(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、高力ボルト6は、高温にさらされると、普通鋼材に比べて強度低下することが知られており、このことから、上記従来の鉄骨梁の接合構造Aでは、火災時に、先行して高力ボルト6が破断し、これに伴い鉄骨梁2が落下するおそれがある。このため、実設計では、火災時を考慮し、高力ボルト6の本数を割り増すようにしたり、接合部3(高力ボルト6)の温度が例えば550℃以上にならないように耐火被覆を割り増すようにしている。
【0005】
なお、火災によって高力ボルト6に破断が生じる現象は、火災によって加熱された鉄骨梁2が徐々に冷却されてゆく際に、高力ボルト6に鉄骨梁2などの冷却収縮に伴い作用する引張力に起因するせん断力によって生じる場合もある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、鉄骨梁が落下することがなく、鉄骨梁に作用する荷重(せん断力)を安定して柱や大梁などの鉄骨部材に伝達可能な鉄骨梁の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明の鉄骨梁の接合構造は、柱あるいは梁の鉄骨部材に一体に突設された添え板と、H形鋼の鉄骨梁のウェブとを高力ボルトで接合してなる鉄骨梁の接合構造において、前記添え板が、前記鉄骨梁のウェブに沿って配設され、前記ウェブに前記高力ボルトで接合される接合板部と、前記鉄骨梁の上フランジの下方に、且つ前記上フランジに沿って配設される支持板部とを備えてL字状に形成され
、前記鉄骨梁の材軸方向一端部側を前記鉄骨部材に接合するための一方の添え板と、前記鉄骨梁の他端部側を前記鉄骨部材に接合するための他方の添え板とが共に、前記鉄骨梁の前記ウェブを間に一方の側に配設され、且つ、前記鉄骨梁の上フランジと前記添え板の支持板部とにそれぞれボルト挿通孔が形成され、前記上フランジと前記支持板部の互いの前記ボルト挿通孔に挿通した横倒れ防止用ボルトで前記鉄骨梁の上フランジと前記添え板の支持板部とを接合するように構成されており、 前記上フランジと前記支持板部の少なくとも一方の前記ボルト挿通孔が前記鉄骨梁の材軸方向に延びる長孔として形成されていることを特徴とする。
【0009】
この発明においては、柱あるいは梁の鉄骨部材と鉄骨梁を接合する接合部の高力ボルトが火災によって加熱され、この高力ボルトに万が一に破断が発生した際に、添え板の支持板部に鉄骨梁の上フランジが当接して、鉄骨梁を添え板で支持することが可能になる。これにより、たとえ火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、鉄骨梁が落下することを防止でき、鉄骨梁に作用する荷重(せん断力)を添え板を通じて鉄骨部材に伝達させることができる。
この発明においては、火災によって高力ボルトに破断が発生した際に、鉄骨梁のウェブを間に一方の側に配設された両添え板の支持板部に鉄骨梁の一端部側と他端部側の一方の側の上フランジが当接して鉄骨梁を支持することができる。また、横倒れ防止用ボルトとナットで鉄骨梁の上フランジと添え板の支持板部が接合されているため、鉄骨梁が横倒れすることを防止できる。これにより、火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、確実に、鉄骨梁が落下することを防止できるとともに、鉄骨梁に作用する荷重を添え板を通じて鉄骨部材に伝達させることができる。
また、鉄骨梁の一端部側と他端部側ともにウェブを間に一方の側に添え板を配設して接合するようにしたことで、鉄骨梁を設置する施工時に、鉄骨梁を複雑に取り回すことなく、所定位置に鉄骨梁を設置し、添え板に高力ボルトで接合することができる。これにより、火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、確実に、鉄骨梁が落下することを防止できるように構成しても、従来と同様の鉄骨梁の施工性を確保することができる。
さらに、一方の側の上フランジと支持板部の少なくとも一方のボルト挿通孔が鉄骨梁の材軸方向に延びる長孔として形成されているため、横倒れ防止用ボルトとナットで鉄骨梁の上フランジと添え板の支持板部を接合するように構成した場合であっても、長孔の材軸方向の長さの分だけ、鉄骨梁と添え板の相対移動を許容することができる。これにより、火災によって鉄骨梁に熱伸びが生じたり、火災後に鉄骨梁が徐々に冷却されて収縮が生じる際に、横倒れ防止用ボルトに大きなせん断力が作用することがなく、確実に横倒れ防止用ボルトに破断が生じることを防止できる。
