(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のパッドに対して、複数の半田注入部を有するバスバーが複数の前記半田注入部を介して滴下された溶融半田によって接合されたパッドとバスバーとの接続構造を有する半導体装置であって、
隣り合う前記半田注入部は、複数の前記パッドと直交する仮想線からの位置が互いに異なるように形成されていることを特徴とする半導体装置。
前記パッドは3つ以上設けられ、少なくとも隣り合う3つの前記半田注入部は前記仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置されている請求項1に記載の半導体装置。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に配慮して、高効率で省エネルギーに対応した電力用半導体装置の必要性が高まっている。電力用半導体装置は、大電流をスイッチング制御し、動作電流として大電流を流す必要から、銅製の導板(バスバー)と半導体素子の電極とを半田を用いて接合している。例えば、
図6に示すように、電力用半導体装置51は、IGBT52のエミッタ電極やダイオード53のアノード電極と、導体(バスバー)54とを接続する場合、導体54に複数の貫通孔55を形成するとともに、複数の貫通孔55の間にスリット56を設けている。そして、スリット56によって隣り合う半田57が繋がることなく、貫通孔55を満たす半田57を介して電極と導体54とを接続する構造が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
IGBT等の半導体素子では、表面電極が複数の長方形のパッドに分かれる場合が多い。その理由としては、パッドにNiメッキを行う際やメッキに半田付けを行う際に例えばシリコンの線膨張係数とメッキの線膨張係数との違いによってIGBTに反りが生じるのを抑制、防止することがある。パッドは半田を供給するための貫通孔が設けられたバスバーに半田で接合される。このとき、シリンジからパッドに半田を供給する際に、シリンジから滴下される溶融半田がバスバーの貫通孔を通ることができるためには、貫通孔は半田滴下時の半田の膨らみを考慮した一定以上の大きさ(例えばφ2mm)が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、導体(バスバー)54に複数の貫通孔55を設けて電極と接続する構成は開示されているが、複数のパッドに分かれた電極とバスバーとを接続する構成については開示されていない。
【0006】
複数のパッドに分かれた電極とバスバーとを接続する場合、IGBT等の半導体素子では複数のパッドと直交する仮想線上に複数の半田滴下位置を設けると隣り合う半田滴下位置の距離が狭くなり、滴下半田が膨らむことによって隣り合う滴下半田が繋がって確実に接合できないという問題がある。また、IGBT等の半導体素子では複数のパッドと直交する仮想線上に複数の半田滴下位置を設けるとバスバーにおける隣り合う貫通孔の間が狭くなり、隣り合う貫通孔の間にスリットを設けることは難しく、スリットを設けるためにはパッドの間隔が広くなるようにパッドの配置を変更する必要があり、半導体素子が大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は複数のパッドを有する半導体素子が大型化することを抑制し、複数のパッドに分かれた電極とバスバーとを確実に半田接続することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数のパッドに対して、複数の半田注入部を有するバスバーが複数の前記半田注入部を介して滴下された溶融半田によって接合されたパッドとバスバーとの接続構造を有する半導体装置である。そして、隣り合う前記半田注入部は、複数の前記パッドと直交する仮想線からの位置が互いに異なるように形成されている。ここで、「半田注入部」とは、貫通孔や切り欠き等、バスバーの下側に位置するパッドに対して溶融半田を滴下可能な開口部を意味する。
【0009】
この発明では、隣り合うパッドと対向するように形成された半田注入部の配置は従来と異なり、パッドの長手方向と直交する直線上に位置する配置ではなく、複数のパッドと直交する仮想線からの位置が互いに異なるように配置されている。そのため、隣り合う半田注入部の間隔が、半田注入部が複数のパッドと直交する仮想線からの位置が互いに等しく配置された場合に比べて大きくなり、パッドの間隔が従来に比べて狭くても、溶融状態の半田を半田注入部からパッドに滴下する際、隣のパッドに滴下された溶融状態の半田と繋がることが防止される。したがって、複数のパッドを有する半導体素子が大型化することを抑制し、複数のパッドに分かれた電極とバスバーとを確実に半田接続することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記半田注入部は互い違いに配置されている。