(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複合溝が形成された陸部の幅Lrと前記広幅部のタイヤ幅方向長さLaとの比La/Lrが0.4≦La/Lr≦0.7の関係を満たし、前記幅Lrと前記狭幅部のタイヤ幅方向長さLbとの比Lb/Lrが0.15≦Lb/Lr≦0.3の関係を満たし、前記幅Lrと前記サイプのタイヤ幅方向長さLsとの比Ls/Lrが0.15≦Ls/Lr≦0.3の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
前記複合溝のタイヤ周方向の一方側の溝壁がトレッド面において直線を形成し、前記複合溝のタイヤ周方向の他方側の溝壁がトレッド面において階段状に屈曲した非直線を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
タイヤ周方向に隣り合う複合溝を前記直線となる溝壁どうし又は前記非直線となる溝壁どうしが向かい合うように配置したことを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
前記複合溝が形成された陸部に前記主溝よりも溝幅が小さくタイヤ周方向に延びる周方向補助溝を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、雪上性能及び耐摩耗性能を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、トレッド部にタイヤ周方向に延びる少なくとも3本の主溝を有し、これら主溝によりタイヤ周方向に延びる複数列の陸部が区画された空気入りタイヤにおいて、最外側の主溝間に規定されるセンター領域内に位置する少なくとも1列の陸部に、一端が一方側の主溝に連通し他端が陸部内で閉止する横溝と該横溝の他端から他方側の主溝まで延びるサイプとからなる複数本の複合溝をタイヤ周方向に間隔をおいて形成し、これら複合溝を前記横溝の前記主溝に対する開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するように配置すると共に、各横溝に前記主溝に開口して一定の溝幅で延びる広幅部と該広幅部と前記サイプとの間に位置して前記広幅部よりも狭い一定の溝幅で延びる狭幅部を形成し、前記広幅部の溝幅Waと前記狭幅部の溝幅Wbとの比Wa/Wbを1.2〜3.0の範囲にし、前記狭幅部の溝幅Wbと前記サイプの溝幅Wsの比Wb/Wsを1.2〜5.0の範囲にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、複合溝のエッジ効果によって優れた雪上性能を得ることができるが、このとき複合溝が一端が一方側の主溝に連通し他端が陸部内で閉止する横溝と該横溝の他端から他方側の主溝まで延びるサイプとで構成され、サイプが存在することで陸部が実質的に分断されないので、陸部を分断する従来の横溝を設ける場合よりも陸部剛性を高く維持し、耐摩耗性能を充分に維持することができる。また、横溝が広幅部と狭幅部とから構成されているため、複合溝は全体として一端から他端に向かって段階的に溝幅が減少する構造を有することになり、応力集中が緩和されて耐摩耗性能を効果的に高めることができる。更に、同じ陸部に形成された複数本の横溝の全てが同じ側の主溝に対して開口するのではなく、これら複数本の横溝の開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するようになっているので、横溝により陸部剛性が低下する陸部内の部位が陸部の幅方向に分散されて、耐摩耗性を効果的に高めることができる。このとき、複合溝の各部分の溝幅の比Wa/Wb,Wb/Wsを上述のように所定の範囲に設定しているので、雪上性能と耐摩耗性能とを高度に両立することが可能になる。尚、各部分の溝幅は、両側の溝壁が共にトレッド面において直線を形成する部分で測定するものとする。
【0009】
