(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910206
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
C22C21/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-60633(P2012-60633)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-194261(P2013-194261A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 建興
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−068152(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/056686(WO,A2)
【文献】
中国特許出願公開第102181758(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第102212726(CN,A)
【文献】
特開2002−249840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素が10.5質量%以上13質量%以下で、
かつ、ニッケルが1.5質量%以上3質量%以下で、
かつ、銅が2質量%以上5.5質量%以下で、
かつ、マグネシウムが0.1質量%以上0.6質量%以下で、
かつ、鉄が0質量%以上0.25質量%以下で、
かつ、リンが0.002質量%以上0.02質量%以下で、
かつ、チタンが0.05質量%以上0.3質量%以下で、
かつ、ジルコニウムが0.05質量%以上0.2質量%以下で、
かつ、バナジウムが0.05質量%以上0.2質量%以下で、
かつ、残部がアルミニウムと不可避不純物からなり、
かつ、マグネシウムの含有量をCmg質量%とし、銅の含有量をCcu質量%としたときに、「0.71−0.12×Ccu≦Cmg≦0.91−0.12×Ccu」の関係を満足することを特徴とするアルミニウム合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン等の自動車部品や他の広い分野で使用できる優れた機械的特性と耐摩耗性を備えた耐熱高強度のアルミニウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン等の内燃機関のピストンは、高温・高負荷の下で高速運動するため、このピストンの材料には、軽量でかつ高温における強度が優れている材料が要求される。従来は、JIS(日本工業規格)−AC8A(Al−Si−Cu−Ni−Mg系)合金を代表とするアルミニウム合金が使用されてきたが、最近、内燃機関の高燃費化、高出力化により、特にピストンには更なる耐熱性と高温強度が要求されるようになってきている。AC8A合金の成分は、アルミニウム(Al)に12%のケイ素(Si)と、1%の銅(Cu)と、1%のニッケル(Ni)と1%のマグネシウム(Mg)を添加したものであるが、このAC8A合金の耐熱性を更に向上させるために、このAC8A合金に対して、より多くの、銅(3〜5%程度)、マグネシウム(0.6〜1.5%程度)やニッケル(2〜3%程度)が添加されている。このアルミニウム合金の例として、高温用途の為の高強度アルミニウム合金(例えば特許文献1参照)等が提案されている。
【0003】
しかしながら、多量の銅、マグネシウムとニッケルを添加すると、アルミニウム合金が融け始める温度である固相線温度はAC8A合金の530℃程度から500℃近辺まで下がってしまう。一方、ディーゼルエンジンのような高出力エンジンの燃料室の最高温度は370℃に達しているため、固相線温度と燃焼室の最高温度との差は僅か130℃しかない。
【0004】
また、より多くの銅、マグネシウムとニッケルを添加すると、金属間化合物のサイズが粗大化するだけではなく、融点の更なる低下を招くので、大量の銅、マグネシウムやニッケルの添加によってアルミニウム合金の強度を改善させる方法は限界に来ている。
【0005】
