特許第5910058号(P5910058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5910058-転がり軸受装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910058
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-272021(P2011-272021)
(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-124679(P2013-124679A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 史洋
(72)【発明者】
【氏名】▲すぎ▼本 孝
(72)【発明者】
【氏名】山口 晋弘
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−137395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面の両端部にハウジング部を有する軸受ハウジングと、この軸受ハウジングの両ハウジング部に組み込まれ、かつ回転軸の軸上に所定の間隔を隔てて配設される第1、第2の両転がり軸受と、これら第1、第2の両転がり軸受の間に配設され、かつ前記回転軸が挿通される中心孔を有して円筒状をなすスペーサ部材とを備え、前記軸受ハウジングの下部の前記第1、第2の両転がり軸受の間に位置する部分に潤滑油の排出孔が形成された転がり軸受装置であって、
前記スペーサ部材の外周面は、その両端部が前記第1、第2の両転がり軸受の各内輪の端部外周面に近い外径寸法に形成されると共に、前記両端部から前記排出孔に向けて徐々に大径に形成されたテーパ状に形成されており、
前記軸受ハウジングの排出孔は、第1、第2の両転がり軸受の間の中間に配設され、
前記スペーサ部材の外周面は、その両端部から軸方向中央部に向けてテーパ角度が徐々に緩められたクラウニング形状をなしていることを特徴とする転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ターボチャージャーの回転軸を回転可能に支持するために、図3に示すように、内周面の両端部にハウジング部111、112を有する軸受ハウジング110と、この軸受ハウジング110の両ハウジング部111、112に組み込まれ、かつ回転軸103の軸上に所定の間隔を隔てて配設される第1、第2の両転がり軸受120、130と、これら第1、第2の両転がり軸受120、130の間に配設され、かつ回転軸103が挿通される中心孔を有して円筒状をなすスペーサ部材140とを備えた転がり軸受装置が知られている。
このような転がり軸受装置においては、軸受ハウジング110に設けられた油路113(ノズル孔114及び油溝115)から第1、第2の両転がり軸受120、130に向けて潤滑油が強制的に供給される。
そして、第1、第2の両転がり軸受120、130に供給された潤滑油は、軸受ハウジング110の下部に形成された排出孔116から排出される。
また、スペーサ部材140は、その外周面の両端部に形成された面取り部140aを除く部分の外径寸法は同等で平行筒(円筒面)をなしている。
なお、潤滑油を速やかに外部に排出させるために、例えば、特許文献1に開示されているように、内輪の一側にテーパ部材が配置され、このテーパ部材の外周面の一端が内輪の外径と同等で、かつテーパ部材の外周面の一端から他端に向かって外径が大きくなるテーパ状に形成された転がり軸受装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−121575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図3に示す従来のスペーサ部材140は、その外周面の両端部に形成された面取り部140aを除く部分の外径寸法は同等で平行筒をなしている。
このため、軸受ハウジング110の油路113(ノズル孔114及び油溝115)から第1、第2の両転がり軸受120、130に向けて強制的に供給された潤滑油の一部がスペーサ部材140の外周面に付着すると、その潤滑油は、スペーサ部材140の外周面に付着したまま滞留するか、あるいは、スペーサ部材140の回転による遠心力の作用を受けて軸受ハウジング110の内周壁面に向けて飛ばされる。
