特許第5910272号(P5910272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910272
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】加飾用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20160414BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20160414BHJP
   C08F 8/04 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/36 102
   C08F8/04
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-93696(P2012-93696)
(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-220590(P2013-220590A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水野 詩乃
(72)【発明者】
【氏名】小池 信行
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−234183(JP,A)
【文献】 特開2009−234184(JP,A)
【文献】 特開2009−196125(JP,A)
【文献】 特開2008−115314(JP,A)
【文献】 特開2011−201039(JP,A)
【文献】 特開2006−089713(JP,A)
【文献】 特開平01−132603(JP,A)
【文献】 特開平04−075001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00;301/00
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(B)からなる層の片面にビニル共重合樹脂(A)からなる層が積層されてなる多層フィルムであって、
前記樹脂(A)が、下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記式(2)で表されるビニル構成単位(b)を含み、前記構成単位(a)と(b)の合計に対する構成単位(a)の割合が60〜85モル%であるビニル共重合樹脂であり、
前記樹脂(A)中の全R4における芳香族二重結合の総数が、該R4を全てフェニル基とした場合の芳香族二重結合の総数の30%以下であり、
多層フィルムの全厚みが30〜600μmであり、前記樹脂(A)からなる層の厚みが10〜100μmでありかつ前記樹脂(B)からなる層の厚みが多層フィルム全厚みの40〜90%である多層フィルムを用いてなる加飾用フィルム。
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭化水素基を有する、炭素数1〜16の基であり、ヒドロキシル基、アルコキシ基を有してもよい。)
【化2】
(式(2)中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる置換基を有することのある、フェニル基又は該フェニル基の芳香族二重結合の一部若しくは全部が水素化された基である。)
【請求項2】
前記R1及びR2がメチル基である請求項1に記載の加飾用フィルム。
【請求項3】
前記R4がフェニル基又は該フェニル基の芳香族二重結合の一部若しくは全部が水素化された基である請求項1又は2に記載の加飾用フィルム。
【請求項4】
前記樹脂(A)が、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーから得られる重合体の芳香族二重結合水素化れたものである請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項5】
前記樹脂(A)のガラス転移温度が110〜140℃の範囲である請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項6】
前記樹脂(A)及び樹脂(B)の少なくとも一方に紫外線吸収剤を含有する請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項7】
前記樹脂(A)層上にハードコート処理を施した請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項8】
前記樹脂(B)層上にハードコート処理を施した請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項9】
片面又は両面に反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理及び防眩処理から選ばれる一つ以上の処理を施した請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルムを備える加飾成形品。
【請求項11】
請求項1〜のいずれかに記載の加飾用フィルムに熱可塑性樹脂シートが積層された加飾用シート。
【請求項12】
請求項11に記載の加飾用シートを備える加飾成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾用フィルムに関するものである。また、本発明は、この加飾用フィルムを用いてなる加飾用シート、さらには加飾成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
車両内外装部品、家電機器、ノートPC、携帯電話、家具などの部材の表面に装飾を施す方法の一つとして、加飾用フィルムを基材に貼り合わせる方法がある。この加飾用フィルムを使用した方法は、塗装などの従来の方法と比較して、意匠性や耐久性などに優れ、多く用いられるようになってきている。