さらに、火災時に、比較的温度が低くなる鉄骨梁の上フランジと添え板の支持板部を横倒れ防止用ボルトで接合するようにしたことで、横倒れ防止用ボルトが火災時の熱によって破断することも防止できる。よって、火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、より確実に、鉄骨梁が落下することを防止できるとともに、鉄骨梁に作用する荷重を添え板を通じて鉄骨部材に伝達させることができる。
【0010】
また、本発明の鉄骨梁の接合構造においては、柱あるいは梁の鉄骨部材に一体に突設された添え板と、H形鋼の鉄骨梁のウェブとを高力ボルトで接合してなる鉄骨梁の接合構造において、前記添え板が、前記鉄骨梁のウェブに沿って配設され、前記ウェブに前記高力ボルトで接合される接合板部と、前記鉄骨梁の上フランジの下方に上下方向に所定間隔をあけ、且つ前記上フランジに沿って配設される支持板部とを備えてL字状に形成されていることを特徴とする。
また、前記鉄骨部材に一体に突設されるとともに、前記ウェブを間に前記添え板と反対側の上フランジの下方に、且つ前記上フランジに沿って配設される横倒れ防止部材を備えていることが望ましい。
【0011】
この発明においては、火災によって高力ボルトに破断が発生した際に、鉄骨梁のウェブを間に片側の上フランジが添え板の支持板部に当接して、鉄骨梁を添え板で支持するとともに、横倒れ防止部材に反対側の上フランジが当接し、この横倒れ防止部材によっても鉄骨梁を支持することができる。そして、このようにウェブを間に両側がそれぞれ添え板の支持板部と横倒れ防止部材で支持されることにより、鉄骨梁が横倒れすることを防止できる。これにより、火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、確実に、鉄骨梁が落下することを防止できるとともに、鉄骨梁に作用する荷重を添え板を通じて鉄骨部材に伝達させることができる。
【0012】
さらに、本発明の鉄骨梁の接合構造においては、前記鉄骨梁の材軸方向一端部側を前記鉄骨部材に接合するための一方の添え板を、前記鉄骨梁の前記ウェブを間に一方の側に配設し、前記鉄骨梁の他端部側を前記鉄骨部材に接合するための他方の添え板を、前記ウェブを間に他方の側に配設して構成されていてもよい。
【0013】
この発明においては、鉄骨梁の一端部側がウェブを間に一方の側に配設した一方の添え板に接合され、鉄骨梁の他端部側がウェブを間に他方の側に配設した他方の添え板に接合されるため、各添え板の支持板部によって、ウェブを間に鉄骨梁の両側がそれぞれ支持されることになり、鉄骨梁が横倒れすることを防止できる。これにより、火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、確実に、鉄骨梁が落下することを防止できるとともに、鉄骨梁に作用する荷重を添え板を通じて鉄骨部材に伝達させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鉄骨梁の接合構造においては、火災によって接合部の高力ボルトに破断が発生した際に、添え板の支持板部に上フランジが当接して、鉄骨梁を添え板で支持することができる。これにより、火災によって高力ボルトに破断が生じた場合であっても、鉄骨梁が落下することを防止でき、鉄骨梁に作用する荷重を添え板を通じて鉄骨部材に伝達させることができる。よって、火災によって高力ボルトに破断が生じることに起因して、鉄骨構造建物が損壊することを確実に回避することが可能になる。さらに、鉄骨梁のウェブに配した高力ボルトが火災時に破断してもせん断力は確実に伝達できるため、当該接合部の耐火被覆の低減もしくは削除も可能となり、耐火被覆工事の簡略化、さらには耐火被覆工事を必要としない無耐火被覆の接合構造にすることも可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、
図1から
図4を参照し、本発明の第1実施形態に係る鉄骨梁の接合構造について説明する。
【0022】
本実施形態の鉄骨梁の接合構造Bは、
図1から
図3に示すように、鉄骨構造建物の角鋼管などの鉄骨柱(鉄骨部材)1と、H形鋼である鉄骨梁2とを接合する接合部(継手部)3の構造であって、鉄骨柱1の一側面1aに溶接などで一側端を接続し、横方向T1に突出して一体に配設された添え板10と、上下方向T2の所定位置に横方向T1に材軸方向O1を向けて配設された鉄骨梁2のウェブ5と添え板10を接合するための複数の高力ボルト6(及びナット7)とを備えて構成されている。
