【実施例1】
【0010】
この発明の実施例1を
図1〜
図4にしたがって説明する。
この実施例1においては、鉄道車両の車輪用転がり軸受装置に組み付けられる密封装置を例示する。
図1と
図2に示すように、鉄道車両の転がり軸受装置は、車輪が配設される回転軸12の一端側に形成された小径軸部12aの外周面に配設される内輪部材13と、この内輪部材13の外周に環状空間を隔てて同一中心線上に配設される外輪部材16と、これら内・外輪部材13、16間に転動可能に配設される複数の転動体18と、これら転動体18を保持する保持器19とを備えている。
【0011】
また、回転軸12の小径軸部12aと、この小径軸部12aと段差面をもって隣接する大径軸部12bとの間にわたって規制部材14が嵌込まれている。
この規制部材14は、回転軸12の大径軸部12bの外周面に嵌込まれる筒部14aと、この筒部14aの一端から径方向内方へ環状に突出され、その内径端が小径軸部12aの内周面に近接する内径側環状部14bと、筒部14aの他端から径方向外方へ環状に突出された外径側環状部14cとを有し、その外径側環状部14cの一側面には、環状溝14dが形成されている。そして、規制部材14は、その内径側環状部14bの一側面に対し内輪部材13の端面が当接した状態で小径軸部12aの外周面に対する内輪部材13の嵌込み量を規制する。
【0012】
図1と
図2に示すように、軸状の回転側部材11としての規制部材14と、この規制部材14の外周に同一中心線上に配設される筒状の固定側部材15としての外輪部材16との間を密封する密封装置20は、カバー部材21と、シール部材30とを備える。
【0013】
図2に示すように、カバー部材21は、その一端(
図2において左端)から他端(
図2において右端)に向けて大径の固定筒部22と、中間径の嵌込み筒部24と、小径の小径筒部26とを有して段差筒状に形成されている。そして、カバー部材21は、その固定筒部22が外輪部材16の端部に形成された開口孔部17の内周面に嵌込まれて固定される。
また、固定筒部22の端部外周面には、外輪部材16の開口孔部17の奥側に形成された環状溝17aに係合してカバー部材21の抜け止めをなす環状突部22aが形成されている。
【0014】
また、カバー部材21の小径筒部26の外径寸法は規制部材14の外径側環状部14cの環状溝14dの外径側周壁の内径寸法よりも若干小さく設定されている。さらに、カバー部材21の小径筒部26の内径寸法は、環状溝14dの内径側周壁の外径寸法よりも若干大きく設定されている。そして、
図2に示すように、カバー部材21の小径筒部26の先端部が規制部材14の外径側環状部14cの環状溝14d内に挿入されることで、小径筒部26と環状溝14dとによってラビリンス(非接触シール部)を構成している。
【0015】
図2に示すように、シール部材30は、グリース等の潤滑オイルのオイルシールとして機能するものであり、芯金31と、単数又は複数のシールリップ35、38を有する弾性部材34とを有している。
芯金31は、カバー部材21の嵌込み筒部24の内周に嵌込まれて固定される筒状部32と、この筒状部32の一端からカバー部材21の嵌込み筒部24と小径筒部26との間の段差部23に沿って径方向内方へ曲げられた環状部33とを有している。
【0016】
図2に示すように、弾性部材34は、軟質樹脂、ゴム等の弾性体よりなり、芯金31の環状部33の内径側部分に加硫接着等によって固着されている。
この弾性部材34には、回転側部材11としての規制部材14の筒部14a外周面に摺接する摺接部36を有するシールリップ35と、規制部材14の筒部14a外周面に僅かな隙間をもって接近しラビリンスを構成するシールリップ38とが軸方向に所定間隔を隔てて延出されている。
また、シールリップ35は、その内径側に突出されて縦断面V字状に形成され、その内径側突出部を摺接部36としている。
また、シールリップ35は、その摺接部36を所望とする弾性力をもって規制部材14の筒部14a外周面に圧接させるために、外径側の環状V溝部に無端環状のコイルスプリング37が組み付けられている。
【0017】