加飾用フィルムを基材に貼り合わせる方法としては、例えば、加飾用フィルムを射出成形金型外又は射出成形金型内で熱成形(真空成形、圧空成形、真空圧空成形等) により予備成形した後、あるいは予備成形することなく、射出成形金型内に配置し、そこに溶融樹脂を射出することにより、射出成形品を形成すると同時に成形品に加飾用フィルムを貼り合わせる方法(射出成形同時貼合法)が知られている。また、射出成形後に加飾用フィルムを成形品と貼り合わせる方法、あるいは加飾用フィルムを金属製などのプラスチック製以外の基材と貼り合わせる方法として、接着剤層を介して加飾用フィルムを基材表面に真空・圧着させる方法(三次元表面加飾成形法)等が知られている。
上記のような加飾方法に用いられる加飾用フィルムとしては、PETフィルムが広く知られている。しかし、PETフィルムは熱成形性が悪く、深絞り度の高い複雑な形状には適用できない場合がある。
一方、アクリル系樹脂フィルムは深絞り度の高い複雑な形状にも用いることができるが、靭性が低く折り曲げやトリミングなどの加工の際に割れやすい。機械的強度を向上させるために、ゴム粒子を配合したアクリル系樹脂フィルムもあるが、表面硬度や高温高湿環境下における形状安定性が低く問題となる場合がある。また、引張りや折り曲げなどの応力がかかる条件下や高温高湿環境下で白化し、透明性が損なわれる場合がある。
アクリル系樹脂層をポリカーボネート樹脂層の上に積層させた多層フィルム(例えば、特許文献1)は、アクリル系樹脂とポリカーボネート樹脂との吸水特性や、ガラス転移温度に代表される耐熱性の違いにより大きな反りを生じることがある。加飾用フィルムが反っていると、成形加工時の機械的搬送や正確な位置決めが円滑に行えなくなったり、基材から加飾用フィルムが剥離したりするなど問題となることがある。反りを抑える方法としてポリカーボネート樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を積層させた多層フィルム(例えば、特許文献2)があるが、その積層体の片面に面衝撃を与えた際にその反対面のアクリル系樹脂層においてクラックを生じ易く、使用方法によっては問題となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−201039号公報
【特許文献2】特開2010−125645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような状況から、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れる加飾用フィルム、該加飾用フィルムを用いてなる加飾用シート及び加飾成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究の結果、ポリカーボネート樹脂層の片面に特定の構造を有するビニル共重合樹脂を積層させた多層フィルムからなる加飾用フィルムが、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
本発明は、以下に示す1〜13の発明からなる。
1.ポリカーボネート樹脂(B)からなる層の片面にビニル共重合樹脂(A)からなる層が積層されてなる多層フィルムであって、
前記樹脂(A)が、下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記式(2)で表されるビニル構成単位(b)を含み、前記構成単位(a)と(b)の合計に対する構成単位(a)の割合が60〜85モル%であるビニル共重合樹脂であり、
多層フィルムの全厚みが30〜600μmであり、前記樹脂(A)からなる層の厚みが10〜100μmでありかつ前記樹脂(B)からなる層の厚みが多層フィルム全厚みの40〜90%である多層フィルムを用いてなる加飾用フィルム。
【0007】
【化1】
(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭化水素基を有する、炭素数1〜16の基であり、ヒドロキシル基、アルコキシ基を有してもよい。)
【0008】
【化2】
(式(2)中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる置換基を有することのある、フェニル基又は該フェニル基の芳香族二重結合の一部若しくは全部が水素化された基である。)
【0009】
2.前記R1及びR2がメチル基である上記1に記載の加飾用フィルム。
3.前記R4がフェニル基又は該フェニル基の芳香族二重結合の一部若しくは全部が水素化された基である上記1又は2に記載の加飾用フィルム。
4.前記樹脂(A)中の全R4における芳香族二重結合の総数が、該R4を全てフェニル基とした場合の芳香族二重結合の総数の30%以下である上記1〜3のいずれかに記載の加飾用フィルム。
5.前記樹脂(A)が、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーを重合した後、芳香族二重結合を水素化して得られたものである上記1〜4のいずれかに記載の加飾用フィルム。
6.前記樹脂(A)のガラス転移温度が110〜140℃の範囲である上記1〜5のいずれかに記載の加飾用フィルム。
7.前記樹脂(A)及び樹脂(B)の少なくとも一方に紫外線吸収剤を含有する上記1〜6のいずれかに記載の加飾用フィルム。
8.前記樹脂(A)層上にハードコート処理を施した上記1〜7のいずれかに記載の加飾用フィルム。
9.前記樹脂(B)層上にハードコート処理を施した上記1〜8のいずれかに記載の加飾用フィルム。
10.片面又は両面に反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理及び防眩処理から選ばれる一つ以上の処理を施した上記1〜9のいずれかに記載の加飾用フィルム。
11.上記1〜10のいずれかに記載の加飾用フィルムを備える加飾成形品。
12.上記1〜10のいずれかに記載の加飾用フィルムに熱可塑性樹脂シートが積層された加飾用シート。
13.上記12に記載の加飾用シートを備える加飾成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れる加飾用フィルムが提供され、該加飾用フィルムは車両内外装部品、家電製品、ノートPC、携帯電話などの部材表面の加飾に好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の加飾用フィルムに用いられる多層フィルムは、ポリカーボネート樹脂(B)からなる層(以下「X層」と称す)の片面のみに特定の構造を有するビニル共重合樹脂(A)からなる層(以下「Y層」と称す)が積層される。X層の片面のみにY層を積層させた加飾用フィルムは、硬い構造であるY層側から外力を受けた際に、その反対面が柔らかい構造のX層であることにより割れや亀裂を生じにくい。一方、X層の両面にY層を積層させた多層フィルムは、その片面に外力を受けた際に、その反対面が硬い構造のY層であることにより割れや亀裂を生じ易く好ましくない。