従来のピストン用アルミニウム合金の開発においては、合金元素の添加によるアルミニウム合金そのものの固相線温度の低下及びそれに伴う高温強度の低下に関する研究は殆どなく、特に、アルミニウム合金中の主要元素である銅、ニッケル、マグネシウム、ケイ素のアルミニウム合金融点への複合作用については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−522583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム−ケイ素系(Al−Si系)のアルミニウム合金の高温強度を改善するために、アルミニウム合金の固相線温度に及ぼす、主要成分のケイ素(Si)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)の添加量の影響を把握した上で、銅(Cu)の添加量とマグネシウム(Mg)の添加量の関係を見つけ、各添加量を調整して適正化することにより、アルミニウム合金の固相線温度をできるだけ低下させないようにしつつ、アルミニウム合金の融点、強度、破断伸びを設計できる、耐熱高強度のアルミニウム合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するためのアルミニウム合金は、ケイ素が10.5質量%以上13質量%以下で、かつ、ニッケルが1.5質量%以上3質量%以下で、かつ、銅が2質量%以上5.5質量%以下で、かつ、マグネシウムが0.1質量%以上0.6質量%以下で、かつ、鉄が0質量%以上0.25質量%以下で、かつ、リンが0.002質量%以上0.02質量%以下で、かつ、チタンが0.05質量%以上0.3質量%以下で、かつ、ジルコニウムが0.05質量%以上0.2質量%以下で、かつ、バナジウムが0.05質量%以上0.2質量%以下で、かつ、残部がアルミニウムと不可避不純物から
なり、かつ、マグネシウムの含有量をCmg質量%とし、銅の含有量をCcu質量%としたときに、「0.71−0.12×Ccu≦Cmg≦0.91−0.12×Ccu」の関係を満足するように構成される。
【0010】
この本発明は、本発明者が次の知見を得て想到したものである。つまり、内燃機関のピストン用のアルミニウム合金には、日本工業規格(JIS)のAC8A、AC8B、AC8C、AC9A、AC9B合金のようなアルミニウム−ケイ素系合金を基にしてその成分組成を変更したアルミニウム合金を使用している。
【0011】
このケイ素(Si)の含有量と固相線温度との関係に関しては、アルミニウム−ケイ素系二元合金の共晶点におけるケイ素の含有量は12.6質量%で、ピストン用アルミニウム合金中のケイ素の含有量は共晶点に近く、組織としては、亜共晶、共晶または過共晶の組織を有する。このアルミニウム−ケイ素系二元合金の共晶温度は577℃であり、ケイ素の含有量が1.65%以下の場合では、アルミニウム−ケイ素系二元合金の固相線温度はケイ素の含有量の増加に従い、アルミニウム融点の660℃から低下する。しかし、ケイ素の含有量が1.65%以上になると、固相線温度は共晶温度の577℃になる。つまり、アルミニウム−ケイ素系二元合金の場合は、1.65%以上のケイ素を添加しても固相線温度に影響しない。
【0012】
また、銅(Cu)の含有量と固相線温度との関係に関しては、アルミニウム−銅二元合金の共晶温度は548℃であり、銅の含有量が5.7質量%以下の場合では、アルミニウム−銅二元合金の固相線温度は銅の含有量に従い、アルミニウム融点の660℃から低下する。しかし、銅の含有量が5.7質量%以上になると、固相線温度は共晶温度の548℃になる。つまり、アルミニウム−銅二元合金では、銅の含有量が5.7質量%以下の場合には、1質量%の銅を添加すると、固相線温度は19.65℃位低下する。
【0013】
また、マグネシウム(Mg)の含有量と固相線温度との関係に関しては、アルミニウム−マグネシウム二元合金の共晶温度は450℃であり、マグネシウムの含有量が18.9%以下の場合は、アルミニウム−マグネシウム二元合金の固相線温度はマグネシウムの含有量に従い、アルミニウム融点の660℃から低下する。しかし、マグネシウムの含有量が18.9%以上になると、固相線温度は共晶温度の450℃になる。つまり、アルミニウム−マグネシウム二元合金では、マグネシウムの含有量が18.9%以下の場合には、1質量%のマグネシウムを添加すると、固相線温度は11.11℃位低下する。
【0014】