本発明では、複合溝が形成された陸部の幅Lrと広幅部のタイヤ幅方向長さLaとの比La/Lrが0.4≦La/Lr≦0.7の関係を満たし、幅Lrと狭幅部のタイヤ幅方向長さLbとの比Lb/Lrが0.15≦Lb/Lr≦0.3の関係を満たし、幅Lrとサイプのタイヤ幅方向長さLsとの比Ls/Lrが0.15≦Ls/Lr≦0.3の関係を満たすことが好ましい。このように複合溝を構成する広幅部、狭幅部、サイプのタイヤ幅方向長さを設定することで、雪上性能と耐摩耗性能とをバランスよく両立するには有利になる。尚、複合溝の各部分のタイヤ幅方向長さとは、複合溝の各部分をタイヤ周方向に投影したときの長さである。また、広幅部と狭幅部との境界は溝幅が変化する部分のタイヤ幅方向中心とする。
【0010】
本発明では、複合溝のタイヤ周方向の一方側の溝壁がトレッド面において直線を形成し、複合溝のタイヤ周方向の他方側の溝壁がトレッド面において階段状に屈曲した非直線を形成することが好ましい。これにより、複合溝のタイヤ周方向の一方側の溝壁に変化部が無くなるため耐摩耗性能を向上するには有利になる。
【0011】
このとき、タイヤ周方向に隣り合う複合溝を直線となる溝壁どうし又は非直線となる溝壁どうしが向かい合うように配置することが好ましい。これにより、周方向に延びる陸部において平行四辺形に区画される部分が形成されるため、陸部剛性が向上し、耐摩耗性能を向上するには有利になる。
【0012】
本発明では、複合溝が形成された陸部に主溝よりも溝幅が小さくタイヤ周方向に延びる周方向補助溝を設けることが好ましい。このように周方向補助溝を設けることで周方向補助溝によるエッジ成分も得られて、雪上性能を更に向上することができる。
【0013】
尚、本発明において、サイプとは溝幅が1.5mm以下の微細な溝であり、陸部を横切っていても実質的に陸部を分断していないと見做すことができる。また、複合溝(広幅部、狭幅部、サイプ)の寸法や角度は、各部分の中心線に基づいて測定するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1において、符号CLはタイヤ赤道を表わす。本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とから構成される。左右一対のビード部3間には1層のカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、これら補強コードは層間で互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の外周側には更にベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0017】
本発明は、このような一般的な空気入りタイヤに適用されるが、その断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0018】
図2に示す実施形態におけるトレッド部1には4本の主溝10が形成されている。これら4本の主溝10は、タイヤ赤道CLのタイヤ幅方向両側に配置された1対の内側主溝11と、各内側主溝11のタイヤ幅方向外側に配置された外側主溝12を含む。言い換えれば、タイヤ赤道CLのタイヤ幅方向両側にタイヤ周方向に延びる1対の外側主溝12が形成され、これら1対の外側主溝12のタイヤ幅方向内側の領域(以下、センター領域Ceと言う)に、タイヤ周方向に延びる2本の内側主溝11が形成されている。
【0019】
これら4本の主溝10(2本の内側主溝11及び2本の外側主溝12)により、トレッド部1にはタイヤ周方向に延びる5列の陸部20が区画される。これら5列の陸部のうち、2本の内側主溝11の間に区画される陸部20を中央陸部21、内側主溝11と外側主溝12との間に区画される陸部20を中間陸部22、外側主溝12のタイヤ幅方向外側に区画される陸部20を外側陸部23とすると、中央陸部21及び中間陸部22がセンター領域Ce内に位置する。本発明は、このセンター領域Ce内に位置する複数列の陸部20(中央陸部21及び中間陸部22)の少なくとも1つに後述の構造を有する複合溝30を設けるものであり、外側陸部23の構造については特に限定されない。
【0020】
中央陸部21及び中間陸部22には、
図2に示すように、タイヤ幅方向に延びる複数本の複合溝30がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。各複合溝30は、
