(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アノード溶液のpHは、pH1からpH6であり、前記カソード槽で生成されたカソード溶液のpHは、pH8からpH14であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の排ガス処理装置。
海水が収容されるとともに陽極が設けられるアノード槽と、海水が収容されるとともに陰極が設けられるカソード槽とがイオン交換膜で仕切られている電解槽と、前記陽極および前記陰極に電圧を印加することで電気分解を行う電圧印加部と、を備えた排ガス処理装置を用いて、NOx、NOxおよびSOx、ならびに、NOxおよびCO2の群から選択される1または複数のガスが含まれる排ガスを処理する排ガス処理方法であって、
前記排ガスを海水で洗浄する工程と、
洗浄した前記排ガスと、電気分解が行われることによって前記アノード槽で生成されたCl2ガスとを接触させて反応後ガスを生成する工程と、
電気分解が行われることによって前記アノード槽で生成されたアノード溶液で前記反応後ガスを洗浄する工程と、
電気分解が行われることによって前記カソード槽で生成された沈殿を含むカソード沈殿溶液に、洗浄された前記反応後ガスを接触させる工程と、
前記カソード沈殿溶液に前記洗浄された反応後ガスを接触させる工程で生成された溶液である溶解溶液で、前記反応後ガスを洗浄する工程と、
を含むことを特徴とする排ガス処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
船舶や、車両等のエンジンにおいて、化石燃料を燃焼させると、排ガスが生じる。このような化石燃料を燃焼させた結果生じる排ガスには、NOxが含まれている。NOxは、大気汚染物質であるため、エンジンから排出される排ガスに含まれるNOx濃度が所定の規制値以上である場合には、NOxを除去する必要がある。以下、排ガスから効率よくNOxを除去することができる排ガス処理装置100について説明する。
【0020】
(排ガス処理装置100)
図1は、本実施形態にかかる排ガス処理装置100の具体的な構成を説明するための説明図である。
図1に示すように、排ガス処理装置100は、電解槽110と、電圧印加部120と、アノード分離部130と、カソード分離部140と、第1排ガス処理部150と、第2排ガス処理部160と、溶解部170と、返送部180と、を含んで構成される。
図1中、ガス(気体)の流れを破線の矢印で示し、液体の流れを実線の矢印で示す。
【0021】
電解槽110は、アノード槽112と、カソード槽114とを含んで構成され、アノード槽112とカソード槽114とはイオン交換膜116で仕切られている。
【0022】
アノード槽112には、不図示の海水源からポンプ118a、バルブ118b、海水導入管118cを通じて、海水が導入される。また、アノード槽112には、海水が収容されるとともに陽極112aが設けられる。陽極112aは、白金(Pt)で被膜されたチタン(Ti)等の一般的に電極として利用可能な導電性材料で構成される。
【0023】
カソード槽114には、不図示の海水源からポンプ118d、バルブ118e、海水導入管118fを通じて、海水が導入される。また、カソード槽114には、海水が収容されるとともに陰極114aが設けられる。陰極114aは、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)等の金属のうち1または複数を用いた材料や、真鍮や高力黄銅等の合金で構成される。
【0024】
電圧印加部120は、水素ガス燃料電池や、水素ディーゼル発電機等の水素(H
2)を動力源として電力を生成する装置で構成され、アノード槽112に設けられた陽極112a、および、カソード槽114に設けられた陰極114aに、電圧を印加することで海水の電気分解を行う。
【0025】
ここで、電圧印加部120に供給されるH
2は、カソード槽114で生成されたH
2を含む。このように、電圧印加部120を、H
2を動力源として電力を生成する装置で構成することにより、カソード槽114で生成されたH
2を有効利用することができる。
【0026】
また、電圧印加部120が陽極112aおよび陰極114aに印加する電圧は、3.5Vから20Vであり、好ましくは3.5Vから15V、より好ましくは3.5Vから10Vである。電圧印加部120が陽極112aおよび陰極114aに印加する電圧を、上記のように設定することで、後述するアノード溶液AS2のpHを所望する値に容易に調整することができる。