【0023】
また、添え板10は、鉄骨梁2のウェブ5の一面5aに面接触するようにウェブ5に沿って配設される平板状の接合板部10aと、接合板部10aの上端に一端を接続し、接合板部10aに直交するように延設された平板状の支持板部10bとを備えてL字状に形成されている。さらに、接合板部10aには、一面から他面に貫通し、上下方向T2に所定の間隔をあけて配設された複数のボルト挿通孔11が形成されている。
【0024】
このように形成した添え板10は、支持板部10bを上方に配し、且つ接合板部10aを上下方向T2に配し、鉄骨柱1の一側面1aの幅方向略中央の所定位置に接続して突設されている。
【0025】
また、鉄骨梁2には、鉄骨柱1と接合するウェブ5の端部2a側に、ウェブ5の一面5aから他面5bに貫通し、上下方向T2に所定の間隔をあけて配設された複数のボルト挿通孔12が形成されている。
【0026】
そして、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Bでは、ウェブ5の一面5aを添え板10の接合板部10aに面接触させつつ鉄骨梁2を所定位置に配設すると、鉄骨梁2のウェブ5に形成された複数のボルト挿通孔12がそれぞれ、添え板10の接合板部10aに形成されたボルト挿通孔11と連通する。このように互いに連通した鉄骨梁2と添え板10のボルト挿通孔11、12に高力ボルト6を挿通し、添え板10の接合板部10a及び鉄骨梁2のウェブ5を貫通した高力ボルト6の軸部にナット7を緊締することにより、鉄骨梁2が添え板10を介して鉄骨柱1の所定位置に接合される。
【0027】
また、このように鉄骨梁2と添え板10を接合するとともに、添え板10の支持板部10bが、鉄骨梁2のウェブ5を間に一方の側S1の上フランジ13a(13)の下方に、上下方向T2に所定の間隔をあけ、且つこの一方の側S1の上フランジ13aに沿って配設される。
【0028】
そして、鉄骨柱1に一体に突設された添え板10と、鉄骨梁2のウェブ5とを高力ボルト6で接合してなる本実施形態の鉄骨梁の接合構造Bにおいては、
図4に示すように、添え板10の支持板部10bが鉄骨梁2の上フランジ13の下方に配設されているため、火災によって接合部3の高力ボルト6が加熱され、高力ボルト6が破断した際には、添え板10の支持板部10bに、落下しようとする鉄骨梁2の上フランジ13が当接し、この鉄骨梁2を添え板10で支持することができる。
【0029】
したがって、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Bによれば、万が一に火災によって高力ボルト6に破断が生じた場合であっても、鉄骨梁2が落下することを防止でき、鉄骨梁2にする荷重(せん断力)を添え板10を通じて鉄骨柱1に伝達させることができる。よって、火災によって高力ボルト6に破断が生じることに起因して、鉄骨構造建物や鉄骨部材が損壊することを確実に回避することが可能になる。
【0030】
また、鉄骨梁2のウェブ5に配した高力ボルト6が火災時に破断してもせん断力は確実に伝達できるため、当該接合部の耐火被覆の低減もしくは削除も可能となり、耐火被覆工事の簡略化、さらには耐火被覆工事を必要としない無耐火被覆の接合構造Bにすることも可能になる。
【0031】
次に、
図5から
図8を参照し、本発明の第2実施形態に係る鉄骨梁の接合構造について説明する。本実施形態の鉄骨梁の接合構造は、第1実施形態と同様、鉄骨柱(鉄骨部材)と鉄骨梁を接合する接合部の構造に関するものである。よって、本実施形態では、第1実施形態と同様の構成に対し同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0032】
本実施形態の鉄骨梁の接合構造Cは、
図5から
図7に示すように、第1実施形態と同様、鉄骨柱1の一側面1aに一側端を接続し、横方向T1に突設された添え板10と、上下方向T2の所定位置に横方向に材軸方向O1を向けて配設された鉄骨梁2のウェブ5と添え板10を接合するための複数の高力ボルト6(及びナット7)とを備えて構成されている。
【0033】
また、第1実施形態と同様に、添え板10が、鉄骨梁2のウェブ5の一面5aに面接触するようにウェブ5に沿って配設される平板状の接合板部10aと、接合板部10aに直交して延設された平板状の支持板部10bとを備えてL字状に形成されている。
【0034】