【0012】
前記ビニル共重合樹脂(A)は、下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記式(2)で表されるビニル構成単位(b)を含む。
ここで「(メタ)アクリル酸」とは「メタクリル酸及び/又はアクリル酸」を意味する。
【0013】
【化3】
(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭化水素基を有する、炭素数1〜16の基であり、ヒドロキシル基、アルコキシ基を有してもよい。)
【0014】
【化4】
(式(2)中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる置換基を有することのある、フェニル基又は該フェニル基の芳香族二重結合の一部若しくは全部が水素化された基である。)
【0015】
前記構成単位(a)は後述する(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位であり、R1は水素原子又はメチル基である。又、R2は炭化水素基を有する、炭素数1〜16の基であり、ヒドロキシル基、アルコキシ基を有してもよい。具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基などのアルキル基;2-ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基などのヒドロキシアルキル基;2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基などのアルコキシアルキル基;ベンジル基、フェニル基などのアリール基などが挙げられる。ビニル共重合樹脂(A)における複数のR1、R2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
構成単位(a)として好ましいのはR2がメチル基及び/又はエチル基の(メタ)アクリル酸エステル構成単位であり、さらに好ましいのはR1がメチル基、R2がメチル基のメタクリル酸メチル構成単位である。
【0016】
前記構成単位(b)は後述する芳香族ビニルモノマー又は脂肪族ビニルモノマー由来の構成単位であり、R3は水素原子又はメチル基である。又、R4としては、フェニル基、フェニル基の芳香族二重結合の一部が水素化された基、フェニル基の芳香族二重結合の全部が水素化された基(シクロヘキシル基)、及びこれらの基における水素原子が炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換された基が挙げられる。ここで、R4は、フェニル基の芳香族二重結合の70%以上が水素化されたものであることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、98%以上が特に好ましい。
ビニル共重合樹脂(A)における複数のR3、R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0017】
ビニル共重合樹脂(A)は、主として前記構成単位(a)と前記構成単位(b)とからなる。
本発明における前記構成単位(a)と(b)の合計に対する構成単位(a)の割合は、60〜85モル%の範囲である。
この割合が60%未満であるとビニル共重合樹脂(A)の表面硬度が下がったり、ポリカーボネート樹脂(B)やハードコート塗料との密着性が下がったりして実用的でない場合がある。また85%を超える範囲であると高温高湿環境下における形状安定性が下がり、成形加工時の機械的搬送や正確な位置決めを円滑に行えなくなったり、基材から加飾用フィルムが剥離したりするなど実用的でない場合がある。より好ましくは60〜80%の範囲であり、さらに好ましくは70〜80%の範囲である。
【0018】
ビニル共重合樹脂(A)は、特に限定されず、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを共重合した後、芳香族ビニルモノマー由来の芳香族二重結合を水素化して得られたものや、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと脂肪族ビニルモノマーを共重合したものが好適であり、前者が特に好適である。
【0019】
この際に使用される(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、炭素数が4〜20のものであることが好ましい。炭素数4〜20の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、特に限定されないが(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)、(メタ)アクリル酸(2−メトキシエチル)、(メタ)アクリル酸(2−エトキシエチル)、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどが挙げられる。中でもメタクリル酸メチルが好ましい。
芳香族ビニルモノマーとしては、具体的にスチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、クロロスチレンなど、及びそれらの誘導体が挙げられる。これらの中で好ましいのはスチレン、α−メチルスチレンである。
脂肪族ビニルモノマーとしては、具体的にビニルシクロヘキサン、イソプロペニルシクロヘキサン、1−イソプロペニル−2−メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中で好ましいのはビニルシクロヘキサンである。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーの重合には、公知の方法を用いることができるが、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法によりビニル共重合樹脂(A)を製造することができる。