図3に拡大して示すように、一端が一方側の主溝10に連通し他端が陸部20内で閉止する横溝31と、この横溝31の他端から他方側の主溝10まで延びるサイプ32とから構成される。尚、中央陸部21に形成される複合溝30の場合、横溝31は一端が一方側の内側主溝11に連通し他端が中央陸部21内で閉止し、サイプ32は横溝31の他端から他方側の内側主溝11まで延びる。一方、中間陸部22に形成される複合溝30の場合、横溝31は一端が内側主溝11又は外側主溝12の一方に連通し他端が中間陸部22内で閉止し、サイプ32は横溝31の他端から内側主溝11又は外側主溝12の他方まで延びる。各横溝31には、主溝10に開口して一定の溝幅で延びる広幅部31aと、広幅部31aとサイプ32との間に位置して広幅部31aよりも狭い一定の溝幅で延びる狭幅部31bが形成されている。そのため、複合溝30は全体として一方側の主溝10に対する開口部から他方側の主溝10に対する連通部(サイプ32の到達点)に向かって段階的に溝幅が狭くなる形状を有する。
【0021】
このとき、
図3に示す実施形態では、複合溝30のタイヤ周方向の一方側の溝壁がトレッド面において直線を形成し、複合溝30のタイヤ周方向の他方側の溝壁がトレッド面において階段状に屈曲した非直線を形成している。階段状に屈曲した非直線は、トレッド面において直線を形成する広幅部31aの溝壁と、トレッド面において直線を形成する狭幅部31bの溝壁と、トレッド面において広幅部31a及び狭幅部31bの溝壁に対して傾斜し広幅部31aと狭幅部31bとを繋ぐ連結部の溝壁とが滑らかに結ばれ、更に、トレッド面において直線を形成するサイプ32の溝壁が狭幅部31bの溝幅が徐々に狭まって閉止する閉止端に対して連結することで構成されている。
【0022】
1列の陸部20内に形成された複数本の複合溝30は、横溝31の主溝10に対する開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するように配置されている。つまり、横溝31が一方側の主溝10に連通している複合溝30のタイヤ周方向に隣り合う別の複合溝30は、横溝31が他方側の主溝10に連通する構造を有している。具体的には、中央陸部21に形成された複数本の複合溝30の場合、1対の内側主溝11のいずれかに対する横溝31の開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するように配置され、横溝31が一方側の内側主溝11に連通している複合溝30のタイヤ周方向に隣り合う別の複合溝30は、横溝31が他方側の内側主溝11に連通する構造を有している。また、中央陸部21に形成された複数本の複合溝30の場合、内側主溝11又は外側主溝12のいずれかに対する横溝31の開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するように配置され、横溝31が内側主溝11又は外側主溝12の一方に連通している複合溝30のタイヤ周方向に隣り合う別の複合溝30は、横溝31が内側主溝11又は外側主溝12の他方に連通する構造を有している。
【0023】
タイヤ周方向に隣り合う複合溝30は、上述の直線となる溝壁どうし又は非直線となる溝壁どうしが向かい合うように配置されている。これにより、複合溝30が形成された陸部20には、その陸部20に隣接する主溝10のそれぞれのタイヤ幅方向内側溝壁と2本の複合溝30の直線となる溝壁とで囲まれ、トレッド表面において平行四辺形を形成する部分が区画されている。
【0024】
複合溝30は上述のように段階的に溝幅が変化する形状を有するが、広幅部31aの溝幅をWa、狭幅部31bの溝幅をWb、サイプ32の溝幅をWsとすると、いずれの複合溝も溝幅Waと溝幅Wbとの比Wa/Wbが1.2〜3.0の範囲に設定され、溝幅Wbと溝幅Wsの比Wb/Wsが1.2〜5.0の範囲に設定されている。
【0025】
また、各複合溝30は上述のように3つの部分(広幅部31a、狭幅部31b、サイプ32)から構成されるが、複合溝30が形成された陸部20の幅をLrとし、広幅部31aのタイヤ幅方向長さをLaとし、狭幅部31bのタイヤ幅方向長さをLbとし、サイプ32のタイヤ幅方向長さをLsとしたとき、比La/Lrが例えば0.4≦La/Lr≦0.7の関係を満たし、比Lb/Lrが例えば0.15≦Lb/Lr≦0.3の関係を満たし、幅Lrとサイプ32のタイヤ幅方向長さLsとの比Ls/Lrが例えば0.15≦Ls/Lr≦0.3の関係を満たしている。