そして、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Cにおいても、ウェブ5の一面5aを添え板10の接合板部10aに面接触させつつ鉄骨梁2を所定位置に配設し、互いに連通した鉄骨梁2と添え板10のボルト挿通孔11、12に高力ボルト6を挿通してナット7を緊締することにより、鉄骨梁2が添え板10を介して鉄骨柱1の所定位置に接合される。また、このように鉄骨梁2と添え板10を接合するとともに、添え板10の支持板部10bが、鉄骨梁2のウェブ5を挟んで一方の側S1の上フランジ13a(13)の下方に、上下方向T2に所定の間隔をあけ、且つこの一方の側S1の上フランジ13aに沿って配設される。
【0035】
一方、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Cにおいては、
図6及び
図7に示すように、鉄骨柱1の一側面1aに一端を接続して一体に突設される横倒れ防止部材15を備えて構成されている。また、この横倒れ防止部材15は、平板状に形成され、鉄骨梁2のウェブ5を間に添え板10と反対側の上フランジ13b(13)の下方に、且つ上フランジ13bに沿うように板面を上下方向T2に向けて配設されている。さらに、このとき、横倒れ防止部材15は、その上端面が添え板10の支持板部10bの上面と上下方向T2の同位置に配されるように設けられている。
【0036】
そして、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Cにおいては、
図8に示すように、まず、添え板10の支持板部10bが鉄骨梁2の上フランジ13の下方に配設されているため、第1実施形態と同様に、火災によって接合部3の高力ボルト6が加熱され、高力ボルト6が破断した際に、添え板10の支持板部10bに落下しようとする鉄骨梁2の上フランジ13が当接し、鉄骨梁2が添え板10で支持される。
【0037】
ここで、高力ボルト6が破断し、鉄骨梁2の端部2aの拘束が一気に弱まっているため、第1実施形態のように、添え板10の支持板部10bに鉄骨梁2の一方の上フランジ13aのみを当接させた状態で鉄骨梁2が支持される場合には、鉄骨梁2が横倒れして抜け落ちてしまうおそれがある。
【0038】
これに対し、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Cでは、鉄骨梁2のウェブ5を間に添え板10と反対側の他方の側S2の上フランジ13bの下方に横倒れ防止部材15が配設されているため、火災によって高力ボルト6に破断が発生した際には、添え板10の支持板部10bに鉄骨梁2のウェブ5を挟んで片側の上フランジ13aが当接して鉄骨梁2が支持されるとともに、横倒れ防止部材15に反対側の上フランジ13bが当接し、この横倒れ防止部材15によっても鉄骨梁2を支持することができる。
【0039】
したがって、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Cによれば、ウェブ5を間に両側S1、S2がそれぞれ添え板10の支持板部10bと横倒れ防止部材15で支持されることで、鉄骨梁2が横倒れによって抜け落ちることを防止でき、火災によって高力ボルト6に破断が生じた場合であっても、確実に鉄骨梁2が落下することを防止できる。
【0040】
これにより、火災によって高力ボルト6に破断が生じた場合であっても、第1実施形態と比較し、より確実に、鉄骨梁2が落下することを防止でき、鉄骨梁2に作用する荷重を添え板10を通じて鉄骨柱1に伝達させることが可能になる。よって、火災によって高力ボルト6に破断が生じることに起因して、鉄骨構造建物や鉄骨部材が損壊することを確実に回避することが可能になる。
【0041】
また、第1実施形態と同様、鉄骨梁2のウェブ5に配した高力ボルト6が火災時に破断してもせん断力は確実に伝達できるため、当該接合部の耐火被覆の低減もしくは削除も可能となり、耐火被覆工事の簡略化、さらには耐火被覆工事を必要としない無耐火被覆の接合構造Cにすることも可能になる。
【0042】
次に、
図9、
図10(及び
図1から
図4)を参照し、本発明の第3実施形態に係る鉄骨梁の接合構造について説明する。本実施形態の鉄骨梁の接合構造は、第1、第2実施形態と同様、鉄骨柱と鉄骨梁を接合する接合部の構造に関するものである。よって、本実施形態では、第1、第2実施形態と同様の構成に対し同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0043】
本実施形態の鉄骨梁の接合構造Dは、
図9及び
図10(
図1から
図4参照)に示すように、第1実施形態と同様、鉄骨柱1の一側面1aに接続し、横方向T2に突出して一体に配設された添え板10と、鉄骨梁2のウェブ5と添え板10を接合するための複数の高力ボルト6(及びナット7)とを備えて構成されている。