溶液重合法では、モノマー、連鎖移動剤、及び重合開始剤を含むモノマー組成物を完全混合槽に連続的に供給し、100〜180℃で連続重合する方法などにより行われる。
【0021】
この際に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒;酢酸エチル、イソ酪酸メチルなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを重合した後の芳香族二重結合の水素化反応は溶媒中で行われることが好ましい。この水素化反応に用いられる溶媒は前記の重合溶媒と同じであっても異なっていても良い。例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒;酢酸エチル、イソ酪酸メチルなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。
【0023】
水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、水素圧力3〜30MPa、反応温度60〜250℃でバッチ式あるいは連続流通式で行うことができる。温度を60℃以上とすることにより反応時間がかかり過ぎることがなく、また250℃以下とすることにより分子鎖の切断やエステル部位の水素化を起すことが少ない。
【0024】
水素化反応に用いられる触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウムなどの金属又はそれら金属の酸化物、塩若しくは錯体化合物を、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、ジルコニア、珪藻土などの多孔性担体に担持した固体触媒などが挙げられる。
【0025】
ビニル共重合樹脂(A)は芳香族ビニルモノマー中の芳香族二重結合の70%以上が水素化されたものであることが好ましい。即ち、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中の芳香環の未水素化部位の割合は30%以下であることが好ましく、30%を越える範囲であるとビニル共重合樹脂(A)の透明性が低下する場合がある。より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと脂肪族ビニルモノマーの重合は、公知の方法、例えば、特開昭63−3011号公報、特開昭63−170475号公報に記載の方法により実施できる。
【0027】
前記Y層には、ビニル共重合樹脂(A)以外に、透明性を損なわない範囲で他の樹脂をブレンドすることができる。ブレンドできる樹脂としては、例えば、メタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0028】
ビニル共重合樹脂(A)のガラス転移温度は110〜140℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移温度が110℃以上であることにより、本発明で提供される加飾用フィルムの高温高湿下における形状安定性が向上し、シワやゆず肌など熱成形時における外観不良が少なくなる。また140℃以下であることにより、鏡面ロールや賦形ロールによる連続式熱賦形、あるいは鏡面金型や賦形金型によるバッチ式熱賦形などの加工性に優れる。なお、本発明におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量測定装置を用い、試料10mg、昇温速度10℃/分で測定し中点法で算出したときの温度である。
【0029】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(B)は特に限定されず、ビスフェノール化合物から公知の方法で製造された重合体を用いることができる。例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと炭酸ジエステルとからエステル交換法により得られた炭酸エステル重合体などが挙げられる。
【0030】
本発明におけるビニル共重合樹脂(A)及び/又はポリカーボネート樹脂(B)には紫外線吸収剤を混合して使用することができる。紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;サリチル酸フェニル、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤;ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケートなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤;、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン系紫外線吸収剤などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0031】
また、本発明におけるビニル共重合樹脂(A)、及びポリカーボネート樹脂(B)にはその他の各種添加剤を混合して使用することができる。添加剤としては、例えば、抗酸化剤や抗着色剤、抗帯電剤、離型剤、滑剤、染料、顔料などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0032】
本発明の加飾用フィルムに用いる多層フィルムの製造方法としては共押出による方法、接着層を介して貼り合わせる方法などを用いることができる。
共押出の方法は特に限定されず、例えば、フィードブロック方式では、フィードブロックでポリカーボネート樹脂(B)からなるX層の片面にビニル共重合樹脂(A)からなるY層を積層し、Tダイでフィルム状に押し出した後、成形ロールを通過させながら冷却し所望の多層フィルムを形成する。また、マルチマニホールド方式では、マルチマニホールドダイ内でX層の片面にY層を積層し、フィルム状に押し出した後、成形ロールを通過させながら冷却し所望の多層フィルムを形成する。
