(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、誘電体バリア放電を利用した放電ランプにおいては、点灯装置における昇圧トランスの昇圧比が高くなるほど、ランプの発光効率が低下する、という特有の問題を有する。これは、昇圧トランスの昇圧比が高くなるほど、二次巻線に発生する電圧の立ち上がりが緩やかになり、急峻な電圧変化によって効率的にエキシマ分子を生成する性質に反してしまうからである。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、誘電体バリア放電を利用した放電ランプを点灯するために用いられる放電ランプ点灯装置において、昇圧トランスの昇圧比が大きいものであっても、放電ランプを高い発光効率で点灯することができる放電ランプ点灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放電ランプ点灯装置は、誘電体バリア放電を利用した放電ランプを点灯するために用いられる放電ランプ点灯装置において、
放電ランプの電極間に高周波高電圧を印加する昇圧トランスを備えてなり、
当該昇圧トランスは、それぞれ
4〜11.65の昇圧比に設定された、一次巻線およびこれに対応する二次巻線よりなる複数の変圧部を有してなり、
前記変圧部の各々の一次巻線が互いに並列に接続されていると共に、当該変圧部の各々の二次巻線が互いに直列に接続されており、
前記変圧部の各々の一次巻線に矩形波状の高周波電圧が入力され
、
前記昇圧トランスにおける各変圧部の昇圧比の合計が10〜30であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放電ランプ点灯装置によれば、昇圧トランスが複数の変圧部を有し、変圧部の各々の一次巻線が互いに並列に接続されていると共に、当該変圧部の各々の二次巻線が互いに直列に接続されて
おり、変圧部の各々の一次巻線に矩形波状の高周波電圧が入力されるため、各変圧部の昇圧比の合計が昇圧トランスの昇圧比となると共に、変圧部の各々の昇圧比を低く設定することにより、変圧部の各々において、立ち上がりが急峻な電圧変化が得られる。従って、変圧部の昇圧比の合計すなわち昇圧トランスの昇圧比が大きいものであっても、昇圧トランスにおいて立ち上がりが急峻な電圧変化が得られることにより、放電ランプにおいて効率的にエキシマ分子が形成され、その結果、放電ランプを高い発光効率で点灯することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の放電ランプ点灯装置の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の放電ランプ点灯装置の一例における構成を放電ランプと共に示す説明図である。この放電ランプ点灯装置(以下、単に「点灯装置」ともいう。)10は、誘電体バリア放電を利用した放電ランプ30を点灯させるためのものであり、直流電圧V
DCを高周波電圧に変換するフルブリッジ回路15と、フルブリッジ回路15から出力された高周波電圧を昇圧して放電ランプ30における一方の電極32および他方の電極33間に高周波高電圧を印加する昇圧トランス20とにより構成されている。
【0012】
フルブリッジ回路15は、ブリッジ状に接続された4つのスイッチング素子Q1〜Q4によって構成されている。これらのスイッチング素子Q1〜Q4の各々は、これらに対応する駆動回路G1〜G4が作動することによって駆動され、互いに対角に配置されたスイッチング素子Q1,Q4およびスイッチング素子Q2,Q3を交互にON状態にすることにより、スイッチング素子Q1,Q2の接続点とスイッチング素子Q3,Q4の接続点との間に矩形波状の高周波電圧が発生し、この高周波電圧はフルブリッジ回路15から出力される。
【0013】
昇圧トランス20においては、それぞれ所定の昇圧比に設定された、一次巻線22,26およびこれに対応する二次巻線23,27よりなる2つの変圧部21,25が設けられ、一方の変圧部21の一次巻線22および他方の変圧部25の一次巻線26が、フルブリッジ回路15に対して互いに並列に接続されていると共に、一方の変圧部21の二次巻線23および他方の変圧部25の二次巻線27が互いに直列に接続されており、一方の変圧部21の二次巻線23は、放電ランプ30の一方の電極32に電気的に接続され、他方の変圧部25の二次巻線27は、放電ランプ30の他方の電極33に電気的に接続されている。
