特許第5910087号(P5910087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5910087マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法、及び、分離装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910087
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法、及び、分離装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/02 20060101AFI20160414BHJP
   G01J 1/42 20060101ALI20160414BHJP
   G01J 1/00 20060101ALN20160414BHJP
【FI】
   G01M11/02 N
   G01J1/42 F
   !G01J1/00 D
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-258(P2012-258)
(22)【出願日】2012年1月4日
(65)【公開番号】特開2012-189580(P2012-189580A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2014年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2011-40526(P2011-40526)
(32)【優先日】2011年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバ技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100108257
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 伊知良
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】島川 修
【審査官】 平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−215458(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/215458(WO,A1)
【文献】 特開2007−086212(JP,A)
【文献】 特開平11−173948(JP,A)
【文献】 特開2002−131550(JP,A)
【文献】 特開平09−184919(JP,A)
【文献】 電子情報通信学会技術研究報告,(社)電子情報通信学会,2010年 8月19日,Vol.110 No.176,p.69〜74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 − 11/02
G01J 1/00 − 1/06
G01J 1/42
G02B 6/00
G02B 6/036− 6/08
G02B 6/24 − 6/26
G02B 6/36 − 6/48
H04B 3/46 − 3/48
H04B 10/00 − 10/079
H04B 17/00 − 17/40
H04J 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法であって、
前記マルチコア光ファイバのコアから出力される光を導波する受光導波路であって、コア周囲をクラッドよりも屈折率が低い層で囲まれたディプレスト型あるいはトレンチ型の屈折率構造を持つ受光導波路を、前記マルチコア光ファイバから出力される光が到達する位置に配置し、
前記ディプレスト型あるいは前記トレンチ型を構成する層は、前記クラッドよりも屈折率が低い固体のみによって形成され、あるいは、固体内に空孔を有することにより平均的な屈折率が前記クラッドより低い層として形成され、
前記マルチコア光ファイバの第1の端面において第1のコアに光を入射し、
前記マルチコア光ファイバの前記第1の端面に対向する第2の端面において前記第1のコアと異なる第2のコアから出射される光に前記受光導波路内を導波させ、そして、
前記受光導波路を導波した光を受光する、マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法。
【請求項2】
前記受光導波路は、その表面が被覆によって覆われた、ガラス材料からなる受光ファイバを含み、
前記マルチコア光ファイバの前記第2のコアと、前記受光ファイバのコアとが調芯された後、前記マルチコア光ファイバと前記受光ファイバとは、接着剤を用いて接着されることなく保持され、
前記マルチコア光ファイバの前記第2のコアに対面する端面を含む前記受光ファイバの端部は、前記被覆が除去されたガラス部分が露出しているか、あるいは、前記ガラス部分が前記被覆によって覆われており、
前記マルチコア光ファイバの前記第2のコアから出力された光は、前記受光ファイバの端部にフェルールが実装されていない状態で前記受光ファイバの前記コアへ入射する、
ことを特徴とする、請求項1記載の受光方法。
【請求項3】
前記受光導波路は、その表面が被覆によって覆われた、ガラス材料からなる受光ファイバを含み、
前記マルチコア光ファイバの前記第2のコアと前記受光ファイバのコアとが調芯された後、前記マルチコア光ファイバと前記受光ファイバとは、接着剤を用いて接着され、