【0027】
電圧印加部120が陽極112aおよび陰極114aに電圧を印加して電気分解を行うと、アノード槽112では以下の反応式(1)、(2)、(3)に示す反応が起こる。
2Cl
−→Cl
2+2e
−
…反応式(1)
2H
2O→O
2+4H
++4e
−
…反応式(2)
【化1】
…反応式(3)
【化2】
…反応式(4)
【0028】
一方、カソード槽114では以下の反応式(5)〜(9)に示す反応が起こる。
2H
2O+2e
−→H
2+2OH
−
…反応式(5)
Mg
2++2OH
−→Mg(OH)
2
…反応式(6)
Ca
2++2OH
−→Ca(OH)
2
…反応式(7)
Mg
2++CO
2+H
2O→MgCO
3+2H
+
…反応式(8)
Ca
2++CO
2+H
2O→CaCO
3+2H
+
…反応式(9)
【0029】
そうすると、アノード槽112では、塩素(Cl
2)、酸素(O
2)、および次亜塩素酸(HClO)、次亜塩素酸イオン(ClO
−)が生成され(反応式(1)、(2)、(3)、(4)参照)、カソード槽114ではH
2、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、および炭酸カルシウム(CaCO
3)が生成される(反応式(5)〜(9)参照)こととなる。
【0030】
このように、電気分解の進行に伴って、アノード槽112で生成されるアノード溶液のpHは酸性(反応式(2)、(3)、(4)参照)に傾き、カソード槽114で生成されるカソード溶液のpHはアルカリ性(反応式(5)参照)に傾く。
【0031】
そして、アノード槽112で生成された、Cl
2、O
2、およびHClO、ClO
−を含んだアノード溶液AS1は、バルブ210a、ポンプ210b、AS1流通管210cを通じて、アノード槽112からアノード分離部130に導入される。
【0032】
一方、カソード槽114で生成された、H
2を含むカソード溶液CS1は、バルブ210d、ポンプ210e、CS1流通管210fを通じてカソード槽114からカソード分離部140に導入される。また、カソード槽114で生成された、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、MgCO
3、およびCaCO
3は、固体(またはゲル)として沈殿しており、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、MgCO
3、およびCaCO
3を含むスラリー状のカソード溶液(以下、単にカソード沈殿溶液PSと称する)は、バルブ210g、ポンプ210h、PS流通管210iを通じて、後述する溶解部170を構成する溶解槽172に導入される。
【0033】
アノード分離部130は、気液分離によって、アノード溶液AS1を、Cl
2ガスおよびO
2ガスと、アノード溶液AS2とに分離する。アノード分離部130において分離されたCl
2ガス、およびO
2ガスは、ガス滞留空間130aに滞留した後、不図示の空気源から、ポンプ212a、バルブ212b、空気導入管212cを通じて導入される空気によって押し出され、ガス管214a、バルブ214bを通じて、後述する第2排ガス処理部160のガス供給口162aに導かれる。また、アノード分離部130において分離されたアノード溶液AS2は、バルブ216a、ポンプ180c、AS2流通管216bを通じて、後述する第2排ガス処理部160の噴霧部164に導入される。
【0034】
カソード分離部140は、気液分離によって、カソード溶液CS1を、H
2ガスと、カソード溶液CS2とに分離する。カソード分離部140において分離されたH
2は、ガス滞留空間140aに滞留した後、不図示の空気源から、ポンプ218a、バルブ218b、空気導入管218cを通じて導入される空気によって押し出され、ガス管218d、バルブ218eを通じて電圧印加部120に導入される。また、カソード分離部140において分離されたカソード溶液CS2は、バルブ218fを介して外部に排出される。
【0035】
第1排ガス処理部150は、例えば、スプレー塔であり、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、およびCO