【0014】
昇圧トランス20の昇圧比、すなわち一方の変圧部21の昇圧比と他方の変圧部25の昇圧比との合計は、10〜30であることが好ましく、より好ましくは14〜20である。この昇圧比の合計が過小である場合には、十分に昇圧できないため、放電ランプ30が均一に点灯しない。一方、この昇圧比の合計が過大である場合には、例えば、一次巻線22,26側から見た二次巻線23,27側の浮遊容量が大きくなり、出力波形の立ち上がりの急峻が阻害され、発光効率が低下する。
また、一方の変圧部21の昇圧比および他方の変圧部25の昇圧比は、同一のものであっても異なるものであってもよい。
また、一方の変圧部21および他方の変圧の各々の昇圧比は、4〜10であることが好ましい。
【0015】
図2は、本発明の点灯装置によって点灯される放電ランプの構成を示す説明用断面図であり、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。この放電ランプ30は、誘電体バリア放電を利用して発光するものであって、エキシマ用ガスが気密に封入された放電空間Sを形成する放電容器31を有する。この放電容器31は、互いに対向するそれぞれ矩形の上壁部31aおよび下壁部31bと、上壁部31aおよび下壁部31bの周縁を連接する4つの側壁部31c,31d,31e,31fよりなる扁平な箱型のものであって、全体が例えば波長200nm以下の紫外線の透過性に優れた材料により構成されている。
放電容器31における上壁部31aの外面(
図2において上面)には、網状の一方の電極32が設けられ、当該放電容器31における下壁部31bの外面(
図2において下面)には、網状の他方の電極33が設けられており、一方の電極32および他方の電極33は、
図1に示す点灯装置10に電気的に接続されている。
また、放電容器31における上壁部31aおよび4つの側壁部31c、31d、31e、31fの各々の内面全面並びに下壁部31bの周辺部分の内面には、それらを覆うよう光反射膜35が形成されている。
【0016】
放電容器31を構成する材料としては、真空紫外線を良好に透過するもの、具体的には、合成石英ガラスなどのシリカガラス、サファイアガラスなどを用いることができる。
一方の電極32および他方の電極33を構成する材料としては、金、銀、銅、ニッケル、クロムなどの耐腐食性を有する金属材料を用いることができる。また、一方の電極32および他方の電極33は、上記の金属材料を含む導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、或いは上記の金属材料を真空蒸着することにより、形成することができる。
一方の電極32および他方の電極33の各々の厚みは、例えば0.1μm〜数十μmである。
光反射膜35を構成する材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどよりなるものを用いることができ、例えばシリカ粒子とアルミナ粒子とからなるもの、特に、シリカ粒子の含有割合が30〜99質量%で、アルミナ粒子の含有割合が1〜70質量%であるものが好ましい。
【0017】
放電容器31内に封入されるエキシマ用ガスとしては、例えば真空紫外線を放射するエキシマを生成し得るもの、具体的には、キセノン、アルゴン、クリプトン等の希ガス、または、希ガスと、臭素、塩素、ヨウ素、フッ素等のハロゲンガスとを混合した混合ガスなどを用いることができる。エキシマ用ガスの具体的な例を、放射される紫外線の波長と共に示すと、キセノンガスでは172nm、アルゴンとヨウ素との混合ガスでは191nm、アルゴンとフッ素との混合ガスでは193nmである。
また、エキシマ用ガスの封入圧は、例えば10〜100kPaである。
また、放電容器31の内面には蛍光体層が形成されていてもよく、これにより、当該蛍光体層による蛍光を放射することができる。
【0018】
上記の点灯装置においては、直流電源(図示省略)から直流電圧V
DCが入力されると、フルブリッジ回路15によって高周波電圧に変換され、フルブリッジ回路15から出力された高周波電圧が昇圧トランス20によって昇圧されて高周波高電圧が発生する。
