特許第5910366号(P5910366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910366
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】結晶化ガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 32/02 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   C03B32/02
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-150498(P2012-150498)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-12617(P2014-12617A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 卓司
(72)【発明者】
【氏名】三戸 貴之
(72)【発明者】
【氏名】寺井 秀孝
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−278859(JP,A)
【文献】 特開平09−102125(JP,A)
【文献】 特開2002−087835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 32/00〜32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ガラス板と、セッターとを交互に積層して前記結晶性ガラス板を複数有する積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱して前記結晶性ガラス板を結晶化させることにより結晶化ガラス板を得る工程と、
を備え、
前記複数のセッターのうち、前記積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターの熱伝導率を相対的に低くし、それ以外の少なくとも一枚のセッターの熱伝導率を相対的に高くする、結晶化ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記熱伝導率が相対的に低いセッターの熱容量を、前記熱伝導率が相対的に高いセッターの熱容量よりも大きくする、請求項1に記載の結晶化ガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記複数のセッターのうち、前記積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターは、ムライト、アルミナ、コーディエライト、マグネシア及びジルコニアの少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の結晶化ガラス板の製造方法。
【請求項4】
結晶性ガラス板と、セッターとを交互に積層して前記結晶性ガラス板を複数有する積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱して前記結晶性ガラス板を結晶化させることにより結晶化ガラス板を得る工程と、
を備え、
前記複数のセッターのうち、前記積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターは、ムライト、アルミナ、コーディエライト、マグネシア及びジルコニアの少なくとも一種を含み、且つ、前記複数のセッターのうち、前記積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターの熱容量を相対的に大きくし、それ以外の少なくとも一枚のセッターの熱容量を相対的に小さくする、結晶化ガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記複数のセッターのうち、前記積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターが、それ以外の少なくとも一枚のセッターよりも厚い、請求項1〜のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記複数のセッターのうち、前記積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター以外のセッターの少なくとも一つは、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及びカーボンの少なくとも一種を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばプロジェクタのデフォーカス基板、マイクロレンズアレイ基板、調理器用トッププレートなどの部材は高強度であることや、耐熱性が高いことなどが要求され、これらの部材として、結晶化ガラス板が広く用いられている。結晶化ガラス板は、結晶性ガラス板を結晶化させることにより製造することができる。例えば、特許文献1には、セッター上に結晶性ガラス板を載置した状態で熱処理することにより結晶性ガラス板を結晶化させ、結晶化ガラス板を製造する方法が記載されている。また、特許文献1には、セッターは、アルミナ、ムライト、コーディエライト等のセラミックスにより構成することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−30984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の結晶化ガラス板を高効率に製造する観点から、セッターと結晶性ガラス板とを交互に複数積層した状態で熱処理し、複数の結晶性ガラス板の結晶化を一括して行うことも考えられる。しかしながら、この場合は、得られる結晶化ガラス板に反りが生じてしまったり、一部の結晶化ガラス板の結晶粒の大きさが所望する結晶粒の大きさの範囲から外れてしまったりする場合がある。従って、結晶化ガラス板の良品率が低くなる場合がある。
【0005】