このようなことから、第1、第2の両転がり軸受120、130内に必要以上の潤滑油が供給されて滞留される場合があり、潤滑油の攪拌抵抗が増大してトルク損失をまねくことがある。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、スペーサ部材の外周面に付着した潤滑油を軸受ハウジングの下部の排出孔に向けて誘導することができる転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る転がり軸受装置は、内周面の両端部にハウジング部を有する軸受ハウジングと、この軸受ハウジングの両ハウジング部に組み込まれ、かつ回転軸の軸上に所定の間隔を隔てて配設される第1、第2の両転がり軸受と、これら第1、第2の両転がり軸受の間に配設され、かつ前記回転軸が挿通される中心孔を有して円筒状をなすスペーサ部材とを備え、前記軸受ハウジングの下部の前記第1、第2の両転がり軸受の間に位置する部分に潤滑油の排出孔が形成された転がり軸受装置であって、
前記スペーサ部材の外周面は、その両端部が前記第1、第2の両転がり軸受の各内輪の端部外周面に近い外径寸法に形成されると共に、前記両端部から前記排出孔に向けて徐々に大径に形成されたテーパ状に形成されており、前記軸受ハウジングの排出孔は、第1、第2の両転がり軸受の間の中間に配設され、前記スペーサ部材の外周面は、その両端部から軸方向中央部に向けてテーパ角度が徐々に緩められたクラウニング形状をなしていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、スペーサ部材の外周面の両端部あるいはその近傍に付着した潤滑油は、スペーサ部材の回転による遠心力の作用を受けると、スペーサ部材の外周面の端部から最大径となる部分、すなわち排出孔の上方に対応する部分に向けて誘導されて流れる。
これによって、スペーサ部材の外周面の両端部あるいはその近傍に付着した潤滑油を排出孔から迅速に排出することが可能となる。
このため、第1、第2の両転がり軸受内に必要以上の潤滑油が滞留されることを防止することができ、潤滑油の攪拌抵抗の増大によるトルク損失を抑制することができる。
【0009】
更に、前記構成によると、スペーサ部材の外周面がクラウニング形状をなすことによって、スペーサ部材の外周面の両端部あるいはその近傍に付着した潤滑油は、スペーサ部材の外周面の両端部から軸方向中央部に向けて円滑に誘導されて流れる。そして、スペーサ部材の外周面の軸方向中央部に達した潤滑油は、排出孔に向けて流れて排出される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の実施例1に係る転がり軸受装置がターボチャージャーに組み付けられた状態を示す縦断面図である。
図2図1に記載の転がり軸受装置を拡大して示す縦断面図である。
図3】従来の転がり軸受装置を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0012】
この発明の実施例1を図1図2にしたがって説明する。
図1図2に示すように、ターボチャージャの回転軸3を回転可能に支持する転がり軸受装置は、軸受ハウジング10と、第1、第2の両転がり軸受20、30と、スペーサ部材40とを備える。
【0013】
軸受ハウジング10は筒状に形成され、ターボチャージャーの本体ケース1に形成された軸受ハウジング組付部2に挿入されて装着される。
図2に示すように、軸受ハウジング10の内周面の両端部には、第1、第2の両転がり軸受20、30がそれぞれ嵌込まれるハウジング部11、12が形成されている。
また、軸受ハウジング10の外周面の両端部寄り部分には、縦断面V溝状の環状溝17、18がそれぞれ形成されている。
【0014】
軸受ハウジング10には、第1、第2の両転がり軸受20、30に対し潤滑油を強制的に供給する油路13がそれぞれ形成されている。
この実施例1において、図2に示すように、第1の転がり軸受20に対する油路13は、軸受ハウジング10の内部側から第1の転がり軸受20に潤滑油を供給するために、軸受ハウジング10の外周面の環状溝17から軸受ハウジング10の内周面にわたって貫設され、かつ軸受ハウジング10の内周面側が小径に絞られたノズル孔14によって構成されている。
また、第2の転がり軸受30に対する油路13は、軸受ハウジング10の外部側から第2の転がり軸受30に潤滑油を供給するために、軸受ハウジング10の他端面の径方向に沿って形成された油溝15によって形成されている。
また、軸受ハウジング10の下部の両ハウジング部11、12の間に位置する部分(この実施例1では中央部)に潤滑油の排出孔16が形成されている。
【0015】
第1の転がり軸受20は、内輪21と、外輪22と、これら内・外輪21、22の間の環状空間に保持器24によって保持された状態で転動可能に配設される複数の転動体(図では玉)23とを備える。