【0044】
また、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Dでは、第1実施形態と同様に、添え板10が、鉄骨梁2のウェブ5に沿って配設される平板状の接合板部10aと、接合板部10aに直交して配設された平板状の支持板部10bとを備えてL字状に形成されている。
【0045】
そして、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Dにおいても、ウェブ5の一面5aを添え板10の接合板部10aに面接触させつつ鉄骨梁2を所定位置に配設し、互いに連通した鉄骨梁2と添え板10のボルト挿通孔11、12に高力ボルト6を挿通してナット7を緊締することにより、鉄骨梁2が添え板10を介して鉄骨柱1の所定位置に接合される。
【0046】
一方、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Dは、
図9及び
図10に示すように、鉄骨梁2の材軸方向O1一端部2a側を一方の鉄骨柱1に接合するための一方の添え板10及び高力ボルト6と、鉄骨梁2の材軸方向O1他端部2b側を他方の鉄骨柱1に接合するための他方の添え板10及び高力ボルト6とを備えて構成されている。
【0047】
そして、この接合構造Dでは、一方の添え板10が鉄骨梁2のウェブ5を間に一方の側S1に配設され、他方の添え板10がウェブ5を間に他方の側S2に配設して構成されている。
【0048】
すなわち、一方の添え板10は、その接合板部10aが鉄骨梁2のウェブ5の一端部2a側の一面5aに面接触し、支持板部10bがウェブ5を挟んで一方の側S1の上フランジ13aの下方に配され、高力ボルト6によって鉄骨梁2のウェブ5に接合されている。これに対し、他方の添え板10は、その接合板部10aが鉄骨梁2のウェブ5の他端部2b側の他面5bに面接触するとともに、支持板部10bがウェブ5を挟んで他方の側S2の上フランジ13bの下方に配され、高力ボルト6によって鉄骨梁2のウェブ5に接合されている。これにより、鉄骨梁2は、ウェブ5を間に互いに反対側S1、S2に配された一方の添え板10と他方の添え板10を介して、一端部2a側と他端部2b側がそれぞれ一方の鉄骨柱1と他方の鉄骨柱1に接合されている。
【0049】
そして、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Dにおいては、火災によって接合部3の高力ボルト6が加熱され、高力ボルト6が破断した際に、一方の添え板10の支持板部10bに、落下しようとする鉄骨梁2の一方の側S1の上フランジ13a(13)が当接し、この鉄骨梁2の一端部2a側を一方の添え板10で支持することができる。また、他方の添え板10の支持板部10bに、落下しようとする鉄骨梁2の他方の側S2の上フランジ13b(13)が当接し、この鉄骨梁2の他端部2b側を他方の添え板10で支持することができる。
【0050】
したがって、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Dにおいては、鉄骨梁2の一端部2a側がウェブ5を間に一方の側S1に配設した一方の添え板10に接合され、鉄骨梁2の他端部2b側がウェブ5を間に他方の側S2に配設した他方の添え板10に接合されるため、各添え板10の支持板部10bによって、ウェブ5を間に鉄骨梁2の両側S1、S2がそれぞれ支持されることになり、鉄骨梁2が横倒れすることを防止できる。これにより、火災によって高力ボルト6に破断が生じた場合であっても、確実に、鉄骨梁2が落下することを防止できるとともに、鉄骨梁2に作用する荷重を添え板10を通じて鉄骨柱1に伝達させることができる。
【0051】
よって、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Dによれば、第1実施形態と比較し、より確実に、鉄骨梁2が落下することを防止でき、鉄骨梁2に作用する荷重を添え板10を通じて鉄骨柱1に伝達させることができ、火災によって高力ボルト6に破断が生じることに起因して、鉄骨構造建物や鉄骨部材が損壊することをより確実に回避することが可能になる。
【0052】
また、やはり、第1実施形態と同様、鉄骨梁2のウェブ5に配した高力ボルト6が火災時に破断してもせん断力は確実に伝達できるため、当該接合部の耐火被覆の低減もしくは削除も可能となり、耐火被覆工事の簡略化、さらには耐火被覆工事を必要としない無耐火被覆の接合構造Dにすることも可能になる。