本発明の主な目的は、結晶化ガラス板を高効率に、高い良品率で製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第1の結晶化ガラス板の製造方法では、結晶性ガラス板と、セッターとを交互に積層して結晶性ガラス板を複数有する積層体を得る。積層体を加熱して結晶性ガラス板を結晶化させることにより結晶化ガラス板を得る。複数のセッターのうち、積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターの熱伝導率を相対的に低くし、それ以外の少なくとも一枚のセッターの熱伝導率を相対的に高くする。
【0007】
本発明に係る第1の結晶化ガラス板の製造方法では、熱伝導率が相対的に低いセッターの熱容量を、熱伝導率が相対的に高いセッターの熱容量よりも大きくすることが好ましい。
【0008】
本発明に係る第2の結晶化ガラス板の製造方法では、結晶性ガラス板と、セッターとを交互に積層して結晶性ガラス板を複数有する積層体を得る。積層体を加熱して結晶性ガラス板を結晶化させることにより結晶化ガラス板を得る。複数のセッターのうち、積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターの熱容量を相対的に大きくし、それ以外の少なくとも一枚のセッターの熱容量を相対的に小さくする。
【0009】
本発明に係る第1及び第2の結晶化ガラス板の製造方法では、それぞれ、複数のセッターのうち、積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターが、それ以外の少なくとも一枚のセッターよりも厚くてもよい。
【0010】
本発明に係る第1及び第2の結晶化ガラス板の製造方法では、それぞれ、複数のセッターのうち、積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター以外のセッターの少なくとも一つは、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及びカーボンの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0011】
本発明に係る第1及び第2の結晶化ガラス板の製造方法では、それぞれ、複数のセッターのうち、積層体の最外層に位置する少なくとも一枚のセッターは、ムライト、アルミナ、コーディエライト、マグネシア及びジルコニアの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、結晶化ガラス板を高効率に、高い良品率で製造し得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態における熱処理工程を説明するための略図的断面図である。
図2】第2の実施形態における熱処理工程を説明するための略図的断面図である。
図3】変形例における熱処理工程を説明するための略図的断面図である。
図4】変形例における熱処理工程を説明するための略図的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0015】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものである。図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0016】
本実施形態では、結晶性ガラス板1から結晶化ガラス板を製造する方法について説明する。
【0017】
まず、複数の結晶性ガラス板1と複数のセッター2とを用意する。そして、複数の結晶性ガラス板1と複数のセッター2とを、交互に面接触させて積層することにより、複数の結晶性ガラス板1を有する積層体3を作製する。積層体3において、最外層は、セッター2により構成されていることが好ましい。また、セッター2の方が、結晶性ガラス板1よりも大面積に設けられていることが好ましい。
【0018】
結晶性ガラス板1の種類は、製造しようとする結晶化ガラス板に応じて適宜選択することができる。例えば、β石英固溶体を主結晶とする結晶化ガラス板を製造する場合には、β石英固溶体が生じ得る結晶性ガラス板1を用いることができる。例えば、βスポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラス板を製造する場合には、βスポジュメン固溶体が生じ得る結晶性ガラス板1を用いることができる。
【0019】
次に、積層体3を、所望の結晶が所望量析出する温度にまで加熱して結晶性ガラス板1を結晶化させることにより、結晶化ガラス板を製造することができる。積層体3を結晶核が析出し得る温度に保持し、多数の結晶核を析出させた後に、所望の結晶粒が成長し、所望量析出する温度にまで加熱することが好ましい。加熱温度や加熱時間は、結晶性ガラス板1の組成や得ようとする結晶化ガラス板における結晶粒子径などに応じて適宜設定することができる。加熱温度は、一般的には、880℃〜930℃程度である。加熱時間は、一般的には、15分〜60分程度である。
【0020】
ところで、結晶化ガラス板の結晶化状態は、熱処理温度によって左右される。このため、積層体中に温度むらが生じないようにすることが重要である。例えば、すべてのセッターを、高い熱伝導率を有し、かつ小さな熱容量を有するセッターにより構成した場合は、積層体中において熱が伝導しやすい。このため、積層体の外側部分に位置する結晶性ガラス板と、積層体の中央に位置する結晶性ガラス板との間の温度差が小さくなる。しかしながら、この場合は、積層体の外側部分に位置する結晶性ガラス板の温度が雰囲気温度の変化により変化しやすい。通常、積層体の加熱は加熱炉内で行われるが、加熱炉内の温度は、必ずしも厳密に一定に保持されているとはいえない。加熱炉内の温度は、種々の原因によって変化する。セッターの熱伝導率が高く、熱容量が小さな場合は、加熱炉内の温度が変化すると、積層体の外側部分に位置する結晶性ガラス板の温度が変化しやすい。従って、積層体の外側部分に位置する結晶性ガラス板に反りが生じやすい。
【0021】
積層体の外側部分に位置する結晶性ガラス板に反りが生じることを抑制する観点からは、セッターの熱伝導率を高くし、熱容量を大きくすることが好ましい。しかしながら、この場合は、積層体において熱が伝導しにくくなる。このため、積層体の外側部分に位置する結晶性ガラス板の温度と、積層体の中央に位置する結晶性ガラス板の温度とに差が生じやすい。従って、得られる結晶化ガラス板の結晶化状態にばらつきが生じやすい。
【0022】