また、ニッケル(Ni) の含有量と固相線温度との関係に関しては、アルミニウム−ニッケル二元合金の共晶温度は640℃である。微量のニッケルを添加しても固相線温度は640℃になるが、しかし、数十%以上添加しても固相線温度は変化しない。つまり、一旦微量のニッケルを添加した後、ニッケルの添加量を増加しても、固相線温度は変化しない。
【0015】
そして、鋳造性の良いアルミニウム−ケイ素系合金においては、少量のマグネシウムを添加することで、Mg
2Siの中間相の析出による熱処理効果で強度を高めている。また、アルミニウム−ケイ素系合金に銅を添加する場合は、α−Al(アルミニウム)への銅の固溶硬化とCuAl
2の中間相の析出硬化を利用してアルミニウム合金の強度を向上させている。
【0016】
しかし、銅とマグネシウムの添加量を増やすと、引張強度は向上するが、破断伸びが小さくなるという問題がある。また、アルミニウム合金への強化効果においては、室温ではMg
2Siによる効果はCuAl
2による効果より大きいが、高温ではMg
2Siによる効果はCuAl
2による効果より劣る。そのため、アルミニウム合金の強度を向上させるためには、より多くの銅とマグネシウムを添加すればよいが、一定の添加量を超えると、晶出する金属間化合物が粗大化するため、強度は逆に低下する可能性がある。
【0017】
上記の結果を踏まえて考えると、アルミニウムとの二元合金においては、固相線温度への影響に関しては、ニッケルの添加とケイ素の添加と比較すると、銅の添加とマグネシウムの添加による固相線温度の低下が非常に大きいことが分かる。一般にピストン用アルミニウム合金中のケイ素の含有量は12質量%で、ニッケルの含有量は1〜3質量%であるので、アルミニウム合金中でケイ素の含有量とニッケルの含有量を変化させてもアルミニウム合金の固相線温度への影響は非常に少ない。従って、アルミニウム合金の固相線温度への影響の大きい銅とマグネシウムの複合作用を見極めることで、本発明の耐熱高強度のアルミニウム合金を得ることができた。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルミニウム合金によれば、銅(Cu)とマグネシウム(Mg)の添加量を調節することによりアルミニウム合金の固相線温度を最大限に高くすることができると共に、より耐熱性に優れ、高強度とすることができるので、優れた機械的特性と耐摩耗性を備えることができ、高強度軽量化部材としてピストンなどの自動車部品や他の広い分野に使用できるアルミニウム合金が得られる。
【0019】
また、ニッケルを、高温強度の向上に寄与させるために、つまり、高温疲労係数を向上させるために添加するが、その含有量が1.5質量%未満では十分な高温強度を得ることができず、3質量%を超えるとその効果が次第に小さくなるので、ニッケルの含有量を1.5質量%以上3質量%以下とすることにより、ニッケルを効率良く利用して高温強度を向上できるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態のアルミニウム合金について説明する。この実施の形態のアルミニウム合金はアルミニウム−ケイ素系(Al−Si系)合金であり、アルミニウム合金は、ケイ素(Si)が10.5質量%(mass%)以上13質量%以下で、かつ、ニッケル(Ni)が1.5質量%以上3質量%以下で、かつ、銅(Cu)が2質量%以上5.5質量%以下で、かつ、マグネシウム(Mg)が0.1質量%以上0.6質量%以下で、かつ、鉄(Fe)が0質量%以上0.25質量%以下で、かつ、リン(P)が0.002質量%以上0.02質量%以下で、かつ、チタン(Ti)が0.05質量%以上0.3質量%以下で、かつ、ジルコニウム(Zr)が0.05質量%以上0.2質量%以下で、かつ、バナジウム(V)が0.05質量%以上0.2質量%以下で、かつ、残部がアルミニウム(Al)と不可避不純物からなるように構成される。
【0021】
更に、このアルミニウム合金の化学成分において、マグネシウム(Mg)の含有量をCmg質量%とし、銅(Cu)の含有量をCcu質量%としたときに、「0.71−0.12×Ccu≦Cmg≦0.91−0.12×Ccu」の関係を満足するように、好ましくは、「Cmg=0.81−0.12×Ccu」の関係式を有するように、構成される。
【0022】
次に、本発明におけるアルミニウム合金の各成分元素の含有量と、銅とマグネシウムの添加量の関係について説明する。
【0023】