また、接着層を介して貼り合わせる方法も特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、一方の板状成形体にスプレー、刷毛、グラビアロール、インクジェットなどを用いて接着剤を塗布し、そこへもう一方の板状成形体を重ねて接着剤が硬化するまで圧着し、所望の多層フィルムを形成する。また、共押出の際にY層とX層の間に任意の接着樹脂層を積層することもできる。
【0033】
前記多層フィルムの全厚みは30〜600μmの範囲であることが好ましい。30μm未満の薄い多層フィルムは、押出成形による製造が機械的制約により困難になるとともに、機械的強度が小さく生産不具合の発生確率が高くなる。また600μmを超える厚い多層フィルムは、熱成形に時間を要するとともに、物性や意匠性の向上効果が小さく、コストが高くなる。多層フィルムの全厚みはより好ましくは40〜300μmの範囲であり、さらに好ましくは50〜200μmの範囲である。
【0034】
前記多層フィルムのY層の厚みは10〜100μmの範囲であることが好ましい。10μm未満であると表面硬度、耐擦傷性及び耐候性が不足する場合がある。また100μmを超えるとトリミング性が不足する場合がある。好ましくは30〜60μmの範囲である。
また、X層の厚みは多層フィルム全厚みの40〜90%であることが好ましい。40%未満であるとトリミング性が不足する場合がある。また90%を超えると表面硬度、耐擦傷性及び耐候性が不足する場合がある。好ましくは50〜85%である。
【0035】
前記多層フィルムの各面にはハードコート処理を施してもよい。例えば、前記X層又はY層にハードコート処理を施したものや、X層とY層の両方にハードコート処理を施したものが挙げられる。
本発明におけるハードコート処理は熱エネルギー及び/又は光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料を用いることによりハードコート層を形成する。熱エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、ポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などの熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物が挙げられる。また、光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1官能及び/又は多官能であるアクリレートモノマー及び/又はオリゴマーからなる樹脂組成物に光重合開始剤が加えられた光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0036】
本発明におけるY層上に施す熱エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、オルガノトリアルコキシシラン100質量部と、粒径が4〜20nmのコロイダルシリカを10〜50質量%含有するコロイダルシリカ溶液50〜200質量部からなる樹脂組成物100質量部にアミンカルボキシレート及び/又は第4級アンモニウムカルボキシレートが1〜5質量部添加された熱硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0037】
本発明におけるY層上に施す光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート40〜80質量%と、それと共重合可能な2官能及び/又は3官能の(メタ)アクリレート化合物20〜40質量%とからなる樹脂組成物の100質量部に光重合開始剤が1〜10質量部添加された光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0038】
本発明におけるX層上に施す光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1,9−ノナンジオールジアクリレート20〜60質量%と、それと共重合可能な2官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーならびに2官能以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及び/又は2官能以上の多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー及び/又は2官能以上の多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる化合物40〜80質量%とからなる樹脂組成物の100質量部に光重合開始剤が1〜10質量部添加された光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0039】
本発明におけるハードコート塗料を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、刷毛、グラビアロール、ディッピング、流し塗り、スプレー、インクジェット、特許第4161182号公報に記載された方法などが挙げられる。
【0040】
前記多層フィルムにはその片面又は両面に反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理及び防眩処理のいずれか一つ以上を施すことができる。反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理及び防眩処理の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、反射低減塗料を塗布する方法、誘電体薄膜を蒸着する方法、帯電防止塗料を塗布する方法などが挙げられる。
【0041】
本発明における加飾用フィルムは前記多層フィルムをそのまま用いてもよいし、多層フィルムのX層上に意匠層を形成して加飾用フィルムとすることもできる。意匠層は、印刷などで絵柄などを表現した層であり、例えば、木目調、金属調、石目調、砂目調、布目調、幾何学模様、文字、記号などが挙げられる。また、意匠層は、装飾目的の他に導電性などの機能を持たせることを目的としてもよい。意匠層を構成する材料としては、X層や基材など隣接する層との密着性が良く積層できるものであればよい。
【0042】