【0053】
次に、
図11から
図14(及び
図1から
図4)を参照し、本発明の第4実施形態に係る鉄骨梁の接合構造について説明する。本実施形態の鉄骨梁の接合構造は、第1、第2、第3実施形態と同様、鉄骨柱と鉄骨梁を接合する接合部の構造に関するものである。よって、本実施形態では、第1、第2、第3実施形態と同様の構成に対し同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0054】
本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eは、
図11(
図1から
図4参照)に示すように、第1及び第3実施形態と同様、鉄骨柱1の一側面1aに接続し、横方向T1に突出して一体に配設された添え板10と、鉄骨梁2のウェブ5と添え板10を接合するための複数の高力ボルト6(及びナット7)とを備えて構成されている。
【0055】
また、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eでは、第1及び第3実施形態と同様に、添え板10が、鉄骨梁2に沿って配設される平板状の接合板部10aと、接合板部10aに直交して配設された平板状の支持板部10bとを備えてL字状に形成されている。
【0056】
そして、ウェブ5の一面5aを添え板10の接合板部10aに面接触させつつ鉄骨梁2を所定位置に配設し、互いに連通した鉄骨梁2と添え板10のボルト挿通孔11、12に高力ボルト6を挿通してナット7を緊締することにより、鉄骨梁2が添え板10を介して鉄骨柱1の所定位置に接合される。
【0057】
さらに、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eは、第3実施形態と同様、鉄骨梁2の材軸方向O1一端部2a側を一方の鉄骨柱1に接合するための一方の添え板10及び高力ボルト6と、鉄骨梁2の材軸方向O1他端部2b側を他方の鉄骨柱1に接合するための他方の添え板10及び高力ボルト6とを備えて構成されている。
【0058】
一方、本実施形態においては、一方の添え板10と他方の添え板10をともに、鉄骨梁2のウェブ5を間に一方の側S1に配設して構成されている。すなわち、一方の添え板10と他方の添え板10は、ともに、接合板部10aが鉄骨梁2のウェブ5の一端部2a側と他端部2b側の一面5aに面接触するとともに、支持板部10bがウェブ5を間に一方の側S1の上フランジ13a(13)の下方に配されて鉄骨梁2のウェブ5に接合されている。これにより、鉄骨梁2は、ウェブ5を挟んで互いに同じ側S1に配された一方の添え板10と他方の添え板10で、一端部2a側と他端部2b側がそれぞれ一方の鉄骨柱1と他方の鉄骨柱1に接合されている。
【0059】
さらに、このとき、
図11から
図13に示すように、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eでは、各添え板10の支持板部10bにボルト挿通孔16が形成されている。また、鉄骨梁2の一方の側S1の上フランジ13aの一端部2a側と他端部2b側にもそれぞれ、ボルト挿通孔17が形成されている。そして、各添え板10は、鉄骨梁2の一方の側S1の上フランジ13aと互いのボルト挿通孔16、17が連通するように配設されている。また、互いに連通したボルト挿通孔16、17に横倒れ防止用ボルト18を挿通し、ナット19を締結することによって、一方の添え板10の支持板部10bと鉄骨梁2の一端部2a側の上フランジ13a、他方の添え板10の支持板部10bと鉄骨梁2の他端部2b側の上フランジ13aが接合されている。
【0060】
さらに、鉄骨梁2のウェブ5を間に一方の側S1の上フランジ13aと添え板10の支持板部10bとにそれぞれ形成された2つのボルト挿通孔16、17のうち、少なくとも一方のボルト挿通孔16(17)が鉄骨梁2の材軸方向O1に延びる長孔として形成されている。
【0061】
そして、この接合構造Eでは、まず、一方の添え板10と他方の添え板10が、ともに、鉄骨梁2のウェブ5を間に一方の側S1に配設されているため、火災によって接合部3の高力ボルト6が加熱され、高力ボルト6が破断した際に、両添え板10の支持板部10bに、落下しようとする鉄骨梁2の一端部2a側と他端部2b側の上フランジ13aが当接して、鉄骨梁2が支持される。
【0062】