また、第2の転がり軸受30は、第1の転がり軸受20と同一形状大きさに形成された内輪31と、外輪32と、複数の転動体33と保持器34とを備える。
そして、第1、第2の両転がり軸受20、30は、各内輪31の間にスペーサ部材40が配設された状態で、各外輪22、32が軸受ハウジング10のハウジング部11、12に嵌挿(圧入)されて固定される。
【0016】
スペーサ部材40は、回転軸3が挿通可能な中心孔を有する円筒状に形成されている。このスペーサ部材40の外周面41は、その両端部が第1、第2の両転がり軸受20、30のの各内輪21、31の端部外周面に近い外径寸法に形成されると共に、両端部から軸受ハウジング10の排出孔16に向けて徐々に大径に形成されたテーパ状に形成されている。
この実施例1において、軸受ハウジング10の排出孔16は、第1、第2の両転がり軸受20、30の間の中間に配設される。
そして、スペーサ部材40の外周面41は、その両端部から軸方向中央部に向けてテーパ角度が徐々に緩められたクラウニング形状をなしている。
【0017】
なお、軸受ハウジング10のハウジング部11、12に第1、第2の両転がり軸受20、30がスペーサ部材40を介してそれぞれ嵌込まれ、その後、軸受ハウジング10が、ターボチャージャーの本体ケース1の軸受ハウジング組付部2に組み込まれる。
その後、回転軸3が、第1の転がり軸受20の内輪21と、スペーサ部材40と、第2の転がり軸受30の内輪31との順に嵌挿されて組み付けられる。これによって、回転軸3の軸上に所定の間隔を隔てて第1、第2の両転がり軸受20、30が配設される。
また、周知のように、回転軸31の一端部にはタービンホイール4が装着され、同回転軸31の他端部にはコンプレッサインペラ7が装着される。
【0018】
この実施例1に係る転がり軸受装置は上述したように構成される。
したがって、ターボチャージャーの作動時には、軸受ハウジング10の油路13としてのノズル孔14と、油溝15とにそれぞれ供給される潤滑油が第1、第2の両転がり軸受20、30に向けて強制的に供給される。
前記潤滑油のうち、一部の潤滑油がスペーサ部材40の外周面41に付着することがある。
スペーサ部材40の外周面41の両端部あるいはその近傍に付着した潤滑油がスペーサ部材40の回転による遠心力の作用を受けると、スペーサ部材40の外周面41の端部から最大径となる部分、すなわち、軸受ハウジング10の排出孔16の上方に対応する部分に向けて誘導されて流れる。
これによって、スペーサ部材40の外周面41の両端部あるいはその近傍に付着した潤滑油を排出孔16から迅速に排出することが可能となる。
このため、第1、第2の両転がり軸受20、30内に必要以上の潤滑油が滞留されることを防止することができ、潤滑油の攪拌抵抗の増大によるトルク損失を抑制することができる。
【0019】
この実施例1において、スペーサ部材40の外周面41がクラウニング形状をなすことによって、図2の矢印で示すように、スペーサ部材40の外周面41の両端部あるいはその近傍に付着した潤滑油は、スペーサ部材40の外周面41の両端部から軸方向中央部に向けて円滑に誘導されて流れる。そして、スペーサ部材40の外周面41の軸方向中央部に達した潤滑油は、軸受ハウジング10の排出孔16に向けて流れて排出される。
【0020】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。
例えば、前記実施例1においては、ターボチャージャーの本体ケース1と、軸受ハウジング10とがそれぞれ個別に製作されて一体状に組み付けられる場合を例示したが、ターボチャージャーの本体ケース1と軸受ハウジング10とが一体をなして一部品で構成される場合においてもこの発明を実施することができる。
また、前記実施例1において、第1の転がり軸受20に対する油路13が軸受ハウジング10の内部側から第1の転がり軸受20に潤滑油を供給するノズル孔14によって構成され、第2の転がり軸受30に対する油路13が軸受ハウジング10の他端面の径方向に沿って形成された油溝15によって形成される場合を例示したが、第2の転がり軸受30に対する油路13を軸受ハウジング10の内部側から第2の転がり軸受30に潤滑油を供給するノズル孔によって構成されてもよい。
また、第1の転がり軸受20に対する油路13が軸受ハウジング10の一端面の径方向に沿って形成される油溝によって構成されてもよい。
また、ターボチャージャー以外の転がり軸受装置としても使用することが可能である。
【符号の説明】
【0021】
3 回転軸
10 軸受ハウジング
11、12 ハウジング部
13 油路
14 ノズル孔(油路)
15 油溝(油路)
20 第1の転がり軸受
30 第2の転がり軸受
40 スペーサ部材
図1
図2
図3