前記マルチコア光ファイバの前記第2のコアに対面する端部を含む前記受光ファイバの端部には、前記被覆が除去されたガラス部分が露出した状態で、透明なフェルールが接着剤で実装されており、
前記フェルールを実装するための前記接着剤の屈折率は、前記受光ファイバのクラッド部の屈折率よりも高く、
前記マルチコア光ファイバの前記第2のコアから出力された光は、前記受光ファイバの端部に前記透明なフェルールが実装された状態で前記受光ファイバの前記コアへ入射する、
ことを特徴とする、請求項1記載の受光方法。
【請求項4】
マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法であって、
前記マルチコア光ファイバのコアから出力される光を導波する受光導波路であって、複数のコアを有し、各コア周囲をクラッドよりも屈折率が低い層で囲まれたディプレスト型あるいはトレンチ型の屈折率構造を持つ受光導波路を、前記マルチコア光ファイバから出力された光の到達する位置に配置し、
前記ディプレスト型あるいは前記トレンチ型を構成する層は、前記クラッドよりも屈折率が低い固体のみによって形成され、あるいは、固体内に空孔を有することにより平均的な屈折率が前記クラッドより低い層として形成され、
前記マルチコア光ファイバの第1の端面において1又はそれ以上のコアそれぞれに光を入射し、
前記マルチコア光ファイバの前記第1の端面に対向する第2の端面においてコアそれぞれから出力される光に前記受光導波路内を導波させることで、前記第2の端面におけるコアそれぞれから出力される光を分離し、そして、
前記受光導波路の前記複数のコアを導波した光を個別に受光する、マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法。
【請求項5】
前記受光導波路は、前記ディプレスト型あるいは前記トレンチ型を構成する層より外側に、前記クラッドよりも屈折率の高いトラップ層を有する屈折率構造を具備する、
ことを特徴とする、請求項1または4記載の受光方法。
【請求項6】
マルチコア光ファイバから出力される光の分離装置であって、
前記マルチコア光ファイバのコアから出力される光を導波する受光導波路であって、複数のコアを有し、各コア周囲をクラッドよりも屈折率が低い層で囲まれたディプレスト型あるいはトレンチ型の屈折率構造を持つ受光導波路を備え、
前記受光導波路は、前記マルチコア光ファイバから出力された光が到達する位置に配置され、
前記ディプレスト型あるいは前記トレンチ型を構成する層は、前記クラッドよりも屈折率が低い固体のみによって形成され、あるいは、固体内に空孔を有することにより平均的な屈折率が前記クラッドより低い層として形成され、
前記マルチコア光ファイバの第1の端面において1又はそれ以上のコアそれぞれに光が入射され、そして、
前記マルチコア光ファイバの前記第1の端面に対向する第2の端面においてコアそれぞれから出力される光を前記受光導波路内を導波させることで、前記第2の端面におけるにおけるコアそれぞれから出力される光が個別に分離される、マルチコア光ファイバから出力される光の分離装置。
【請求項7】
前記受光導波路は、一端が束ねられた複数本の単芯コア光ファイバにより構成され、前記一端側は、前記複数本の単芯コア光ファイバが前記マルチコア光ファイバのコア配置に合わせて配列された状態でフェルール化あるいはコネクタ化されるか、または、溝によって保持される一方、他端は、前記複数本の単芯コア光ファイバが個別に分離可能な状態になっている、
ことを特徴とする、請求項6の分離装置。
【請求項8】
前記受光導波路と前記マルチコア光ファイバは、前記受光導波路の複数のコアが前記マルチコア光ファイバのコア配置に対応するよう配置された状態で、互いに突き合わされることにより接続されている、
ことを特徴とする、請求項6の分離装置。
【請求項9】
前記受光導波路は、ガラス材料で構成され、
前記受光導波路と被覆を除去することにより露出した前記マルチコア光ファイバのガラス部分は、前記受光導波路の複数のコアは、前記マルチコア光ファイバのコア配置に対応するよう配置された状態で、互いに融着されることにより接続されている、
ことを特徴とする、請求項6の分離装置。
【請求項10】
前記受光導波路と前記マルチコア光ファイバの露出したガラス部分との融着部分を含む領域は、前記マルチコア光ファイバのクラッドよりも高い屈折率を有する樹脂により覆われている、
ことを特徴とする、請求項9の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法、及び、マルチコア光ファイバから出力される光を分離するための分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数のコアを有するマルチコア光ファイバが盛んに研究されている。マルチコア光ファイバは、例えば、長手方向に垂直な断面において複数のコアが二次元状に分散配置された構成を有し、この複数のコアの間でのクロストークが発生することが知られている。このマルチコア光ファイバのコア間クロストークの測定方法と、測定時のマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法が非特許文献1〜3等に開示されている。具体的には、クロストークの測定は結合元コアから結合先コアへの光パワーの移行率の測定として行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Proc. ECOC’10, We.8.F.6 (2010).
【非特許文献2】Proc. OFC’09 OTuc3 (2009).