2の群から選択される1または複数のガスが含まれる排ガスが導入されるとともに、当該排ガスを海水で洗浄する。
【0036】
第1排ガス処理部150をスプレー塔で構成することにより、気泡塔や充填塔と比較して、空塔速度(塔内部に充填物がないと仮定したときのガスの流速)を大きくすることができ、NOx、SOx、およびCO
2のいずれかまたは複数のガスの同一の除去率を達成するための水平方向の内径を小さくすることが可能となる。したがって、第1排ガス処理部150の占有体積を小さくすることが可能となり、船舶等の占有体積に制限がある場所であっても排ガス処理装置100を搭載することができる。
【0037】
具体的に説明すると、第1排ガス処理部150は、本体152と、排ガス導入部154と、噴霧部156を含んで構成される。排ガス導入部154は、バルブ154aと、排ガス導入管154bとを含んで構成され、NOx、SOx、CO
2が含まれる排ガスX1を本体152内に導入する。
【0038】
噴霧部156は、ポンプ158a、バルブ158b、海水導入管158cを通じて、不図示の海水源と連通しており、排ガス導入部154が導入した排ガスX1に、海水を噴霧する。
【0039】
このように、第1排ガス処理部150において、排ガスX1に海水を噴霧して洗浄することで、排ガスX1中に含まれるSOxおよびCO
2が海水に吸収(溶解)される。こうして、第1排ガス処理部150は、排ガスX1中からSOx、CO
2、オイルミスト、およびダストを除去する。
【0040】
そして、排ガスX1中からSOx、CO
2、オイルミスト、およびダストが除去された排ガス(以下、単に排ガスX2とする)は、ガス管220a、バルブ220bを通じて、後述する第2排ガス処理部160の排ガス導入口162bに導かれる。また、SOxおよびCO
2を吸収した海水は、バルブ220cを介して外部に排出される。
【0041】
第2排ガス処理部160は、例えば、スプレー塔であり、排ガスX2と、アノード分離部130から供給されたCl
2ガスとを接触させて反応後ガスを生成する。そして、第2排ガス処理部160は、反応後ガスを、アノード分離部130から供給されたアノード溶液AS2で洗浄する。
【0042】
第2排ガス処理部160をスプレー塔で構成することにより、気泡塔や充填塔と比較して、空塔速度を大きくすることができ、NOxと同一の除去率を達成するための水平方向の内径を小さくすることが可能となる。したがって、第2排ガス処理部160の占有体積を小さくすることが可能となり、船舶等の占有体積に制限がある場所であっても排ガス処理装置100を搭載することができる。
【0043】
具体的に説明すると、第2排ガス処理部160は、本体162と、噴霧部164とを含んで構成される。
【0044】
本体162には、ガス供給口162aと、排ガス導入口162bが設けられている。ガス供給口162aは、ガス管214a、バルブ214bを通じて、アノード分離部130のガス滞留空間130aと連通しており、アノード分離部130で分離されたCl
2ガスおよびO
2ガスは、ガス供給口162aを通じて本体162内に供給される。
【0045】
排ガス導入口162bは、ガス管220a、バルブ220bを通じて、第1排ガス処理部150のガス滞留空間150aと連通しており、第1排ガス処理部150で生成された排ガスX2は、排ガス導入口162bを通じて本体162内に供給される。
【0046】
噴霧部164は、バルブ216a、ポンプ180c、アノード溶液流通管216bを通じて、アノード分離部130と連通しており、ガス供給口162aから供給されたCl
2ガス、O
2ガス、および、排ガス導入口162bから導入された排ガスX2に、アノード溶液AS2を噴霧する。
【0047】
そうすると、本体162内で、以下の反応式(10)に示すように、まず、排ガスX2中のNOx(ここでは、一例としてNOを挙げる)とCl
2ガスとが反応して塩化ニトロシル(NOCl)が生成される。
2NO(g)+Cl
2(g)→2NOCl(g)
…反応式(10)
なお、反応式において(g)は気体を示す。
【0048】
そして、噴霧部164によって、NOClにアノード溶液AS2が噴霧されることにより、NOClはアノード溶液AS2に吸収(溶解)される。
【0049】
ここで、アノード溶液AS2のpHは、pH1からpH6であり、好ましくはpH2からpH5、より好ましくはpH2からpH4である。このように、アノード溶液AS2のpHが低いと、すなわち、アノード溶液AS2が酸性であると、NOClを効率よく吸収することができる。