そして、放電ランプ30においては、一方の電極32と他方の電極33との間に、昇圧トランス20から出力された高周波高電圧が印加されることによって、放電容器31内の放電空間Sにおいて誘電体バリア放電が発生し、この誘電体バリア放電によってエキシマ用ガスに由来するエキシマ分子が形成され、これにより、例えば波長200nm以下の紫外線Lが発生し、この紫外線Lは、直接または光反射膜35に反射されて放電容器31の下壁部31bから下方に放射される。
【0019】
而して、上記の点灯装置10によれば、昇圧トランス20が2つの変圧部21,25を有し、変圧部21,25の各々の一次巻線22,26が互いに並列に接続されていると共に、当該変圧部21,25の各々の二次巻線23,27が互いに直列に接続されているため、各変圧部21,25の昇圧比の合計が昇圧トランス20の昇圧比となると共に、変圧部21,25の各々の昇圧比を低く設定することにより、変圧部21,25の各々において、立ち上がりが急峻な電圧変化が得られる。従って、変圧部21,25の昇圧比の合計すなわち昇圧トランス20の昇圧比が大きいものであっても、昇圧トランス20において立ち上がりが急峻な電圧変化が得られることにより、放電ランプ30の放電容器31内において効率的にエキシマ分子が形成され、その結果、放電ランプ30を高い発光効率で点灯することができる
【0020】
本発明の点灯装置は、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
例えば昇圧トランスは、それぞれの一次巻線が互いに並列に接続されていると共に、それぞれの二次巻線が互いに直列に接続されていれば、3つ以上の変圧部を有するものであってもよい。
また、フルブリッジ回路は必須のものではない。
また、フルブリッジ回路のほかに、ハーフブリッジ回路やフライバッグ回路などの種々の回路を有する構成であってもよい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の点灯装置の具体的な実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0022】
〈実施例1〉
図1に示す構成に従い、下記の仕様の昇圧トランスaを有する放電ランプ点灯装置Aを作製した。
[昇圧トランスaの仕様]
一方の変圧部および他方の変圧部の仕様:
一次巻線:それぞれ径が0.06mmの素線504本を束ねてなる3本の束線が並列に配置されて固定された帯状体よりなる芯線を巻き回してなるもの。
一次巻線の巻数:9巻き
二次巻線:それぞれ0.08mmの素線7本を束ねてなる7本の束線によって構成された撚り線よりなる芯線を巻き回してなるもの。
一次巻線の巻数:76巻き
昇圧比:8.44(一方の変圧部および他方の変圧部の昇圧比の合計が16.88)
コア:JFEフェライト株式会社製「EER−90」
【0023】
〈実施例2〉
昇圧トランスaを、一方の変圧部および他方の変圧部の各々における二次巻線の巻数が65巻きで昇圧比が7.2(一方の変圧部および他方の変圧部の昇圧比の合計が14.4)であることを除いて昇圧トランスaと同様の仕様の昇圧トランスbに変更したこと以外は、実施例1と同様の構成の放電ランプ点灯装置Bを作製した。
【0024】
〈実施例3〉
昇圧トランスaを、一方の変圧部および他方の変圧部の各々における二次巻線の巻数が72巻きで昇圧比が8.0(一方の変圧部および他方の変圧部の昇圧比の合計が16.0)であることを除いて昇圧トランスaと同様の仕様の昇圧トランスcに変更したこと以外は、実施例1と同様の構成の放電ランプ点灯装置Cを作製した。
【0025】
〈実施例4〉
昇圧トランスaを、一方の変圧部および他方の変圧部の各々における二次巻線の巻数が90巻きで昇圧比が10(一方の変圧部および他方の変圧部の昇圧比の合計が20)であることを除いて昇圧トランスaと同様の仕様の昇圧トランスdに変更したこと以外は、実施例1と同様の構成の放電ランプ点灯装置Dを作製した。
【0026】
〈実施例5〉
昇圧トランスaを、一方の変圧部および他方の変圧部の各々における二次巻線の巻数が105巻きで昇圧比が11.65(一方の変圧部および他方の変圧部の昇圧比の合計が23.3)であることを除いて昇圧トランスaと同様の仕様の昇圧トランスeに変更したこと以外は、実施例1と同様の構成の放電ランプ点灯装置Eを作製した。