【0026】
図2,3に示す実施形態では、複合溝30はタイヤ幅方向に対して傾斜して延在しているが、広幅部31aのタイヤ幅方向に対する傾斜角度をθa、狭幅部31bのタイヤ幅方向に対する傾斜角度をθb、サイプのタイヤ幅方向に対する傾斜角度をθsとしたとき、傾斜角度θa,θb,θsは例えば0°〜30°、好ましくは17°〜24°になっている。つまり、複合溝30全体が30°以下の角度で傾斜している。また、横溝31とサイプ32とは同じ方向に延びているとよく、傾斜角度θbと傾斜角度θsとの角度差(又は傾斜角度θaと傾斜角度θsとの角度差)が例えば0°〜20°、好ましくは0°〜10°になっている。尚、
図2に示す実施形態では、中央陸部21に形成された複合溝30の傾斜方向と中間陸部22に形成された複合溝30の傾斜方向は逆向きになっている。
【0027】
上述の中央陸部21及び中間陸部22に対して、外側陸部23には、
図2に示すように、タイヤ幅方向に延びる複数本の複合溝40がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。但し、外側陸部23に形成された各複合溝40は、中央陸部21及び中間陸部22に形成された上述の複合溝30とは異なり、一端が主溝10(外側主溝12)に到達せずに陸部20(外側陸部23)内で閉止し他端がタイヤ幅方向外側に開口する横溝41と、この横溝41の一端から主溝10(外側主溝12)まで延びるサイプ42とから構成される。外側陸部23にはこの複合溝40の他に、複合溝40により区画された部分に配置されタイヤ幅方向に延びる複数本(
図2では、2本)のサイプ50が設けられている。
【0028】
このようにセンター領域Ceに位置する中央陸部21及び中間陸部22に上述の構造の複合溝30を設けているので、複合溝30に基づくエッジ効果によって優れた雪上性能を得ることができる。このとき、複合溝30はサイプ32を含んでいるので、複合溝30が形成された陸部20を実質的に分断せず、その陸部20の剛性を高く維持することができる。従って、耐摩耗性能を維持しながら雪上性能を得ることができる。このとき、複合溝30は上述のように一端から他端に向かって段階的に溝幅が変化する形状を有するので、応力集中が緩和されて耐摩耗性能を効果的に高めることができる。また、上述のように全ての横溝31が同じ側の主溝に対して開口するのではなく、横溝31の開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転しているので、横溝31を設けることで剛性が低下する陸部20の部分がタイヤ幅方向に分散され、耐摩耗性能を効果的に高めることができる。このとき、複合溝30を構成する各部分の溝幅の比Wa/Wb及び比Wb/Wsを上述のように所定の範囲に設定しているので、雪上性能及び耐摩耗性能をよりバランスよく両立することが可能になる。
【0029】
各複合溝30は上述のように横溝31及びサイプ32から構成されていることが必要である。例えば
図4に示すように陸部20に形成されタイヤ幅方向に延びる溝が広幅部31a及び狭幅部31bからなる横溝31のみで構成され、横溝31の閉止部から主溝10まで延びるサイプ32が含まれないと、充分な雪上性能を得ることはできない。
【0030】
図2,3の実施形態では、複合溝30のタイヤ周方向の一方側の溝壁がトレッド面において直線を形成し、複合溝30のタイヤ周方向の他方側の溝壁がトレッド面において階段状に屈曲した非直線を形成しているが、本発明では、複合溝30の溝幅が段階的に変化することが重要であり、
図5に示すように、複合溝30の両側の溝壁がトレッド面において階段状に屈曲した非直線を形成してもよい。但し、一方側の溝壁を直線とすることで、一方側の溝壁において変化部を無くすことができるので、耐摩耗性能を向上するには有利になる。特に、上述のように、タイヤ周方向に隣り合う複合溝30を、上述の直線となる溝壁どうし又は非直線となる溝壁どうしが向かい合うように配置することで、陸部20内に平行四辺形に区画される部位が生じ、この部位により剛性をより向上することができ、耐摩耗性能を向上するには有利になる。
【0031】