最初にケイ素(Si)の含有量の10.5質量%以上13質量%以下に関しては、ピストン用アルミニウム合金においては、耐摩耗性と強度を向上させるため、微細な初晶ケイ素粒子の析出が望ましい。アルミニウム−ケイ素二元合金の共晶点のケイ素含有量は12.6%であるが、本発明のアルミニウム−ケイ素多元合金では、後に説明する銅(Cu)、リン(P)の添加量により、共晶点は低ケイ素側にシフトし、ケイ素の含有量が10.5質量%でも初晶ケイ素粒子が析出される。一方、ケイ素の添加量が13質量%よりも高くなると、析出される初晶ケイ素粒子は大きくなり、アルミニウム合金の機械的特性は悪くなる。言い換えれば、下限の10.5質量%は初晶ケイ素粒子が十分に析出され始める量であり、上限の13質量%は析出される初晶ケイ素粒子が大きくなって機械的特性が不十分になり始める量である。
【0024】
次にニッケル(Ni)の含有量の1.5質量%以上3質量%以下に関しては、ニッケルは高温強度の向上に寄与するが、その含有量は1.5質量%未満では十分な高温強度を得ることができず、一方、3質量%を超えると、その効果が次第に小さくなる。そのため、1.5質量%以上3質量%以下とする。
【0025】
次に銅(Cu)の含有量の2質量%以上5.5質量%以下とマグネシウム(Mg)の0.1質量%以上0.6質量%以下に関しては、ピストン用アルミニウム合金には優れた耐熱性が求められるので、耐熱性を向上させるためには、銅は不可欠な元素で、銅の添加量が多い方が望ましく、銅の添加量は多ければ多いほどよいが、アルミニウム合金の固相線温度を大きく低下させることがあるので、最大でも5.5質量%とする。言い換えれば、下限の2質量%は耐熱性の向上に必要な量であり、上限の5.5質量%は固相線温度の低下の限界から決まる量である。
【0026】
そして、銅とマグネシウムの両方とも、アルミニウム合金の固相線温度を大きく低下させる効果のある元素であるが、高温における強度を向上させるために、最大限に銅を添加する場合、固相線温度への影響を最小限にする方法としてマグネシウムの添加量を減らすことが重要である。また、銅を多く添加し、さらにマグネシウムの添加量を減らすと、共晶点を低ケイ素側にシフトさせるので、ケイ素が10.5質量%の場合でも、組織的に過共晶アルミニウム−ケイ素系合金になり、初晶ケイ素が析出される。
【0027】
そこで、アルミニウム合金中に多くの銅を添加した場合にはマグネシムを少なめに添加し、また、銅を少なめに添加した場合には、マグネシウムを多めに添加する。この両者の関係として、次に示す関係式(1)を発現した。なお、この(1)式は実験結果から導出している。
Cmg=0.81−0.12×Ccu (1)
【0028】
ここで、Cmgはマグネシウムの含有量(質量%)で、Ccuは銅の含有量(質量%)である。また、Cmgの添加量の範囲は(1)式による計算値より±0.1(質量%)の範囲内であればよい。例えば、5.5質量%の銅を添加する場合には、0.1質量%のマグネシウムを添加すればよいが、2質量%の銅を添加する場合には、0.52質量%のマグネシウムを添加する。
【0029】
次に鉄(Fe)が0質量%以上で0.25質量%以下に関しては、鉄の含有量が0.3質量%以上になると、針状アルミニウム−ケイ素−鉄(Al−Si−Fe)金属間化合物が析出し、破壊靱性及び高温強度を低下させるので、鉄の含有量は0.3質量%以下とする必要がある。しかし、本発明のアルミニウム合金はピストン用耐熱合金なので、鉄の含有量は0.25質量%以下にする必要がある。また、従来、マンガン(Mn)は不純物の鉄を結合して破壊靱性、耐摩耗性や強度の低下を軽減する元素とされているが、本発明の場合は、鉄の含有量を抑えるので、マンガンはコンタミネーション程度で、特別に添加はしない。
【0030】
次にリン(P)の0.002質量%以上0.02質量%以下に関しては、リンは耐摩耗性の向上に有効な初晶ケイ素の核生成に作用し、微細な初晶ケイ素の均一分散に寄与する。リンの含有量が20ppm未満であるとそのような効果が不十分となり、200ppmを超えるとそれ以上の効果が見られない。よって、リンの含有量は20〜200ppmが好ましく、0.002質量%以上0.02質量%以下とする。
【0031】