【非特許文献3】Proc. OFC’10 OWK7 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、伝搬によるクロストークが極めて低いマルチコア光ファイバのクロストークを測ろうとすると、ノイズ光や、受光ファイバとの結合時のクロストークの方が大きく、正確な測定ができない場合がある。具体的には、マルチコア光ファイバの出射端で、結合先コアと出射側の受光ファイバのコアとを調芯すると、結合先コアからの出力光より遙かに大きな結合元コアからの出力光が、受光ファイバのクラッドに入射する。ここで、ファイバ端部の状態や、ファイバ構造によっては、受光ファイバのクラッドに入射した光が受光ファイバのコアに結合してしまい、測定時のノイズになってしまう。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、コア間クロストークが小さい場合であっても精度よく測定することを可能にするマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法、及び、分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法は、マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法であって、マルチコア光ファイバの後段に設けられてマルチコア光ファイバのコアから出射された光を導波する受光導波路として、コア周囲をクラッドよりも屈折率が低い層で囲まれたディプレスト型あるいはトレンチ型の屈折率構造を持つ受光導波路を用いて、マルチコア光ファイバの第1の端面から第1のコアに対して測定光を入射し、第1の端面とは異なる第2の端面において第1のコアとは異なる第2のコアから出射される光を受光導波路で導波することを特徴とする。
【0007】
ここで、ディプレスト層、および、トレンチ層は、全てが固体で構成されている必要はなく、空孔により、平均的な屈折率がクラッドより低くなっている構造でも良い。
【0008】
上記のマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法によれば、ディプレスト型あるいはトレンチ型のように、コア周囲にクラッドよりも屈折率が低い層が設けられた受光導波路を用いることで、この屈折率の低い層がクラッド側からコアへのノイズ等の伝播を抑制することができる、この結果、コア間クロストークが小さい場合であってもクロストーク由来とは異なる成分が低減されてコア間クロストークを精度よく測定することが可能となる。
【0009】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成としては、具体的に、受光導波路が、光ファイバからなる受光ファイバであり、マルチコア光ファイバのコアと、受光ファイバのコアとを調芯した後、接着剤を用いて接着せず、マルチコア光ファイバのコアと対向する受光ファイバの端部は、被覆が除去されたガラス部の端面、あるいは、被覆をかぶったファイバの端面であって、受光ファイバの端部にフェルールが実装されていない状態で受光を行う態様が挙げられる。
【0010】
ここで、上記作用を効果的に奏する他の構成としては、具体的に、受光導波路が光ファイバからなる受光ファイバであり、マルチコア光ファイバのコアと、受光ファイバのコアとを調芯した後、接着剤を用いて接着し、マルチコア光ファイバのコアと対向する受光ファイバの端部において、被覆が除去されたガラス部に対して、透明なフェルールが接着剤で実装された状態で測定を行い、フェルール接着剤の屈折率は、受光ファイバのクラッド部の屈折率よりも高い態様が挙げられる。
【0011】
また、本発明に係るマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法として、マルチコア光ファイバから出力される光の受光方法であって、マルチコア光ファイバの後段に設けられてマルチコア光ファイバのコアから出射された光を導波する受光導波路として、複数のコアを有し、各コア周囲をクラッドよりも屈折率が低い層で囲まれたディプレスト型あるいはトレンチ型の屈折率構造を持つ受光導波路を用いて、ディプレスト層あるいはトレンチ層は、クラッドよりも屈折率が低い固体のみによって形成され、あるいは、固体内に空孔を有することにより平均的な屈折率がクラッドより低い層として形成され、マルチコア光ファイバの第1の端面から1つ乃至複数のコアに対して、それぞれ測定光、あるいは信号光を入射し、第1の端面とは異なる第2の端面において各コアから出射される光を受光導波路で導波することで分離して個別に出力する態様が挙げられる。
【0012】