3つ以上のパッドが並設されている場合、半田注入部を互い違いに配置した場合と、全ての半田注入部を前記仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置した場合とを比べると、後者の場合、間隔が広くなった分が積算される。したがって、この発明では、全ての半田注入部を前記仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置する場合に比べて、並設されるパッドの長さを短くすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記パッドは3つ以上設けられ、少なくとも隣り合う3つの半田注入部は前記仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置されている。この発明では、複数の吐出口を有するノズルにより半田を滴下する際、半田注入部が互い違いに配置された場合に比べて、ノズルの吐出口の配置が簡単になる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記複数のパッドは1つの半導体素子の一面に設けられている。この発明では、半導体装置がIGBT等の半導体素子を有する構成において、例えば、上面電極としてのエミッタ電極が複数に分かれたパッドで構成される場合に対応することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数のパッドを有する半導体素子が大型化することを抑制し、複数のパッドに分かれた電極とバスバーとを確実に接続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した一実施形態を
図1〜
図3にしたがって説明する。
図1(a),(b)に示すように、半導体装置10は、下部電極を兼ねたヒートスプレッダ11上に半導体素子12が半田13を介して接合されている。この実施形態では半導体素子12としてIGBTが使用されており、半導体素子12はコレクタ電極(図示せず)が下面に位置する状態でヒートスプレッダ11に接合されている。半導体素子12の上面には半田13を介して上部電極としてのバスバー14が接合されている。半導体素子12は上面に上面電極としてエミッタ電極としての複数のパッド15及びゲート電極16を有し、
図1(a)に示すように、バスバー14はゲート電極16が露出した状態で、エミッタ電極、即ちパッド15に接続されて半導体素子12の上面に接合されている。即ち、複数のパッド15は1つの半導体素子12の一面(上面)に設けられている。
【0016】
図1(a),(b)及び
図2(b)に示すように、パッド15は4つ設けられ、各パッド15は互いに一端が揃うように並設されている。各パッド15は長方形状に形成されている。
【0017】
図1(a)及び
図2(a)に示すように、バスバー14は平面長方形状に形成されるとともに、その幅方向に沿って延びる半田注入部としての貫通孔17を複数(この実施形態では4個)有する。貫通孔17は幅がパッド15の幅とほぼ同じで、長さがパッド15の長さより短い長円状に形成されている。また、バスバー14は、各貫通孔17が各パッド15と対応して延びる状態に、即ちバスバー14の延びる方向がパッド15の併設方向と平行になるようにパッド15に接合されている。パッド15の幅は、例えば、2mm程度である。
【0018】
図1(a)に示すように、隣り合うパッド15と対向するように形成された貫通孔17は、パッド15の一端(
図1(a)において上端)からの距離が隣り合う貫通孔17間で互いに異なるように形成されている。この実施形態では、貫通孔17は互い違いに配置されている。即ち、隣り合う半田注入部(貫通孔17)は、複数のパッド15と直交する仮想線からの位置が互いに異なるように形成されている。
【0019】
次に半導体装置10の製造方法を説明する。
先ず、ヒートスプレッダ11の一方の面に半導体素子12を、コレクタ電極を有するその下面において半田接合する。次に半導体素子12の上面にバスバー14を半田接合する。バスバー14を半田接合する際は、バスバー14の複数の貫通孔17がエミッタ電極としての複数のパッド15と対向するように、かつバスバー14とパッド15との間に所定の間隔(例えば、1mm程度)をあけて配置する。そして、溶融半田をシリンジのノズルから各貫通孔17に順に滴下する。ノズルの口径は1mm程度である。
【0020】
ノズルから滴下された溶融半田は、貫通孔17を経てパッド15の上面に接触した後、パッド15の上面に沿って拡がり、貫通孔17の内部にも拡がる。各貫通孔17に供給される溶融状態の半田量は、半田13がパッド15の上面に拡がり、貫通孔17の内部にも拡がる所定量である。
【0021】