ここで、本実施形態では、複数のセッター2のうち、積層体3の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター2a、2bの熱伝導率を相対的に低くするか、または熱容量を相対的に大きくし、それ以外の少なくとも一枚のセッター2cの熱伝導率を相対的に高くするか、または熱容量を相対的に小さくする。このため、積層体3が配された雰囲気の温度が変化しても、その温度変化に伴って、積層体3の外側部分に配された結晶性ガラス板1の温度が変化しにくい。従って、積層体3の外側部分に配された結晶性ガラス板1に反りが生じにくい。
【0023】
また、複数のセッター2のうち、積層体3の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター2a、2b以外の少なくとも一枚のセッター2cの熱伝導率が相対的に高くされているか、または熱容量が相対的に小さくされている。このため、積層体3において熱が伝導しやすい。よって、積層体3の外側部分に位置する結晶性ガラス板1の温度と、積層体3の中央部分に位置する結晶性ガラス板1の温度との差を小さくすることができる。従って、積層体3の外側部分に位置する結晶性ガラス板1から製造された結晶化ガラス板における結晶化状態と、積層体3の中央部分に位置する結晶性ガラス板1から製造された結晶化ガラス板における結晶化状態との差を小さくすることができる。
【0024】
従って、本実施形態の方法によれば、結晶化ガラス板を高効率に、高い良品率で製造し得る。
【0025】
結晶性ガラス板1の反り及び温度むらをより小さくする観点からは、複数のセッター2のうち、積層体3の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター2a、2bの熱伝導率を相対的に低くし、それ以外の少なくとも一枚のセッター2cの熱伝導率を相対的に高くすると共に、積層体3の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター2a、2bの熱容量を相対的に大きくし、それ以外の少なくとも一枚のセッター2cの熱容量を相対的に小さくすることが好ましい。また、複数のセッター2のうち、積層体3の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター2a、2b以外のセッターのすべての熱伝導率を相対的に高くするか、熱容量を相対的に小さくすることが好ましく、セッター2a、2b以外のセッターのすべての熱伝導率を相対的に高くすると共に、熱容量を相対的に小さくすることがより好ましい。
【0026】
セッター2cの熱伝導率は、セッター2a、2bの熱伝導率の5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましい。
【0027】
セッター2a、2bの熱容量は、セッター2cの熱容量の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。但し、セッター2a、2bの熱容量が大きすぎると、積層体3の熱容量が大きくなりすぎて結晶性板ガラス1が所望の温度に達せず良品率が低下する場合がある。従って、セッター2a、2bの熱容量は、セッター2cの熱容量の50倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましい。
【0028】
なお、熱伝導率を相対的に小さくしたり、熱容量を相対的に大きくするセッター2a、2bは、最も最外層に位置する1枚のセッターのみであってもよいし、最外層側に位置する、例えば2枚〜3枚のセッターであってもよい。
【0029】
なお、熱伝導率が相対的に高く、熱容量が相対的に小さなセッターとしては、例えば、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及びカーボンの少なくとも一種を含むセッターが挙げられ、熱伝導率が相対的に低く、熱容量が相対的に大きなセッターとしては、例えば、ムライト、アルミナ、コーディエライト、マグネシア及びジルコニアの少なくとも一種を含むセッターが挙げられる。従って、セッター2a、2bをムライト、アルミナ、コーディエライト、マグネシア及びジルコニアの少なくとも一種を含むセッターとし、セッター2cを、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及びカーボンの少なくとも一種を含むセッターとしてもよい。
【0030】
また、図2に示されるように、セッター2a、2bをセッター2cよりも厚くすることによってセッター2a、2bの熱容量を大きくしてもよい。その場合、セッター2a、2bの厚みは、セッター2cの厚みの1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。但し、セッター2a、2bが厚すぎると積層体3の高さが高くなりすぎて焼成炉内に設置できない場合がある。従って、セッター2a、2bの厚みは、セッター2cの厚みの10倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましい。もっとも、セッター2a、2bとセッター2cとで構成材料が異なる場合などにおいては、セッター2a、2bの厚みと、セッター2cの厚みとは同じであってもよい。
【0031】
なお、セッター2a、2bの厚みを厚くするために、セッター2a、2bを複数のセッターの積層体により構成してもよい。
【0032】
また、セッター2a、2bの気孔率をセッター2cの気孔率よりも高くすることにより、セッター2a、2bの熱伝導率をセッター2cの熱伝導率よりも低くしてもよい。
【0033】
なお、積層体3における結晶性ガラス板1の積層数が多くなるほど、積層体3における結晶性ガラス板1の温度むらの問題が生じやすいため、本実施形態の技術は、積層体3における結晶性ガラス板1の積層数が3以上の場合により好適に用いられ、5以上の場合にさらに好適に用いられる。
【0034】
なお、図3及び図4に示すように、複数の積層体3間で、セッター2を共通に用いてもよい。すなわち、厚み方向において隣り合うセッター2間に複数の結晶性ガラス板1を配置することにより、1セットのセッター2を用いて複数の積層体3を作製してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…結晶性ガラス板
2…セッター
2a、2b…積層体3の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター
2c…積層体3の最外層に位置する少なくとも一枚のセッター以外の少なくとも一枚のセッター
3…積層体
図1
図2
図3
図4