上記のマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法において、受光導波路は、ディプレスト層あるいはトレンチ層より外側に、クラッドよりも屈折率の高いトラップ層を有する屈折率構造を具備する態様が好ましい。
【0013】
また、本発明に係るマルチコア光ファイバから出力される光の分離装置は、マルチコア光ファイバから出力される光の分離装置であって、マルチコア光ファイバの後段に設けられてマルチコア光ファイバのコアから出射された光を導波する受光導波路として、複数のコアを有し、各コア周囲をクラッドよりも屈折率が低い層で囲まれたディプレスト型あるいはトレンチ型の屈折率構造を持つ受光導波路を用いて、ディプレスト層あるいはトレンチ層は、クラッドよりも屈折率が低い固体のみによって形成され、あるいは、固体内に空孔を有することにより平均的な屈折率がクラッドより低い層として形成され、マルチコア光ファイバの第1の端面から1つ乃至複数のコアに対して、それぞれ測定光、あるいは信号光を入射し、第1の端面とは異なる第2の端面において各コアから出射される光を受光導波路で導波することで分離して個別に出力することを特徴とする。
【0014】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成としては、具体的に、受光導波路は、複数本の1コアファイバをマルチコアファイバのコア配置に合わせて配列して形成されるファイバ束の一端側をフェルール化、或いは、コネクタ化したものであり、ファイバ束のもう一方の端は、複数本の1コアファイバが個別に分離できる状態になっている態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コア間クロストークが小さい場合であっても精度よく測定することが可能なマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マルチコア光ファイバのコア間クロストークを測定し、また、測定時のマルチコア光ファイバから出力される光の受光する際の装置構成の一例を示す図である。
図2】屈折率分布の例を示す図である。
図3】マッチドクラッド型のシングルモード光ファイバ同士を結合した際の結合パワープロファイルである。
図4】トレンチ型のシングルモード光ファイバ同士を結合した際の結合パワープロファイルである。
図5】軸ズレ量の絶対値が30〜50μmの範囲に於ける、規格化受光パワー平均値を示す図である。
図6】トラップ層を有するトレンチ型構造とディプレスト型構造の屈折率分布を説明する図である。
図7】受光導波路の構成の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、マルチコア光ファイバのコア間クロストークを測定し、また、測定時のマルチコア光ファイバから出力される光の受光する際の装置構成の一例を示す図である。マルチコア光ファイバのコア間クロストークを測定するとき、測定対象のマルチコア光ファイバの特定のコアのみに測定光を入射させ、そのコアや別のコアなどのある特定のコアからの出射光を測定する必要がある。よって、図1に示すように、コア間クロストーク測定装置1においては、光源10とパワーメータ20との間に、被測定光ファイバであるマルチコア光ファイバ30を設け、その前段と後段にシングルモード光ファイバ40,50を設け、マルチコア光ファイバ30と後段のシングルモード光ファイバ50との間を、コア同士を接続する光学部品60で接続する等の構成が用いられる。また、シングルモード光ファイバ40,50に代えて、光導波路等が用いられることもある。
【0019】
ここで、被測定光ファイバであるマルチコア光ファイバに光を出射させるための、マルチコア光ファイバ30より後段に設けられるシングルコアの光ファイバや光導波路を、本実施形態では受光導波路と呼ぶ。
【0020】
受光導波路をマルチコア光ファイバの後段に設けて、マルチコア光ファイバから出射された測定光を導波させて、伝搬中に生じるクロストークが極めて低いファイバのクロストークを測定することがある。このような条件下においては、理論値から予測される伝搬によるクロストークよりも大きなクロストークが測定されることが確認された。そしてこの値について、従来の突き合わせ結合の結合効率の式(岡本勝就、光導波路の基礎、コロナ社)である数式(1)から予測されるマルチコア光ファイバと受光導波路の結合部におけるコア間クロストークを考慮に入れても説明できないことを発明者は発見した。
【数1】
【0021】
なお、数式(1)は、Eは電界のベクトル、Hは磁界のベクトル、pが下付文字として付いているものは突き合わせ結合の出射側の成分で、qが下付き文字として付いているものは入射側の成分であり、Uは光の伝搬方向の単位ベクトルである。