本発明では、上述のように複数本の複合溝30を、横溝31の主溝10に対する開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するように配置することで、横溝31によって剛性が低下する陸部20の部位をタイヤ幅方向に分散させることが必要である。例えば
図6のように1列の陸部20に形成された横溝31の全てが同じ側の主溝10に開口していると陸部20のタイヤ幅方向の一方側の剛性が局所的に他の部位よりも著しく低下するため、偏摩耗が発生し易くなる。
【0032】
上述のように各部分の溝幅の比Wa/Wb及び比Wb/Wsを所定の範囲に設定することで、雪上性能と耐摩耗性能とをバランスよく両立するようにしているが、溝幅Wa,Wb,Wsの比率が上述の範囲から外れると、複合溝30の溝幅変化のバランスが悪くなるため、雪上性能と耐摩耗性能をバランスよく両立することが難しくなる。具体的には、溝幅Waと溝幅Wbとの比Wa/Wbが1.2よりも小さいと、横溝31の溝幅の変化が小さくなり、横溝31の全体が実質的に一定の溝幅になるため、耐摩耗性能を向上する効果が得られなくなる。溝幅Waと溝幅Wbとの比Wa/Wbが3.0よりも大きいと、広幅部31aと狭幅部31bとの溝幅の差が大きくなり過ぎ、雪上性能と耐摩耗性能とを両立することが難しくなる。溝幅Wbと溝幅Wsとの比Wb/Wsが1.2よりも小さいと、狭幅部31bの溝幅が小さくなり過ぎて、狭幅部31bが実質的にサイプ32と同等になるため、雪上性能が低下する。溝幅Wbと溝幅Wsとの比Wb/Wsが5.0よりも大きいと、狭幅部31bの溝幅が大きくなり過ぎるため、陸部剛性が低下し、低摩耗性能が悪化する。
【0033】
尚、複合溝30に区画された陸部20の部分の周方向長さ(ピッチ長)が変化する場合には、排水性能を効率よく確保すると共に剛性バランスを良好にするために、ピッチ長の大きい陸部20の部分に隣接する複合溝30の溝幅をピッチ長の小さい陸部20の部分に隣接する複合溝30の溝幅よりも大きくすることが好ましいが、このように複合溝30によって溝幅が異なっていても、各部の溝幅Wa,Wb,Wsは上述の比Wa/Wb及び比Wb/Wsの範囲を満たしている。より好ましくは、比Wa/Wbをピッチ長によらず1.2〜2.0の範囲に設定し、比Wb/Wsをピッチ長が最大の陸部20の部分において2.0〜3.0の範囲に設定し、ピッチ長が最小の陸部20の部分において1.3〜2.3の範囲に設定するとよい。
【0034】
図2の実施形態では、中央陸部21に形成された複合溝30の傾斜方向と中間陸部22に形成された複合溝30の傾斜方向とが互いに異なっているが、少なくとも、これら陸部20(センター領域Ceに位置する中央陸部21及び中間陸部22)のいずれか1つの陸部20に形成された複合溝30の傾斜方向が他の陸部20に形成された複合溝39の傾斜方向と逆向きになっていればよい。このように複合溝30の傾斜方向を異ならせることで、操舵時の方向異方差が小さくなり雪上性能を向上するには有利になる。特に、
図2の実施形態のように3列の陸部(1列の中央陸部21の両側に各1列の中間陸部)を有する場合に、上述のように中央陸部21に形成された複合溝30の傾斜方向を中間陸部22に形成された複合溝30の傾斜方向に対して異ならせることで、タイヤ幅方向に隣り合う陸部20に形成される複合溝30の傾斜方向が互い違いになるので、上述の雪上性能を向上する効果を有効に発揮することができる。
【0035】
複合溝30の各部分のタイヤ幅方向長さLa,Lb,Lsを複合溝30が形成された陸部20の幅Lrに対して上述の範囲に設定することで、雪上性能に寄与する広幅部31aを充分に確保しながら狭幅部31b及びサイプ32の長さも適度に確保することができるので、雪上性能と耐摩耗性能とをバランスよく両立するには有利になる。このとき、比La/Lrが0.4よりも小さいと、複合溝30に占める広幅部31aの割合が少なくなるため、雪上性能を充分に得ることが難しくなる。比La/Lrが0.7よりも大きいと、複合溝30に占める広幅部31aの割合が少なくなるため、陸部剛性を充分に保つことが難しくなり、優れた耐摩耗性能を得ることが難しくなる。比Lb/Lrが0.15よりも小さいと、狭幅部31bが殆ど無くなるため、広幅部31aにサイプ32が直接連結する場合と実質的に同じになり、横溝31からサイプ32への溝幅の変化が急激になり、耐摩耗性能を充分に向上することが難しくなる。比Lb/Lrが0.3よりも大きいと、狭幅部31bが大きくなり過ぎて、広幅部31aの長さを充分に確保することが難しくなり、雪上性能を充分に得ることが難しくなる。比Ls/Lrが0.15よりも小さいと、横溝31の長さが大きくなり過ぎるため、陸部剛性を充分に保つことが難しくなり、優れた耐摩耗性能を得ることが難しくなる。比Ls/Lrが0.3よりも大きいと横溝31の長さを充分に確保することが難しくなり、優れた雪上性能を得ることが難しくなる。