本発明における意匠層を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。意匠層は、X層上に、直接積層されていてもよく、密着性向上のためにプライマー層を介して積層されていてもよい。例えば、連続グラビア印刷やシルク印刷などにより表面に木目調などや各種デザインの直接印刷を施す方法や、蒸着やスパッタリングなどにより金属メッキ調の加飾を施す方法、また印刷や蒸着などの加飾が施された他の樹脂フィルムをラミネートする方法が挙げられる。上記のようにして得られる加飾用フィルムは、透明性、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れ、基材と一体化されて加飾成形品を構成する加飾用フィルムとして有用である。
【0043】
本発明の加飾用フィルムは、Y層側が最外層として配置されるように熱可塑性樹脂シート上に積層して加飾用シートとすることができる。熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、それらのいずれか2種以上の混合物などが挙げられる。
【0044】
本発明における熱可塑性樹脂シートに加飾用フィルムを積層する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。熱可塑性樹脂シートは、X層上又は意匠層上に直接積層されていてもよく、接着剤層を介して積層されていてもよい。上記のようにして得られる加飾用シートは、透明性、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れ、基材と一体化されて加飾成形品を構成する加飾用シートとして有用である。
【0045】
上記のようにして得られる加飾用フィルム又は加飾用シートを、Y層側が最外層として配置されるように、熱可塑性樹脂成形品に積層することにより加飾成形品とすることができる。熱可塑性樹脂成形品を構成する樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、それらのいずれか2種以上の混合物などが挙げられる。
【0046】
本発明における加飾成形品を得るための方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、射出成形同時貼合法や三次元表面加飾成形法などが挙げられる。射出成形同時貼合法は、加飾用フィルム又は加飾用シートを射出成形金型外又は射出成形金型内で熱成形(真空成形、圧空成形、真空圧空成形等) により予備成形した後、あるいは予備成形することなく、射出成形金型内に配置し、そこに溶融樹脂を射出することにより、射出成形品を形成すると同時に成形品に加飾用フィルム又は加飾用シートを貼り合わせることによって行う。また、三次元表面加飾成形法は、射出成形後に加飾用フィルムを成形品と貼り合わせる場合、あるいは加飾用フィルムを金属製などのプラスチック製以外の基材と貼り合わせる場合に好適に用いられ、接着剤層を介して加飾用フィルム又は加飾用シートを基材表面に真空・圧着させることによって行う。上記のようにして得られた加飾成形品は、透明性、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れ、車両内外装部品、家電機器、ノートPC、携帯電話、家具など、種々の用途に使用できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
実施例及び比較例で得られた加飾用フィルムの評価は以下のように行った。
【0048】
<表面硬度評価>
JIS K 5600−5−4に準拠し、表面に対して角度45度、荷重750gでビニル共重合樹脂(A)層の表面に次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、きず跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度として評価した。ハードコート未処理の試験片については鉛筆硬度2H以上を合格とし、ハードコート処理の試験片については鉛筆硬度3H以上を合格とした。
【0049】
<トリミング性評価>
下記の形状安定性評価や熱成形性評価に用いる試験片を切り出した際に、端部の状態を肉眼観察した。割れや亀裂が生じなかったものを合格とした。
【0050】
<高温高湿下における形状安定性評価>
試験片を幅方向12cm×押出方向6cmの大きさに切り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下に24時間以上放置し状態調整した。温度85℃、相対湿度85%に設定した恒温恒湿槽の中に、押出方向が重力方向と並行するような方向で、試験片の上端中央部を支点として吊り下げた。24時間後、恒温恒湿槽から試験片を取り出し、そのまま温度23℃、相対湿度50%の環境下に吊り下げた。試験の前後で湾曲した試験片の凸部が上になるように水平面に置き、水平面からの最大高さを測定した。ビニル共重合樹脂(A)層が凸となる場合をプラスの反り量、凹となる場合をマイナスの反り量として表し、反り変化量を試験後の反り量から試験前の反り量を引き算して求めた。反り変化量が±3.0mm以内を合格とした。
【0051】
<熱成形性評価>
試験片を寸法25cm×40cmの大きさに切り出し、ビニル共重合樹脂(A)層を上にして圧空真空成形機(浅野研究所社製)の枠内にセットし、試験片の両面をヒーターで加熱した。試験片の表面温度が190℃になった時点で下から金型を上昇させて押し当てながら真空引きした。賦形品(縦20mm×横20mm×深さ12mm、コーナーエッジの曲率Rが0.8mmの形状)の角部が十分に成形され、シワや弛み、ゆず肌が生じなかったものを合格とした。
【0052】
<総合判定>
前記の表面硬度評価、トリミング性評価、高温高湿時における形状安定性評価、熱成形性評価の全てが合格のものを総合判定として合格、一つでも不合格があれば不合格とした。
【0053】
合成例1〔ビニル共重合樹脂(A1)の製造〕
メタクリル酸メチル/スチレン共重合樹脂(A1’)(新日鉄化学社製エスチレンMS750:メタクリル酸メチル/スチレン=75/25)をイソ酪酸メチル(関東化学社製)に溶解し、10重量%イソ酪酸メチル溶液を調整した。1000mLオートクレーブ装置に(A1’)の10重量%イソ酪酸メチル溶液を500重量部、10重量%Pd/C(NEケムキャット社製)を1重量部仕込み、水素圧9MPa、200℃で15時間保持してベンゼン環部位を水素化した。フィルターにより触媒を除去し、脱溶剤装置に導入してペレット状のビニル共重合樹脂(A1)を得た。H−NMRによる測定の結果、メタクリル酸メチル構成単位の割合は75モル%であり、また波長260nmにおける吸光度測定の結果、ベンゼン環部位の水素化反応率は99%であった。