図3(a)に示すように、ノズル18から滴下される溶融半田13aは、ノズル18から出るとノズル18の口径より大きく膨らむ。そして、貫通孔17の壁面に触れずにパッド15の上面の半田滴下位置19(
図3(b)に図示)に接触し、パッド15の上面に接触した溶融半田13aは、
図3(b)に矢印で示すように、パッド15の表面に沿って拡がる。溶融半田13aは、パッド15の表面に拡がった後、貫通孔17の内部にも拡がる。そして、バスバー14は各貫通孔17の部分からパッド15の表面に拡がった状態で固化した半田13によりパッド15に接続された状態で半導体素子12の上面に接合される。
【0022】
バスバー14を複数の貫通孔17が各パッド15と対向する状態に配置して、各パッド15の一端から各貫通孔17までの距離が同じ場合、前に滴下した溶融半田13aがパッド15の上面に沿って広く拡がる前に次のパッド15に対して溶融半田13aが滴下される。その結果、
図3(c)に示すように、先に滴下された溶融半田13aが膨らんだ状態で、次のパッド15に溶融半田13aが滴下されることになり、新たに滴下された溶融半田13aが隣のパッド15上の溶融半田13aに接触して繋がる場合がある。この場合、新たに滴下された溶融半田13aは、先に隣のパッド15に滴下された溶融半田13aに吸収されて隣のパッド15上に拡がる状態になり、目的のパッド15に対して適量の溶融半田13aが残らなくなる場合がある。しかし、この実施形態では、
図3(b)に示すように、隣り合うパッド15に対する溶融半田13aの半田滴下位置19は離れているため、各パッド15に対する溶融半田13aの滴下時には、前に滴下された溶融半田13aが次に滴下される隣のパッド15における溶融半田13aの滴下位置近傍まで拡がってはいない。そのため、前記のような問題は発生しない。
【0023】
前記のように構成された半導体装置10は、例えば、車載用のインバータの部品として使用される。インバータは、6個のIGBTと、各IGBTのエミッタ−コレクタ間に逆並列に接続された6個のダイオードを備えるため、半導体装置10をその構成部品として使用できる。
【0024】
したがって、この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)半導体装置10は、複数のパッド15に対して、複数の半田注入部(貫通孔17)を有するバスバー14が複数の半田注入部を介して滴下された溶融半田13aによって接合されたパッド15とバスバー14との接続構造を有する。そして、複数のパッド15は互いに一端が揃うように並設され、パッド15と対向するように形成された隣り合う半田注入部は、パッド15の一端からの距離が互いに異なるように形成されている。そのため、隣り合う半田注入部が複数のパッド15と直交する仮想線からの位置が互いに等しく配置された場合に比べて、隣り合う半田注入部の間隔が広くなる。したがって、半導体装置10の製造時、隣り合う溶融半田13aが互いに繋がることを防止するので、溶融半田13aが接続不良となることを防止することができる。具体的には、滴下後における隣り合う溶融半田13aが互いに繋がることを防止することができる。
【0025】
(2)半田注入部は互い違いに配置されている。3つ以上のパッド15が並設されている場合、半田注入部を互い違いに配置した場合と、全ての半田注入部を複数のパッド15と直交する仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置した場合とを比べると、後者の場合、隣り合う半田注入部の間隔が広くなった分が積算される。したがって、この発明では、全ての半田注入部を前記仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置する場合に比べて、並設されるパッドの長さを短くすることができる。
【0026】
(3)半田の繋がりを抑制するためのスリットを形成する必要がないので、複数のパッドを有する半導体素子が大きくなることを抑制することができる。
(4)複数のパッド15は1つの半導体素子12の一面に設けられている。したがって、半導体装置10がIGBT等の半導体素子12を有する構成において、例えば、上面電極としてのエミッタ電極が複数に分かれたパッド15で構成される場合に対応することができる。
【0027】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 複数のパッドの一端が揃っていなくてもよい。複数のパッドの一端が揃っていなくても半田注入部が、複数の前記パッドと直交する仮想線からの位置が互いに異なるように形成されていればよい。
【0028】
○ 半田注入部は貫通孔17に限らず、
図4(a)に示すように、半田注入部として切り欠き20をバスバー14の各パッド15と対向する位置に互い違いに配置して設けても良い。
【0029】
○