【0036】
狭幅部31bのタイヤ幅方向長さLbとサイプ32のタイヤ幅方向長さLsとは異なっていても良いが、略同一にすることが好ましい。例えば、長さLbと長さLsとの比Lb/Lsを0.8〜1.2の範囲にするとよい。
【0037】
図2の実施形態では、1列の中央陸部21とそのタイヤ幅方向両側に1列ずつ配置された中間陸部22(即ち、センター領域Ce内に位置する全ての陸部20)に複合溝30が形成されているが、これら陸部20のうち少なくとも1つに複合溝30を設ければ、上述の雪上性能と耐摩耗性能とを両立する効果が得られる。これら陸部20(センター領域Ce内に位置する全ての陸部20)のうち、複合溝30が形成される陸部20の数が多いほど、複合溝30による効果がより多く得られるので、より効率よく雪上性能と耐摩耗性能とを両立することができる。
【0038】
複合溝30が形成された陸部には、更に、
図7に示すように、主溝10よりも溝幅が小さくタイヤ周方向に延びる周方向補助溝60を設けてもよい。このような周方向補助溝60としては、例えば溝幅が3mm以下の細溝や、溝幅が1.5mm以下のサイプを採用することができる。このように周方向補助溝60を設けることで、周方向補助溝60によるエッジ成分も得られて、雪上性能を更に向上することができる。
【0039】
このとき、周方向補助溝60は、複合溝30が形成された陸部20の全てに設けることができるが、例えば
図8に示すようにタイヤ幅方向両側の中間陸部22のみに限定して設けることが好ましい。このように周方向細溝60を限定的に配置することで、中央陸部21については周方向細溝60を有さないことでブロック剛性が確保され、耐摩耗性および操縦安定性を向上するには有利になる。
【0040】
周方向補助溝60は、
図7に示すように複合溝30と交差してタイヤ全周に亘って連続するように設けてもよいが、隣り合う複合溝30間に位置して複合溝30に到達しない周方向補助溝60をタイヤ周方向に延びる同一線上に配置するようにしてもよい。
【0041】
周方向補助溝60は
図7に示すように、補助溝30が形成された陸部20の幅方向中央部に設けることが好ましく、例えば、補助溝30が形成された陸部20の一方の幅方向端部からこの陸部20の幅Lrの30%〜70%の領域に配置することができる。より好ましくは、周方向補助溝60を、補助溝30が形成された陸部20の一方の幅方向端部からこの陸部20の幅Lrの40%〜60%の領域に配置するとよい。このような位置に配置することで優れた耐偏摩耗性能を得ることができる。
【0042】
上述の説明では、トレッド部1に4本の主溝10が形成されている場合について述べたが、トレッド部1に形成する主溝10の本数は例えば3本にすることもできる。この場合、1対の外側主溝12により規定されるセンター領域Ceに1本の内側主溝11が形成され、センター領域Ceにおけるタイヤ赤道CLの側に1列ずつの陸部20が区画されることになる。このような2列の陸部20に対しても、上述の場合と同様に複合溝30や周方向補助溝60を設けることができる。充分なウェット性能を得るためには、トレッド部に少なくとも3本の主溝10、即ち、センター領域Ceに少なくとも1本の内側主溝11を設ければよいが、他の性能とのバランスを考慮すると、センター領域Ceに1本又は2本の内側主溝11を設けることが好ましい。
【実施例】
【0043】
タイヤサイズが215/60R16であり、
図1に例示する補強構造を有し、複合溝(及び周方向補助溝)を除いて
図2のトレッドパターンを基調としたタイヤにおいて、複合溝の構造、複合溝の溝幅比率(比Wa/Wb,比Wb/Ws)、溝長さ比率(比La/Lr,比Lb/Lr,比Ls/Lr)、周方向細溝の有無、周方向細溝の溝幅をそれぞれ表1のように設定した従来例1、比較例1〜3、実施例1〜11の15種類の空気入りタイヤを作製した。
【0044】