【0054】
合成例2〔ビニル共重合樹脂(A2)の製造〕
合成例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(A1’)の代わりにメタクリル酸メチル/スチレン共重合樹脂(A2’)(新日鉄化学社製エスチレンMS600:メタクリル酸メチル/スチレン=63/37)とした以外は合成例1と同様にしてビニル共重合樹脂(A2)を得た。H−NMRによる測定の結果、メタクリル酸メチル構成単位の割合は63モル%であり、また波長260nmにおける吸光度測定の結果、ベンゼン環部位の水素化反応率は99%であった。
【0055】
合成例3〔ビニル共重合樹脂(A3)の製造〕
合成例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(A1’)の代わりにメタクリル酸メチル/スチレン/α−メチルスチレン共重合樹脂(A3’)(JSP社製クリアポール:メタクリル酸メチル/スチレン/α−メチルスチレン=75/18/7)とした以外は合成例1と同様にしてビニル共重合樹脂(A3)を得た。H−NMRによる測定の結果、メタクリル酸メチル構成単位の割合は75モル%であり、また波長260nmにおける吸光度測定の結果、ベンゼン環部位の水素化反応率は99%であった。
【0056】
合成例4〔ビニル共重合樹脂(A4)の製造〕
合成例1で使用したメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(A1’)の代わりにメタクリル酸メチル/スチレン共重合樹脂(A4’)(新日鉄化学社製エスチレンMS500:メタクリル酸メチル/スチレン=48/52)とした以外は合成例1と同様にしてビニル共重合樹脂(A4)を得た。H−NMRによる測定の結果、メタクリル酸メチル構成単位の割合は48モル%であり、また波長260nmにおける吸光度測定の結果、ベンゼン環部位の水素化反応率は99%であった。
【0057】
合成例5〔ビニル共重合樹脂(A)層に被覆する光硬化性樹脂組成物(a)の製造〕
撹拌翼を備えた混合槽に、トリス(2−アクロキシエチル)イソシアヌレート(Aldrich社製)60部と、ネオペンチルグリコールオリゴアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名:215D)40部と、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(チバ・ジャパン社製、商品名:DAROCUR TPO)1部と、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Aldrich社製)0.3部と、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバ・ジャパン社製、商品名:TINUVIN234)1部からなる組成物を導入し、40℃に保持しながら1時間撹拌して光硬化性樹脂組成物(a)を得た。
【0058】
合成例6〔ポリカーボネート樹脂(B)層に被覆する光硬化性樹脂組成物(b)の製造〕
撹拌翼を備えた混合槽に、1,9−ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名:ビスコート#260)40部と、6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(新中村化学工業社製、商品名:U−6HA)40部と、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1/2/4縮合物20部と、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(チバ・ジャパン社製、商品名:DAROCUR TPO)2.8部と、ベンゾフェノン(Aldrich社製)1部と、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバ・ジャパン社製、商品名:TINUVIN234)1部からなる組成物を導入し、40℃に保持しながら1時間撹拌して光硬化性樹脂組成物(b)を得た。
【0059】
実施例1
軸径35mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結されたTダイとを有する多層押出装置を用いて多層フィルムを成形した。軸径35mmの単軸押出機に合成例1で得たビニル共重合樹脂(A1)を連続的に導入し、シリンダ温度225℃、吐出速度12.0kg/hの条件で押し出した。また軸径65mmの単軸押出機にポリカーボネート樹脂(B)(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ユーピロンS−1000R、以下「PC」と称す場合がある)を連続的に導入し、シリンダ温度265℃、吐出速度42.0kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、温度270℃として(A1)と(B)を導入し積層した。その先に連結された温度260℃のTダイでフィルム状に押し出し、上流側から温度110℃、130℃とした2本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、(A1)と(B)の積層体(D1)を得た。得られた積層体の厚みは180μm、(A1)層の厚みは中央付近で40μmであった。表面硬度評価は2Hで合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−1.2mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は合格であった。
【0060】
実施例2