【0022】
上記式(1)をスカラー表示の電界で簡単に書き直すと、数式(2)となり、光強度の結合係数としては数式(3)と表すことができる。
【数2】

【数3】
【0023】
通常、シングルモードファイバでは、基底モードの電界分布は、コアの中心から離れるにつれて単調減少である。
【0024】
ここで、伝搬中のコア間クロストークが非常に小さく無視できるマルチコア光ファイバと受光導波路の結合部におけるクロストークについて調べることを目的とし、1コアのシングルモード光ファイバ(SMF)同士を結合させた場合の結合部における、コアの軸ズレ量と結合パワーとの関係(結合パワープロファイル)を実際のファイバで調べた。結合パワーについては、軸ズレ量無しのときが0dBになる様に規格化してある。
【0025】
図2に、シングルモード光ファイバの屈折率分布の例を示す。図2(A)は、クラッド層Aとクラッド層Aよりも屈折率の高いコア層Bのみを有するマッチドクラッド型、図2(B)は、クラッド層Aの内部に屈折率の低いトレンチ層Cを有するトレンチ型、図2(C)は、クラッド層Aとコア層Bとの間にディプレスト層Dを有するディプレスト型である。そして、図3に、マッチドクラッド型のシングルモード光ファイバ同士の結合損失プロファイルを、図4に、トレンチ型のシングルモード光ファイバ同士の結合損失プロファイルを示す。
【0026】
ここで、図3,4における、「角型ガラス」、「金属付き円柱ガラス」、「ジルコニア」はファイバ端部に実装されているフェルールの材料を示すものであり、「ベアファイバ」はファイバ端部の被覆が除去され、ガラス部がむき出しになっている状態を示すものである。
【0027】
図3,4の双方において、軸ズレ量の絶対値がおよそ25〜30μm以下の範囲で見られる、綺麗な単峰型の部分が上述の数式(1)〜(3)で説明可能な部分である。一方、軸ズレ量の絶対値が、25〜30μmよりも大きい範囲で見られる波打った部分が数式(1)〜(3)で説明できない部分である。単峰型の部分が図3より図4の方が鋭い形状になっているのは、後者の方がコアの伝搬モードの広がりが小さいためである。
【0028】
ここで、図3図4の軸ズレ量の絶対値が30〜50μmの範囲(数式(1)〜(3)で説明できない範囲)の結合パワーの平均値を図5に示す。
【0029】
図5の結果によれば、ファイバに関しては、マッチドクラッド型シングルモード光ファイバ、トレンチ型シングルモード光ファイバの順で結合パワーの平均値が高く、フェルールに関しては、ジルコニアフェルール、ガラスフェルール(形状や金属部の有無問わず)、ベアファイバの順で結合パワーの平均値が高いことが分かる。このうち、特に、マッチドクラッド型シングルモード光ファイバ同士と突き合わせ結合させた場合に比べて、トレンチ型シングルモード光ファイバ同士を突き合わせ結合させた場合の、結合パワーの平均値の低減が著しいことが確認される。
【0030】
上記の結果が得られた理由は、定性的に以下のように説明できる。
【0031】
(A)まず、数式(1)〜(3)は、ファイバの端面の突き合わせ部分のみで起こる結合を表しているが、実際には、軸ズレが大きくなると、突き合わせ結合での出射側ファイバのコアへの結合パワーが小さくなると共に、クラッドに殆どのパワーが結合する様になる。クラッドの伝搬モードは不安定であって伝搬損失が大きいが、クラッドモードからコアモードへの伝搬しながらの結合があり、突き合わせ結合でのコアへの結合が大きい際には無視できるが、突き合わせ結合でのコアへの結合が小さくなると無視できなくなる。
【0032】
(B)また、トレンチ型ファイバは、コアの周囲に屈折率の低いトレンチ層が存在する為、クラッドモードからコアモードへの結合をトレンチ層が障壁となって小さく押さえている。
【0033】
(C)クラッド外に抜けるはずの光が、フェルール及びフェルールとファイバを接着する接着剤により、散乱又は反射されるため、クラッド内に閉じ込められ、クラッドモードからコアモードへ結合する光のパワーを大きくする。
【0034】
以上の分析に基づいて、マルチコア光ファイバのコア間クロストークを測定するための測定系に用いられる受光導波路として望ましい屈折率分布形状は、下記の特徴を有していることであることが分かった。
【0035】
(1)トレンチ型やディプレスト型など、コアとクラッドの間にクラッドより屈折率の低い部分があること。
【0036】
(2)トレンチ層やディプレスト層が、十分にクラッドモードからコアモードへの結合を阻害するだけの、厚みとクラッドに対する屈折率差を有すること。
【0037】