また、このように鉄骨梁2のウェブ5を間に一方の側S1に配設された両添え板10で鉄骨梁2を支持するように構成すると、鉄骨梁2が横倒れによって抜け落ちるおそれが生じるが、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eでは、各添え板10の支持板部10bと鉄骨梁2の上フランジ13aが横倒れ防止用ボルト18とナット19で接合されているため、火災によって高力ボルト6に破断が生じ、両添え板10で支持された鉄骨梁2に横倒れが生じない。
【0063】
ここで、加熱炉内にH形鋼の鉄骨梁2を設置するとともに、この鉄骨梁2に常温で梁母材の常温弾性限界モーメントの0.39倍の荷重を載荷し、30分間荷重を保持した後、鉄骨梁2をISO834標準火災温度曲線で加熱する実験を行った。そして、
図14は、鉄骨梁2の上フランジ13、下フランジ、ウェブ5の温度変化を計測した結果を示している。この試験結果によって、火災時には、下フランジとウェブ5に比べ、上フランジ13の温度が低く、且つ上フランジ13の温度上昇が緩やかに生じることが確認された。
【0064】
そして、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eでは、横倒れ防止用ボルト18によって、各添え板10の支持板部10bを、火災時に温度が比較的低い鉄骨梁2の上フランジ13aに接合するようにしている。このため、横倒れ防止用ボルト18は、火災時に加熱されにくく、その結果として、火災によって破断しにくい。これにより、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eでは、横倒れ防止用ボルト18によって、各添え板10の支持板部10bを鉄骨梁2の上フランジ13aに接合するようにしたことで、より確実に、鉄骨梁2の横倒れが防止できる。
【0065】
一方、火災時に、鉄骨梁2が加熱されると、鉄骨梁2自体に伸びが生じる(線膨張が生じる)。そして、各添え板10の支持板部10bと鉄骨梁2の上フランジ13aを横倒れ防止用ボルト18で接合すると、この鉄骨梁2の火災時の熱伸びによって横倒れ防止用ボルト18に大きなせん断力が作用して破断するおそれが生じる。
【0066】
これに対し、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eにおいては、横倒れ防止用ボルト18を挿通する鉄骨梁2の上フランジ13aと添え板10の支持板部10bにそれぞれ形成された2つのボルト挿通孔16、17の少なくとも一方のボルト挿通孔16(17)が長孔として形成されている。このため、火災時に発生する鉄骨梁2の熱伸びが長孔のボルト挿通孔16で吸収されることになり、鉄骨梁2の火災時の熱伸びによって横倒れ防止用ボルト18に大きなせん断力が作用することがない。これにより、各添え板10の支持板部10bと鉄骨梁2の上フランジ13aを横倒れ防止用ボルト18で接合するようにした場合であっても、この横倒れ防止用ボルト18が破断するようなことがなく、確実に、鉄骨梁2の横倒れを防止できる。
【0067】
なお、火災によって加熱された鉄骨梁2が徐々に冷却されてゆく際、鉄骨梁2の収縮に伴って引張力が発生し、それにより横倒れ防止用ボルト18にせん断力が作用するおそれもあるが、この鉄骨梁2の収縮についても、勿論、ボルト挿通孔16が長孔で形成されていることで吸収できる。
【0068】
また、第2実施形態や第3実施形態のように、鉄骨梁2のウェブ5を挟んで一方の側S1に添え板(一方の添え板)10を配設し、他方の側S2に横倒れ防止部材15や添え板(他方の添え板)10を配設する場合には、鉄骨梁2を設置する施工時、鉄骨梁2が添え板10や横倒れ防止部材15に干渉しないように、鉄骨梁2を斜めにしたり、回動させるなどして、複雑に取り回す必要が生じる。
【0069】
これに対し、本実施形態のように、鉄骨梁2の上フランジ13aと添え板10の支持板部10bを横倒れ防止用ボルト18で接合し、これにより、一方の添え板10と他方の添え板10をともに、鉄骨梁2のウェブ5を間に一方の側S1に配設できるようにすると、鉄骨梁2を設置する施工時に、鉄骨梁2を複雑に取り回す必要がなくなり、従来と同様の作業で、片面から容易に鉄骨梁2の取り付けが行える。
【0070】
したがって、本実施形態の鉄骨梁の接合構造Eにおいては、火災によって高力ボルト6に破断が発生した際に、鉄骨梁2のウェブ5を挟んで一方の側S1に配設された両添え板10の支持板部10bに鉄骨梁2の両端部2a、2b側の一方の上フランジ13aが当接して鉄骨梁2を支持することができる。また、横倒れ防止用ボルト18とナット19で鉄骨梁2の上フランジ13aと添え板10の支持板部10bが接合されているため、鉄骨梁2が回転(転動)し、横倒れによって抜け落ちることを防止でき、火災によって高力ボルト6に破断が生じた場合であっても、確実に鉄骨梁2が落下することを防止できる。よって、火災によって高力ボルト6に破断が生じた場合であっても、第1実施形態と比較し、より確実に、鉄骨梁2が落下することを防止でき、鉄骨梁2に作用する荷重を添え板10を通じて鉄骨柱1に伝達させることが可能になる。