これら15種類の空気入りタイヤにおいて、複合溝の形状は、従来例1、比較例1〜2、実施例4を除いて、
図3に示す形状で共通である。即ち、各複合溝は、一端が一方側の主溝に連通し他端が陸部内で閉止する横溝と、この横溝の他端から他方側の主溝まで延びるサイプとからなり、横溝が広幅部と狭幅部とを含んでいる。また、複合溝は横溝の主溝に対する開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するように配置されている。
【0045】
これに対して、従来例1は、
図8に示す形状の溝を有する例であり、開口部から一定の幅で延在し、陸部内で閉止する横溝を有し、全ての横溝が同じ側の主溝に開口する例である。尚、サイプを有さないため複合溝とは言えないが、便宜的に表1の「複合溝の構造」の欄に図番を記載している。また、溝の全体が広幅部となるため、比La/Lrのみを記載している。比較例1は、
図6に示す形状の溝を有する例であり、広幅部及び狭幅部を有する横溝とサイプとからなる複合溝が同じ側の主溝に開口する例である。比較例2は、
図4に示す形状の溝を有する例であり、広幅部及び狭幅部を有する横溝のみが形成され、サイプを有さない例である。この例では、横溝の主溝に対する開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転している。尚、サイプを有さないため複合溝とは言えないが、便宜的に表1の「複合溝の構造」の欄に図番を記載している。また、サイプを有さないため、比Wa/Wb、比La/Lrおよび比Lb/Lrのみを記載している。実施例4は、
図5に示す形状の溝を有する例であり、複合溝のタイヤ周方向両側の溝壁が共にトレッド面において階段状に屈曲した非直線を形成する例である。
【0046】
尚、各例において、サイプの溝幅は1.0mmで共通にした。また、複合溝が形成された陸部の幅は24mmで共通にした。
【0047】
これら15種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、雪上性能及び耐摩耗性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0048】
雪上性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとして、排気量2.5Lの試験車両に装着し、スノー路面からなるテストコースにてテストドライバーによる試験走行を実施し、その際の操縦安定性能を官能評価した。評価結果は、従来例1を100とする指数値で示した。この指数値が大きいほど雪上性能が優れていることを意味する。
【0049】
耐摩耗性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとして、排気量2.5Lの試験車両に装着し、公道にて20000km走行し、走行後の摩耗量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど摩耗量が小さく、耐摩耗性能が優れることを意味する。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から明らかなように、実施例1〜11はいずれも、雪上性能及び耐摩耗性能をバランスよく従来例1よりも向上した。一方、全ての複合溝が一方側の主溝のみに開口する比較例1は、耐摩耗性能が悪化した。サイプを有さない比較例2は、雪上性能が悪化した。溝幅比率が本発明の範囲を満たさない比較例3は、耐摩耗性能が悪化した。
センター領域Ce内に位置する少なくとも1列の陸部20に、一端が一方側の主溝10に連通し他端が陸部20内で閉止する横溝31と横溝31の他端から他方側の主溝10まで延びるサイプ32とからなる複数本の複合溝30をタイヤ周方向に間隔をおいて形成し、これら複合溝32を横溝31の主溝10に対する開口方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転するように配置すると共に、各横溝31に広幅部31aと狭幅部31bを形成し、広幅部31aの溝幅Waと狭幅部31bの溝幅Wbとの比Wa/Wbを1.2〜3.0の範囲にし、狭幅部31bの溝幅Wbとサイプ32の溝幅Wsの比Wb/Wsを1.2〜5.0の範囲にする。