雑状況を表す指標としては、例えば、流入路L1〜L4における混雑度(交通量を交通容量で除した値)、渋滞長、平均速度又は旅行時間などがある。
  これらの指標は、中央装置4によって所定時間ごとに算出されているので、中央装置4から混雑状況を表す指標を路側通信機2に通知し、通知された指標を用いて路側通信機2の制御部23がアンテナ20a,20bの受信時間を求めることにより、タイムテーブルTを更新すればよい。
 
【0093】
  例えば、混雑度を例に取ると、第1流入路L1,L2の混雑度が第2流入路L3,L4の混雑度よりも高い場合には、その混雑度の差に応じた所定の割合で、第1流入路L1,L2に対応する第1アンテナ20aの受信時間を、第2流入路L3,L4に対応する第2アンテナ20bの受信時間よりも長めに設定し、設定した受信時間を記憶部24のタイムテーブルTに記録して同テーブルTを更新する。
  その後、制御部23は、更新されたテーブルTの受信時間に従って、切替スイッチ42に対する切替タイミングを制御する。
 
【0094】
  第2の変形例によれば、路側通信機2の制御部23が、混雑している第1流入路L1,L2に対応する第1アンテナ20aの受信時間を、混雑していない第2流入路L3,L4に対応する第2アンテナ20bの受信時間よりも長く設定するので、実際に混雑中である第1流入路L1,L2にある車載通信機3からの車両情報S3をより多く取得することができ、第1流入路L1,L2における混雑度合いを正確に推定することができる。
  なお、第2の変形例において、流入路L1〜L4の混雑状況を表す指標は、必ずしも現時点の推定値に限らず、近い将来の予測値であってもよい。
 
【0095】
  〔第3の変形例〕
  上述の実施形態では、指向する方向が異なる2つのアンテナ20a,20bのうち、一方のアンテナ20aを東西方向の流入路L1,L2に対応させ、他方のアンテナ20bを南北方向の流入路L3,L4に対応させているが、交差点Jに流入する流入路L1〜L4と同数(十字路交差点の場合には4つ)のアンテナを設け、それらのアンテナを各流入路L1〜L4にそれぞれ一対一で対応させることにしてもよい。
 
【0096】
  もっとも、この場合には、3つ以上のアンテナの受信時間をそれぞれ個別に設定する必要がある。
  また、路側通信機2を設置する交差点Jは、必ずしも十字路交差点である必要はなく、流入路が3つであるT字路や三又路、或いは、五又路以上の交差点であってもよい。
 
【0097】
  〔第4の変形例〕
  
図10は、無線通信部21の別の構成例を示すスイッチ部分の回路図である。
  この変形例に係る無線通信部21では、切替スイッチ42が、いずれか一方のアンテナ20a,20bと高周波的に接続された接点a,bに加えて、双方のアンテナ20a,20bと高周波的に接続された接点dが設けられた4ポートスイッチよりなり、制御部23は、接点a,bだけでなく接点dを選択する制御信号Sを生成することができる。
 
【0098】
  このため、制御部23は、予め割り当てたれた受信時間(
図6及び
図8のタイムテーブルT参照)に基づいていずれか一方のアンテナ20a,20bを選択するモード(以下、「選択受信モード」という。)の他に、双方のアンテナ20a,20bを受信アンテナとして選択する「全選択モード」を実行することができる。
  なお、
図10に示す切替スイッチ42は、
図6及び
図8に示すいずれの無線通信部21にも採用可能である。
 
【0099】
  そして、本実施形態の制御部23は、交差点Jに流入する各々の流入路L1〜L4における交通量(例えば、単位時間当たりの車両台数)が所定値以下の閑散状態である時間帯に、上記全選択モードを実行し、それ以外の時間帯に、選択受信モードを実行する。
  その理由は、複数の車両5が各流入路L1〜L4をそれぞれ通行しており、各流入路L1〜L4に車載通信機3が存在する場合には、各車載通信機からの無線信号が対応するアンテナ20a,20bに同時に到達して混信する恐れがあるが、各流入路L1〜L4が閑散状態であれば、そのような混信が生じる可能性が低いからである。
 
【0100】
  このため、この変形例に係る路側通信機2によれば、混信の可能性が低い状態で、各流入路L1〜L4に存在する車載通信機3からの無線信号を概ね受信できる全選択モードを実行することができ、時分割で割り当てられた受信時間(
図6及び
図8のタイムテーブルT参照)に従ってアンテナ20a,20bを選択する選択受信モードのみを行う場合に比べて、閑散時において路側通信機2が取得する単位時間当たりの情報量を増やすことができる。
 
【0101】
  なお、全選択モードを実行するか否かの判定基準とする「交通量」は、有線通信部22を介して中央装置4から取得してもよいし、各流入路L1〜L4に設けられた路側センサ6(車両感知器)からの感知情報S4に基づいて、制御部23自身が算出してもよい。
  また、制御部23は、現時点の交通量に基づいて全受信モードの実行可否を判定することにしてもよいし、近い将来に予想される予測交通量(例えば、中央装置4から取得)に基づいて全受信モードの実行可否を判定することにしてもよい。
 
【0102】
  また、制御部23は、算出された現時交通量或いは予測交通量の多寡に基づいて全受信モードの実行可否を判定するだけでなく、例えば、夜中や早朝などの交通量が少ない時間帯は全選択モードを実行し、それ以外の時間帯は選択受信モードを実行するというように、流入路L1〜L4の交通量が明らかに少なくなる時間帯であるか否かにより、全選択モードの実行可否を判定することにしてもよい。
 
【0103】
  〔その他の変形例〕
  今回開示した実施形態は本発明の例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲及びその構成と均等な範囲内のすべての変更が含まれる。
 
【0104】
  例えば、上述の実施形態では、路路間通信が無線で行われることを前提としたが、路側通信機2と車載通信機3との無線通信帯域を十分に確保するため、路路間通信には無線通信の帯域が割り当てられない場合もあり得る。
  そこで、路側通信機2同士が有線通信部22による通信が可能である場合には、その間の割当情報S5や位置情報の交換を有線通信で行うようにしてもよい。
 
【0105】
  更に、上述の実施形態の高度道路交通システムおいて、車載通信機3は、普段は歩行者用の移動通信端末(例えば、携帯電話機、スマートフォン、携帯型ナビゲーション装置など)として利用されているが、一時的に車両5に搭載されて路側通信機2と通信するものも含まれる。
  すなわち、本明細書における車載通信機3の「車載」とは、車両5に固定的に搭載されるものだけでなく、車両5の運転時に一時的に搭載される場合も含まれる意味である。
 
【0106】
  また、上述の実施形態では、無線通信部21、有線通信部22、制御部23及び記憶部24が1つの筐体に収納された一体型の路側通信機2を想定しているが、本発明の機能を有する制御部23を、有線通信部22と通信可能に接続された別筐体の「情報中継装置」に設けることにしてもよい。
  すなわち、本発明にいう「路側通信機」は、各構成要素が必ずしも1つの筐体に収納されている必要はなく、通信部21,22と制御部23とが別筐体で構成される場合を含む広義のものである。