また、この実施例1において、
図2に示すように、シール部材30には、スリンガ40が組み付けられている。このスリンガ40は、シール部材30の芯金31の筒状部32の内周面に嵌込まれて固定される筒状部41と、この筒状部41の一端から径方向内方へ曲げれた環状部42とを有している。そして、スリンガ40の環状部42の内径端は、規制部材14の筒部14a外周面に僅かな隙間をもって接近しラビリンスを構成している。
【0018】
図2に示すように、シール部材30のシールリップ35の先端寄り外周部には、鉄板等よりなる複数の磁性体50が周方向に配列される。
これら複数の磁性体50は、径方向に延び内径側端部がシールリップ35の先端寄り外周部に埋め込まれて固着される結合片51と、この結合片51の外径側端部から軸方向に曲げられた被吸着片52とを有してL字状をなしている。
【0019】
一方、
図2と
図3に示すように、カバー部材21側のスリンガ40の筒状部41の内周面には、複数の磁性体50の被吸着片52を磁力によって吸着することでシールリップ35の摺接部36を回転側部材としての規制部材14の筒部14a外周面から離反させる電磁コイル55が配設されている。この電磁コイル55は、スリンガ40の筒状部41の内周面に絶縁を保って嵌込まれる環状の鉄心56と、この鉄心56の内周面の複数の磁性体50に対向する各位置から径方向内方へ突出された複数の突出部57に巻回されたコイル58とを有している。
【0020】
図2に示すように、回転側部材11としての規制部材14の筒部14aの外周面には、絶縁材よりなる筒状の磁石取付用筒体60が嵌込まれて固定され、この磁石取付用筒体60の外周部の周方向には、複数の永久磁石61が極性を交互に代えて配設されている。
一方、カバー部材21の小径筒部26の内周面には、複数の永久磁石61に対応する発電コイル65が配設されている。この発電コイル65は、小径筒部26の内周面に絶縁を保って嵌込まれる環状の鉄心66と、この鉄心66の内周面から径方向内方へ突出された複数の突出部67に巻回されたコイル68とを有している。
そして、電磁コイル55と発電コイル65とが接続線70、71によって接続されている。なお、接続線70、71の一部はシール部材30の芯金31の環状部33を貫通して配線されている。
【0021】
この実施例1に係る密封装置は上述したように構成される。
したがって、回転軸12が停止あるいは低速回転時には、シール部材30のシールリップ35の摺接部36が回転側部材11としての規制部材14の筒部14aの外周面に摺接することで密閉性が確保される。
一方、回転軸12の回転に伴って、この回転軸12と一体に回転する規制部材14外周の複数の永久磁石61がカバー部材21側の発電コイル65に対し回転することで電流が発生し、その電流が接続線70、71を通して電磁コイル55に流れる。これによって、電磁コイル55に磁力が発生する。
【0022】
回転軸12の回転速度が速くなればなるほど、発電コイル65の発電量が大きくなり、これに比例して電磁コイル55の磁力が大きくなる。
そして、回転軸12の回転速度が設定値以上になる高速回転時には、電磁コイル55に発生する磁力によって、電磁コイル55にシール部材30のシールリップ35の外周部の複数の磁性体50が吸着される。
【0023】
これによって、シールリップ35が弾性的に拡径され、
図4に示すように、シールリップ35の摺接部36が回転側部材11としての規制部材14の筒部14aの外周面から離反され、非接触状態となる。
このため、回転軸12の回転速度が設定値以上になる高速回転時には、規制部材14の筒部14aの外周面に対するシールリップ35の摺接部36の摺動による発熱や摩耗が抑制される。これによって、シール部材30の耐久性の向上を図ることができる。
【0024】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1に係る密封装置においては、鉄道車両の車輪用転がり軸受装置に組み付けられる密封装置である場合を例示したが、軸状の回転側部材と筒状の固定側部材との間を密封する密封装置として採用することができる。