【0050】
また、アノード溶液AS2のpHをpH1からpH6にするためには、上述した電圧印加部120が陽極112aおよび陰極114aに印加する電圧を、3.5Vから20Vにするとよい。
【0051】
このように、第2排ガス処理部160において、排ガスX2からNOxが除去されるとともに、第1排ガス処理部150において除去しきれなかったCO
2、余剰のCl
2ガスおよびO
2ガス(以下、単に余剰ガスX3とする)は、バルブ222a、余剰ガス流通管222bを通じて、後述する溶解部170のバブリング部174に導かれる。また、NOxを吸収したアノード溶液AS3は、バルブ222cを介して外部に排出される。
【0052】
溶解部170は、第2排ガス処理部160に供給されるCl
2ガスの量が、排ガスX2中のNOxを分解するのに必要な量よりも多い場合に生じる余剰のCl
2を含む余剰ガスX3を、アルカリ性のカソード沈殿溶液PSと接触させる。具体的に説明すると、溶解部170は、溶解槽172と、バブリング部174とを含んで構成される。
【0053】
溶解槽172は、バルブ210g、ポンプ210h、PS連通管210iを通じてカソード槽114と連通しており、カソード槽114から供給されたカソード沈殿溶液PSを貯留する。
【0054】
バブリング部174は、バルブ222a、余剰ガス流通管222bを通じて、第2排ガス処理部160のガス滞留空間160aと連通しており、第2排ガス処理部160から供給された余剰ガスX3をカソード沈殿溶液PSにバブリングする。
【0055】
そうすると、溶解槽172内で、余剰ガスX3に含まれるCl
2ガスがカソード沈殿溶液PSに溶解する。すなわち、余剰ガスX3からCl
2ガスを除去することができる。そして、余剰ガスX3からCl
2が除去された精製ガスX4は、バルブ176を介して、外部に排出される。
【0056】
また、上述したように、電圧印加部120は、アノード溶液AS2のpHをpH1からpH6にするために、陽極112aおよび陰極114aに3.5Vから20Vの電圧を印加する。そうすると、カソード溶液CS1のpHは、pH8からpH14となってしまい、上述した反応式(6)〜(9)に示す反応が起こり、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、MgCO
3、およびCaCO
3の沈殿を含むカソード沈殿溶液PSが生成される。
【0057】
そこで、バブリング部174が、カソード沈殿溶液PSに余剰ガスX3をバブリングすると、溶解槽172内で、以下の反応式(11)、(12)に示す反応が進行し、カソード沈殿溶液PSのpHがpH8〜14からpH8未満に低下する、すなわち、カソード沈殿溶液PSが酸性になる。
【化3】
…反応式(11)
H
2O+CO
2→HCO
3−+H
+
…反応式(12)
【0058】
カソード沈殿溶液PSが酸性になると、以下の反応式(13)〜(16)に示す反応が起こる。
Mg(OH)
2+2H
+→Mg
2++2H
2O
…反応式(13)
Ca(OH)
2+2H
+→Ca
2++2H
2O
…反応式(14)
MgCO
3+2H
+→Mg
2++H
2O+CO
2
…反応式(15)
CaCO
3+2H
+→Ca
2++H
2O+CO
2
…反応式(16)
【0059】
なお、上記反応式(13)に示す反応はpH9.2未満で、反応式(14)に示す反応はpH12未満で、反応式(15)に示す反応はpH10未満で、反応式(16)に示す反応はpH8未満で進行する。
【0060】
こうして、溶解部170においてカソード沈殿溶液PS中のMg(OH)
2、Ca(OH)
2、MgCO
3、およびCaCO
3が溶解し、溶解溶液SSが生成される。
【0061】
返送部180は、バルブ180aと返送配管180bと、ポンプ180cを含んで構成され、溶解溶液SSを第2排ガス処理部160へ返送する。具体的に説明すると、返送配管180bは、アノード溶液流通管216bに接続されており、バルブ180aを開にしてポンプ180cを駆動させることで、溶解溶液SSを第2排ガス処理部160の噴霧部164に供給する。
【0062】
上述したように、溶解溶液SSは酸性であるため、NOClを効率良く吸収することができる。そこで、返送部180が溶解溶液SSを第2排ガス処理部160に返送することで、アノード溶液AS2のみならず、溶解溶液SSにもNOClを吸収させることができる。
【0063】