【0027】
〈比較例1〉
昇圧トランスaを、単一の変圧部を有する下記の仕様の昇圧トランスfに変更したこと以外は、実施例1と同様の構成の放電ランプ点灯装置Fを作製した。
[昇圧トランスeの仕様]
一次巻線:それぞれ径が0.08mmの素線2310本を束ねた束線よりなる芯線を巻き回してなるもの。
一次巻線の巻数:9巻き
二次巻線:それぞれ0.08mmの素線7本を束ねてなる7本の束線によって構成された撚り線よりなる芯線を巻き回してなるもの。
一次巻線の巻数:130巻き
昇圧比:14.4
コア:JFEフェライト株式会社製「EER−120」
【0028】
〈試験用放電ランプの作製〉
図2に示す構成に従い、下記の仕様の放電ランプ(1)、放電ランプ(2)および放電ランプ(3)を作製した。
[放電ランプ(1)]
放電容器の寸法:全長1200mm,幅25mm、高さ10mm
有効発光長:1100mm
封入物:キセノンガス
[放電ランプ(2)]
放電容器の寸法:全長2200mm,幅25mm、高さ10mm
有効発光長:2100mm
封入物:キセノンガス
[放電ランプ(3)]
放電容器の寸法:全長3200mm,幅25mm、高さ10mm
有効発光長:3100mm
封入物:キセノンガス
【0029】
〈点灯装置の特性評価試験〉
[試験1] 実施例1に係る放電ランプ点灯装置Aおよび比較例1に係る放電ランプ点灯装置Fの各々に760Wの直流電力を入力し、それぞれから出力される高周波電力の電圧波形および電流波形を測定した。結果を
図3および
図4に示す。
図に示す結果から明らかなように、実施例1に係る点灯装置Aによれば、立ち上がりが急峻な電圧変化が得られることが確認された。
【0030】
[試験2]
実施例1に係る放電ランプ点灯装置Aおよび比較例1に係る放電ランプ点灯装置Fの各々を用い、当該放電ランプ点灯装置の各々に入力される電力(以下、「入力電力」ともいう。)を変化させて放電ランプ(1)を点灯させ、放電ランプ(1)に投入される電力(以下、「ランプ投入電力」ともいう。)および放電ランプ(1)の照度を測定した。ここで、放電ランプ(1)の照度は、窒素雰囲気下において放電容器の外表面から25mm離れた位置に照度計を配置して測定した。結果を
図5および
図6に示す。
図5は、
図1に示す放電ランプ点灯装置のフルブリッジ回路15に入力される電力(チッパー電力)と放電ランプに投入される電力(ランプ投入電力)との関係を示すグラフであり、
図6は、放電ランプに投入される電力(ランプ投入電力)と放電ランプの照度との関係を示すグラフである。
図5に示す結果から、実施例1に係る放電ランプ点灯装置Aによれば、入力電力が増加するに従ってランプ投入電力が増加するが、比較例1に係る放電ランプ点灯装置Fにおいては、入力電力が600W以上の場合に、入力電力が増加してもランプ投入電力がほとんど増加しないことが理解される。
また、
図6に示す結果から、実施例1に係る放電ランプ点灯装置Aによれば、ランプ投入電力が700W程度までであれば、ランプ投入電力が増加するに従って放電ランプの照度が高くなるが、比較例1に係る放電ランプ点灯装置Fにおいては、ランプ投入電力が600W程度で、放電ランプの照度が低下することが理解される。
【0031】
[試験3]
実施例2〜5に係る放電ランプ点灯装置B〜放電ランプ点灯装置Eを用い、ランプ投入電力が420Wおよび630Wとなる条件で、放電ランプ(1)〜放電ランプ(3)を点灯させ、各放電ランプの照度値と放電ランプ点灯装置における昇圧トランスの昇圧比との関係を調べた。ここで、放電ランプの照度値は、ウシオ電機株式会社製の照度計「UIT−250」(172nm)により、窒素雰囲気下において、放電容器の外表面から10mm離れた位置で計測した。
図7は、放電ランプ(2)を投入電力を420Wとなる条件で点灯させた場合、および放電ランプ(2)を投入電力が630Wとなる条件で点灯させた場合における、照度値と昇圧比との関係を示すグラフである。この
図7の結果から、昇圧比が14〜20であれば、高い発光効率が得られることが理解される。さらに、図示は省略するが、放電ランプ(1)および放電ランプ(3)についても同様の傾向が得られた。
このように、本発明の放電ランプ点灯装置によれば、昇圧比が10〜30において高い発光効率が得られ、特に昇圧比が14〜20においてより高い発光効率が得られることがわかる。