実施例1で得た積層体(D1)の(A)層上に合成例5で得た光硬化性樹脂組成物(a)を硬化後の塗膜厚さが1〜2μmとなるようバーコーターを用いて塗布しPETフィルムで覆って圧着し、光源距離12cm、出力80W/cmの高圧水銀灯を備えたコンベアでラインスピード1.5m/分の条件で紫外線を照射し硬化させてPETフィルムを剥離し、(A)層にハードコートを備えた積層体(E1)を得た。表面硬度評価は3Hで合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−1.0mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は合格であった。
【0061】
実施例3
実施例1で得た積層体(D1)の(A)層上に合成例5で得た光硬化性樹脂組成物(a)を硬化後の塗膜厚さが1〜2μmとなるようバーコーターを用いて塗布しPETフィルムで覆って圧着し、また(B)層上に合成例6で得た光硬化性樹脂組成物(b)を硬化後の塗膜厚さが1〜2μmとなるようバーコーターを用いて塗布しPETフィルムで覆って圧着し、光源距離12cm、出力80W/cmの高圧水銀灯を備えたコンベアでラインスピード1.5m/分の条件で紫外線を照射し硬化させてPETフィルムを剥離し、(A)層及び(B)層にハードコートを備えた積層体(E2)を得た。表面硬度評価は3Hで合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−1.0mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は合格であった。
【0062】
実施例4
実施例1で使用したビニル共重合樹脂(A1)の吐出速度を12.0kg/hとし、ポリカーボネート樹脂(B)の吐出速度を25.5kg/hとした以外は実施例1と同様にして(A1)と(B)の積層体(D2)を得た。得られた積層体の厚みは125μm、(A1)層の厚みは中央付近で40μmであった。表面硬度評価は2Hで合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−1.0mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は合格であった。
【0063】
実施例5
実施例1で使用したビニル共重合樹脂(A1)の代わりに合成例2で得たビニル共重合樹脂(A2)を使用した以外は実施例1と同様にして(A2)と(B)の積層体(D3)を得た。得られた積層体の厚みは180μm、(A2)層の厚みは中央付近で40μmであった。表面硬度評価は2Hで合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−0.8mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は合格であった。
【0064】
実施例6
実施例1で使用したビニル共重合樹脂(A1)の代わりに合成例3で得たビニル共重合樹脂(A3)を使用した以外は実施例1と同様にして(A3)と(B)の積層体(D4)を得た。得られた積層体の厚みは180μm、(A3)層の厚みは中央付近で40μmであった。表面硬度評価は2Hで合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−0.8mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は合格であった。
【0065】
比較例1
実施例1で使用したビニル共重合樹脂(A1)の代わりに合成例4で得たビニル共重合樹脂(A4)を使用した以外は実施例1と同様にして(A4)と(B)の積層体(D5)を得た。得られた積層体の厚みは180μm、(A4)層の厚みは中央付近で40μmであった。表面硬度評価はHで不合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−0.8mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は不合格であった。
【0066】
比較例2
実施例1で使用したビニル共重合樹脂(A1)の吐出速度を15.0kg/hとし、ポリカーボネート樹脂(B)の吐出速度を4.3kg/hとした以外は実施例1と同様にして(A1)と(B)の積層体(D6)を得た。得られた積層体の厚みは180μm、(A1)層の厚みは中央付近で140μmであった。表面硬度評価は2Hで合格、トリミング性評価は亀裂発生で不合格、高温高湿下における形状安定性評価は−1.3mmで合格、熱成形性評価は合格であり、総合判定は不合格であった。
【0067】
比較例3
実施例1で使用したビニル共重合樹脂(A1)の代わりにポリメタクリル酸メチル樹脂(A5)(ARKEMA社製、商品名:ALTUGLAS V020)を使用し、(A5)のシリンダ温度を250℃とした以外は実施例1と同様にして(A5)と(B)の積層体(D7)を得た。得られた積層体の厚みは180μm、(A5)層の厚みは中央付近で40μmであった。表面硬度評価は2Hで合格、トリミング性評価は合格、高温高湿下における形状安定性評価は−26.8mmで不合格、熱成形性評価はゆず肌発生で不合格であった。よって総合判定は不合格であった。
【0068】
比較例4
実施例1で使用したビニル共重合樹脂(A1)の代わりにポリメタクリル酸メチル樹脂(A5)(ARKEMA社製、商品名:ALTUGLAS V020)を使用し、(A5)のシリンダ温度を250℃、(A5)の吐出速度を12.0kg/hとし、ポリカーボネート樹脂(B)の吐出速度を15.0kg/hとし、フィードブロックの分配ピンを2種3層とした以外は実施例1と同様にして(B)の両面に(A5)が積層された積層体(D8)を得た。得られた積層体の厚みは180μm、(A5)層の厚みは中央付近でそれぞれ40μmであった。表面硬度評価は2Hで合格、トリミング性評価は亀裂発生で不合格、高温高湿下における形状安定性評価は+1.0mmで合格、熱成形性評価はゆず肌発生で不合格であった。よって総合判定は不合格であった。
【0069】
表1より、本発明の加飾用フィルムは、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れる。
【0070】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の加飾用フィルムは、表面硬度、トリミング性、熱成形性及び高温高湿環境下における形状安定性に優れるという特徴を有し、車両内外装部品、家電機器、ノートPC、携帯電話などの様々な部材表面の加飾に好適に用いられる。