また、従来、固形分離して廃棄していたMg(OH)
2、Ca(OH)
2、MgCO
3、およびCaCO
3を溶解溶液SSとして再利用することができ、廃棄にかかるコストを低減することが可能となる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態にかかる排ガス処理装置100によれば、電気分解によってアノード槽112で生成されたCl
2ガスで、排ガスX2に含まれるNOxをNOClに変換して除去することができる。
【0065】
また、溶解部170が、余剰ガスX3に含まれるCl
2ガスをカソード沈殿溶液PSに溶解させることで、余剰ガスX3からCl
2ガスを除去することができ、Cl
2ガスの外部への放出を抑制することが可能となる。
【0066】
さらに、溶解部170が余剰ガスX3をカソード沈殿溶液PSに溶解させることで、アルカリ性のカソード沈殿溶液PSを酸性にすることができる。酸性になったカソード沈殿溶液PS(溶解溶液SS)は、NOClを効率よく吸収できるため、返送部180が、アノード溶液AS2に代えて、または、アノード溶液AS2とともに溶解溶液SSを第2排ガス処理部160の噴霧部164に返送することで、第2排ガス処理部160においてNOClを効率よく吸収することが可能となる。したがって、NOClの吸収のために、アノード溶液AS2とともに、溶解溶液SSを利用することができるため、同一の量のNOCl(NOx)を吸収するために必要なアノード溶液AS2の量を削減することができる。つまり、アノード溶液AS2を生成するための電気分解に利用する電力を削減することが可能となる。
【0067】
(排ガス処理方法)
図2は、本実施形態にかかる排ガス処理装置100を用いた排ガス処理方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0068】
まず、アノード槽112およびカソード槽114に海水が収容された状態で、電圧印加部120が陽極112aおよび陰極114aに電圧を印加することで、電気分解を行う(S300)。そして、アノード槽112において生成されたアノード溶液AS1をアノード分離部130に導入し、カソード槽114において生成されたカソード溶液CS1をカソード分離部140に導入し、カソード槽114において生成されたカソード沈殿溶液PSを溶解槽172に導入する(S302)。
【0069】
アノード分離部130は、気液分離によって、アノード溶液AS1をCl
2ガスとアノード溶液AS2とに分離する(S304)。また、カソード分離部140は、気液分離によって、カソード溶液CS1をH
2ガスとカソード溶液CS2とに分離する(S306)。
【0070】
第1排ガス処理部150は、排ガスX1に海水を噴霧して、排ガスX1からSOx、CO
2、オイルミスト、ダストを除去するとともに、排ガスX1からSOx、CO
2、オイルミスト、ダストが除去された排ガスX2を第2排ガス処理部160に送出する(S308)。
【0071】
第2排ガス処理部160は、海水洗浄工程S308で洗浄された排ガスX2と、アノード分離工程S304で分離されたCl
2ガスとを接触させて反応後ガス(NOCl、余剰のCl
2ガスを含む)を生成する(S310)。
【0072】
続いて、第2排ガス処理部160は、反応後ガスに、アノード分離工程S304で分離されたアノード溶液AS2を噴霧して、反応後ガスからNClOを除去するとともに、NClOが除去された反応後ガス(余剰ガスX3)を溶解部170に送出する(S312)。
【0073】
溶解部170は、電解溶液導入工程S302で導入されたカソード沈殿溶液PSに余剰ガスX3を接触させて、余剰ガスX3からCl
2ガスを除去して精製ガスX4を生成するとともに溶解溶液SSを生成する(S314)。
【0074】
そして、返送部180は、溶解溶液SSを、アノード溶液AS2に代えて、またはアノード溶液AS2とともに、第2排ガス処理部160の噴霧部164に供給する。そうすると、第2排ガス処理部160は、反応後ガスに溶解溶液SSを噴霧して、反応後ガスからNClOを除去する(S316)。
【0075】
以上説明したように、本実施形態にかかる排ガス処理方法によれば、電気分解によって生じたCl
2ガスをNOxの除去に利用することで、排ガスからNOxを効率よく除去するとともに、排ガス中のCl
2ガスの濃度を著しく低減することが可能となる。
【0076】
(実施例1)