(3)上記の前提で、コア中心からトレンチ層とクラッド層の界面までの半径(トレンチ外径)、あるいは、ディプレスト層とクラッド層の界面までの半径(ディプレスト層)は、なるべく小さいこと。この理由は、マルチコア光ファイバのコア間のクロストークを測定する場合、結合先コアからの出射光を受光導波路で受光する際に、マルチコア光ファイバと受光導波路の突き合わせ面において、結合元コアからの出射光のパワーの大部分を、受光導波路のクラッド外径やディプレスト外径の外側に結合させるためである。これは、受光導波路のコアへの結合を阻害すべき成分が、阻害する障壁の内側に結合しないことを目的としている。
【0038】
また、受光導波路が光ファイバ(受光ファイバ)である場合には、マルチコア光ファイバとの突き合わせ端部が以下の特徴を有していることが好ましい。
【0039】
(4)マルチコア光ファイバと受光ファイバの接着する必要がない場合(融着を行う場合や調芯機上での測定など)は、被覆が除去されてファイバのガラス部分がむき出しの状態が望ましい。ただし、被覆の屈折率がクラッドより高い場合で、且つ、被覆を残したままでも受光ファイバ端面を綺麗にカットできるのであれば、ガラス部を被覆が覆っていても良い。
【0040】
(5)マルチコア光ファイバと受光ファイバを接着する必要がある場合は、受光ファイバとフェルールとの接着面はある程度の面積が必要であるため、受光ファイバはフェルールに接着された状態であることが好ましい。また、フェルールに散乱された光が受光ファイバに戻ってこない様に、フェルールは測定に用いる波長帯の光を散乱せずに透過する材質であることが好ましい。さらに、クラッドモードのパワーがフェルールに逃げやすいように、フェルール、及び、フェルールとファイバを接着する接着剤は、受光ファイバのクラッドより高い屈折率を有することが好ましい。
【0041】
(6)フェルール、及び、フェルールとファイバを接着する接着剤の屈折率が、受光ファイバのクラッドより低い場合は、トレンチ界面やディプレスト界面の外側のクラッド内に、クラッドより屈折率の高い層(トラップ層)を設けて、クラッドモードをトラップ層に結合させても良い。このとき、トラップ層の外側に更にクラッドがあっても、トラップ層の外側界面がガラスと空気の界面でもよい。トラップ層を設けた受光ファイバの屈折率分布の例を図6に示す、図6(A)は、トラップ層Eを有するトレンチ型の屈折率分布であり、図6(B)は、トラップ層Eを有するディプレスト型の屈折率分布である。
【0042】
以上のように、本実施形態にかかるマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法によれば、ディプレスト型あるいはトレンチ型のように、コア周囲にクラッドよりも屈折率が低い層が設けられた受光導波路を用いることで、この屈折率の低い層がクラッド側からコアへのノイズ等の伝播を抑制することができる。この結果、コア間クロストークが小さい場合であってもクロストーク由来とは異なる成分が低減されてコア間クロストークを精度よく測定することが可能となる。
【0043】
以上、主にクロストークの測定に関連した説明を行ってきたが、前記受光導波路は複数のコアを有しても良く、本実施形態にかかるマルチコア光ファイバから出力される光の受光方法は、マルチコアファイバの複数コアから信号光を、同時且つ個別に取り出す際に用いても、コア間のクロストークを抑制し、ノイズの少ない信号光を取り出すことができる。これにより、クロストーク測定以外のクロストークの影響が懸念される測定方法(例えば、伝送損失、カットオフ波長などの測定)や、伝送システム中のマルチコアファイバに対する受光器での信号光の受光に対しても適用可能となる。
【0044】
上記の複数のコアを有する受光導波路の具体的構成を図7に示す。図7に示す受光導波路70は、マルチコア光ファイバ30のコア配置に合う様に、本発明の特徴を満たす1コア光ファイバ71を配列してファイバ束にし、その後、ファイバ束となった複数本の1コア光ファイバ71の片端をフェルール化あるいはコネクタ化し(図7では、フェルール72により片端を固定した例を示す)、ファイバ束のもう一方の端では1コアファイバが1本1本分離した状態にした、ファンアウトデバイスである。このような受光導波路70をマルチコア光ファイバ30のコアから出射された光を導波する受光導波路として用いることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1…コア間クロストーク測定装置、10…光源、20…パワーメータ、30…マルチコア光ファイバ、40,50…シングルモード光ファイバ、60…光学部品、70…受光導波路。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7