また、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びバナジウム(V)に関しては、それぞれチタンが0.05質量%以上0.3質量%以下、ジルコニウムが0.05質量%以上0.2質量%以下、バナジウムが0.05質量%以上0.2質量%以下の含有量とする。チタン、ジルコニウム及びバナジウムの添加は、α−Al相の微細化や微細分散粒子の生成に寄与し、アルミニウム合金の耐熱性を向上させる効果がある。そして、上記の範囲の下限以下になると、その効果が不十分であり、上記の範囲の上限を超えて含有しても更なる効果の向上は望めない。
【0032】
次に示す表1に、アルミニウムに、ケイ素を11質量%、ニッケルを1.9質量%、鉄を0.15質量%、リンを0.006質量%(60ppm)、チタンを0.1質量%、ジルコニウムを0.1質量%、バナジウムを0.1質量%を添加したアルミニウム合金において、銅とマグネシウムの添加量を変えた場合の固相線温度を示す。
【0034】
この表1で、銅の含有量が共に、5.5質量%である番号1と番号16の試料の固相線温度を比較すると、番号1のマグネシウムの含有量が0.1質量%の試料の固相線温度は513℃で、番号16(比較例1)のマグネシウムの含有量が1質量%の試料の固相線温度は503℃であった。つまり、マグネシウムの0.9質量%の含有量の差で固相線温度は10℃違う。このように、銅を多く添加する場合には、マグネシウムの添加量を減らさないと、固相線温度が大きく低下することになる。このように、表1の結果により、銅とマグネシウムの添加量を調節することにより、より耐熱性に優れたアルミニウム合金が得られることが確認できた。
【実施例】
【0035】
次に、実施例1,2と比較例1、2について説明する。実施例1では、表1の番号5の合金を765℃で溶かし、脱ガス後、60分静置した後、舟形形状の金型に試験片を鋳込んだ。この試験片を日本工業規格(JIS)のT6で熱処理した後、引張試験と疲労試験用の試験片に加工した。室温で測定したこの試験片の引張強度は428MPaで、破断伸びは0.93%であった。また、疲労強度は小野式回転曲げ疲労試験機で測定した。この小野式回転曲げ疲労試験機での試験における試験回転数は3000rpm、試験中止繰り返し回数は10
7回であり、350℃で測定した疲労強度は55MPaであった。
【0036】
実施例2では、表1の番号13の合金を765℃で溶かし、脱ガス後、60分静置した後、舟形形状の金型に試験片を鋳込んだ。この試験片を日本工業規格のT6で熱処理した後、引張試験と疲労試験用の試験片に加工した。室温で測定したこの試験片の引張強度は395MPaで、破断伸びは1.56%であった。また、疲労強度は小野式回転曲げ疲労試験機で測定した。この小野式回転曲げ疲労試験機での試験における試験回転数は3000rpm、試験中止繰り返し回数は10
7回であり、350℃で測定した疲労強度は49MPaであった。
【0037】
また、比較例1では、表1の番号17の合金を765℃で溶かし、脱ガス後、60分静置した後、舟形形状の金型に試験片を鋳込んだ。この試験片を日本工業規格のT6で熱処理した後、引張試験と疲労試験用の試験片に加工した。室温で測定したこの試験片の引張強度は432MPaであった。また、疲労強度は小野式回転曲げ疲労試験機で測定した。この小野式回転曲げ疲労試験機での試験における試験回転数は3000rpm、試験中止繰り返し回数は10
7回であり、350℃で測定した疲労強度は41MPaであった。
【0038】
また、比較例2として、日本工業規格のAC8A合金を765℃で溶かし、脱ガス後、60分静置した後、舟形形状の金型に試験片を鋳込んだ。この試験片を日本工業規格のT6で熱処理した後、引張試験と疲労試験用の試験片に加工した。室温で測定したこの試験片の引張強度は405MPaであった。また、疲労強度は小野式回転曲げ疲労試験機で測定した。この小野式回転曲げ疲労試験機での試験における試験回転数は3000rpm、試験中止繰り返し回数は10
7回であり、350℃で測定した疲労強度は35MPaであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアルミニウム合金によれば、銅(Cu)とマグネシウム(Mg)の添加量を調節することによりアルミニウム合金の固相線温度を最大限に高くすることができると共に、より耐熱性に優れ、高強度とすることができ、優れた機械的特性と耐摩耗性を備えることができるので、高強度軽量化部材としてピストンなどの自動車部品や他の広い分野に使用できる。