カソード槽114およびアノード槽112に人工海水を2Lずつ収容し、電圧印加部120は、陽極112aおよび陰極114aに5Vの電圧を印加した。そして、アノード槽112で生成されたCl
2ガスを、0.3m
3/h程度の排ガスX1を処理可能なスプレー塔(第2排ガス処理部160)に導入した。
【0077】
その結果、アノード槽112においてCl
2ガスの生成が確認され、その濃度は、0.5%から4%であった。また、アノード槽112において生成されたアノード溶液AS2における遊離塩素濃度は、0.1mg/Lから50mg/Lであった。
【0078】
カソード槽114においてH
2の生成およびMg(OH)
2、Ca(OH)
2の沈殿の生成が確認され、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2の乾燥重量は、10g程度であった。
【0079】
アノード槽112において生成されたCl
2およびアノード溶液AS2を第2排ガス処理部160に導入した場合の、第2排ガス処理部160におけるNOの除去率は99%であった。また、第2排ガス処理部160においてNOを除去した後の余剰Cl
2ガスの濃度は、0.05%〜0.4%であった。
【0080】
(実施例2)
0.01%から0.05%のCl
2ガスを0.0375m
3/hで、pH10程度のアルカリ溶液にバブリングした。その結果、バブリング後の溶液中の遊離塩素濃度は、20mg/Lから200mg/Lとなり、pHは、pH2〜pH3になった。
【0081】
上述したように、反応式(13)〜(16)に示す反応はpH8未満で起こるため、0.01%から0.05%といった低濃度のCl
2ガスをpH10程度のアルカリ溶液にバブリングした場合であっても、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、MgCO
3、およびCaCO
3を溶解させることができることが分かった。したがって、より高濃度である0.05%〜0.4%の余剰Cl
2ガスを、pH8からpH14のカソード沈殿溶液PSにバブリングすると、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、MgCO
3、およびCaCO
3を溶解させることができると推測される。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
例えば、上述した実施形態において、排ガス処理装置100が、アノード分離部130およびカソード分離部140を備える構成について説明した。しかし、アノード槽112やカソード槽114で気液分離させることも可能であり、アノード分離部130およびカソード分離部140を省略することもできる。
【0084】
また、上述した実施形態において、アノード分離部130で分離されたCl
2ガスを押し出すために空気を導入しているが、排ガス導入部154を分岐して、空気に代えて排ガスX1を導入してもよい。
【0085】
上述した実施形態において、カソード槽114から定期的にカソード沈殿溶液PSを排出するのではなく、カソード分離部140で分離された沈殿物を含む液を外部へ排出せずに、全て溶解部170に送出して、排ガスX3をバブリングして溶解溶液SSを作製し、第2排ガス処理部160に導入してもよい。
【0086】
また、上述した実施形態では、カソード槽114で生成されたH
2は、ガス管218d、バルブ218eを通じて電圧印加部120に導入される例について説明した。しかし、これに限らず、カソード槽114で生成されたH
2を一旦ガスホルダに回収し、精製した後に、電圧印加部120に導入することもできる。
【0087】
さらに、上述した実施形態では、水素(H
2)を動力源として電力を生成する装置で構成される電圧印加部120を例に挙げて説明した。しかし、電圧印加部120は、陽極112aおよび陰極114aに電圧を印加できればよく、例えば、商用電源を利用して電圧を印加する装置等であってもよい。
【0088】
また、上述した実施形態において、第1排ガス処理部150、および、第2排ガス処理部160を、スプレー塔で構成した例について説明したが、これに限定されず、気泡塔や充填塔であってもよい。
【0089】
さらに、排ガス処理装置100において示した位置以外にポンプやバルブを設けてもよい。
【0090】
また、溶解溶液SSは、NOClの吸収用のみならず、船舶の糞尿設備やバラスト水の殺菌剤として用いてもよい。