【0071】
また、横倒れ防止用ボルト18とナット19で上フランジ13aと支持板部10bを接合して鉄骨梁2の横倒れを防止するようにしたことで、鉄骨梁2の一端部2a側と他端部2b側ともにウェブ5を間に一方の側S1に添え板10を配設しても、確実に鉄骨梁2の横倒れを防止することができる。そして、このように鉄骨梁2の一端部2a側と他端部2b側ともに一方の側S1に添え板10を配設して接合するようにしたことで、鉄骨梁2を設置する際に、鉄骨梁2を複雑に取り回すことなく、所定位置に設置して添え板10に高力ボルト6で接合することができ、施工性をよくすることができる。
【0072】
さらに、一方の側S1の上フランジ13aと支持板部10bの少なくとも一方のボルト挿通孔16が鉄骨梁2の材軸方向O1に延びる長孔として形成されているため、横倒れ防止用ボルト18とナット19で上フランジ13aと支持板部10bを接合するように構成した場合であっても、長孔16の材軸方向O1の長さの分だけ、鉄骨梁2と添え板10の相対移動を許容することができる。これにより、火災によって鉄骨梁2に熱伸びが生じたり、火災後に鉄骨梁2が徐々に冷却されて収縮が生じる際に、横倒れ防止用ボルト18に大きなせん断力が作用することがない。よって、横倒れ防止用ボルト18で鉄骨梁2の上フランジ13aと添え板10の支持板部10bを接合するように構成した場合であっても、横倒れ防止用ボルト18が破断することがなく、より確実に、鉄骨梁2が落下することを防止でき、鉄骨梁2に作用する荷重を添え板10を通じて鉄骨柱1に伝達させることが可能になる。
【0073】
さらに、火災時に、比較的温度が低くなる鉄骨梁2の上フランジ13aと添え板10の支持板部10bを横倒れ防止用ボルト18で接合するようにしたことで、横倒れ防止用ボルト18が火災時の熱によって破断することも防止できる。よって、さらに確実に、鉄骨梁2が落下することを防止できる。
【0074】
また、鉄骨梁2のウェブ5に配した高力ボルト6が火災時に破断してもせん断力は確実に伝達できるため、当該接合部の耐火被覆の低減もしくは削除も可能となり、耐火被覆工事の簡略化、さらには耐火被覆工事を必要としない無耐火被覆の接合構造Eにすることも可能になる。
【0075】
以上、本発明に係る鉄骨梁の接合構造の第1から第4実施形態について説明したが、本発明は上記の第1から第4実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0076】
例えば、第1実施形態と第2実施形態と第3実施形態では、添え板10の支持板部10bと鉄骨梁2の上フランジ13の間に隙間をあけて鉄骨梁2の接合構造B、C、Dが構成されているものとしたが、添え板10の支持板部10bと鉄骨梁2の上フランジ13の間に隙間を設けずに(支持板部10と上フランジ13を接触させて)鉄骨梁2の接合構造を構成してもよく、この場合においても、勿論、第1、第2、第3実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0077】
また、第1から第4実施形態において、本発明にかかる鉄骨部材が鉄骨柱1であるものとして説明を行ったが、勿論、大梁と小梁を接合する場合などのように、鉄骨部材が鉄骨梁であってもよい。
【0078】
また、第4実施形態では、鉄骨梁2の一端部2a側と他端部2b側の両側に、長孔のボルト挿通孔16が設けられているように説明を行ったが、一方の接合部3側にのみ長孔のボルト挿通孔を設けて構成してもよく、このように構成しても、第4実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0079】
さらに、第4実施形態において、例えば
図15に示すように、横倒れ防止用ボルト18の軸部18aを上方に大きく突出させ、鉄骨梁2で支持するコンクリートスラブ内に横倒れ防止用ボルト18の軸部18aの先端側(突出部分)を埋設させるようにしてもよい。そして、このように構成すると、火災時に、鉄骨梁2の接合部3や横倒れ防止用ボルト18の熱を、横倒れ防止用ボルト18を通じてスラブに放熱させることができ、高力ボルト6や横倒れ防止用ボルト18の破断を抑止する効果を得ることができる。