図4(b)に示すように、半田注入部として、貫通孔17及び切り欠き20が混在する状態で、バスバー14の各パッド15と対向する位置に互い違いに配置して設けても良い。
【0030】
○ パッド15の数は4つに限らず、2つ以上であればよい。3つ以上の場合は、バスバー14に形成される貫通孔17や切り欠き20を各パッド15と対向する位置に互い違いに配置することができる。
【0031】
○ バスバー14に形成された半田注入部は、隣り合う半田注入部が、複数のパッドと直交する仮想線からの位置が互いに異なるように形成されていればよく、互い違いに配置される構成に限らない。例えば、パッド15が3つ以上設けられた場合は、少なくとも隣り合う3つの半田注入部を前記仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置してもよい。例えば、
図5(a)に示すように、3つの貫通孔17が仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置された構成や、
図5(b)に示すように、貫通孔17及び切り欠き20が混在する状態で仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置された構成としてもよい。但し、各パッド15の長さは、半田注入部が互い違いに配置される場合に比べて長くなる。
図5(a),(b)では、4つのパッド15と対向する半田注入部のうち、隣り合う3つの半田注入部を仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置したが、パッド15の長さに余裕があれば、4つの半田注入部を仮想線に対して斜めの方向に延びる直線上に配置してもよい。この場合、複数の吐出口を有する半田滴下装置により溶融半田13aを滴下する際、半田注入部が互い違いに配置された場合に比べて、吐出口の配置が簡単になる。
【0032】
○ 半田注入部が一直線上に配置されている場合に限らず、複数の吐出口を持つノズルで、各パッド15に対して同時に溶融半田13aの滴下を行ってもよい。この場合、隣り合う半田注入部が、対向するパッド15の一端からの距離が互いに同じ場合は、隣り合うノズル18から滴下される溶融半田13aが滴下途中で繋がってしまう問題が発生する場合がある。しかし、この発明では、隣り合う半田注入部は、複数のパッドと直交する仮想線からの位置が互いに異なるように形成されているため、隣り合うノズル18から滴下される溶融半田13aが滴下途中で繋がってしまうことが回避される。
【0033】
○ 半導体装置10を構成する半導体素子12としてのIGBTは、上面電極としてコレクタ電極とゲート電極とを有し、下面電極としてエミッタ電極を有する構成であってもよい。そして、コレクタ電極を複数のパッド15で構成してもよい。
【0034】
○ 半導体装置10は、ヒートスプレッダ11に複数の半導体素子12が接合され、バスバー14も1個のバスバー14が複数の半導体素子12に対して接合されてもよい。例えば、インバータを構成するスイッチング素子としてのトランジスタ(IGBT)と、そのトランジスタに逆並列に接続されるダイオードとが、半導体素子12としてヒートスプレッダ11に接合された構成としてもよい。
【0035】
○ 半導体装置10は、ヒートスプレッダ11上に半導体素子12が実装された構成に限らず、冷却器上に絶縁基板を介して、トランジスタやダイオードとしての半導体素子12が実装された構成であってもよい。
【0036】
○ トランジスタとしての半導体素子12は、IGBTに限らずパワーMOSFETのようなトランジスタであってもよい。また、トランジスタに限らず、サイリスタであってもよい。
【0037】
○ バスバー14に形成される貫通孔17や切り欠き20等の半田注入部は、バスバー14の幅方向に沿って延びるように形成される構成に限らない。例えば、バスバー14の長手方向に沿って延びるように構成されてもよい。
【0038】
○ バスバー14に形成される貫通孔17の形状は長円に限らず、例えば、矩形や楕円や円であってもよい。また、切り欠き20の形状も矩形に限らず、例えば、楕円の一端側を省略した形状や矩形の一端が円弧状の形状としてもよい。
【0039】
○ 半導体素子12としてダイオードを有する半導体装置であっても、ダイオードのカソードあるいはアノードを上面電極として、その上面電極を複数のパッドで構成したものに適用してもよい。
【0040】
○ 複数のパッド15は1つの半導体素子12の一面に設けられたものに限らない。例えば、半導体装置10が有する半導体素子12の電極を構成するパッドではなく、半導体素子12の電極を流れる電流の経路に設けられたパッドであってもよい。
【0041】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記パッドは半導体装置を構成する半導体素子としてのトランジスタの駆動電流が流れる電極を構成している。